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牛の黒色腫 井上 奈奈、佐々木隆一 1.はじめに 黒色腫はメラニン産生
牛の黒色腫 ○井上 奈奈、佐々木隆一 1.はじめに 黒色腫はメラニン産生細胞由来の腫瘍で、犬、馬、豚に比較的多くみられ、牛 や羊でもみられる 1),2)。今回、M食肉センターに搬入された牛において全身性に 転移のみられた悪性黒色腫に遭遇したのでその概要を報告する。 2.症例の概要 黒毛和種の雌、194ヶ月齢で、脂肪壊死症と診断され、病畜として起立位で 搬入された。 3.生体所見 左腰部に手拳大の黒色腫瘤を認めたが、その他著変は認められなかった。 4.解体所見 生体検査時に認めた黒色腫瘤直下の左腸骨下リンパ節はバレーボール大に腫 大していた。内腸骨リンパ節は小児頭大に腫大していた。腎リンパ節は手掌大に、 肺付属リンパ節は 30×10×5cm 大に腫大し、肺実質内に母指頭大の境界明瞭な腫 瘤が散見された。腫瘤はすべて白色充実性であり、割面に黒色部を認めた。また、 腫大は認められなかった肝リンパ節の割面においても黒色部を認めた。その他、 肝臓に胆管結石、胆管肥厚を認めた。 5.スタンプ所見 左腸骨下リンパ節、内腸骨リンパ節、腎リンパ節および肺付属リンパ節のスタ ンプ標本ディフ・クイック染色では、大型の円形、楕円形の腫瘍細胞が観察され、 緑色の顆粒を含んでいるものも認められた。 6.組織所見 皮膚の黒色腫瘤では、真皮内に腫瘍細胞がびまん性に増殖しており、シート 状、波状、渦状に配列している部位もみられた。また、結合組織が不規則に入 り込み、壊死巣も散見された。腫瘍細胞は、円形、楕円形、多角形、紡錘形と 多様な形態を示し、細胞質内に茶褐色の顆粒を含んでいた。核分裂像も散見さ れた。肺腫瘤は、結合組織によって正常組織と区画されていたが、正常組織内 にも腫瘍細胞の浸潤が見られた。また腫瘍組織内では残存する肺胞内に好酸性 の浸出液を容れていた。肉眼的に腫大の見られた各リンパ節では、リンパ節固 有構造は失われ、結合組織の増生および壊死がみられた。肺および各リンパ節 の腫瘍細胞の形態および配列は皮膚腫瘤と同様であったが、顆粒を持たない細 胞が多くみられた。また、肺付属リンパ節においてリンパ洞内に腫瘍細胞が認 められた。腫大の認められなかった肝リンパ節では、正常構造は乱れ、顆粒を 含んだ腫瘍細胞が浸潤していた。 フォンタナ・マッソン染色および Warkel らの方法の改良法では、腫瘍細胞の 細胞質内に黒褐色~黒色の顆粒が認められ、過マンガン酸カリウム-シュウ酸法 によって漂白された。また、シュモール反応では、顆粒は青緑色を呈したこと から、メラニン色素であることが確認された。 7.診断名 悪性黒色腫 8.まとめ 悪性黒色腫は、通常、メラノサイトが存在する皮膚、脳軟膜等を原発として 血行性、リンパ行性に転移し、黒色の腫瘤または墨汁を散布したような病変を 形成する 3),4),5)。本症例は、体表左腰部の腫瘤は黒色であったが、体腔内の腫瘤 はすべて白色であり、割面に黒色部を認める程度であった。組織所見において も、メラニン色素を持たない細胞が多く観察されたが、細胞の形態および配列、 特殊染色の結果から、悪性黒色腫と診断された。また、リンパ節に転移がみら れ、リンパ洞内に腫瘍細胞が確認されたことから、体表左腰部腫瘤を原発とし、 リンパ行性に転移したことが推測された。 悪性黒色腫には、メラニン色素産生が微量、あるいは欠如しているために、 白色、灰白色を呈する無メラニン色素性黒色腫があり、悪性度が高いとされて いる 1),2),5)。この場合には、肉眼での診断は困難である。人の悪性黒色腫の診断 では、HMB45 抗体が特異的マーカーとして使用されており、無メラニン色素性黒 色腫にも有効である 6)。豚の悪性黒色腫でも有用であることが報告されており 7)、 現在、メラニン産生が微量であったリンパ節において HMB45 抗体の有用性を検 討中である。 9.参考文献 1)動物病理学各論;板倉智敏、後藤直彰編、文永堂出版 2)獣医病理組織カラーアトラス;板倉智敏、後藤直彰編、文永堂出版 3)食肉・食鳥衛生検査マクロ病理カラーアトラス;全国食肉衛生検査所協議会編、 学窓社 4)食肉衛生検査病理学カラーアトラス;全国食肉衛生検査所協議会編、学窓社 5)病理組織の見方と鑑別診断第 3 版;小川勝士監修、医歯薬出版株式会社 6)臨床検査増刊号免疫組織・細胞化学検査 1995,Vol.39,No.11、医学書院 7)豚の悪性黒色腫の3例;金行貴子ら、JVM.Vol.54,No.5,2001