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改良型一斉分析法の追加農薬への適用とGC/MS

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改良型一斉分析法の追加農薬への適用とGC/MS
-58-
改良型一斉分析法の追加農薬への適用とGC/MS/MS
分析による検出農薬の同定
Ap
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gGC/MS/MS
氏家
愛子
栁田
則明
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iYANAGI
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昨年度報告1) した残留農薬一斉分析法(以下改良型一斉分析法)を使用し,116農薬(異性体等含119)について,
追加適用の可能性の検討を行った結果,109農薬(異性体等含112)の追加適用をすることができ,現行分析対象農薬
と併せ290農薬(異性体等含314)の分析が可能となった。また,糖類及び有機酸を多く含有する果実類の分析につい
HCO3でp
Hを中性付近に調整した後,食塩を12g
ては,カラム劣化及び分析機器の感度低下を改善するため,0.
1M-Na
加え,改良型一斉分析法で試料調製することにより,標準添加回収率の向上と機器分析上の問題点を解決することが
できた。また,にんじん分析において検出された,アセフェート及びイソプロカルブの擬似ピークについて,GC/MS
/MSによる同定・定量条件の検討を加えた結果,農薬の同定・定量を確実にするためには,プリカーサーイオン/プ
ロダクトイオン対が2対以上必要であることが確認された。
キーワード:残留農薬多成分一斉分析法;GC/
MS;LC/
MS/
MS;GC/
MS/
MS;精製
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;GC/
MS;LC/MS/MS;GC/
MS/
MS;Cl
e
a
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u
p
1
はじめに
度低下を改善するため,更に分析方法に改良を加え,操
国民の健康保護最優先を目的とする,農薬,動物用医
作の簡便・迅速化と回収率の向上を図った。
薬品及び飼料添加物についてのポジティブリスト制が平
また,一律基準適用により,農薬の同定を確実にする
成18年5月29日から施行され,加工食品を含む全ての食
ことが必要となるため,GC/MS/MSを使用した農薬擬
品を対象として,799種類の農薬等の残留基準が設定さ
似ピークの同定に検討を加えたので報告する。
れた。また,基準設定のない農薬等については,一律基
準の0.
01p
p
mが適用されるため,農薬数の増加,検出下
2
方
法
限値の低減及び農薬の正確な同定等,分析者にとっては
2.
1 使用機器及び測定条件
技術面,精神面での負担増となっている。
標準添加回収試験に使用したGC/MS及びLC/MS/MS
An
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.
M らは,約40年間に各国で開発検討さ
2)
れてきた残留農薬の一斉分析法について概略を述べると
の測定条件等は,既報1)のとおり。ただし,GC/MS注
入量は2μl
,LC/MS/MS注入量は5μl
とした。
共に,迅速・簡便な一斉分析法を報告しており,迅速,
2.
2 追加農薬の検討
簡便,安価,安全,小型化,効率化3)が残留農薬一斉分
改良型一斉分析法により,116農薬(異性体含119)の
析における現在のキーワードとなっている。
標準添加回収試験(n
=3)を行った。対象農薬は,表
このような状況下,当所では,抽出液の精製に強陰イ
2に 示 す111農 薬(異 性 体 含,GC/MS:98,LC/MS/
オン交換カラム及び弱陰イオン交換カラムを使用する方
MS:13)に ベ ン ス ル タ ッ プ,ク ロ リ ム ロ ン エ チ ル,
法4,5)を基に,平成10年度からアセトニトリル抽出及び
フェルバム,ベンタゾン,フェンヘキサミド,フラザス
SAX/PSAカラム精製をベースとした種々の検討
6-12)
を
行って来た。
ルフロン,トリクラミドのいずれもLC/MS/MS対象の
7農薬である。対象品目は,にんじん,きゅうり,だい
今回,既報1)の残留農薬一斉分析法を使用し,GC/
こん,冷凍いんげん,はくさい,ほうれん草,ブロッコ
MS対象96農薬(異性体等含98)
,LC/MS/MS分析対象20農
リー,レタス,キウィフルーツ,グレープフルーツ,り
薬(異性体含21)について,追加適用の可能性の検討を
んごの11品目で実施した。標準品の添加量は,一律基準
行うと共に,りんご等,糖類及び有機酸を多く含有する
を念頭に0.
01p
p
m(試験品20g
に各農薬200n
g
,ただし,
果実等の分析については,カラム劣化及び分析機器の感
きゅうり及びにんじん:0.
02p
p
m,ブロッコリー及びレ
宮城県保健環境センター年報
第24号 2006
-59-
タス:0.
0
2p
p
m~0.
12p
p
m)とした。GC/MS測定では,
HCO3と精製水
30ml
でp
Hを中性付近に調整し,0.
1M-Na
SCAN分析での低感度農薬はSI
M分析によった。結果の
の合計が30ml
となるように精製水を加えた後,食塩を
評価は,一斉分析で添加量が0.
01p
p
mと低濃度であるこ
12g
入れて,アセトニトリル抽出以下の行程を,改良型
とを考慮し,回収率が60~140%,CVが20%以内である
一斉分析法により行った。この結果,液液分配による洗
ことを条件とした。
浄効果も得られ,キウィフルーツについて,図1のp
H
2.
3 糖及び有機酸を多く含む果実類の分析法検討
調整有無別トータルイオンクロマトグラム(以下TI
C,
ホ モ ジ ナ イ ズ し た 試 験 品 のp
Hを,0.
1M-Na
HCO3
H調整を行った方に,
GC/MS-SCAN)を比較すると,p
(10ml
~30ml
)と精製水(20ml
~0ml
:2液合計で30ml
)
顕著な精製効果が認められた。この方法により,カラム
で6~7に調整後,食塩を12g
添加し,以下,改良型一
の劣化やリテンションタイムの遅れ等,カラム分離での
斉分析法と同様に抽出・精製を行った。アセトニトリル
妨害を減少することができた。
O4で15分脱水して
抽出液を濃縮乾固する際,無水Na
2S
また,図2に示すように,昨年度までの181農薬を対
も水が若干残るため,アセトニトリル3ml
を加え共沸
象に,p
H調整後,改良型一斉分析法で標準添加回収試
乾固した。
験を行った結果,特に,キウィフルーツでの回収率向上
2.
4 MS/MS分析による農薬の同定
が顕著であった。追加農薬についても,このp
H調整後
にんじんのGC/MS分析において,アセフェート及び
の改良型一斉分析法で行った,グレープフルーツ,キ
イソプロカルブの保持時間に,標準品とSCANスペクト
ウィーフルーツ及びりんごの標準添加回収試験結果は,
ルは異なるが,同じ定量イオン,確認イオン(3イオ
表2に示すとおり良好な結果が得られた。
ン)を持つ大きなピークが検出された。このピーク中に
3.
3 MS/MS分析による農薬の同定
上記2農薬が含有されている場合,GC/MSでの定性・
にんじんのGC/MS-SCAN測定において,図3に示す
定量は不可能であったため,LC/MS/MS及びGC/MS/
とおり,アセフェート及びイソプロカルブと同じ保持時
MSにより,表1に示す分析条件で検討を行った。
間に,同じ定量イオン及び確認イオン(3イオン)を持
つ大きなピークが検出された(以下擬似ピークと略す)。
3
結
果
定量イオンと確認イオンの比率が標準物質のそれとは違
3.
1 追加農薬検討結果
うが,このピークの中にアセフェート及びイソプロカル
標準添加回収試験結果を表2に示す。GC/MS-SCAN
ブが混在しているかどうか,GC条件の変更では確認す
M測定
測定及び感度の低い農薬を対象としたGC/MS-SI
ることができなかった。検出されたピークについて,ラ
では,いずれかの品目で回収率が60%~140%の範囲を
イブラリ検索により,アセフェートの保持時間のピーク
逸脱したものがあったものの,対象とした98農薬(異性
はCa
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e
,イソプロカルブの保持時間のピークは
体等含)全部で,良好な回収率が得られた。LC/MS/
r
y
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e
n
e
と推定されたが,この成分により2農
α-Ca
MS分析ではベンスルタップ,クロリムロンエチル,
表1
フェルバム,ベンタゾン,フェンヘキサミド,フラザス
ルフロン,トリクラミドの7農薬が,対象とした全ての
品目で回収率が低く適用できなかった。ベンタゾン及び
フラザスルフロンは,試料から抽出されるものの,最終
溶解溶媒をメタノールにするため,この段階で溶解せず
ⵝ
⟎
ࠕ࠮ࡈࠚ࡯࠻
OY
に回収率が低下したものと考えられた。
こ の 結 果,現 行 農 薬 を 含 め た290農 薬(異 性体等含
M及 びLC/MS/MS-
314)をGC/MS-SCAN,GC/MS-SI
ࠗ࠰ࡊࡠࠞ࡞ࡉ
OY
MRMの3メソッドで測定することにより,290農薬全て
分析条件
)%/5/5
.%/5/5
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8CTKCP
#2+
㩖㩩㩥㩊㩨㩂㩎㨼㨿㩧㩇㩁㨶㩧㧦O\
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/4/㧦
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%'8
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の検出下限値を試料換算濃度で0.
005p
p
mとすることが
可能であった。
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3.
2 糖及び有機酸を多く含む果実類の分析法検討結果
糖分や有機酸含有量の多いりんご,キウィフルーツ,
R*ߦ ⺞ ᢛ
グレープフルーツは,改良型一斉分析法で試料調製をし,
⺞ᢛߥߒ
GC/MSで測定を行うと,抽出液中のマトリックスによ
り,カラム劣化や注入口の汚れによるGC/MS感度低下
を引き起こす。また,クロマトグラム上でも,大きな妨
害ピークがあるとその後のピークのリテンションタイム
に遅れが生ずる場合もある。これらを改善するため,均
HCO3を10ml
~
一 化 し た 試 料 を2
0g
分 取 後,0.
1M-Na
図1
46
OKP
pH調製の有無によるGC/MS-SCANTI
C
(キウィフルーツ)
࿁෼₸
㪎㪅㪌
㪏㪅㪇
図3
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-60-
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図4-1 プレカーサーイオン136のプロダク
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準溶液を添加したもの(全体濃度として100n
g
ていないことがわかった(図4-1~図4-3)。
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図4-2 プレカーサーイオン136のプロダク
トイオンTI
C
(イソプロカルブ)
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図4-3 プレカーサーイオン121のプロダク
トイオンTI
C
(イソプロカルブ)
/93,136/93,136/121の4つのイオン対全てが検出さ
れており,アセフェートと同様,2つ以上の確認イオン
とその比率が同定の条件と考えられた。また,LC/MS/
MS分析では,ソフトイオン化により[M+H+]イオン
をプレカーサーイオンとすることができるため,GC/
ンとするのに比べ選択性が高い。アセフェートを目的と
MS/MSが,強度の高い開裂イオンをプレカーサーイオ
した184.
1/143.
0イオン対測定ではにんじん試料溶液に
95.
0イオン対測定でも保持時間にはピークは検出されな
ピークは出ず,イソプロカルブを目的とした194.
1/
薬の検出が妨害されるため,表1に示す条件で標準溶液
かった。
昨年度報告1)した残留農薬一斉分析法(以下改良型一
まとめ
るように添加)について,プロダクトイオンのSCAN分
斉分析法)を使用し,GC/MS対象96農薬(異性体等含
析を行った。この結果,アセフェート及びイソプロカル
98),LC/MS/MS分析対象20農薬(異性体含21)につい
ブとにんじん擬似ピークを分離することができ,擬似
て,追加適用の可能性の検討を行った結果,109農薬
ピーク中にはアセフェート及びイソプロカルブは存在し
(異性体等含112)の追加適用をすることができた。こ
しかし,プロダクトイオンのSCAN分析でピークを分
/MS/MS-MRM測 定(2メ ソ ッ ド)の4メ ソ ッ ド を 使
M測定及びLC
の結果,GC/MS-SCAN測定,GC/MS-SI
離 で き な い 場 合,GC/MS/MS-MRM分 析 で は,ア セ
用することで,現行分析農薬数と併せ290農薬(異性体
フェートの擬似ピークは,136→42には開裂せず136→94
等含314)について,一斉分析が可能となった。検出下
に開裂する組成であったため,同定するには136/94だ
限値は,全ての農薬で0.
005p
p
mを確保することができ
けでは不十分であり,136/42と両方の確認が必要と考
た。また,糖類及び有機酸を多く含有する果実類の分析
えられた。イソプロカルブの擬似ピークは121/77,121
については,カラム劣化及び分析機器の感度低下を改善
宮城県保健環境センター年報
第24号 2006
-61-
するため,0.
1M-Na
HCO3でp
Hを中性付近に調整した後,
食塩を12g
加え,改良型一斉分析法で試料調製すること
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,88,615(2005).
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により,標準添加回収率の向上と機器分析上の問題点を
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解決することができた。
7,1070(1993).
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2000,
5)Lu
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A:8th I
また,にんじん分析において検出されたアセフェート
及びイソプロカルブの擬似ピークについて,GC/MS-
174茨.
SCAN測定でのGC条件を変更しても擬似ピークが大き
6)菊地秀夫,佐藤勤,山口剛,伊藤孝一:宮城県保健
すぎて,アセフェート及びイソプロカルブを分離するこ
環境センター年報,17,64(1999).
とができない状況であった。GC/MS/MSによる同定・
7)氏家愛子,高橋紀世子,細谷義隆,伊藤孝一:宮城
定 量 条 件 の 検 討 を 加 え た 結 果,プ ロ ダ ク ト イ オンの
県保健環境センター年報,17,70(1999).
SCAN測定により,ピークの分離は可能であったが,直
8)菊地秀夫,氏家愛子,新目眞弓,大江浩:宮城県保
接GC/MS/MS-MRM測定をする場合,農薬の同定・定
健環境センター年報,18,70(2000).
量を確実にするためには,プリカーサーイオン/プロダ
9)菊地秀夫,氏家愛子,新目眞弓,大江浩:宮城県保
クトイオン対が2対以上必要であることが確認された。
健環境センター年報,19,173(2001).
10)長船達也,氏家愛子,曽根美千代,大江浩:宮城県
参考文献
保健環境センター年報,20,72(2002).
1)氏家愛子,佐藤信俊:宮城県保健環境センター年報, 11)氏家愛子,長船達也,大江浩:宮城県保健環境セン
23,55(2005).
ター年報,21,126(2003).
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2)Ana
12)氏家愛子,佐藤信俊:宮城県保健環境センター年報,
F
.
S.
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AOACI
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.
,86,412(2003).
22,55(2004).
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-62-
表2
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追加農薬の標準添加回収試験結果(-2)
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