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アゼルバイジャン再訪 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

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アゼルバイジャン再訪 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
JOGMEC モスクワ事務所 副所長
原田 大輔
エッセー
アゼルバイジャン再訪
~火の国での新たな発見~
はじめに
例えば、アゼルバイジャンの国旗と
次に国章。国章は査証(ビザ)に必
国章(図1)。国旗には新月と星が中
ず押されるものであり、政府機関や公
振り返れば、自分にとって研修を除
央に配されており、同国のイスラーム
式文書、街角でもよく見かけるもの。
く最初の海外出張が、8年前のアゼル
色を垣間見ることができるが、その星
中心には石油・天然ガスの炎が燃え、
バイジャン であった。2年前にモス
は実は八角であるのをご存じだろう
八角星が美しいデザインだが、その円
クワへ赴任して以来、プロジェクトが
か? 新月と星は元来オスマン帝国の
を支える植物まで目が及ぶ人は少ない
*1
*3
立ち上がった東シベリアを除けば、同
国旗に発祥したと言われ
国への渡航は公私含め最も多い渡航先
トルコ、ウズベキスタン、トルクメニ
そして左は厳しい環境でも成長する力
となっている。
スタン(図2)などのテュルク人の国
強さの象徴トーポリ*5を示していると
アゼルバイジャン(Azerbaijan)と
家などで使われているシンボルだが、
言われ、アゼルバイジャンの国情を知
言えば、その名がアゼルバイジャン語
五芒星であることが多いイスラーム教
る手がかりを与えてくれる。
*2
、その後
ご ぼうせい
だろう。この植物は、右は主食の麦、
で「火を守る者」を意味するところ 、
の国旗のなかで、アゼルバイジャンは
つまり、石油・天然ガスという切り口
八角星を用いている。この八角星の
で語られることがほとんどだが、本稿
由来は、8グループあると言われてい
では外資導入から15年という節目を迎
るテュルク系諸民族を象徴するもの
1991年のソ連解体、そしてCIS諸国
えたアゼルバイジャンについて、2008
で、テュルク人に対する誇りを感じさ
独立のなか、進んで外資を導入してき
*4
1. アゼルバイジャン・概観
年6月に開催された展示会の概要を交
せる 。国旗の青はテュルク人の色、
たアゼルバイジャン。1994年以降これ
えながら、資源だけではない横顔とと
緑はイスラーム教、赤は自由と近代化
まで未開発だった海上鉱区を中心に外
もに紹介していきたい。
を表しているという。
資各社が参画し、1997年には最も有望
トルコ
図1 アゼルバイジャンの国旗と国章
ウズベキスタン
トルクメニスタン
図2 五芒星をあしらった国旗
*1:本稿では表記は現地発音に近い形でのカタカナ表記を採用し、英語表記が一般化しているものはそのまま採用した。また、アゼルバイジャン共和国の
表記については「アゼルバイジャン」で統一した。
*2:アゼルバイジャン語古語でazerは「火」を、baijanは「守る者」を意味するという。また、紀元前4世紀に現在の北部イランを支配していた王国アデル
バイガン(ギリシャ語名アトロパテナ)がアゼルバイジャンに転化したという説もある。
*3:13世紀から20世紀初頭にかけて、広大な版図を築いたオスマン帝国で採用された国旗が発祥。その後各地のイスラーム国家で採用された。
*4:八つのグループとは、六つの主権国家(アゼルバイジャンの他、トルコ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、トルクメニスタン)、ロシ
ア連邦内の1構成主体(タタールスタン共和国)およびセルジューク朝(11~12世紀に現在のイランを中心に支配)の末裔(まつえい)である北部イ
ラン在住のテュルク人を指す見方。その他、人間の一生に関与する八つの要素を表すという見方もある。
*5:日本ではポプラ(箱柳)として知られ、ロシアにも広く植樹されている。春から初夏にかけて綿毛が雪のように舞う。また、力と耐久の象徴として好
まれているオーク(樫=カシ)の葉を表すという見方もある。
*6:ACGプロジェクト:アゼルバイジャン領南カスピ海へ延びるApsheron Trend上の各油田(Azeri、Chiragおよび水深150m以深のGunashli)を対象と
するプロジェクト。確認可採埋蔵量54億バレル。
BTCパイプライン:アゼルバイジャンのバクー(Baku)を起点とし、グルジア共和国トビリシ(Tbilisi)を経由し、地中海に面するトルコのジェイハ
ン(Ceyhan)に至る原油パイプライン(総延長1,760km/輸送能力100万バレル/日)。
双方とも本邦企業(伊藤忠商事株式会社、国際石油開発帝石株式会社)が参画。なお、JOGMEC石油・天然ガスレビュー2005.5 Vol.39「本格市場デビュー
するカスピ海原油 ―真近に見たBTCパイプラインに思うこと―」伊藤忠商事・伊藤忠石油開発バクー事務所長 杉浦敏広氏著も参照されたい。
79 石油・天然ガスレビュー
エッセー
表1 アゼルバイジャン各指標
Gunashli2008年生産開始
45
%
40
40
35
35
Azeri生産開始
30
25
国名
アゼルバイジャン共和国
Azərbaycan Respublikası(アゼルバイジャン語)
Republic of Azerbaijan(英語)
面積
8万6,600km2(日本の約4分の1)
人口
850万人(首都:バクーに約200万人が集中)
民族
アゼルバイジャン人:90%、ロシア人:2.5%
アルメニア人:2%、等
30
25
Chirag生産開始
20
20
15
15
10
10
5
5
0
0
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 年
天然ガス生産量(BCM)
GDP成長率
原油生産量(MMt)
(左目盛)
(左目盛)
(右目盛)
出所:世界銀行およびRussian Petroleum Institute統計2008
公用語
アゼルバイジャン語(テュルク諸語に属し、トルコ語とも
意思疎通可能)
宗教
イスラーム教(シーア派)が優勢(一方、酒、豚肉等に寛
容な側面も)
GDP
298億USD
1人あたりGDP
3,729USD
インフレ率
アゼルバイジャンGDP成長率と
図3 原油・天然ガス生産量の推移
16.6%
出所:外務省各国・地域情勢「アゼルバイジャン共和国」2007年、カッコ内は
筆者による
視されていたACGプロジェクト *6 か
の独立のなかで、先んじて外資導入政
きたアゼルバイジャンでは、近年エ
ら原油生産を開始。2006年にはロシア
策を採り、最も有望と見なされていた
ネルギー供給国としての重要性に加
を迂回し、カスピ海原油を世界市場に
ACGプロジェクトに、1994年、BPを
え、エネルギー“回廊”としての重要
輸出する手段として注目を集めた
オペレーターとする西側コンソーシア
性が、周辺供給国、需要国そして通
BTCパイプライン の初出荷が実現。
ム(1996年に伊藤忠石油開発株式 会
過国の間で急速に高まっている(図
15年目という節目にあたる現在、原油
社:3.9%、2002年に国際石油開発
4)。既述のBTCパイプライン(原油)
価格高騰という追い風もあり、高成長
株式会社:10%)が参画し、開発が進
およびSouth Caucasus(BTE)パイ
が継続しており、2007年の経済成長率
うかい
*6
められた。
プライン(天然ガス)に加え、欧州
*7
は23.4%と推定され 、今後も順調な経
その他日本企業もポテンシャルがあ
への供給を目指すNabuccoパイプラ
済成長が見込まれている(図3、表1)
。
ると見なされた鉱区に参画するも商業
イン(天然ガス/後述)、トルクメニ
油田の発見に至らず、最終的にはBP
スタンの天然ガスをアゼルバイジャ
のプロジェクトのみがCIS諸国からの
ンへ海底輸送するTrans Caspian(カ
現在のアゼルバイジャン共和国の首
ルートでは初めてロシアを迂回する
スピ海横断)パイプライン等、実現
都バクーを中心としたカスピ海南西部
BTCパイプラインプロジェクトととも
性は別としても枚挙に暇がない。
アプシェロン半島は、米国に並び19世
に、2005年より生産、2006年より出荷
ロシアから見れば、通過国が分散
紀帝政ロシアの時代から世界で最も石
が開始され(試験生産は1997年~)、
することにより、タリフ(関税)に
(1)石油略史
*8
いとま
油開発が進んだ地域。20世紀前半には
シャハ・デニズ ガス田も2006年より
よる経済的恩恵や特に天然ガス価格
陸上油田は成熟し、ソ連時代ではヴォ
ガスの生産を開始し、現在アゼルバイ
への影響力が薄れるとともに、さら
ルガ・ウラル(第2バクー)
、西シベリ
ジャン国内およびSouth Caucasus
に国内開発の遅延により近い将来減
ア(第3バクー)へ開発・生産の中心
を譲りながら、オフショア開発は技術
*9
(BTE)パイプライン によりグルジ
*10
アおよびトルコに輸出されている
。
がなかったために進められておらず、
カスピ海海上のポテンシャルは放置さ
れてきた。ソ連崩壊に伴うCIS諸国
退する恐れがある天然ガスについて
は、欧州向けの中央アジア産天然ガ
スの確保が急務となっている。前述
(2)生産国からエネルギー通過国へ
新規探鉱ポテンシャルが成熟して
のとおりロシアを迂回する最初のパ
イプラインとして欧米の強力なバッ
*7:EBRD推計値。
*8:アゼルバイジャン語で“海の王”の意。確認可採埋蔵量は天然ガス22兆cf、コンデンセート7.5億バレル。ACGプロジェクト同様にオペレーターはBP(ガ
ス販売オペレーターについてはBPと同等の権益を持つStatoilHydro)。他パートナーは欧州(仏、トルコ)、露、イラン各国の石油会社およびアゼルバ
イジャン国営石油会社SOCAR。
*9:South Caucasus(BTE)パイプライン。BTC同様にバクー、トビリシを結び、トルコ・エルズルム(Erzurum)に至る天然ガスパイプライン(総延
長970km/輸送能力年間約300億CM)。
*10:JOGMECホームページ石油・天然ガス資源情報リポートのうち、2008年1月9日「アゼルバイジャンShah Denizガス田で追加埋蔵量を発見」古幡哲也著
も参照されたい。
2008.11 Vol.42 No.6 80
アゼルバイジャン再訪
~火の国での新たな発見~
北ルート
RUSSIA
西ルート
サウスコーカサス
(BTE)
ガスパイプライン
Novorossiysk
BTC石油パイプライン
ノボロシスク
BTC石油パイプラインのポンプステーション
アブハジア
自治共和国
南オセチア
南オセチア
自治州
自治州
BLACK SEA
黒 海
Kulevi クレビ
Poti ポチ
Supsa スプサ
Batumi バトゥミ
GEORGIA
カスピ海
Gori
ゴリ
Tbilisi
トビリシ
Sangachal Terminal
アジャール
自治共和国
サンガチャル ターミナル
Kars
Refahiye
KAZAKHSTAN
CASPIAN SEA
ARMENIA
カルス
レファヒエ
Baku
ACG油田
TURKMENISTAN
バクー AZERBAIJAN
Shah Denizガス田
Erzincan
エルジンジャン
Erzurum
エルズルム
エルズルムからトルコ国内幹線
パイプライン
(→ギリシャ)に接続
TURKEY
Ceyhan
ジェイハン
Neka
IRAN
SYRIA
MED.SEA
地中海
0
100
200
ネッカ
IRAQ
0
300 km
100
200
300km
出所:JOGMEC
図4 アゼルバイジャンからの原油・天然ガスパイプライン
クアップにより進められたBTCパイ
プラインをはじめ、シャハ・デニズ
ガス田も同様にロシアを迂回して欧
2. Caspian Oil and Gas
Conference 2008:
日本企業の活躍*13
発関係会社が出展する大規模な見本市
であり、毎年の会場となっているヘイ
ダル・アリエフ・スポーツコンプレッ
州へ送るアゼルバイジャンの姿勢に
じく じ
なる。30カ国から200社以上の石油開
対しては、ロシアには忸 怩 たる思い
ここで、その石油・天然ガスの国・
クスもイルハム・アリエフ現大統領*14
があると推察される。だが、その一
アゼルバイジャンで外資導入と機を同
により、15年という節目となる今回の
方で、米国のMD(ミサイル防衛)構
じくして開催されてきた、石油見本市
展示会を盛大に行うべく指示がなされ
想へのロシアの対案としてアゼルバ
Caspian Oil and Gas Conference 2008
たとのことで、今年から外装が新しく
イジャンのレーダー基地を貸与する
についてその概要を簡単に報告した
なった(写1、写2)
。
、両国の関係が
い。1994年に始まり、今年が節目とな
第一印象では、上流企業よりも生産
悪化しているという話は聞かず、現
る15回目。出展の中心である伊藤忠商
エンジニアリング・化学メーカーの出
政権は、原油輸出を軸とした対欧米、
事株式会社(伊藤忠石油開発株式会社)
、
展が目立つことが挙げられる。昨年と
そして国際石油開発株式会社はそれぞ
比較すれば、昨年はインド国営石油会
等関係国の間で上手な舵 取りを行っ
れ7回目の出展、弊機構(JOGMEC)
社であるONGC Videsh*15がメイン会
ている。
は旧公団時代も含めて11回目の出展と
場で初出展し目を引いたが、今年は出
ことで協力する等
GUAM
*12
*11
に見られる対CIS諸国外交、
かじ
*11:2007年7月、米国の対イラン・ミサイル防衛の東欧配備計画に対するロシアの対案として、アゼルバイジャン北部ガバラレーダー基地の米露共同使用
をプーチン・アリエフ両国首脳が合意の上、米国へ提案。
*12:1996年結成されたグルジア、ウクライナ、アゼルバイジャンおよびモルドバ(2005年まではウズベキスタンも加盟)4カ国による親米の国家連合。
2006年には事務局をキエフに設置。
*13:JOGMECホームページ石油・天然ガス資源情報リポートのうち、2008年6月19、24日「アゼルバイジャン:石油・天然ガス開発に関する最新情勢につ
いて」古幡哲也著も参照されたい。
*14:2003年死去した初代大統領ヘイダル・アリエフの息子。旧ソ連諸国で最初の世襲政権となる。1期目5年を満了する今年10月に2期目を目指し立候補し、
再選。
*15:インドの国営石油会社ONGCの海外開発子会社。Videshはヒンディー語で「外国・海外の」を意味する。
81 石油・天然ガスレビュー
エッセー
出所:筆者撮影
出所:筆者撮影
外装新しいヘイダル・アリエフ・
写1 スポーツコンプレックス
展しておらず、マネージメントクラス
出所:筆者撮影
イルハム・アリエフ大統領の
写2 メイン会場
臣クラスを派遣してきていることも目
*16
。
写3 演説
計回りにOMV、BP、SOCAR、日本
企業ブース、StatoilHydroが場所を占
を1名派遣するにとどまった。また、
を引く
一昨年から出展を行わなくなった
その後、ラシザデ首相(写4)が各
め て いる。なかでも目を引くのは、
ConocoPhillipsに代わり、Nabucco
ブースを訪問し、メイン会場中央に位
ConocoPhillipsに代わり、一昨年か
パイプラインプロジェクトを主導する
置する日本企業ブースにも挨拶に来ら
らメイン会場中央に出展している
オーストリアのOMVやドイツ企業の
れた
(なお、昨年は大統領夫妻が各ブー
Nabuccoパイプラインプロジェクトの
出展、最近首脳会談を活発化している
スを訪問したが、今年はスケジュール
オペレーターであるOMV(写6)だ。
韓国企業の来訪者が多かった感があ
の都合とのことで国営石油会社
Nabuccoパイプラインプロジェクトは
る。既述のとおり、生産段階以降の裾
SOCARのブースのみの訪問にとど
2005年6月、オーストリア、ハンガリー、
野で活躍する企業の出展が多いこと
まった)。また、最終日には出張直後
ルーマニア、ブルガリアおよびトルコ
は、石油開発ポテンシャルが成熟して
の大木大使(写5)も空港から会場を
が計画に合意したプロジェクト。アゼ
いることの証左と言えるだろう。
訪れ、日本企業の最近の活動について
ルバイジャンとイランを天然ガスの供
開会式ではイルハム・アリエフ大統
各社が紹介するとともにブース前でア
給ソースとして、年間310億CMを中
領の演説(写3)に続き、米国からユー
ゼルバイジャン国営テレビの大使イン
欧へ送る計画で、2006年6月にはさら
ラシア地域エネルギー担当特命全権公
タビューが行われた。
に各国エネルギー相とEUが推進に合
意し、現在2010年までの予定でFSを
使、英国から貿易産業相、イスラエル・
国家インフラ相等が演説を行った。イ
(1)Nabuccoパイプラインプロジェクト
スラエルはアゼルバイジャンにとって
最も値が張り、宣伝効果も大きい
具体的な計画としては、2009年か
イタリアに次ぐ貿易相手国であり、大
メイン会場中央には、コの字型・時
ら建設および既存PLの増強を開始
出所:筆者撮影
出所:筆者撮影
出所:筆者撮影
写4 ラシザデ首相
行っている。
写5 大木大使の日本企業ブース訪問
Nabuccoパイプライン
写6 プロジェクトブース
*16:アゼルバイジャンの輸出相手国:1位 イタリア、2位 イスラエル、3位 トルコ(CIS Fact Book 2007)。
2008.11 Vol.42 No.6 82
アゼルバイジャン再訪
~火の国での新たな発見~
し、2012年までに完成、供給を開始
とって、ロシアを迂回するパイプラ
からSouth Streamプロジェクトが優
する。現時点でのパートナーはドイ
インの存在は欧州市場を失っていく
勢であると見られている(表2)。
ツ企業(RWE/同社もメイン会場に
ことに他ならない。このNabuccoパイ
出展) を 含 め て 6社。各社の比率は
プラインプロジェクトの発表に対し
等分(16.67%)。PL全長:3,300km
て、ロシアのGazpromはイタリアEni
(口径:56インチ=約1.42m)/総事業
と2007年にロシアから黒海を抜け、
費:50億~79億EURと見積もられて
イタリアに至るパイプライン計画に
ここからは、若干石油・天然ガスを
ついて覚書に調印し、2008年初から
離れて、知られざるバクーの側面につ
通過関係国(ブルガリア、セルビア、
いて紹介していきたい。既にアゼルバ
ハンガリー)と矢継ぎ早に政府間で
イジャンを訪問したことがある方な
合意した。供給ソース、市場の重複
ら、この国がゾロアスター教の聖地と
このプロジェクトが注目を集める
による経済性の問題もあり、両立に
なっていることを耳に挟んだことがあ
のは、ロシアがカウンタープロジェ
は疑問符が残る両プロジェクトを比
るかもしれない。ゾロアスター教は紀
クトとして発表したSouth Streamプ
較すると、現時点では政治的なパワー
元前にアケメネス朝ペルシアで広まっ
ロジェクトの存在にある。ロシアに
バランスおよび供給源の確保の観点
た宗教と言われており、火を崇拝の対
いる
*17
。
(2)N abuccoパイプライン vs.
South Streamパイプライン
3. 知
られざるバクーとの
出会い
象とすることから拝火教の名前でも知
表2 NabuccoパイプラインとSouth Streamパイプラインの比較
られる*18。石油・天然ガスが露頭し、
自然発火することも想像に難くないア
ゼルバイジャン。まさに火の国である
Nabuccoパイプライン
South Streamパイプライン
事業主体
オーストリアOMV、他5社*
Gazprom・Eni
通過国
トルコ~ブルガリア~ルーマニア~
ハンガリー~オーストリア
ロシア~ブルガリア~セルビア~ハ
ンガリー~オーストリア
総延長
3,300km
(黒海海底部分のみで)900km
操業開始予定
2012~13年
2013年
輸送能力
年間310億CM
年間300億CM
*MOL(ハンガリー)
、トランスガス(ルーマニア)、ブルガルガス(ブルガリア)、ボタッシュ(ト
ルコ)およびRWE(ドイツ)。比率は等分(16.67%)
出所:筆者とりまとめ
この国が聖地となっていることは想像
に難くない。バクー近郊、車で30分程
度のところにまさにそのことを証明す
るかのように、自噴する天然ガスが日
夜燃えている場所がある(写7)。観
光書にも「マンメヘディ」や「マンマ
ンディ」という名称で紹介されている
が、現地では「ヤナルダグ」と呼ばれ
ることが一般的のようだ。昼間でも炎
が燃えさかっているのが分かるが、さ
らに日没直後に行くと幻想的で、宗教
発祥時の人間の気持ちが理解できる、
そんな場所だ。
かいこう
(1)ゾロアスター寺院での邂逅
ゾロアスター教は現在も信仰されて
いる宗教で、その信者の多くがインド
西部にいるのをご存じだろうか。11億
右奥の建物は訪問者のための茶屋
出所:筆者撮影
写7 ヤナルダグに燃える火
超の人口を抱えるインドでは大多数の
ヒンドゥー教に比べれば、宗教人口も
20万人弱と言われており少数だが、彼
らは比較的裕福な社会層を形成し、ペ
*17:JOGMEC石油・天然ガスレビュー 2008.5.Vol.42「ロシア:カスピ海周辺からの欧州向けガスパイプライン構想の最近の動向について」古幡哲也著も参
照されたい。
*18:ゾロアスター教の起源については紀元前15~同6世紀と幅がある。アゼルバイジャンへは紀元4世紀頃、ペルシアから伝播したと言われている。
83 石油・天然ガスレビュー
エッセー
デーヴァナーガリー文字
ペルシア文字
出所:筆者撮影
写8 バクー近郊のゾロアスター教寺院とデーヴァナーガリー文字の碑文
ルシア(現在のイラン)から伝わった
部屋の入り口の上部には、
宗教を信仰していることから、パール
まさに大 学 時 代 に 学 ん だ
スィと呼ばれていることで有名だ。イ
デーヴァナーガリー文字 *
ンド最大の財閥で、
今年6月にはフォー
19
ド傘下の高級車部門ジャガーおよびラ
ア文字と上下して壁面に埋
ンドローバーを買収し、秋には10万ル
め 込 ま れ て い た ( 写 8 )。
ピー(1ルピー=約2.1円)の大衆車ナ
恐らくサンスクリット語で
ノを発売することで注目を集めたタタ
書かれた碑文については、
財閥、その一族がパールスィであるこ
力足りず、何が書いてある
ともインド人の間では広く知れわたっ
かまでは判別できなかった
ている。
が、このアゼルバイジャン
く
で書かれた碑文がペルシ
ギャンジャ
バクー
著者は奇しくも大学時代にインドに
という火の土地で、インド
留学し、ムンバイー(旧ボンベイ)近
の文化の結晶の一つである
郊にあるゾロアスター寺院や死者を鳥
デーヴァナーガリー文字に
葬に付す沈黙の塔の存在を聞き及んで
出会うという奇妙な偶然に
いたことから、バクーにゾロアスター
心から感動したのを覚えて
寺院があるという歴史に納得をしつ
いる。
つ、いまでもゾロアスター教寺院にイ
出張からモスクワへ戻っ
ンド人信仰者が訪問しているのではと
た後、アゼルバイジャンとの不思議な
さきの展示会で知り合った方の好意で
感じた。
縁を振り返りつつ、モスクワよりも温
早くも実現することになった。伊藤忠
寺院はバクーから車で30分程度、ヘ
暖な気候、香辛料の利いた食事、乾燥
商事株式会社バクー事務所スタッフの
イダル・アリエフ国際空港の近くにあ
した風(その風にぴったりのアゼルバ
ご家族が展示会に来られ、8月に実家
た
る。院内では火がいまでも焚かれてい
イジャン産ビールKhirdalan
るが、自噴する天然ガスではなく、現
くも恋しくなった。
出所:ウィキペディア「アゼルバイジャン」より
バクーとギャンジャの位置関係:
図5 バクーからは西北西約200km超
*20
)が早
に囲まれ、各部屋にはゾロアスター教
の史料が並べられている。その一つの
その実家はギャンジャ(図5)にある
と言われたものの、アゼルバイジャン
在は都市ガスが使用されているとのこ
とだった。院内はほぼ四角の塀兼部屋
に来ないかと誘ってくださったのだ。
(2)ア ゼルバイジャン再訪:第2の
都市ギャンジャへ
望んでいたアゼルバイジャン再訪は
といえばバクーしか知らない。早速調
べると、バクーに次ぐ第2の都市であ
り、2500年の歴史を持つ街であるこ
*19: デーヴァナーガリー文字は古代インドで発達し、サンスクリット語をはじめ、現在でもインドでは連邦公用語であるヒンディー語の他、西部マハラー
シュトラ州公用語のマラーティー語、ネパール語等で使用されている。
「デーヴァ」は神を、「ナーガリー」は都市を意味する。
*20:Khirdalanはアゼルバイジャン産の一般的ラガービール。作られている街の名前から名づけられた。この他Nazim Piva(私たちのビール)という銘柄
もある。アゼルバイジャンではイスラーム教が信仰されながらも衣食に関してリベラルな雰囲気がある。
2008.11 Vol.42 No.6 84
アゼルバイジャン再訪
~火の国での新たな発見~
と、バクーとは異なり山岳地帯に近く、
に問い合わせても正直確かな回答は得
を、快く前列に通す日本人としての寛
近傍には1000年前の地震でできた湖も
られなかった。ギャンジャに着いて
大さを試されるときでもある。
。また、モスクワから
即、国外退去というような事態を避け
しばらく待っていると、突然列を整
は週3回の直行便が飛んでいることも
るべく、招いてくださった方に招聘状
理する大使館員が、
「査証申請ですか?
分かり、興味先行、ご好意に甘えて1
を用意して頂き、モスクワの中心、ト
査証申請の方は先に中に入ってくださ
週間のホームステイをすることになっ
ヴェルスカヤ通りにあるアゼルバイ
い」という救い舟を出してくれ、朝か
た。
ジャン大使館で申請を行った(写9)
。
ら並んでいたアゼルバイジャン人に申
6月の、とある雨の降る月曜、9:30
し訳ない顔を向けながら、漸く申請窓
の開館に合わせ、早めに9:00に行った
口へ辿り着くことができた。窓口では
アゼルバイジャンへの日本人入国に
ところ、大使館前には既に40名程度の
簡単な質問(招聘者との関係が中心)
関しては現在、観光査証、訪問査証お
人だかりができていた。傘を差しなが
があり、本国の内務省へ確認の後、金
よびトランジット査証はバクーのヘイ
ら、一緒に並んでいる男性に聞けば、
曜の夕刻までには査証は出ると言わ
ダル・アリエフ国際空港では、必要書
彼らはほとんど全員がアゼルバイジャ
れ、無事受け取ることができた。
類(旅券、招聘レター等)と査証費用
ン人で、モスクワでの労働のための証
(50USD)で取得できる。ビジネス査
明書類を大使館で作成してもらうため
証は確実かつ迅速な方法としては保証
に来ていると言う。私の番号は42番、
8月初旬、モスクワ・ドモジェドヴォ
人が内務省へ報告を行い(別途50USD
これでは午前中がつぶれてしまうと考
空港は夏休みで海外に向かうロシア人
がかかる)、内務省からの受領FAXお
えながら、ふと受け付け時間が11:30
。
で溢れていた(写10)
よび保証人からの招聘状を申請者が在
までであるのを思い出し、もし自分の
ギャンジャへは週3便、アゼルバイ
外公館領事部へ提出することで即日、
番号まで受け付けられなかった場合、
ジャン国営航空が飛んでおり、モスク
発給が可能となっている。時間に余裕
毎朝番号を争って永遠に通い続けなく
ワからは2時間30分という近い距離に
がある場合には、内務省へ報告を行わ
てはならないのでは、という考えたく
ある。今夏モスクワは雷雨が多く、8
ず、在外公館に必要書類を提出すれば、
ない懸念が頭をよぎる。
月初旬まで気温も10℃台まで下がる日
内務省への照会の後、1週間程度でも
こんなとき、女性や小さな子供を抱
が続いていたので、機内放送でギャン
えている人は優先的に列の前へ行って
ジャが31℃と聞いたときには、正直胸
今回は、訪問もしくは観光査証とな
もよく、アゼルバイジャン人の温かさ
が躍る気持ちだった。ギャンジャ空港
るが、ギャンジャ空港で果たして査証
に触れる光景が見られるとともに、突
は最近改装されたばかりで美しく、こ
が取得できるか、大使館やギャンジャ
然乗りつけた車から降りてくる母子
ぢんまりとした空港。夕方、まだ日も
あるという
*21
(3)アゼルバイジャン査証
パスポート
受領可能だ
しょうへい
*22
。
ようや
たど
(4)一路ギャンジャへ
あふ
高く、乾燥した熱気のなか、タクシー
で約30分、ギャンジャ市内を通りホス
トファミリー宅へと向かった。
ギャンジャは昨年で街が開かれてか
ら2500年の節目にあたり、古い歴史を
持つ街。アゼルバイジャン北西部で、
さらに北西150kmにはグルジアの首都
トビリシ、西80kmにはアルメニア、
北東150kmにはロシア・ダゲスタン共
ロシアでの労働許可取得のために長蛇の列が絶
えない
出所:筆者撮影
モスクワのアゼルバイジャン
写9 大使館
ロシアの好景気を感じるひとコマ
出所:筆者撮影
和国に至る。人口約30万人で、バクー
に次ぐ第2の都市であり、BTCパイプ
ラインや幹線道路がバクーからトビリ
モスクワ・ドモジェドヴォ空港
写10 での出国手続き
シへ向かう交通の要衝でもある。街は
その2500年祭から明け、2501年を標榜
*21:ギョーギョル(青い湖)として知られる湖は、1000年前の地震でできたという湖。現在政府の許可がなければ近づくことはできない。その澄んだ清水
は近くの市町村へ政府の車で配給されている。
*22:2008年8月現在のモスクワの事例。最新の査証申請手続きの詳細については、当地のアゼルバイジャン大使館へ照会されたい。
85 石油・天然ガスレビュー
エッセー
する宣伝で覆われていた。
(写11)
今回招待してくださったのは伊藤忠
バクー事務所に勤務しているギュネ
ル・アフメドヴァさんのご実家。広い
空間を持つ住居とその10倍はある農地
が一緒になっており、高い塀に囲われ
ているところを除けば日本の農家を思
い出させる造りだ。
(5)自然とシャシリクと
最も印象的なのは、バクーしか知ら
ない日本人にとっては、この街の緑の
市庁舎(アリエフ大統領父子の肖像と2501年を標榜<ひょうぼう>する宣伝)と街角
出所:筆者撮影
豊かさだろう。車で30分も行けば、ア
写11 市内の情景
ルメニアの国境近くの山岳地帯が始ま
り、緑に覆われた山々と渓谷が広がる
(写12)。早速家族の方と渓谷でシャ
シリクを食べに出かけることになっ
た。
シャシリクは、中央アジアや黒海と
カスピ海に挟まれたカフカースを本場
とする、タレに漬け込んだ肉の塊や野
あぶ
菜を串に刺し、炭火で炙 った料理で、
ロシアでも夏の風物詩として公園や川
べりで楽しまれている。具も牛、鶏、
ギャンジャの緑の多さは一目瞭然
出所:筆者撮影
羊、鮭と多様だが、アゼルバイジャン
では肉類、特に羊がおいしいことで有
名だ。一家の大黒柱から朝6:00にシャ
バクー近郊(左)とギャンジャ近郊(右)
写12 の比較
シリク用の羊をつぶすので、手伝うよ
うに申し渡された。家畜の解体は男性
発泡ワイン、蒸留酒(ロシアのウォト
の役目で、15歳前後から解体の手伝い
カよりも強い、いわゆるサマゴンカと
をするとのことだった。
呼ばれる自家製のもの)もすべて、家
小型の山羊については以前インドで
の畑で取られたものや作ったもの。ま
も見たことがあったが、羊は体躯も十
さに100%自家製のキャンプとなった。
分で興味半分、見たくない気持ちも半
目指す渓谷は、ギャンジャの西70km
分という複雑な心境のまま立ち会った
程度、アルメニアとの国境に近い山間
が、
急所を刺すという事の始まりから、
にあり、近づくにつれ軍隊車両が目
すべ て の 解 体 ま で 1時間強、汗をか
立ってくる。渓谷奥には検問所があ
く 濃密な時間を過ごすことができた
り、警備兵の話ではこれ以上先へは進
(写13)。それぞれの部位に分かれる
めないとのことだった。依然戦時下に
と、げんきんなもので食欲がわいてき
あることを感じさせる場所ではあった
てしまうのは筆者だけだろうか。シャ
が*23、清流が心地よい音をたて、小鳥
シリクに合わせる野菜、果物、そして、
が囀る平和な場所でもあった(写14)
。
や ぎ
迅速さと腸の扱い等繊細さも要求される
出所:筆者撮影
写13 羊の解体
*23:アゼルバイジャンとアルメニアは、アルメニア人居住区であるナゴルノ・カラバフ自治州のアルメニアへの帰属をめぐり、ソ連崩壊後両国が独立する
なか、92年から両国で紛争が勃発し、94年ロシアとフランスが仲介し、停戦が成立するもアルメニア側に不利な内容であったため、アルメニアがナゴ
ルノ・カラバフを占拠したままになっており、解決のめどは立っていない。
2008.11 Vol.42 No.6 86
アゼルバイジャン再訪
~火の国での新たな発見~
気温も適度な自然に囲まれて、家族団らん
出所:筆者撮影
写14 自家製のシャシリク・パーティー
左:ピティー(羊肉をチャナマメ、タマネギ、ジャガイモとターメリック・塩で煮込んだもの/
主に冬に食べられる)、サラダ(アゼルバイジャン産の野菜はモスクワでも新鮮・美味で
有名)。ビールはもちろんアゼルバイジャン産ビールKhirdalan
右:アイラン(ヨーグルトを塩と水で薄めたもの。インドのヨーグルトドリンク、ナムキーン
(塩)ラッシーを思い出させる)
出所:筆者撮影
写15 家庭版ピティーとアイラン
(6)食卓
アゼルバイジャンでは、国章に麦が
ているとのことだったが、羊にはアレ
ンの埋設跡であった。
書かれているとおり、家庭の食卓には
ルギーのない人でも、その濃厚さに驚
ギャンジャから車で30分、郊外に
チョーラヒという、ラバーシュやバキ
くに違いない。喉から羊が這い出して
ある水力発電所の近くに一般道路と
ンスキーフリェップ
(バクー焼きパン)
きそうなくらい、という形容が正しい
交錯する形でパイプラインは埋設さ
等、味や作り方で異なるさまざまな種
かどうかは実際に食べて頂いて判断を
れていた。ポンプ関係と思われるス
類のパン類を主食に、
羊肉や鶏肉を豆、
待ちたいが、果たして家庭でもこのよ
テーションが道横につくられ、警備
タマネギ、ジャガイモ等で煮込んだ
うな強い味が好まれているのか知りた
兵が兵舎に常駐している。パイプラ
スープ、新鮮なトマト、キュウリ等の
く、今回の滞在でもずうずうしく家庭
インが埋設されたところには既に草
サラダが食卓を飾る。また、中央アジ
版ピティーを食べたいと申し出たとこ
が生え、側道と標識(アゼルバイジャ
も、新年等特
ろ、早速作ってくださった(写15)
。
ン語と英語で表記)、ステーションの
別なときに準備される。さらに、羊乳
結果はターメリックの利いた非常に
存在からのみパイプラインが埋設さ
や牛乳から作られたチーズやヨーグル
まろやかな肉じゃがスープという感じ
れていることが分かる。当初写真も
ト製品も欠かせない。
で、おかわりをしてしまったくらい美
撮影、本稿で掲載したいと考えたが、
さて、過去の渡航のなかで、筆者の
味だった。果たしてシェキのピティー
時折しも前日の8月5日深夜にトルコ
記憶に強く残っているピティーという
が本物か、家庭版が本物か、また違う
でBTCパイプラインの爆発事故が発
羊肉のスープについて触れておきた
レストランで試してみたいと思う。
生したばかりであり *26 、警戒は普段
アでは有名なプロフ
*24
は
以上に厳しかった。常時写真撮影は
い。アゼルバイジャン北方の古都シェ
ちな
に因んだレストランに昼食に
(7)BTCパイプライン埋設の場所へ
禁止であり、政府の許可のない立ち
行った折のこと。当地に所縁のものを食
石油の話にも触れておこう。ギャン
入りは拘束・罰金の対象となる。今
べたいと尋ねたら、このピティーとい
ジャは産油地帯ではないが、冒頭に述
回は記憶から辿った絵だけを掲載す
うスープが厳かに土製のポットに入れ
べたとおり、BTCパイプラインがト
ることにしたい(図6)。
られ出てきた。具をポットの中でつぶ
ビリシへ向かう途上に位置し、埋設さ
ギャンジャへのプライベート訪問は
し、スープだけを皿に出してまず食べ
れたパイプラインの現場を見ることが
査証取得から始まり、振り返ると長い
るのだという。家庭でも冬場を中心に
できる。今回のステイでも実は一番見
期間を費やしたものの、予定していた
体を温めるものとして好んで食べられ
たかったのが、このBTCパイプライ
8日間は瞬く間に過ぎてしまった。こ
キ
*25
*24:油で炒めたニンジン、タマネギ、羊肉、各種スパイスをご飯と炊き上げたもの。アゼルバイジャンの家庭では、特別な祝祭(結婚式等)で食べられる。
*25:アゼルバイジャン北部、大カフカース山脈の南側に位置。古代の遺跡が残る観光地の一つ。
*26:BTCパイプライン・トルコ区間、エルジンジャン地方レファヒエで2008年8月5日深夜爆発が発生。同パイプラインの通油は停止。爆発の原因につい
ては本稿執筆時点では不明。
87 石油・天然ガスレビュー
エッセー
おわりに
ゼルバイジャンの情報についてお知ら
アゼルバイジャンの国民的詩人である
日本語そのままに「ハラダ・サーン」
今後生産国だけでなく、エネルギー
ニザーミ・ギャンジャビや、立ち入り
という音韻の組み合わせは、アゼルバ
通過国としても注目を集めることは間
には政府の許可を必要とする美しい湖
イジャン語で「君、どこにいるの?」
違いないアゼルバイジャン。モスクワ
ギョーギュル等、触れるには至らな
という意味になる。アゼルバイジャン
から見ると、アゼルバイジャンはロシ
かったものがまだある。お土産に持ち
の方々との交流では、紹介に臆せず、
ア外交のなかで無視できない存在であ
帰ったアゼルバイジャンビール
覚えてもらいやすいことも、自分がこ
り、それは裏返しに欧米諸国にとって
Khirdalanと甘く濃厚なアゼルバイ
の国に引きつけられる理由の一つかも
も同じ意味を持つことは明らかだ。こ
ジャンワインを飲む度に、次回への道
しれない。また、暖かく、ときに厳し
れからもモスクワから同国の動向をウ
標としたいと考えている。
い気候の中ではぐくまれたアゼルバイ
オッチすることは必要不可欠であり、
の8日間でギャンジャのすべてを“観
破”したわけではない。この街出身の
出所:筆者作成
ギャンジャ近郊・BTCパイプライン
図6 埋設現場とステーション
せいただけるなら幸いである。
ジャンの文化として、客人を
再訪のときが待ち遠しい。
精いっぱいもてなすという精
最後に、アゼルバイジャンについて
神があるというが、日本には
さらに知見を深めたいと思っていたさ
失われつつあると感じるこの
なか、今回幸運にも一般家庭へのホー
ような側面に触れ、冬季厳し
ムステイが実現したのは、ひとえに受
いモスクワの気候との比較と
け入れてくださった方々のご尽力によ
も相乗して、気がつくとまた
るものであることを申し添えたい。招
訪れたくなっている自分に気
聘手続きはじめ、受け入れ態勢に万全
づく。
を期してくださったギュネル・アフメ
筆者の興味が先行し、偏り
ドヴァさんご一家・ご親戚の皆様に心
があることは重々承知の上
から感謝申し上げたい。また、本稿執
で、思い徒然なるままにアゼ
筆に加え、日頃から貴重なご助言・ご
ルバイジャンについて紹介を
指導を頂いている伊藤忠バクー事務
試みてきた。もし内容につい
所・杉浦敏広所長に御礼申し上げたい。
つれづれ
て不明な点やさらに奥深いア
【参考文献】
1. 読んで旅する世界の歴史と文化 ロシア(原卓也監修/1996/新潮社)
2. 新訂増補 南アジアを知る事典(辛島登編/2002/平凡社)
3. 新版 ロシアを知る事典(川端香男里他監修/2004/平凡社)
4. JOGMEC石油・天然ガスレビュー/詳細は注に記載
5. 石油大国ロシアの復活(本村真澄著/2005/アジア経済研究所)
※その他、筆者によるアゼルバイジャン国内外在住の友人からの聞き取りによる。
執筆者紹介
原田 大輔(はらだ だいすけ)
1973年生まれ (35歳)
1992~97年 東京外国語大学インド・パーキスターン語学科修了(1994~95年インド・ウッタルプラデーシュ州
アラーハーバード大学留学)
1997年~ 旧石油公団入団(総務部、研修班<海外研修生受け入れ>、計画第二部<東南アジア・豪州・LNGプ
ロジェクト等担当>に在籍)
2003~06年 経済産業省資源エネルギー庁出向(長官官房国際課にて中国、インド、ASEAN諸国会合を担当)
2006年10月~ 石油・天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)モスクワ事務所副所長
2008.11 Vol.42 No.6 88
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