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5.平成17年度委員会評価結果 a.宇宙理学委員会(平成18年3月31

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5.平成17年度委員会評価結果 a.宇宙理学委員会(平成18年3月31
262
Ⅱ.研究活動
5.平成17年度委員会評価結果
概
要
宇宙科学研究本部では,年度の研究実績の評価をより透明性をもって実施するために,全国の宇宙科学研究者の
代表が参加する研究委員会による「委員会評価」を実施している.
宇宙科学プログラムの年度評価は大きく二つに分けられる.
(A)研究者の自主性を尊重した独創性の高い宇宙科学研究(研究系の所掌)
(B)衛星等の飛翔体を用いた宇宙科学プロジェクトの推進
(B)に関しては「年一回の委員会評価をすること」が中期計画に記載されている.ここで,
「委員会」とは,
それぞれのプロジェクトの性格により,宇宙理学委員会,宇宙工学委員会,宇宙環境利用科学委員会,のいずれか
である.
それぞれの委員会で,平成17年度の実績について各プロジェクトより成果報告を受けて,評価を行った.
以下に各プロジェクトの成果報告及び委員会での評価結果を記載する.
a.宇宙理学委員会(平成18年3月31日開催)
評価を行ったプロジェクト一覧
あけぼの,ジオテイル,はるか,はやぶさ,すざく,あかり(宇宙空間にあり運用中のもの)
LUNAR−A,SELENE,SOLAR−B,PLANET−C,BepiColombo(打ち上げを目指し開発中のもの)
「あけぼの」プロジェクト
プロジェクトの概要:
「あけぼの(EXOS−D)」は,1989年の打ち上げ以来,順調に科学観測を続けている.電磁場・波動・プラズマ・
放射線帯粒子などのデータを取得する9種の観測機器を搭載し,オーロラ現象等に関連する地球電離圏・磁気圏の
観測および放射線帯の観測を行っている.
運用状況の概要とプロジェクトの成果:
・
科学衛星「あけぼの」は,内之浦宇宙空間観測所にて運用・追跡・データ取得を行っている.内之浦宇宙空
間観測所での運用実績は,平成1
7年度の1年間で総計約4
50パスであった.また,平成1
8年1月から3月に
かけて,昭和南極基地上空において,データレコーダにプラズマ波動データを記録し,内之浦宇宙空間観測
所において再生するキャンペーン観測を行った.
・
スウェーデン宇宙公社と協力し,オーロラに特に関連した極域におけるデータを取得する目的で,エスレン
ジ局でのデータ取得を行った.平成1
7年度の1年間の実績は総計約6
70パスであった.取得したデータは
CD−ROM により保存して宇宙科学研究本部に送付し,SIRIUS(テレメデータのデータベース)に格納した.
・
「あけぼの」のデータの一部は,DARTS データベースによって国内外の研究者に提供されている.平成1
7
年度には,主に以下のような科学的成果があった.
・
東北大学を中心とする研究グループにより,オーロラ粒子加速に関連する沿磁力線電流と電磁流体波の関連
についての理解が進んだ(平成16年度からの継続)
.
・
名古屋大を中心とする研究グループにより,磁気嵐時,および回復期における内部磁気圏の相対論的電子の
Ⅱ.研究活動
263
解析が行われ,CRESS 衛星との同時観測データとの比較により,放射線帯の時間的発展についての理解が
進んだ.
(宇宙理学委員会における評価)
17年以上にわたり,順調に科学観測を続けており,成果も出し続けている.また,太陽活動の1周期を超える放
射線帯などの変動データは世界的にも価値が高い.平成17年度の実施結果は年度計画の目標を十分達成したものと
評価される.
「ジオテイル」プロジェクト
プロジェクトの概要:
1992年7月に打ち上げられたジオテイル衛星は,日米共同プロジェクトとして進められており,衛星搭載の磁
場,電場,プラズマ,波動,高エネルギー計測装置を用いて地球磁気圏周辺の宇宙空間で発生するプラズマ現象の
観測研究を行っている.
運用状況の概要とプロジェクトの成果:
打ち上げ後13年8ヶ月になる現在も衛星の状態は良好であり,7つの搭載科学観測機器は順調に観測を続けてい
る.これまで幾多の成果をあげ,宇宙プラズマ物理学の研究進展に大きく貢献したことは世界的に高く評価されて
いる.さらに最近では,宇宙天気予報等の観点から,ジオテイル衛星の観測は多衛星による国際共同観測の中で重
要な位置を占めている.米国側では NASA でのシニアレビューの結果,次回のレビューまでの運用延長が認めら
れた.
平成17年度には,磁気圏尾部領域をはじめとする地球周辺の宇宙空間に発生するプラズマ現象の解明を目指し,
国際協力による磁気圏多点観測網の中で役割を果たす為,以下のジオテイル衛星の運用を行った.
・
米国 NASA との協力関係の下に NASA DSN 局における24時間連続観測データの受信,国内局(内之浦宇宙
空間観測所,臼田宇宙空間観測所)において衛星運用・追跡完成,データ取得を行った.平成17年の1年間
の DSN 局での受信パス数は1
165パス(1262時間)であった.衛星に搭載されている観測機は順調であり,
地球磁気圏において磁場,電場,波動,プラズマ粒子,高エネルギー粒子の直接観測を続けている.
・
7年度に取得,較
米国 NASA/GSFC とデータ交換を行い,日米双方で取得されたデータを共有した.平成1
正された新規データについては作業が進行中であり,NASA/GSFC にて国際標準フォーマット(CDF 方式)
に変換され,平成18年6月頃までにデータ公開される予定である.
・
欧州 ESA の Cluster−II 衛星をはじめ,NASA WIND, POLAR, ACE 衛星などと共に国際共同観測計画を展開
し,磁気嵐や尾部における磁気リコネクション現象などについて共同研究を進めた.
米国 NASA/GSFC とデータ交換を行い,日米双方で取得されたデータを共有した.
・
平成17年度に取得,較正された新規データについては作業が進行中であり,NASA/GSFC にて国際標準
フォーマット(CDF 方式)に変換され,平成18年6月頃までにデータ公開される予定である.
・
欧州 ESA の Cluster−II 衛星をはじめ,NASA WIND, POLAR, ACE 衛星などと共に国際共同観測計画を展開
し,磁気嵐や尾部における磁気リコネクション現象などについて共同研究を進めた.
以上のように,平成17年度はジオテイル衛星の運用・データ処理は順調に行われ,着実に科学的な成果をあげて
いる.
(宇宙理学委員会における評価)
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4
Ⅱ.研究活動
13年以上の期間にわたり観測を行ってきており,宇宙プラズマ物理学の研究進展に大きく貢献した事は世界的に
高く評価されている.また,宇宙天気予報の前進にも大きな貢献をしている.平成17年度の実施結果は年度計画の
目標を十分達成したものと評価される.
「はるか」プロジェクト
プロジェクトの概要:
科学衛星「はるか」は1997年2月に工学実験衛星として打ち上げられ,スペース VLBI をおこなう基礎実験をお
こなった.同年より,鹿児島からの運用,世界の5局のトラッキング局による追尾,世界の多くの電波望遠鏡と3
局の相関処理センターとの協力の下に,スペース VLBI 観測をおこなってきた.NASA との5年間の協力契約によ
り2002年まで公開観測を実施し,超高空間分解能電波観測を実現,活動的銀河核でのジェット現象解明などの成果
をあげてきた.2003年からは,臼田トラッキング局と世界の数観測局とによるサーベイ観測に移行して,活動的銀
河核の統計的研究を続行してきた.本年度を限りとして衛星の運用終了とプロジェクトを終了する事が宇宙開発委
員会で認められた.論文は260以上出版されており,さらに特集号が予定されている.
運用状況の概要:
・
前年に引き続き,国際サーベイデータの解析をおこなった.また,科学データのアーカイブ作業をおこなっ
た.
・ 2005年11月に,衛星の運用を終了(停波),上記の作業を継続して,プロジェクト終了を年度末とした.
プロジェクトの成果:
・ 2003年10月までに,のべ700あまりの公募観測及びサーベイ観測を行った.このうち公募観測については観
測公募5回,約450の観測を実施することができた.
・
公募観測で取得したデータについては,一般研究者にオンライン公開すべく,データアーカイブ作成の作業
を開始した.
・
「はるか」は,特に比較的低周波数側でよく見える AGN(活動銀河核)のジェットで最高解像度の画像を
得ることに成功,まっすぐに伸びていると思われていたジェットの内部構造がより複雑な構造であることを
示すとともに,4年にわたるモニタ観測から,ジェットやジェットの吹き溜まりの動きを視覚的にとらえる
ことに成功した.また,ジェットの影を通して,AGN の周りにあるプラズマトーラスの電子密度などの物
理状態を明らかにした.さらに,サーベイ観測などにより多くの高輝度温度天体を確認した.
・
将来のスペース VLBI 計画を進める上で必要となる位相伝送,柔軟構造物の姿勢制御,展開アンテナ,軌道
決定などの工学的な技術を確認した.さらに,世界初のスペース VLBI ミッションとして,複雑な国際協力
でのミッションの運用方法を確立した.
・
サイエンス面でも次期 VLBI 衛星計画を進める上での重要な観測結果を得ることができた.
・
国際宇宙航行アカデミー(IAA)の2005年チーム栄誉賞を受賞した.
(宇宙理学委員会における評価)
「はるか」は199
7年2月に工学実験衛星として打ち上げられて以来,スペース VLBI を行うための基礎実験を積
みかさね,またスペース VLBI 観測を実施して大きな科学的成果も生んでおり,高い評価を得ているところであ
る.プロジェクト終了に当たり,行われた科学観測を高く評価する.
Ⅱ.研究活動
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「はやぶさ」プロジェクト
プロジェクトの概要:
将来の本格的なサンプルリターン型探査に必須となる重要な工学技術要素を開発し,工学実験ミッションとして
これらを実証する.具体的には,1)イオンエンジンを主たる推進機関とする惑星間の航行,2)光学情報を用い
た自律的な航法と誘導技術,3)微小重量環境下における小天体表面試料の採取技術,4)サンプルを封入したカ
プセルを惑星間軌道から直接に地球大気圏に突入させ地上回収すること,の4大技術を開発・実証する.20
03年5
月に打ち上げられており,2005年11月20日および11月26日の2回小惑星イトカワに着地した.
運用状況の概要:
・
先進的な惑星探査技術の実証を目的に,小惑星イトカワを目指していた第20号科学衛星「はやぶさ」は,平
成15年5月に打ち上げ以来,平成15年5月の地球スィングバイを経て順調に飛行を続け,世界初の光学複合
航法によりイトカワヘの接近を行い,平成17年9月イトカワに到着し,様々な科学観測を行った.
・
「はやぶさ」の11月19日から20日にかけての第1回目のイトカワヘの着陸と資料採取の試みでは,ターゲッ
トマーカのイトカワヘの投下と着陸には成功したが試料採取には至らなかった.この経験を反映した措置を
施したのち,25日から26日にかけて第2回目の着陸と試料採取を行った.25日午後10時頃(日本時間)に高
度約1km より降下を開始し,26日午前7時頃にイトカワヘの着陸に成功した.その後のイトカワからの上
昇は順調に行われ,電池の出力,探査機の姿勢等全て正常であった.
・
イトカワからの高度約5km に違したところで「はやぶさ」の上昇を停止する作業を行ったところ,何らか
の要因により姿勢に乱れが生じたため,セーフホールドモードに移行し,現在その復旧にあたっている.
プロジェクトの成果:
・
「はやぶさ」に搭載されたマイクロ波駆動の新型イオンエンジンの動作も順調で,幅広い流量域でのイオン
エンジン性能が確認された.この成果に対し,日本航空宇宙学会より,技術賞が授与された.
・
2回のイトカワ着陸前後に世界最高の解像度で小惑星表面の写真を取得するなど,小惑星の起源の研究に役
立つ様々なデータを取得することに成功し,これらの結果は米国の科学雑誌 Science のハヤブサ特集号に掲
載された.
(宇宙理学委員会における評価)
平成17年度の実施結果は年度計画の目標を十分達成したものと評価される.世界で初めての精細な小惑星表面の
画像取得に始まる一連の科学的成果は工学ミッションとしての「はやぶさ」の意義に加えて,科学的意義も十分高
かったと評価する.
「すざく」プロジェクト
プロジェクトの概要:
「すざく」は動的な視点から宇宙の構造形成やブラックホール周辺現象の理解を目指して,2005年7月10日打ち
上げられた.打上げ後は,国際公募観測等による観測準備を進めている.
運用状況の概要:
・
射場移動前最終試験,質量特性試験,フライトオペを行い7月1
0日に M−V6号機により所定の軌道に投入
された.
・
初期運用として,太陽電池パドル展開,X 線望遠鏡光学ベンチ展開,近地点上昇,姿勢制御系の立ち上げ,
266
Ⅱ.研究活動
観測系の立ち上げを行った.この間,精密 X 線分光器(XRS)は所定の6
0mK の極低温と7eV のエネルギー
分解能を軌道上で達成したが,8月8日に液体ヘリウムを消失し観測機能を停止した.
・
残る X 線 CCD カメラと硬 X 線検出器については立ち上げを無事に終了し,低バックグラウンドによる高感
度と優れたエネルギー分解能が確認された.
・
9月以降は,広帯域 X 線分光観測を主体とする試験観測を行い,観測装置の軌道上校正をすすめた.XRS
の不具合を受けて,すでに選定されていた第一回国際公募観測提案をキャンセルすることとし,新た広帯域
X 線分光観測を主体とする国際公募観測の準備を行った.2
005年11月から2005年3月までに,観測提案受
付,試験観測データの一部公開,ピアレビューによる観測天体の決定を行った.2006年4月1日より国際公
募観測を開始する.
(宇宙理学委員会における評価)
3つの観測装置のうち1つを失ったことは痛恨の極みである.しかし残る2つの観測装置で世界的にもトップク
ラスの観測を継続している.
高エネルギー天文学の発展に貢献しており,平成17年度の実施結果は年度計画の目標をほぼ達成したものと評価
される.
「あかり」プロジェクト
プロジェクトの概要:
「あかり」は,超流動液体ヘリウムと機械式冷凍機により冷却した口径70cm の望遠鏡を用いて赤外線天体のサー
ベイを行い,銀河,及び星・惑星系の形成と進化の過程を解明することを目的とする赤外線天文衛星であり,2006
年2月22日に打ち上げられた.「あかり」による天体のデータは,チーム内での研究に使用された後,赤外線天体
カタログとして,世界の研究者に公開される.
運用状況の概要:
・
平成17年12月に飛翔モデルの総合試験を終了し,衛星開発を完了した.また,12月末より射場において打上
げ準備作業を開始し,1月末に衛星としての打上げ準備を完了した.
・
平成18年2月22日に打上げを実施した.また初期運用として,姿勢制御系の確立,衛星推進系を用いた太陽
同期軌道への投入,赤外線観測装置の健全性チェックを計画通り実施した.
・
試験観測開始は,太陽センサが使用できない状況への対処のため,18年度初め(4月)とした.
・
欧州,韓国の共同研究者とともに,速やかなデータ処理を目指して,処理ソフトウェアの開発を実施した.
また打上げに先立ち,観測計画を決定した.
(宇宙理学委員会における評価)
打ち上げ前の総合試験を確実に行い,打ち上げ後も観測準備を整えており,平成17年度の実施結果は年度計画の
目標を十分に達成したものと評価される.
「LUNAR−A」プロジェクト
プロジェクトの概要:
ペネトレータという新しい手段を用いて月面に月震計,熱流量計などの計測装置を設置し,月の内部構造を探る
宇宙探査機「LUNAR−A」の飛翔モデルの開発と観測を行う.これにより,月の起源と進化に密接に関連した月の
Ⅱ.研究活動
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地震学的構造,熱的構造を理解するための情報が得られるほか,将来の月・惑星探査に貢献するペネトレータ技術
を実証する.本プロジェクトでは,月面貫入時の1万 G を超す衝撃に耐え得るペネトレータの開発等で困難に逢
着しており,平成17年度にはペネトレータ技術開発を主眼とした3年間にわたる新たな計画を立てた.
年度計画に対する実施結果:
・ 科学衛星 LUNAR−A 飛翔モデルを保管・維持するとともに,ペネトレータ開発上の課題に対する検討・開
発の見直しを行い,対策を講じた貫入試験モデルの製作を実施した.
・
平成16年度の評価結果を公表するとともに,宇宙開発委員会において審議の結果,当面ペネトレータ技術の
完成を図ることとし,その旨公表した.
(宇宙理学委員会における評価)
ペネトレータ技術開発を主眼とした3年間にわたる新たな計画を立て,平成17年度の目標は達成した.
「SELENE」プロジェクト
プロジェクトの概要:
月の元素・鉱物組成,地形・表層構造,環境,重力分布を月全域にわたり観測し,月の起源と進化の解明を目指
す.また,取得した観測データは,
「SELENE」以降の月探査計画の検討,月利用可能性の調査にも活用する.あ
わせて,月探査を体系的,継続的に進める上で必要となる基盤技術の開発を行う.
年度計画に対する実施結果:
・ 月探査機「SELENE」の飛翔モデルのシステム PFM 試験として,初期電気性能試験,電磁適合性試験を実
施し,所望の機能性能を満足することを確認した.
・
地上系設備の単体試験を実施し,各設備単体が所望の機能性能を満足することを確認した.
・
ロケットに関しては,初期飛行解析及び機体製作を実施している.
・
また,運用計画の検討,準備に着手するとともに,米国 NASA と DSN 支援に関するインタフェース調整を
実施した.
(宇宙理学委員会における評価)
平成17年度の実施結果は年度計画の目標を十分に達成したものと評価される.
「SOLAR−B」プロジェクト
プロジェクトの概要:
可視光望遠鏡,X 線望遠鏡及び極端紫外線撮像分光装置を組み合わせて,太陽大気の構造とダイナミックな磁気
活動,磁気リコネクション過程,コロナの成因,ダイナモ機構などの宇宙プラズマ物理学の基本的諸問題を解明す
る.日・米(NASA)・英(PPARC)が3つの望遠鏡の製作を分担,欧州(ESA)も極域ダウンリンク局を提供し
て衛星運用に参加する.
年度計画に対する実施結果:
・
衛星飛翔モデル,及び搭載各機器の製作を完了し,衛星のインテグレーション及び各種機能・性能の評価を
実施する総合試験を開始している.いくつかの機器で新たな不具合が見つかったが,そのつど対策・改修を
268
Ⅱ.研究活動
施しており,平成18年度夏期打上げのスケジュールを維持している.
(宇宙理学委員会における評価)
平成17年度の実施結果は年度計画の目標を十分に達成したものと評価される.
金星探査プロジェクト「PLANET−C」
プロジェクトの概要:
金星の雲の下に隠された気象現象を,最新の赤外線観測技術により金星周回軌道から観測する.これにより,地
球気象学の常識を超えた高速の大気循環「超回転」を始めとする金星大気力学のメカニズムを解明し,地球気候変
動理解の鍵となる惑星気象学の確立に資する.
年度計画に対する実施結果:
・
M−V ロケットで打上げ可能な重量4
80kg の金星探査機の構造・熱設計を昨年に引き続き行った.太陽に近
い金星周回軌道では熱入力が大きく,赤外線による観測を行う探査機にとって厳しい環境であるが,電力消
費の低減や排熱の工夫により実現の見通しを得た.また重量軽減のために衛星の小型化を検討した.
・
「はやぶさ」など既存の科学衛星での設計をベースに,新たに金星探査機に合わせた仕様検討や軽量化を行
い,その結果を衛星システムに反映した.
・
金星の大気を多波長にわたって観測する5台のカメラの詳細設計を行い,試作機での性能確認を開始した.
また,画像データを機上で処理する専用データ処理装置の仕様を固めた.テレメトリ・コマンドインタ
フェースについても詳細化した.
(宇宙理学委員会における評価)
平成17年度の実施結果は年度計画の目標を十分に達成したものと評価される.
水星探査プロジェクト「BepiColombo」
プロジェクトの概要:
欧州宇宙機関(ESA)との国際協力により,水星の磁場,磁気圏,内部,表層の多岐にわたる水星の謎の解明を
行う.MPO(Mercury Planetary Orbiter)と MMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)の2つの周回衛星から構成され
る.JAXA は MMO の衛星システムと国際公募により選定される MMO/MPO の観測装置を担当する.
年度計画に対する実施結果:
・
探査機予備設計(フェーズ B)開始を受け,定期的に設計会議の開催を開始した.また,衛星システム(基
本文書作成,品質保証計画,対 ESA モジュールインターフェース,MMO 探査機詳細仕様など)
,機械(分
離機構など),熱(熱数学モデル作成・解析など)
,電気(電源など),通信機器(通信用アンテナ・トラン
スポンダなど設計),推進系(熱検討など),データ処理系の詳細検討,設計および一部の試作を開始した.
・
平成16年度秋に国際公募によって決定された MMO の観測機器開発チーム,および同様に決定された MPO
の観測機器開発チームの中で,日本側からの参加がある機器の設計・試作・試験等を実施してきた.
・
BepiColombo 科学ワーキングチームの会合が ESTEC・京都で定期的に開かれるようになり,探査計画の立
案・実施に関わる全ての事象についてこの日欧研究者会合において議論,決定されるプロセスが開始され
た.
Ⅱ.研究活動
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(宇宙理学委員会における評価)
平成17年度の実施結果は年度計画の目標を十分に達成したものと評価される.
b.宇宙工学委員会(平成1
8年3月3
0日実施)
評価を行った項目一覧
・はやぶさ(宇宙空間にあり運用中のもの)
・INDEX(宇宙空間にあり運用中のもの)
・小型飛翔体を用いた宇宙科学プロジェクト
・さらに将来の宇宙科学研究プロジェクトに向けた先端研究
「はやぶさ」プロジェクト
プロジェクトの概要:
将来の本格的なサンプルリターン型探査に必須となる重要な工学技術要素を開発し,工学実験ミッションとして
これらを実証する.具体的には,1)イオンエンジンを主たる推進機関とする惑星間の航行,2)光学情報を用い
た自律的な航法と誘導技術,3)微小重量環境下における小天体表面試料の採取技術,4)サンプルを封入したカ
プセルを惑星間軌道から直接に地球大気圏に突入させ地上回収すること,の4大技術を開発・実証する.20
03年5
月に打ち上げられており,2004年5月に地球スウィングバイに成功した.この,5)イオンエンジン加速と地球ス
ウィングバイ併用の技法の実証も,「はやぶさ」計画での成果である.
運用状況の概要:
・「はやぶさ」は,2005年7月に太陽をはさんで向こう側にある状態(「合」)を無事通過し,2005年9月12日に,
目標天体である小惑星イトカワに到着,静止することに成功した.
・「はやぶさ」搭載のイオンエンジンは,2005年8月末までに,のべ26,
000時間・台の運転を達成し,同型のエン
ジンとしては,世界記録を樹立した.
・「はやぶさ」搭載のホイールは,3台のうち2台が,8,10月と相次いで故障した.ホイール内面のメタルライ
ナのはく離と考えられている.原因は調査中である.
・「はやぶさ」は,2005年,9,10月をかけて,距離,太陽角位置を変えて,イトカワ表面の種々の遠隔探査を実
施するとともに,重力場のモデル化,および形状のモデル化を実施した.
・「はやぶさ」は,2005年11月に,5回にわたり小惑星表面への降下を行った.前半3回は,主として,航法セン
サの機能確認と,誘導方法の確認のためのリハーサルで,後半の2回に,接地と試料採取を試みた.
・「はやぶさ」搭載のロボットランダ MINERVA は,第3回目に投下されたが,航法・誘導上の問題から,表面
への展開はできなかった.
・「はやぶさ」は,11月20日に,ミューゼスの海に,緩降下し,ターゲットマーカを展開して,ホバリング状態に
させることに成功した.その後,搭載の障害物検出センサがなんらかの反射光を検知したため,以降は地上から
の指令待ちとなり,2回の表面への接地(バウンド)と30分間にわたる着陸が行われた.接地時にまきあげられ
たと思われる表面の砂礫が試料採取装置で捕獲されている可能性があり,試料採取装置の蓋を閉じて,新たな第
2回目の試料採取に臨むこととした.
・「はやぶさ」は,11月26日に,再度ミューゼスの海に接地した.航法・誘導の機能は順調であった.搭載の姿勢
軌道制御装置が着地を検出して,試料採取装置に,弾丸の発射を指令することができた.しかしながら,発射回
270
Ⅱ.研究活動
路は,搭載ソフトの事後解析によれば,非発射側に切り替えられていた可能性が高く,試料は所定の方法では採
取できなかったと考えられている.第1回目の着地時に微量の試料が捕獲されたと考えられているところであ
る.
・「はやぶさ」は,11月26日の離陸後,正常に上昇速度を停止させるマヌーバが実施されたが,その後10分ほどを
経て,推進機関からの燃料の漏洩が発生し,姿勢の維持が困難になり,元弁を閉じセーフモード状態に置かれ
た.
・「はやぶさ」はその後,推進機関の再起動を試みたが,正常に復帰できず,11月28日と,12月8日に,新たな燃
料漏洩に起因すると思われる姿勢喪失が生じた.「はやぶさ」はその後7週間にわたり交信が途絶えていた
が,2006年1月下旬に再度通信が復旧した.
・「はやぶさ」は,この間に,化学推進機関の燃料を喪失してしまったもようで,1月以来,イオンエンジン駆動
用のキセノンガスを用いて,姿勢の立て直しを行った.運用はほぼ期待通りに行われ,現在は交信の維持と,姿
勢制御ができている状態にある.
・「はやぶさ」は,復旧後,アウトガスの排出のために,機体を高温におくベーキング運用を実施し,つづいて,
帰路で使用するイオンエンジンの機能確認のための運転試験を実施した.両運用とも正常で,2台のイオンエン
ジンの性能が確認されている.
プロジェクトの成果:
・「はやぶさ」は,世界で初めて,微速のランデブーに成功したことはもちろん,超遠距離にて探査機の位置と姿
勢を精密に測定・運用できることを証明し,正確に表面に降下・着陸できることを実証した.
「はやぶさ」は世
界で初めて,地球外天体に着陸後,再離陸した探査機である.
・「はやぶさ」の得た科学観測結果は,いずれも世界初の貴重なもので,初期成果は科学雑誌サイエンスの特集号
として刊行された.
今後の計画:
・「はやぶさ」は,搭載の機器の機能確認を徐々に進めており,2006年中に,ほぼ完了する見込みである.
・「はやぶさ」搭載の残キセノンガス量は,帰路の推進に十分である.2007年2月から,本格的なイオンエンジン
運転を開始する予定である.
(宇宙工学委員会における評価)
平成17年度の実施結果は年度計画の目標を十分達成したものと評価される.
「はやぶさ」は,将来の本格的なサンプルリターン型探査に必須となる重要な工学技術要素を開発し,工学実験
ミッションとしてこれらを実証する.今回実施した小惑星「イトカワ」へ微速のランデブーに成功し,超遠距離に
て探査機の位置と姿勢を精密に測定・運用できることを証明し,正確に表面に降下・着陸できることを実証した.
小型衛星「INDEX」
プロジェクトの概要:
先進的な小型衛星技術を用いた衛星を開発し,オーロラの微細な構造撮像と粒子計測により,オーロラのダイナ
ミクスを解明し,1)オーロラの微細構造とダイナミクスの解明,2)小型3軸衛星技術の習得,3)新規衛星技
術の実証,4)宇宙理工学の活性化を目的とする.
2005年8月にドニエプルロケットにより,バイコヌール基地より打ち上げられた.所定の目的を達成した.
Ⅱ.研究活動
271
年次計画:
平成14,15年度:衛星製作
平成16年度
:総合試験
平成17年度
:8月24日,ドニエプルロケットにてバイコヌール基地より打ち上げられた.観測運用を実施し
て,衛星機能は順調に推移し,すべての衛星の目的を達成した.特に,3分角の高い姿勢制御
機能を達成して,理学オーロラ観測を実施した.
小型飛翔体を用いた宇宙科学プロジェクト
プロジェクトの概要:
衛星や探査機に比べて機動的で迅速な飛翔実験機会の提供ができる長所を活かして,大気球,観測ロケット等小
型飛翔体等による年数回程度の打上げ機会を用いて,大気物理,地球物理,天文学などの観測研究を行い,併せて
飛翔手段の洗練及び飛翔機会を利用した機器の性能実証や飛翔体システム研究などの宇宙飛翔体に関する実験的工
学研究を行う.
年次計画:
平成15年度から平成19年度にかけて,大気球,観測ロケット等による観測研究,及び宇宙飛翔体に関する実験的
工学研究を実施する.
平成17年度の事業計画:
1.宇宙空間におけるアレイアンテナの構成実験を目的として観測ロケット S−310(1機)を打ち上げる.
2.高度約120km 付近の下部電離圏の高温度層生成メカニズムの解明に向けて観測ロケット S−310の製作を開始
する.
3.中緯度熱圏の高度1
00∼300km の領域における中性大気と電離大気の運動の直接観測と液晶チューナブル
フィルタを用いた積乱雲および海洋の超多波長撮影を目的として,観測ロケット S−520の製作を開始する.
4.大気球を用いて,地球物理,宇宙線,天文学などの観測研究を行うとともに,飛翔手段の洗練及び飛翔機会
を利用した機器の性能実証や飛翔体システムの研究などの宇宙飛翔体に関する実験的工学研究を行う.
以上の年次計画に基づき,平成17年度には,以下の実験を行った.
1.宇宙空間におけるアレイアンテナの構成実験を目的とした観測ロケット S−310−36号機の打上げによる実験
の実施
・
平成18年1月22日,S−310−36号機は内之浦実験場から予定通り打ち上げられ,宇宙空間におけるアレイ
アンテナの構成実験が実施された.
・
ロケットの飛翔及び実験機器の動作は正常で,高度117km で展開動作を開
始した.親機,子機の運動や制御の状態は正常で,計画通りに網展開が行われた.
・
飛行後の解析により,親機と子機を用いたアクティブ・フェイズド・アレイ・アンテナ実験も地上アンテ
ナで良好なデータが取得され,宇宙でアレイアンテナが構成されたことが確認され,実験は成功であっ
た.
2.観測ロケット S−310−37号機の製作開始
・
S−310−37号機は平成18年度打ち上げを目指して,ロケット本体と基本計器の一部の製作が実施された.
3.観測ロケット S−520−23号機の開発と製作開始
・
S−520−23号機は平成1
9年度打ち上げを目指して,モータケースおよびノーズコーン部の開発を行うとと
272
Ⅱ.研究活動
もに,ロケット本体の製作の一部を開始した.
4.三陸大気球観測所における,気球を用いた様々な観測や実験,及び気球の開発の実施
・ 三陸大気球観測所において第1次(平成18年5月∼6月),第2次(平成17年8月∼9月)にわたり気球
による5機の観測と,1機の飛翔性能試験を行った.
・
気球の飛翔はすべて正常で,科学観測を行った5機の気球実験では,実施した観測や実験においてすべて
良好なデータを取得することができた.
・
スーパープレッシャー気球(容積560m3)の飛翔性能試験を行い,製造技術の確立がはかられた.
さらに将来の宇宙科学研究プロジェクトに向けた先端研究
標記については2005年度宇宙工学分野において選定された以下の研究テーマにつき,2006年3月30日開催の宇宙
工学委員会において研究者が発表を行い,当日出席の委員(24名)全員が評価を行った.評価は,①研究成果,将
来への発展性,所要経費及びそれらを総合した結果を夫々5点満点で採点する(5:極めて優れている,4:優れ
ている,3:普通,2:劣っている,1:極めて劣っている)方式で行った.以下に各研究成果概要と総合評価点
の平均点(各委員の評価点の総和を委員数で除した値)を記す.結果的には各研究テーマはいずれも3点以上であ
り,期待した成果が得られていると判定された.
1.衛星・探査機分野
1−1.ソーラー電力セイルの研究(総合評価点:4.
41)
ソーラーセイル計画は,2010年代の早期の実現を目指して,長期間にわたり,科学本部内の工学委員会下のワー
キンググル−プにて,検討を継続してきた.同計画は,将来の外惑星探査において核となる革新的な技術の開発と
実証を目的とし,大型の膜構造物を展開する技術を用いて,光子および高性能イオンエンジンを併用した推進機関
による軌道操作と,太陽光エネルギーによる動力の確保などの工学実験を行うものである.
2005年度には,ソーラーセイル WG は,発足から5年目をむかえ,2回の WG 会合と研究会を開催した.2005
年9月には,2003,2004年度に引き続き,改訂された実証計画案を,第25号科学衛星計画として,科学研究本部内
の評価委員会に提案した.本年度の提案では,軌道計画・シナリオが,2011,2012年,ないしはそれ以降での打ち
上げ案として変更・改訂され,同評価委員会に提出されたところである.同提案は,工学系の評価委員会にて,そ
の意義と妥当性が確認された後,2006年1月の科学本部内企画調整委員会に諮られたが,第25号科学衛星候補とし
ての選抜にはいたらなかった.なお1年間をかけて,検討を継続し,早期の実現を目指す方針である.
膜面展開技術は,非原子力の電力確保手段としての薄膜電池の展開という観点と,光子推進を併用する観点か
ら,実証ミッションに欠くことのできない要素であり,併用する超高比推力イオンエンジンは,太陽系大航海時代
に欠くべからざる技術要素でもある.次世代に外惑星系探査に必要な宇宙船を先駆けるものである.セイル WG
活動では,観測ロケットと大気球による膜構造物展開実験を準備し,とくに2004年8月,S−310−34号機によりロ
ケット実験において,クローバ型セイルの展開実験に成功したところである.大気球を用いる実験について
は,2004年の実験においては,気球システム上の問題から,飛揚にいたらず不首尾に終わり,2005年5月に再実験
を実施したが,気球飛揚時に気球側機器が脱落・懸垂される不具合が生じ,本実験としては,機器動作や指令系の
機能確認までしか実施できなかった.2006年度に再実験を行う予定である.扇子状セイルの展開については,さき
の観測ロケット実験では,中途で展開が停止する不具合があり,2006年1月の M−V−8号機のサブペイロードを利
用した再実験が実施された.観測ロケット実験では,瞬間的な展張が行われたのに対し,同実験では,機構系を介
した準静的な伸展機構を導入した挑戦が行われたが,伸長された膜面は,予定の約1/3までで停止した.目下,
原因を究明中である.
個別技術検討としては,2003,2004年度と,戦略的開発経費を投じて,種々の新規技術の開発を行ってきた.そ
れらは,ドラム構造,集電機構の具体化と試作,25micron x30m 薄膜太陽電池への輻射冷却コーティング試作,15
Ⅱ.研究活動
273
kV での高比推力イオンエンジンの運転開始,2kW 級15kV 電源の部分試作,電力系統合型の低温2液推進機関に
むけての新型混合燃料の調査と燃焼・着火性試験,燃料電池としての改質器,希薄燃焼器つきの改質器の検討と発
電試験,水素/酸素燃焼器によるエントリプローブの高加熱率材料試験,多段膜構造物によるエロブレーキングの
可能性検討,インテリジェントインタセプタの検討などである.
2006年度には,大気球実験を再度試み,直径20m 級の膜面展開実験を行うほか,M−V−7号機のサブペイロード
として,薄膜太陽電池を電源とした,小型衛星を放出し,膜面の遠心力展張や,電池の冷却特性試験を実施する予
定である.
2.先進的理工学実験分野
2−1.先進的推進系の研究(総合評価点:3.
63)
(研究の目的)
低公害性・安全性・簡便性・貯蔵性・低コスト性・高信頼性・高性能・発展性など,将来の宇宙開発の要求に応
える先進的推進系(高性能・低公害固体ロケット,他)を開発する.
(完成した場合の効果)
高性能で環境にやさしく,またロケットノズルの焼損特性に優れる新たな固体ロケットを始め,上記特性に優れ
る新たな方式の化学推進ロケットの構成が明確となり,地上燃焼試験により技術実証される.その結果,現在の観
測ロケット(S−5
20,S−310等)のための新型ロケットモータの基盤技術が確立することができる.さらに,観測
ロケットに適用され,実績を積むことにより,より大型のロケットへの応用への視野が拓けるものと考えられる.
(研究の成果)
1)高性能低公害固体推進薬の研究
H17年度では,16年度の結果を踏まえ,Mg/Al 推進薬の実用化に向けた BP−202J との比較検討を実施した.
試験としては TM80燃焼試験による燃焼速度検定,TM−110モータによる性能(Isp)検定,振動燃焼特性およ
び侵食燃焼特性の比較検討を行った.さらに,機械物性マスターカーブの取得,ピール試験によるインシュ
レーション材との接着特性評価を行い,TM−500クラスの地燃に供する上で必要となる諸特性を評価した.検
討の結果,物性は BP−202J に対してほぼ同等の評価.推進性能においては Isp の向上が確認され(+1.
0s),
ノズルスロートの損耗特性も改善された結果を得た.特にこの特性は大型モータとした場合においては性能に
影響を及ぼす要因であるため,その効果のほどが期待される.Al の燃焼効率を AP の粒度配合の工夫とは別
の方法によって解決しているので,低公害化については,将来的にこの特性を応用して,別の合金や,新たな
酸化剤適用の方向性を模索する方針である.
2)N2O/エタノール液体ロケットの研究
0℃)
改良型噴射器/SFRP 燃焼器を試作し,燃焼実験を実施した.供試体は,高密度 N2O を低温条件(−8
にて使用し,燃焼圧力は1.
5∼2.
6MPa とした.推力レベルは約7
00N である.成果として,改良型噴射器の機
能を確認し,SFRP 製燃焼器の適合性を実証することができた.
N2O を触媒を用いて分解する方式を利用した点火器の試作試験を実施した.供試体は,セラミックライナ入
りの金属分解室で,ニクロムワイヤ式の電熱ヒータを有している.成果として,分解起動特性を取得し,エタ
ノール付加型ニ液点火器の実証に成功した.
2−2.太陽発電衛星の研究(総合評価点:3.
65)
(研究の目的)
太陽発電衛星は現代社会の最大の課題である地球環境問題・エネルギー資源問題を解決するための新エネルギー
システムとして,核融合と並び大きな可能性を持っている.本研究では,この太陽発電衛星システムの中で最も重
要な技術課題,(1)軌道上での発送電一体型大型パネルの展開と姿勢・形状維持,
(2)発送電一体型パネルからの
274
Ⅱ.研究活動
マイクロ波ビームの放射とその方向制御,について専門の研究者が自ら手を下して開拓的・先端的研究を行うこと
によりその基本技術を確立する.
(完成した場合の効果)
本研究により100kW クラスの太陽発電衛星の軌道上実証プロジェクトに着手可能な理工学的基盤を確立でき
る.
(本年度の成果)
アクチュエータとして形状記憶合金,ラッチ機構として磁石を用いた32枚パネル構成の二次元展開試験用パネル
(展開時サイズ1m 四方)を試作し,重力の影響を低減するための多点吊り紐支持具を用いて展開試験を行い良
好な結果を得た.発送電一体型パネルからのマイクロ波ビームの放射とその方向制御については,発電と送電の両
機能を持つモジュールパネル(部品は全て民生品)を製作して試験を行うとともに,ミキシング機能を持たせたレ
トロディレクティブ回路,大出力マイクロ波二段増幅回路,4ビットの移相器の設計と試作試験を行って要素技術
を確立した.これらの主要課題の研究と並行して実施した太陽発電衛星のシステム研究では,自在に拡張可能なバ
ス分離型テザー SPS を新たに考案しその姿勢及び構築シナリオの検討を進めるとともに,軌道間輸送機で静止軌
道に建築資材を運ぶための電気推進システムの検討,太陽電池パネルやアンテナなどの薄膜構造物へのデブリ衝突
に関する実験的研究,高電圧を使用する場合の太陽電池パネルと宇宙空間プラズマの相互作用の研究を行った.こ
れらにより5年計画で実施している研究計画の第3年度分を全て完遂した.
2−3.磁気プラズマセイルの研究(総合評価点:4.
12)
磁気プラズマセイルは,探査機周辺に巨大な磁気プラズマ帆を生成し,これと太陽風の相互作用により探査機の
推進力を得ようとする推進システムである.従来より,直径1
00km 程度の巨大電磁石により巨大なダイポール磁
場を発生させ,太陽風プラズマにより発生する誘導磁場とダイポール磁場の相互作用から推進力を得ようとする磁
気セイルのアイデアは存在していたが,その巨大さゆえ実現が困難とされてきた.近年,ワシントン大学の研究グ
ループにより,高ベータプラズマ噴射により探査機周りの小規模ダイポール磁場を展開して巨大磁場を形成する
(磁場インフレーション)という概念が提案され,太陽風を利用した推進システムが再び脚光を浴びている.本研
究では,磁気セイルをプラズマ源と同時に運用して推進効率を高める磁気プラズマセイル(Magneto Plasma Sail)
の実現を目指して研究を進めてきており,平成17年度に次のような成果が得られている.
1)電磁流体シミュレーションならびにプラズマ粒子シミュレーションによって,磁気セイルの推力発生メカニ
ズムを解明した.また,磁気圏直径が数 km の小型磁気セイルの実現可能性を示した(従来から提唱されてい
る磁気セイルでは,磁気圏直径数百 km の宇宙機コイルが必要であった)
.この小型磁気セイルのサブスケー
ル地上実験を実施している.
2)電磁流体シミュレーションによって,宇宙機の磁場をプラズマ噴射によって効率的に展開する方法を検討し
た.プラズマ噴射方法を工夫することで1
00mN/kW を超える大きな推力/電力比を実現できる可能性があ
り,太陽系内外の探査を短期間に実現する推進システムとして有望である.今後は磁気プラズマセイル全系の
大規模プラズマ解析を進めると共に,磁気プラズマセイルを実現するための技術要素の開発を行う.
2−4.展開型柔構造による大気突入飛行体の開発(総合評価点:3.
69)
(研究の目的,完成時の効果)
近年,惑星大気突入システムや回収システムの開発が必要となっている.これらのシステムに共通した技術のポ
イントは大気突入時の空力加熱を避ける手段にあり,従来は,その一手段として耐熱構造が用いられている.しか
しながら,耐熱構造重量が全体重量に占める割合は無視できず,何らかの方策が必要であった.その方策として,
加熱そのものを低減して,必要な耐熱構造重量を低減する手法があり,具体的には,弾道係数を低減することで達
成可能である.この研究では,弾道係数を低減するための方策として,軽量で収納性がよい展開型柔構造のエアロ
Ⅱ.研究活動
275
シェルを開発する.即ち,大気突入前に大面積の柔構造エアロシェルを展開し,機体の弾道係数を下げ,空力加熱
が大幅に低減させることにより,熱防御構造にかかる負担を減らすことを可能とする.
このような機体の開発を行うため,以前から行われてきた基礎研究をもとに,実証研究まで進め,さらに,この
種の機体を利用したシステムの概念検討を行う.
(研究の成果)
研究方針に沿って2004年度に実施された飛行実験(大気球を利用した落下試験)では,展開型柔構造の飛行体の
飛行成立性を確認している.この飛翔試験では,展開が終了した最終飛行形態のみでの実験となっているため,本
年度は,柔軟構造の展開のプロセスをも包含した飛翔実験を目指して,さらに確実な展開機構の開発を進めると同
時に,次の飛翔実験の準備を進めた.より確実な展開機構について,いくつかの案をベースにして,構造モデルを
作成して試験を行い,妥当な機構を開発している.また,それを用いた次の飛翔試験の準備として,データ処理部
などの開発を行った.さらに,観測ロケットを用いた,実環境での飛翔実験の構想について検討し,提案書を取り
纏めた.
2−5.超軽量アブレータ(総合評価点:3.
71)
(研究の目的)
これまで「はやぶさカプセル」のヒートシールドに代表されるように高加熱率対応のアブレータが開発されてき
たが,対重量比という観点から見た場合,必ずしも高性能とはいえない.本研究は,最終的には密度0.
4以下の超
軽量のアブレータを研究開発し,再突入,突入ミッションにおける利用の選択肢を拡大することを目的とする.
(完成した場合の効果)
突入,再突入飛翔体に用いることで,飛翔体の熱防御システム重量が軽減される.具体的かつ近い将来のター
ゲットとして,PROGRESS 回収カプセルや,ソーラーセールの突入カプセルの耐熱材への利用を考えている.
(研究の成果)
本研究テーマは,ミッションの即戦力になるという観点から技術的には比較的保守的な軽量アブレータ(密度
0.
4∼0.
8程度)と,革新的な超軽量アブレータ(密度0.
4以下)の開発研究を併行し,配合する繊維,樹脂,軽量
体の配合比を変えつつ製作した.密度0.
4以下の超軽量アブレータに関しては,繊維方向の比較的そろった繊維母
材を選定し,真空中発泡による特殊な樹脂含侵方法をとり,超軽量化をねらった.樹脂の粘性や,表面張力との関
係の重要性に関するデータが取得された.
2−6.月惑星表面探査技術の研究(総合評価点:3.
83)
2−6−1.着陸レーダの研究開発
(研究の目的)
比較的重力の大きな月・惑星表面に高精度に着陸する際に必須となる探査機搭載用マイクロ波高度速度計,すな
わち着陸レーダを開発する.
(完成した場合の効果)
月惑星探査機においては,周回軌道上からのリモートセンシング観測のみでは得られる情報に限界があり,着陸
して天体表面を詳細に探査する意義は大きい.我が国においては,MUSES−C 探査機において,重力の非常に小さ
い小惑星へ着陸する技術として,画像センサとレーザ高度計を使用した方式を開発した.しかしながら,月や火星
などの重力の大きな天体への着陸には時間スケールの速い応答が必要であり,速度計の搭載が必須であるが,その
技術は有していない.一方,米国,ロシアは,月あるいは火星への着陸の実績があるが(失敗も多い)
,安全な着
陸を実現するレベルであり,探査したい地点へのピンポイント着陸の技術は有していない.
276
Ⅱ.研究活動
こうした状況の中で,本研究は将来の月惑星表面への高精度着陸に欠かせない根幹技術である着陸レーダを開発
するものであり,惑星科学の発展に大きく貢献するとともに,日本の技術力を諸外国に示すことになる.
(研究の成果)
4.
3GHz のマイクロ波を用いたパルス方式のレーダの BBM を試作して試験している.試作したレーダは速度測
定のために鉛直方向から30°傾斜したビームを前後2ビーム持ち,高度測定のために鉛直方向に1ビームを持ち,
前後方向の速度及び高度を同時に測定する機能を持っている.
試作したレーダを航空機に搭載してフィールド試験を実施し,2005年度までに高度測定精度5%以下,速度測定
精度5%以下のシステム要求を満たしている.本研究により,高度及び速度測定アルゴリズムを確立し,かつ,レー
ダ性能評価方法についても確立した.特に速度測定アルゴリズムに関しては,パルス内の複数のポイントのドップ
ラー周波数から速度を推定する独自の手法(複数点サンプル方式)を開発し,現在特許出願の手続き中である.
今後は,前後に加えて左右の速度も測定できるようアンテナを改修,実際の着陸機の運動に近い飛行形態での性
能評価,複数点サンプル方式を BBM に実装しての試験,着陸シーケンスを考慮した機能実装が課題となる.
2−6−2.小型月惑星着陸機の研究
(研究の目的)
JAXA では月着陸ミッションが検討されているが,着陸技術の開発・実証には地上試験だけでは不十分で,航法
センサなどの試験を実際の月面に対して実施することが重要である.このような試験を行うための着陸実験機が,
どこまで小型,低コストで実現できるかの検討を行い,そのために必要な新規技術の開発研究を行う.
(完成した場合の効果)
十分に小型・低コストの探査機で有効な実験ができるのであれば,大型月着陸探査ミッションに先行して,着陸
実験を行うことが可能である.また,小型ペイロードを月面まで輸送する手段として,あるいは他の惑星探査機に
搭載する小型着陸機としての使用可能性もあり,月惑星探査に対する敷居を下げる有効な手段となる.
(研究の成果)
H16年度までの検討で,GTO 換算重量2
00∼300kg 程度の小型探査機で月面に準軟着陸させることは可能との見
通しを得ていたので,H17年度は各要素技術の検討を深めた.各搭載機器の調達性検討,画像圧縮率と伝送レート
検討,小型推薬タンク用気液分離膜の開発・試験などを行い,総重量260kg 程度で航法センサの実験を行う探査機
が製作可能との見通しを得た.
2−6−3.表面移動探査技術の研究開発
(研究の目的)
太陽系の起源と進化の解明のため,月惑星表面の直接探査が強く求められている.そのため,月惑星表面を自由
に移動して「観たいところを観る」表面移動探査技術が必要である.そこで,月惑星表面の広範囲において,サン
プル採取やその場分析を行う移動型探査ロボットの開発研究を行う.
(完成した場合の効果)
移動型探査ロボットは,NASA が先行しているが,クレータや崖など科学者が探査したい場所を効率的に観測す
るシステムにはなっていない.小型軽量で自律探査できる移動型探査ロボットが開発されれば,大きな科学的成果
が期待される.また深宇宙探査への新しい探査方法を確立できる.さらに,月面拠点や有人探査など将来のミッ
ションへ支援が可能となる.
要素技術として,超音波振動による駆動アクチュエータの宇宙仕様化を行っている.これが実現できれば,小型
軽量低消費電力なシステムを構築でき,多様なロボットシステムの構築,コストの低減,打上機会の増加,複数搭
Ⅱ.研究活動
277
載による探査の質的向上が期待できる.また,従来のアクチュエータに比べ,小型軽量だけではなく,保持トルク
を有しているため,無電力での姿勢保持が可能である.そのため,サンプル採取装置だけではなく,伸展物の展開・
収納やアンテナ・カメラなどのジンバル機構など宇宙ミッションへの応用が期待される.
(研究の成果)
平成17年度は,前年度の結果を受け,超音波アクチュエータに用いている摩擦材の改良を行い,熱真空試験にお
いて高温(100degC)でも良好な性能が得られた.また低温試験を実施し,低温(−2
00degC)24時間においても
性能の劣化が見られず,温度環境に対し,良好な結果が得られた.
月惑星表面を移動する際の車輪の特性について評価を行った.ラグ付き車輪とレゴリス(細かい砂)との相互作
用についてモデルを構築し,シミュレーションと実験検討により,モデルの妥当性を評価し,有効性を確認した.
サンプル採取用マニピュレータを用いて,自律的にサンプルを採取する手法を検討した.また,カメラ画像を用
いて地図を生成し,障害物回避経路の生成を行った.
2−7.金星探査プローブの研究(総合評価点:3.
40)
(研究の目的)
金星は,地表面温度7
40K,地表面圧力9
0気圧であり,高度4
7km∼70km には硫酸性の雲が浮遊する過酷な環境
をもつ惑星である.この金星に惑星間遷移軌道から直接に小型カプセルをエントリーさせ,熱交換型水蒸気圧膨張
気球を放出し,その後,高度35km(大気温度約200℃)にて定常浮遊する気球により2週間に渡る大気観測を行う
というミッションを具体的に想定し,技術課題を明確化し,関連する基礎研究を行う.
(完成した場合の効果)
研究過程において獲得された知見,技術成果は,一般的に将来の惑星探査技術のベクトルに一致するといえ,将
来の発展性も大きいと考えられる.関連の基礎研究成果を深化させ,より高められたシステム案に基づいた具体的
な実証計画の提案を行なっていく.
(研究の成果)
カプセルの金星突入時の空力加熱予測コードの検証や,耐熱材料試験を行なうため,高温 CO2気流を発生する誘
導加熱ヒータが開発され,排気系,計測系の整備が進み,その性能特性,作動エンベロープ,気流の分光データが
取得された.
気球膜として種々のものを試作しガスバリア特性等を取得したが,表面にニッケル・ルテニウムメッキを施した
ベクトラを用い,内部に高吸水ポリマーを配して多層構造としたものの良好な性能が示された.熱交換を考慮した
気球の膨張までの数値シミュレーション及び気球膜熱伝導実験を行い,気球フィルム内の吸水層への熱伝達率の気
球膜膨張に与える影響に関して定量的な知見が得られた.ミッションを実現する際にキーとなる高温エレクトロニ
クスに関連して,SOI 半導体素子に加え,さらに高温まで耐性がある GaN の研究開発が進んだ.今後,より具体
的な機能を想定して,デバイスを調査・設計していく予定である.また,科学観測を行なう上での重要な,プロー
ブの位置決定システムとしての狭帯域 ∆VLBI に関しては,「はやぶさ」での実験データに基づく教訓を取り入れて
検討が進んだ.
2−8.張力部材宇宙構造要素の力学特性(総合評価点:3.
62)
(研究の目的)
張力部材を主体に構成された構造物はそれらの部材に張力が加わらないと安定化せず,また作用する張力のレベ
ルにより,静的,あるいは展開特性を含む動的な力学特性が大きく変化する.本研究では,下記の2項目の検討を
行い,理論および実験の両面から,それらの特性を明らかにしようとしたものである.
(1)膜面の運動における多粒子系数学モデルの精度検討:アクリル製の真空槽内に設置した矩形膜面の上端を水
278
Ⅱ.研究活動
平面内に運動させて,その応答を計測し,多粒子系数学モデルによるシミュレーション結果との比較を行う.
(2)ソーラーセイルを模擬した円形(六角形)膜面の展開挙動の検討:スピンテーブルを使用した展開試験と真
空槽内での展開試験とを行い,多粒子系数学モデルによるシミュレーション結果と比較する.
(完成した場合の効果)
ソーラーセイル,太陽電池ブランケットアレイ,膜面アンテナ,そしてテザーなどの将来の衛星やそれらを包括
する宇宙構造物では,軽量化や高い収納性が強く要求される.そのために膜面やケーブルなどの張力部材の積極的
な利用が考えられている.本研究により将来の本格的な宇宙構造物の実現に資するさまざまな力学特性の解明への
アプローチが可能となる.
(研究の成果)
膜面の運動における多粒子系数学モデルの精度検討では,実験結果とシミュレーション結果とは比較的よく一致
することを示した.また,分割が十分に細かくない場合には,数値モデルの仮定による面外の飛び移り現象が生じ
る場合があること,また実験では微小とはいえ空気力の影響により特に自由境界周辺ではシミュレーション結果と
異なる挙動を示す場合もあることを明らかにした.ソーラーセイルを模擬した円形(六角形)膜面の展開挙動の検
討では,多粒子系数学モデルによりそれらの検討が可能であることを示した.また,真空槽内での実験結果が多粒
子系数学モデルによるシミュレーション結果と比較的良い一致を示していること,スピンテーブルによる実験結果
が空気力により大きく影響される可能性があることを明らかにした.
2−9.粉体推進の研究(総合評価点:3.
57)
(研究の目的)
液体や気体を推進剤とするスラスタは高性能であるが,無重力環境で燃料を移送するために高圧ガスを用いてお
り,これに抗して駆動するバルブには多大な負担が常時加わり,故障例に枚挙の暇がない.粉体は,物質相は固体
であり,相変化を起こす液体や気体と比べ温度管理の許容範囲が広い.高圧を用いなくても高密度貯蔵が実現でき
る.固体推進剤の最大の問題点は「作動の断続」であるが,粉体を静電気や磁力を用いて,小口で供給する方式は
ブレークスルーとなる.加速方式には,レーザーアブレーション・放電アブレーション・電磁加速・静電加速,さ
らに粉体に化学燃焼性の物質を用いてレーザーや放電で着火維持する方式も考えられる.この技術を具現化するた
めの技術開発を実施する.
(完成した場合の効果)
地球周回にて小型衛星を応用する機運が高まっている.姿勢制御には磁気トルカを用いるのが一般的であるが,
回転力だけでなく並進力も発生できる推進器が期待される.一方,深宇宙輸送技術が確保されると,磁場のない宇
宙空間や惑星(金星や火星)に投入する小型プローブの有用性が着目され,姿勢制御に小型推進器が必須となる.
粉体推進は,加圧システムを用いないので,小型衛星やプローブには最適な小型軽量で,推進剤の取り扱い性の良
好な機器を提供できる.海外の深宇宙母船へのピギー搭載を可能にして,宇宙探査の多様性を促進する.
(研究の成果)
粉体を,基盤に静電吸着させる装置を試作し,各種材料に関して試験を実施し,基礎データ収集をおこなった.
2−10.宇宙探査エレクトロニクスの研究(総合評価点:3.
81)
2−10−1.部品系
1)部分空乏型 SOI−IC の耐放射線性強化に関する検討
(研究目的)
シングルイベントアップセット耐性に優れる“完全空乏型 SOI”技術と,トータルドーズ耐性に優れる“部分空
Ⅱ.研究活動
279
乏型 SOI”技術の両者の利点を備えた,“次世代 SOI”技術を用いて,評価 IC チップを試作・評価して,その放射
線耐性を確認する.
(完成した場合の効果)
天文衛星等に搭載可能な,完全空乏型 SOI 技術による宇宙用 LSI の開発は実用段階にきているが,それに加え
て,100krad 以上のトータルドーズを受ける深宇宙探査機にも搭載可能な宇宙用 LSI の開発につながる次世代 SOI
技術を獲得できる.
(研究の成果)
トータルドーズ耐性に優れる部分空乏型 SOI プロセスを用いて,回路上の工夫を加えた評価 IC チップ(2k ビッ
トのシフトレジスター)を試作した.まず,試作した評価チップが正常に動作することを確認した.次に,試作し
た評価チップに対して重イオン照射試験を行い,耐放射線性(シングルイベントアップセット耐性)を評価した.
その耐性は,宇宙用 LSI に要求される耐性(LETTH=30MeV/(mg/cm2))を大きく上回るもの(LETTH=47MeV/(mg
/cm2))であった.これにより,次世代型 SOI 技術を適用することで,深宇宙探査機に搭載可能な放射線耐性を有
する宇宙用 LSI を開発できる目処を得た
2)多層マイクロ接続基板の研究
(研究目的)
マイクロマシン加工技術を利用して,多層マイクロ接続基板技術を確立する.
(完成した場合の効果)
将来の観測衛星搭載センサーにおいて,センサーアレイの小型化および多チャンネル化が求められている.この
課題を解決するためには,2次元アレイへの信号線や制御線,電力線などを2次元的に配置する技術が必要であ
る.マイクロマシン技術を利用したマイクロスルーホール加工技術と常温接合技術を確立することにより,この2
次元実装技術である多層マイクロ接続基板技術が完成する.
(研究の成果)
厚さ200μm の Si 基板に Φ50 X 200μm のマイクロスルーホールを Deep RIE(Reactive Ion Etching)技術を用い
て形成した.次に,このマイクロスルーホール内壁に,通常の CVD(chemical vapor deposition)によりシリコン酸
化膜を,続いてユニークな MCR−CVD(metal chloride reduction chemical vapor deposition)技術を用いて Ta 薄膜を
堆積した.このようにして形成した2枚の Si 基板の開口部に Al パッドを形成した後,常温接合技術により Al パッ
ド同士を接合して,2層マイクロ接続基板を作製した.評価の結果,良好な配線の導通性および配線間の絶縁性が
得られて,多層マイクロ接続基板加工の実現性を確認できた.
2−10−2.電源系
1)SSR−PPT 方式による電力管理手法の検証
(研究の目的)
PLANET−C や MMO 等の将来衛星における太陽電池により発電される電力の制御手法の検討を進めた.
(完成した場合の効果)
内惑星に向かう衛星/探査機においては,地球近傍での電力マネージメントと,目的地における電力マネージメ
ントの両方においてメリットを有する制御手法を習得することが重要となる.その上で,ミッションからの要求に
従い,制御ノイズの低減等を含む制御の最適化を進める必要がある.本研究によりレギュレータにより発生電力の
管理を行いつつ必要に応じて発生電力をピークパワーまで活用可能な制御を行うことにより,電源系の質量軽減/
280
Ⅱ.研究活動
小型化/高効率化に寄与する.
(研究の成果)
昨年度には,
「はやぶさ」において試作されたシリーズ・スウィッチング・レギュレータ(SSR)の EM 品を改
修することにより,太陽電池のピークパワーまで制御上電力を引き出すことのできる SSR を製作した.本年度は,
更にこの SSR に対して回路の改修をはかり,低ノイズ化を図る試作・試験を実施し,設計コンセプトの妥当性を
検証した.
2)リチウム電池の安全性評価
(研究の目的)
並列接続の電池の運用における問題点の抽出を行う.
(完成した場合の効果)
中小型のリチウムイオン二次電池を並列に接続し,擬似的に大容量のバッテリとして使用することができる.小
型のバッテリを複数台並列に使用する場合には制御系をバッテリの並列数だけ用意する必要があるが,本手法にお
いては制御系を統合することができることから,電源系としての質量軽減が図られる.また,電池内部でのセル単
位での不具合に対して,ロバスト性を向上させる可能性がある.
(研究の成果)
大型化する衛星バスの要求に対して,電力を蓄積/供給するためのバッテリにおいては,これまで電池の大型化
あるいは組み電池(バッテリ)の並列接続により対応をしてきている.バッテリを並列に接続する場合には,制御
系統をそれぞれに付随させる必要があり,質量の増加を招く.また大型の電池においては,電池内部での熱バラン
ス等により電池の性能劣化を誘発する怖れがある.これらの背景から,電池単体(セル)としては小型のものを使
用し,これを並列接続した上でバッテリに組む手法があるが,比較的容量が大きいリチウムイオン二次電池のよう
な低インピーダンスの電池を並列に接続し,セル間にバランスのずれが生じた際にどのような制御が適切であるか
は評価が必要である.
今年度は,本検討のためにセルおよびバッテリの製作を実施し,初期性能についての確認を実施した.この中で
は意図的に劣化を促進するセルを組み込んだバッテリおよびオープン故障を模擬した要素を組み込んだバッテリ等
を製作し,これらの劣化/不具合等がバッテリを構成する他のセルにどのような影響を及ぼすか,評価した.
昨年度までに,オープン故障を模擬したセルを含むバッテリにおいては,試験の継続が困難と思われる過負荷状
態のセルが生じ,一部においては早期に試験を終了していた.その他,劣化を促進するセルを組み込んだバッテリ
においては,昨年度内には顕著な劣化傾向あるいは他のセルとのアンバランス等が見られていないかったため試験
を継続実施した.結果として,劣化促進セルの放電終止電圧の低下が顕著であり,バッテリ全体の特性にも緩やか
に影響を与えつつある傾向が現れつつあるが,これまでのところハザードに結びつく兆候等は見られていない.
今後も検討を継続し,将来の大型衛星におけるバッテリ需要に対応可能なデータの取得をすすめる必要があると
考えている.
3)宇宙用太陽電池の精密診断技術の研究
(研究の目的)
フォトルミネッセンス(PL)およびエレクトロルミネッセンス(EL)を利用した非破壊・高速の太陽電池の精
密診断手法を開発する.
(完成した場合の効果)
マルチジャンクション(MJ)太陽電池のような複雑な層構造を有する太陽電池の各層の性能評価,放射線照射
Ⅱ.研究活動
281
時における劣化傾向等を非破壊かつ高速に評価することが可能になる.これにより,太陽電池の性能および信頼性
の向上を図ることが可能になる.
(研究の成果)
宇宙用の高効率光電変換素子として期待されている III−V 族化合物半導体 MJ セルおよび Cu(In,Ga)Se2
(CIGS)セルに対し,各層の評価を個別に行うことのできる選択励起 PL 法およびセル内の特性の不均一性を可視
化する PL•EL マッピング法を適用した評価を行った.さらにより高精度の評価を目指し,広波長領域・高感度 PL
スペクトル測定装置の設計・組立・調整を行い,初期性能チェックを終えた.
本手法により,CIGS セルの窓層,バッファ層,活性層の放射線照射効果の分離測定に成功し,同セルの陽子線
照射効果と熱処理効果を解析することにより欠陥の発生/消滅機構を考察した.また MJ セルに現れるブライトス
ポットの高空間分解能評価を行いその成因を考察した.
4)宇宙機帯電放電現象メカニズム
(研究の目的)
太陽電池パネルにおける帯電・放電現象のメカニズムを検討し,放電現象による事故の抑制,また数百 V 級の
高電圧太陽電池アレイを実現するための技術を開発する.
(完成した場合の効果)
衛星バス電圧の上昇に伴って顕在化しつつある,放電現象による事故を抑制することが可能になる.また発電電
圧を数百 V まで高めることで,将来の大電力宇宙機において,電力損失を低く抑えることが可能になる.
(研究の成果)
帯電放電試験を実施可能な実験系を構築し,太陽電池クーポンパネルを用いた基礎的な実験を行った.
構築した実験系は,プラズマ源を供えた真空チャンバーを中心に,高電圧プローブ・電流プローブ・表面電位計
等の測定系,そして高圧直流電源を含む電気回路より構成される.
さらに衛星実機と同じ材料・構成の太陽電池クーポンパネルを作製し,本実験系を用いて試験を行った.その結
果,周辺プラズマとの電位差が200V 以上に達すると,インターコネクタやバスバーにおける電流収集が mA オー
ダーまで激増することが確認された.
2−10−3.航法センサ系
1)2次元走査型レーザレーダの開発
(研究の目的)
マイクロマシン技術を適用して2次元走査可能で軽量高信頼性のレーザレーダを開発することを目的とし,2次
元走査型レーザレーダの基礎技術である,2次元走査機構の開発,光学設計,マイクロマシンの設計製作,及び
レーザ設計を行う.
(完成した場合の効果)
現在搭載されているレーザレーダは1方向のみの距離計測であるが,惑星表面の詳細な構造を広範囲に捉える手
段として搭載カメラによる撮像に加えて,レーザレーダによる表面状態を含む地形情報は重要である.2次元走査
の距離計測が実現すれば,探査機軌道や惑星の自転を利用して行っている表面地形のマッピング効率が飛躍的に向
上し,航法,理学観測両面でたいへん有意義であるとともに,多点を測距するために測定の信頼性が向上する.
(研究の成果)
受信光学系に関しては,テレセントリック光学系,マイクロレンズによるリレー光学系,及びマイクロシャッ
282
Ⅱ.研究活動
ターアレイを組み合わせた走査光学系を考案した.テレセントリック光学系とマイクロシャッターアレイの組み合
わせについては,市販レンズと試作したシャッターアレイにて機能実証試験を行って2次元走査が可能であること
を実証した.更に,テレセントリック光学系とリレー光学系による FNO 変換により,離散的に分布した狭視野か
らの光を1つのセンサーに集める光学系も考案し,現在特許申請手続き中である.
「MUSES−C」および「SELENE」に搭載したレーザレーダの問題点である熱真空環境における脆弱性に対して,
その原因と考えられるポッケルスセルを使用しない,可飽和吸収帯を使用したレーザを試作し,熱真空環境におけ
る低温保管にも耐えられることを実証した.この手法はレーザ共振器の構造の簡素化,小型化を同時に実現してい
る.
2−10−4.通信系
1)次世代深宇宙地上局システムの開発
(研究の目的)
P−C,MMO に搭載予定のトランスポンダに実装される再生型測距方式を実現する地上局側測距装置の開発を
行ってきた.この装置とトランスポンダの BBM を組み合わせることにより再生型測距方式として初めて,その性
能の総合評価を行う.
(完成した場合の効果)
科学本部のロケット・探査機により木星までの探査を実現可能とする X 帯による航法誘導に必要な通信能力を
完成できる.
(研究の成果)
地上系の測距装置から X 帯搬送波に変調・送信し,トランスポンダにて復調・再生,X 帯搬送波に再変調し,
最終的に地上系測距装置で受信,そして測距結果を得るという測距に必要な全ての手続きを経て,初めて再生型測
距方式の性能評価を行った
(トランスポンダの再生方式技術は深宇宙通信への応用として科学本部独自のものである.).従来型の非再生方式
と再生方式を比べた結果では,予想通り中継損失相当の改善が再生方式による測距回線で確認できた.これは同じ
測距運用時間で同じ回数の測定を実施する場合に再生方式では5倍以上の精度が得られることにつながる.即ち,
航法誘導に必要な探査機の運用負担を軽減することができる.
2)ミリ波・サブミリ波変調光源の開発
(研究の目的)
光技術に無線通信で先行するミリ波・サブミリ波技術を融合するためのキーデバイスを創造する.
(完成した場合の効果)
伝送品質に優れる光波と豊富な信号処理技術を蓄積する高周波の2分野を融合することで,新方式の LIDAR(探
査機の航法誘導装置)の実現,地上局間のクロック同期技術の改良,ミキシング技術と組み合わせた新たな分光光
源(THz など)の開発など新しい技術展開が可能となる.
(研究の成果)
電子遷移効果に基づく新しい半導体レーザ構造を提案し,その実証のための結晶成長構造の設計を行った.ブ
ロードエリア型のデバイス構造に向けたプロセス条件を確立し最初の試作品を完成させることができた.
2−11.柔構造減速装置による誘導型帰還システムの開発(総合評価点:3.
40)
本研究では,パラフォイルを発展させた柔構造体を用いた誘導型の帰還システムの開発を行っており,この技術
Ⅱ.研究活動
283
の習得により,気球や観測ロケットの回収実験を容易にすると共に,将来の惑星探査ミッションへ適用することを
計画している.本年度は,1)簡単なシミュレーションを通じてシステムの基礎設計を行うと共に,2)データ収
集系,3)制御系を順次開発した.具体的には以下のとおりである.
1)数値シミュレーションによるシステムの基礎設計をおこなった.フォイルによる飛翔距離を稼ぐためには,開
傘高度は高いほうがよいが,その一方で高度1
0km には早いジェット気流が流れている.典型的な風を仮定し,
航跡を数値シミュレーションで調べた結果,パラシュート翼面荷重を1
0kg/m2としジェット気流通過後の高度8
km にて開傘し,ダウンレンジ30km 程度を稼ぐ方針がよいことがわかった.
2)PC104規格の CPU,ADC,DIO,画像取り込みボードを購入し,データ収集ソフトウエアを製作した.また,
DIO ボード中の CPLD の書き換えを行い,テレメーター出力信号を生成するボードを製作した.これらを用い,
磁場センサー,加速度センサー,ジャイロ,GPS,ビデオカメラの出力信号を取り込むシステムを構築し,装置
の三次元的位置,速度を測定できるようになった.
3)風洞実験などの地上試験用に翼面積2m2の小型パラフォイルを製作した.また,制御索を制御するためのモー
ター駆動プーリーの設計を開始した.
2−12.先進的飛翔システムの基礎開発実験(総合評価点:3.
64)
1)17年度の活動概要と RVT 実験機の今後の計画
平成15年度までに実施した再使用ロケット実験機による離着陸実験を継続発展させること,および将来型の輸送
システムで必要となる要素技術研究とシステム解析を継続して実施した.実験機についてはこれまでの圧力供給型
の推進システムをポンプ供給式に置き換え,ポンプ形態での繰り返し飛行実験運用と離着陸飛行を目指した検討を
継続し,ポンプ単体性能試験を実施した.またエキスパンダーサイクルで RVT#3(平成1
5年度に離着陸実験を
おこなった実験機)並のエンジン推力が得られるよう長胴型燃焼室の設計試作を行った.極低温複合材タンクにつ
いては,RVT#3で実証した金属ライナ FW 方式に代えて将来の大型化や形状選択の自由度確保の応用範囲の広い
樹脂ライナ(LCP フィルム)積層 CFRP 方式の液体水素タンクの試作研究を継続して実施した.さらに次の展開
に向けて基礎的研究も含めた種々の解析や試作試験を実施している.すなわち飛行範囲の拡大による空気力の影響
を考慮した空力的および飛行力学的検討,将来の推進系の統合化の先行研究として実施している「水素酸素を用い
た補助推進システム」の試作試験,さらには RVT 実験機を発展させた再使用型観測ロケットのシステム解析を継
続して実施した.
2)エンジンのポンプ化と性能評価試験
加圧供給方式であった従来の RVT 実験機の推進系を,将来の大型化に備えてターボポンプ供給方式とすること
を計画.既存コンポーネントの組み合わせによるエキスパンダーサイクルエンジン構築の可能性を見極めるため
ターボポンプと燃焼器の単体試験を計画した.
従来のエンジン動特性試験研究で使用した推力1トン級液水/液酸ターボポンプのインペラおよびタービン部を
改修し,RVT エンジン用に整備しながら2シリーズの単体特性取得試験を実施した.試験では,ポンプ式エンジ
ンの成立性に係るデータを取得するとともに,同エンジンで繰返し運用を行う場合の技術課題を抽出した.
RVT#3並のエンジン推力が得られるよう燃焼室壁での熱交換量を増やすことを計画,長胴型燃焼室を設計して
電鋳技術を用いた試作を行った.
平成18年度にエンジンシステム試験を実施し,ポンプエンジンシステムの推力制御特性を取得,飛翔形態へ組み
込む予定である.
3)樹脂ライナ複合材液体水素タンクの試作研究
RVT#3で実証した金属ライナ FW 方式に代えて将来の大型化や形状選択の自由度確保の応用範囲の広い樹脂ラ
イナ(LCP フィルム)積層 CFRP 方式の液体水素タンクの試作研究を実施している.平成1
7年度は小型モデルタ
ンクの試作による製造方法の試行と RVT#4実験機を目指した PM 試作研究を実施した.樹脂ライナの融着方法
284
Ⅱ.研究活動
や積層タンクの製造などについて多くの知見を得た.
4)水素酸素 RCS の試作研究
主推進系の推進剤(LOX/LH2)で機体システムに必要な全エネルギを賄う「統合推進系」はこれまでのロケッ
トの主推進,補助推進および動力源系のぞれぞれに固有の燃料やエネルギ源を持つシステムの複雑さや運用の非効
率を解消し一種類の燃料で全てを統合するシステムを目指している.このシステムの実現へ向け,GH2/GO2−
RCS,APU,電源供給システムなどの各要素技術課題に取り組んでいる.
平成16年度は試作スラスタによる燃焼試験を行い推力制御特性のデータ取得を行ったが,これに引き続き GH2
/GO2−RCS の試作研究を行った.平成17年度は,推進性能および耐久性の向上を狙った改良型噴射器と気密性向
上型 CMC チャンバを組み合わせた1
40N 級のフライト仕様スラスタ要素を設計製作した.またスパークプラグ方
式の点火系を小型軽量化するマルチプラグエキサイタの設計検討および試作を行った.
統合推進系の構築へ向けて低温液体推進剤のガス化昇圧装置のシステム検討を引き続き行った.またこのシステ
ムに別に実行されている燃料電池システムを適用する可能性について検討を始めた.
5)飛行範囲の拡大と空力飛行特性研究
RVT 実験機の発展として飛行範囲の拡大と弾道飛行からの帰還などに備えて特に垂直着陸型のロケットの飛行
方法に注目して機体の運動や空力特性を把握し,形状設計や操縦性に関する設計要求に転換するための基礎的な研
究を継続して実施した.空力特性データを集積し飛行シミュレーションが可能な空力特性の評価をおこなった.ま
たロケットエンジンによる垂直着陸では大規模逆噴射ジェットの特性把握や機体の運動に与える影響について十分
な知見が必要である.大規模剥離領域の非線形性や非定常性を実験的および数値解析の手法により定量化する研究
を引き続きおこなった.
6)再使用観測ロケットのシステム解析
使い捨て型の観測ロケットの代替を目指して頂点高度1
20km 以上への弾道飛行を行い発射点へ帰還するシステ
ムへの発展を考え,RVT 実験機で得た機体システムの構築や推進系の繰り返し飛行運用に関わる知見を元に①機
体システムのサイジングと推進システムへの要求の設定,②大気圏への再突入から帰還までの飛行方法の検討,③
誘導制御系を含めた飛行方法の確立のための検討,などを中心的な課題としてシステムの全体像を確定するための
諸検討を行った.これらのシステム解析の結果を反映させて機体システムの基本設計要求としてまとめた.
c.宇宙環境利用科学委員会(平成18年4月7日実施)
○中期計画の該当項目
「国際宇宙ステーションにおける宇宙科学研究」
1.宇宙環境利用科学プロジェクトの委員会評価結果
ISS 科学プロジェクト室が外部研究者と協力して推進した宇宙環境利用科学プロジェクトに関する平成1
7年度の
活動について,宇宙環境利用科学委員会による委員会評価を実施した.その結果は,以下のように取り纏められ,
第10回宇宙環境利用科学委員会に報告・了承された.
評価:A
各プロジェクトは着実に成果を上げており,その進捗は良好である.また,フライト候補選定済みの与圧部利用
テーマおよび船外実験プラットフォーム利用科学観測ミッションは,想定される打上げ時期に対して,準備状況に
大きな問題はない.
Ⅱ.研究活動
285
2.評価結果の詳細
2−1.生命科学分野
2−1−1.放射線生物研究プロジェクト(RadGene,LOH,RadSILK)
・宇宙において放射線生物学を実施する科学的意義の一つは,生物に対する放射線の影響が微小重力下と1G 環
境とで異なるかどうかを確実に示すことである.この観点から関連する修復機構への重力影響の解明も試みら
れてきたが,過去の宇宙実験では生物種,細胞種,発生段階などによって結果が異なっており一般化すること
は未だできていない.もしも宇宙に照射源を持っていくことができれば,地上と同じ条件の照射が可能となり
より確実な結果が得られると考えられるが,安全性などの面で課題は多い.これに替わるアイディアが必要で
ある.
・地上で実施可能な過重力実験は,重力生物学の全テーマについて押並べて実施すべきである.
(対応)本領域での実験計画では,軌道上1G レファレンス実験を取り入れることで,放射線の影響のみを実験的
に識別できるようにする.なお,修復機能と微小重力との相互作用は,本研究領域の根源的課題であり,研究者
コミュニティも含めて積極的な取り組みを期待したい.
・地上での過重力実験については,その必要性を識別し,その必要性が認められる未実施のテーマについては研
究チームに推奨し,その結果を年度内にレビューする.
2−1−2.細胞生物研究プロジェクト(Myolab,Cerise)
細胞レベルでの微小重力影響を捉えようとする二テーマである.提案されている研究対象だけでなく関連する周
辺の事象についても考慮し,フライト実験に向け実験計画作成を着実に進めることを期待する.また,実験計画の
ベースライン化作業を実施し,JEM 初期利用に向けた準備を進めるべきである.
2−1−3.植物生理研究プロジェクト(Ferulate,ResistWall,CellWall,Hydro−Tropi)
植物を利用する4つのプロジェクトは,重力の影響を解析する方法論が確立していると考えられ,全て適切に進
捗しており,科学的価値の高い結果を得られると期待される.宇宙における植物の継世代に関する重力影響の研究
についてはいくつかの実施例があり,特に顕著な変化が見られないとの報告もなされているが,一方で宇宙では種
子形成に異常が生ずるとの報告もあり,研究すべき課題が多く残されているといえる.したがって本テーマに関し
ては実験計画のベースライン化作業を実施し,フライト実験に向けた準備を進めるべきであろう.
(対応)ベースライン化作業を実施し,宇宙実験の実施準備を進める.
2−2.物質・基礎科学分野
2−2−1.流体科学研究
(1)国際公募 CI テーマ:「周期的な渦流れにおける分散粒子のダイナミクス」
平成16年11月に MAXUS ロケットで微小重力実験を国際公募共同テーマとして実施し,ESA 選定の国際公募
テーマ共同分担者として貢献した.研究目的である微小重力下での PAS(粒子集合現象)発生条件の把握,画
像データの取得等に成功し,詳細な解析を行った.国際公募選定テーマで始めての宇宙実験実施であり,微小重
力における粒子集合現象(PAS)を観察したことは成果として評価される.PI を含む研究者間の合意に基づき,
本テーマはこの成果をもって終了とし,成果のまとめを最終成果報告書として発行することとした.
ただし,PAS 現象の解明としては更なる実験が必要であり,一次選定テーマでの実験に期待する.
(対応)JEM 利用計画での MARCS の2008年に実施に向けて,供試体開発,運用計画立案等の準備作業を着実に
進める.
(2)MARCS(一次選定テーマ):「マランゴニ対流におけるカオス・乱流とその遷移過程」
「マランゴニ対流にお
ける時空間構造」
選定当初から地上実験を積み重ねており内容を高度化させている.供試体開発は,打ち上げ時期を考慮に入れ
た計画に沿って進められている.また,きぼう利用初期の実験からくる種々のリスクを想定した運用計画も検討
286
Ⅱ.研究活動
されており,初期テーマとして計画通り進捗しているといえる.なお,科学的な視点として PAS については引
き続き解明に努め,一次選定テーマでの宇宙実験の実施と並行して数値解析等を活用し,その形成メカニズムの
解明を期待する.
(対応)JEM 利用計画での2008年に実施に向けて,供試体開発,運用計画立案等の準備作業を着実に進める.
(3) McTEX(国際公募テーマ):「高プラントル数流体のマランゴニ振動流遷移における液柱界面の動的変形効
果の実験的評価」
平成17年度にディベロップメント・フェーズ移行前審査を受審し,ベースライン化され,供試体開発に着手し
た.供試体開発は順調に進捗しており,科学的要求を満足する基本設計が終了し基本設計審査を受審し,承認さ
れている.液柱周囲気体の影響の検討を進め,宇宙実験計画の高度化が図られている.全体として年度計画に対
する進捗は順調であると判断する.今後きぼう科学利用の成果創出を目指し,遅延等のリスク回避を踏まえた上
で計画通りプロジェクトを進めることを期待する.
(対応)2007年半ばに,供試体開発 CDR を行い,JEM 利用計画での2
009年実験実施に向けて,供試体開発,運用
計画立案等の準備作業を着実に進める.
2−2−2.結晶成長研究
(1)ICE(一次選定テーマ)
「樹枝状結晶の成長過程のその場観察による結晶の形態形成に対する微小重力の効果」
供試体の開発,地上予備実験による条件設定など準備が順調に進捗している.全体としてプロジェクトの進捗
としては順調ではあるが,核形成の再現性向上のためのセル部改良について,重水の汚染防止のための金コー
ティングの必要性が挙げられており,確実な解決が図られる必要がある.また微小重力の必要性についても研究
チームとの一層の議論も望まれる.
(対応)JEM 利用計画での2
008年に実施に向けて,供試体開発,運用計画立案等の準備作業を着実に進める.な
お,微小重力の必要性については第1
0回宇宙環境利用科学委員会で説明する(別紙).
(2)FACET(一次選定テーマ)「ファセット的セル状結晶成長機構の研究」
応力集中による先端分裂を考慮したモデル検討を進め,温度場と応力場の不均一分布の可視化に成功してい
る.供試体開発についても順調に進捗している.試料充填方法の検討も着実に実施されているが,更なる効率化
が今後の課題として識別されている.また,応力集中のモデル化に当たっては応力の計測精度等の検討が必要で
はあるが,プロジェクトとしては概ね順調であり,計画通り進められているといえる.
(対応)JEM 利用計画での2
008年に実施に向けて,供試体開発,運用計画立案等の準備作業を着実に進める.ま
た,応力集中のモデル化について研究チームでの議論を積極的に進める.
(3)HICARI(国際公募テーマ)
「微小重力下における In0.3Ga0.7As 均一組成単結晶の成長」
GHF 凍結に伴い,研究計画詳細化を継続しフライト機会に備えている.TLZ 法による大型結晶成長に関して
解析的検討を進めており,GHF 搭載用のカートリッジの設計も具体化している.GHF のフライト時期確定次第,
供試体開発に着手できるようベースライン化を行うことが望まれる.なお,数値解析結果の対流の影響を表すパ
ラメータの整理については更なる検討が必要である.
(対応)GHF の搭載凍結解除時期を踏まえて,供試体開発に速やかに着手出来るように準備を進める.また,実
験条件設定の為の対流の影響評価パラメータについては,研究チームで検討を進める.なお,引き続き回収衛星
などの代替フライトについて国際協力を模索する.
2−2−3.熱物性研究
(1)DDDC(国際公募テーマ)
「液体構造の複雑性の系統的変化を示す1
4(IVB)族液体における自己拡散および
不純物拡散に及ぼす短距離秩序の役割」
GHF の凍結に伴い,理論モデルの高度化および宇宙実験用供試体の要素検討を進めフライト機会に備えてい
る.また,液体構造と拡散係数の相関を明らかにする目的で SPring−8を活用するなど,堅実な進捗が認められ
る.GHF の復帰の有無を確認し,実験の早期実施が不可能な場合には代替手段の具体化を進めることが望まし
Ⅱ.研究活動
287
い.
(対応)GHF の搭載凍結解除時期を踏まえて,供試体開発に速やかに着手出来るように準備を進める.なお,引
き続き回収衛星などの代替フライトについて国際協力を模索する.
(2)SEMITHERM(国際公募共同研究テーマ)”Investigation of thermophysical properties of liquid semiconductors in the
melt and in the undercooling state under microgravity condition”
電磁浮遊炉を用いて予備的研究が進められており,日本の共同研究者が主体となり成果を挙げている.ESA
電磁浮遊炉の開発状況を睨みつつ,早期の成果創出を目指すことが望ましい.
(対応)ESA 電磁浮遊炉開発の状況を踏まえて実験実施時期を明確とし,実施可能性を見極めつつ実験計画立案
を進める.
2−2−4.燃焼科学研究
(1)Firewire(国際公募テーマ)「宇宙船内低速空気流中における電線の燃焼特性におよぼす材料諸特性の影響」
利用を想定していた NASA 実験装置の開発が中止されたものの,分野リーダ会合における議論も踏まえ代替
手段の確保ならびに実験計画の見直しが適切に進められている.他の実験機会への変更は妥当であり,実験の実
現に向けた着実な進捗を図ることが必要である.
(対応)代替手段として,回収衛星,及びその他の機会獲得(回収衛星,スペースプレインなど)のための調整・
交渉を行う.
(2)Peace「燃料液滴燃焼実験」
ESA との国際協力に基づく小型ロケット実験計画については科学的意義が高く,欧州との国際協力の推進に
おいても極めて大きな意義を持つことから,プロジェクトとして実験実施に向けた作業をすすめることが適当で
ある.
(対応)2008年末の TEXUS ロケットによる微小重力実験実施を目指して,実験装置開発に着手する.なお,本国
際協力については,ESA と基本合意に達し,現在協定作成中である.
2−2−5.準安定相研究
(1)CCSM(国際公募テーマ)「微小重力下におけるシリコンの無容器結晶化」
宇宙実験テーマの課題として挙げられていた単結晶化に関して具体的な解決手法が地上研究により提示され
た.この手法を利用して科学的課題解決が図られることを期待する.電磁浮遊で凝固させた結晶の微細組織につ
いては詳細に調べられている.今後,融体内の流動のより少ない静電浮遊炉を利用して,両者の過冷凝固微細組
織の差異等を明確とする地上研究を進め,微小重力実験の詳細化を図ることが適当である.
(対応)H1
8年度は研究チームにおいてモデル化を進めるための地上研究を行う.なお,合わせて,ESA 電磁浮遊
炉利用について協議を進める.
2−3.船外実験プラットフォーム利用科学観測ミッション
2−3−1.全天 X 線監視装置(MAXI)
指摘事項:特になし
2−3−2.超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)
指摘事項:
・STS での輸送に対応したバスシステム構造系の見直しが,FY2
0予定の2J/A 搭載に向けて,スケジュール上
最もクリティカルになっている.スケジュール管理に注意が必要である.
・今後,受信機 PFM 開発に当り,JAXA/NICT 間の責任分担の明確化,信頼性の確保とスケジュールキープに
つき特に留意すること.
(対応)装置開発および打上げ方法の検討の進捗に併せ,大気科学研究コミュニティに対し,実験実施時期を明確
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Ⅱ.研究活動
に提示すると共に,研究チーム体制を強化し,コミュニティとの連携を進め,SMILES データ利用の大気科学の
一層の進捗を図る.
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