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ハイブリッド・シミュレーションによる室内音響の模型実験
4 1巻 2号 ( 1 9 8 9.2) 生 産 研 =川[ 川I l 川 日 日 日 日HI l l l =l l l l l l 川I I HH =HH lll H=l H =l 川 =H l HHH 1 日l l l l l l 川I l l l 川川l =I l Hl 日日 日 日 川 川 = l l Hl 研 1 4 5 究 究 速 報 UDC 5 3 4. 8 3 5:5 3 4. 8 4 ハ イブ リッ ド ・シ ミュレーシ ョンによる室内音響 の模型実験 Scal emode le xpe r i me ntonr oom acous t i c sbyhybr i ds i mul at i ont e c hni que 橘 秀 樹 *・矢 野 博 夫 *・日 高 新 人* Hi dekiTACHI BANA,Hi r ooYANO andYos hi t oHI DAKA 1. ま え が 2.ハ イブ リッ ド・シ ミュ レーシ ョンの原理 き コンサー トホールや劇場 な どの設計 のために, スケー 周知 の ように,線形 ・時不変 な系の物理特性 はすべ て ルモ デル に よる音響 実験 が しば しば行 われ る. この よう イ ンパ ル ス応答 に含 まれている. そ こで図 1に示す よう な音響模型実験 で は,主 として各種 の聴感 的物理量 の測 に, ホール 内の音源か ら受音点 に至 る音響 システムのイ ) ・ 2 ) .しか しそれ 定 に よって音響効果 の予測 を行 ってい る1 ンパ ル ス応答 が正確 に測定 で きれ ば, それか ら必要 な物 だ けでな く,設計段 階で ホールの音 を実際 に耳 で確 かめ 理パ ラメー タ を計算 した り, また任意 のサ ンプル音 との る こ とがで きれ ば,設計 の信頼性 は格段 と向上 す る. その よ うな 目的 の た め に, これ まで に も速 度 可 変 の たたみ込 み演算 に よ り, ホールの音響特性 を含 んだ音 を 聞 くこ とが で きる. デー タレコーダ を利 用 して,音楽 な どの音源信号 を超音 ここで, イ ンパ ル ス応答 の求 め方 として は,最近 で は 波用 ス ピーカか ら模 型 内 に高速再生 し, それ をいったん 音線法 に基 づ くコンピュータ ・シ ミュレー シ ョンに よる 録音 した後 に再 び も との速度 に戻 して再生 す る とい う方 方法 も試 み られてい るが,現時点 で は,複雑 な境界条件 法が試 み られ て きた. しか しこの ようなアナ ログ技術 の を もつ ホールのイ ンパ ル ス応答 を波動性 まで含 めて計算 み に よ る方 法 で はSN比,周 波 数特 性 等 の 点 で 限 界 が で きるまで には至 っていない. そ こで,材料 の吸音 率 や あった. 媒 質 の音響 吸収 な どに関す る相似則 を満 たす こ とに よ り, 一方,最近 で はデ ィジタル技術 の飛躍 的 な発達 によ り, 各種 の信号処 理が きわ めて容 易 となった. そ こで,模型 波動性 を含 めて音場 をシ ミュレー トす る こ とがで きる模 型 実験 の長所 と, い ったんイ ンパ ルス応答 を求 めてお け 実験 とデ ィジ タル信 号 処 理 技術 を組 み合 わせ たハ イ ブ ば,柔軟性 のあ る処理がで きる とい うデ ィジタル信号処 リッ ド ・シ ミュレー シ ョン手法 が実現可能 となって きた. 理 の長所 を組 み合 わせたのがハ イブ リッ ド ・シ ミュレー す なわ ち, この方法 で は,複雑 な波動現 象である室 内の シ ョンの手法 で あ る. 音 の伝搬特性 は模 型 実験 に よってイ ンパ ル ス応答 として さて,模型 内のイ ンパ ルス応答 の測定 お よび合成 した 測定 し, それ と無響 室録音 の音楽 な ど任意 の信号 とをコ 評価音 の被験者へ の提 示方法 としては, い くつかの方法 ンピュー タ を利用 して合成 す る. が考 え られ るが, ここで は,最 も基本的 なバ イ ノー ラル この よ うな手法 につ いて は,す で にEI sらが最 初 の試 み3)を発表 して い るが,われ われ も音 響模 型実験 に関す 方式 として, ダ ミーヘ ッ ド ( 擬似頭) による収音 , ヘ ッ ドホ ンに よる受聴 の方法 を用 い る こととした. す なわ ち, る研究 の一環 として,1/1 0 縮 尺模型 を対 象 として同様 の シ ミュレー シ ョン技術 の開発研究 を行 ってい る. h(t) 方法等 につ いて検 討 した結果 を述 べ る. この手法 による 聴感実験 お よび シ ミュ レー シ ョン精度 の検討結果等 につ いて は別途報告 す る予定 で ある. 事 東京大学生産技術研究所 第 5部 E i i iZ J _ レ ′ l・. 〟) Acous t i c Sys t em 受音 点 音源 ルス応答 の測定 , お よび長 時 間信号 のたたみ込 み演算 の \ J .∼ n 川■ 一一1日 一 〟 そ こで,本報 で は この シ ミュレー シ ョン手法 の うち, まず聴感評価 用 の音響信号 を合成 す る際 に必要 なイ ンパ a(i) -h(i)*x(i) / _ i x ( T) h(t一丁) dT 図 1 音響 システムの入力 と出力の関係 =l l l H=l I I I H‖HHl l l HH日日l l l l l l HHHl 日日川I l l HHHI H=l l ml l l l l l Hl l HHHH=I l l l HH日日r 川川日日l 日日l I l HHHl l l l l l 川=日日l HH=l H 43 146 41巻 2号 (1989.2) 生 産 研 究 ││││││││lllllllllllII111!│││││!lllllllllllll!llII1111111111111111!llllllllll!lllllllll 速 報 ー 模型 ホ ル 内 の客席 に模型 ダ ミーヘ ッ ドを置 き,音 源 か 相関法 な どが ある。 これ らの方法 はそれぞれ特徴 を もっ ら両耳 を通 してのイ ンパ ルス応答 を測 定す る。 この応答 てお り,実 験 の 目的 ・内容 によって適 ・不適 が ある。 究 研 本研究 で は,ホ ール な どの室内模型 内のイ ンパ ル ス応 をもとに合成 した信号 をヘ ッ ドホ ンを通 して再生す る と い う方法 で ある。現在 その基 礎的な段階の実験 として, 答 を浪1定す るための音源 について,周 波数特性 ,出 力, 指 向特性,再現性 な どを検討 した結果,現時点 で はスパ ー ク放電 音源 が最 も適 当で ある ことが わかった6)η . 直径 15mmの 球 に両耳 に相 当す る二 つの1/6in.コンデ ン サ マ イク ロホ ンを埋 め込 んだ きわ めて単純 な模型 ダ ミー ヘ ッ ドを試作 し,使 用 している。 この シ ミュ レー シ ョン手法 で は,縮 尺模型 お よび模型 ダ ミーヘ ッ ドの精度が 問題 となるが,こ こで はひ とまず 試作 した スパ ー ク放電 音源 の音圧 波形 とそ の エ ネ ル ギ ー スペ ク トル を図 2に 示す。 スペ ク トル は平坦で はな それ らが十分 な精度 を もつ もの とし,イ ンパ ルス応答 の な い。 したが って,こ のパ ルス音 に対す る応 答 が十分 な いが,測 定 に必要な周波数帯域 内 で極端 なデ ィップ点 は 測定 お よびたたみ込 み演算 による信号合成 に重 点 をお い SN比 で測定 で きれ ば,逆 フ ィル タ処理 に よ り周波 数特 て,具 体 的な信号処理方法 について検討 した結果 を述 べ 性 の補 正が可能 で ある。 る。 その方法 としては,ま ず補正 目標帯域 (音源 の周 波数 特性 と 1/10縮 尺室内音響模型実験 で重 要 な周 波 数帯域 3.模 型内 の イ ンパ ルス応答 の測定 を考慮 し, lkHz∼ 80kHzと した)を 通過帯域 とす る直 線位相FIRバ ン ドパ ス フ ィル タを設計す る。つ ぎに,図 2 イ ンパ ルス応答 の沢1定方法 としては,矩 形パ ルス な ど のイ ンパ ル ス を用 い る直接法,ス イー プパ ル ス4)を用 い のパ ル ス を入力 した ときに,こ のバ ン ドパ ス フ ィル タの る方法 ,広 帯域 ノイズやM系 列信号 "な どを用 い る相互 イ ンパ ルス応答が出力 され るようなフ ィル タ (逆フ ィル 0 -10 (a) l h 0 0 0 0 0 2 3 4 5 6 一 一 一 一 一 一 一 一 Φ>Φ麟 Φ> ︻ Φ“ ︹m O︺ ︼ 一”︻ ¨“ o ●∽ ∽ ω ﹄ ︹﹄︺ ﹄ ﹄OC”o∽ ヽ / 才 -70 -4 -80 -5 200 300 400 500 600 700 800 1 Time〔μs〕 2 5 10 20 Frequency〔 kHz〕 図 2 ス パーク放電パルス波形 ( a ) とェネルギースペ ク トル (b)(演 1,ti巨 離 :50cnl) 0 図3 Aハハ ω >ω >﹁“︻ Φ ︹ mO︺︼ 麟の 醸 6 0 0 8 0 0 1 0 0 0 1 214001600 00 T i m e 〔μs 〕 0 0 0 0 0 0 0 1 2 3 4 5 6 7 一 一 一 一 一 一 一 200 400 / ヽ \ 80 Frequency〔 k Hz〕 逆 フィルタのインパルス応答 (a)と周波数特性 (b) / 生 産 41巻 2号 (1989.2) 研 究 l l l l l l l l l I I l l l l l l l l l l l l l l l l l ! ! │ │ │ l l l l l l l l l l l l 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 ! l l l l l l l l l l l究 1 1 1 1 1速1 1 1 1報 1111111ll:││l く,な どの 方法鋤を採用 した, 夕)を 求 める (図 3)。 最終 的 に,模 型 内 で測定 したイ ン パ ルス応答 に この逆 フ ィル タをたたみ込 む ことによ り, 必要 な帯域 の情報 を含 むイ ンパルス応答 が 得 られ る。 4 信 号処理 と測定 システム 図 4に 沢1定お よび信号処理 シス テムを示す。 この 中 で, イ ンパ ルス応答の測定 はパ ー ソナル コンピュー タ (NEC PC98XL)を 使用 し,12bit ADコ ンバ ー タ (最高 サ ンプ リング周波数400kHz)を 通 してのデー タの取 り込 み,お ような長時間信号 とイ ンパ ルス応答 をたたみ込 む方法 と よび 同期加算処 理 を行 う。また音源信号 は,い つたんデ ィ ジタルオ ー デ ィオテー プ レコー ダ (DAT)に 録音 したあ ンター フェー ス (MTT DA1 98B)を 介 して と,DATイ デ ィジタルデー タの形でPC98XLに 転送 す る。 ま overlap―save して, overlap― add method あ る │ゝヤ methodが 工 夫 されて い るの。 その うち ここで は前者 の方 つ ぎに これ らのデー タを フロ ッピー デ ィスクを介 して 転送 生研 ・ 計算機室 の大型計算機 (FACOM M380Q)に ニ つの時間信号 のたたみ込 みにはFFTを 用 い るが,音 一 楽 や音声信号 のデー タは 般 に長大 となるため, 1回 の FFTで 処理 す る ことは実際 には無理 である。そ こで この 法 を用 い る こととした。 この方法 は原信号 をFFT可 能 な し,前 述 の逆 フ ィル タ処理お よびたたみ込 み演 算 を行 う. 長 さ (セグメ ン ト)に 分割 し,そ れ らの分割信号 とイ ン その結果 を再 びPC98XLに 転送 し,そ の ままデ ィジタル デー タの形 でDATに 転送す る。最終的 に このテー プを再 パ ルス応答 とのたたみ込 みを順次行 い,最 後 にそれ らの 結果 を加算接続す る方法 であ る。 その場 合,原 信号 を分 割す る長 さ として は,イ ンパ ルス応答 の演1定時間長 と同 生す る ことによ り,ホ ールの音響特性 が付加 された音 を じとした。 たたみ込 み演 算 の実例 として,次 章 で述 べ る実験 で用 いたデー タ長 な どのパ ラメー タ と演算時間 を表 1に 示す。 この例 でわか る とお り,ホ ール な どの聴感評価実験 に必 以上 に述 べ た たた み込 み演 算 は大型計 算機 を用 い て 聞 くことがで きる. 行 ったが,そ のプ ログ ラ ミングにあた って は,演 算 の効 率化 をはか るた めに,1)三 角関数 のテー ブルの作成,2) 要 な20∼30秒程度 の長 さの信号 について も,前 述 のアル 基数 8の 実数型 ル ー チ ンの使 用 ,3)正 変換 は周波 数間引 ゴ リズ ム を用 い ることによ り,比 較 的短時間 でたたみ込 き型,逆 変換 は時間間引 き型 として ビ ッ ト逆転操作 を省 み演算 が可能 で ある。 Ⅳ1 0 d e l R o o m たL ( ′) たR ( ′) Personal Computer 図 4 測 定 。信 号処 理 シス テ ム 148 研 究 41巻 2号 (19892) 速 産 研 究 生 報 ││lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllil11!llllllllllll 表 1 た たみ込み演算 の例 (2 chインパ ルス応答 と l ch音源信号 の場合, 時間 ・周波数 は実物換算値) (a) サ ンプ リング周波 数 32 kHz イ ンパルス応答の長 さ 65536(2.Os)X2ch 音源信号 の長 さ セグメン トの長 さ 65536 FFTの 長 さ FFTの 計算回数 正 変換 :2回 LeftMicrophone │ │ 1 1 1 ' ' ' 1 1048576(32.8s) (b)Right rvlicrophone 131072 (インパ ル ス応 答 ,2 ch) 16回 (音源信号 , l ch) 逆変換 :32回 (たたみ込まれた信号, 2 ch) 計算時間 約1 2 0 秒( F A C O M , C P U T I M E ) 5.縮 尺模 型 コンサ ー トホ ー ル にお ける実験例 イ ンパ ルス応答 の測定時間長 としては,少 な くとも残 響時間程度 の長 さは必要 と考 え られ る。 そとで,第 一段 階 の実験 として,1800人収容 の コンサ ー トホールの 1/10 縮尺模型 において,サ ンプ リング周波数320kHzで 216の 長 さ (実物換算 で2.048s)の イ ンパ ルス応答 を演l定した。 予備実験 として,前 述 のスパ ー ク放電音源 を用 い,同 期 加算 の 回数 を変 えて測定 したイ ンパ ルス応答 か ら楽音 を 合成 した結果,十 分 なSN比 を得 るには200∼300回の 同 蜃 「 0 20 40 60 80 100 Time llnd 120 140 160 図 5 模 型ダ ミーヘ ッドにより浪1定した 1/10縮尺 コンサー ト ホール模型のイ ンパ ルス応答 る こ とが わ か った 。 しか し,実 験 技術 として確 立 す るた め に は まだ まだ検 討 の 余 地 が あ り,理 想 的 なイ ンパ ル ス応答 を測 定 す るた め の音 源 お よび 受音 シス テ ム の 改 良,SN比 の 改善 な ど につ い て,今 後 さ らに研 究 を進 め る予定 で あ る。 11月29日受理) (1988年 参 考 文 献 1)橘 ,石 井 :「音響模 型 実験 にお ける相 似 則 と実験 手 法」,日 本音響学会誌,32巻 ,10号 (1976) 2) M.BarrOn: “ OBJECTIVE MEASURES IN CON― 期加算 が必要 で ある ことが わかった.256回の 同期力日 算を 行 った場合,測 定所 要時間 は模型 ダ ミーヘ ッ ドの片耳 に つ き約 10分である。 この ように して演1定した模型 ダ ミー CERT HALLS AND THEIR USE IN ACOUSTIC SCALEン 10DELS'', Proc.Vancouver Symp.(12th ついての イ ンパ ルス応答 の例 3)H.Els and J.Blauert: “ A MEASURING SYSTEA/1 FOR ACOUSTIC SCALE MODELS'', Proc Van‐ ヘ ッ ドの両耳 (L,R)に を図 5に 示す。 以上 に述 べ た方法 による聴感評価実験 はまだ行 って い ないが,試 聴実験 の結果,従 来 のアナ ログ手法 によった 場合 に比 べ て音質 が はるか に改善 され,ホ ール 内 の場所 による聴感 的印象 の違 い な どが十分識別 で きることが確 認 された. 180 ICA),(1986) couver Symp.(12th ICA),(1986) 4) N.Aoshirna: 'tComputer― generated pulse signal apphed for sound measurement'', J.Acoust Soc. Am.69(1981) st Hadamard 5 ) H . A l r u t z a n d M R . S c h r o e dAe rF:a“ Transform Ⅳ Ietllod for the Evaluation ofン Ieasure‐ ments Using Psёudorandom Test Signals", 1lth lnt. 6.あ と が き ホー ル な どの音響設計 の段階 で,縮 尺模型 を用 いて音 響効果 を実 際 に耳 で確 かめ るための方法 として,模 型 内 のイ ンパ ルス応答 を測定 し, これ と無響室 な どで録 音 し た音 楽 や音声信号 をたたみ込 む手法 について基礎的検討 を行 った。 その結果,実 用的な処理時間で評価用信号が 合成 で きる こと,ま た各種 の条件 の違 いによる音 の変化 を調 べ る うえで,こ の シ ミュレー シ ョン手法 が有効 であ Congr.Acoust., Paris(1983) 高,矢 野,橘 :「ハ イブ リッド音響模型実験 に関す る 6)日 基 礎 的検 討」 ,日 本 音 響 学 会 講 演 論 文 集,2-7-8 (1988.3) 7)日 高,矢 野,橘 :「ハ イブ リッドシ ミュレー ションによ る室内音響の模型実験」,日 本音響学会建築音響研究会 資料,AA-8808,(1988) 8)AV.Oppenheim,R.W.Shafer著 タル信号処理 (上)」 ,コ ロナ社 , 伊達訳 :「 ディジ 200