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「市松キャンバス」わくわくインタビュー特別編 CMディレクター 谷田 一郎さん

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「市松キャンバス」わくわくインタビュー特別編 CMディレクター 谷田 一郎さん
「市松キャンバス」わくわくインタビュー特別編
CMディレクター 谷田
一郎さん
CMディレクター、谷田一郎さんは本校の卒業生です
1986 年グラフィックデザイナーとして活動開始。1987
年 Neo-Art-Group 結成。1994 年より 3D CG クリエイタ
ーとして数々の作品を発表し、1994 年に CG と音楽をリ
ンクさせた CD-ROM 作品「UNDERGROUND A TO Z
SO OUT」で独自の世界観を表現し、注目を浴びるよう
になります。
1996 年にクリエイティブスタジオ「John and Jane Doe
Inc.」を設立。
「ラフォーレ グランバザール」のシリーズ
を皮切りに、CM ディレクターとしての活動が始まりま
す。
現在は CM を主に、さらに個人の活動として木彫り、油絵、写真等の作品を制作、定期的に展
覧会も開催し、映像、CG、イラストレーションなどジャンルを問わず幅広く手がけられています。
谷田さんの手は休む事なく、毎日動き続けています。2015年5月11日、麻布のアトリエ兼ス
タジオにお邪魔し、取材しました。
Q「今の仕事を選んだ理由を教えてください」
私は始めからCMディレクターの仕事をしていたわけではありません。学校ではイラストやデザ
インの勉強をし、卒業後はデザイン会社に就職、デザイナーとしてCDのデザインや雑誌などの仕
事をしていました。それでも自分の心の中で「絵が描きたいなあ」という希望をずっと持っていま
した。そんな時期がしばらく続き、どうしても自分の思いを実現したいと思い、意を決して、絵の
制作に没頭しようと会社を辞めました。3年位が立ち、30歳くらいの時に、広告代理店でマネー
ジャーやプラナーをしている友人がいまして、その友人が新しい企画を立ち上げ、新しい分野の人
と仕事をしたがっていました。そこで「谷田、CMの仕事やってみない?」と声をかけてくれたの
です。今はCMディレクターを本職として仕事をしていますし、中には最初からCMをやりたくて
この仕事に就いた方もたくさんいますが、私の場合、当初は自ら始めた仕事ではなかったのです。
Q谷田さんの高校時代はどうでしたか?
何か特別才能があったわけでもなく、ごく普通の高校生でした。運動も勉強もごく普通で、何か
すごい目標や希望があったわけでも正直なかったです。特に美術部に入ったりとか、絵の勉強をし
たとかはありませんでしたが、やはりイラストや絵を描いたり観たりすることは大好きでした。学
校は本当に楽しくて、友人もたくさんいて、毎日ワイワイやっていました。市松にはそのような伝
統があるのかもしれませんね。しっかりとした居場所が学校の中にありました。
Q今の仕事にどうやって就いたのですか?
先ほども言いましたが本来は絵描きになりたいと思っていました。縁あって最初はグラフィック
やデザイナーの会社に入社し、仕事をしていました。そこで7年間過ごしましたが、やっぱり絵が
描きたくて、27歳の時に退社したのです。この事務所のちかくでアトリエを持って、毎日ずっと
絵を描いていました。しかし生活はしなければならない。その際にイラストレーターの友達が「谷
田どうしてる・・・」と、仕事の話をもってきてくれたのです。そんなことが縁で、当時出始めた
ばかりのコンピュータで、CGをつかった画像を作る仕事をくれたのです。最初はアルバイトのよ
うな感覚でした。その作品の中で、3D画像を作るものがありまして、画面上ではちょっとした三
次元画像になるのです。今ではだれでも簡単にできますが、当時はとてもめずらしかった。それは
コンピュータ内では映像風に写るわけです。それを見て、友人がこれはいけると思ってくれたみた
いで「谷田CMやれば」といってくれました。それが私のCMの世界に入ったきっかけになりまし
た。絵を描きたくていてイラストをやり、デザインの仕事をして、さらにCGをやり、そして映像
の分野にたどり着いたのです。CMディレクターとして今もCGを使ってコマーシャルを作ってい
ます。
Q
谷田さんのやりがい、生き甲斐はなんですか?
まずやりがいですが、この仕事は結果がすぐに出るのです。映像を広告にして、売れるか売れな
いかシビアな世界です。クライアントから仕事が来て、企画し、コマーシャルを一本作るのに、そ
れぞれの専門のスタッフが一生懸命仕事をして、みんなで一つの物を作り上げていくわけですので、
売り上げがその同系列の商品の中で一番になったりするとやってよかったなあと本当に思います。
そんな良い作品が作れたときにやりがいを感じます。これはどんな仕事でも同じではないでしょう
か。納得行くまで頑張って良い物を作り続けるということは、職人さんが唯一無二の物を作り上げ
たり、農家の方が良い野菜ができるように昼夜問わず頑張るのと一緒です。
生き甲斐も、仕事が上手くいったときはとても嬉しいです。私は先ほどもお話しした通り、絵が
描きたかったのに、なぜか今はCMの仕事をしています。自分の感覚ではどことなく、本流ではな
く、サブの立場というか、2 番手の人間として仕事をしている感覚があります。仕事というのは1
番好きなことより、2番目位にやりたかったことがかえって成功し上手くいくことがよくあります。
「自分にはこれしかない・・・」とか「自分の天職・・・」とかよりも、その次のあたりの方が、
こだわりを持たず、力が抜けて、物事を冷静に見る目を持てる気がするのです。CMは作った後、
クライアントを招いて必ず試写会があります。そこでチェックが入り、様々な意見が出ます。当然
ダメ出しもあれば、厳しい意見もあります。もし作品に対してこだわりが強すぎれば「ここのとこ
ろカットして・・・」なんていわれたら残念り、意気消沈
してしまうこともあるでしょう。しかし、こだわりがない
分、ドライに考える事ができて、人の意見も前向きに、素
直に取り入れることができ、振り返ることにより、良い物
を作る事ができます。CMは、いろいろな人が関わって出
来た15秒間の総合芸術です。業界の最新技術やセンスが
結集されて出来ています。様々な人の意見や考えを集約し
て完成に至るわけです。こだわりが強すぎるといいものは
できません。本来、絵だって一人で描いて「これ、いいで
しょ」はあり得ないんです。
Q
グッドジョブ、修羅場体験は?
CMディレクターは現場の指示もします。今パッと思いつ
くのは、AKB48劇場で、AKBのメンバーと劇場の観客
とのCMなどは、なかなかうまくいってなあと思います。何
百人ものくらいのお客さんとAKBのメンバーとの息をうま
く合わせることができました。緊張もしましたが、いいもの
ができました。
また、修羅場ということではないですがCM上の演出もするので、大変だったことは数え切れな
いくらいあります。
Q
今までの大切な出会い、ターニングポイントは何ですか?
一番の出会いはその時々に関わってくれた友人やその他の人たちです。高校の時はいろいろな人
がいて、いろいろな夢や希望がある人たちの集まりですよね。それはそれで面白いですが、大学や
専門学校は違っていて、やりたいことや興味があることが大体同じです。志が同じというか、会話
や思考が密になるというか、相乗効果で自分の考えが飛躍するチャンスになります。仕事をする上
でも連鎖が生じて来ると思います。私自身も同じレベルの経験を持った友人がいて、お互い刺激し
合いました。一人では出来ないことはたくさんあると思います。一人で絵を描いていている時でも、
周りに同じようなことをする人がいることは重要なことです。「おれはだめだ~」と思った時、だ
れか近くにいてくれることは必要ですよね。その時近くにいる友人、先生、先輩など、それらの方
たちの関わり合いが大切だと思います。
先ほどと話が少しかぶりますが、デザイン事務所で仕事をして、どうしても絵を描いて行きたい、
今やらないともう出来なくなると思い、27歳で退職しました。その後好きな作家さんに連絡をと
り仕事を手伝わせてほしいと連絡を取りまくったのです。しかし現実は厳しくてほとんどが断られ
ました。しかし、私の一番大好きな絵を描く方で、後の師匠となる谷口広樹さんにある時偶然出会
い、
「手伝いにくる?」と言われてチャンスが広がりました。絵描きとしての私にとって大きな出会い
となりました。
最後に松戸市立松戸高等学校のみんなにメッセージをお願いします。
将来の事など何もわからなかった高校時代。でも悩むことはとても意味があります。将来は、自
分の考えと同時に周りの環境で大きく変わります。今が全てではないです。私もイラストレーター
になりたいと思っていましたが、今はCMの仕事をしているわけです。そんな自分が思いもよらな
い方向へ進むことは世の中にたくさんあるのです。何かの都合で周りの環境などが変化してしまう
ことは起こりうる現実です。夢が破れるのも高校時代、それに向き合うのも高校時代です。漫画家
になれなくても漫画を読むことが好きで、描くことが好きであることが大事で、好きなことが見つ
かることが大切なのです。
希望を捨てずに楽しいことを続けていく。大人になれば今悩んでいることが結構たいしたことで
なかったなあと思うことがたくさんありますよ。今を大切に、自分の考えや現実や、周りの環境に
よって変わってしまうことを恐れずに頑張りましょう。変わっていく自分もやはり自分なのです。
取材を終えて
CM制作上の興味深いお話を伺うことができました。本当にCMは最新技術や技法が入った15
秒の総合芸術であることの凄さがわかりました。ほんの1~2秒のシーンにかけるこだわりと情熱
に言葉を失いました。現在は年間 30 本以上の CM の演出を担当され、谷田さんの手掛けたCMを目
にしない日はありません。
最新のものはホンダの「Nシリーズ」や花王の台所洗
剤の「キュキュット」などがあります。CMの見方が変
わった取材になりました。谷田さんのますますのご活躍
をお祈りいまします。
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