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森林の防災力を考える

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森林の防災力を考える
森林の防災力を考える
村井
宏(森林部門)
かつて、「岩手山火山爆発」が問題になったとき、発生する土石流被害を防ぐため、大規模な
砂防・治山ダムが予防のため危険流域で多数建設された。そのとき、国有林治山関係の対策に関
与していた私は、東北森林管理局に岩手山麓に防災林帯の配備を進言した。これを受けて地元盛
岡森林管理署では、山麓緩斜面に約 500m 規模のベルトを、
「岩手山火山防災緩衝林帯」として設
けた。
標高およそ 600m以下の傾斜 5~10°の緩斜面には、アカマツ、カラマツの人工林やミズナラ、
カエデ類の天然生広葉樹林が生育していた。中には間伐手遅れの林相もあり、積極的に手を加え
健全な林相に導くように指導した。「樹林で火砕流や土石流を防げるのか」という疑問が一部有
識者から投げかけられたが、強力なエネルギーのマスムーブメントを、樹林群が集団の力で直接
止めようとすることはもともと考えておらず、それはとても期待できるものではない。
それまで全国各地の火山泥流や土石流の災害跡地の観察結果から、発生した泥流や土石流の末
端が、林帯によって抑止されていることがわかっていた。流出過程で、上部の林木は転倒、流出
しながらも、自己犠牲的な状態で流れを抑止しているのである。それには山麓部の地形的なポケ
ットも貯留の受け皿となっている。そして、胸高直径 20cm 以上の適切な密度の立木集団の抑止
効果が高く、流動する土砂石礫の流速を遅滞させる効果も理論的に確かめられた。
火山泥流や土石流を人工ダムのように一挙に捕捉できなくとも、山麓緩斜面の森林はこれらの
流れを面的に受け止め、流出堆積エリアを縮小し、到達時間を遅らせる可能性がある。幸い、今
のところ岩手山は噴火せずに治まっているが、一石二鳥というか山麓の国有林は、除伐、間伐が
積極的に展開され、健全な林相で資源的に価値の高い「災害緩衝林」が育成されつつある。
この度発生した「東日本大震災・津波」により、沿岸の海岸防潮林は、壊滅的な打撃を受けた。
約半世紀前に発生した「チリ地震津波」と比べて、その被害の激甚さに驚いた。事実、県下の防
潮保安林の約 80%は津波にさらわれ、消滅している。これを見て、津波や地盤変動の激しさには、
クロマツ、アカマツなどの海岸林は役立たずのように、多くの人々の目に映ったことと思われる。
被災後、県内各地の被災海岸跡地を精査した結果、小高い場所の成林地は低地林よりも、健全
な高齢林は若齢林よりも生存率が高い。被害木の残根跡の観察から、激しい押し・引きの流れに
抗し、津波のエネルギーを減殺し、根系は地表浸食を抑え、根株は引き浪の漂流物を阻止してい
ることがわかった。つまり、結果としてみすぼらしい被災木も、自身が渾身の力で津波と闘った
姿である。
このように、森林の防災力は、集団機能を活かし、災害時に多面的に発揮する。しかし同時に、
自ずと限界があり、力量の過大評価も避けなければならない。
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