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研究成果の論文 - 公益財団法人 大林財団

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研究成果の論文 - 公益財団法人 大林財団
公益財団法人大林財団
研究助成実施報告書
助成実施年度
2011 年度(平成 23 年度)
研究課題(タイトル)
ビーチロック形成機構に学ぶ新しい液状化対策技術に関する基礎的
研究
研究者名※
川﨑
了
所属組織※
北海道大学大学院
研究種別
研究助成
研究分野
都市・地域の災害からの復興
助成金額
100 万円
概要
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災では、関東地方の広い範
工学研究院
囲において地盤の液状化現象が見られ、その数は東北地方よりも多
いことが報告されている。液状化による被害件数が特に多かったの
は、東京湾沿岸にある比較的新しい埋立地であり、大都市部の高い
人口密度に加えて、電気、ガス、水道などの重要なライフラインが
敷設されていることから、早急な液状化対策工が必要である。従来
から液状化対策として用いられている代表的な固化材はセメントや
シリカなどであるが、これらの固化材は決して安価であるとは言え
ない。さらに、セメントを使用する際には、有害な六価クロムの溶
出や地下水の高 pH 化などが生じる可能性があり、これらの地盤・地
下水汚染に関して十分に配慮する必要がある。
(本文に続く)
発表論文等
※研究者名、所属組織は申請当時の名称となります。
(
)は、報告書提出時所属先。
1.研究の目的
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災では,関東地方の広い範囲において地盤の液状化現象が見
られ,その数は東北地方よりも多いことが報告1)されている。液状化による被害件数が特に多かったの
は,東京湾沿岸にある比較的新しい埋立地であり,大都市部の高い人口密度に加えて,電気,ガス,水
道などの重要なライフラインが敷設されていることから,早急な液状化対策工が必要である。従来から
液状化対策として用いられている代表的な固化材はセメントやシリカなどであるが,これらの固化材は
決して安価であるとは言えない。さらに,セメントを使用する際には,有害な六価クロムの溶出や地下
水の高 pH 化などが生じる可能性があり,これらの地盤・地下水汚染に関して十分に配慮する必要がある。
このような最中,最近では微生物を利用した新しい地盤改良技術が国内外で注目を集めており,その
研究開発が活発化している。微生物の代謝エネルギーは小さく,また低環境負荷で低コストであること
から,微生物を用いた改良技術は,耐久性,遮水性,自己修復性などの機能の追加や向上を目的とし,
土,岩,モルタル,コンクリートなどの建設材料を対象とした研究事例が報告されている。例えば,土
に関しては,Sporosarcina Pasteurii などの炭酸カルシウム(CaCO3)結晶化に優れた微生物を用いた基
礎的な砂供試体の固化試験が中心であり,オランダでは既に現場で試験施工2)が実施されている。しか
し,特定の外来微生物を使用していることから,施工現場における微生物汚染に関する環境問題が懸念
されている。
一方,海浜の砂や礫が石灰質の物質で固化したビーチロックと呼ばれる自然の岩盤が,国内外で数多
く報告されている。国内の場合,ビーチロックは沖縄県などの南西諸島に多く見られるが,このビーチ
ロック形成に関与していると考えられる自然の微生物を活用し,その微生物が生息している砂地盤を固
化させることが可能となれば,特定の外来微生物を使用する必要がないことから微生物汚染の問題が発
生しないだけでなく,低環境負荷で低コストの新しい液状化対策工の開発に繋がることが期待される。
本研究の目的は,自然のビーチロックが形成するメカニズムを学び,模倣することによって,新しい
液状化対策工の基本技術を開発するための基礎的な研究を実施することである。具体的には,最初に地
盤の固化に使用する固化材の選定を行う。次に,東京湾沿岸を主な研究対象として,砂の固化に適した
微生物の探索を行う。
それから,探索によって見出された微生物と固化材による pH 上昇試験を実施する。
そして最後に,微生物と固化材を用いて固化させた砂供試体の一軸圧縮強さに着目し,改良効果に関す
る評価を行う。
2.研究の経過
2.1 固化材の選定
ビーチロックを構成する砂や礫の主なセメント物質は CaCO3 であり,その Ca 成分は主に海水由来であ
る。また,ビーチロック形成時における CaCO3 の析出には,微生物が関与している可能性があり,例え
ば CO2 生成による CaCO3 の析出やアンモニア生成による pH 上昇などがある。以上のことから,海水中の
Ca 成分と沿岸の埋立地に生息する微生物を有効利用することによって低環境負荷の地盤固化材を新た
に開発することできれば,環境とコストの両面において好都合である。
微生物を用いて CaCO3 を結晶化させて地盤を固化させる研究は,国内外において既に実施されている
ため,本研究では CaCO3 とは異なるリン酸カルシウムを対象とした。リン酸カルシウムは,歯や骨の主
成分であることから身近で安全であり,さらにこの技術が実用化に至る段階でパブリックアクセプタン
スが容易である可能性が高い。リン酸カルシウムは,Ca/P 比によって 11 種類の化合物3)が存在し,本
報告ではリン酸カルシウム化合物(CPC)と表記する。CPC の析出には,リン酸溶液とカルシウム溶液が
必要となるが,既存の CPC を用いた研究4)を参考にすると同時に,試行錯誤により 3.0 mol/L のリン酸
水素二カリウム溶液と 1.5 mol/L の酢酸カルシウム溶液を選定した。また,CPC はその溶解度が顕著な
pH 依存性を有し,pH 値が弱アルカリ性で最も溶解度が小さくなる(析出量が大きくなる)ことから,リ
ン酸溶液とカルシウム溶液を混合した後に弱酸性~中性付近となる配合を選び,その後は微生物機能に
よる pH 上昇で CPC 析出量が増加することに期待した。
2.2 微生物の探索
ここでは,尿素分解に伴って生成されるアンモニアによる pH 上昇を考え,地盤中の多種多様な微生物
の中から尿素の分解酵素であるウレアーゼを生成する能力が高い微生物を分離することを目的とした。
探索の対象は,東京湾沿岸の 6 地点(神奈川県横浜市「海の公園」
(T1)
,東京都品川区「大井ふ頭海浜
公園」(T2)
,東京都港区「お台場海浜公園」(T3),東京都江戸川区「葛西臨海公園」(T4),千葉県富津
市「富津公園」
(T5),千葉県千葉市「稲毛海浜公園」(T6))の他に,これらと比較対照を行うために沖
縄本島沿岸の 1 地点(沖縄県豊見城市「豊崎総合公園」
(O1)
)より海砂を採取した。各地点で 3~6 本の
遠沈管に試料を採取し,計 29 試料を微生物の分離源とした。室内に運び入れた試料は,試験に供するま
で 4 ℃の保冷庫に入れて保管した。
最初に,寒天培地と希釈液の種類を変えることで微生物の培養条件を変化させ,採取した海砂に生息
する微生物の分離を行った。寒天培地の種類は,ZoBell2216E 培地,NH4-YE 培地などの計 5 種類とし,
希釈液には人工海水,蒸留水などを用いた。次に,分離した微生物を用いたウレアーゼ活性試験を行い,
ウレアーゼ活性の有無およびその大小を pH 指示薬(クレゾールレッド)の色調変化で確認した。ウレア
ーゼ活性を示した微生物の中でも,特に強い活性を示した微生物については遺伝子配列を解析し,既知
の DNA 配列のデータベース上の配列と照合して相同性検索を行った。
同検索の結果から系統解析を行い,
系統樹を作成して帰属分類群の推定を実施した。なお,微生物の遺伝子領域は,16S rDNA の部分塩基配
列(約 500 bp)とした。また,系統解析に用いる系統樹の作成には,近隣接合法を使用した。
2.3 微生物と CPC を用いた砂の pH 上昇試験
小型容器に入れた豊浦砂 15 g に対して,CPC となる酢酸カルシウム溶液とリン酸水素二カリウムを
1.717 mL ずつ加え,さらに尿素および分離した微生物を加え,よく混ぜ合わせる。養生日数が 1,3,5,
7,14,28 日後に,試料の pH を測定した。なお,尿素,微生物,CPC が,砂の pH 上昇に与える影響につ
いて調べるため,これらの添加量および濃度を複数変化させた試験ケースを設定し,試験を実施した。
2.4 微生物と CPC を用いた砂供試体の一軸圧縮試験
豊浦砂 320.1 g に対して,酢酸カルシウム溶液とリン酸水素二カリウムを 36.65 mL ずつ加え,さらに
尿素 1.71 g および分離した微生物 0.21 g を加え,よく混ぜ合わせる。この試料を,直径 50 mm×高さ
100 mm のモールドに投入して締固めを行い,乾燥を防ぐためにパラフィルムで密閉した後は 25 ℃で養
生させる。供試体の養生期間は,1,7,14,28,56 日とし,試験結果の再現性を確認するために各試験
ケースで 2 本ずつ供試体を作製した。所定の期間の養生後に,軸ひずみ速度 1 %/min で一軸圧縮試験を
実施した。
3.研究の成果
3.1 微生物の探索
最初に,寒天培地を用いた微生物の分離試験に関して述べる。分離試験では,次のような成果が得ら
れた。①東京湾沿岸の 6 地点(T1~T6)から計 23 試料を採取し,それらの試料から計 1183 菌株を分離
した。また,沖縄本島沿岸の 1 地点(O1)の 1 試料から計 67 菌株を分離した。②東京湾沿岸の海砂に生
息する微生物は,人工海水を使用した培地以外では生育することができなかった。
次に,ウレアーゼ活性試験の結果について述べる。この試験では,ウレアーゼ活性測定溶液に前述し
た分離試験で分離した菌株を加えた後に,45 ℃のインキュベーター内で 2 時間静置させ,溶液が黄色か
ら赤色に変色した場合にウレアーゼ活性を有する菌株と判定し,溶液の pH を測定した。分離した菌株の
ウレアーゼ活性試験で得られた主な成果は,次のとおりである。①東京湾沿岸の試料から分離した計
1183 菌株のうち,ウレアーゼ活性を有する菌株と判定されたのは計 71 菌株であった。また,pH 値が 8.5
以上を示したのは計 8 菌株であり,その中で最大の pH 値は 9.0 となった。これらの菌株は,ウレアーゼ
による尿素分解菌として利用できる可能性がある。②ウレアーゼ活性を有する菌株が生育する割合が最
も大きかったのは,希釈液に蒸留水を用いた場合であった。③東京湾沿岸の T5 および T6 に関しては,
今回使用した計 5 種類の培地のすべてにおいて生育したコロニー数が少なく,それぞれ計 1 株(T5)
,計
2 株(T6)とウレアーゼ活性を有する菌株の数が少なかった。また,ウレアーゼ活性を有する菌株が示
す pH は低い値となった。
最後に,微生物の遺伝子解析によって得られた主な成果について述べる。前述したウレアーゼ活性試
験の結果をもとに,最も高いウレアーゼ活性を有すると考えられる T1,T3,O1 の 3 地点から,それぞれ
菌株 T1-1,T3-1,O1-1 を選定し,これらの 16S rDNA の部分塩基配列の解析による帰属分類群の推定を
実施した。その結果,次のような成果が得られた。①T1-1 は,Huaishuia 属に含まれ,Huaishuia halophila
に帰属する可能性が高いと考えられる。また,T1-1 のバイオセーフティレベル(BSL)は不明である。
②T3-1 は,Labrenzia aggregate に近縁な Labrenzia 属の一種であり,Labrenzia sp.と推定される。ま
た,T3-1 の BSL はレベル 1 であり,人間に疾病を起こしたり,あるいは動物に対して獣医学的に重大な
疾患を起こしたりする可能性がないもの(日和見感染を含む)である。③O1-1 は,Alteromonas 属に帰
属すると考えられ,Alteromonas sp.と推定される。また,O1-1 の BSL はレベル 1 である。
3.2 微生物と CPC を用いた砂の pH 上昇試験
T3-1 を用いて実施した CPC による砂の pH 上昇試験で得られた主な成果は,次のとおりである。①T3-1
の添加量が 0.1 g と 0.01 g の場合には,前者の方が試験開始直後の pH の上昇割合が大きく,5 日後に
pH9.0 まで上昇するが,後者は 14 日後に pH8.5,そして 28 日後に pH9.0 と緩やかに上昇した。②尿素の
添加量を 0.08 g~0.8 g の範囲で変化させた場合,pH の上昇割合の差異はほとんど見られなかった。③
CPC 溶液の濃度を基準濃度の半分にした試験ケースを実施した結果,この程度の濃度差が pH の上昇割合
に与える影響は小さかった。
以上の試験結果を踏まえて,次の3.3節では砂 15 g に対する尿素と微生物の添加量を,それぞれ
0.08 g,0.01 g と設定することにより砂供試体を作製し,その後に一軸圧縮試験を実施した。
3.3 微生物と CPC を用いた砂供試体の一軸圧縮試験
計 72 本の砂供試体を作製し,これらを用いた一軸圧縮試験を実施した。得られた主な成果は,次のと
おりである。①図-1 に示すとおり,養生日数と一軸圧縮強さの関係では,すべての試験ケースにおい
て養生日数が増えると一軸圧縮強さが概ね増加する傾向があることがわかった。また,同図に示されて
いる養生日数 28 日以後の一軸圧縮強さが,地震時に砂質地盤が液状化しない目安の一軸圧縮強さである
100 kPa 程度5)を満足していることが確認された。②図-2 に示すような養生日数と pH の変化量の関係
においては,T1-1,T3-1,O1-1 の 3 菌株のすべてに関して養生日数が増えると pH が上昇する傾向が見
られた。また,これらの 3 菌株の中では,O1-1 が最も pH 上昇に関する能力が高い尿素分解菌である可
能性が示唆された。③図-3 は,CPC のみを加えた場合の pH および一軸圧縮強さ qu と,CPC 以外にも微
生物と尿素を加えた場合の pH および qu に関して,これらの両差分をそれぞれ⊿pH,⊿qu とした時の両
図-1
養生日数と一軸圧縮強さの関係
図-2 養生日数と⊿pH の関係
図-3 ⊿pH と⊿qu の関係
者の関係を示している。同図より,⊿pH が 0.4 以下では顕著な qu の増加が認められないが,⊿pH が 0.4
以上では特に T3-1 の場合に pH の上昇に伴い qu が大きく増加するケースが見られた。
4.今後の課題
以上のように,東京湾沿岸域の微生物を利用した液状化対策工に関する本研究は,非常に新しい取り
組みである。また,固化材として CPC を用いる地盤の固化技術は,工学のみならず CPC の先行学問分野
である医学,歯学,理学,農学などで得られた知見を横断的に利用していることから,新規性,独創性
が高いと思われる。さらに,本手法は炭酸カルシウムを固化材とした既存の微生物機能による地盤固化
技術に対しても転用可能であり,ひいては地盤のみならず岩盤に対しても固化材の選択肢を増やすこと
につながるものと考えられ,有用性,将来性,発展性などがあると期待される。
一方,本研究では,ウレアーゼ活性を有する微生物の尿素分解によって生じるアンモニアを pH 上昇作
用の主要因として考えたが,固化処理した砂供試体の一軸圧縮強さと pH 上昇量との間に明瞭な相関関係
が見られなかったことから,pH 上昇の方法に関してさらなる工夫および改良が必要である。例えば,pH
上昇機能がもっと高い別の微生物の探索,尿素以外のアンモニア供給源の使用,地盤中から分離して増
殖させた微生物の再添加による固化試験,などを実施し,微生物がアンモニア供給源を効率的に分解す
る条件を見出すことが重要であり,今後の検討すべき課題である。
参考文献
1 ) 国 土 交 通 省 都 市 局 市 街 地 整 備 課 : 液 状 化 対 策 推 進 事 業 に つ い て ,
http://www.mlit.go.jp/common/000184390.pdf,2011.
2)Van Paassen, L. A.: Bio-mediate ground improvement: From laboratory experiment to pilot
application, Geo-Frontiers 2011, ASCE, pp.4099-4108, 2011.
3)Tung, M. S.: Calcium phosphates: structure, composition, solubility, and stability, in: Zahid,
A. (Eds.), Calcium phosphates in biological and industrial systems, Kluwer Academic Publishers,
Norwell, pp.1-19, 1998.
4)秋山 克,川﨑 了:リン酸カルシウム化合物を用いた新しい地盤注入材に関する基礎的研究―結
晶析出試験と砂供試体の一軸圧縮試験―,地盤工学ジャーナル,Vol.6,No.2,pp.341-350,2011.
5)山﨑浩之,前田健一,高橋邦夫,善 功企,林 健太郎,溶液型注入固化材による液状化対策工法
の開発,港湾技研資料,No.905,29p.,1998.
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