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S23 - 明海大学 歯学部 坂戸キャンパス

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S23 - 明海大学 歯学部 坂戸キャンパス
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
S23
の平均イベント数が,1 週目に対して有意な減少を認め
明海歯科医学会
第 17 回学術大会抄録
た.また,3 週目の BF 群の平均イベント数は CO 群に
対して有意差を認めた.夜間睡眠時では,BF 群におい
日時:2012 年 6 月 7 日(木)9 : 00∼
て,2 週目および 3 週目の平均イベント数が,1 週目に
会場:明海大学歯学部第 1・第 2 会議室
対して有意な減少を認めた.また,夜間睡眠時の 3 週目
のイベント数は BF 群と CO 群との間で有意差を認め
日中のクレンチングに対するバイオフィード
バック訓練が夜間のブラキシズムに及ぼす影響
佐藤 雅介
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(理工系歯材応用研究群歯科補綴学Ⅱ)
た.CO 群においては日中及び夜間睡眠時いずれにおい
ても,1, 2, 3 週の間でイベント数に有意な変化を認めな
かった.
【考察】Iizuka らは,日中のクレンチングと夜間のブラ
キシズムのイベント数に相関があることを報告した.今
回の結果から,日中の EMG-BF 訓練によるクレンチン
【緒言】ブラキシズムは顎関節症の寄与因子として知ら
グ抑制によるイベント数が減少したことに伴い,夜間の
れており,その他にも補綴装置や歯周組織に破壊的な作
ブラキシズムイベントも減少した.しかしながら,その
用を示し,歯科臨床上解決すべき大きな課題の一つとな
詳細なメカニズムは今回の実験結果からは明確にできな
っている.これまでにブラキシズムに対する携帯型筋電
い.このことは今後の検討課題としたい.また,EMG-
計バイオフィードバック装置(EMG-BF 装置)の開発,
BF 訓練の 1 週間経過後においてもベースラインデータ
日中のクレンチング抑制効果,日中と夜間睡眠時ブラキ
に比較して昼夜ともイベント数の減少を認めていること
シズムの相関について報告がなされてきた.今回,日中
から,持続した学習効果も認められたと考えられる.各
のクレンチングに対する バ イ オ フ ィ ー ド バ ッ ク訓練
実験回の CO 群の平均イベント数において,減少傾向
(EMG-BF 訓練)が夜間のブラキシズムに及ぼす抑制効
が無いことから,EMG-BF 装置の装着自体がイベント
果を調べることを目的として本研究を行った.
数の減少を招いたのではないと推察される.
【材料と方法】日中のくいしばりを自覚する,ないしは
【結論】日中のクレンチングに対する EMG-BF 訓練が,
夜間の歯ぎしりを指摘され,かつ本実験で設定した包含
夜間のブラキシズムに抑制効果を発祥し,その効果は 1
基準に該当する者を被験者とした.被験者 10 名(男性,
週間後でも継続することが示唆された.
27.8±2.4 歳)をバイオフィードバック群(BF 群)とコ
ントロール群(CO 群)にそれぞれ 5 名ランダムに振り
分け,実験を行った.EMG 測定および EMG-BF 訓練に
は EMG-BF 装置を使用し,3 週間の日中および夜間睡
眠時の測定を行った.1 週目にベースラインデータを測
亜酸化窒素セボフルラン麻酔全身麻酔下での
過換気が血圧・心拍数・BIS
(Bispectral index)
値に及ぼす影響
定し,Watanabe らの方法に準じて EMG-BF 訓練時に必
浅見 剛史
要となる閾値を設定した.BF 群では,2 週目にクレン
明海大学歯学部総合臨床医学講座麻酔学分野
チング時に電子音による EMG-BF 訓練を 2 日間連続で
行った.3 週目に再度昼夜とも EMG 測定を行った.CO
脳波解析をもとに算出された BIS(Bispectral index)
群は,1, 2, 3 週目とも EMG-BF 訓練を行わず,EMG 測
値は麻酔深度判定に有用といわれる BIS モニターのパ
定のみ実施した.1, 2 および 3 週目におけるブラキシズ
ラメータである.BIS 値 0 は脳波が平坦な状態で BIS
ム平均イベント数を算出し,EMG-BF 訓練による効果
値 100 は覚醒した状態を示す.過換気は脳圧亢進患者で
を検証することとした.統計解析には Two-way repeated
の全身麻酔管理施行時,吸入麻酔薬を用いたときの麻酔
measure ANOVA と,その後の多重比較には Tukey の
導入時や覚醒時にしばしば必要とされる.一方,救急蘇
HSD 検定を用い,有意水準 p<0.05 の場合に有意差あ
生法施行時では過換気は禁忌とされる.全身麻酔下過換
りとした.解析ソフトには SPSS 17.0 を用いた.なお,
気の血圧,心拍数,BIS 値に及ぼす影響に関する報告は
本研究は本学倫理委員会の承認を受けて実施した(No.
ない.そこで,亜酸化窒素セボフルラン全身麻酔下で過
A 0828).
換気が血圧,心拍数,および脳波に及ぼす影響について
【結果】日中では,BF 群において,2 週目および 3 週目
検討した.
S24
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
【対象】本研究は明海大学歯学部倫理委員会において承
でも有意の血圧低下をきたすことはなかった.過換気の
認された.全身麻酔下で手術を施行する歯科口腔外科患
BIS 値に及ぼす影響に関する研究では BIS 値を低下さ
者 36 名を対象とした.生体監視モニターを装着後臭化
せる,もしくは変動させないとする報告がある.BIS 値
ベクロニウム 0.1 mg/kg,チオペンタール 6 mg/kg を静
の低下する機序として血圧低下を原因とする可能性を述
脈内投与して気管挿管を行った.また,麻酔導入前に前
べている報告があるが,実際には BIS 値と同時に血圧,
頭部に BIS モニターを装着した.そして,Hagihira が
および心拍数を記録した報告はない.また,過換気によ
作成した Bispectrum Analyzer を BIS モニターに接続し,
って BIS 値が低下した報告は,今回検討した過換気の
脳波を解析した.麻酔は 1% セボフルラン,亜酸化窒素
換気条件より分時換気量が大きく,過度の過換気の条件
4 l /min,酸素 2 l /min で維持した.被検者は normocapnia
であった.今回の研究では,mild な過換気の条件下で,
群と hypocapnia 群の 2 群にアトランダムに分けた.nor-
血圧,および心拍数の変動が観察されなくても BIS 値
mocapnia 群は換気条件を 1 回換気量 10 ml /kg,換気回
は低下することが判明した.
数 8 回/分の ZEEP を気管挿管後 30 分まで行なった.hypocapnia 群は,換気条件を気管挿管後 15 分まで 1 回換
気量 10 ml /kg,換気回数 8 回/分の ZEEP で行い,15 分
後から換気条件を 1 回換気量 10 ml /kg,換気回数 16 回/
超音波診断装置における嚢胞様病変の
コントラスト評価
分の ZEEP とした.血圧,心拍数,および BIS 値は導
大髙 祐聖
入後 5 分後から 30 分後まで 5 分間隔で測定した.
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(理工系歯科器材研究群歯科放射線学)
【結果】身長,体重,年齢,男女比,導入前平均血圧,
心拍数,挿管 15 分後の呼気 CO2 分圧,挿管 15 分後の
体温,挿管 15 分後の呼気セボフルラン濃度,挿管 15 分
【目的】画像診断に対するモダリティーは現在エックス
後の呼気亜酸化窒素濃度に 2 群間で有意差がなかった.
線画像形成法が主であるが,近年 MRI,超音波画像診
hypocapnia 群では過換気開始 15 分後有意に呼気 CO2 分
断装置などエックス線を使用しない診断装置が開発され
圧が低かった.また,SpO2 値は酸素吸入開始から挿管
歯科領域にも応用されるようになってきた.各種装置で
30 分後まで 36 例とも 100% を示した.BIS 値につい
形成された画像の特性評価については正診率の向上に寄
て,normocapnia 群は挿管後 30 分まで有意の変動がな
与するため,分解能,鮮鋭度あるいはコントラストなど
く,45 前後の BIS 値を保った.hypocapnia 群は baseline
多くの研究者によって評価されてきた.本研究は今まで
5 分後(過換気開始 5 分)から 15 分(過換気開始 15
報告の少ない超音波画像診断装置の物理的特性について
分)まで有意に normocapnia 群よりも低かった.SEF95
画像評価を行った.特に嚢胞様病変の組織欠損像につい
(95% スペクトラル端周波数)および脳波の振幅につい
てそのコントラスト分解能の評価を行ったので報告す
て,normocapnia 群は SEF95 について挿管後 30 分まで
る.
有意の変動がなく,15 Hz 前後の SEF95 値を保った.hy-
実験は,軟組織に発生する嚢胞を対象として開発され
pocapnia 群は baseline 10 分(過換気開始 10 分)から 15
た超音波診断装置の精度管理用ファントム(シストファ
分(過換気開始 15 分)まで有意に normocapnia 群より
ントム)を使用して画像コントラストの定量評価を行っ
も低かった.しかし,脳波の振幅は normocapnia 群と hy-
た.このファントムは表層から深層に向かって 1 cm 間
pocapnia 群で挿管後 30 分まで脳波の振幅について有意
隔で円形欠損が存在し,大きさは直径 2 mm, 3 mm, 4 mm
の変動を共に示さず,両群間で差がなかった.平均血圧
について評価が可能である.
および心拍数について,normocapnia 群と hypocapnia 群
実際の検査時では,各種パラメータ設定において周波
は挿管後 30 分まで血圧,および心拍数について有意の
数(Hz),ゲイン(G),ダイナミックレンジ(DR)を
変動を共に示さず,両群間で差がなかった.過換気によ
設定して操作することから,この 3 種類のパラメータに
る hypocapnia は血圧および心拍数に影響を与えなかっ
ついてコントラストの変化を検討し,最も病変にとって
た.
適切な条件を導くことを目的に研究を行った.
【考察】過換気は末梢血管から右心房への静脈血環流を
【材料と方法】超音波診断装置 FAZONE CB(富士フイ
妨げ,しばしば血圧低下をきたすことが報告されてい
ルムメディカル)を使用した.探触子は頸部用リニアプ
る.しかし,分時換気量 140 ml /kg の条件下での過換気
ローブ FZT-10-5 型を,精度管理用ファントムは Model
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
539 Multi Purpose Ultrasound Phantom(イーステック株
式会社),画像処理は Image J(NIH)を使用した.撮影
S25
NaF が誘導するアポトーシスにおける
Bad タンパク質の関与
条件は以下の設定を用いた.
大槻 純子
周波数の違いによるコントラストへの影響について
明海大学歯学部病態診断治療学講座薬理学分野
は,G 88, DR 70 に固定し,周波数 6 MHz, 8.5 MHz につ
いてデータを採取した.G の影響については 6 MHz, 8.5
【目的】我々は以前,フッ化ナトリウムが解糖系に関与
MHz 両者において DR を 50, 70, 90 に固定し,G を 78,
する酵素(エノラーゼ)を阻害することから,アポトー
88, 98 と変化させた.DR の影響については 6 MHz, 8.5
シスと解糖系の関連を調べた.その研究では,フッ化ナ
MHz 両者において G を 78, 88, 98 に固定し,DR を 50,
トリウムが HL-60 細胞にアポトーシスを誘導し,グル
70, 90 と変化させた.得られた画像について Image J
コースの細胞への取り込みが阻害され Bcl-2 ファミリー
(NIH)を使用し画像解析を行った.コントラスト評価
タンパク質の一つである Bad の発現が確認された.今
は各欠損部の輝度レベルプロフィールに対して周辺組織
回我々は,同様な変化が口腔由来の細胞でも起こるのか
の差をもって評価し,最も良い条件設定を検討した.
を,ヒト正常歯肉線維芽細胞(HGF)とヒト口腔扁平上
【結果】①周波数の変化:浅部において 8.5 MHz の方が
皮癌細胞(HSC-2)を用いて調べた.また,フッ化ナト
6 MHz に比べてコントラストは良かった.深部では 6
リウムが誘導するアポトーシスでの Bad の関与を si-
MHz に比べ,8.5 MHz の方がコントラストは劣ってい
RNA 導入した HSC-2 細胞を用いて実験した.さらに,
た.②G の変化:6 MHz, 8.5 MHz とも DR 50, 70 で固
アポトーシス時に Bad と相互作用するタンパク質を探
定した場合,G が大きくなるに従ってコントラストは
索した.
良くなったが,DR 90 で固定した場合,G が大きくなる
【材料・方法】標的細胞は,ヒト口腔扁平上皮癌細胞
に従ってコントラストは低下した.③DR の変化:6
(HSC-2),ヒト口腔正常細胞(歯肉線維芽細胞;HGF)
MHz, 8.5 MHz とも G 78, 88 で固定した場合,DR が大
を用いた.これらの細胞は DMEM に 10% FBS を添加
きくなるに従ってコントラストは良くなったが,G 98
した培地を用いて培養した.細胞障害活性は MTT 法で
で固定した場合,DR が大きくなるに従ってコントラス
測定した.アポトーシスの指標としてはアネキシン染
トは低下した.
色,DNA のヌクレオソーム単位の断片化をみるアガロ
【考察】①周波数の変化:浅部(1∼3 cm)では 8.5 MHz
ース電気泳動,カスパ ー ゼ 3 活性を DEVD-pNA(p-
の方が送信パルス幅は小さいため,コントラストは良好
nitroanilide)切断活性により測定した.細胞内の Bad タ
になったが,深部(4∼5 cm)では超音波ビームは周波
ンパク質を Western blot 法を用いて確認した.Bad の機
数が高いほど減衰が大きいため,6 MHz の方がコント
能を調べるため,Badsi-RNA を導入した細胞を用いて
ラストは良好になったと考えられた.②G 及び DR の
カスパーゼ活性を測定した.Bad に結合するタンパク質
変化:G とは CT のウィンドウレベル,DR はウィンド
の探索に免疫沈降を用いた.細胞内の Bad と炭酸脱水
ウ幅に相当する.G, DR はやや高い方が画像を主とし
素酵素(CA)の分布を,Bad-GFP を導入した HSC-2 細
て構成する信号を過不足なく描出することができたた
胞で免疫染色を用いて検鏡した.
め,コントラストが良好になったと考えられた.また,
【結果】NaF は濃度,時間依存的に HGF 細胞と HSC-2
G, DR とも高くしすぎるとコントラストは低下した.
細胞の生細胞数を減少させた.HSC-2 細胞ではアポト
これは被写体周囲の信号だけでなく,シスト内の雑音ま
ーシス初期マーカーであるアネキシンの染色,カスパー
でも描出してしまったため,コントラストが低下したと
ゼ 3 活性化,ヌクレオソーム単位の DNA 断片化が見ら
考え ら れ た . ま た 本 研 究 よ り , 浅 部 で は 周 波 数 8.5
れたが,HGF 細胞についてはいずれも観察されなかっ
MHz, G 98, DR 70,深部では周波数 6 MHz, G 98, DR 70
た . si-RNA の 導 入 に よ り Bad 遺 伝 子 が 抑 制 さ れ た
でコントラストの値が最も安定して高い値を示していた
HSC-2 細胞では,NaF によって誘導されるアポトーシ
ことが分かった.また被写体は大から小になるにつれて
スが抑制された.また,NaF 処理した HSC-2 細胞内の
コントラストは低下し,周波数 8.5 MHz, G 98, DR 70,
Bad タンパク質の量は,未処理の細胞群より増加した.
周波数 6 MHz, G 98, DR 70 で最も安定した値を示して
一方,NaF 処理で CA タンパク質量に変化はなかった.
いたことが分かった.
NaF の培地中への添加量の増加に伴い,Bad-CA 結合量
は減少した.逆に,Bcl-2 は NaF の濃度依存的にその結
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明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
合量は増加した.NaF が存在しない状態では HSC-2 細
cal conditions has been retained unclear. In this study immu-
胞内の Bad と CA のタンパク質の局在が一致していた
nohistochemical and molecular biological analyses were per-
が,NaF で処理すると離解するのが確認された.
formed to examine the importance of podoplanin expression
【考察】各アポトーシスマーカーの発現から,NaF は
in epithelial dysplasia and OSCC.
HSC-2 細胞でもアポトーシスを引き起こすことが示さ
【Materials and Methods】One hundred and three samples
れた.また,NaF が誘導するアポトーシスには Bad の
of epithelial precancerous lesions and 69 samples of OSCCs
発現が関与していることが明らかとなった.NaF を作
were used in this study. Each sample was analyzed by im-
用させたとき,HSC-2 細胞内の Bad タンパク質は増加
munohistochemical examination using the primary antibody
し Bcl-2 と会合すること,NaF の作用を受けていないと
against human podoplanin(D 2-40). To investigate the mo-
き,HSC-2 細胞内の Bad タンパク質の一部は CA と会
lecular function, Ca 9-22, HSC-2, -3 and -4 cells were incu-
合 す る こ と を 初め て 明 ら か に し た . こ の こ と か ら ,
bated with growth factor, siRNA for podoplanin, Src and p
HSC-2 細胞において NaF による刺激を受けると Bad は
130Cas, and subjected to real-time RT-PCR and western blot-
Bcl-2 と結合してアポトーシスを誘導するが,NaF のな
ting assay to examine the effects of growth factor on the po-
いときには CA が会合し,Bad と Bcl-2 の結合が少なく
doplanin expression. In addition, scratch assay was per-
なくなることによりアポトーシスを抑制していると考え
formed to examine the effect of EGF on cell migration in-
られた.本研究により,CA がこれまで報告されてきた
ものと異なる機能を持ち,Bad によるアポトーシス誘導
は CA により制御されている可能性が示唆された.
duced by podoplanin.
【 Results and Discussion】 Immunohistochemical intensity
for Podoplanin was correlated with the degree of epithelial
dysplasia(P =0.016)and significantly associated with a poor
pathologic grade of differentiation(P =0.020)of OSCC.
Significance of podoplanin expression in
epithelial dysplasia and squamous cell carcinoma
of the oral cavity
井上 ハルミ
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(形態系病態形態研究群口腔病理学)
【Background】Human podoplanin is a type-1 transmem-
EGF and TGF-β 1 treatments enhanced the expression of podoplanin in all cell lines except for HSC-3. Cell migration
was suppressed by treatment with a siRNA specific for podoplanin. EGF treatment enhanced the expression of MMP 9
in Ca 9-22 and HSC-2. Src and p 130Cas expressed ubiquitously in all OSCC cell lines and were enhanced upon EGF
stimulation. siRNA specific for Src and p 130Cas inhibited
podoplanin expression in Ca 9-22 and HSC-2.
brane sialomucin-like glycoprotein, and now utilized as a
【Conclusion】Podoplanin expression may be a useful predic-
specific marker for recognizing lymphatic vessels. Recent
tor of the risk of cancer development in oral precancerous
studies have shown that podoplanin is expressed not only in
lesions. The association between podoplanin expressions and
normal tissues but also in abnormal tissues with inflamma-
the grade of differentiation was statistically significant. In-
tion and dysplalstic changes, or various malignant neo-
duction of podoplanin may be mediated by cancer microen-
plasms. It has been implicated that podoplanin can be in-
vironmental growth factors, such as EGF and TGF-β 1. Po-
volved in cellular contractile properties and cytoskeletal re-
doplanin dependent cell migration was demonstrated in
organization, cell migration, tumor cell invasion and metas-
HSC-2. Podoplanin utilizes Src and Cas to reorganize cancer
tasis. Furthermore, it has been reported that Src, a non-
cell cytoskeleton and may be associated with tumor cell in-
receptor tyrosine kinase overexpressed in several cancers, di-
vasion in oral cavity.
rectly associates with epidermal growth factor receptor
(EGFR)in oral squamous cell carcinoma(OSCC)cells upon
EGF stimulation and phosphorylates Crk-associated substrate
(Cas)to promote tumor cell migration, and podoplanin acts
downstream of Src and Cas to promote cell migration. However, the role of the protein in physiological and pathologi-
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
S27
Turkey-Kramer 法を用いて多重比較検定を行った.ま
た,男女比の比較は χ 2 検定で行われた.P<0.05 を有
全身麻酔下においてペンタゾシンが
麻酔深度モニターに及ぼす影響
小宅 宏史
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系薬理研究群麻酔学)
意とした.数値は平均値±標準偏差で示した.
【結果】患者背景は 3 群間で差がなかった.血圧,心拍
数は 3 群において PENT 投与後若干の低下傾向が観察
されたが有意な変動を示さなかった.BIS 値は 3 群とも
全身麻酔法における浅麻酔は,患者に対する身体的ス
PENT 投与後に上昇を示したが,0.15 mg/kg 投与群では
トレスが加わることのみならず,術中覚醒のリスクを伴
有意でなかった.3 群間比較においては PENT 0.15 mg/kg
う.一方,浅麻酔に配慮したことによる過量の麻酔薬投
投与群と 0.3 mg/kg 投与群の間に用量依存性の変化を認
与は過度の深麻酔をきたし術後の覚醒遅延や重要臓器障
めたが PENT 0.3 mg/kg 投与群と 0.6 mg/kg 投与群の間
害のリスクをはらむ.したがって,適切な麻酔深度を維
には BIS 値に有意な変化は認められなかった.BSA を
持することは麻酔管理上重要である.近年,種々の麻酔
用いた脳波解析では,95% スペクトル端周波数(SEF
深度モニターが開発され,普及しつつある.BIS モニタ
95)において 3 群とも数値の上昇が認められたが,0.15
ーは,主として脳波解析をもとに鎮静度を測定するもの
mg/kg 投与群では有意でなかった.また,振幅の低下は
である.BIS モニターは麻酔医にとって有用であるとさ
有意でなかった.投与量によるパラメータの変化では
れるが,麻酔医の臨床的麻酔深度判定と乖離が見られる
場合がある.
SEF95 は 3 群間で各々有意差があった.
【考察と結語】BIS 値の上昇は麻酔深度が浅くなること
吸入麻酔薬を用いての全身麻酔法にオピオイド系鎮痛
を意味するが,臨床的にはバイタルサインの安定など麻
薬の併用は吸入麻酔薬の投与量の減少,手術侵襲に対す
酔深度が浅くなるサインはなかった.しかし全身麻酔下
るストレス反応の減弱等々を目的として歯科麻酔領域で
で PENT を投与した際の脳波解析の結果,BIS 値と SEF
も頻用される麻酔方法の一つである.以前著者は亜酸化
95 の上昇が
窒素(N2O),セボフルラン(Sev)麻酔にオピオイド系
観察された.用量依存性は SEF95 で顕著であった.PENT
鎮痛薬を投与すると臨床的に患者は覚醒の指標を示して
による脳波への影響は低振幅速波化といわれているが,
いないのもかかわらず,脳波の変化を認め BIS 値が上
振幅の低下は統計学的分析では有意でなかった.
昇するという報告をしている.今回,更に掘り下げた研
究を行うために用量依存性の有無と Bispectrum Analyzer
for BIS(以下 BSA)を用い脳波解析を行った.
【方法】本研究は明海大学歯学部倫理委員会において承
種々の外科的侵襲を加えたラット顎下腺
における Hsp27 の局在と変動
認された.研究内容と麻酔方法について患者に説明し書
溝部 健一
面で承諾を得た.歯科口腔外科手術症例 45 名(ASA ク
明海大学歯学部機能保存回復学講座
オーラル・リハビリテーション学分野
ラスⅠ)を対象としペンタゾシン(PENT)0.15 mg/kg
投与群(n=15),0.3 mg/kg 投与群(n=15),0.6 mg/kg
投与群(n=15)の 3 群に無作為に分けた.手術室入室
【背景】唾液腺は唾液腺自身の炎症や腫瘍の他,導管閉
後,自動血圧計,心電計,パルスオキシメータ,BSA
塞,外科的切除,放射線照射などの影響を強く受け,唾
を接続した BIS モニターを装着し,血圧を連続 3 回測
液分泌障害から口腔乾燥などの障害を引き起こす.動物
定後,臭化ベクロニウム 0.1 mg/kg,チオペンタール 6
実験でも,外科的切除,放射線やレーザー照射,導管結
mg/kg を静脈内投与して気管挿管を行った.全身麻酔は
紮などの唾液腺の損傷と修復についての研究が行われて
呼気 CO2 濃度および吸入麻酔薬濃度をモニターし,1%
きたが,対照側を対象とした詳細な解析は非常に少な
SEV, N2O 4 l /min,酸素 2 l /min で維持し BIS 値が 40 前
い.熱ショックタンパク質(HSP)は熱などの非生理的
後を保つように麻酔濃度を調節した.気管挿管後 15 分
なストレスに対応して細胞死を回避する分子シャペロン
に PENT を投与し,麻酔導入時より導入後 30 分までの
である.Hsp27 は 25∼27 kDa の HSP で,生理的な環境
血圧,心拍数,BIS 値を 2.5 分間隔で測定し BSA にて
下,特に発生過程でも強く発現することが知られてい
脳波解析を行った.統計学的分析は,3 群間以上の比較
る.
に一元分散分析を行い,有意差が存在した場合,
ラット顎下腺では,生後 3∼4 週齢の腺房部に残存し
S28
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
た胎生期の終末細管細胞や導管結紮による損傷を加えた
細胞数の変動は,代償性の肥大や細胞増殖を反映し,そ
腺房の再生過程で Hsp27 が強く発現することから,腺
の調節機構に関与していることが強く示唆された.ま
房細胞の増殖分化の調節に関わると考えられている.本
た,介在部が唾液腺の再生に重要な役割を果たすことが
研究では,成獣ラットの右側顎下腺に種々の外科的侵襲
本研究からも強く示唆された.
を加えた場合の,手術側および対照側における Hsp27
の局在とその変動を組織化学的に解析した.
【方法】免疫組織化学:生後 4 および 8 週齢のウィスタ
ー系ラットを用い,正常(無処理)の顎下腺と,右側に
以下の外科処置を行った顎下腺と,その対照側の顎下腺
歯周炎患者歯肉溝滲出液中の
Tannerella forsythia detaching factor
切断酵素活性に関する研究
をパラフォルムアルデヒド溶液で灌流固定し,凍結切片
呂 宗彦
を作成してウサギ抗マウス Hsp 25 ポリクローナル抗体
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系病態機能研究群歯周病学)
を用いた免疫組織化学を行った.細胞増殖活性との比較
のため,増殖細胞を隣接切片にてヤギ抗マウス Ki67 モ
ノクローナル抗体を用いて検出した.染色後,定面積
【背景】Tannerella forsythia は,重度・歯周炎患者の歯
(330×410 μ m)内の免疫陽性上皮細胞数を計測し,統
周ポケットから検出され,歯周炎の発症や進行に関わる
計学的に解析した.
細菌である.T. forsythia の病原因子である Forsythia De-
外科手術:麻酔下で 8 週齢ラットに以下の手術を行っ
taching Factor(FDF)は,細胞剥離活性を持ち,細胞内
た:①右側ワルトン管を動脈結紮用クリップで結紮し
からの Interleukin-8(IL-8)の産生を促進することが報
た.また 1 週後にクリップを除去して結紮を解除,②右
告されている.FDF には 60 kDa-FDF と 28 kDa-FDFc の
側顎下腺の遠位側 1/2 を絹糸で結紮して切除,③右側顎
2 つのフラグメントが存在し,大西らは,60 kDa-FDF
下腺を全摘.
が,歯周炎患者の歯肉溝滲出液(GCF)により268Lys 残
【結果】正常および手術した顎下腺において,Hsp27 は
基 C 末端側で切断され,28 kDa-FDFc が生じること,
介在部導管に局在した.正常の生後発生では,4 週齢か
さらに 28 kDa-FDFc は 60 kDa-FDF と比較して,細胞か
ら 12 週齢にかけて Hsp27 陽性細胞数は漸減した.①導
らの IL-8 産生誘導能が高いことを報告している.また
管結紮・解除手術群では,手術側では Hsp27 免疫陽性
臨床研究では,GCF 中の FDF に対する IgG 抗体レベル
細胞は結紮後徐々に減少したが,解除後 3 日目で有意に
が,歯周炎患者で高いことが明らかとなっている.本研
発現を認め解除 2 週目で正常と有意差はなくなった.ま
究は,FDF268Lys 残基 C 末端側アミノ酸配列を含む合成
た,対照側では,結紮 1 日,3 日,7 日,解除後 3 日お
発色基質 Ac-Arg-Ala-Lys-p-nitro aniline(RAK-pNA)を
よび 14 日において,手術側よりも有意に陽性細胞が多
作製し,GCF 中の当該アミノ酸配列を切断する酵素活
かった.②片側部分切除術群では,手術側では,切除 1
性の測定を行い,臨床パラメーターとの相関関係を解析
日目に減少し,3 日目から 2 週目まで増加し,4 週目で
することで,合成発色基質の歯周病診断への有用性を検
減少した.また,対称側は,切除 1 日目,3 日目,1 週
討することを目的とした.
目,および 2 週目で増加が認められ 4 週目に減少した.
③片側全摘出術群では,同齢の正常顎下腺と比べ,術後
1 週および 2 週で増加し,4 週で減少した.
【材料および方法】
1 )被験者および歯肉溝滲出液(GCF)の採取
被験者は,明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科
Ki67 陽性細胞は,刺激に対して介在部および成熟腺
へ来院し,本研究への協力に同意の得られた慢性歯周炎
房細胞にも発現した.また増減の傾向は Hsp27 の変動
患者 20 人および同病院の健常者ボランティア 10 人とし
に準じていた.
た.全ての被験者に歯周組織検査およびデンタル X 線
【結論】Hsp27 は常に介在部導管細胞に特異的に発現し,
写真撮影を行い,GCF 採取を行う被験部位(歯周炎部
各種の外科的刺激に対して,対照側の顎下腺でも発現細
位,健常部位)を決定した.慢性歯周炎患者の歯周炎部
胞が有意に増加した.以上の結果から,Hsp27 は損傷を
位のうち,デンタル X 線写真で骨吸収が認められ,プ
与えた手術側の介在部導管に発現するだけでなく,損傷
ロービングポケット深さ(PPD)6 mm 以上かつプロー
を与えていない対照側の正常顎下腺介在部にも強く発現
ビング時の出血が認められた部位(BOP(+))の部位
が誘導されることがわかった.Hsp27 陽性の介在部導管
を DB 群,PPD 6 mm 以上かつ BOP(−)の部位を DNB
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
群とした.健常部位-CH 群は PPD 3 mm 以下かつ BOP
(−)の部位とした.健常者の被験部位は PPD 3 mm 以
マウスメッケル軟骨における肝細胞増殖因子
(HGF)の局在と役割
下かつ BOP(−)の部位とし,H 群とした.GCF を各
徳永 寛司
群の被験部位よりペリオペーパーにて採取後,保存用バ
明海大学歯学部形態機能成育学講座解剖学分野
ッファーに挿入し,解析を行うまで−80℃ にて保管し
た.尚,本研究は本学倫理審査委員会の承認を得て行っ
S29
【背景】メッケル軟骨は哺乳類胎児の下顎に一時的に生
た(承認番号 A 1002).
じる硝子軟骨性の骨格で,その大部分は出生前に消失す
2 )タンパク濃度および FDF 切断酵素活性の定量
る.第一鰓弓に遊走してきた神経堤由来の外胚葉性間葉
GCF のタンパク濃度をビシンコニン酸法にて測定後,
が,下顎突起中で軟骨芽細胞に分化し,鼓室部からオト
希釈し,タンパク濃度を 0.5 mg/ml に標準化した.作製
ガイ部にいたる細長い棒状の軟骨を形成し,正中部で癒
した RAK-pNA 発色基質を GCF に添加し,37℃ で 60
合する.軟骨の成長およびその調節に関わる因子は現在
分間反応させ,405 nm の吸収波長で吸光度を測定し,
までに数多くの細胞増殖因子やサイトカインが解析され
単位時間内における吸光度を求めた.本研究では,酵素
ているが,肝細胞増殖因子(HGF)は,マウス第一鰓弓
活性=遊離 pNA μ M/h を unit で表記し,GCF 中の FDF
に強く発現して,下顎骨およびメッケル軟骨に局在す
切断酵素活性とした.
る.本研究では,マウス下顎のメッケル軟骨において,
3 ) T. forsythia 16S rRNA お よ び Porphyromonas gingivalis 16S rRNA の検出
その成長から消失に亘る期間における HGF およびその
特異的受容体(cMet)の局在とその変化を免疫組織化
GCF を採取した同部位より歯肉縁下プラークを採取
学的に解析した.また,マウス胎仔第一鰓弓の器官培養
し,ポリメラーゼチェインリアクション(PCR)法にて
系を用い,HGF のメッケル軟骨での発生学的な役割に
T. forsythia および P. gingivalis の 16S rRNA を検出し
た.これらの細菌の遺伝子の有無による同部位の当該酵
ついて解析した.
【方法】免疫組織化学:胎齢 12 日(E12)から E16 まで
素活性値の差を比較した.
の ddY 系マウス胎仔を 4% パラフォルムアルデヒド溶
4 )統計処理
液で浸漬固定し,厚さ約 15 μ m の連続凍結切片を作成
当該酵素活性における各群間の有意差検定には Steel-
し,ウサギ抗ラット HGF ポリクローナル抗体またはウ
Dwass 法を,当該酵素活性と臨床パラメーターとの相関
サギ抗 cMet ポリクローナル抗体を用いて免疫組織化学
関係は Spearman 順位相関係数を用いて解析した.当該
染色を行った.また一部はアルシアンブルー染色を行っ
遺伝子検出の有無による当該酵素活性値の差の比較には
た.
Mann-Whitney U test を使用した.統計分析は統計ソフ
ト R ver. 2.8.1 および SPSS ver.20 を使用した.
器官培養:妊娠 ddY マウス子宮から取り出した E10
胎仔(Theiler’s stage 16)の第一鰓弓下顎突起を顕微鏡
【結果および考察】FDF 切断酵素活性の定量を行ったと
下で切除し,無血清 BJGb 培地を用いて 10 日間,37℃,
ころ,それぞれ DB 群:6.73 unit, DNB 群:5.83 unit, CH
CO2 20% で培養した.HGF 添加群には 25 mM でリコ
群:5.04 unit,および H 群:1.15 unit であった.当該酵
ンビナントラット HGF を培地中に加え,培地は隔日で
素活性は,健常者(H 群)と比較して慢性歯周炎患者
交換した.HGF 抑制群には,HGF アンタゴニストであ
(DB, DNB, CH 群)で有意に高い値を示した.また PPD
る NK4 を培地中に添加した.また,NK4 をビーズに浸
と当該酵素活性との間に有意な正の相関関係が認められ
透させ,培養 6 日目に培養片のメッケル軟骨上部に投与
た.このことから,当該酵素活性が歯周炎の重症度に関
した.培養後は,ブアン液で浸漬固定し,パラフィンに
連性があり,作製した合成発色基質が歯周病診断に有用
包埋して連続切片を作成し,HE 染色を行い,通常の観
である可能性が示唆された.
察および組織計測を行った.培養試料の一部はアルシア
PCR 法の結果より,T. forsythia 16S rRNA が検出され
た群は,検出されなかった群と比較すると,有意に高い
ンブルー染色を行って全載標本とし,実体顕微鏡で観察
した.
当該酵素活性が認められた.また P. gingivalis 16S rRNA
【結果】免疫組織化学:E12 から E16 までの成長中のメ
の有無による当該酵素活性に,統計学的に有意な差は認
ッケル軟骨前部および中間部では,軟骨細胞の HGF お
められなかった.これにより T. forsythia が持つ酵素活
よび cMet に対する免疫活性が認められた.前者は細胞
性が当該酵素活性に寄与していることが示唆された.
質に,後者は細胞膜に局在した.この結果から,HGF
S30
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
が autocrine または paracrine 的にメッケル軟骨自身に作
実験は次の項目について行った.①画素の違いと入出
用していることが強く示唆された.さらに吸収部に隣接
力特性の関係,②Gray Level(以後 GL)と Root mean
した部位では,軟骨細胞は肥大し,HGF および cMet
square(以後 RMS)粒状度の関係,③管電圧と RMS 粒
に対する免疫活性は顕著に減弱または消失した.
器官培養:無血清培地中で 10 日間,E10 のマウス第
状度の関係
【結果と結論】
1 鰓弓下顎突起を培養すると,ほぼ E14-15 に相当する
1 .個々の画素は線型性の入出力特性を示し,その傾き
メッケル軟骨が発生した.培地中にリコンビナント HGF
には差があることがわかった.この傾きの差は画素間
を添加すると,形態は様々だが,メッケル軟骨の全長が
の感度差を示していると考えられた.また,未露光時
延長した.切片の解析では,太さや軟骨細胞の密度には
でも CCD センサは暗電流ノイズによってある GL 値
有意な変化は認められなかった.NK4 を培地中に投与
を持つことがわかった.この時,Max GL と Min GL
すると,対照群より短いメッケル軟骨が発生した.ま
には GL で約 50 の差を認め,線量の増加にともなっ
た,ビーズに浸透させて下顎中央のメッケル軟骨周囲に
投与すると,メッケル軟骨はビーズから遠ざかるような
て差は若干拡大した.
2 .照射線量の増加にともない,粒状性が悪くなること
がわかった.GL 200 では,GL 50 の約 2.9 倍であっ
位置に発生した.
【結論】以上の結果から,HGF はメッケル軟骨の増殖の
た.また GL と RMS 粒状度の関係は上に凸の曲線を
他,移動に作用して,特徴的な細長い形態の形成に重要
示すことが分かった.これは RMS 粒状度が 1 画素の
な役割を果たすことが示唆された.また,軟骨細胞の発
1 振幅値に影響されること,かつ隣接する画素の振幅
現する HGF/cMet 系の発現低下により,軟骨細胞の肥大
値との分布密度に影響を受けるためと考えられた.
化およびメッケル軟骨の吸収・消失への関与が示唆され
3 .管電圧の上昇に伴ない,粒状性が悪くなることがわ
かった.管電圧の上昇によって,発生した直接線およ
た.
び散乱線の平均エネルギーがともに上昇し,散乱線吸
収率が上昇することで,粒状性が悪化したと考えられ
CCD センサの粒状性に関する研究
た.
小泉 伸秀
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(理工系歯科器材研究群歯科放射線学)
【目的】口内法デジタルエックス線撮影に使用される
Charge coupled device(以後 CCD)を初めとするデジタ
ル技術は歯科臨床応用されてから日が浅く,現在もその
口内法 X 線撮影の最適化に関する研究
井澤 真希
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(理工系歯科器材研究群歯科放射線学)
普及過程にある.したがってデジタル技術自体の発達も
【目的】2007 年の医療法改正に伴い,どの施設でも医療
その途上にあり,デジタル系の画質解析も現在検討され
機器の保守点検と安全使用が義務付けられ X 線撮影装
ている段階である.画質に関する解析がほぼ完成された
置の品質管理(QC)が必要となった.国際放射線防護
アナログ系に対し,デジタル系では適正な撮影条件で行
委員会(ICRP)は QC の一部として定期的に患者線量
われていないという大きな問題点が存在している.そこ
を測定し,その線量を診断参考レベルと比較して最適化
で今回我々は画質を構成する要素の 1 つである粒状性を
を行うよう勧告している.そして,患者線量が常に診断
CCD センサについて解析し,その成因に関する因子に
参考レベルを超えていたときには,その線量が正当化さ
ついて研究を行ったので報告する.
れない限り,検査手法を見直すべきである.本研究で
【材料と方法】研究は口内法デジタルエックス線撮影シ
は,口内法 X 線撮影の QC プログラムを確立するため,
ステムとしてコンピュレイ(ヨシダ,東京),画像解析
明海大学歯学部付属明海大学病院(以下当施設)におけ
ソフトには Image J(NIH, USA)を使用した.撮影装置
る患者の撮影条件と線量を調査することおよび線量と写
に付属する CCD センサのサイズは 25 mm×40 mm,厚
真画質の関係を視覚評価することから口内法 X 線撮影
さ 7 mm.画素サイズは 47 μ m×47 μ m で,総画素数は
760×480 pixel である.
の最適化を図ることを目的とする.
【材料と方法】実験は,以下の項目に沿って進めた.
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
1 )3 台の口内法 X 線撮影装置 Heliodent 60 DS(Sirona)の管電圧,照射時間,焦点から 20㎝のコーン
マウス脛骨骨端板の septoclast における
表皮型脂肪酸結合タンパク(E-FABP)の発現
先端での空気カーマを Mult-O-Meter Type 732(Unfors
坂東 康彦
Instruments)を用いて測定し,撮影装置の特性を調査
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(形態系正常形態研究群口腔解剖学Ⅱ)
した.
2 )照射録から撮影条件が特定できた患者約 1000 名を
抽出し,その撮影条件からコーン先端での空気カーマ
即ち患者入射線量(PED)を算定した.
S31
【背景】脂肪酸結合タンパク(FABP)は,脂肪酸の細胞
内への取り込みと細胞内輸送を行い,脂質代謝に関わっ
3 )軟組織を模した 3 cm 厚さの水槽と 1 mm 間隔で 10
ている.これまでに,表皮型脂肪酸結合タンパク(E-
mm 厚さまでのアルミニウム階段を含んだ成人下顎骨
FABP)に対する抗体を用いて,マウス脛骨近位端の矢
臼歯部ファントムを作成し,管電圧 60 kV,管電流 7
状断組織切片に対して免疫組織化学染色を行い,同部位
mA の条件で当施設にて使用されている InSight フイ
に存在する septoclast,破軟骨細胞・破骨細胞,骨芽細
ルム(Kodak)を用い,同一の幾何学的配置で,照射
胞,血管内皮細胞との関係について,それぞれのマーカ
時間を 0.16∼0.80 s の間で 8 段階変化させて撮影を行
ーを用いた二重免疫染色により比較した.さらに胎生期
った.現像した写真を 12 名の歯科放射線科医によっ
および出生時期の骨端板軟骨発生過程における E-FABP
て観察し,11 評価項目を 5 段階で画像評価し,回答
の分布と変動を調べた.また,E-FABP 発現遺伝子であ
結果を統計的に分析した.
る FABP5 のマウス骨端板における発現分布を調べるた
【結果と考察】撮影装置の管電圧は 60±2 kV,タイマー
の設定時間は 0.1∼0.64 s の使用範囲で全ての装置が 1.7
め,領域別に RT-PCR による FABP5 mRNA の定量化を
行った.
%以内の誤差であり,コーン先端空気カーマは,公称管
【方法】①免疫組織化学:胎生 16 日(E16),生後 0 週
電流 7 mA での設定 mAs 値当たり平均 0.863 mGy であ
齢(P0w),P1w, P2w, P3w, P4w 各週齢の ddy マウスを
り,どの装置でも変動は 4.2% 以内であった.18 歳以上
4% paraformaldehyde 溶 液 で 灌 流 お よ び 浸 漬 固 定 後 ,
の成人患者に対する男女平均の PED 値は,上下顎の切
EDTA 溶液に約 1 週間浸漬して脱灰し,30% sucrose/0.1
歯部,小臼歯 部 , 大 臼 歯 部 に 対 し て そ れ ぞ れ,1.56,
M リン酸緩衝液に浸漬し,凍結組織切片を作成した.
1.09, 1.92, 1.27, 2.42, 1.59 mGy(標準偏差は約 20%)で
その後,DAB 発色または蛍光抗体法により観察した.
あった.英国では成人患者の下顎大臼歯部撮影に対する
②RT-PCR : P3w の ddy マウス脛骨近位端骨端板の組織
診断参考レベルとして,E グループ感度以上のフィルム
切片を Methacarn 固定後,AS LMD(Leica)により軟骨
と 60-70 kV を使用したときには 2.1 mGy と勧告されて
部,骨軟骨境界部,骨梁部の各領域の組織片を採取し,
いる.同部位の当施設平均 PED は標準偏差を考慮して
それぞれに対して RNeasyⓇ Micro(Qiagen)を用いて
も 1.59±0.20 mGy となり,その勧告値を下回っていた.
RNA 抽 出 を 行 っ た . そ し て RT-PCR に よ り FABP5
また,各画像評価項目に対する平均評点は,線量ととも
mRNA の定量化を行い,領域間での FABP5 mRNA 発
に評価点が増大する,特定の線量範囲で評価点が極大に
現量の比較を行った.
達する,線量とともに評価点が減少する,という 3 群の
【結果】①免疫組織化学:生後のすべての齢において,
傾向に分かれた.1 枚の写真から全評価項目を最高点で
骨端板骨幹側の肥大層直下に,E-FABP 免疫陽性の小型
満たすフィルムはなかったが,全評価項目で評点が上位
の細胞が緊密に一層配列しているのが観察された.P4w
となるフィルムでは,一般的な臨床上の診断治療目的を
での蛍光二重染色で,E-FABP 陽性細胞は septoclast の
達成するのに十分な写真であると判断された.この写真
マーカーである cathepsin B および DBA レクチンにも
範囲の PED は 1.51-3.02 mGy であった.
陽性であり,破軟骨細胞・破骨細胞のマーカーの MAC-
【結論】ICRP の勧告に従って患者防護の最適化を推進
2,骨芽細胞のマーカーの ALPL,血管内皮細胞のマー
するため口内法 X 線撮影における QC の一環として英
カーの BSA レクチンには陰性であった.また,E-FABP
国の診断参考レベルと比較した限りでは,当施設では撮
陽性細胞は,発生段階では E-FABP 陽性細胞は胎生期
影条件・線量・画質ともに適正に維持されているものと
では軟骨骨境界から少し離れた部位に少数散在していた
思われる.
が,生後は密度の高い薄い細胞層を形成した.②RTPCR : P3w ddy マウス骨端板では,骨軟骨境界部におい
S32
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
て,軟骨部および骨梁部と比較して FABP5 mRNA が豊
富に発現していることが確認された.
【材料および方法】
1 )細菌の培養:インプラント周囲炎に関連する細菌と
【今後の課題】これまでの研究により,軟骨内骨化にお
し て , Aggregatibacter actinomycetemcomitans ATCC
いて,非石灰化軟骨基質の吸収過程に関与すると考えら
43718 株 ( A. a ) を 使 用 し た . Brain Heart Infusion
れている septoclast が E-FABP を特異的に発現している
(BHI)液体培地を用い,10% CO2 好気条件下,37℃
こと,および胎生期の一次骨化中心の発生直後から骨端
で培養した.
板に存在することから,E-FABP またはリガンドの脂肪
2 )汚染処理:チタン合金板(10×20×1 mm)は Zimmer
酸が肥大軟骨吸収に重要な役割を担っていることが強く
Dental 社(USA)製で,臨床で使用されているインプ
示唆された.この結果を踏まえて,今後は,septoclast
ラント体と同様の表面処理を片面に施したものを使用
に発現する E-FABP の機能的役割を把握し,E-FABP の
した.チタン合金板は A. a 培養液に 24 時間浸漬させ
骨端板軟骨吸収における役割を明らかにするための研究
た.
を追加して行いたいと考えている.
3 )a-PDT 照射方法:細菌により汚染されたチタン合金
板に光感受性薬剤としてメチレンブルー溶液(BiogelTM, Ondine Biopharma Corp., Canada)を塗布し,Ben-
抗菌光線力学療法を用いたインプラント周囲炎
の治療法に関する in vitro 研究
寺西 麻里奈
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系病態機能研究群歯周病学)
【背景】インプラント周囲炎は,インプラント周囲組織
hamou(2009)の方法に準じて,低出力赤色半導体レ
ー ザ ー ( PeriowaveTM, Periowave Dental Technologies
Inc., Canada)を 1 分間照射した.
4 )A. a 生菌付着数の測定:a-PDT 照射後の合金板表
面の A. a 生菌付着数の測定は培養法により行った.
合金板から A. a を剥離させ,BHI 寒天培地に播種,
培養し,コロニー数を測定した.
における支持骨の喪失を伴う炎症性反応と定義されてい
【結果および考察】コントロール群と比較して,a-PDT
る.近年,インプラント周囲炎の発症率はインプラント
処理を行った合金板で生菌数が減少する傾向が認めら
治療を行った患者の 28∼56% と報告されており,イン
れ,a-PDT によりインプラント体に付着した A. a に対
プラント治療の普及に伴い,今後さらに増加すると予測
して殺菌効果があることが示唆された.今後は以下のよ
されている.インプラント周囲炎の治療法に関しては,
うな点について検討を行う予定である.
これまでにインプラント表面の機械的清掃,化学的清
1 )Porphyromonas gingivalis(P. g)および Tannerella for-
掃,抗菌薬全身投与,さらに外科的処置等のさまざまな
sythia(T. f)を合金板に付着させ,a-PDT の有効性に
方法が報告されているが,その有効性について信頼でき
ついて検討を行い,また合金板表面の構造変化を電子
るエビデンスはわずかである.近年,レーザーによって
顕微鏡にて観察する.
細菌を選択的に殺菌する抗菌光線力学療法(antimicrobial
2 )A. a, P. g および T. f をフィクスチャーに付着させ,
Photodynamic Therapy : a-PDT)が開発され,注目され
a-PDT の有効性について検討を行い,またフィクスチ
ている.a-PDT は,細菌を光感受性薬剤で染色し,光照
射によって薬剤の光化学反応を引き起こし,細菌を選択
的に殺菌する方法で,人体に対する為害作用が少なく,
耐性菌を生じないため安全性が高く,インプラント周囲
炎治療への応用も期待されている.しかしながら,細菌
が付着したフィクスチャーの殺菌において a-PDT が有
効であるか否かについての in vitro における研究は少な
い.そこで本研究は in vitro において,細菌に汚染され
たインプラント体表面に対する a-PDT による殺菌効果
について,種々の照射条件下で比較検討を行うことを目
的とした.
ャー表面構造の変化を電子顕微鏡にて観察する.
3 )a-PDT 照射後のフィクスチャー表面への骨芽細胞付
着について検討を行う.
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
Mucosa-associated lymphoid tissue 1 による
口腔癌細胞のケラチン発現と増殖能
の変化について
川本 幸寛
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(形態系病態形態研究群口腔外科学Ⅱ)
S33
腔癌細胞株に共通してみられた.同定したケラチンはウ
エスタンブロット法においても,同様の結果を得た.ま
た,ケラチン分子量の変化は細胞増殖能と密接な関連を
持つことから,xCELLigence システム(ロシュ・ダイア
グノスティックス社)を用いたリアルタイム解析および
MTT 法を用いたエンドポイントアッセイを行ったとこ
ろ,HSC2 細胞に比較して,wtHSC2 ではそれらが著し
口腔重層扁平上皮は口腔腔領域における悪性腫瘍の
く低下した.ドミナントネガティブ型 MALT1 を発現す
90% 前後を占めるが,治癒率は低く,患者生存率は他
る癌細胞は増殖能とサイクリン D 1 発現量を上昇させ
の癌に較べてよい成績が得られていない.予後不良の原
た.以上の結果から,口腔癌細胞は MALT1 の発現停止
因となるメカニズムを解明することは,癌の克服にむけ
により,ケラチンフィラメントの構成に変化をきたし,
て極めて重要な情報をもたらす.口腔癌の進展には癌細
細胞増殖能を著しく上昇させることが明らかとなった.
胞表現型,すなわち,分化,浸潤能,増殖能などの変化
従って,MALT1 は口腔扁平上皮癌細胞の表現型を大き
を伴う.しかし,その制御機構に関しては不明な点が多
く変化させ,癌の進展に対し抑制的に作用すると予想さ
く残っている.そこでわれわれは,口腔癌の進展抑制遺
れる.現在,病理検体を用いてこれらのケラチンと
伝子として Mucosa-associated lymphoid tissue 1(MALT
MALT1 の局在と有無について,免疫組織学的検討を行
1)に注目した.MALT1 は,MALT リンパ腫の原因遺
っている.
伝子の 1 つとされ,N 末端より death ドメイン,Ig-like
ドメイン,C 末端に caspase-like ドメインの 3 つのドメ
インより構成される.リンパ球細胞では,MALT1 が Bcell lymphoma 10(BCL10)と Iκ-B kinases(IKKs)と複
次亜塩素酸電解水を応用した
印象体の消毒に関する研究
合体を形成し,細胞の増殖能,浸潤能等を上昇させるこ
眞木 信太郎
とが知られている.しかし,上皮系における作用機序は
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系正常機能研究群歯科補綴学Ⅰ)
依然不明のままである.これまでの報告から,MALT1
の発現量は,高分子型口腔扁平上皮癌で上昇し,低分化
型扁平上皮癌で低下することが明らかとなっている.ま
歯科臨床において,印象体の消毒は,院内感染予防上
た,予後が不良な口腔癌患者で MALT1 の発現停止が認
極めて重要である.印象体の消毒方法として薬液浸漬や
められている.
薬液と Hygojet システムの併用による方法が推奨されて
本研究では,上皮系における MALT1 による口腔癌進
いる.しかし,化学薬品による印象体の消毒では,使用
展の抑制のメカニズムを解明するため,口腔癌細胞を用
後の廃液による環境汚染が問題となる.次亜塩素酸電解
いて,MALT1 の発現に応じて発現が変動するタンパク
水 Hypochlorous-acid Electrolyzed Water (以下, HEW )
質のプロテオミクス解析を行った.MALT1 非発現癌細
は環境汚染への問題も少なく,その高い抗菌作用からう
胞(mockHSC2 細胞)と MALT1 を恒常的に発現する
蝕予防や歯内療法分野での応用が期待されているが,印
wtHSC2 細胞の細胞抽出液をポリアクリルアミドゲル電
象体の消毒効果に関する研究はほとんどみられない.本
気泳動し,クマシーブリリアントブルー染色後,発現量
研究は HEW を用いた印象体の消毒効果について検討し
の変化がみられたタンパク質をゲルから抽出した.トリ
た.
プシン消化後,飛行時間質量分析法(Time of fight Mass
【方法】第三大臼歯以外に欠損のない歯列を有す健常有
Spectrometry : TOF-MS)およびデータベース検索(Mas-
歯顎者 6 名(男性 4 名,女性 2 名,平均年齢 27.8 歳±
cot Search Program)によりタンパク質の同定を行った.
1.7 歳)を被験者とし,アルジネート印象材(アローマ
その結果,同定されたタンパク質は 10 種類であり,こ
ファインプラス,ジーシー)による上顎の印象採得(以
の う ち 4 種類が 細 胞 骨 格 で あ る ケ ラ チ ン で あ っ た .
下,アルジネート印象体)を,17 時から 20 時の夕食摂
wtHSC2 細胞はケラチン 8 とケラチン 18 を発現するの
取前に行った.印象採得は 1 人の被験者につき 48 時間
に対し,mockHSC2 はケラチン 5 とケラチン 14 を発現
以上の間隔をあけ,3 回行った.採得したアルジネート
した.これらの変化は MALT1 依存性であり,多くの口
印象体を流水下にて 120 秒間水洗した後,正中にて分割
S34
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
した.分割したアルジネート印象体の一方を 2.0% グル
タ ル ア ル デ ヒ ド( ス テ リ ハ イ ド , 丸 石 製 薬 ; 以 下 ,
及び RAGE の発現とその局在について免疫組織学的検
索および mRNA の定量化を行った.
GA),1.0% 次亜塩素酸ナトリウム(ピューラックス,
【方法】BALB/cAJcl ヌードマウスを用い,舌尖を刺入
オーヤラックス;以下,NaOCl),HEW(Perfect PerioⓇ,
点とし 1 週間に 1 度,計 4 回,5.0×106 個/ml の濃度に
パーフェクトぺリオ;残留塩素濃度 600 ppm)のいずれ
調整したマウス扁平上皮癌由来の SCC 7 細胞を滅菌さ
かに 10 分間浸漬した後,60 秒間の水洗を行い(以下,
れた注射筒にて注入し,癌細胞注入群とした.ポジティ
処理群),他方を非処理アルジネート印象体とした(以
ブコントロールには,DMEM 培養液(FBS(−))を注
下,非処理群).アルジネート印象体表面の微生物汚染
入した DMEM 注入群を,ネガティブコントロールには
を視覚化するために,Brain Heart Infusion 寒天培地を用
何も刺入しない無刺激群を設定した.観察部位は刺入点
いた Impression Culture 法を行い,写真撮影を行った.
を含む舌前方と刺入点より後方にあたる舌中央の 2 部位
微生物コロニーの存在を目視にて確認し,画像解析ソフ
とし,抗 HMGB1 抗体及び抗 RAGE 抗体を用いて免疫
ト(Pop Imaging version 4.00,デジタル・ビーイング・
組織化学的染色を施した.また,レーザーマイクロダイ
キッズ)を用い,微生物コロニー面積減少率(%)を算
セクション(LMD)法により舌前方では中央と舌縁の 2
出した.統計学的解析には Steel-Dwass 法による多重比
部位,舌中央では舌癌部,舌癌に接する筋線維部,広範
較検定を有意水準 5% で行った.
囲に増加した間質の周囲筋線維部の 3 部位における to-
【結果】各消毒剤浸漬による Impression Culture 表面の微
生物コロニー面積減少率は GA 浸 漬 が 44.5 ± 24.0%,
tal RNA をそれぞれ抽出し,LightCyclerⓇ480 を用いて
HMGB1 と RAGE の mRNA 量を測定した.
NaOCl 浸漬が 69.2±19.7%,HEW 浸漬が 99.7±0.3% で
【結果および考察】癌細胞注入群では,H-E 染色像で舌
あった.HEW と GA, HEW と NaOCl との間に有意差
癌が発症しているのが確認された.また舌癌は,癌細胞
が認められ,HEW が他の消毒剤と比較して有意に高い
を注入した部位から舌根部方向への浸潤が認められた.
消毒効果を示した.したがって,HEW はアルジネート
舌癌周囲の筋では,腫瘍に隣接した筋線維のほとんどが
印象体の消毒に応用できる可能性が示された.
破壊され,筋線維の小径化,壊死線維および間質の著名
今後は被験者数を増加するとともに,HEW の濃度及
び浸漬時間を減少させた場合の消毒効果について検討を
な増加が認められた.また,その周囲では癌細胞が含ま
れない,間質が増加した細胞群が広範囲に認められた.
免疫染色像では,舌癌の部位で HMGB1 と RAGE が最
行っていく予定である.
も強く発現した.また間質が広範囲に増加した部位にお
いても両者の発現が認められたが,増加した間質と接し
High mobility group box 1(HMGB1)
が舌癌周囲の筋線維に与える影響
瀧澤 将太
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(形態系病態形態研究群口腔外科学Ⅱ)
た筋線維では強い発現がみられた.mRNA の発現量は,
中央 3 部位において HMGB1, RAGE が強く発現してい
た.舌癌の実質から離れた部位では,壊死線維や間質の
増加が認められ,さらに免疫組織学的染色により小径化
した筋線維に接する部位に,HMGB1 と RAGE が強く
発現していたことから,癌細胞より放出された HMGB1
【目的】High mobility group box 1(HMGB1)は細胞内
が,細胞密度の高い組織である骨格筋組織に間隙を作
において DNA の立体構造の維持に重要な役割を果たす
り,癌の浸潤を促進しているのではないかと示唆され
タンパクとして発見された.HMGB1 は通常細胞内に存
た.
在するが,壊死に陥った細胞より細胞外へ放出される
と,炎症の後期メディエーターとして機能することが報
告されている.近年では,癌細胞からの HMGB1 の放
出も報告されており,癌細胞に発現される終末糖化産物
受容体(RAGE)を介して,癌の発生・浸潤・転移に関
与することが示唆されている.しかし,口腔癌に関して
の癌およびその周囲組織に関する詳細な報告はなされて
いない.そこで舌癌及び,癌周囲筋における HMGB1
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
S35
は 15 とした.引張および圧縮せん断試験は万能試験機
金属色を遮蔽するクラスプコーティング
レジンの開発
(EZ-Test,島津製作所)を用い,クロスヘッドスピード
1.0 mm/min で行った.なお,破断面の SEM 像を,走査
−クラスプ用合金との接着強さ−
濵坂 弘毅
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系正常機能研究群歯科補綴学Ⅰ)
型電子顕微鏡(JSM-6360 LV,日本電子)により撮影
し,倍率 300 倍で破断面の観察を行った.
その結果,引張せん断試験では RA が 9.3±1.1 MPa,
RC が 6.7±0.8 MPa, BE が 1.3±0.5 MPa であった.また
患者の審美性に対する要求は近年さらに高まりをみせ
圧縮せん断試験では RA が 9.1±0.7 MPa, RC が 6.3±1.3
ており,審美障害の改善は歯科臨床を行う上で極めて重
MPa, BE が 2.4±0.8 MPa であった.いずれの試験方法
要である.部分床義歯補綴においても,単に咀嚼,嚥
においても,RA が他の 2 つの材料より有意に高い接着
下,発音などの機能の回復だけにとどまらず,より審美
強さを示した.一方,金属側破断面の SEM 像において
的な回復を目指す必要がある.特にクラスプを支台装置
は,3 材料すべてにおいて凝集破壊と界面破壊を含む混
とする部分床義歯では,クラスプの金属色は審美性を大
合破壊が認められた.
きく阻害する要因の 1 つである.クラスプの金属色を審
以上より,試作レジンのコバルトクロム合金に対する
美的に改善する方法として,硬質レジンによるコーティ
せん断接着強さは,従来の接着材料と比較して,同等以
ング法が池邊ら(1993)により報告されているが,コー
上である可能性が示唆された.
ティングの術式は硬質レジン前装冠の場合とほぼ同様
で,硬質レジンをキャストクラスプの鉤腕表面に築盛す
今後は,金銀パラジウム合金に対する接着強さや「応
力─歪み」の分析を行っていく予定である.
る方法であるため,クラスプの加工や硬質レジン築盛の
煩雑さなどから,臨床において頻用されているとはいえ
ない.そこで,従来のクラスプ表面に薄膜としてコーテ
垂直顎間距離の基準下顎位に関する研究
ィングすることにより金属色を遮蔽する,クラスプコー
−咬合支持の喪失が[n]持続発音位に及ぼす影響−
ティング用レジンの開発を試みた.
本研究の目的は開発したクラスプコーティングレジン
(以下,試作レジン)のコバルトクロム合金に対する引
張および圧縮せん断接着強さを,既存の接着材料と比較
することにより,試作レジンの臨床における有用性を検
遠藤 舞
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系正常機能研究群歯科補綴学Ⅰ)
補綴臨床において適正な垂直顎間距離を決定すること
は,顎口腔機能を正常に保つ上で極めて重要である.従
討することである.
接着材料として,エーテル系ウレタンアクリレートを
来より,発音時において再現性の高い下顎位(以下,発
主成分とする試作レジン(松風;以下,RA),コンポジ
音位と略す)を利用した,垂直顎間距離の決定が試みら
ット系レジンセメント(レジセム,松風;以下,RC)
れているが,被検音の発音時間が短く,それを臨床応用
および光重合型オペークレジン(ビューティフィル
する上で難点を有していた.本分野の山本は有歯顎者に
オ
ペーカー,松風;以下,BE)の計 3 種類を用いた.被
おける[n]持続発音時の下顎位が咬頭嵌合位に近接し,
着体としてコバルトクロム合金製の板状鋳造体(20.0×
安定性の高い発音位であることを報告した.しかし,垂
15.0×1.4 mm)を作製した.被着面は#1,200 の耐水研磨
直顎間距離決定時の咬合支持の喪失が[n]持続発音時の
紙にて研磨を行った後,蒸留水およびアセトン中にて
下顎位(以下,[n]持続発音位)に及ぼす影響に関して
各々 5 分間の超音波洗浄を行った.被着面の表面処理と
して金属プライマー(メタルリンク,松風)を塗布し
は明らかにされていない.本研究は咬合支持の喪失が
[n]持続発音位に及ぼす影響について検討した.
た.表面処理が完了した被着面に φ 1.6 mm の円柱状チ
被験者は部分床義歯装着後 6 か月以上が経過し,臨床
ューブを高さ 1.0 mm になるように調整し,専用のジグ
的に 予 後 良 好 と 判 断 さ れ た 部 分 床 義 歯 装 着 者 11 名
を用いて植立した.その内部に各種材料を充填した後
(Eichner 分類:B 3−3 名,B 4−4 名,C 1−4 名,男性 7
に,メーカー指定に従って光重合を行った.重合後,室
名,女性 4 名,平均年齢 68.2±7.4 歳)とした.なお,
温大気中に 24 時間保管したものを被検試料とした.被
顎口腔機能および咬合関係に異常を認めず,かつ第三大
検試料数は引張せん断試験では 12,圧縮せん断試験で
臼歯以外に欠損がなく第二大臼歯までの歯列を有してい
S36
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
る健常有歯顎者 11 名(男性 9 名,女性 2 名,平均年齢
klk1b26 の mRNA の検出:顎下線から総 RNAs を得,
23.5±2.2 歳)をコントロールとした.[n]持続発音を被
逆転写反応後,カリクレインファミリーの klk1b26 に特
検音とし,日常会話時の大きさ,高さで各 4 回,4 秒間
異的な配列部分を含むプライマーを用いて PCR 法で解
持続発音させた.発音を開始する下顎位(以下,発音開
析した.・klk1b26 蛋白質の in vitro での蛋白質生合成お
始位と略す)は咬頭嵌合位ないし下顎安静位とし,下顎
よびその検出:[35S]メチオニンおよび Ambion 社の
位の測定には下顎運動計測装置(K 7 エバリュエーショ
Retic Lysate IVT を用いて唾液腺蛋白質を生合成し,klk
ンシステム
1b26 蛋白質の特異抗体で免疫沈降した後,オートラジ
モリタ,大阪)を用いた.下顎位の計測点
は,発音開始時を起始点とし,起始点から 1 秒間隔で 4
秒後までの 4 ポイントとした.記録された矢状面での
オグラム法で検出した.
【結果・考察】雄マウス顎下腺から得た mRNA を鋳型
sweep 波形上で,咬頭嵌合位と各計測ポイントとの垂直
にし,ウサギ網状赤血球抽出液を用いた in vitro の蛋白
方向における距離(以下,垂直的開口距離と略す)をノ
質合成を行うと,雌の顎下腺から得たマイクロ RNA に
ギスで計測した.計測結果の統計分析は repeated meas-
よって klk1b26 蛋白質合成が著しく阻害された.しか
ures ANOVA と多重比較(scheffé test)を用い,有意水
し,雄の顎下腺から得たマイクロ RNA によって阻害さ
準はいずれも 5% とした.
れなかった.また,睾丸摘除マウスから得たマイクロ
その結果,咬頭嵌合位を発音開始位とした場合の[n]
RNA によって阻害され,睾丸摘除および雌マウスにテ
持続発音位の垂直的開口距離は,咬合支持の喪失に伴い
ストステロンを投与することによって阻害効果が消失し
増加する傾向を示したが,いずれの Eichner 分類におい
た.よって,klk1b26 蛋白質合成を抑制するマイクロ RNA
ても,コントロールと比較して有意差は認められなかっ
は性ホルモン依存性に発現していると考えられる.
た.また,下顎安静位を発音開始位とした場合も同様に
Klk1b26 の 5’-末端部分を標的とする種々のフォワー
コントロールと比較して有意差は認められなかった.す
ドプライマーを用いた PCR 系に雌から得たマイクロ
なわち,咬合支持が喪失しても残存歯の存在により[n]
RNA を添加すると,21∼40 塩基部分のプライマーによ
持続発音位は大きく変化しない可能性が示唆された.
る増幅のみが阻害された.よって,klk1b26 mRNA の 21
今後,さらに被験者を増やし咬合支持の喪失が[n]持
続発音位に及ぼす影響について検討していく予定であ
る.
∼40 塩基付近に雌のマイクロ RNA が干渉したと考え
られる.
klk1b26 の mRNA の 21∼40 番目付近の塩基配列に相
補的な配列を持つマイクロ RNA をデータベースで検索
した結果,非常に高い相補的なホモロジーを持つ has-
性ホルモンで発現調節されるマイクロ RNA
による唾液腺蛋白質,プロレニン変換酵素
(klk1b26)の翻訳制御および臨床応用
栗原 琴二
明海大学歯学部形態機能成育学講座生理学分野
miR-325, odi-miR-1497a が検出された.これらのマイク
ロ RNA を人工的に合成し,in vitro の蛋白質合成系に
添加して阻害効果を検討した結果,ポジティブコントロ
ールの F21 プライマーのアンチセンス RNA と同様に,
has-miR-325 および odi-miR-1497a は顕著な阻害効果を
示した.よって,これまでマイクロ RNA による翻訳阻
【目的】雄マウスの顎下腺にはカリクレイン(klk1b26)
害は mRNA の 3’-末端の非翻訳領域への作用であると考
が顕著に存在する.この蛋白質の発現調節は性ホルモン
えられていたが,5’-末端に作用するマイクロ RNA の機
によって,遺伝子から mRNA への転写が促進されるこ
構が存在すると考えられる.
とによると考えられている.しかし,mRNA とその蛋
klk1b26 mRNA の 15-44 塩基部分の DNA を合成し,
白質の発現量変動は必ずしも一致しない.よって,klk1
雌マイクロ RNA とハイブリダイズさせた後に in vitro
b26 の遺伝子から mRNA へ転写された後,蛋白質翻訳
での蛋白質合成を行うと,klk1b26 蛋白質翻訳への干渉
過程でも性差が発生しているはずである.klk1b26 の
が消失した.よって,雌マウス顎下腺には klk1b26 蛋白
mRNA を鋳型とする翻訳過程に干渉し,蛋白質発現に
質翻訳へ干渉する内在性のマイクロ RNA が存在すると
性差を引き起こすメカニズムについて検討した.
考えられる.
【材料・方法】
・動物:ICR 系マウスを用いた.動物は明
【結論】雌顎下腺には klk1b26 蛋白質翻訳過程へ干渉す
海大学歯学部動物実験実施規定に従って取り扱った.・
る内在性のマイクロ RNA が存在すること,その干渉部
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
位は klk1b26 mRNA の 5’-末端であることを明らかにし
た.
S37
破骨細胞分化機能発現における
MEK5-ERK5-Mef2d 経路の役割
天野 滋
変異型癌抑制遺伝子による癌進展メカニズムの
分子生物学的解析
宮崎 裕司
明海大学歯学部病態診断治療学講座病理学分野
明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座微生物学分野
歯周疾患における破骨細胞性骨吸収や関節リウマチ性
骨破壊は,骨形成を上回る骨吸収促進によるが,この骨
吸収促進は,骨を吸収する細胞である成熟破骨細胞の数
の増加と機能亢進によると考えられている.近年,破骨
口腔の dysplasia-carcinoma sequence において早期から
細 胞 分 化 ・ 細 胞 融 合 ・ 機 能 発 現 過 程 に M-CSF と
p53 遺伝子に変異がみられることが示されている.近
RANKL 刺激が必要であることがしられてきており,特
年 , 遺 伝 子 編 集酵 素 で あ る activation induced cytidine
に RANK からのシグナルに関しては現在まで精力的に
deaminase(AID)が p53 遺伝子変異の誘発を介して発
解析が進められてきた.しかし,M-CSF のレセプター
癌に関わると示唆されているが,この知見より口腔癌あ
c-Fms からのシグナルの役割に関する解析は十分とはい
るいは前癌病変において AID 発現がみられるのではな
えない.c-Fms の下流シグナルは,PI3K/AKT および Ras
いかと考え,口腔癌組織あるいは種々の程度の上皮性異
/Raf/MEK/MAPK を含むシグナル伝達経路の活性化をも
形成を伴う前癌病変(白板症)組織における AID の局
たらすことが知られている.最近私共が確立した初代破
在を免疫染色法により調べた.軽度の異形成を伴う組織
骨細胞分化と骨吸収機能の特徴を再現できる破骨細胞前
片では基底層あるいは棘細胞層にきわめて明瞭な陽性反
駆細胞株 4 B 12 細胞は,siRNA による遺伝子ノックダ
応がみられたが,異形成の程度が進むにつれて反応性が
ウン解析が可能であることから,MEK 1, MEK2 そして
弱まっていき,癌組織では癌胞巣中に陽性反応を示す細
MEK5 のそれぞれの MEK 遺伝子を,siRNA を用いてノ
胞が数個みられたのみであった.
ックダウンすることで破骨細胞分化への影響を検討し
歯周病罹患者では口腔癌の発症率が高いこと,歯周病
た.
菌の代謝産物の一つである酪酸が口腔癌進展に関与して
1 )siMEK 1, siMEK2, siMEK5 を用いて解析したとこ
いることがこれまでに示され,歯周病と p53 変異に関
ろ,MEK 1 遺伝子ノックダウンではカテプシン K 遺
連性がある可能性が考えられる.酪酸や慢性炎症状態が
伝子発現の上昇が認められ,MEK5 遺伝子ノックダウ
AID 発現に及ぼす影響を調べるために,酪酸ナトリウ
ンではカテプシン K 遺伝子発現と多核化の抑制が認
ム(NaB)をはじめ,インターフェロンやインターロイ
められた.一方,MEK2 遺伝子ノックダウンによる影
キン等の炎症性サイトカイン存在下で口腔癌由来細胞株
響は認められなかった.
を培養し AID の発現解析を行った.その結果,上記因
2 )MEK5 の下流には ERK5 が存在することが知られ
子が AID 発現をわずかながらも上昇させることが示唆
ていることから,ERK5 のリン酸化ならびに ERK5 阻
された.また,siRNA による AID 発現抑制後に NaB
害剤である BIX02489 添加による破骨細胞形成過程に
や炎症性サイトカイン刺激を行い,Snail, E-cadherin, N-
おける影響を検討した.ERK5 のリン酸化は,M-CSF
cadherin 等の癌進展に関わると考えられる分子の発現解
添加 5 分後から認められ 6 時間まで持続していた.し
析を行ったところ,AID 発現抑制は E-cadherin の発現
かし,sRANKL 添加によっては ERK5 のリン酸化は
を大幅に抑制する結果が得られた.
認められなかった.また,ERK5 阻害剤である BIX
以上の結果より,歯周病や口腔内の炎症状態により発
現促進された AID が癌抑制遺伝子 p53 の変異を誘発
02489 4 μ M 添加によって TRAP 活性は明らかに抑制
された.
し,変異型 p53 を持つ細胞が異常に増殖していくこと
3 )さらに ERK5 の下流には転写因子である Mef 2が遺
で発癌する可能性が示唆されると共に,E-cadherin の発
伝子発現を調節していることが知られている.この
現調節ひいては上皮─間葉移行(EMT)を制御すること
Mef 2には 4 種類の Mef 2a, Mef 2b, Mef 2c, Mef 2d の存
で癌進展にも関与する可能性が示唆された.
在が知られていることから,それぞれの遺伝子発現レ
ベルと核内に移行してきたタンパク質レベルを解析し
た.qRT-PCR で検討したところ, Mef 2d は M-CSF
S38
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
と sRANKL 刺激後 1 日目で 3.7 倍に上昇した後 7 日
して,zoledronate を処置された細胞では[Ca2+]i の一過
目までその上昇が維持されていたが,Mef 2a と Mef 2
性上昇後の回復がなかなか起こらない状態にあることが
c は 1 日目でそれぞれ 1.7 倍,3.7 倍に上昇したがそ
分かった.この現象は細胞の正常な機能が既に障害され
の後 3 日目でコントロールレベルまで減少した.一
ている可能性を示唆するものである.
方,Mef 2b の発現は全く検出されなかった.核内の
一方,BP 投与患者の顎骨壊死発生率が決して高率で
Mef 2a, Mef 2c, Mef 2d の動態を 1 日目から 5 日目まで
はないことを考慮すると,BP 以外の別の要因が増強因
タンパク質レベルで解析したところ,Mef 2d は,M-
子として同時に作用していることが発症に重要な役割を
CSF 単独刺激では,5 日目で減少したが,M-CSF と
果たしているものと推測される.
sRANKL 刺激では 3 日目で上昇し 5 日目まで維持し
そこで培養液中のグルコース濃度の影響を調べてみた
ていた.核内の Mef 2a は,M-CSF と sRANKL 刺激
ところ,グルコース濃度の上昇によって,zoledronate に
によっては 5 日目で減少していた.Mef 2c は,M-CSF
よる血管内皮細胞障害が急速に増強されることが明らか
単独刺激ならびに M-CSF と sRANKL 両刺激で 5 日
となった.高グルコース環境下では,細胞内 ROS 生成
目まで減少した.
が誘導されやすく,ミトコンドリア膜電位が低下してい
4 )siMef 2d を用いて Mef 2d 遺伝子をノックダウンし
たところ,TRAP 活性を減少させた.
ることが分かった.
そこで,高グルコース環境がどのようにして血管内皮
以上から,MEK5-ERK5-Mef 2d シグナルが,破骨細胞
分化に関与していることが明らかとなった.
細胞を障害するのかを調べるために,グルコースが非酵
素的に代謝されて生成する物質である 3-deoxyglucosone
や methylglyoxal などの α -ジカルボニル化合物を血管内
皮細胞と共存させたところ,より低濃度の zoledronate
ビスフォスフォネートによる血管新生抑制機序
の分子イメージング解析
田島 雅道
明海大学歯学部病態診断治療学講座薬理学分野
で内皮細胞障害が顕著に引き起こされることを見出し
た.この事実を生体で考えた場合に,血糖上昇で増加す
る α -ジカルボニル化合物が,zoledronate の血管新生阻
害の内因的増強因子となる可能性が示唆される.
従って,糖尿病患者等で血糖コントロールが不十分で
ビスフォスフォネート(BP)投与患者が,口腔外科
ある場合には,血管内皮細胞障害が BP 投与によってさ
治療後に発症する顎骨壊死の病態解明と治療法・予防法
らに増強され,血管新生過程の阻害により創傷治癒が遅
の確立を目的に,BP の創傷治癒阻害の原因と考えられ
延する要因となり得る可能性が示唆される.
る血管新生抑制機序について解析を行った.微小血管内
皮細胞 bEnd.3 の増殖を強力に阻害した zoledronate の作
用について,酸化ストレスを加えた時の細胞内 ROS 生
成の応答性を CM-H2-DCFDA を蛍光プローブとして調
有彩色が光重合型コンポジットレジンの色に
与える影響についての基礎的研究
べたところ,初期には ROS 生成を増強するように働く
小澤 有美
ものの,時間経過と共に逆に ROS 生成の顕著な生成低
明海大学歯学部機能保存回復学講座保存修復学分野
下を認めた.そこで,この ROS 生成部位がミトコンド
リアに由来する可能性があることから,ミトコンドリア
【目的】コンポジットレジン修復は,充填時のエラーが
の膜電位について JC-1 を用いて調べたところ,zoledro-
なければ間接修復でなくても即日に審美修復が可能であ
nate を作用させて短時間後にミトコンドリア膜電位の上
る歯科材料のひとつである.コンポジットレジン修復の
昇が起きていることが明らかとなった.即ち,zoledronate
テクニックのひとつに,天然歯と色が調和していること
は細胞に作用すると速い段階から,積極的にミトコンド
が重要となる.今回,より天然歯と色の調和したコンポ
リアに影響を及ぼしていると考えられた.そこで,細胞
ジットレジン修復が行うことができる条件を探るべく,
2+
内遊離カルシウム([Ca ]i)の応答性の変化について
着色象牙質の色(う蝕によって変色した感染歯質除去後
Flow 4-AM を用いて解析した.コントロール細胞にお
の着色)を参考にして,背景色の彩度がコンポジットレ
2+
いては,刺激によって起こる[Ca ]i の一過性の上昇と
ジンの色にどのような影響を与えるのか基礎的実験を行
その後の急速な元のレベルへの回復が観察されるのに対
った.
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
【材料および方法】
荷重下における支台築造歯の
多点同時ひずみ解析
1 .材料
フロアブルコンポジットレジン
S39
テトリック N-フロー
(Ivoclar Vivadent, Liechtenstein,以下 T),プレミスフロ
野露 浩正
アブル(Kerr, USA,以下 P),フィルテックTM シュープ
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野
リームフローコンポジットレジン(3 M ESPE, USA,以
【目的】歯根表面のひずみ測定の研究では,歯根の広範
下 S),エステライトフロークイック(トクヤマデンタ
囲にわたるひずみを同時に測定した報告は少ない.当分
ル,以下 E)にて試料を作製した.使用したシェードは
野ではこれまでに,歯根上に複数のひずみゲージを貼付
共通の A 3 である.試料は,内径 8 mm のプラスチック
し,築造材料および帯環効果の有無が荷重下における歯
リングに填入し,ハロゲンランプ重合器(Astral)にて
根全体のひずみに及ぼす影響を検討してきた.しかし,
両面から 20 秒ずつ光重合を行い,耐水研磨紙(BUE-
歯根表面積が小さく,単軸ひずみゲージによる測定に限
HLER)♯600,♯800,♯1200 の順に厚さ 1.0 mm と 0.5
定されていた.これまで,主応力の方向の測定が不可能
mm になるように研磨を行い各試料 5 個ずつ作製した.
であったことから 3 軸ゲージの測定による詳細なひずみ
背景色板
解析を行うことが課題であった.そこで 2.5 倍大の人工
白色板(W),黒色板,有彩色票(H, L の 2
種類),を測色する時の背景とした.
2 .方法
歯を作製し,3 軸ひずみゲージを貼付することにより等
倍大の人工歯では困難であったひずみの解析を行った.
各試料をそれぞれの背景色板上に置き,非接触式分光
【材料と方法】上顎左側中切歯の形態を有するエポキシ
測色器 Spectra Scan PR 650(Photo Research, USA)にて
樹脂の 2.5 倍大複製根模型歯を試料として用いた.支台
D 65 光源,照度 1000 lx, 45 度照明−0 度受光の条件下
歯の築造窩洞の形態として帯環効果を有するフェルール
で各試料を 5 回ずつ測色した.測色したデータ CIELAB
有りの形態(F)と帯環効果をもたないフェルール無し
値から Translucency parameter(TP 値),白色板と有彩色
の形態(NF)の 2 条件,支台築造材料として金属鋳造
票上での C*値を算出し比較検討を行った.
体(M)によるものとファイバーポストを併用したコン
【結果および考察】①TP 値:この値は,大きいほど透明
ポジットレジンコアによるもの(CR)の 2 条件とし,
性が高いことを示す.その結果,試料の厚さ 0.5 mm の
さらに装着には,接着性レジンセメント(R)および,
方が全ての試料において透明性が高かった.同一シェー
カルボキシレートセメント(C)2 種類のセメントを用
ドだが,P は他の 3 種より透明 性 が 低 か っ た .②C*
いることで計 8 種類の条件を設定した.ひずみゲージの
値:すべてにおいて E は他の 3 種より C*値が高い値を
貼付部位として,単軸ひずみゲージを舌側に 4 枚,唇側
示した.0.5 mm の P 以外は白色板上の C*値の方が,
に 3 枚それぞれ均等な間隔で貼付し,3 軸ひずみゲージ
有彩色票上よりも高い値を示した.また,有彩色票上の
を近心歯頸部に 1 枚貼付した.荷重方法として,万能試
C*値が低下すると,試料の C*値も低下した.白色板は
験機でクロスヘッドスピード 2.0 mm/min にて歯冠部の
無彩色のため C*値は 0 となる.背景の彩度の影響を受
舌側面中央に歯軸に対し切縁方向より 45°で 1 点荷重を
けない白色板と有彩色票上の C*値の差( Δ C*)を比較
加え,歯根破折が生じた時点の最大破折荷重および破折
すると.W-H の Δ C*は,E 以外試料の厚さが増すと Δ C*
に至るまでの歯根表面に生じたひずみ量を測定した.
は大きくなった.つまり H 上では,より C*値が低下し
【結果と考察】破折強度は,最大で F-M-R の 683.7±
たことがわかった.また,W-L の Δ C*は,P 以外試料
129.0 N,最小で NF-CR-C の 360.0±43.9 N であった.
の厚さが増すと Δ C*は小さくなった.つまり L 上では,
破折部位をみると F では全てが根中央部で破折してい
C*値は上昇することがわかった.
たのに対し,NF では全て歯頸部で破折しており,フェ
【結論】天然歯の平均的な C*値は約 18 である.条件に
ルールの有無により破折様相に差を生じた.歯根表面の
なるように修復する場合,慢性う蝕の様な濃い褐色に変
ひずみは,唇側歯頸部には圧縮ひずみ,舌側には引張ひ
色した場合には,修復するレジンの厚みが必要である.
ずみが観察された.荷重時のクラウン舌側辺縁に貼付し
またオペークシェードのように背景色を遮蔽するコンポ
たひずみゲージのひずみ量に急激な増加が現れたモデル
ジットレジンが必要となる.だし,変色の C*値が 25 程
とそうでないモデルが認められた.ひずみ量に急激な増
度ならば今回の試料の条件を満たせば改善可能というこ
加が現れたモデルにおいては,3 軸ひずみゲージの出力
とがわかった.
結果からひずみ量の急激な増加時に主応力の向きに変化
S40
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
が認められ,クラウン舌側辺縁における急激なひずみ量
断マーカーとしての有用性を報告し,歯周病診断への応
の増加がみられなかったモデルでは,歯根破折時に主応
用を検討してきた.これまでの SPR センサに関する予
力の方向に変化が認められた.クラウン舌側辺縁部のひ
備実験の結果から,FDF 抗原をセンシング部に固定化
ずみゲージは,クラウン辺縁と歯根歯頸部との境界に貼
し,Rabbit 抗 FDF IgG 抗体の検出を行う当初の予定を
付してあることから,そのひずみの増加はクラウン辺縁
変更し,センシング部への固定に Rabbit 抗 FDF IgG 抗
の接着の剥離を示しており,剥離とともに歯根のひずみ
体を用いて,FDF の検出を行うこととした.本研究の
分布に変化を生じたと考えられる.NF は F に比較して
目的は光ファイバ SPR センサを用いて病原因子 FDF の
唇側歯頸部の圧縮ひずみが相対的に増加した.このため
NF は歯頸部での破折が生じ易い状態に至ったものと思
検出を行うことである.
【材料と方法】光ファイバ SPR センシングシステムの構
成を以下に示す.光検出器としてファイバ型分光器,白
われる.
【結論】荷重下の支台築造歯の歯根表面上のひずみゲー
色光源としてハロゲンランプ,光ファイバとしてステッ
ジによる多点測定結果から,ファイバーポストを併用し
プインデックス型マルチモードファイバ 1×2 を使用し
たコンポジットレジンによる支台築造歯は,金属鋳造体
た.センシング部の自己組織化膜の構築は,Orla 85 プ
による支台築造歯に比べて破折強度が小さく,金属築造
ロテイン(Orla Protein Technologies, UK)を用いて行っ
体よりもクラウン辺縁の剥離を生じにくいことが示唆さ
た.Rabbit 抗 FDF IgG 抗体の自己組織化膜への固定は,
れた.3 軸ゲージの測定結果から,接着の剥離時と歯根
Rabbit 抗 FDF IgG 抗体液 5 vol%に浸漬し,室温にて 30
破折時に主応力の方向の変化が認められた.また,コア
分間インキュベートを行った.recombinantFDF(rFDF)
材料,セメントの種類の違いよりもフェルールの有無に
抗原溶液の調整は PBS を用いて 50 pg/ml , 50 ng/ml , 50
より唇舌的歯頸部のひずみ量に差を生じ,異なった破折
μ g/ml , 100 μ g/ml , 200 μ g/ml にそれぞれ希釈した.rFDF
および Rabbit 抗 FDF IgG 抗体はニューヨーク大学中島
琢磨先生より供与を受けた.光ファイバ SPR センサに
よる抗原抗体反応の検出は,Rabbit 抗 FDF IgG 抗体の
固定化後,50 pg/ml の rFDF 抗原溶液から開始し,連続
本実験において rFDF
浸漬にて 200 μ g/ml まで測定した.
抗原溶液測定前に PBS へ浸漬することで,抗原抗体反
応のバックグラウンドとし,抗原抗体反応による共鳴波
長の変化を抗原抗体反応として測定した.
【結果】センシング部に固定化した Rabbit 抗 FDF IgG
抗体と FDF との抗原抗体反応の結果,センサ表面の屈
折率変化により,FDF 溶液濃度 50 μ g/ml -200 μ g/ml の
範囲において濃度依存的な共鳴波長のシフトを検出する
ことができたが,50 pg/ml -50 ng/ml の範囲では,波長
シフトの変化を検出できなかった.今回用いた光ファイ
バ SPR センサセンシングシステムにおける FDF 抗原の
検出限界は FDF 抗原溶液濃度 50 μ g/ml 以上であった.
【考察】本研究に用いた光ファイバ SPR センサ構成およ
び Rabbit 抗 FDF IgG 抗体の固定化法により,FDF 溶液
濃度 50 μ g/ml -200 μ g/ml の範囲において共鳴波長のシ
フトを濃度依存的に検出することができたことから,抗
FDF IgG 抗体を用いた光ファイバ SPR センサによる
FDF の検出が可能であることが示された.
様相を呈することが今回のモデルで検証された.
表面プラズモン共鳴光ファイババイオセンサを
利用した抗 Forsythia Detaching Factor 抗体の
検出に関する研究
大西 英知
明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座歯周病学分野
【緒言】表面プラズモン共鳴は光によってのみ励起され
る金属表面に存在する自由電子の波である.表面プラズ
モン共鳴センサ(Surface Plasmon Resonance:以下 SPR
センサ)は,その共鳴特性を応用したセンサであり,セ
ンサ表面の屈折率の変化に非常に敏感であり,その変化
に高感度に応答する.このことから屈折率変化を伴う抗
原抗体反応などの生体高分子の相互作用のリアルタイム
検出・モニタリング等の主要なアプリケーションとして
広く研究されている.近年,ステップインデックス型マ
ルチモード光ファイバを利用した SPR センサが考案さ
れており,効率よく光伝播が行え,安価かつ取り扱いが
容易であることから,優れた特徴を持つナノデバイスと
して,特に医療分野における応用が期待されている.
我々の研究グループでは,これまでに歯周病原細菌で
ある Tannerella forsythia から,病原因子 Forsythia Detaching Factor(FDF)を分離・精製し,FDF の歯周病診
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
S41
萌出後のエナメル質の成熟に関する研究
が必要であると思われる.また,今後,耐酸性について
−マイクロ CT によるミネラル量と耐酸性の測定−
も検討が必要である.
渡辺 幸嗣
明海大学歯学部形態機能成育学講座口腔小児科学分野
【諸言】歯は,ハイドロキシアパタイトの結晶構造が未
顎口腔機能障害の定量的診断法の確立
−運動エネルギーを指標とする咀嚼機能評価法の応用−
熟な状態で萌出し,萌出後,成熟した結晶構造へ変化し
曽根 峰世
ていくとされている.このことを確認するため,本研究
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野
では,明海大学歯学部小児歯科外来(以下,本外来)に
て治療目的に抜去された上顎正中部の萌出性および埋伏
顎口腔機能障害の診断・治療体系を確立する上で,患
過剰歯を用い,咬頭頂部エナメル質のミネラル密度をマ
者の顎口腔機能を客観的かつ定量的に評価することは不
イクロ CT を応用して Hounsfield unit 値(HUV)を指
可欠である.咀嚼は顎口腔機能の主要な部分を占めてお
標とすることにより測定し,比較した.
り,したがって咀嚼機能の客観的かつ定量的評価は顎口
【材料および方法】本外来を受診した患児 6 人から治療
腔機能障害を診断する上で重要である.今回我々は,咀
目的により抜去された上顎正中部の萌出性の過剰歯 3 本
嚼時における運動エネルギー(以下,咀嚼運動エネルギ
および上顎正中部の埋伏過剰歯 5 本の断層エックス線像
ーと略す)を指標とした咀嚼機能評価法を応用すること
を,SKYSCAN 1172(SKYSCAN 社,ベルギー)を応用
により,機能動態として咀嚼運動を解析するとともに,
して管電圧 100 kVp,管電流 100 μ A にて撮影した.再
顎口腔機能障害を定量的に診断しうるシステムを確立す
構築後,咬頭頂表面から歯軸方向に深度 400 μ m までの
るために咀嚼運動エネルギーの分析を試みたので報告す
エナメル質の平均 HUV を算出し,萌出性過剰歯と埋伏
る.
過剰歯との間で比較を行った.また,各過剰歯におい
被験者は,顎口腔系に異常を認めない個性正常咬合を
て,咬頭頂表面から 400 μ m まで,100 μ m 毎に深度に
有する成人 3 名(以下,健常者群)および顎口腔機能障
基づく HUV の測定を行い,深度による比較および萌出
害を自覚する成人 3 名(以下,障害者群)とした.被検
性過剰歯と埋伏過剰歯との間の比較を行った.比較に際
食品は,チューインガム(1 枚,ロッテ社製),かまぼ
しては,3-way ANOVA および Scheffe’s method を用い,
こ(10.0×15.0×10.0 mm),ピーナッツ(1.0±0.1 g,木
p<0.05 を有意とした.
村ピーナッツ社製 ), グ ミ ゼ リ ー ( 20.0 × 10.0 × 10.0
【結果】結果は平均値±標準偏差で示す.萌出性過剰歯
mm)とした.被験運動は,20 サイクルの咀嚼運動を 1
のエナメル質平均 HUV(7008±668)は,埋伏過剰歯の
回として,各被検食品につき 3 回行った.下顎の重量測
エナメル質平均 HUV(7865±1002)より有意に低値を
定は,エックス線 CT 診断装置を用いて撮影した,被験
示した(p<0.05).しかしながら,各深度における萌出
者の下顔面部における CT 画像から下顎運動体の体積を
性過剰歯と埋伏過剰歯との間の比較および,萌出性過剰
求め,各組織の密度値を乗じて質量(M)を算出した.
歯と埋伏過剰歯それぞれにおける深度に基づく比較にお
なお,密度値に関しては,豚顎を応用して求めた CT 値
いては,HUV に有意差は認められなかった.
─ 密 度 換 算 式 を 用 い た .( CT 値 = a , 密 度 = b, b =
【考察】エナメル質の脱灰・再石灰化は,口腔内におけ
る様々な因子により影響を受けることが知られている.
0.0009538536 a+1.0572942460)
咀嚼運動は下顎運動測定装置(K 7 エバリュエーショ
従来,エナメル質は結晶構造が未熟な状態で口腔内に萌
ンシステム,モリタ社製)を用いて測定した.咀嚼運動
出し,萌出後,ミネラルを取り込むことにより,結晶構
速度波形の閉口相における時間速度積分値(F)を応用
造が成熟していくと考えられていた.今回の実験の結
して,咀嚼運動エネルギー(以下,W)の基準化を行っ
果,埋伏過剰歯において萌出性過剰歯よりも HUV が高
た.すなわち,チューインガムの咀嚼開始後の第 5 サイ
値を示した理由として,口腔内環境に暴露していないた
クルから第 14 サイクルまでの F の平均値(以下,FG),
め,脱灰を受けるリスクが低かったということが考えら
および他の被検食品の第 n サイクルにおける F の値
れる.また,HUV で計測できる元素は,主にカルシウ
(以下,Fn)を算出し,Fn/FG により基準化することとし
ムであるため,リン酸など他のハイドロキシアパタイト
た.咀嚼開始から第 10 サイクルまでを分析対象として
構成要素については明らかとされておらず,更なる検討
以下の式を用い W
(J)を求めた.
S42
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
明海歯学 41, 2012
W=∑1/2 MVn2・Fn/FG
た.末梢血好中球(PMN)は,全身的に特記すべき既
各被検食品ごとに咀嚼運動エネルギーを算定し,健常
往歴のない健康な研究員の末梢血より Mono-Poly resolv-
者群と障害者群の第 10 サイクルまでの合計値を被験者
ing medium(Flow Laboratories Inc, USA)を用いた密度
数で除した平均値に関して比較検討を行った.なお,統
遠心勾配法によって分離・調製した.細胞傷害性は,
計学的解析には Student’s t-test を有意水準 5% で行っ
HEW を添加して調整した培養液にて各細胞を培養した
た.
後,cell counting Kit-8 およびトリパンブルーを用いた色
結果として各被検食品における障害者群の咀嚼運動エ
素排除試験にて計測した.抗酸化剤の影響を検討するた
ネルギーの値は健常者群の値と比較して大きい傾向を示
め,EDTA, NAC および GSH 等の抗酸化剤を用い,細
したが,統計学的分析に関しては有意差を認めなかっ
胞死の抑制効果を検討した.対象細胞には PMN を用い
た.これは障害者群の被験者が被検食品を正常に咀嚼で
た.フリーラジカルの測定は,HEW 単独と HEW を細
きないために,必要とする咀嚼運動エネルギーの個人に
胞培養液に添加した場合におけるラジカル波形を観察し
よる相違が大きくなったからだと考えられる.
た.計測には ESR 測定器(JEOL JES RE1X,日本電子
以上より,本法が顎口腔機能障害を定量的に診断しう
るシステムとして有用となる可能性が示唆された.今
後,更なる被験者数の増加と追加実験を行い定量的診断
法の確立を試みていく予定である.
社製,東京)を用いて行った.スピントラップ剤として
DMPO を用いた.
【結果】HEW は,HPC, PMN に対して強い細胞傷害性
を示した.抗酸化剤による影響を検討した結果,NAC
および GSH など SH 基を有する抗酸化剤は,HEW に
よる PMN の細胞傷害作用を有意に抑制することが認め
電解機能水の歯髄および根尖周囲組織
に対する傷害性
中村 裕子
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯内療法学分野
【目的】次亜塩素酸電解機能水(HEW)は,有効塩素濃
られた.ESR によるフリーラジカルの測定により,HEW
からはラジカル波形は観測されなかった.しかし,PMN
培養液と HEW の反応により高濃度のヒドロキシラジカ
ルの発生が認められた.
【考察】HEW は,培養液中の細胞に対して強い細胞傷
害性を示したことから,臨床応用に際しては,細胞傷害
度 650 ppm(次亜塩素酸として 80% 含有)を有し,pH
性を考慮し,洗浄後の組織に残った HEW は,十分に排
は 7.2,比較的長期間(約 1 ヶ月)の化学的安定性等を
除すべきであると考えられた.次に抗酸化剤が細胞死を
有した洗浄用水である.中性であるため,他の強酸性機
抑制したことから,HEW による細胞死は,酸化ストレ
能水のように酸性による組織傷害性や歯質脱灰作用など
スや活性酸素種の発生が関与していると考えられた.
の懸念もないとされている.これまで著者らは,HEW
ESR によりフリーラジカルを測定したところ,HEW 自
が高い殺菌作用・バイオフィルム除去効果を有すること
体にはラジカルの波形は観測されず,細胞培養液と反応
を明らかにし,報告を行ってきた.しかし,HEW の宿
することで観察された.これは HEW と有機質の反応に
主細胞に対する傷害性の詳細な検討は行われていない.
よりフリーラジカルを発生し,細胞を傷害した可能性も
HEW を臨床応用へ発展させるためには,細胞傷害性と
考えられる.臨床応用に際し,HEW 洗浄後に抗酸化剤
そのメカニズムを検討する必要があると考えられる.そ
などを併用することにより細胞死を制御できる可能性が
こで今回は,歯髄および根尖周囲における免疫担当細胞
示唆された.
である末梢血好中球に対する細胞傷害性を計測し,細胞
傷害作用に対する抗酸化剤の影響や ESR を用いたラジ
カルの発生を検討することを目的とした.
【材料および方法】HEW は,パーフェクトペリオ生成
装置(パーフェクトペリオ株式会社)により,実験直前
に生成したものを用いた.標的細胞としてヒト歯髄線維
芽細胞(HPC)および末梢血好中球(PMN)を用いた.
デジタル画像相関法を用いた
マルチブラケット装置の力学的研究
松井 成幸
明海大学歯学部形態機能成育学講座歯科矯正学分野
本研究の遂行は,明海大学倫理委員会の承認を得た後
歯の移動に関するバイオメカニクスについての研究は
(承認番号 A 0209, A 0210),ガイドラインに従って行っ
多く,理論的解析法と実験的解析法の 2 つに大別され,
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
S43
実験的解析法にはストレーンゲージ法,光弾性実験法,
歯科矯正治療の主流となっている low force という概念
ESPI,デジタル画像相関法などが挙げられる.この中
を念頭に置けば,矯正力の比較的弱いレベリング等の初
でマルチブラケット装置のバイオメカニクスについての
期の治療時においては有用なブラケットであると考えら
研究として,我々はデジタル画像相関法による評価を試
れた.
みている.この方法は画像解析処理により定点を追跡で
きることで,変位解析の手法として特殊な装置や操作が
必要でなく,また本法により得られる変位ベクトル表示
から,変形の部位および程度が非常に簡便かつ詳細に把
握することが可能である.そこで今回はマルチブラケッ
フェノール関連化合物による
Porphyromonas gingivalis 刺激転写因子活性化
の調節作用を探る
ト装置の中でいわゆる「プラスチックブラケット」が素
材上,強度の面で比較的弱いとされていることから,ワ
イヤーから発生する力により実際どの様な影響を受ける
かについて,デジタル画像相関法を用いて検証し,その
性能評価を行った.
村上 幸生
明海大学歯学部病態診断治療学講座総合口腔診断学分野
【目的】香料,食品,化粧品,医薬品として広く応用さ
れている天然の抗酸化性フェノール関連化合物は抗炎症
【材料および方法】実験材料として,市販されている 5
作用や口腔前癌病変の発癌予防効果を示すことが知られ
社のプラスチック製ブラケットおよび比較対象として従
ている.これらの化合物は構造特異性に基づくフェノー
来型のステンレス鋼の金属製ブラケットを試料として用
ル性 OH からの水素原子の引き抜きに関連した自動酸
いた.ブラケットは真鍮板にアラルダイトで固定し,48
化によってアレルギーや炎症反応などの生体為害反応を
時間後の硬化の後,表面にランダムパターンの塗装を施
引き起こす.自動酸化しにくい構造のフェノール二量体
した.荷重はフルスロットサイズの 0.018”×0.025”の
化合物は炎症性サイトカイン発現の抑制作用を有するこ
ステンレスワイヤーを介して片側 400 g・mm のモーメン
とから,これらのフェノール関連化合物は酸化還元感受
トを付与した.撮影は 2 台の LED 光源下においてマイ
性の転写因子の活性化を negative に調節できる可能性
TM
クロスコープ搭載の Vic-3 D Micro システム(Correlated
を示唆した.Porphyromonas gingivales は慢性歯周炎の
Solutions Inc., USA)により荷重負荷前後のマクロ写真
主要な病原性細菌として知られている.とりわけ本菌の
撮影(5 M, 2592×1944 pixel)を行った.解析にはデジ
線毛や内毒素(LPS)は転写因子の直接的な活性化を介
タル画像相関処理ソフト(VEDDAC 2.6, ETTEMEYER
して炎症性サイトカインなどの産生に携わっている.近
製)を使用.解析は,荷重負荷前を基準画像として,荷
年,慢性歯周炎に関連した炎症性サイトカインや生理活
重負荷後の画像との間で 3 方向の変位とひずみを求め
性物質が 2 型糖尿病や動脈硬化症,腎臓疾患,早産にも
た.
関与することが報告されている.そのことは,本菌によ
【結果】プラスチック製ブラケットの荷重側ウィングに
る宿主の転写因子活性化が様々な全身疾患の発症に機能
すべてにおいて,変位が認められた.ポリカーボネート
的役割を果たす可能性を示唆する.それゆえ今回の研究
製では x 方向で 10∼20 μ ,ポリアミド製では 20∼30
では抗酸化性フェノール関連化合物およびそれらの合成
μ ,ポリカーボネートとポリエチレンテレフタラートの
二量体による本菌の線毛や LPS による細胞の酸化還元
混合型では 10∼20 μ の変位を示した.一方,金属製ブ
感受性転写因子活性化の調節作用を明らかにすることを
ラケットに変位はほとんど見られなかった.また,ブラ
目的とした.
ケット 4 箇所のウィングでの歪量はプラスチック製ブラ
【材料と方法】
ケットのサンプルにおいて 1% 以内にとどまり,金属製
ブラケットはほぼ 0% を示した.
1 .試薬:Phenol, p-cresol, melatonin, indole, phenol 二量
体(DBP),p-cresol 二量体(DDBP)を使用した.
【まとめ】プラスチック製ブラケットはセラミック製ブ
2 .細胞傷害性試験:マウスマクロファージ様 RAW
ラケットと同様,審美性に優れ,多くの患者に使用され
264.7 細胞を培養し試薬を添加後,cell counting kit-8
ている.特にプラスチック製ブラケットは価格の面から
(同仁化学社製)で測定した.
も導入しやすいが,機械的性状に不安が残るのが現状で
3 .線毛:Porphyromonas gingivalis ATCC 33277 株から
ある.今回の研究から従来型のステンレス鋼の金属製ブ
ラケットと比較して変形の大きさが示されたが,現在の
線毛を回収し精製した.
4 .遺伝子発現:[32P]標識 COX-2 cDNA プローブ,
S44
明海歯科医学会第 17 回学術大会抄録
TNF-α オリゴヌクレオチドプローブを用いた Northern blot 法で検討した.蛋白質発現:抗 COX-2 抗体を
明海歯学 41, 2012
口腔癌におけるアデノウィルス受容体
(CAR ; CXADR)の役割
使用した Western blot 法で検討した.TNF-α 発現は
奥 結香
細胞培養上清を回収し,ELISA kit を使用して検討し
た.
5 .NF-κB 活性化:EMSA 法による NF-κB 結合能を検
明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学分野
The coxsackie and adenovirus receptor(CAR ; CXADR)
討した.IκB-α のリン酸化依存性蛋白分解は抗 IκB-α
is a common type I membrane receptor for infection of these
抗体,抗リン酸化 IκB-α 抗体(Ser 32)を用いた West-
viruses, and its expression on the surface of various human
ern blot 法で検討した.
malignancies affect the efficacy of gene therapy with recom-
【結果と考察】
1 .Phenol, p-cresol, DBP, DDBP ともに 100 μ M 以下の
濃度では細胞障害性を示さなかった.
binant adenovirus. However, the constitutive expression of
CAR on cancer cells is expected a certain biological significance in them such as regulation of cellular growth, survival
2 .Melatonin は本線毛誘導性の COX-2 発現を mRNA
except regulation of the virus infectivity. It has previously
レベル,蛋白質レベルともに 100 μ M 以下の濃度で強
been reported that the expression pattern of CAR in various
力に抑制した.
malignancies with different organs including solid tumors
3 .本線毛による NF-κB 結合能は Melatonin で強力に
such as colon, breast, lung carcinomas, sarcomas, gliomas,
抑制された.LPS 誘導性の NF-κB 結合能は DDBP で
and hematopoietic neoplasms, and its suggestive function in
顕著に抑制された.
these tumors. However, it is unclear whether this is also so
4 .IκB-α のリン酸化依存性蛋白分解は melatonin で顕
in oral carcinoma.
著に抑制された.LPS 誘導性の IκB-α の蛋白分解は
In this study, we examined the expression of CAR and
DDBP で同様 に 抑 制 さ れ た .DDBP と melatonin は
the function in squamous cell carcinoma of the oral cavity,
RAW 細胞の NF-κB 活性化を抑制し,その後の蛋白
in vitro and in vivo. CAR mRNA and protein were mark-
質発現を制御した.今回の研究結果は,抗酸化性フェ
edly expressed, especially in p53-mutated HOSCC cell lines.
ノール関連化合物が酸化還元感受性転写因子活性化の
In 40 patients with HOSCC, we examined immunoreactivity
調節し,慢性歯周炎に起因する全身疾患の発症に対す
for CAR and p53. A positive CAR immunoreactivity was
る primary な予防剤として機能しうる可能性を示唆し
recognized in 19 out of 40 cases(47.5%)of the patients, and
た.
many CAR positive cases were consistent with p53 positive
cases(76.5%). Although it was not correlated between immunoreactivity for CAR, p53 and clinicopathological variables, CAR expression was correlated with that of p53.
These findings suggest that CAR has been regulated by p53
gene in HOSCC.
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