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視覚運動における模写動作に関わる神経基盤の検討

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視覚運動における模写動作に関わる神経基盤の検討
日心第70回大会(2006)
視覚運動における模写動作に関わる神経基盤の検討
○小川 健二・乾 敏郎
(科学技術振興事業団 ERATO 浅田プロジェクト,京都大学大学院情報学研究科)
Key words: 視覚運動,模写動作,functional MRI
目 的
神経心理学における症例研究から,図形描画におけるなぞ
り動作(トレース)と模写動作(コピー)との解離が示唆さ
れている.例えば両側頭頂葉萎縮の患者では,見本の図形の
模写ができず,代わりに図形の上をトレースしてしまう
“closing-in”現象が見られることが知られている[1].また遺
伝子異常による発達性障害として知られる Williams 症候群の
患者では,図形のトレースは可能だが,模写や即時再生がで
きないことが知られている[2].また Williams 症候群の患者は,
MRI 解剖画像解析から主に背側経路の障害が示唆されてい
る[3].そこで本研究は,視覚運動における模写動作に関わる
神経基盤を核磁器共鳴画像法(functional MRI)で検討した.
方 法
【実験協力者】健常成人 12 名(男性 10 名,女性 2 名,平均年
齢 26.1 歳,右利き)が実験に参加した.うち 2 名(男女 1 名)
は撮像中の頭部の動きが大きかったため,
分析から除外した.
【課題】スクリーン上の固視点呈示(3000 ms)後に,見本の曲
線が呈示され(3000,4000, or 5000 ms で疑似ランダム),その後
マウスカーソル(赤丸,視角約 0.4 deg)が呈示された(5000 ms).
実験協力者は,①カーソルが見本の曲線上に呈示された際に
は,曲線のトレース,②カーソルが曲線の上下離れた位置に
呈示された際には,曲線の模写,③見本の曲線が消失した場
合には,曲線の即時再生を行った.また視覚コントロール条
件として,マウスカーソルが呈示されず,描画を行わない条
件を設けた(図 1)
.事象関連型デザインを用いて,この 5 条
件を 30 試行毎,計 150 試行を疑似ランダムに行った.見本の
曲線は,周波数,振幅,位相の異なる正弦波を疑似ランダム
に組み合わせたものを使用し,描画開始サイドは左右交互と
した.協力者は MRI 装置に横たわった状態で,右手でコンピ
ュータマウスを操作した.
【fMRI 撮像と解析】撮像には 1.5T MRI 装置(撮像パラメー
タ:TR/TE = 3000/49 ms,FA = 90 deg,FOV = 256 mm^2,matrix
= 64^2,30 axial slices,slice thickness = 5 mm,slice gap = 0mm),
分析には SPM2 を用いた.
図 1 課題の流れ
結 果
【行動データ】
即時再生条件では他の 2 条件より有意に短い描
画速度を示した(p<.01).カーソル呈示から描画開始までの時
間,および描画時間については 3 条件間で有意差は見られな
かった.
【fMRI データ】模写条件においてトレース条件よりも有意に
高い活動が,両側頭頂間溝周辺の後部頭頂皮質(PPC),右視覚
前野,右視床,左運動前野(PM),および小脳で見られた.ま
た即時再生条件においてトレース条件よりも高い活動が,上
記の部位に加えて前帯状皮質/前補足運動野(ACC/pre-SMA),
および右 PM で見られた.図 2 に模写と即時再生に共通して
トレース条件より高い活動が見られた部位を示す.また即時
再生条件において模写条件よりも有意に高い活動が,
ACC/pre-SMA および左尾状核で見られた.上記いずれの条件
においても,逆の比較では有意な活動は見られなかった.
考 察
トレース条件では,運動軌道は見本曲線として既に与えら
れているのに対し,模写および即時再生条件では見本曲線を
基に運動軌道を再構成する必要がある.模写,および即時再
生条件に共通して活動が見られた両側 PPC および左 PM を含
む頭頂-運動前野経路は,このような見本曲線の視覚情報を基
にした運動軌道の再構成に関連していると考えられる.PPC
の活動に関して,模写では見本曲線と運動軌跡とを比較する
ため眼球運動の影響も考えられるが,本実験では模写と即時
再生の両条件での活動の論理積(conjunction)を取ることでそ
の影響を排除した.また即時再生条件では,模写およびトレ
ース条件と比べ,対象曲線の視空間的ワーキングメモリに基
づいた運動生成が必要となる.即時再生条件で見られた
ACC/pre-SMA や尾状核は,このような視空間的ワーキングメ
モリに基づいた運動生成に関連するものと考えられる.
謝辞 著者 K.O.は日本学術振興会の支援を受けた.
引用文献
[1] Gainotti (1972), Neuropsychologia 10(4), 429-436.
[2] 永井ら(2001), 神経心理学 17, 36-44.
[3] Meyer-Linderberg (2004), Neuron 43, 623-631.
図 2 模写と即時再生条件に共通してトレース条件より高い
活動が見られた頭頂-運動前野領域
(OGAWA Kenji, INUI Toshio)
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