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第2 教育研究団体の意見・評価 日本地学教育学会 地 学 基 礎

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第2 教育研究団体の意見・評価 日本地学教育学会 地 学 基 礎
地学基礎、地学、地学Ⅰ
第2 教育研究団体の意見・評価
○ 日本地学教育学会
(代表者 牧 野 泰 彦 会員数 624 人)
TEL 042-329-7536
地 学 基 礎
日本地学教育学会では、平成 27 年度大学入試センター試験における問題の出題方法・内容・程
度等を、大学及び高等学校地学担当教員等の意見・評価をもとに検討を行った。この検討のため、
本学会会長の下で7人の会員が委員となり、東京都地学教育研究会(会長;清水政義)、茨城県高
等学校教育研究会地学部(部長;村田一弘)、などにおける研究協議や関係メーリングリスト等を
通じて地学教育関係者の意見を広く集めている。以下はその意見・評価をまとめて報告するもので
ある。
1 前
文
出題内容に偏りが見られ、しかも解答方式が複雑になっている。小問ごとに正確な知識と理解と
文章読解力が求められ、注意深く読み込み冷静に判断しなくてはならないため、受験者は解答に時
間を要した。高等学校の現場で指導している地学教員が解答しても時間内に満点を取るのが難しい
レベルである。実際、この評価をまとめるのに当たり、出題内容が本当に正しいのか教科書や図説
を見ながら確認した委員もいたほどである。
その結果、今回の受験者からは、平均点の低かった「地学基礎と生物基礎を受験してはダメ」と
いう声が大きくなりつつある。本学会としては、次年度以降の受験者に対する科目選択の影響を大
変憂慮している。つまり、地学基礎の受験者が大きく減少すると危惧しているのである。受験者に
対して「地学基礎」で何を求めているのか出題者の意見を伺いたい。
これらの要因として、作問委員は地質学会、火山学会、地震学会、天文学会、気象学会、海洋学
会など多くの専門分野の専門家で構成され、高校地学教育を総合的に見られる方がほとんどいない
のではないかと推察する。一つの専門分野には精通しているが、高等学校教育現場の状況を勘案し
なければ、問題だけが一人歩きして受験者の実態とかけ離れたものになってしまう。
これに対処する方法として、高等学校地学教員も問題作成に加わり、高校教育現場の意見を盛り
込む態勢を整えることが考えられる。これが実現できれば、内容に偏りが少なく通常の準備をして
いれば得点でき、他科目と大差が生じない問題を作問できるものと確信する。
今回の大学入試センター試験「地学基礎」では、高校教育における地学離れを一層加速する要因
となり延いては科学教育の偏りを助長する原因に成りかねない。このような観点から、大学入試セ
ンター試験理科「地学基礎」の出題に猛省を促したい。
2 試験問題の程度・設問数・配点・形式等
選択肢文の内容を注意深く読む必要がある設問が多く、細かい知識や仕組みを確認して慎重に判
断して答えなくてはならない。特に第1問の問7は、貫入関係か不整合関係かの判断ができず、選
択肢 4 も正解とすべき、非常に紛らわしい設問である。
第1問
問1 リソスフェア(プレート)とアセノスフェアに関する基本的な問題。Cの「アセノス
―281―
フェアがマントル全体」は、上部マントル低速度層やメソスフェアの知識を知らないと正し
いと判断する可能性がある。
問2 地殻やマントルの構造、特にマントルが上部マントルに限らずその全体についてイメー
ジできるかを問う着眼の良い設問である。しかし、短文だけで説明された選択肢文は問題を
やや難しくしている。海洋地殻下部が斑糲岩と知らなくても、深成岩である斑糲岩は斑状組
織ではないので誤と判定できる。
問3 球体構造をイメージして式を立て、指数を伴う計算を要求されている。そのため、注意
深く計算しなくてはならない点で難問となっている。指数の扱いが文系の生徒にはやや難し
いと思われる。
問4 地震活動の放出エネルギー量を見積もる素材で、地学基礎の内容としては難問である。
しかし、題意を取ってMとエネルギーの関係を知っていれば単純な計算問題であるし、選択
肢の数字から正答の見当が付くところもある。また、どのように式を立てるか思いつくまで
に時間がかかる。解けた感動が全く無い単なる計算問題である。
問5 活断層に関する正誤問題で易しい。しかし、内陸にあって地表地震断層となり得るもの
だけを活断層と呼ぶ場合ともっと広義に扱う場合とがあり、正誤問題としてはその曖昧さに
注意すべきである。震源の深さ 20km という区切りが難しい。内陸部活断層型地震の震源の
深さが 20km より浅いと理解している受験者は少ないと思う。
問6 2 の「広域変成作用とホルンフェルス」の組合せは、明らかな間違いで易しい設問である。
問7 地質に関する正誤問題である。この内容では石灰岩層に花こう岩体が貫入しているので
あって、不整合であるとは判断できない。「石灰岩が結晶質石灰岩に変質していない」とか
「花こう岩に侵食の跡がある」とかの記述無くして判断させることは、明らかに不適切な問
題である。 4 と解答した場合も正答とすべきである。火成岩と堆積岩の接触関係は、「火成
岩の貫入」か「火成岩が下位の不整合」の2パターンで教えている。前者「貫入」の場合
は、石灰岩の堆積「後」に地殻変動(貫入)が起きたのでCは間違いである。 4 も正解とす
べきである。出題者の明確な回答を強く要求する。
第2問
問1 aの放射冷却はイによる放熱であるが、逆に考えればウの大気による吸収減とも取れる
ので、関連の「深さ」の判断は個人差がある。 5 も正解にすべきである。また、成層圏の温
度分布も高空ほど高温ならばイが増えるとか、オゾンはウを増やすとかも考えられる。正誤
判断に、迷いと時間を要す悪問である。
問2 “A”の熱収支に関する問題は過去にも出題されており、また問2も過去の問題と非常
に類似している。このため本試験より追・再試験の方が易しくなっている。通常、追・再試
験は受験結果が優位に働かないよう難しく作られているが、今年度はその逆と受け止められ
る。通常なら二つの小問で出題される内容である。二つの図の組合せにして正答率を下げよ
うとする意図が感じられる。
問3 衛星画像を用いて判断させる時代に合った良問である。ただし、衛星画像写真の鮮明さ
や「12 月によく・・・」といった時期を示す現象の曖昧さには留意していただきたい。時
期的に典型的な気象状態ではないことも多くなっている。
問4 2 の内容は地球地史の古環境に関するもので評価できる。環境分野と地球史を組み合わ
せた良問である。
問5 火山の予知、災害、環境への影響、防災について確認させる良問。平易だが、三つを正
しい文章としたことで、国民の火山防災リテラシーの向上に繋がるものと思われる。
―282―
地学基礎、地学、地学Ⅰ
第3問
問1 アは「100 万」
・
「1000 億」と読み換えられれば分かる。イも簡単な引き算で求められる。
難しそうに感じられるが基本をしっかり勉強していれば解ける問題である。
問2 太陽系天体に関するある程度の興味と知識を問う平易な設問である。
問3 地球大気の進化は地球史の内容だが、太陽系天体にからめて出題したことは評価でき
る。 3 は、ストロマトライトと縞状鉄鉱層の違いを理解していないと間違えやすい。
―283―
地 学
1 前
文
⑴ 幅広い範囲にわたって出題されており、どの問題も正確な知識と理解力を要して、注意深く判
断しなくてはならないもので、60 分間で高得点を取ることはとても難しい。高校生に要求でき
るレベルを超えている。
⑵ 普段から教科書や資料集の図に目を通していると解答しやすい問題が多かったが、かなり細か
いところまで見ていないと正解を得ることのできない問題もあり、ここまで詳細に知識・理解が
必要か検討する必要がある。
⑶ 追試では日本列島の地史が出題されたが、かなり詳細な内容を問われている。高校生に対し、
ここまで詳細な内容を問うことが果たして妥当であるか、検討が必要である。内容の暗記ではな
く、図や表を用いながら考えさせる問題の設定が望まれる。
⑷ 作問者はそれぞれの分野の専門家であると思うが、一人の高校生が全ての分野に答えなければ
ならない問題として適切な内容と分量であるかは甚だ疑問である。地学分野の理解には、物理や
化学、生物の基礎理解も不可欠であることを考慮すると、学習する生徒の負担がとても大きいこ
とを作問者には理解していただきたい。
2 試験問題の程度・設問数・配点・形式等
本試験に比べると計算を要する出題が増えたことは望ましいことである。実験実習を行っている
と容易に解ける問題が本試よりはあるように感じるが、まだ少ない。この内容と量に加えて選択問
題の設定は、受験者にとって問題を見て選択するという手間が生じる。そのために負担がかかって
いることから選択問題の設定は避けるべきであった。
第1問 走時曲線に関する設問である。
問1 走時曲線の屈折から地殻とマントルの構造を解析する定番の問題であるが、X点を取り
上げたことがユニークである。このX点の意味や地殻の厚さが変化した時にX点の位置がど
う変化するかを考えさせる良問である。実習を通して深く学習しなければ難しい内容である。
問2 走時曲線の傾きの意味を問う基本的な問題である。走時曲線では、X軸とY軸が物理で
のグラフと反対になっているが、授業や実習で走時曲線を学んでいれば平易な問題であろう。
問3 シャドーゾーンの意味を正しく理解しているかを問う設問である。シャドーゾーンの現
れる角度(位置)については、震源から核に接線を引くとシャドーゾーンが求まるという実
習を行っていれば解答できるが、そうでないとするなら、図を付して説明するべきであろう。
第2問A マグマの生成と分化に関する基本的な問題である。
問1 かんらん岩、玄武岩の化学組成(SiO 2量)を火成岩の分類表で見たことがあれば容易
に答えられる基本的な設問である。部分溶解した岩石の SiO 2の変化については、出版され
ている2社の教科書には記載されてない。マントル上部の岩石が部分溶解すると、玄武岩質
マグマが生成されることから類推させるのかもしれないが、疑問を感じる設問文である。
問2 不適切な設定を含む設問である。最初の説明文から、本源マグマが直接マグマだまりを
満たすような印象を受ける。この流れで解答した生徒は選択肢として玄武岩質マグマをまず
選んでしまう。「マグマの化学組成」に「○○岩質」という用語が適当か疑問である。
問3 基本的な設問である。火成岩の分類と各酸化物の変化グラフの表を見ていれば、容易に
解答できる問題である。他の大問の設問が難しいので、難易度的にはこれでよいと思われる
―284―
地学基礎、地学、地学Ⅰ
が、設問1と同様、化学組成の変化図を覚えていれば解ける問題になっているが、計算させ
て導くような設問であっても良いと思われる。なお、マグマと結晶が分離される要因につい
ては教科書では記載がないと思われ、このままでは高等学校学習指導要領の範囲外である。
第2問B 鉱物とその観察に関する問題である。
問4 多形鉱物の安定領域を図の読み取りから判断させる基本的な問題である。変化Ⅰと変化
Ⅱの地質学的なイベントが、温度と圧力にどのような変化をもたらすかを問う良問である。
問5 岩石薄片の偏光顕微鏡観察の経験の有無が、如実に反映される良問である。多色性とい
う基本的なオープンニコルでの観察を扱った点も評価できる。このような実験実習の操作を
問う設問が増えることが望ましい。地学教員の実習に対する姿勢を問われている。
問6 岩石薄片の観察を丁寧にしないと解答できない難しい設問である。斜長石の累帯構造は
普遍的な現象であり、実物を観察することはあっても、結晶分化作用の進行によって、一つ
の結晶の中に固溶体としての組成変化が起こることまで理解できている生徒(もしかすると
教員も)は少ないのではないか。高得点を得るため、実験・実習がないがしろにされる教育
現場の風潮に対し、このような問いが多く出されることを期待する。
第3問A A 地質図の読み取りに関する設問である。リード文の「なお、この地域で・・」に
おいて、「、」で区切られた3節で「褶曲と地層の逆転、」だけ「はなく」が無く読みにくい。
問1 地層境界線から走向・傾斜を決定する設問である。基本的には、一つの地層境界線が標
高の異なる2本の等高線と交わることを使って走向・傾斜を求めるが、この地質図では、A
層とB層の境界、B層とC層の境界とも、2本の等高線と交わるようになっていない。この
ことから手がかりを得られず解答できなかった生徒もいると思われる。
問2 断層の走向・傾斜については容易に求まるが、この図から断層の種類を判断するのは、
断層を扱う問題としてはやや難しいと思われる。この問題も地学らしい良問である。
問3 化石から時代の分かる地層がCのみで、地層の上下関係だけで選択肢文一つ一つの正誤
を確認する必要があり、時間かかかるやや難の設問である。断層Xは、整合で重なったCB
A層の形成後、E層の堆積前と判断できる。C層にイノセラムスがあることから、断層Xは
中生代~新生代にかけて形成されたことになる。また、D層については、C層との関係を明
白に示す手がかりがない(CD層の地層境界線は、走向・傾斜を正確に決める手がかりがな
いが、CBA層の走向とは異なり不整合であることは予想できる)。
第3問B 日本列島固有の地層について細かな知識を要する問題である。
問4 秋吉帯が古生代からトリアス紀の付加体と知っているか、領家帯が白亜紀、四万十帯が
白亜紀から新第三紀と知らないと解けない単なる知識問題になっており改善・工夫が必要。
問5 中新世に起きた「日本海形成の観音開きモデル」、「北海道の衝突山脈」、「グリーンタフ
変動」、「熱水鉱床としての黒鉱」と新第三紀の日本列島の地質学的イベントを問う設問であ
るが、どの選択肢の内容も知識と注意深い読み取りが必要で、ここまで広汎で詳細な知識を
求めることに疑問を感じる。
問6 中央構造線と糸魚川-静岡構造線の特徴を問う設問であるが、設問5よりはやや基本的
な内容を問うているものの、詳細な知識を問う問題であり、工夫・改善が必要である。た
だ、日本列島全体の地質図をイメージさせる問題として評価できる面もある。
第4問A 中緯度の大気の運動に関する問題である。図の無い問題で、現象の仕組みや力系を問
うところが解答を難しくしている。
問1 偏西風波動と寒気の張り出し及び温帯低気圧の関係に関する、ごく基本的な内容を問う
設問である。
―285―
問2 温帯低気圧及び熱帯低気圧の特徴に関する、ごく基本的な内容を問う設問である。 4 の
南半球の温帯低気圧の前線の配置はやや盲点になりやすいが、暗記ではなく、考えて正解に
到達するような工夫がほしい。
問3 大気に働く様々な力の関係を問うた設問である。aの文において、地上の風に言及する
ときは定常的な力系で考えていることを明記すべきである。cは遠心力に言及したことで上
空の風であることを前提とした設問になっているが、地上付近の風について説明したとすれ
ば誤答と判断できてしまう。また、各力の関係について、文章で表すより図で説明するなど
工夫が欲しい。部分点を与えていることは適当である。
問4 南半球の低気圧に吹き込む風向きを問うた、ごく基本的で平易な設問である。設問Aは
全体的に平易で、他の分野との難易度の差が大きい。
第4問B 海洋の動的な変動に関する問題である。素材がとても高度で難問となっている。物理
を深く学んでいない高校生に対して課す内容としては、短いリード文で図も無く不親切で不適
切な設問と感じる。
問5 風浪と津波の性質に関する基本的な設問であり、個別の質問は難しくないが、8択完答
式により難易度が上がっている。波動の分散性について扱うこと自体に疑問がある。図で示
すなど工夫がほしい。
問6 海流や潮流、打ち寄せる波、潮の干満など、非常に多岐にわたって正確な知識が求めら
れており、正誤の判断に時間がかかる。力学的な関係を実地名で表現した 2 だけでなく、他
の選択肢文も力学的な問題としての結果を文のみで示している難問である。
第5問A 地球で観察できる天の川から銀河の構造を問う問題である。
問1 図1には散開星団と球状星団の分布は記載されておらず、リード文と図からでは散開星
団と球状星団の分布は分からない。結局、知識として覚えておかないと解けない問題であ
る。球状星団は銀河系の中心を取り巻いて球対称に分布しているが、銀河系の縁近くにある
地球(太陽系)から見た場合に、オリオン座やおとめ座の方向には銀河系の奥行きが浅いの
で、球状星団を見通すことは多くない。
問2 星団の特徴や成因について問うた基本的で平易な設問である。ただし 2 の「球状に分布」
の意味が分かりにくい。
問3 銀河系の構造について問うた基本的で平易な設問である。設問Aは全体的に平易な問題
で他の分野の難易度との差が気になる。設問Aの中で異なった難易度の問題の設定がほしい。
第5問B 食変光星と脈動変光星に関する問題である。
問4 金星の日面通過から食変光星のことを考えさせるユニークな設問であり評価できる。太
陽は地球の約 100 倍の大きさであることはよく知られているが、金星と太陽の大きさの比較
はほとんど言及されないので、地球と金星がほぼ同じ大きさの兄弟星であること活用して考
えさせる工夫のある設問である。
問5 年周視差から絶対等級は5等級明るいことを導き出し、脈動変光星の周期光度関係のグ
ラフを逆に使いこなす良問である。見かけ等級と年周視差から絶対等級を導き出す過程は、
絶対等級を求める公式を知らなくても解くことができる年周視差に設定されているところに
工夫が見られる。これに気付いても、散開星団を構成する恒星が種族Ⅰであることを知らな
いと正解に達しないところが難化させている。
問6 連星の共通重心の位置と二つの恒星の質量の関係、ケプラーの法則を太陽系とは異なる
惑星系で適用する設問である。連星系の力学的な問題で、ケプラーの法則の定数に2天体の
質量和が含まれることを暗記していなければならない。PとQの質量比が 100:1であるこ
―286―
地学基礎、地学、地学Ⅰ
とはすぐに求められるが、Pが太陽質量の何倍かをケプラーの法則から考えるところは難し
かったと思われる。理系的センスの問われる良問だが、難問でもある。
第6問 選択問題として地磁気に関する問題が出題された。
問1 地磁気の3要素に関する設問である。イは正が北傾斜であることの知識が必要である。
問2 b及びcは基本的な設問でありすぐ答えられるが、aは疑義が残る設問である。教科書
によれば、地磁気の日変化は、電離層の中を流れている電流が不均一であり、地球の自転に
より観測地点の地磁気が変化するためと説明されている。電離層の状態はX線や紫外線に関
係していると教科書に記載がある。紫外線やX線の強弱は、太陽風の変化とも連動している
ことは否定できない。太陽風の吹き出し方は、フレアのような爆発現象によって支配されて
おり、爆発時と平常時では、太陽風の速度に変化があると考えても誤りではない。このよう
に考えると、aは誤答と言えないのではないかと考えられる。
問3 地磁気の変化を記録した大洋底と、プレートテクト移動による大洋底の沈み込みによる
消滅を考えさせる狙いの設問。最も古い海底の年代が2億年であることを知っていれば単な
る知識問題に終わってしまうおそれもある。図も無くイメージしにくい設問である。
第7問 科学的思考より地史の暗記物としか思えない問題である。
問1 新生代の古環境を扱った点は評価できる。古第三紀の温暖化は、メタンハイドレートの
気化に起因するところまで触れてほしかった。部分点を与えていることは適当である。
問2 幅広い範囲について知識を問う設問になっている。 4 については、海水面変動の量を正
確に知らないと答えられず、設問の工夫が必要である。 5 の日本の各時代と気温変動が説明
されているのは啓林館の教科書「地学」であり、数研出版の教科書には「AD800 年」とか
「AD1400 年」といった年数表示で説明されている。
問3 a はパンゲア大陸分裂後の南極とオーストラリア大陸の変遷を細かく知らないと答えら
れない。bは科学的な判断から誤答と判断できる。cは基本的な事項であり、ほとんどの生
徒は正解できるであろう。選択問題としては、両者の問題の難易度にやや差があり、第7問
を選んだ生徒の方が不利ではないか。
―287―
地 学 Ⅰ
1 前
文
前回の本科目に続き、今回の地学領域各科目は十分な学習をしてきている者にも高得点しにくい
出題となっている。とりわけ今年の旧教育課程の本科目は、理系大学志望者のみならず文系大学志
望者も選択する科目であることからその不公平感は大きい。追・再試験は、得点調整の対象にはな
らないだけに、難易度の検討は本試験以上の慎重さが必要であることを確認したい。
2 試験問題の程度・設問数・配点・形式等
本試験同様に、問題としての素材や着眼はどの出題もよく工夫されていて評価される。やはり、
難易度は本試験同様で 60 分間の問題として難しい。本試験と追・再試験の平等性は確保されてい
ると思われるが理科における他領域の科目とのそれは懸念される。また、本科目は旧課程の文系大
学志望者も選択するものであるという配慮も欠けている。
第1問A 新課程「地学」第1問と共通である。
問1 平行2層構造モデルの走時に関する良問である。基礎的ではあるが知識としてではな
く、実習を通して屈折波の走時に関する仕組みを深く学習しておかなければならない難しい
内容である。
問2 問1同様にモデルに対する理解の程度が問われている。
問3 単純なモデルでシャドーゾーンを推定させるものだが、そのモデルは図を付して説明す
るべきであろう。前問までとはスケールが異なることやマントル内と核内の地震波速度を均
一とした極端なモデルであることから、題意の把握に時間を要する。
第1問B 地球内部の温度構造に関する難問である。
問4 モホ面、グーテンベルク面の温度を推定させるもので、地球内部の温度推定の難しさを
題材にしたことは評価できるが、それだけに難問である。選択肢が2択で単純計算から求め
るものとはいえ、地殻の平均的厚さやその他境界面の深さを記憶しておかなければならない。
問5 マントル物質は固体、核物質は流体という状態変化から温度の大小を推定させる設問で
あるが難問である。その境界面の温度が、その境界面付近の上下にある物質の融点であると
考えると、個々で比較すべき3温度は全て等しいように思われる。この設問の意図では、マン
トルと核の融点とは、それぞれ全体の物質に対しておそらく指すのであって境界面付近の物
質を指すのではないのであろう。しかし、マントルは特に深さによって物質が遷移しており、
全体が同一の物質のような設定で高温高圧実験はしないであろう。この設問文ではマントル・
核の遷移層で比較しているかのようにとれる点からも、内容として不適切なものである。
問6 問4同様にこの問からも、各境界面の深さは覚えておかなければならない重要知識とと
らえているようだが、それは疑問である。
第2問A 岩石と鉱物に関する問題である。
問1 結晶分化の仕組みに基づく基本的な設問である。
問2 鉱物の組成や固溶体の理解に基づく標準的な設問である。
問3 新課程「地学」第2問 問6と共通である。観察事項と結晶分化の仕組みを重ね合わせ
た良問である。
問4 単純な基本問題である。それだけにこれに部分点が設定される必要が無いように思われ
る。また、設問文の訂正が行われた経緯が心配される。
―288―
地学基礎、地学、地学Ⅰ
第2問B 鉱物に関する問題であるが、二つの問いの脈絡は不明である。
問5 新課程「地学」第2問 問4である。鉱物安定生成の状態図ついて理解を問う良問である。
問6 新課程「地学」第2問 問5である。鉱物顕微鏡による観察について、詳細な内容を問
うものである。基本的な実験実習の操作を問う設問で、偏光顕微鏡観察の経験の有無が問わ
れる点で評価できる。干渉色ではなく、多色性の観察について着眼している。
第3問A 新課程「地学」第3問Aと共通である。地質図の読み取りに関する設問である。リー
ド文の「なお、この地域で・・・」において、「、」で区切られた3節で「褶曲と地層の逆転、」
だけ「はなく」がない点で読みにくい。
問1 地質図の読図の基本を問う設問である。走向線を正しく引くことができれば簡単に正答
でき、地質図をしっかり学習しているかどうかが分かる良問である。
問2 地質図の読図の基本を問う設問である。
問3 化石から時代の分かる地層がCのみで、地層の上下関係だけで選択肢文一つ一つの正誤
を確認する必要があり、判断に時間かかかる点でやや難しい設問である。
第3問B 海洋プレートの運動と堆積物に関する問題である。
問4 プレート運動から経過時間を求めて、堆積速度を計算させる設問である。指数の計算を
注意深く行えるかが問われている。
問5 地質柱状図には模式的とはいえ、スケールがないのは不適切である。斜交層理とグレー
ディングの絵がスケールを混乱させている。また、陸水が作る斜交層理がイラストのようで
あるかは疑問であるし、陸域という範囲も曖昧である。例えば汽水域は陸域か海域か分から
ない。加えて、部分点がない正誤問題で難問となっている。
問6 2 は明らかなので解答に差し支えないが、 3 の「大陸から遠く離れた」という表現だけ
ではどの程度遠くなのか曖昧である。
第4問A 新教育課程「地学」第4問Aと共通である。中緯度の大気の運動に関する問題であ
る。問4の選択肢以外には図の無い問題構成で、現象の仕組みや力系を問うところは解答を難
しくしている。
問1 温帯低気圧に関わる位置関係を文章で穴埋めする設問である。基本的な内容である。
問2 中学校理科レベルの基本的な内容の設問である。
問3 aの文において、地上の風に言及するときは定常的な力系で考えていることを明記すべ
きである。また、この文意では「全ての力の和が釣り合う」とか「気圧傾度力は転向力と摩
擦力の合力と同じ大きさで逆向き」とか表現するのが理にかなっていて、図も無く文で故意
に混乱させているように感じる。リード文に大規模な運動とあるのに対して、cの文におい
て遠心力について言及していることは違和に感じる。部分点を与えていることは難易度から
適当である。
問4 基本的な設問である。
第4問B 熱帯低気圧に関する問題である。
問5 リード文に「一般に」とあるので「条件つき不安定」と判断するだろうが、「絶対不安
定」と対比させることには疑問がある。
問6 赤道付近では熱帯低気圧は発生しないと言い切って良いだろうか。また、転向力をコリ
オリの力と称している。更に、選択肢文の中から適当なものは一つしかないので解答には影
響しないが、転向力が弱いためだけとも言えないのではないか。
第5問A 新教育課程「地学」第5問Aと共通である。地球で観察できる天の川から銀河の構造
を問う問題である。
―289―
問1 球状星団の分布から銀河系内の太陽の位置が推定された天文学史を知識として知らなけ
れば、暗黒星雲の多い銀河の中心方向に数多く見られるものかと疑問に感じるだろう。遠い
宇宙への窓である、銀河円盤方向から外れたおとめ座方向で球状星団も多く見えると考えら
れないだろうか。ハロー全体で均一に存在する球状星団が方向特性無く見渡せるかどうかは
分からないので、仮定に基づいた考え方を問うものである。よって、説明が不足した不親切
な難問である。
問2 2 の「球状に分布」の意味が分からない。分布の範囲であるハローの形が球状といって
いるのか、銀河の中心から等距離の球面上に存在しているといっているのか曖昧である。他
の選択肢を含めて、誤りを探す設問としては曖昧で分かりにくい。
問3 銀河系の構造に関する基本的な設問である。
第5問B 太陽系の惑星に関する問題である。
問4 基本的ではあるが、とても混乱しやすいところを問う設問である。
問5 会合周期の公式をグラフ化する難問である。数式を極限操作する力があれば正答できる
が、数学の不得手なものには厳しい。火星については知っている者も多いだろうが内惑星の
会合周期を知らなければ、 4 を選ぶこともあろう。
問6 太陽系惑星に関する基礎知識を問う設問である。
―290―
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