...

調査対象技術の技術概要 1.はじめに 本標準技術集では、外科手術に

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

調査対象技術の技術概要 1.はじめに 本標準技術集では、外科手術に
調査対象技術の技術概要
1.はじめに
本標準技術集では、外科手術に用いられる手術用具のうち「内視鏡下手術に用いる手
術用具」を調査対象とした。
内視鏡下手術は、術者が内視鏡を通して患部を観察しながら専用手術用具で手術治療
を行うもので、従来の開腹手術に比べて極めて小さな切開で行うことができるため、低
侵襲手術の代表的な術式として外科領域で広く普及している。
内視鏡下手術は、1990 年代に急速に普及した新しい手術である。1980 年代にはじまっ
た腹腔鏡下胆嚢手術の開発は、同時に多くの新しい内視鏡外科用手術器具の開発を促し、
1990 年代の 10 年間に一気に発展を遂げ、多くの手術が内視鏡下で行われる時代となっ
た。これを支えたのは手術用具の進歩によるところが多い。
2.内視鏡下手術に用いる手術用具の概要
内視鏡下手術用手術用具は、
(1)エネルギー源を有する手術用具
(2)人間によって作用させる(動かす)手術用具
に大別される。
2.1
エネルギー源を有する手術用具
エネルギー源を有する手術用具は、そのエネルギー源別(高周波、レーザー、超音波、
マイクロ波、熱、代替フロン・圧縮ガス、電動モーター、クライオ、ウォータージェッ
ト、ラジオ波)に分類される。
各エネルギー源を用いた手術用具は、それぞれ組織の切開、凝固、止血、蒸散、破砕、
吸引、壊死、縫合・切離などを目的としている。
(1)高周波を用いる手術用具
高周波を用いる手術用具には、切開・凝固・止血・蒸散を目的とした電気手術装置と、
破砕を目的とした電気水圧衝撃波砕石装置がある。
電気手術装置は、高周波電流を用いて生体組織の切開・凝固・止血・蒸散を行う機器
であり、高周波電流発生装置およびプローブ・ハンドピースからなる。慣用的には「電
気メス」と呼ばれ、生体に電流が流れるとき抵抗のために発生する熱を利用して切開、
凝固等を行うものである。
プローブ・ハンドピースにはモノポーラ(単極)型とバイポーラ(双極)型がある。
モノポーラ型の場合は、モノポーラ電極(アクティブ電極)、患者、対極板(リターン
1
電極)の回路が形成される。装置本体に接続されたモノポーラ電極から対極板に高周波
電流を通電し、電極接触部位(生体組織)へ電流を集中させ、生体熱を発生させるとい
う原理である。
バイポーラ型の電極は、アクティブ電極とリターン電極の両方の機能を果たし、把持
された組織だけに電気が流れるため、対極板を必要としない。バイポーラ型の手術用具
として、コンピュータによる出力自動調整機能を採用し、血管の閉鎖が迅速・確実に行
えるシステム(1−A−1c−5
A−1c−4
血管閉鎖システム)や、バイポーラ型の剪刀(1−
バイポーラシザース)が開発されている。
モノポーラ型の応用として、高周波電気エネルギーによりイオン化されたアルゴンガ
スを媒体として、高周波電流を伝達する術式もある。
電気水圧衝撃波砕石装置は、プローブ先端の電極に高電圧をかけ高圧のスパーク放電
を発生させて得た強い衝撃波によって、結石を破砕する。
(2)レーザーを用いる手術用具
レーザーを用いる手術用具には、切開・凝固・止血・蒸散・破砕を目的としたレーザー
手術装置がある。
レーザー手術装置は、各種レーザーの水や血液への吸収特性を利用し、レーザー照射
時の熱変性領域(照射点からの深さ)をコントロールすることができる。水の光吸収特
性は3μm 付近が吸収ピークであり、波長 0.78∼0.98μm の半導体レーザーや波長 0.532
μm の KTP レーザーは水には吸収されにくく組織深部に到達する。一方波長 2.06μm の
ホルミウム・ヤグレーザーは水に吸収されやすく、組織深達度が低く組織蒸散性に優れ
るため、強い切開能が得られる。
また、ホルミウム・ヤグレーザーのようなパルス発振レーザーは、砕石装置としても
用いられる。
【波長による水と血液の吸収特性】
2
(3)超音波を用いる手術用具
超音波を用いる手術用具には、切開・凝固・止血を目的とした超音波凝固切開装置、
乳化・吸引を目的とした超音波吸引装置、破砕を目的とした超音波砕石装置、穿刺を目
的とした超音波トロッカーがある。
超音波凝固切開装置は、超音波振動により摩擦熱を発生させたプローブで組織を把持
することによって、凝固・切開を行う。把持された組織が熱変性を起こすことを利用し
ている。電気手術装置と比べて低温であり、組織損傷の度合いが小さい。高周波通電が
可能なプローブも開発されており、これにより膜状組織の処置や万一の出血の場合に効
率よい止血処置が可能である(1−C−1b−4
高周波処置との併用型)。
超音波吸引装置は、超音波の組織選択性を利用し、脆弱組織のみを超音波振動でたた
き、乳化・吸引するものであり、血管や神経などの弾力性に富んだ組織を破砕せずに露
出することができる。
超音波砕石装置は、超音波で振動させたプローブを直接結石に接触させて、超音波振
動を衝撃に変換し結石を破壊するものである。
超音波トロッカーは、超音波振動により生体組織との接触過重を大幅に低減し、小さ
な力量での穿刺を可能としたトロッカーである。凝固作用により出血が軽減できるため、
腹壁からの出血による内視鏡視野の妨げを軽減できる。
(4)マイクロ波を用いる手術用具
マイクロ波を用いる手術用具には、凝固・止血を目的としたマイクロ波凝固装置があ
る。マイクロ波凝固装置は、マイクロ波を生体組織内に照射し、組織の水分子の運動に
よって分子間に生じた摩擦熱により、組織を凝固するものである。
(5)熱を用いる手術用具
熱を用いる手術用具には、切開・凝固・止血を目的とした熱凝固装置、結紮・切離を
目的とした熱結紮器がある。
熱凝固装置は、プローブ先端に配した熱線を加熱し、その放熱エネルギーを組織に直
接伝導することで組織を凝固させるものである。
熱結紮器は、先端部分に内蔵した熱素子に圧力をかけて発熱させ、蛋白質を変性させ
ることにより血管を封鎖するものである。
(6)代替フロン・圧縮ガスを用いる手術用具
代替フロン・圧縮ガスを用いる手術用具には、結紮・切離・縫合を目的とした自動縫
合器、破砕・吸引を目的とした圧縮空気衝撃砕石装置がある。
3
自動縫合器は、「2−a−4d
自動縫合器」と同等の機能を持つ装置であるが、圧縮
ガスの小ボンベを内蔵したタイプである。圧縮ガスの安定した力によりスムーズに打針
を行うことができる。
圧縮空気衝撃砕石装置は、圧縮空気をハンドピースの中に送り込み、ハンドピース内
の金属弾を押し出しプローブの近位端に衝撃を与える。この衝撃がプローブを伝わり、
先端に接触している結石を破砕する、というものである。熱を発生しないので組織の障
害が少ない。
(7)電動モーターを用いる手術用具
電動モーターを用いる手術用具には、切削を目的としたシェーバー、剥離を目的とし
た電動ブラシ、結紮・切離・縫合を目的とした自動縫合器・吻合器、細切除去を目的と
した組織細切除去装置、手術支援用ロボットがある。
シェーバーは、刃が内筒と外筒の二重構造になっており、外筒の中で内筒が回転し、
破砕と吸引を同時に行う装置である。内筒としては、主として軟部組織を細片化・吸引
するカッターと、主として骨・軟骨を削るドリルがある。
剥離ブラシは、電動歯ブラシのようなもので脂肪組織を液状化することにより剥離す
る。
自動縫合器・吻合器は、「2−a−4d
自動縫合器」や「2−a−4e
自動吻合器」
と同等の機能を持つ装置であるが、コンピュータ制御により縫合・吻合を電動で行う装
置が新たに開発された。リモートコントロールも可能である。
組織細切除去装置は、組織を腹腔外へ出すために適当なサイズに細切する器具である。
モルセレーターと呼ばれる。
手術支援用ロボットには、マスタースレーブ手術支援ロボットと内視鏡把持ロボット
があり、前者は ZEUS(ゼウス)、da Vinci(ダヴィンチ)、HUMAN(ヒューマン)、後者は
AESOP(イソップ)、NAVIOT(ナビオット)が代表的である。
(8)低温を用いる手術用具(クライオ)
低温を用いる手術用具には、凝固・壊死を目的としたクライオサージェリー装置があ
る。クライオサージェリー装置を用いた治療は凍結融解壊死療法と言われ、凍結プロー
ブを凍結部位に穿刺し、先端のみを低温にする。細胞は、凍結された後融解する過程で
塩濃度の差の発生などにより細胞内小器官が破壊され、細胞死を起こすとされており、
この原理を応用した技術である。
(9)水を用いる手術用具(ウォータージェット)
ウォータージェットを用いる手術用具には、剥離・切開を目的としたウォータージェッ
4
トメスがある。ウォータージェットメスは、ジェット水流の衝撃エネルギーで実質組織
のみを切除するものであり、血管、神経、肝内胆管などの脈管は傷つけずに残す。脈管
に当たった水流は、管表面の曲面を伝わって回り込みながら進むため、陰になった組織
まで除去が可能である。
(10)ラジオ波を用いる手術用具
ラジオ波を用いる手術用具には、凝固を目的としたラジオ波凝固装置がある。
ラジオ波凝固装置は、ラジオ波発生装置、電極および生体から電流を回収する対極板
からなり、ラジオ波交流電流と組織インピーダンスによるジュール熱と誘電加熱を利用
し、生体蛋白質を凝固変性させる。電極には、先端に温度センサーが付いたものや、冷
却水を灌流して冷却するものなどがある。
2.2
人間によって作用させる(動かす)手術用具
人間によって作用させる(動かす)手術用具は、鉗子や縫合器などの組織を直接処置
する手術用具、処置部位にアクセスするために用いるアクセスデバイスに分類できる。
内視鏡下手術操作で特に難しいのは縫合・結紮の操作であり、これを解決するために
様々な工夫がなされた手術用具が多く開発されている。
(1)組織を直接処置する手術用具
組織を直接処置する手術用具には、切開・剥離・切削・把持を目的とした鉗子や剪刀、
結紮・切離・縫合を目的とした持針器、クリップ、クリップアプライヤー、自動縫合器、
自動吻合器、結紮器具がある。
鉗子や剪刀には、先端の両側が開くもの、片側のみが開くもの、有鉤のもの、無鉤の
もの、彎曲しているものなど、目的に応じて様々な先端形状のものが存在する。また、
より機能的にするためにシャフトの先端が彎曲するタイプやシャフトが回転するタイプ
も多く開発されている。また、電極端子を備え、高周波処置に用いることができるタイ
プも一般的である。
【鉗子】
5
持針器は針を持つ器具、各種結紮器具は結紮時に補助的に用いる器具であるが、針を
直角に把持できるもの、ハンドル操作により連続して縫合ができるもの、結紮用補助鉗
子など、工夫を凝らした器具が多い。
クリップは、血管や組織を閉鎖する器具であり、非吸収性金属クリップ、非吸収性ク
リップ(ポリマー)、吸収性クリップ(ポリマー)、ロック式クリップ、一時的クリップ、
バネ式クリップなどがある。
クリップを装填しファイヤーする器具であるクリップアプライヤーには、単発式のシ
ングルクリップアプライヤー、自動装填式のマルチクリップアプライヤーのほか、直角
方向からのアプライヤーや一時的クリップ用アプライヤーがある。
【クリッピングの様子】
自動縫合器・自動吻合器は、ハンドルを握ることにより、ステープルの打針とカッティ
ングナイフが同時に作動し、縫合と切離を同時に行う器具である。縫合器は直線的に縫
合・切離を行い、吻合器は二つの管腔臓器をつなぐため円状に縫合・切離を行う。
【自動縫合器】
(2)アクセスデバイス
アクセスデバイスには、穿刺を目的としたトロッカー・カニューラ、手術スペース確
保を目的とした気腹針、バルーン・ダイセクター、腹腔吊り上げ器具、その他リトラク
6
ターや回収器具などがある。
トロッカーは、腹壁を通して、腹腔内に手術器具を挿入するための器具である。刃を
持たないブレードレストロッカー、気腹ガスの漏れを防止する開閉機構を有するフラッ
パーバルブ型トロッカー、バルーンによりトロッカーの腹壁への固定を安定化するバ
ルーン付きトロッカーなど種類は非常に多い。また、径の異なるトロッカーに変更する
際に用いる器具として、拡張器やリデューサーがある。
【トロッカー】
気腹針は、腹腔内に二酸化炭素を入れるために穿刺する際に用いる器具である。ベレ
スニードルは、内筒の先端が鈍になっていて、腹腔内臓器を傷つけないように工夫され
ている。気腹針と内視鏡が一体になったタイプもある。
バルーンは、組織を剥離・拡張して生体組織内に新たな手術空間を作る器具である。
腹腔吊り上げ器具は、腹腔内や皮下組織内に吊り上げ器具を入れて腹壁を挙上すること
により手術スペースを確保する器具である。
リトラクターは、対象物の位置をずらしたり、視野を妨げるものを圧排・牽引し、視
野を確保して手術を行うための器具である。トロッカーからの挿入時は真っ直ぐな棒状
の形態であるが、腹腔内では対象物を幅広く安全に圧排するために、先端が大きく広が
る形態をしている。先端形状には、扇形、屈曲型、ループ型などがある。
【リトラクター】
組織を腹腔外に取り出す回収器具には、回収袋、バスケット型、爪型、ネット型など
がある。
洗浄吸引器具は、術野の血液の除去、腹腔内の洗浄、洗浄液の吸引などを行う器具で
あり、目的に応じて様々な先端形状のものがある。また、凝固止血が同時に可能な電極
付きのタイプもある。
7
Fly UP