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ガー科には 2 属 7 種が記載されており,スポ
脊椎動物・魚類 VERTEBRATA <条鰭綱 ガー目 ガー科> PISCES <LEPISOSTEIDAE> ガー科 Lepisosteidae Cuvier, 1825 【概要と選定理由】 ガー科には 2 属 7 種が記載されており,スポッテッドガーLepisosteus oculatus,ロングノーズガ ー Lepisosteus osseus 及びアリゲーターガーAtractosteus spatula 等がよく知られるが,7 種すべ てが国内のペットショップ等で流通している。飼育者が遺棄するケースが頻発していること,なか には寒冷な気候に適応する種もあること,温暖化等による水域の昇温により定着の恐れがあること 等の理由により詳細情報を記述した。 【形 態】 細長い体と突出した両顎を持ち,針のように鋭い歯が並び,上顎がやや長く突き出ている。体全 体が硬い菱形の鱗で覆われ,背鰭が体の後方に位置し,臀鰭と互いに向かい合う。空気呼吸が可能 である。スポッテッドガーは,最大全長 1m 程度になるが,飼育下ではやや小さい。銀色の体に黒い 不規則な暗色斑紋がある。ロングノーズガーは,最大で 2m 程度の記録があり,ガー類の中で最長の 吻を持ち,体全体が細長い。細長い吻は,比較的動きが俊敏な小型魚類を捕らえることに適してい る。アリゲーターガーは北アメリカでも最大級の淡水魚で,過去にミシシッピ川下流で全長 3m 程度 に達した個体の採捕記録がある。 【分布の概要】 【世界の分布】 自然分布域の北端はカナダ・ケベック州,南端はキューバ付近。 【国内の分布】 毎年のように日本各地で目撃,採捕の情報があるが,自然繁殖を裏付ける情報はない。 【県内の分布】 採捕・目撃例:五条川流域の池(岩倉市),神様池・時代池(大府市),矢田川(尾張旭市), 矢田川水系支流・瀬戸川谷口町の池(瀬戸市),矢作古川(豊田市),油ヶ淵(碧南市,安城市), 堀川(名古屋市西区),天白川(名古屋市天白区),庄内川(市町村不明),ほか。 【生息地の環境/生態的特性】 河川の淀み,緩流域を好み,特に水草の多い浅場に生息することが多い。愛知県でも名古屋市堀 川や溜め池,河川下流域での確認事例が多い。動物食で仔稚魚期に動物プランクトン,水生・陸生 の昆虫,甲殻類を捕食する。成長すると主に魚類を食べる。繁殖期は 5 月から 6 月頃とされ,岸辺 近くに繁茂する水草や砂礫に産卵する。 【侵入の経緯/現在の生息状況】 飼育者が河川等に遺棄する事例が多い。ペットショップでの購入価格が 1990 年代以降低下し,飼 育が比較的容易になったことも要因と考えられる。これまでに国内でガー類の自然繁殖は確認されて いない。しかし,ロングノーズガーは,ガー目のなかでも寒冷な環境に適応しており,原産地では五 大湖のヒューロン湖(北海道北端の緯度相当)まで生息している。汽水域にも生息が可能で,特にア リゲーターガーは海域や塩性湿地に生息する個体群も存在する。県内では,2003 年以降にガー類の 生息が各所で確認されている。大府市の溜め池では 2008 年及び 2009 年にそれぞれ 1 尾のガー類が 捕獲された(坂本 2010) 。このうち 1 尾はフロリダガーL. platyrhincus で,比較的温暖な気候に適 応すると考えられるにもかかわらず,1 月に生体で捕獲された。本類の低温耐性を示すと共に,愛知 県においても十分に越冬が可能で,繁殖の恐れもあるものと推測される。矢作古川(豊田市)でも 2011 年にアリゲーターガーが捕獲されたほか,油ヶ淵(碧南市)では 2003~04 年に初めてガー類 が確認された後,毎年数尾が捕獲されていることから,特別に注意が必要である。 【被害状況/駆除策と留意点】 ガー類の環境適応の高さを鑑みれば,一般的な日本(愛知県)の河川及び湖沼において越冬及び繁 殖できる可能性は否定できない。大型化すれば天敵はほぼ存在しないと推測され,本類の定着を未然 に予防することは重要である。多数が放流され,繁殖した場合には漁業や地域の水生生物群集に甚大 な影響を与える危険性がある。 【特記事項】 滋賀県では,ガー類を天然水域に放つことが条例および県漁業調整規則によって禁止されており, 違反者は処罰の対象となる。 【引用文献】 坂本博一. 2010. 愛知県大府市のため池で捕獲されたガー科魚類. 豊橋市自然史博物館研究報告 20:19-21. 【関連文献】 Campbell, A and J. Dawes. 2007. 海の動物百科 2 魚類Ⅰ(松浦啓一 監訳). 100pp. 朝倉書店, 東京. (谷口義則) 74