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少年院等を出た子どもたちの立ち直りを、 地域で支援するための方策
少年院等を出た子どもたちの立ち直りを、 地域で支援するための方策について 答 申 平成18年10月23日 東京都青少年問題協議会 目 次 はじめに 第1章 1 非行少年の処遇等の現状 3 1 現行の少年矯正・保護の制度 3 2 少年の非行、再犯等の状況 6 第2章 少年院出院者に対する支援 9 1 就労支援及び就学支援 2 適切な住居の確保 12 3 少年に対する生活面でのサポート 14 4 家族へのサポート 18 おわりに 9 21 参考資料 1 諮問 25 2 第26期東京都青少年問題協議会(後期)審議経過 26 3 第26期東京都青少年問題協議会(後期)委員名簿 27 はじめに 少年の更生を図ることの意義 平成12年に少年院を出院した者5,484人について、5年後の平成16年までの状況を みると、そのうち917人(16.7%)が少年院に再入院し、また411人(7.5%)が刑務 所に入所している。即ち、少年院において自らの罪と真摯に向き合い、深く反省し、 立ち直りの決意を持って少年院を出院した少年も、社会に出た後に再び犯罪を犯す*1 例が少なくない。 少年院を出院した後、何が原因で再犯を犯してしまうのかは個々のケースによって 異なるが、少なくとも少年院出院後に再び犯罪を犯してしまう少年が一定の割合で存 在することは、少年の更生が少年院だけで完結させられるものではないことを示して いる。 実際、少年院を出院する少年のほとんどは仮退院者として保護観察の下に更生が図 られており、その多くが立派に更生を果たしていることは事実である。他方で、関係 者の努力にも関わらず、少年院出院者の約4分の1が5年以内に犯罪を犯して再び施 設に収容されていることは、現在の仕組になお改善の余地があることをうかがわせる。 本協議会に対し、今回、少年院等を出た子どもたちの立ち直りを地域で支援するた めの方策について諮問がなされた背景には、少年院を出た子どもたちが行政等による 支援を必要としているにも関わらず、これまでの仕組では十分な支援が届けられてい なかったのではないかという問題意識があると思われる。 確かに、少年の矯正及び更生保護は、司法の手続きに密接につながるものである等 の事情から専ら国において制度の組み立てなどが行われ、これまで都をはじめとする 地方公共団体が直接に関わることは少なかった。しかしながら、少年院を出院した少 年は、出院したそのときから地域社会の一員として生活を始めるのであり、例えば、 平成16年に全国の少年院を仮退院した5,436人のうち362人(6.7%)が都内に帰住し ている(東京保護観察所の新受人員)。そうした少年が再び犯罪に陥ってしまうのか、 立ち直って社会の一翼を支える力となるのかは、地方公共団体にとっても決して無関 係ではない。そして、その分岐のどちらに進むかは、少年院を出院した直後に実社会 での立ち直りのきっかけをつかめるかどうかが大きく影響するものと考える。 即ち、立ち直りの決意を持って少年院を出たばかりの少年に対し地域社会が適切に *1 「犯罪を犯す」 : 犯罪とは、文字どおり罪を犯すという意味のほかに、「刑罰を定めた諸規定の犯罪構成 要件に該当する、違法・有責な行為。法益侵害行為 。」(広辞苑第五版)との意味があることから 、「犯罪を犯 す」という言い方は必ずしも重言(誤用)ではないとされる。また、「罪を犯す」とした場合、その「罪」が道 徳的・宗教的な罪と区別が難しいこともあり、警察・法務省関係のほか、マスコミ報道等でも一般的に「犯罪 を犯す」と表現することが多い。よって、この答申でも「犯罪を犯す」と記すことにする。 - 1 - 支援をしていくことは、その少年が再犯の道に陥ることを防ぎ、将来の犯罪発生を予 防するだけでなく、少年を地域社会の一員として迎え入れるために必要なことである。 言い換えれば、少年の立ち直り支援は、少年院出院者を地域社会に受け入れる地方公 共団体にとっても、真剣に検討すべき課題なのである。 本協議会では、都知事の諮問を受けて、少年院を出院した少年に対し、地域社会で どのような立ち直り支援を行うことで、その自立を実現することが可能であるかにつ いて、平成17年11月から検討してきた。 これまでの議論を踏まえ、今後の具体的な施策の検討に資するために、この答申で は、少年院を出院した少年の自立を実現するために必要な支援のメニューとして、 「就 労支援及び就学支援 」、「適切な住居の確保 」、「少年に対する生活面でのサポート」 及び「家族へのサポート」の4点に取りまとめた。 なお、非行少年の立ち直りについては、そもそも非行に陥ることの防止や初期の段 階での立ち直りを含めた少年に関わる法制度全体の課題であることは論を待たない が、議論が散漫なものとなることを避けるため、当協議会における検討に当たっては 少年院を出院した後の支援の在り方に論点を絞った。 - 2 - 第1章 1 非行少年の処遇等の現状 現行の少年矯正・保護の制度 (1)少年院の概要 少年院は、保護処分として送致された者等を収容し、これに矯正教育を行う施設で あり、平成18年4月1日現在、都内には多摩少年院、愛光女子学園及び関東医療少年 院の3施設が、また、全国には53施設(分院1施設を含む。)が置かれている。 少年院は、矯正管区を単位とする分類処遇制度をとっており、東京家庭裁判所(八 王子支部を含む。)で少年院送致の決定がされた少年は、原則として、東京矯正管区 (関東甲信越及び静岡の1都10県)の管轄区域にある16の少年院のいずれかに送られ ることとなっている。これらの少年の多くは、少年院を出院した後、東京都内に帰住 し、仮退院の場合には東京保護観察所(八王子支部を含む。)の保護観察を受けるこ ととなる。今後、東京都内に帰住する少年の立ち直り支援策を具体的に考えていく上 ではこのことを考慮するとともに、支援策を実施に移すに当たっては、これらの関係 機関との連携を密接に図る必要がある。 少年院では、在院者一人一人の個性、長所、進路希望、心身の状況、非行の傾向等 を十分考慮してそれぞれに適した処遇を行うため、分類処遇制度を採用し、在院者の 特性及び教育上の必要性に応じて、①少年院の種類、②処遇区分、③処遇課程により、 順次、在院者を分類・編成して、処遇することとなっている。 ① 少年院の種類 収容する少年の年齢、犯罪的傾向の程度及び心身の状況に応じて、初等少年院 (14歳からおおむね16歳)、中等少年院(おおむね16歳から20歳)、特別少年院 (犯罪的傾向の進んだおおむね16歳から23歳)、医療少年院(心身に著しい故障 のある14歳から26歳)の種類が設けられている。 ② 処遇区分 保護処分として少年院に送致された者の収容期間は、原則として20歳に達する までとされているが、一定の場合には収容継続が認められ、法律上は26歳までの 収容が可能である。また、少年院の実務では、行政運営上の収容期間を定めた処 遇の類型として、一般短期処遇(早期改善の可能性が大きい少年であり、収容期 間は6か月以内 )、特修短期処遇(早期改善の可能性が大きく、開放処遇に適す る少年で、収容期間は4か月以内)、長期処遇(短期処遇になじまない少年で、 収容期間は2年以内だが、必要な場合は特に定める期間)の処遇区分が設けられ ている。 - 3 - ③ 処遇課程 対象者の教育上の必要性に応じた処遇コースとして、一般短期処遇には、3つ の処遇課程(教科教育、職業指導、進路指導)が、長期処遇には、5つの処遇課 程(生活訓練、職業能力開発、教科教育、特殊教育、医療措置)が設けられてい る。 このような分類処遇制度により、各少年院には、共通した問題等を有する少年が収 容されているが、個々の少年を見ると、その非行の原因となっている問題や今後伸ば すべき長所等は異なっているので、個々の少年ごとに個別的処遇計画を作成している。 その計画においては少年に達成させるべき個人別教育目標が具体的で本人に分かりや すい形で設定されており、その目標を達成する上で、最もふさわしい教育内容及び方 法が採用されている。 少年院の矯正教育は、生活指導(健全なものの見方、考え方及び行動の仕方の育成)、 職業補導(勤労意欲の喚起、職業生活に必要な知識・技能の習得)、教科教育(中学 校・高等学校等の教育 )、保健・体育(心身の健康の回復・体力の向上)、特別活動 (社会奉仕活動、社会見学、自主的活動、各種行事)の5つの指導領域から成り立っ ている。 このうち、生活指導は、非行に係わる意識、態度及び行動面の問題に対する指導を 含むなど、矯正教育の中心的な領域を占めているものであり、役割交換書簡法、ロー ルプレイング、面接指導、作文指導等、多様な指導方法が用いられている。 また、職業補導では、情報処理関係(表計算、システムアドミニストレーター等)、 ワープロ・簿記検定、ホームヘルパー、販売士、溶接関係(ガス・アーク)、危険物 取扱者(乙種・丙種)、大型特殊自動車運転免許、車両系建設機械運転技能講習等の 資格や技能習得機会を提供している。 (2)少年に対する保護観察の概要 保護観察は、犯罪者や非行少年に通常の社会生活を営ませながら、改善及び更生を 図るものである。 少年に対する保護観察の対象者としては、保護観察処分少年(家庭裁判所の決定に より、保護観察に付された者)と少年院仮退院者(少年院を仮退院した者)とがある。 ① 少年院からの仮退院 少年院からの出院には「退院」と「仮退院」があるが、出院者の約97%は仮退 院である。仮退院とは、在院者が処遇の最高段階に達し、保護観察に付すること が本人の改善更生のために相当と認められたときに、地方更生保護委員会によっ て許可されるものであり、仮退院中は保護観察を受けることになる。仮退院後の 保護観察の期間は、原則として20歳に達するまでである。 - 4 - 保護観察所では、少年が少年院に在院中から、担当の保護観察官及び保護司*1 が帰住予定地の環境調整を行い、引受人と今後の指導の在り方や進路等について 協議したり、本人と文通や面会を行うなどして、更生にふさわしい帰住環境を作 るよう調整を図っている。 ② 保護観察の方法 保護観察の方法には、指導監督(対象者と適当な接触を保ち、常にその行状を 見守り、遵守事項を守らせるために必要適切な指示を与えること)と補導援護(宿 所を得ることを助ける、職業を補導し、就職を助ける、必要な生活指導を行う等) がある。 指導監督の基準となる遵守事項は、保護観察の期間中、対象者が再非行をする ことなく健全な社会人として更生するために守るべき事項であり、すべての対象 者が守るべき一般遵守事項と、対象者ごとに定められる特別遵守事項とがある。 保護観察は、通常、一人の対象者を、専門家である保護観察官と地域ボランテ ィアである保護司が共に担当する協働態勢により実施されている。保護観察官は、 保護観察開始当初において、対象者との面接や関係記録等に基づき、保護観察実 施上の問題点及び処遇の方針を明らかにし、処遇計画を立て、保護司は、この処 遇計画に沿って、面接、訪問等を通して対象者やその家族に対し指導・援助を行 っている。 また、保護観察所では、少年の保護観察対象者に対し、福祉施設等での奉仕活 動やレクリエーション活動等の社会的活動に参加させ、その社会性や社会適応能 力を育むことを目的とする「社会参加活動」を実施している。こうした社会参加 活動に対しては、ボランティア団体である更生保護女性会*2やBBS会*3などが協 力している。 ③ 成績良好者・不良者に対する措置 保護観察成績が良好で、社会の順良な一員として更生したと認められた場合に、 期間満了前に保護観察を終了させる措置として、保護観察処分少年に対する「解 *1 保護司 : 犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支えるボランティア。主な職務は、保護観察を受けて いる少年や大人の指導、刑務所や少年院に入っている人の帰住先の調整(環境調整)、犯罪予防活動。身分は、 非常勤で一般職の国家公務員。給与は支給されない。任期は2年で、再任可能。但し、再任は76歳未満まで。 *2 更生保護女性会 : 女性としての立場から、地域の犯罪予防活動と犯罪や非行をした人の更生支援活動を 行い、犯罪や非行のない明るい社会の実現に寄与することを目的とするボランティア団体。 *3 BBS会(Big Brother and Sisters Movement) : 「兄」や「姉」のような身近な存在として、少年た ちと一緒に遊んだり、悩みの相談にのったり、“同じ目の高さで”接しながら、少年たちが健やかに成長するた めの支援をするとともに、非行防止活動を行う青年ボランティア団体。 - 5 - 除」、少年院仮退院者に対する「退院」がある。また、少年院仮退院者が、保護 観察中の遵守事項を遵守しなかったり、遵守しないおそれがあるときは、家庭裁 判所の決定により少年院に再収容する「戻し収容」の措置がある。 2 少年の非行、再犯等の状況 (1)少年刑法犯の検挙人員等の推移 図表1は、平成8年から17年までの10年間について、東京都内の刑法犯少年の検挙 人員(棒グラフ、左目盛り)及び人口比(14歳から19歳までの少年人口1,000人あた りの検挙人員)(折れ線グラフ、右目盛り)並びに再犯者率(刑法犯少年のうち再犯 者の割合)(折れ線グラフ、右目盛り)を示したものである。 人口比 再犯者率(%) 25.0 刑法犯少年(人) 20,000 刑法犯少年 人口比 再犯者率 15,000 20.0 10,000 15.0 5,000 0 10.0 8年 図表1 9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年 都内の刑法犯少年の検挙状況等(平成17年少年育成活動の概況、警視庁生活安全部) 刑法犯少年の検挙人員及び人口比はほぼ横ばいであるが、平成17年の人口比20.1は、 刑法犯少年の検挙人員の戦後のピークであった昭和58年の26.5(同年の全国値は18.8) と比較しても、けっして低くない値である。また、この10年の傾向をみると、再犯者 率が平成8年の17.4%から17年には23.5%に上昇していることが目をひく。 - 6 - (2)少年院新入院者の状況 平成16年における少年院の新入院者は、全国で5,300人(男子4,772人、女子528人) で、前年に比べ9.0%減少した。一日平均在院者は、4,585人(前年比3.0%減)であ った。 このうち、過去に少年院に入院したことがある者の割合は、男子が18.9%、女子が 9.5%を占めている。 非行名別構成比を男女別にみると、男子は、窃盗40.9%、傷害・暴行12.5%、強盗 10.8%、道路交通法10.8%となっているのに対し、女子は、覚せい剤取締法20.5%、 窃盗19.3%、傷害・暴行15.9%、ぐ犯*114.8%となっている。 非行時の職業を男女別にみると、男子は、有職34.2%、無職45.4%、学生・生徒 20.3%となっており、女子は、有職16.7%、無職53.0%、学生・生徒30.2%となって いる。 (3)少年院出院者の状況 平成16年における少年院の出院者は、全国で5,626人で、そのうち仮退院者が5,436 人と96.6%を占めている。 図表2は就職等の状況を示したものであるが、男子は、就職決定32.4%、就職希望 46.6%、復学(中学校及び高等学校)決定5.1%、進学希望12.0%となっており、女 子は、就職決定5.3%、就職希望55.4%、復学決定5.9%、進学希望25.7%となってい る。なお、就職希望あるいは進学希望とは、就職及び進学を希望しているが、出院時 点では就職先又は進学先が決定していないことをいう。 総数 総数 男子 女子 *1 ぐ犯 : 就職 復学決定 進学 決定 希望(未定) 中学校 高等学校 希望 5,626 1,679 2,670 115 175 746 (%) 29.8 47.5 2.0 3.1 13.3 5,097 1,651 2,377 97 162 610 (%) 32.4 46.6 1.9 3.2 12.0 529 28 293 18 13 136 (%) 5.3 55.4 3.4 2.5 25.7 図表2 少年院出院者の進路(平成16年矯正統計年報、法務省) その他 未 定 241 4.3 200 3.9 41 7.8 虞(ぐ)犯少年とは、次に掲げる事由があって、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、 又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年のこと。(イ)保護者の正当な監督に服しない性癖のあるこ と、(ロ)正当の理由がなく家屋に寄り附かないこと、(ハ)犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又 はいかがわしい場所に出入すること、(ニ)自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。(少年法 第3条第1項第3号) - 7 - (4)少年院出院者の再犯状況 図表3は、平成8年から平成16年までの少年院出院者について、再入状況(少年院 再入院及び刑務所入所状況)を示したものである。 出院年 出院人員 少年院再入院年及び刑務所入所年 8年 8年 9 10 11 12 13 14 15 16 3,899 4,348 4,964 5,387 5,484 5,981 6,043 5,789 5,626 159 … … … … … … … … 図表3 再入人員 累積 5年内 387 233 126 108 89 55 51 53 1,261 1,013 205 402 224 156 117 102 52 63 1,321 1,104 … 201 477 259 154 107 81 78 1,357 1,198 … … 231 524 279 141 116 88 1,379 1,291 … … … 214 555 268 151 140 1,328 1,328 … … … … 267 580 309 184 1,340 … … … … … … 254 519 336 1,109 … … … … … … … 229 553 782 … … … … … … … … 194 194 … 少年院出院者の再入院等の状況(平成17年版犯罪白書、法務省) 9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 再入率 累積 5年内 32.3 26.0 30.4 25.4 27.3 24.1 25.6 24.0 24.2 24.2 22.4 … 18.4 … 13.5 … 3.4 … 少年院を出院してから5年以内に少年院に再入院及び刑務所に入所した者の比率 は、約25%となっている。 なお、少年院を仮退院し、平成16年に保護観察を終了した人員は、5,876人である が、このうち、保護観察期間中に再度の非行・犯罪を犯して保護処分又は刑事処分を 受けた者の比率(「再処分率」と呼んでいる。)は、24.5%である。 - 8 - 第2章 少年院出院者に対する支援 本章では、少年院出院者に対する支援について検討した。 検討に当たっては、まず、少年院出院者がどのような事項について支援を必要とし ているかという観点から、①就労支援及び就学支援、②適切な住居の確保、③少年に 対する生活面でのサポート、④家族へのサポートの4つの柱に整理して、現状と課題、 現在の取組を記述した。 さらに、この4つの柱それぞれについて、都として取り組むべき課題を提言として 整理した。提言の内容としては、大きく分けて、 ① 都が中心となって新たに取り組んだり、あるいは既に実施している各種施策が 各機関において十分に活用されるよう情報の提供等を進めるべきもの ② 国に対し実現を働きかけるべきもの ③ 当面の実現には困難な事情があるが、実現に向けて中・長期的に検討するべき もの があり、具体的には以下の各節に記述するとおりである。 なお、少年院出院者の立ち直りに関する都の取組がこれまで必ずしも十分なもので はなかった理由の一つには、地域における更生保護の活動の中核である保護司が非常 勤の国家公務員で、その活動も国の行政に係る活動として行われているため、保護司 と都との連携が十分ではなかったことがあるものと考える。そのため、都の各機関を はじめとする関係機関、団体が参加し、保護司(保護司会)と率直な意見交換等を行 い、保護司の活動を支援するためのネットワークとなる協議会を早期に設置するべき である。 1 就労支援及び就学支援 (1)少年院出院者の進路に関する現状と課題 少年院出院者の出院後の進路について、平成16年の状況をみると、7頁の図表2の とおりである。 男子は、出院者5,097人中、約8割にあたる4,028人が就職を目指すが、出院時点ま でに就職が決定したのはそのうち約4割の1,651人で、就職希望者の6割が就職先を 確保できていない。また、女子の場合には、出院者529人中、約6割にあたる321人が 就職を目指すものの、出院時点までに就職が決定したのは28人で、1割にも満たない。 このように、少年院出院者は多くが就職を希望するものの、出院時点で就職が確保 - 9 - できる者は一部に限られている。また、就職の形態についての具体的な資料は見あた らなかったが、矯正・保護の実務者からは、アルバイトやパートではない安定した就 職を確保できる者は更にその一部であるとの見解が示された。 少年院出院者の就職状況が厳しい背景には、そもそも非行歴があることがマイナス に働く上、義務教育の段階を含めて学校にきちんと通っていなかったことによる学歴 や学力の不足、職業経験を含む社会経験の乏しさなどの点で不利になっていることが あると考えられる。さらに、仮に就職したとしても、社会経験の乏しさなどから些細 なきっかけで自分から辞めてしまうなど、同じ職場で長期間継続して働けないことも 珍しくないとされる。 また、復学・進学についてみると、男子の約2割、女子の約3割が希望する一方で、 実際に復学・進学を果たしたのは男女ともごく一部に過ぎない。 (2)現在までの取組 少年院出院者の就職を確保するため、これまで、保護観察所や更生保護施設などが、 少年院出院者であることを知った上で雇用を受け入れてくれる「協力雇用主」を確保 するなどの努力を行っている。この協力雇用主の下での就職については、少年院出院 者であることを隠さないで就職できることが少年にとって後の負担が小さいとの意見 があった。他方、都内の協力雇用主の数は93事業者(全国では5,745事業者。いずれ も平成17年4月1日現在)と相対的に少なく、都内の就職先確保が課題となっている。 また、少年院における教科教育は、義務教育中の者、高等学校教育を必要としてお りそれを希望する者、復学・進学希望者等に対して行われている。しかし、特に高等 学校への復学・進学については、少年院の出院時期と高等学校への入学時期とが一致 しないことも多いため、困難が多いとされる。 なお、国においては、法務・厚生労働両省が「刑務所出所者等総合的就労支援対策」 を進めており、少年院出院者を含めて就労の際に活用できる身元保証システムの構築 や協力雇用主に対する万一のトラブル発生時における見舞金制度などを平成18年度か らスタートさせている。 (3)提言 ア 就労支援 ○ 少年院出院者の多くが出院後の進路として就職を希望していることから、就職先 の確保がまず重要である。 具体的には、少年院出院者であることを理解した上で雇用を受け入れてくれる協 力雇用主の確保を拡大することが求められる。法務省に置かれた「更生保護のあり 方を考える有識者会議」が本年6月にとりまとめた報告書「更生保護制度改革の提 - 10 - 言−安全・安心の国づくり、地域づくりを目指して−」 (以下「国報告書」という。) も、協力雇用主について現在の約6,000から「少なくともその3倍程度に増加させ るべきである」としているが、都内において少年院出院者の就職を容易にするため に、都は、事業者から協力雇用主制度に対する理解と協力が得られるよう、様々な チャンネルにより広報・啓発を進めるなど協力雇用主の確保に取り組むべきであ る。その際、次の各点に留意しつつ進めることが少年院出院者の就労支援を進める 上で有効であると考える。 第一に、様々な業種の事業者が協力雇用主として参加することは、少年が自らの 適性や希望に即した職業を見つけやすくなることにつながることから、幅広い業種 に対して働きかけることが望ましい。 第二に、協力雇用主の確保に当たっては、民間事業者の純然たる篤志に頼るだけ でなく、何らかのメリットが得られる制度があることは有効であると考える。国の 総合的就労支援対策では、試行(トライアル)雇用奨励金の支給等が実施されてい るが、こうした直接的な経済的支援に加え、協力雇用主としての活動に対する社会 的な評価を高め、協力雇用主となることを積極的に促すような方策について、少年 のプライバシーなどにも配慮しつつ、都において今後検討を進めてもらいたい。 ○ 都は、若年者の就業を推進するため、東京しごとセンターを設置するなど、若者 向け就労支援策を多数講じているところである。こうした都の施策を少年院や保護 観察所、保護司などが活用できるよう、関係機関が連携・協力を深めていくととも に、都の施策や関係機関の連絡先などをわかりやすくまとめて資料化するなど適切 な情報提供に努めるべきである。 ○ 少年院においては、職業補導として必要な資格、技能等を持たせるような教育を 行っているが、少年院を出院した後に、少年院で取得した資格や技能等に係る実務 経験を積むことができたり、より上級の資格を取得するための機会が得られれば、 就労の大きな助けになることが期待できる。都は、若者向け就労支援策として企業 等における実務修習や技能訓練の機会等を提供しているところであるが、こうした 都の施策が保護観察所や保護司などにおいて有効に利用されるよう、情報を提供す ることが求められる。 イ 就学支援 ○ 復学や進学を希望する者については、特に高校への進学を可能とするとともに、 その卒業までつなげることが大切である。高校の新規入学時期が一般に4月に限ら れることなど現行の制度における限界はあるが、都は、高校の入学試験に関する情 報などを少年院等に提供していくよう取組を進めるべきである。 特に、都立高校の中から「力を発揮しきれずにいる生徒を受け入れ、学びなおし - 11 - のできる学校として生徒を育てる」ことを目的として指定されているエンカレッジ スクール*1や、青少年リスタートプレイス*2などの取組について十分な情報提供を行 う必要がある。 さらに、少年院の出院時期や少年院において受けた教育の状況など個々の少年の 状況を踏まえて、例えば高卒認定試験受験等のためのサポート校*3などの多様な進 学ルートに関する情報の提供にも配意していく必要がある。 また、都には、サポート校のネットワーク化などを通じ、少年それぞれの能力や 希望に応じた復学、進学が容易となるような就学機会の確保、拡充に向けた取組を 進めてもらいたい。 ○ 少年院に入院した少年にとって、出院後の励みとなるような目標を持たせること ができれば、立ち直りに有効と考えられる。例えば、少年院において自らの罪と真 摯に向き合い、深く反省して更生を誓った者であって、教科教育において優秀な成 績を収めた者が、家庭環境の点などから進学が困難であるような場合に、大学や専 門学校、高等学校への進学を可能とするような支援などはどうか。どのような支援 が必要であるのかや、どういった機関に協力を求めるかなど課題は多いが、検討の 余地があると考える。 2 *1 適切な住居の確保 エンカレッジスクール : 東京都教育委員会が都立高校改革の一環として、力を発揮しきれずにいる生徒 が社会生活を送る上で必要な基礎的・基本的学力を身に付けることを目的に指定した都立高校。「30分授業」や 「特色ある体験学習」等の思い切った指導を展開している。また、入学者選抜では学ぶ意欲と熱意を重視し、 学力検査は行わず、調査書、志願理由書、面接、小論文(作文)等により選考を行っている。平成18年10月現在、 都立足立東高校、都立秋留台高校、都立練馬工業高校、都立蒲田高校が指定されている(蒲田高校は平成19年 度から実施)。なお、エンカレッジ(encourage)とは「力づける・勇気づける・励みになる」等の意味であり、 文法的にはencouraging schoolとなるが、呼称は「エンカレッジスクール」としている。 *2 青少年リスタートプレイス : 高校を中退した生徒やその保護者を支援するために、東京都教育相談セン ター内に設置された相談窓口。都内在住または在勤で、原則として高校生年齢段階の者とその保護者を対象に、 進路変更に伴う情報提供や相談を行っている。 *3 サポート校 : 一般には、通信制高校に在籍する生徒が、「3年間での卒業」を実現できるように、学習面 ・生活面での支援(サポート)をする民間の教育施設。レポート授業や試験対策授業を基本とした、通信制高 校卒業に必要な履修科目の授業を行っている。大学受験や高等学校卒業資格認定試験の合格を目指す生徒のた めのコースを設けるサポート校もある。 - 12 - (1)少年院出院者の帰住先についての現状と課題 少年院を出院した少年に限らず、少年にとって住居とは単なる居住施設としての意 味にとどまらず、社会に適応していく上で必要な保護が与えられる場と位置づけられ る。実際、小規模・家庭的なサポートが得られる帰住先が少年院に入院しているとき から確保されることは、少年の心理的な安定にとって有効であるといわれており、こ うした観点からも適切な住居の確保が重要であると考えられる。 少年院出院者の帰住先についてみると、仮退院者の8割以上が親元に帰っている現 状がある。他方、親や親族が引き取りを拒否したり、そもそも保護者がいないなどの 原因で「適切な住居がない少年が少なからず存在する」という声もある。また、家族 関係や交友関係に問題がある場合など、親元に帰ることがその少年の更生にとって最 善ではないケースもあるとされる。 (2)現在の取組 親元に帰ることができない、あるいは親元に帰ることが望ましくないと考えられる 少年(往々にして家族との関係などに深刻な問題を抱えていることが多い)にとって 住居となりうる施設としては、更生保護施設*1や自立援助ホーム*2等がある。更生保護 施設は矯正施設を退所した者等の社会復帰、自立を助けるための施設で、その在所期 間は、少年院を仮退院した少年の場合は、仮退院の期間(その期間が6月に満たない 場合は原則として6月)を限度とする。しかし、専ら少年を対象に保護を行う更生保 護施設は全国的にみても数が極めて少ないことから、この期間内であっても、保護を 必要とする少年全てを受け入れることができない現状がある。また、自立援助ホーム は必要に応じて長期にわたる住居を提供しているが、少年院を出院した少年を専門に 受け入れる施設ではなく、収容人員も限られる。 さらに、これらの施設は熱意ある民間の事業者によって運営されており、住居や食 事の提供にとどまらず、生活指導や就職の援助などきめの細かい処遇が行われている が、それでも受け入れが困難なケースもあるのが実情である。 このように、少年院を出院した少年が長期にわたり安心して住むことができる場所 *1 更生保護施設 : 法務大臣の認可を受けた更生保護法人が運営する施設で、犯罪や非行をし、頼るべき人 がいないなどの理由で直ちに自立更生することが困難な人たちに、一定期間、宿泊所や食事を提供したり、就 職指導や社会適応のために必要な生活指導を行うなどして、円滑な社会復帰を手助けしている。 *2 自立援助ホーム : 義務教育終了後に、児童養護施設や児童自立支援施設を退所し、就職する児童等のう ち、なお、援助の必要な児童を入所させ、相談その他の日常生活上の援助および生活指導を行う事によって、 社会的に自立するよう援助する施設。 - 13 - は、十分に確保されているとはいえない。 (3)提言 ○ 少年院出院者の住居は、単に住むための施設であるにとどまらず、親代わりとな る立場の者を擁する施設であることが必要である。 こうした施設をどう確保するかは、更生保護制度のみならず、広く少年・児童に 関わる法制度全体の問題として検討がなされるべきものであるが、対策の方向性と してまず考えなければならないのは、2年程度の長期間にわたって少年院出院者が 適切な保護の下に居住可能な施設の確保である。 このような施設の運営は、市場経済に任せるだけでは困難であることから、公的 施設などの活用、あるいは施設の運営を民間が行う場合には十分な公的援助を行う ことを検討することが求められる。 具体的には、まず更生保護施設の増設、拡充や支援の充実について国に働きかけ ていくべきである。 また、自立援助ホームは、そもそも社会的養護及び就労自立のための援助が必要 な少年を対象としており、少年院出院者を専門に受け入れる施設ではないが、社会 的自立ができずに行き場のない少年にとって実質的な受け皿となっている。自立援 助ホームに入所する少年は、就労定着及び自立に向けて様々な困難、問題を抱えて おり、失敗しても再チャレンジできる環境が必要であること、また、近年入所のニ ーズが高まっていることから、都は、自立援助ホームにおいて就労支援はもとより 心理的ケアを含めた専門的、継続的支援のための職員配置が強化できるような措置 を講じるとともに、自立援助ホームの増設により受け入れの拡充を図る必要がある。 こうした取組を進めることにより、結果的に少年院出院者の帰住先の確保にもつな がるものと考えられる。 ○ 住居の確保については、就労先の確保とあわせた取組として、社員寮等を持つな ど住み込みでの雇用を提供できる協力雇用主の拡大も有効であると考えられる。国 報告書においても同様の提言がなされているが、さらに踏み込んで、少年院出院者 に住居を提供しているような雇用主に対する費用の一部負担等の法制化などを国に 働きかけていくべきである。 ○ 国報告書では、「社会復帰のための強力な支援と強靱な保護観察実現のための自 立更生促進センター(仮称)構想の推進」について触れているが、親元に帰ること ができず、民間の更生保護施設や自立援助ホームなども受け入れが困難な少年の帰 住先として国立の施設を用意する必要性は非常に大きいと考えられることから、早 期の実現を国に働きかけていくべきである。 - 14 - 3 少年に対する生活面でのサポート (1)少年の帰住先における問題の現状 少年院を出院した少年に限らず、全ての青少年が健やかに育つためには、良好な環 境の確保が不可欠である。そのためには、前述のとおり就職先、就学先及び住居の確 保はもちろんのこと、少年本人を犯罪、非行に走らせるような要因をできる限り取り 除く配慮が何よりも必要である。 少年院を出院した少年は、その瞬間から地域社会の一員としての生活を始めること になるが、少年院を出院した少年の8割以上が親元に戻っていることは、少年の生活 環境において少年が少年院に入院する以前の、少年を非行に走らせた要因が引き続き 存在している可能性が高いと考えられる。そのため、少年に対して生活面での適切な サポートを行う必要がある。 犯罪者予防更生法では、少年院仮退院者を含め、保護観察に付されている者が保護 観察期間中に遵守すべき事項(第34条第2項)として 、「犯罪性のある者又は素行不 良の者と交際しないこと」(同項第3号)と定め、また、対象者によっては、特別遵 守事項を個別に設定することがあるが、少年院出院者の再非行、再犯は、不良交友関 係の中で引き起こされ、また繰り返されることが多いといわれる。少年本人が立ち直 りの意欲を示し、就職や進学を目指しても、かつての不良仲間からの誘いをはじめと する誘惑から適切な保護を用意しない限り、そうした誘惑をきっかけに再非行、再犯 に至るおそれがあることは想像に難くない。 少年院を出院した少年の約97%は仮退院であり、これらの少年は保護観察の対象と して、一人一人の少年に対して担当の保護観察官と保護司がそれぞれ決められ、少年 は毎月、保護司のもとを訪問するなどして自らの状況を報告し、強力な指導とサポー トを受け、立ち直りへの道を歩んでいく。立ち直りの必要性やそのための努力につい ても、少年自らが具体的な指導を受けて深く理解し、自ら健全で新たな社会的関わり の中に居場所を見出していくための個別の働きかけが極めて有効であると考えられ る。 (2)現在の取組と課題 少年の帰住先における生活面でのサポートは、まず、保護司を中心とする保護観察 制度の中で行われている。民間ボランティアである保護司が、犯罪者の更生保護に大 きな役割を担うという保護観察の制度は、世界的にも希有な仕組であるばかりか、犯 罪者の立ち直りに大きな成果を上げてきた。 しかし一方で、少年院出院者の再非行、再犯防止をより実効あるものとする上で、 - 15 - 少年の更生に携わる保護司の活動に対して、地方公共団体による支援を広げていくこ とが求められている。例えば、少年院を出た少年にとっては、出院後にそのような経 歴を持つことができるだけ周囲に知られないほうが望ましいとの配慮があるためか、 保護観察期間中の保護司と行政、民生・児童委員、ボランティア、関係団体等が一体 となった対応がこれまで必ずしも十分でなかったとの指摘がある。このため、様々な 行政サービスにアクセスできないまま、結果として地域社会の中で少年や保護者等が 孤立してしまうことを防止するための取組は、担当の保護司の個人的な努力に大きく 依存しているのが実情であり、さらに保護司自身も、少年が困難に遭遇したときに、 地方公共団体の機関や施策に関する情報を十分持っていないなどのために、どこの機 関にどういった形で相談すればよいのか悩んだりすることもしばしばあるといわれ る。 また、制度上、少年の保護観察は原則として20歳までを限度としているため、例え ば、保護司の献身的なサポートによって、不良交友関係からの離脱のきっかけが見え た少年であっても、20歳になると保護観察の対象から外れてしまうことになる。その 後、本人が何らかの支援を必要とする状況になった場合にも、現行の保護観察制度で は、フォローすることが困難である。また、そもそも仮退院でない場合には、少年に 対する保護観察自体が行われず、出院後にいきなり社会復帰させることになる。この ため、少年院での矯正教育が効果を上げていたとしても、その後少年が社会の中で困 難な状況に陥った場合に、支援する仕組が制度上、全く存在しない。 (3)提言 ○ 少年院出院者の立ち直りを支えるため様々な人々が努力をしているが、中でも地 域においてその中核となり、最前面に立っているのは保護司である。都は、保護司 が日々の活動の中で直面する課題の解決を助け、その結果少年の立ち直りが果たさ れるよう保護司の意見、要望を十分に踏まえてその活動へのサポートを充実させて いくべきである。 そのため、都の各機関をはじめとする関係機関、団体が参加し、保護司(保護司 会)と率直な意見交換等を行うネットワークとして「(仮称)少年院出院者の立ち 直りを図るための保護司活動支援協議会」を設立するべきである。ネットワークは、 少年院出院者が社会において直面する就労・就学の支援、住宅の確保、福祉などの 様々な課題について関係する部局のほか、更生保護や矯正に関わる国の関係機関、 区市町村、さらには少年の更生に係る活動を行っているNPO法人等の民間団体な どが幅広く参加したものとし、ネットワークの活動を通じて保護司の意見、要望な どが都の各施策や、さらには区市町村行政に反映されていくよう継続的に協議会を 開催していくことが必要である。 - 16 - 特に、就労・就学の支援などに関わる都の施策や各機関の連絡先などを資料化し たガイドブックを作成して、保護司や関係する機関、ボランティアなどが活用でき るよう配布することは、比較的実現が容易である割に保護司等が現在抱える課題に 対応する上で有効な方策であると考えられることから、早期に協議会で検討し、都 において実現を図るべきである。さらに、協議会では、保護司の募集や少年との面 接などの活動に際し、都や区市町村と保護観察所、保護司などとの連携がより緊密 に行われるような取組を重点的に進めていくべきである。 保護司活動支援のためのネットワークは、都全域のレベルにおいて設けるだけで なく、より個々の保護司の活動に近いレベルでも保護司と関係行政機関、団体の連 携が促進されるよう区市町村などごとにもネットワークが生まれ、最終的には、少 年の自立的な更生のために、必要に応じて個々の保護司と少年の支援に有効な機関 等の担当者とが一つのチームを結成できるような協力関係が構築できるようになる ことが望ましい。こうした緊密な少年支援を実現するためには、例えば、少年サポ ートチームなど個々の少年の支援を目的とする既存の枠組を活用することも考えら れる。 ○ また、地域に密着したレベルでの仕組づくりとしては、現在、設置が進められて いる区市町村の要保護児童対策地域協議会*1においても地域の保護司会等を構成メ ンバーに加えるよう働きかけを行い、協議会構成員と保護司との連携を深めること により、保護司を核とした地域支援体制を拡充していくことが求められる。 ○ 保護司の活動に対する支援の充実に加えて、少年自身や保護者などが必要を感じ たときに、自ら、行政をはじめとするさまざまな機関、団体の支援が得られやすく するような仕組づくりのための取組も有効であると考える。こうした仕組は、保護 観察の対象とならなかったり、保護観察期間が終了するなどにより保護観察の対象 を離れた少年やその保護者が支援を必要としているような場合の窓口としても機能 することが期待される。 具体的には、少年院の出院時に、都の施策や取組などをわかりやすくまとめた冊 子などを少年やその保護者に渡すことや、困っているときの相談が容易にできるよ *1 要保護児童対策地域協議会 : 児童福祉法に基づく協議会で、都では、東京都要保護児童対策地域協議会 を設置し、要保護児童に係る全都的推進体制を確立するとともに、区市町村における地域協議会の設置を進め ている。協議会の構成員には、児童福祉法上の守秘義務が課せられるとともに、関係機関に対し、情報提供等 必要な協力を求めることができる。児童福祉法に基づく対応であるため18歳未満の少年が対象であるが、特に 幼少期から福祉関係機関等が関わってきた少年に対しては、この枠組を活用して問題意識の共有を図るととも に、個別の少年について支援策を検討することが可能な仕組となっている。東京都要保護児童対策地域協議会 には、児童福祉、保健医療、教育に関わる機関、団体のほか、東京都保護司会連合会も参加している。 - 17 - う相談機関の機能充実を図ること、さらには年齢や相談事項などによる切れ目がな い「入り口」としての機能を有する相談支援体制を整備することなどについて検討 していく必要がある。また、具体策の一つとして、インターネットや携帯電話など の情報通信機器を活用して、少年やその保護者等が24時間365日アクセス可能な支 援・相談ネットの構築も有効であると考えられることから、その実現について、都 は、引き続き検討を進めてもらいたい。 ○ また、都は、更生保護女性会やBBS会など、更生保護を支えるボランティア団 体との連携を深めていくとともに、これら以外にも少年の更生に関わる活動を行っ ているNPO法人や就学支援を行っているサポート校などの民間団体について、事 業内容や活動状況等に係る情報を幅広く収集し、連携を図っていくべきである。 4 家族へのサポート (1)非行少年及びその家族を取り巻く現状と課題 少年院を出院した少年の多くは親の元に戻って生活をすることになるが、一方で、 少年が非行に至る背景には、家族との離別や両親の不和、家庭内暴力による家庭崩壊、 差別、虐待、過干渉あるいは放任など、家庭環境や家族との関係が影響していること も少なくないとされており、少年の立ち直りを図る上で、少年自身の更生を図ること に加え、家庭環境の改善などを並行して行っていくことが有効である場合が少なくな い。 そこで、少年が少年院に収容された直後から、保護観察官と保護司が協働しながら 帰住先の環境調整を行っている。少年に対する家族の十分な理解と支援があってこそ 少年の更生が図られることから、環境調整の過程では、保護者に対し家族関係の修復 に向け、少年との関係を見直すとともに、対応の仕方を変えてみるよう助言すること も多い。 しかし、立ち直ろうとする少年を支えるという責任を果たす意欲が乏しかったり、 少年の更生に無関心であったりする保護者には、保護観察官や保護司の助言も通じず、 少年の立ち直りを支えるための努力を期待することが難しい。 平成16年に法務総合研究所が保護司に対する調査において、保護司が経験した対象 者の親の困った行動に関して尋ねたところ、「対象者に注意や指導ができず、その言 いなりになっている 」、「対象者の行動に無関心である 」、「対象者の問題行動を他人 のせいにする」といった回答が多かった。「対象者の行動に関して、隠し事や嘘の報 告をしてくる」及び「対象者のことで相談しようとしても、応じてこない」というも のも相当数あり、保護司が、少年の更生を第一に支えるべきであるのにその責任を果 - 18 - たそうとしない保護者への対応に苦慮していることがうかがわれた。 少年院教官に対する意識調査でも、指導力に問題のある非行少年の保護者が増えた と認識している教官が80%を超え、「子どもの行動に対する責任感がない」、「子ども の言いなりになっている 」、「子どもの行動に無関心である」などを挙げる者が多か った。 このような実情を踏まえ、保護者・家族に対して少年の監護に関する責任と自覚を 促すために、どのようなサポートを行っていくかが、今後の重要な課題となっている。 (2)現在の取組 家族関係改善に向けた保護者等への働きかけは、現在少年院や保護司が中心に行っ ている。 少年院における保護者への働きかけとしては、新入時及び出院時の保護者会により 矯正教育への理解を深め、面会や手紙による少年との交流、家族との関係調整として のファミリーカウンセリング、これまで希薄だった親子の触れ合いを確保するための 保護者参加型行事を実施しているが、保護者の中には、働きかけに対して消極的な者 も見受けられるという。 保護観察所においては、保護者に対する個別の働きかけとともに、少年への対応に 悩んでいる保護者のためにグループワークや集団講習の開催なども行っている。しか し、監護能力に問題のある保護者ほど、保護観察官や保護司との関わりを避けようと する傾向があるとされる。 平成12年に少年法が改正され、保護者に対する措置として、「家庭裁判所は、必要 があると認めるときは、保護者に対し、少年の監護に関する責任を自覚させ、その非 行を防止するため、調査又は審判において、自ら訓戒、指導その他適当な措置をとり、 又は家庭裁判所調査官に命じてこれらの措置をとらせることができる」(少年法第25 条の2)との明文規定が設けられた。これにより家庭裁判所は、保護者に養育態度の 見直しの指導などの働きかけを行っている。 (3)提言 ○ 保護者の中には、少年院教官や保護観察官、保護司の働きかけに応じなかったり、 これらとの関わりを避けようとする者もおり、こうした保護者に対して実効性のあ る働きかけを行うことなどについての根拠規定がこれまでなかったが、現在、法整 備の動きが具体化しているところであり、早期の根拠規定が創設されることを望む ものである。 ○ 少年にとっては、まず家族の下に帰り、家族再統合を果たすことが望ましい姿で あり、そうした観点から、保護司は少年自身の指導に当たるとともに保護者に対し - 19 - ても働きかけを行っている。それにもかかわらず、少年の監護を全うしようとしな い保護者に対しては、関係する機関と保護司とが連携して、まず保護者に自らの責 任を果たさせるように取り組んでいくことが必要である。 保護司の活動を支援するための協議会の場においては、保護者の指導に当たって 保護司が感じている困難について認識を共有し、そうした保護者に対し関係機関と 保護司がどう対応していくかという点についても協議、検討が行われる必要がある。 ○ 保護司の活動を通じた保護者の指導、支援とは別に、保護者自身が悩みを持った ときにその相談が容易になるような仕組を準備することが有効であることは、少年 自身に対する相談体制を充実させることの有効性と異なるところはない。少年の場 合同様、就労・就学の支援などに関わる都の施策や取組などをわかりやすくまとめ た冊子などを保護者に渡すこと、困っている保護者が容易に相談できるよう相談機 関の機能充実を図ること、保護者が24時間365日アクセス可能な支援・相談ネット を構築することなどの取組を図るべきである。 - 20 - おわりに 本協議会は、都知事からの諮問を受け、少年院等を出た子どもたちの立ち直りを、 地域で支援するための方策について、検討してきた。この諮問は、言い換えれば、極 めて困難な状況にある少年が「自立」という目標をどうすれば達成できるか探るとい う難問であった。 協議会における議論に当たっては、少年の矯正や保護に当たっておられる様々な機 関や団体、施設の方々には、実地視察に御配慮をいただいたほか、少年の置かれた実 態などについてたいへん丁寧な御説明と貴重な御意見をいただいた。御協力をいただ いた方々に、厚く感謝の意を表したい。 今回の諮問事項について検討を行う中で、少年院を出た少年の立ち直りという非常 に難しい課題に対して、実に多くの人々が懸命に取り組んでいることに改めて気付か された。それとともに、社会全体で取り組まなければならない難しい課題であるにも かかわらず、都と区市町村、国といった行政主体の連携不足や、少年法と児童福祉法 などといった法制度の隙間などのため、歯車がうまくかみ合っていない部分があるこ ともはっきりとした。 今回の答申では、こうした現状を改善するため、東京都が今よりも一歩でも前に出 て、少年院を出た少年の立ち直りを支援するという役割を果たす上でまず取り組むべ きことを重点的に提言した。 個々の提言の内容には、都が単独で施策を進められるものもあれば、国や区市町村、 公私の団体と協力して取り組まなければならないものもある。都には、関係する機関、 団体と積極的に連携しつつ、速やかにかつ着実に提言を実現に移すことを期待する。 もちろん、少年院を出た少年の立ち直りのために必要な施策は、今回の答申に取り 上げたものがすべてではない。時代や社会の変化に応じて新たな施策が求められるこ ともあるであろうし、都が施策を進めていく中で必要性が明らかになる施策もあるで あろう。あるいは、個々の少年にとっては答申にない有効な対応があるかもしれない。 都には、この答申をスタート台として、今後さらに前向きの施策展開を求めたい。 また、協議会では最も困難な立場にあると思われる少年院出院者に焦点を当てて検 討を行ってきたが、この答申で提言した施策は、少年院出院者以外にも様々な理由か ら自立が難しい事情を抱える少年にとって有意義なものが少なくない。施策の実現に 当たっては、狭い視野に陥ることなく、非行からの立ち直りや自立を目指す少年を広 く支えるものとなるよう配慮してもらいたい。 犯罪や非行を犯した少年であっても、自らの罪を反省して立ち直りを果たそうとす - 21 - る気持ちをあたたかく支えていくことが成熟した地域社会に求められる役割である。 この答申に盛り込まれた提言は、そうした社会を目指す上でいずれも必要な施策であ り、その意味では東京に暮らす一人一人がこの提言の実現に協力していくことが求め られているといえる。 今回の提言を契機に、東京都と都民、区市町村等が協力しながら、少年院等を出て 地域に溶け込もうと努力する子どもたちを受け止め、受け入れる社会を実現していく ことを強く期待する。 平成18年10月23日 - 22 - 東京都青少年問題協議会 参 考 資 - 23 - 料 - 24 - 諮 問 17青青健第206号 東京都青少年問題協議会 会長 石原 慎太郎 殿 次代の社会を担うべき青少年が、良好な環境のなかで健やかに成長し、社会的、精 神的に自立していくことは、都民すべての願いであります。 東京都は、青少年を取り巻く環境がますます悪化しており憂慮すべき事態となって いることと、治安対策の根底には青少年の問題が深く関連していることから、青少年 ・治安対策本部を設置し、青少年の健全な育成について一体的、総合的に対策を推進 していくこととしました。 平成16年に都内で検挙された犯罪少年は、前年に比べると若干減少しましたが、 年間1万4千人を越えており、14歳から19歳までの少年人口の50人に1人を占 め、成人を含む刑法犯検挙人員の概ね4人に1人が少年となっています。中でも、少 年院に収容される少年のうち、15パーセントが前回も非行を犯して少年院や児童自 立支援施設等に送致された経験を有していることは、非行程度の進んだ少年の立ち直 りが難しいことを示しており、こうした少年の再非行防止は、大きな社会問題となっ ています。 この焦眉の課題に対処するため、非行少年の再非行防止のための方策等について検 討し、すみやかに所要の結論を得る必要があります。 よって、下記事項について諮問します。 平成17年11月24日 東京都知事 石原 慎太郎 記 少年院等を出た子どもたちの立ち直りを、地域で支援するための方策について - 25 - 第26期東京都青少年問題協議会(後期)審議経過 開催期日 平成17年 会議の種類 第3回総会 11月24日 主な審議内容など ○諮問について ○協議会の運営について 専門部会の設置、運営方法 12月19日 第1回専門部会 ○審議事項について ○今後の進め方について 平成18年 第2回専門部会 1月18日 ○更生保護・児童福祉関係者の意見聴取 ・東京保護観察所観察第三課長 ・東京保護観察所保護観察官 ・東京都保護司会連合会会長 ・児童相談センター相談処遇課長 ・東京都民生児童委員連合会副会長 ・文京区主任児童委員 1月27日 視察 ・多摩少年院 ・八王子少年鑑別所 ・児童自立支援施設 2月20日 視察 ・自立援助ホーム ・更生保護施設 4月17日 第3回専門部会 誠明学園 青少年福祉センター新宿寮 敬和園 ○少年非行等の概況 ○少年院等を出院後に必要とする支援について 5月11日 第4回専門部会 ○中間まとめの骨子について ○起草委員会の進め方について 5月29日 第1回起草委員会 ○中間まとめ(案)の検討 6月14日 第2回起草委員会 ○中間まとめ(案)の検討 7月 3日 第5回拡大専門部会 ○中間まとめの審議 ○協議会の運営について 8月10日 第6回専門部会 ○少年院出院者の立ち直りを支援するための施策に ついて 9月29日 第3回起草委員会 10月23日 第4回総会 ○答申(案)の検討 ○答申の決定 - 26 - 第26期東京都青少年問題協議会(後期)委員名簿 (審議期間:平成17年11月24日∼平成18年10月23日) 区 会 分 氏 名 所 長 石 原 慎太郎 東京都知事 都議会議員 6人 村 新 野 山 伊 渡 上 藤 上 下 藤 辺 英 子 義 彦 ゆきえ 太 郎 興 一 康 信 東京都議会議員 東京都議会議員 東京都議会議員 東京都議会議員 東京都議会議員 東京都議会議員 区長・市長 2人 室 星 橋 野 信 学識経験者 12人 内 山 小 澤 小 尾 加 藤 国 分 近 藤 佐々木 高 見 前 田 無 藤 村 松 渡 部 関係行政庁 の職員 5人 東京都の 職員 8人 昭 夫 絢 子 正 史 すみれ 諦 三 明 男 彰 郎 輝 美 之 孝 雅 英 隆 励 陽 子 江東区長 国分寺市長 東京労働局総務部長 東京矯正管区第三部長(∼18.3.31) 東京矯正管区第三部長(18.4.1∼) 東京保護観察所長(∼18.3.31) 東京保護観察所長(18.4.1∼) 東京地方検察庁刑事部長(∼18.3.31) 東京地方検察庁刑事部長(18.4.1∼) 東京家庭裁判所首席家庭裁判所調査官 ○ ○ ○,◇ ○ ○,◇ ○ ○ ○,◇ 久 馨 次 夫 東京都知事本局長 東京都青少年・治安対策本部長 東京都財務局長 東京都生活文化局長(∼18.7.15) 東京都福祉保健局長(18.7.16∼) 東京都生活文化局長(18.7.16∼) 東京都福祉保健局長(∼18.7.15) 東京都産業労働局長(∼18.7.15) 東京都産業労働局長(18.7.16∼18.9.11) 東京都産業労働局長(18.9.12∼) 東京都教育委員会教育長 警視庁生活安全部長 口 本 川 内 健 隆 渡 平 成 佐 島 中 園 辺 井 田 藤 田 村 田 日佐夫 健 一 浩 広 健 一 正 彦 一 裕 一 考 真 謙 生 勉 一 宏 巖 也 山 舟 谷 山 敏 備 ○,◇ ○,◇ ○ 副会長,○,◇ ○ ○ ○ ○ 部会長,○,◇ ○ ○,◇ ○ 上 村 村 木 澤 田 井 谷 恭 等 目白大学教授 弁護士 公募(ボランティア団体会員) 早稲田大学教授 (財)インターネット協会副理事長 東京私立中学高等学校協会会長 国際基督教大学教授 公募(会社員) 首都大学東京 都市教養学部長 白梅学園短期大学学長 専修大学ネットワーク情報学部教授 NPO法人ひさし総合教育研究所理事長 井 梅 河 鈴 古 吉 松 大 信 属 (○:専門部会委員、◇:起草委員) - 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