氏名 鈴木 貴子 - SUCRA

埼玉大学文化科学研究科修士課程学位論文・特定課題研究成果要旨
研究専攻（専門領域）
氏名
鈴木
貴子
修士学位論文名
SUZUKI Takako
07CS011
国籍
（留学生）
2009 年 1 月 13 日
体裁
論文
ローマ字
学籍番号
Grimm の Kinderlegenden
提出年月日
（
文 化 構 造 研 究 専 攻 (ド イ ツ 文 学 )
30 項 (1 項 文 字 数 1200 文 字 )
指導教員
安達
言語
忠夫
日本語
）
別冊添付資料等
キーワード
グリム童話
子どもの聖者伝説
キリスト教
死
グ リ ム 童 話 集 の 最 後 の 10 話 で あ る「 子 ど も の 聖 者 伝 説 」は 、カ ト リ ッ ク 的 な 背 景 を 多 く
含む伝記である。しかし、これらを執筆したグリム兄弟はプロテスタントである。敬虔な
カルヴァン派のプロテスタントであるグリム兄弟が何故カトリック的な背景を含む「子ど
もの聖者伝説」を取り入れたのかについてはまだわかっていない。
本論文では、プロテスタントであったグリム兄弟がカトリック派の考えに基づいた「子
ど も の 聖 者 伝 説 」を グ リ ム 童 話 集 の 最 後 に 含 め た 理 由 と し て 、1. 当 時 の 時 世 が 苦 し く 、そ
の よ う な 時 代 を 乗 り 切 る た め に 信 仰 心 を 高 め る 目 的 と し て 必 要 で あ り 、ま た 、
「 死 」と そ の
重 み と い う 意 味 合 い を 伝 え る た め に 童 話 集 の 最 後 に 含 め た た め 。 2. 学 者 と い う 立 場 か ら 、
メ ル ヘ ン と い う 文 学 を 宗 教 に 左 右 さ れ る こ と な く 、平 等 に 紹 介 す る た め 。3. 古 く か ら 伝 わ
る地方の民話を語る上で、カトリック派の教えに基づいた民話を避けることができなかっ
たため、という 3 つの仮説を立てる。
はじめに、当時の時代背景によりグリム兄弟はドイツ民族の遺産が失われることを心配
し、民間伝承を保存する目的として、古くから伝わる民謡や伝説を収集するために地方へ
出向いた。そこで「聖者伝説」を入手し、これらの物語の内容から「苦しい時代を乗り切
るために信仰心を高める」目的として必要であると考え、グリム童話に含めたと考える。
また、敢えて一つのジャンルとしてグリム童話の最後に含めた理由として、それまでのグ
リム童話は「生」の側面に焦点が当てられていたのに対し、聖者伝説は「死」の重みに焦
点が当てられている。これは、当時のドイツ国民の生活が苦しく、死後の世界で幸せにな
るためにも、現世において信仰心を持って正しく生きることを示すために重要であった。
これにより、グリム童話集の終わりに敢えて一つのジャンルとして聖者伝説を含めること
で 、「 死 」 の 重 み を 強 調 さ せ て い る と 考 え る 。
次に、グリム兄弟は敬虔なプロテスタントであると同時に、学者でもあり、文学におい
ては宗教的に中立的な立場をとっていたと考える。この裏づけとして、キリスト教的要素
を含む話だけではなく、異教的な要素を含む話、またどちらの要素も含まれている話があ
ることが挙げられる。
最後に、プロテスタントに対し、カトリック派の歴史は非常に長く、根が深いものであ
り、カトリック派の考えに基づいた民話が数多く存在する。このため、グリム兄弟は民話
を保存する目的として、地方の民話を語る上では避けることができないためであると考え
る。
以上により、プロテスタントであったグリム兄弟がカトリック派の考えに基づいた「子
どもの聖者伝説」をグリム童話集の最後に含めた理由として本論文で考案した仮説は正し
いことが分かった。