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牛の心臓の腫瘤
牛の心臓の腫瘤 長崎県諫早食肉衛生検査所 石原雅行 はじめに 平成19年7月4日にNと畜場へ搬入された牛(交雑種、去勢、約2歳)のうちの一 頭において、解体後検査で心臓の内膜面に腫瘤が認められた。腫瘍性病変が疑われたこ とから病理学的検査を実施し、若干の知見を得たので報告する。 材料および方法 心臓の腫瘤部を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、定法に従ってパラフィン切片を作 製した後、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色および各種染色(エラスチカ・ワンギー ソン染色、リンタングステン酸-ヘマトキシリン(PTAH)染色、アザン染色、鍍銀染色) を実施した。 成績 1.内臓所見 僧帽弁下部から心室中隔にわたって円形に隆起し、また割面は心筋に埋没する腫瘤が見 られた。腫瘤と心筋は肉眼的に境界明瞭であった。腫瘤は約 7cm×7cm×5cm でやや弾力 があり、刀割時に抵抗があった。腫瘤の割面は暗赤褐色を呈して膨隆し、内部は白色の線 維状組織で区画され、針頭大から粟粒大の暗紫色小斑が多発していた。また、割面から血 液が滲出した。 その他の臓器に著変は見られなかった。 2.組織所見 腫瘤は、線維組織と大小の管腔構造を形成する腫瘍細胞から成り、管腔の多くは内部に 赤血球を入れ、管腔が不規則に吻合するものも認められた。管腔は一層の内皮様細胞から なり、その細胞が重層し内腔に突出する像や異型性を示す大型細胞が見られ、それらの一 部に核分裂像を認めた。また、腫瘤と心筋の境界部には、紡錘形の細胞が充実性に増殖す る部位が見られた。アザン染色では膠原線維を伴う管腔形成が見られた。また、エラスチ カ・ワンギーソン染色では管腔構造に筋線維や内弾性板がなく、一層の内皮様細胞のみで形 成されていた。PAS 染色では、基底膜が陽性を示した。鍍銀染色では、細網線維が管腔を 取り囲む像が見られた。 1 考察 本症例は、腫瘤が大小の不規則な管腔を形成する内皮細胞様の細胞と膠原線維から成り、 管腔の一部は血液を入れていた。管腔を形成する細胞には異型性細胞が認められ、核分裂 像も散見された。また、管腔形成の乏しい部分では平滑筋に類似する紡錘形細胞で占めら れていた。これらの細胞は心筋への浸潤が認められた。以上の所見から、血管形成が顕著 に見られた牛の心臓血管筋腫と診断した。 参考文献 1)カラーアトラス 病理組織の見方と鑑別診断 第4版、452-453、医歯薬出版 2)日本獣医師会雑誌、第 58 巻、第 1 号、65-66(2005) 2