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鋼構造骨組の地震応答シミュレーション

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鋼構造骨組の地震応答シミュレーション
4
0巻 1
2号 (
1
9
8
8.1
2
)
生 産 研 究
5
9
5
UDC5
5
03
40
1:6
2
4.
0
4
2.
7
研 究 解 説
鋼構造骨組 の地震応答 シ ミュレーション
Re
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大 井 謙
一*
Ke
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c
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HI
大地震の際に構造物がどのように揺れ,どのように壊れてゆくかを調べるために,振動台
実験 ・オンライン応答実験 ・数値解析などの手法がある.鋼構造骨組 を対象として行った
実験例 ・解析例を紹介 しながら,これらのシミュレーション手法の耐震工学上の意義につ
いて解説する.
1.耐震設計 と地震応答 シ ミュ レーシ ョン
とす る地震動 が どの ような ものであ るか (
(
丑荷 重 の評
現在,建築構造物 の耐震設計 は 2段構 えで行 うことが
価),次 に,地震時 に建物が どの ように揺れ,どの ような
常識 となっている. まず 1番 目は,建物が その使用期間
状態 になるか (
②荷重効果 の評価),最後 に,設計 した骨
中に少な くとも 1回 は遭遇す る と予想 され るような中程
組が その ような状態 に耐 えうるか (
(
卦抵抗能力の評価 と
度の大 きさの地震動 を対象 とするもので,骨組が弾性範
④ 限界状態のチ ェック),を調べ る必要がある.ここで解
囲に留 まり,変形 も建物 の機能 に支障のない範囲に納 ま
説す る地震応答 シ ミュレー ションは② の荷重効果の評価
るように設計す ることになっている.設計 において構造
を目的 とす るものである.すなわち,与 えられた地震動
物 に生 じさせた くない構造物 のギ リギ リの状態の ことを
の もとで,建物が どの ように揺れ どの ように壊れてゆ く
」 と呼ぶが, 1番 目の場
「
限界状態 (リミッ トステー ト)
か を予測す る問題である。
合 には,建物 の機能 ・使用性 (
サー ピサ ビ リティ) を問
題 に しているので,「
使用限界状態設計」 と呼んでいる.
2.数値 シ ミュレーシ ョンと実験 シ ミュレーシ ョン
2番 目は,建物 の使用期間中に発生 する確率 は小 さい
まず地震応答の数値 シ ミュレー ションの基本的な概念
が,発生 しうる工学的に最大級の地震動 を対象 とす るも
について述べ る.平屋建 ての骨組が一方向の水平地動 を
ので, これ に対 しては骨組 の塑性化 は許すが倒壊 しない
受 け る とき,屋 根 の地 面 に対 す る水 平 相 対 変 位 xは
ように設計 し,人命や財産 の損失 を防 ごうとす るもので
ある. これ を 「
終局限界状態設計」 と呼んでいる。
このような限界状態設計 を行 うには, まず,設計対象
建物の
抵抗 力
F
B
中′
ト地震
- A点が限界
大地震 ・極限地震 - B∼C点が限界
図 1 耐震終局限界状態
*
東京大学生産技術研究所 第 5部
図 2 平屋建物の地震応答シミュレーション
l
l
596
40巻
生 産 研 究
12号 (198812)
ニ ュー トンの運 動法 則 に よ り次 の微 分 方程 式 を満足 す る。
』
教 +/=― ルク
ここで,〃 :屋根面 に集中す ると仮定 した質量
ダ :地表面加速度
また,約 15年前 に生研 で世界 に先駆 けて開発 された シ
ミュ レー シ ョン手法 1)として,電 算機 ―試験機 オ ンライ
ンシステムによる疑似動的地震応答実験 がある。 この手
法 は,(1)式 にお ける復元力/の 数学 モデル を作 らな い
で, これ を数値計算 と同時 に行われ る構造物模型 に対 す
る載荷実験か ら測定す るものである.振 動台実験 で は地
/は 慣性力 に抵抗す る力で,広 義の復元力 と呼ばれてい
る力である。構造物が弾性範囲 にあ り変位 も微小である
場合 には,次 のようなVoigt型の線形復元力が仮定 され
面 (振動台)を 動的 に動かすのに対 して, この実験手法
る場合が多い。
で は地面 に対す る屋根 の変位 を計算 して,こ の変位 を屋
/ = ″ 十力χ
(2)
屋根の変位 は運動方程式 ((1)
根 に強制 す ることになる。
構造物 が弾塑性範囲 で応 答 した り,大 き く変形 して幾何
解 くことによって計算 され るが,
式)を Step by stepに
学 的非線形 が無視 で きな くなった りす る と,復 元力/は ,
運動方程式 に反映する復元力 は,時 々刻 々,実 験 か ら測
お よびχの非線形関数,そ れ も記憶 のある非線形関数 と
な る。地震応答の数値 シ ミュ レー シ ョンをお こな うとき
定す るのである。通常載荷実験 は非常 にゆっ くりと行わ
れ るので,復 元力の うちの速度 に依存す る部分 は無視 さ
に は,こ のプの時々刻々 の値 を構造物 の数 学 モデルに立
れ ることになるが,仮 想の粘性減衰 を付加 することで補
脚 して求 め,(1)式 を数値積分 して変位応答 (建物 のゆ
れ)を求 めるのであ る。非線形関数/に 直接数学 モデル を
正 した り,最 近で は実応答速度の 5分 の 1程 度 の動的載
仮定す る場合 もある し,素 材 レベルでの応力ひずみ関係
の数学 モデルか ら出発 して/を 算定 す る場合 もある。 い
ずれに して も,こ の ような数値 シ ミュ レー ションの成否
は/に 関 して仮定 す る数学 モデルの妥 当性 に大 き く左右
この実験手法 は,い わば実験 と解析の中間的な手法であ
され る。
ー
数値 シ ミュレー シ ョンで は,コ ンピュ タのメモ リの
上 で仮想 の構造物 を作 って,そ の揺れ をニ ュー トンの運
動法則 に したが つて計算す るのであ り,い わば虚構の世
界 でのお話である。 それ に対 して,構 造物 の物理的な模
型 を製作 して,そ の模型 に対す る実験 にようて地震応答
を調べ る実験 シ ミュ レー ションの方法 がある。古 くか ら
行 われてい る実験 シ ミュ レー シ ョンとして,振 動台実験
が ある.こ れ は構造物 の縮尺模型 を振動台の上 に載 せ,
荷実験 か ら復元力 を測定す ることも可能 になっている.
り,振 動台実験 に比 べ て比較的容易 に実行す ることがで
きる。た とえば,実 大の骨組模型 を実験 す るには,非 常
に高価 で規模 の大 きな振動台施設 が必要 となるが , この
実験手法 では,模 型 を壊す能力のあるジャッキ と小 さな
コンピュー タがあればよい。
ー
構造物 の実際の挙動 に基づいてシ ミュレ シ ョンを行
い恣意的な仮定 が少 ない とい う観点,い わば実証性の観
点からする と,① 振動台実験,② オンライン応答実験,
③数値 シミュレー ション,の 順である。と ころが,簡 単
に安価なシミュレーションが行 えるとい う観点か らは,
①数値 シミュレーション,② オンライン応答実験,③ 振
動台実験, と順序が逆になる.特 に耐震設計規準策定の
振動台 に地震の際の地面の揺れ を再現 させて,構 造物模
型 の揺れ を実測す る とい う方法 である。
写真 1 振 動台実験 の例 (火力発電所建家)
12
写真 2 オ ンライン応答実験 の例 (3層 筋かい付骨組)
40巻 12号 (198812)
生
振動 台実験
電 算機 ― 試験機
オ ン ライ ン実験
産
研
究
純粋 数値解 析
実
験
κ l に固定
/1
復元力の測定 v
変位の強制
台 の動 き
数 値 解 析
so l\.e
/
Mk'+f
_ _My
実 測復 元力特性
数
値積 分
復 元 力特性 の
数 式 モデ ル
数
値積 分
電 算機 ― 試験機 オ ン ライ ン実験 は, 電 算機 に よる地震 応答解 析 と
載荷実験 とを組み合 わせ た地震 応答 シ ミュ レ ー シ ョ ン 手 法 で ,
Pseudo―
d y n a m i c T e s t ともΠ
手ばれ, 各 方面 で広 く利用 されて い る.
図 3 地 震応 答 シ ミュ レー シ ョンのよヒ較
問題 で は,地 震入力 に大 きな不確定性があ り,設 計 され
る構造物 も多種多様 であるので,広 範 なパ ラメー タにた
ある程度満足のゆ くモデ リングが行われた ような錯覚 を
受 ける。実際一昔前 までは,な ん らかの数学モデルに立
い して数多 くの シ ミュレー シ ョンを行わない と意味 のあ
脚 した構造解析で,こ の程度実験結果 を近似 で きる と大
る知見が得 られない場合がある。 この ような点か らは数
値 シ ミュレー シ ョンが絶対有利 なのであるが ,肝 心の構
きな成功 を感 じた ものである。
造物 の数学 モデルがいい加減 で シ ミュレー シ ョン結果 に
シ ョンに使用 した結果 を示 した ものである。 これ らの数
学 モデルの多 くは数値 シ ミュレー ションに使 って も良好
信頼 がお けないので はどうしようもない。賢明な方法 と
しては,比 較的少数 の実験 シ ミュレー シ ョン結果 と比 較
図 4の (3)は , これ らの数学 モデル を数値 シ ミュレー
な予測精度 を有 して い るが,な かには僅 かなモデ リング
す ることによって,あ る程度数学 モ デルの妥当性 を検証
してか ら,広 範 なパ ラメー タ に対 して数値 シ ミュレー
誤差 が引金 となって大 きな予測誤差 を生 じる場合がある
シ ョンを行 う ことで ある。
は,モ デ リング誤差 に非常 に鋭敏 な部分があることを意
3 鋼 構造骨組 の地震応答実験 々と地震応答解析
図 4の (1)に は,著 者 らの研究室で数年来実行 した鋼
構造骨組模型 に対 す る地震応答実験 シ ミュレー シ ョンで
ことがわかる。 これは,弾 塑性地震応答の予測の問題 に
味 してお り,こ の方面の研究者 は常 に この事実 を念頭 に
おいてお く必要がある。
図 6は ,鋼 構造骨組 の終局限界状態設計 に関係 のある
観察 された履歴 曲線 (地震 中の復元力/と 変位 χとの関
と思 われ るい くつかの応答量 につ いて,上 記 の数 値 シ
ミュレー ション結果 と実験結果の比 をプ ロ ッ トした もの
係)を 表 した ものである.
である。全般的 に,骨 組 の履歴吸収 エ ネル ギーや復元力
図 4の (2)に は,実 験履歴 曲線 をある数学 モ デルで近
の劣化が生 じない場合 の最大変形量 な どは簡単 なモデル
似 して,そ の数学 モデルに実験 で観察 された変位履歴 を
で も良好 に予測で きるが,残 留変形量や復元力 の劣化 を
先験 的 に与 えて履歴 曲線 を描 いた ものである。使用 した
モデル は図 5に 示す ような 4要 素並列型 バ ネであ り, 4
伴 う場合の最大変形量 な どは予測精度が悪 い とい う傾向
がある.特 に履歴吸収 エ ネル ギーの予測精度が驚異的に
種類 のバ ネ (2個 の完全 弾塑性 バ ネ,弾 性バ ネ,ス リッ
プ型 バ ネ)の 同一変位履歴 に対 する復元力の和 で履歴 曲
良好 であることがわか り,精 密 な弾塑性挙動の数学 モデ
ルが確立 して いない間 は,履 歴吸収 エ ネル ギー に基づい
線 を近似 した ものである。 (1)と (2)と を比較す る と,
た終局限界状態設計が有用な もの となるであろう3N41.
13
4 0 巻1 2 号 ( 1 9 8 8 1 2 )
生
産
研
究
景'一
TEST CODE : 01
TEST CODE : 02
TEST CODE :
03
TEST CODE : 04
TEST CODE : 08
4 実 験 シ ミュレー シ ョンの意義
参 考 文 献
一
:電
ほか
算機―試験機 オ ンラインシステムに
高梨晃
よる構造物 の非線形地震応答解析 (その 1)∼ (その
5),日 本建築学会論文報告集,第 229号 (19753),第
振動台実験やオ ンライ ン応答実験 な どの実証的な地震
応答 シ ミュ レー シ ョン技術 は,
a)設
b)数
計 構造物 の耐震性能 の確認 ,
値 シ ミュレー シ ョンに用 い る数学 モ デル の妥
2)
当性 の確認 ,
c)耐
震終局限界状態 の設定 。定量化,
な ど,構 造物 の耐震設計 や設計規準 の策定 のため有効 に
利 用 す る こ とが で きる。
(1988年 9月 14日受 理 )
268号 (19786),第 288号 (19802),第 291号 (1980
5),第 295号 (19809)
大井謙―,高梨晃一 :鋼 構造骨組模型 の地震応答実験に
おける履歴性状 ―鋼構造骨組 における弾塑性地震応答
の予演」
精度 (第 1報 )一 ,日 本建築学会構造系論文報告
集,第 373号 ,19873
秋 山宏 :建 築物 の耐震極 限設計,東 京大 学 出版 会,
1980 9
14
生 産
40巻 12号 (198812)
++a
研
究
599
"Q+,Q+,Q+"Q
6 8 10 12
(2)応
13
14
15
16
17
18
答変位 の幅
。 :最 も応答量 の 大 きな層
2)完 全 弾塑性 バ ネ (1)
1)ス リ ンプ型 バ ネ
s4'6 810 12'E-i4
ltlt.j7lF-ib-
TestCode
留変位
(3)残
● :最 も応答量 の大 きな層
辮1調
一―
需 H“
競I ぎ
4)弾 性 バ ネ
3 ) 完 全 弾塑性 バ ネ ( 2 )
図5
―
4 要 素履 歴 モ デル
tt TTTTTTT Te●
( 4 ) 履 歴吸収エネルギー( 各層)
0 : 最 も応答量の大きな層
3468Ю
d p"ur
dpr".,
code
―一
譜led:罰
:き
も
誌
:led― 競8:ぎ
I-slof)
13468Ю
(1)最
2T14 T T T T 19 TcttCode
大応答変位
● :最 も応答量の大きな層
図 6 各 種応答量の予預」
大井謙―,田 中尚,高 梨晃一 :地 震動による構造物 へ の
エネル ギー入力の統計量予測 に関する基礎的考察,日本
建築学会構造系論文報告集,第 347号,19861
.l_srorJ _
J-storr
_
34 6 8 1012 13 14 15 16 17 18 19 Test Code
( 5 ) 履 歴吸収 エ ネル ギー ( 全体 )
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