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自我の発見 • この自然の結果は、あらゆる様式の自己反省となって現れる。そ れには独特の対象なき起案上にたんに浸り込むことから、哲学 的沈潜にいたるまでいろいろの様式がある。この時代にはなん の考えもなくただ思いに沈むという状態がある。 • (中略)しかしながらこの状態は凝結して根本的な存在問題にま でおよぶことがある。 • すなわち、『一体自分はなにゆえに生きているのであるか、なに ゆえにむしろ一切空でないのか』と。 • 子供の疑問は、『自分が生まれない中はどこにいたろう』とか、恐 らく『自分がまだいなかった時に何があったろう』というようなもの である。それが青年の疑問となると、『なにゆえに自分は存在す るのか、自分の価値はどこにあるのか』というような疑問になる。 (p.51) 自我体験 • 夏の盛りであった。 • 私はおよそ12歳になっていた。 • 私は非常に早くめざめた。たった一つの窓が庭に向かって 開いている小さな部屋。私のベッドは部屋のいちばん後ろ の隅に頭の方を窓に向けておいてあった。私は起き上がり、 ふり向いて膝をついたまま外の樹々の葉をじっと見た。 • この瞬間に私は自我体験をした。 • すべてが私から離れ、私は突然孤独になったような感じが した。妙な浮かんでいるような感じであった。 自我体験 • そして同時に自分自身に対する不思議な問い、お前はル ディ・デリウスか、お前はお前の友だちがそう呼んでいるの と同じ人間か、学校で一定の名前をもち一定の評価を受け るその同じ人間なのか、お前は同一人物か。私の中の第 二の私が、ここでまったく客観的に名称としてはたらくこの 別の私に向かい合った。 • それは、今まで無意識的にそれと一体をなして生きてきた 私の周囲の世界からのほとんど肉体的な分離のごときもの であった。私は突然自分を個体として、取り出されたものと して感じた。私はそのとき、何か永遠に意味深いことが私の 当たり前だと思っていたこと, 内部に起こったのをぼんやり予感した。それゆえその部屋、 問いの対象とならなかった自明のことが ベッドにひざまずいたこと、ふりむいたこと、この瞬間がや 「対象化される」ことに伴う揺らぎ はり鮮明に記憶に残った。何か精神的閃光が突然私の中 に射し込んだようだった。 3.青年期の自己中心性 思考能力の発達 •他者の視点取得 •仮説推論的な思考 •→新たな自己中心性が獲得される • 他者の視点に立つことができるからこそ生じる自己 中心性 • 「他者の視点」であっても,それは,「その人が推測 した『他者の視点』」でしかあり得ない • 現実世界と一致しない,時には不適切な心的世界 •一方で,自己や他者への理解を深め,人生に 関する重要な課題について検討する上で重要 な役割を果たす側面もある 青年期における自己中心性(1) • 想像上の観客 • 自分自身の偏見と、他の人が持っている偏見との区別 ができないことから生じる • 自分は注意や関心の的を待ち受けているすべての人た ちの注目の的となっていると頑固に思い込む • (自分の容姿が大きな関心事であると、他者もそれと同 じくらいに自分の容姿に関心をもっていると思う) 青年期における自己中心性(2) • 想像上の観客:人がこちらを観察したり、考えをめ ぐらしたりしているという非常な確信 • →無意識に抱いている「自分は特別でユニークな 存在」という思いと深く関わる • 児童期までの万能感を前提とした自分の特殊性の 仮定…“個人的寓話” • 人は年をとって死ぬが、自分はそのようにはならない • 人は人生の野望を実現しないが、自分はしてみせる 青年期における自己中心性(3) •自身焦点 • 他者の考えや思いよりも、自分自身の内面の考 え、思いの方に注目する。 •なので,,, • 自己中心性に基づく解釈であると言ってもなか なか修正されない •青年期の自己中心性は,発達的側面ではな く人間のもつ性質とする見方もある。 想像上の観客 •現実に対して空想を検証するよう勇気づけ る •想像上の観客をめぐる悩み • 自分自身の偏見と、他の人が持っている偏見と の区別ができないことから生じる • 例)「自分はほほに傷があり、みにくいし、世間の みんなが自分がみにくいことを知っている」 • →想像から現実に引き戻す。 個人的な寓話 •現実的なやり方で改訂していく • 新しい経験を重ねることによって修正される形で、しかも、 自分自身を明確にすることの一部として、われわれの生 活の中に絶えず存在し続け、われわれの中にとどまる • 自己についての明確な感覚をゆっくりと発達させていくこ とは、自己についての明確な感覚をゆっくりと発達させ ていくことの一部であり、生涯を通して続く過程 •寓話の否定よりも、他の人たちもまた特別であると いうことを指摘することが有用 • 「自分は一番ブスでデブだ」 Cf. 無意識が行う3つの作業 •一般化 • 可能性/必要性/普遍的(ステレオタイプ) • これこそが私の生き方だ/男は一家を支えねば/アメリカ人は~ •歪曲 • 等価の複合概念/前提/因果/マインドリーディング • ○○は××に違いない/やつは非常識だな/彼女にはイライラさせら れる/あの顔つきは私を嫌っている顔だ •省略 • 不特定名詞/不特定動詞/比較対象/判断 • 意見の相違だ/緊張している/もっと頑張らないと/私は積極性が足り ない • 名詞化 • 人間関係が問題だ 仲間集団の発達 ギャング・グループ •児童期後半の時期において形成される集団 •多くの場合、同性、同年齢の者によって構成され、 特に同一行動による一体感が重んじられる…「同 一の遊び」によってつながる仲間集団 • 排他性・閉鎖性が強く、力関係による役割分化や固有 の価値が共有される。 • 仲間集団の承認が過程(親)の承認より重要となる • 「権威に対する反抗性、他の集団に対する対抗性、異 性に対する拒否性」が特徴であり,その結束力の強さ がそれまでの集団との違い。 • ここで経験されるグループのメンバーとの強く結びつき が、親から自立しようとする際の子どもの不安を和らげ ると考えられている。 チャム・グループ • “チャム(chum)”:特に親密な友人 • 思春期以降,中学生頃からみられる,親密で排他的な 同性の仲間関係 • 興味や関心における一体感が重視され,互いの共通 点・類似性をことばで確かめ合うという行為 • 保坂(1998):彼ら・彼女らの会話においてはその内容より も「私たちは同じね」という確認に意味がある • しばしばその集団内だけでしか通じない言葉を作り出し,そ の言葉が通じる者だけが仲間であるという境界がひかれる …「同一言語」が特徴となる • 言語による一体感の確認→仲間への絶対的な忠誠心 • Sullivan:これらの行動は,チャムのメンバーに,幸福,充足 感,自信を与えたいという欲求が生じたことによる…「共同 (collaboration)」とよべるものであり,ここにおいて真の社 会化が始まる • 特に女子に特徴的にみられる(黒沢・有本・森, 2003)。 榎本(1999) •干葉県内の公立中学1~3年生326名(男 156名,女170名), •千葉県内の県立高校および東京都内の都 立高校1~3年生335名(男158名,女177名), •国立大学1~4年生247名(男109名,女138 名)の計908名。 •調査時期 1996年7月上旬~9月上旬。 (因子説明) •F1 相互理解活動 • 互いの相違点を認め合い,価値観や将来の生き方 などを語り合う •F2 親密確認活動 • 親密的で友人との行動や趣味の類似点に重点をお き,仲がいいことを確認するようなつきあい方 •F3 共有活動 • 友人と遊ぶことを中心としたつきあい方 •F4 閉鎖的活動 • 自分たちの世界を持ち,他者を入れない絆で関係を 作る •学校段階でどのようなつき合い方が優勢? • 中学男子:共有活動>相互理解活動>親密確認 活動>閉鎖的活動 • 高校男子:共有活動=相互理解活動>閉鎖的活 動>親密確認活動 • 大学男子:相互理解活動>共有活動>閉鎖的活 動>親密確認活動 • 中学女子:親密確認活動>相互理解活動>共有 活動>閉鎖的活動 • 高校女子:閉鎖的活動=相互理解活動>親密確 認活動>共有活動 • 大学女子:相互理解活動>閉鎖的活動>共有活 動=親密確認活動 友だち関係における男女差 •榎本(1999) • 男子は、 • 友人と遊ぶ関係の「共有活動」 • →互いを尊重する「相互理解活動」へと変化する。 • 女子は、 • 友人との類似性に重点を置いた「親密確認活 動」 • →他者を入れない絆をもつ「閉鎖的活動」 • →「相互理解活動」へと変化する。 cf. Golombok & Fivush(1994) • 小学校の最初の1年間,男子と女子は別々に遊ぶ。 • 女子は,たくさん話をし,小さな秘密を共有する子と親 友になる。一緒に遊ぶが,ゲームなどは彼女らにとって それほど重要ではない。もしいさかいが生じれば,関係 の調和を取り戻すためにゲームをやめる。 • 男子は逆に,集団で遊び,ひとりの親友に絞ることはあ まりない。男子は,明確なルールのある競争的なゲー ムをする。もしいさかいが生じればそれを解決しようと するものの,それはゲームを続けるためである。 • 男子は,仲間と長いおしゃべりはしない。もし話すなら, ゲームかそのルールについてである。このように男子 は,交渉することや,集団と協力すること,競争すること を学ぶ。 cf. Golombok & Fivush(1994) •逆に女子は,通じ合うことや,聴くこと,関係を 続けることを学ぶ。 •このような性別による対人関係の違いは,そ の後の人生においても見ることができる。女子 は,情緒的で,個人的でより深い関係をもち, 男子は,活動中心でより手段的な関係をもつ。 •もし男子あるいは男性がより深い会話に関心 があるなら、彼らは話し相手に女性を求める。 友人関係の発達 「友だち」とは • 友だち…関わりの持続する同年齢の他者 • ごく幼い子ども:共に遊ぶこと • 小学校の間に;理解すること、忠誠、信頼できる、と いう要素に,その定義が変化する • その頃の子どもは、友達と、多くの時間を共に過ごすこと、 関心を共有すること、そして自己開示し合うことを期待し ている。 • 親友(intimacy)という言葉は使わないものの、青年期の 少し前になると、友だちと親友とを分けるようになる • より年長の者:理想の友人について、大抵の場合、支援 的であること(頼りがいがある、理解してくれる、受け入 れてくれる)、秘密を打ち明けることができること、信頼で きること、が挙げられるようになる。 伝統的に •青年期には,親しい大人(親,教師)との関係 は後退し,同世代の友人との関係が緊密にな る 青年期の友人関係 •青年期:友人の感情的な状態をやりとりする ことが友情を深めることが分かってくる • 相互に親密で、互いの内面を打ち開け合うもの となる。 • 友情を維持しようとより多くの時間が割かれるよ うになる • 青年期において形成される友人関係は、人格的 尊敬と共鳴に基づいて形成される「心の友」とも よぶべきもので、互いに人格的影響を及ぼし合 うものとなる 友人関係の意義 • Hartup & Stevens(1997):年齢による変化はほとんど見 られず、生涯を通して安定した特徴があると主張 • 人格発達を促す機能を有する • 協同したり共同したりすることを覚え、相手に対する共感や 理解や親密性、利他性など対人的側面を発達させる • 相互的な承認が経験され、自己価値の感覚が獲得され、 課題に取り組んだりするための精神的安定を得る • 遊びのつながりと内面的なつながりをもつ • 生涯を通して続く友人関係において重要な2側面 • 高校生、新婚夫婦、中年期の親、定年間際の者いずれに おいても、理想の友人として重要なこととして挙がってくる のは、話が合う(communicative compatibility)ことと、関心、 経験、活動を共有できること 友人関係と自己形成 •自己としての意識の明確化 • 行動主体としての自己としての意識 • 自己の個別性の感覚の獲得 •自己形成を導く指針 • ライバル • 理想形成 •友人関係に伴う不安 • 親密な関係と排除の関係 • 関係性攻撃 友人関係によって自己形成が 促される側面 • 友人関係の構築と維持の過程で,社会的スキルが 育まれる • 相互に選択し合う対等な関係であるため,友人関係を相 互に維持する努力が必要 • 他者理解や共感,社会的カテゴリーや規則の理解,コ ミュニケーション能力など,社会的スキルの発達が必要 • トラブル,いざこざ • 自他の区別を明確化させ,葛藤への対処や自身の欲求 を適切に表現する方法を模索する機会 • 低年齢の場合,いざこざを開始できたこと自体に,自他の区別とそこから他 者への自己表現という意味がある • ただし,小学校中学年くらいから「関係性攻撃」へといざ こざの質が変化してしまう→大人のサポートを得にくくな る 自覚的な自己形成活動との関連 • 自己理解を促す:比較対象としての意味 • 自己理解や自己評価のために,他者と自分とを関係づける行 為が必要 • その比較対象としては類似他者が最適 • 向上心を高める:ライバルとしての意味 • 小学中学年くらいから,ライバルとしての意義が付加される • 競争意識は友好な対人感情の形成を阻害することが指摘さ れるものの,競争後の関係性に配慮すれば,必ずしも競争に よって相手に対する否定的感情が形成されるわけではない • 理想形成を促す:モデルとしての意味 • 相手をモデルとしながら,自分自身の価値観や理想を形成 • 青年期初期における「自己愛型対象選択」(Blos, 1974) • 中学生においてのみ関係を確認(岡田, 1987) 175 cf. 妬みと関係性攻撃 •妬み:社会的比較によって生じる感情 • 認知的側面:他者が自分よりも優れている(自分 がもっていないものを所有している)という判断 • 感情的側面:上記にもとづくネガティブな感情。 自他の小さな差に苦しむ。 • 嫉妬,羨望,憧憬 •シャーデンフロイデ:他者の不幸を喜ぶ感情 青年期の精神的安定を支える •自己をとらえる視点の構造自体が大きく変わる 時期(Harter, 2006) • その変容の過程においては,他者からの支えによっ て自己価値の感覚を確認し,課題に取り組んだりす るための精神的安定を得ることが必要。 •アイデンティティ形成の時期 • 探求過程における不安を共有し合ったり励まし合っ たりすることは可能。 • さらにその過程を互いに自己開示し合うことが,対 話による自己の生成や,言語化による自己理解を 促す可能性・・・互いのアイデンティティ形成に寄与。 177 アイデンティティ形成途上の 親密な関係であること • 互いの人格を尊重し合う関係というよりも,互いが自身のアイデ ンティティの感覚や不安定な自己感を担保するための関係,自 己の延長上にある自己愛的な関係 • 自己中心的な世界に相手を位置づけた上で成立した関係 • 関係性自体が自己であるが故の,自他融合的な親密な関係 • 友人関係には,互いの状況や立場,所属する集団など,客観的 な類似性が多く存在している。同じ状況にあるということが,青年 期においては特に重要な意味をもつ。 • 互いの悩みをわかり合ったり,協同し合ったり,対等の立場におい て支え合ったりすることを必要とする時期においては,他者を自己と は異なる存在と明確に区別しない,自己中心的な推論や拡張的な 自己意識に基づく他者との相互作用であっても,それが双方にとっ て,相互に意味のある自己承認の過程として成立しうると推測され る。 • 同じ状況を生きる者としての同質性への注目があり,そこには,自 他の相互性というよりも自他の融合性を基調とした同胞意識の共有 として理解されるのである。 178 人間関係は希薄になったか •1990年代:青年の人間関係が希薄になった という議論が盛ん • 特に,携帯電話など,コミュニケーションメディア の変化との関連が指摘された • だが根拠がないとされる •現在:発信する主体としてよりも,関係性の 方が主体となり,自己がそこに付随するコ ミュ院ケーションのありようが散見される。 180 フリッパー志向(辻, 1999) • 場面場面に合わせて気軽にスイッチを切り替えられる 部分的な対人関係のあり方 • 対人関係のオンオフを容易に保ちたいという性向の表れ • 自我構造を複数想定して理解する必要がある • 同心円状の自我構造を前提とすると,表層的な希薄化した 対人関係を想起させるが, • 複数の中心を持ち,複数の円が緩やかに束ねられた自我 構造を想定すれば,それぞれの対人関係は部分的だが深 い結びつきが可能である。 • 友人関係には,関係の深さ・広さとは独立して,状況に 応じて自己や付き合う相手を切り替える傾向が存在し ている • 付き合う友人を変える「関係切替志向」 • 自分のキャラクターを切り替える「ペルソナ切替志向」 • →状況に応じた切替(大谷, 2007)の心理学的検討へ 182 SNSにおけるポジティブ演出 •アメリカ:もともと「ポジティブ規範」が存在 •SNSには特に楽しい記事ばかりをアップする •ネガティブ感情やネガティブな出来事を話せ る場がなく,自分ばかりが辛い目にあってい ると思ってしまう •↓ •他の人も辛いことを知ることで,孤独感がま ぎれるのではないか?(Jordan et al., 2006) • 大学生を対象とした調査 183 Webチャンネルのもつ独自性 (Davis, 2012) •ネットで友だちとやりとりしている青年(13‐18 歳; 15 girls, 17 boys)にインタビュー •同じ相手とも,対面の場合とは異なるコミュ ニケーションが展開している • Online上の方が,所属感を高め,相互の自己開 示を促進する • Offlineにおける青年期発達経路とOnlineにおけ る青年期発達経路とが存在し,それらが個人内 で融合している 185 親子関係 •青年期を通して,比較的良好な関係が保たれ る • 全体としては関係が良好で,些細なことをめぐって の葛藤が多く経験される時期となっている。 • 親が自分のことを理解してくれているという意識も高 く,特に母親に対する信頼は大きい。 • 現在,青年期においても家族関係は精神的健康や 幸福感に最も重要な要因であり続けることや,両親 との調和的で密接な関係が青年期の心理的安定や 適応と関連するという報告が多くみられるようになっ ている。 • 友人関係,恋人関係は,親子関係にとってかわるの ではなく,別次元で発展するものと理解される。 188 青年期の親子関係の特徴 •古いモデル • 親からの自律お よび分離:親と仲 間の世界は切り 離されている • 青年期を通して, 集中的でストレス フルな葛藤:親と 青年の関係は, 現実的な日常的 基盤において疾 風怒濤に満ちて いる。 •新しいモデル • アタッチメントと自律:親はサ ポートシステムおよびアタッ チメント対象として重要であ る。親子関係の世界と仲間 関係の世界には重要な結び つきがある。 • 親子関係の葛藤は人生全 体や信念に関わるような深 刻な問題とはならないレベ ルのものが主流であり,そ れは肯定的な発達的機能を 提供しうる。葛藤は青年期 初期でより多く経験される。 200