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結婚の決定要因 - 一橋大学経済学研究科

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結婚の決定要因 - 一橋大学経済学研究科
結婚の決定要因
平成 27 年度
一橋大学経済学部 学士論文
学籍番号:2112138y
氏名:関戸
一輝
ゼミナール指導員:川口 大司
1
概要
本稿では、日本の若年層・壮年層における男女の結婚の決定要因について、
OLS による重回帰分析を行った。その結果、男女ともに初職の雇用形態が正規
雇用であることが、結婚行動と大きな相関をもつことが判明した。昨今の日本で
の未婚率の上昇を解消、ひいては少子化問題を改善するためには、国民の正規雇
用化が重要であると本稿は示唆する。
2
目次
第一章 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
第二章
研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
第一節 仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
第二節 使用データ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
第三節 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
第三章
分析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
第一節 仮説検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
第二節 その他説明変数の解釈・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
第四章
結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
付表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
3
第一章 はじめに
昨今の日本では未婚率の上昇が顕著である。2010(平成 22)年の総務省「国
勢調査」によると、25~39 歳の未婚率は男女ともに引き続き上昇している。男
性では、25~29 歳で 71.8%、30~34 歳で 47.3%、35 歳~39 歳で 35.6%、女性
では、25~29 歳で 60.3%、30~34 歳で 34.5%、35~39 歳で 23.1%と、非常に
高い値を取っている。年齢別未婚率の推移を見れば、未婚率が過去数十年の間に
大幅に増加していることがわかるだろう。
4
そして、未婚率の上昇と同様に問題視されているものが出生率の低下、すなわ
ち少子化問題である。婚外子が極端に少なく、若年者の同棲割合も低い日本では、
子どもを産むことと結婚することは同時決定的であり、結婚へのステージに移
行することが子供の出産を決定する前提条件となっている。したがって、日本に
おいては結婚と出産は因果関係にあるといっていい。
つまり、昨今の未婚率の上昇が、現代日本の少子化問題を引き起こしているの
である。少子化は労働者人口の減少をもたらし、国力の低下を招くだろう。未婚
率の上昇を解決することができなければ、今後の日本に未曽有の危機が訪れる
ことは想像に難くない。
故に、私はこの未婚率上昇の解決の糸口を探るため、結婚の決定要因とは如何
なるものであるのか、本稿を通じて明らかにしたいと考えている。
5
さて、結婚行動についての研究は過去にも豊富に存在する。しかし、それら
の多くは結婚行動の遅延の要因や、未婚者の属性等について言及したものであ
り、結婚行動を促す要因についての研究はあまり行われていない印象を受け
る。そのため本稿では、先行研究にて明らかにされた要素を基礎とし、結婚の
決定要因を解き明かしたいと考えている。
では、始めに未婚化や晩婚化といった結婚行動の遅延についての研究を参照
しよう。
永瀬(2002)の研究では、非正規雇用が男女ともに結婚時期を遅延させる可能
性を説いている。この永瀬(2002)の研究で着目すべき点は、女性においても正社
員のほうが非正社員より結婚の移行タイミングが早いということである。一般
に男女の賃金格差が大きいほど結婚の利益が大きいことから、非正社員のほう
が結婚へ移行しやすいと予想されるが、実は正社員ほど早く結婚へ移行し、非正
社員ほど未婚に残る可能性が高いのである。これを言い換えれば、男女ともに正
規雇用であることは結婚と強い相関があるといえるだろう。
また、近年の若年女性の高学歴化が 20 代の未婚化・晩婚化に大きく寄与して
いると考えられており、阿藤(1997)は、1970 年代以降の女性の高学歴化は家庭
外就労機会の増加、特に専門職従事者の増加とも相まって価値観の変化をもた
6
らし、20 代のシングル化現象をもたらしたと述べている。しかし、白波瀬(1999)
は、女性の高学歴化が結婚行動の障害である説を否定している。確かに、高学歴
者ほど結婚年齢が高いという晩婚化への影響は認められるが、高学歴者の結婚
確率自体は決して低くないとしている。加えて、Tsuya&Mason(1995)は結婚年
齢を被説明変数として比例ハザード分析を行うことにより、高等学歴を取得す
ることが結婚への確率を一掃するというより、結婚年齢を遅らせることを示し
ている。このことから、女性の高学歴化が結婚を阻害することはないといえるだ
ろう。
そして、原(1991)の研究に基づくならば、日本における長男長女の家族的地位
の特殊性が結婚の遅延要因となる可能性を考えることができる。原(1991)によ
ると、長男長女比率の上昇と晩婚化傾向に強い相関があると述べており、長男長
女比率の上昇が晩婚化を引き起こした可能性を示唆している。日本における直
系家族性の伝統の元では、長男が家を継ぎ親の面倒をみることになっており、男
兄弟がいない場合には長女が養子縁組を行い、この役割を担うことになってい
る。このような親との同居志向を持つ長男長女の比率が増大したため、配偶者選
択を難しくし、結果的に晩婚化や婚姻率の低下を招いた可能性が考えられるの
である。つまり、長男長女であることが結婚の障害となる可能性があるといえる
だろう。
7
以上の議論を総括するならば、
「雇用形態」、
「学歴」、
「続柄」が結婚の決定要
因であると予想される。
次に、結婚のインセンティブについての研究を参照する。
国立社会保障・人口問題研究所(2012)によると、「容姿」を男女ともに重視・
考慮する割合が高いことがわかる。特に男性においては、結婚する意志のある未
婚者が結婚相手に求める条件として、経済力や職業、学歴よりも容姿を重視して
いる。したがって、容姿の優劣が結婚のインセンティブに深く関わっていること
が予想される。
また、齋藤・星山・宮原(2004)の研究によると、人格の成熟度1の高いものは
次世代育成力が高く、その背景因子としては成育家庭の雰囲気が自由で開放的・
ユーモアと安らぎがあることであると述べている。次世代育成力とは、
「子孫を
生み出すこと、生産性、創造性」を包含する概念である。つまり、出産と結婚が
同義といえる日本の慣習に基づいて言い換えるならば、成育家庭の雰囲気が良
かった者が結婚へのインセンティブを持つといえるだろう。
以上の議論を総括するならば、
「容姿」、
「成育家庭の雰囲気」が結婚の決定要
因であると予想される。
1
エリクソン心理社会的段階目録検査(ESPI)により測定
8
第二章 研究方法
第一節 仮説
結婚の決定要因と推測される要素について検証する。前章での議論をもとに、
以下の 5 つの仮説を提唱する。
① 正規雇用の者は結婚確率が高い
② 高学歴であることは結婚確率に影響を与えない
③ 長男長女は結婚確率が低い
④ 容姿が優れている者は結婚確率が高い
⑤ 成育家庭の雰囲気が良い者は結婚確率が高い
これらの仮説を検証するため、モデル内に「雇用形態」、
「学歴」、
「続柄」、
「容姿」、
「成育家庭の雰囲気」の要素を持つ説明変数を組み込んでいくこととする。
9
第二節 使用データ
本研究には、東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクトによる、
「東大
社研・若年パネル調査(JLPS-Y)wave1-6,2007-2012」、及び「東大社研・壮年
パネル調査(JLPS-M)wave1-6,2007-2012」を使用する。調査対象は日本全国
に居住する 20~40 歳の男女(2006 年 12 月時点)である。調査対象が 20~40
歳と比較的若く、年齢に偏りがある問題点を抱えてはいるが、身長・体重という
容姿の代理変数となる項目が存在するため、このデータを使用したい。なお、在
学中の人間についてはデータから除外している。
第三節 分析方法
◎分析モデル
分析モデルには一般的な重回帰モデルを使用し、OLS によって男女別に回帰
分析を行う。但し、本稿で使用するデータはパネルデータであるため、時系列別
の同一個人が複数回観測されることとなる。そのため、重回帰分析の際には個人
に対しクラスター処理を行い、標準誤差の修正を行っている。
なお、詳細は後述するが、分析モデルとして二つを設定しており、本人の属性
のみを説明変数としたものをモデル A、本人の属性と両親の属性を説明変数と
したものをモデル B としている
10
◎被説明変数
被説明変数には結婚ダミーを使用する。本研究では婚姻状態の維持ではな
く、結婚行動という事象にのみ着目するため、離別、死別により現在配偶者が
いない人物については区別しない。結婚経験のあるものを1、未婚のものを0
と設定する。
◎説明変数
説明変数には先行研究をもとに、本人の属性、そして本人の両親の属性を表す
変数を使用する。両親の属性を組み込む理由としては、本人以外の属性が結婚
行動と相関する場合における内生性の問題を解消するためである。例えば、親
が高学歴であった場合には子の学歴も高くなることが知られているが、そのよ
うな本人以外の要因による効果を考慮することが目的である。
まず、モデル内に組み込む説明変数を記載したい。本人の属性としては、初
職正規雇用ダミー、大卒ダミー、長男(長女)ダミー、ln 身長 mm、肥満値、
羸痩値、15 歳時家庭の雰囲気良ダミー、年齢、年齢^2/100 の変数を設定して
いる。加えて、両親の属性として、出産時父年齢、出産時父年齢^2/100、出産
時母年齢、出産時母出産年齢^2/100、父正規雇用ダミー、母正規雇用ダミー、
11
父無職ダミー、母無職ダミー、父大卒ダミー、母大卒ダミーの変数を設定す
る。これら説明変数の詳細は以下である。
・初職正規雇用ダミー
「雇用形態」を表す説明変数である。初職が正規雇用であった者を1、それ
以外の者を0と設定している。雇用形態を現職ではなく初職としたのは、被説
明変数による説明変数への逆因果の問題を考慮したためである。これは、女性
は結婚を機に雇用形態を正規から非正規に変更する傾向があるからである。事
実、総務省統計局による労働力調査(2015 年7~9月期)によれば、非正規雇用
の女性のうち、約4割の女性が家庭を補助するために非正社員として働いてい
る2と回答している。したがって、現職では結婚行動との相関を正しく推定でき
ないことが予想されるため、初職の雇用形態を使用する。また、正規雇用の意
義を考慮するならば、初職が正規雇用であることに現在の社会的位置付けは依
存するところが大きいことが予想されるため、結婚行動との相関をみる説明変
数としてふさわしいといえる。
・大卒ダミー
「学歴」を表す説明変数である。大学院卒、大学卒の者を1、それ以外の者
を0と設定している。
「家計の補助・学費等を得たいから」という回答が 25.2%、
「家事・育児・介護等と両
立しやすいから」という回答が 15.8%
2
12
・長男(長女)ダミー
「続柄」を表す説明変数である。分析対象が男性の場合長男ダミーを、女性
の場合長女ダミーを組み込む。長男ダミーは兄がいない男性を1、それ以外の
者を0と設定している。長女ダミーは姉がおらず、かつ男兄弟がいない女性を
1、それ以外の者を0と設定している。
・ln 身長 mm
「容姿」を表す説明変数である。2009 年度の調査をもとに、単位 mm であら
わされた身長の自然対数値を取っている。
・肥満値
「容姿」を表す説明変数である。肥満の度合いを表すため、筆者が独自に設
定した変数である。2009 年度の調査で得られた身長、体重より本人の BMI を
算出、標準体重 BMI:22との差が正である者のみを抽出し、その差の絶対値
を肥満値として与えている。それ以外の者は0としている。
・羸痩値
「容姿」を表す説明変数である。羸痩の度合いを表すため、筆者が独自に設
定した変数である。2009 年度の調査で得られた身長、体重より本人の BMI を
算出、標準体重 BMI:22との差が負である者のみを抽出し、その差の絶対値
を羸痩値として設定している。それ以外の者は0としている。
13
<ln 身長 mm、肥満値、羸痩値についての補足>
説明変数に容姿を表す変数を組み込みたいが、統計データからは本人の容姿
を観測することはできない。そのため、容姿の代理変数として、ln 身長 mm、
肥満値、羸痩値を説明変数として設定している。
容姿の意味する要素として考えられる項目は、顔や体型といったものがあげ
られる。顔についてはデータからは観測不能であるうえ、個人の嗜好によって
評価が変わることもあり、説明変数としての設定は不可能である。しかし、体
型については議論の余地があるだろう。
本稿にて使用するデータには、身長と体重が体型に関する情報として存在し
ている。身長に関しては、そのまま容姿の代理変数として使用しても良いと考
えられる。しかし、体重のデータのみからでは本人が標準体型であるか、肥満
であるか、あるいは羸痩であるか判断することができないため、体重をそのま
ま容姿の代理変数として使用することは不適である。故に、BMI を利用するこ
とで体型を推測する。
BMI(ボディマス指数)3とは、体重・身長の関係から算出されるヒトの肥満
度を表す体格指数のことである。日本肥満学会では、BMI が 22 の場合を標準
体重と定めている。そこで、標準体型の者、肥満の者、羸痩の者を区別して分
3
BMI=体重 kg/身長 m^2
14
析するため、2009 年度の身長・体重より算出された個人の BMI と標準体重
BMI との差をもとに、肥満値・羸痩値という変数を設定した。これらを容姿の
代理変数として使用することとする。
ただ、BMI は体脂肪率が考慮されていない等、容姿の代理変数としての問題
点を抱えている。しかし、計算式が簡便であり、肥満の指標として多用されて
いる現状を鑑み、この問題については留意願いたい。加えて、BMI は身長と違
って年月とともに変化する可能性があり、結婚行動の前後で変化している問題
を否定できない。この問題については、成人後の数年間に体重の大きな変化は
ないと予想されるため、ここではその可能性は無視することとする。
・15 歳時家庭の雰囲気良ダミー
「成育家庭の雰囲気」を表す説明変数である。15 歳時の家庭の雰囲気につい
ての質問に対し、「暖かい雰囲気だった」と回答した者を1、それ以外の者を
0と設定している。
・年齢、年齢^2/100
2006 年度における年齢をもとに、年度が上がる都度データを修正して設定し
ている。
15
・出産時父年齢、出産時父年齢^2/100、出産時母年齢、出産時母出産年齢
^2/100
本人が誕生した時点における父及び母の年齢をもとに設定している。
・父正規雇用ダミー、母正規雇用ダミー
本人が 15 歳時の父、母の雇用形態をもとに設定している。父、母が正規雇
用であった者を1、それ以外の者を0と設定している。
・父無職ダミー、母無職ダミー
本人が 15 歳時の父、母の雇用形態をもとに設定している。父、母が無職で
あった者を1、それ以外の者を0と設定している。但し、無職には専業主婦
(主夫)が含まれている。
・父大卒ダミー、母大卒ダミー
父、母が大学院卒、大学卒の者を1、それ以外の者を0と設定している。
16
第三章 分析結果
前章の設定のもと、男女別に結婚ダミーを被説明変数とした重回帰分析をモデ
ル A とモデル B の二種類行った。その結果が次ページである。
17
結婚ダミー男性回帰結果
モデル A
モデル B
結婚ダミー
変数
初職正規雇用ダミー
0.166***
(0.0381)
-0.0295
(0.0284)
-0.00966
(0.0310)
0.692*
(0.419)
-0.0260***
(0.00567)
-0.0329**
(0.0146)
-0.00548
(0.0290)
0.0670***
(0.0217)
-0.0440
(0.0321)
大卒ダミー
長男ダミー
Ln 身長 mm
肥満値
羸痩値
15 歳時家庭の雰囲気良ダミー
年齢
年齢^2/100
-6.342**
(3.121)
0.160***
(0.0383)
-0.0181
(0.0303)
-0.0433
(0.0337)
0.696*
(0.417)
-0.0243***
(0.00565)
-0.0354**
(0.0143)
-0.0116
(0.0291)
0.0646***
(0.0215)
-0.0411
(0.0317)
-0.0454
(0.0373)
0.0673
(0.0610)
0.0698**
(0.0310)
-0.138**
(0.0567)
-0.00174
(0.0321)
0.0227
(0.196)
0.0630*
(0.0357)
-0.00106
(0.0330)
-0.00809
(0.0344)
-0.0107
(0.0536)
-6.417**
(3.135)
4,919
0.222
4,919
0.235
出産時父年齢
出産時父年齢^2/100
出産時母年齢
出産時母年齢^2/100
父正規雇用ダミー
父無職ダミー
母正規雇用ダミー
母無職ダミー
父大卒ダミー
母大卒ダミー
定数
観測数
決定係数
()内はロバスト標準誤差
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
18
結婚ダミー女性回帰結果
モデル A
モデル B
結婚ダミー
変数
初職正規雇用ダミー
0.0588*
(0.0312)
-0.0934***
(0.0272)
0.0206
(0.0231)
0.122
(0.351)
0.00720
(0.00678)
0.00568
(0.00840)
0.0435*
(0.0236)
0.183***
(0.0178)
-0.225***
(0.0263)
大卒ダミー
長女ダミー
Ln 身長 mm
肥満値
羸痩値
15 歳時家庭の雰囲気良ダミー
年齢
年齢^2/100
-3.815
(2.582)
0.0543*
(0.0313)
-0.0762***
(0.0290)
-0.0211
(0.0269)
0.0937
(0.353)
0.00611
(0.00684)
0.00583
(0.00837)
0.0427*
(0.0235)
0.178***
(0.0180)
-0.218***
(0.0266)
-0.0222
(0.0235)
0.0258
(0.0372)
-0.0326
(0.0373)
0.0476
(0.0672)
0.0117
(0.0253)
-0.210***
(0.0663)
0.0169
(0.0303)
-0.0609**
(0.0284)
0.0122
(0.0299)
-0.0372
(0.0515)
-2.542
(2.633)
6,549
0.203
6,549
0.215
出産時父年齢
出産時父年齢^2/100
出産時母年齢
出産時母年齢^2/100
父正規雇用ダミー
父無職ダミー
母正規雇用ダミー
母無職ダミー
父大卒ダミー
母大卒ダミー
定数
観測数
決定係数
()内はロバスト標準誤差
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
19
まず上記の回帰結果から、結婚ダミーに対して統計的に有意となった説明変
数を記載しよう。
男性では、初職正規雇用ダミー、ln 身長 mm、肥満値、羸痩値、年齢、出産時
母年齢、出産時母年齢^2/100、母正規雇用ダミーに有意性が認められる。また女
性では、初職正規雇用ダミー、大卒ダミー、15 歳時家庭の雰囲気良ダミー、年
齢、年齢^2/100、父無職ダミー、母無職ダミーに有意性が認められる。
では、これらの結果をもとに考察を進める。
第一節 仮説検証
まず本節にて、第二章で提唱した5つの仮説の検証を行う。
仮説① 正規雇用の者は結婚確率が高い
男女ともに、初職正規雇用ダミーに正の相関がみられる。男性、女性両方にお
いて、正規雇用であることが結婚確率を高めている。事実、国立社会保障・人口
問題研究所(2012)では、男性も女性も、未婚者が結婚相手に求める条件として経
済力と職業を考慮している。特に、女性においては重視する割合が非常に高い。
ここからも正規雇用の重要性が感じられる。
故に、この仮説は正しいと考えられる。
20
仮説② 高学歴であることは結婚確率に影響を与えない
女性においてのみ、大卒ダミーに負の相関がみられる。大卒ダミーが男性に
おいて相関がみられなかったことは予想と一致するが、女性において負の相関
がみられたことは、白波瀬(1999)の説に反している。この結果が導かれたこと
に対して、解釈がいくつか考えられる。男性の回帰結果では大卒ダミーは有意
となってはいないが、モデル A、モデル B ともに係数がマイナスの値として出
ている。このことから、サンプルの年齢の偏りが女性の負の相関の原因である
と考えることができる。Tsuya&Mason(1995)が述べるとおり、高学歴化が結婚
の遅延の原因となるならば、年齢の偏りから未婚者が多くなっているため、マ
イナスの値が出た可能性がある。この考えであれば、白波瀬(1999)の主張と矛
盾しない。
故に、この仮説が正しい可能性を否定することはできない。
仮説③ 長男長女は結婚確率が低い
男女ともに、長男ダミー・長女ダミーに相関はみられない。つまり、長男・長
女という属性は結婚の障害とならないことを意味している。確かに、原(1991)は
晩婚化と婚姻率の低下の原因として、長男長女比率の上昇のほかにも、少子家族
化による影響と、出生コホートの規模縮小による年齢別人口比率や性比のアン
21
バランスによる可能性をあげている。したがって、長男・長女が結婚確率を低下
させることはないと結論づけて問題ないだろう。
故に、この仮説は誤りと考えられる。
仮説④ 容姿が優れている者は結婚確率が高い
男性においてのみ、ln 身長 mm に正の相関、肥満値・羸痩値に負の相関がみ
られる。つまり、身長の高い容姿の優れた男性の結婚確率は上昇し、肥満・羸痩
の容姿の劣った男性の結婚確率は減少することを意味している。したがって、男
性においては容姿が優れている者の結婚確率は高いと結論づけていいだろう。
故に、この仮説は男性においては正しいと考えられる。
ここで、女性において ln 身長 mm・肥満値・羸痩値すべてに相関がみられな
かった理由について考察してみる。ハマーメッシュ(2015)によれば、女性の容姿
には結婚相手の収入との相関は存在するが、結婚の可能性は統計的には違わな
いとしている。この結果はハマーメッシュ(2015)の考えを支持している。
しかし、国立社会保障・人口問題研究所(2012)より、男性が女性以上に結婚
相手の条件として容姿を特別視している以上、女性の容姿の代理変数に何かし
らの相関がみられないのは不合理ともいえる。このことを考慮するならば、男性
は結婚相手の条件として、体型ではなく顔を重視しているという仮説を考えら
22
れる。つまり、女性においては顔の優れた者の結婚確率が高まっている可能性が
ある。
仮説⑤ 成育家庭の雰囲気が良い者は結婚確率が高い
女性においてのみ、15 歳時家庭の雰囲気良ダミーに正の相関がみられる。つ
まり、成育家庭の雰囲気が良い女性は結婚確率が上昇することを意味する。
故に、この仮説は女性においては正しいと考えられる。
第二節 その他説明変数の解釈
・年齢、年齢^2/100
男女ともに、年齢と正の相関がみられる。しかし、男性と女性がともに年齢
が上がるにしたがって結婚確率が上昇すると考えることは早計であるだろう。
晩婚化の影響も考えられるが、年齢が高い人間ほど結婚している人間が多いの
であるから、この結果は当然の帰結であるためである。故に、ここで着目すべ
き点は、年齢^2/100 についてである。
年齢^2/100 に関して、男性においては相関がみられない一方、女性において
は負の相関がみられるのである。これが意味するところは、男性は高齢になっ
ても結婚確率に影響はないが、女性は高齢になると結婚確率が減少していくと
23
いうことである。女性にとっておおよそ 40 歳が結婚のピークであり、40 歳を
超えると結婚が難しくなっていく。女性の結婚行動には時間の限りがあること
が示唆されているのである。
・出産時母年齢
男性において、出産時母年齢と正の相関がみられる。誕生時の母の年齢が高
いほど結婚確率が高まるとするならば、その解釈には困難がある。
出産時母年齢が高いことは、母が高学歴であることと相関があると考えられ
る。さらに、母が高学歴であるならば、成育家庭の雰囲気も良いと考えられ
る。これより、成育家庭の雰囲気が良いことによる効果が反映された結果、仮
定⑤の通りに出産時母年齢に正の相関がみられるようになり、同時に、15 歳時
家庭の雰囲気良ダミーの相関が見えなくなったと考えられる。しかし、本人の
属性のみをコントロールしたモデル A においても 15 歳時家庭の雰囲気良ダミ
ーの相関はみられない。そのため、この解釈が正しいのかは疑問が残る。
早く結婚して孫の顔を母に見せてやりたいという息子の感情が反映された結
果であると考えたほうが直感的には妥当かもしれない。
24
・母正規雇用ダミー
男性において、母正規雇用ダミーと正の相関がみられる。15 歳時の母が正社
員であることに男性のみ相関がみられることから、1 つの仮説が浮上する。
人間の規範が成育家庭で決定されるならば、15 歳時に男性の母が正社員とし
て働いていた場合、男性が妻として迎える女性に対して正社員という属性を求
める可能性が高い。つまり、前述した結婚確率の高い正社員の女性と、母が正
社員であった男性の嗜好と合致した結果、母正規雇用ダミーに正の相関がみら
れたと考えられる。
・父無職ダミー、母無職ダミー
女性において、父無職ダミーと母無職ダミーに負の相関がみられる。父、母
が無職ならば結婚確率が減少することの解釈には議論の必要性を感じる。
15 歳時家庭の雰囲気良ダミーによって成育家庭の雰囲気がコントロールされ
ているため、父、母が無職でいることによる家庭内の雰囲気への影響は考慮し
なくて良い。そのため、家計の面で考えることが妥当である。
男性と比較して女性の所得は低いため、女性が市場で活動するには両親から
の金銭面の援助を必要とする場合がある。しかし、15 歳時に父、母が無職の家
庭では世帯の所得が不十分であった可能性があり、金銭面での援助を受けるこ
25
とができないと予想される。そのため、女性の市場での活動が制約を受け、結
婚行動に移行することができなかったと考えられる。それ故に、女性において
は父無職ダミーと母無職ダミーに負の相関があらわれたのだと推測する。
26
第四章 結論
本稿では、結婚の決定要因とはなにか、重回帰分析によって明らかにしよう
と試みた。その結果、「雇用形態」、「容姿」、「成育家庭の雰囲気」が結婚行動
と相関があることがわかった。男性であれば、「初職が正規雇用である」、「身
長が高い」者ほど結婚の確率が高くなる。女性であれば、「初職が正規雇用で
ある」、「成育家庭の雰囲気が良い」者ほど結婚の確率が高くなる。
以上の結論を得たが、特筆すべきは、男女ともに「初職が正規雇用である」
ことが結婚確率を高めることである。この事実にこそ、現代日本の未婚化・晩
婚化問題を解決する糸口があると睨んでいる。
総務省統計局による労働力調査(2015 年7~9月期)によれば、非正規の職
員・従業員のうち、現職の雇用形態についた主な理由を「正規の職員・従業員
の仕事がないから」とした者がかなりの割合で存在している。男性の非正規の
職員・従業員では 633 万人のうちの 158 万人(27.2%)、女性の非正規の職員・
従業員では 1339 万人のうちの 157 万人(12.4%)が、正規雇用を望んでいる
にも関わらず、非正規雇用で働くことを強いられている。このような労働者の
存在が、昨今の日本の婚姻率の低下を招いているのである。結婚する意志をも
つ未婚者は 9 割弱存在している4にも関わらず、婚姻率が低いままであるのは、
国立社会保障・人口問題研究所
4
第 14 回出生動向基本調査
27
非正規雇用を強いる日本企業にその責任があるのではないだろうか。目先の利
益に捕らわれ、非正社員を使いつぶす日本企業は、現状を省みる必要があるだ
ろう。
未婚化・晩婚化の現実から逃避し、少子化問題を無視し続けるなら、近い将
来日本には未曽有の危機が訪れるだろう。その破滅の未来を回避するため、日
本企業には自らの首を絞めることになっても、国民の正規雇用化に尽力しても
らいたい。その自己犠牲が日本の国益を支え、いずれは自身の利益として還元
されるはずである。
私はここに、日本の明るい未来のため、日本企業に非正社員を正規雇用化す
ることを進言する。
28
謝辞
本稿を執筆するにあたり、2年間に渡りご指導下さった川口大司教授に心より
御礼申し上げます。また、ともに教授のもとで学び、論文政策にご助力下さっ
たゼミ生の皆様にも深く感謝致したく存じます。長い間お世話になり、誠にあ
りがとうございました。
併せて、本稿の執筆にあたり、参考にさせていただいた論文、著書の先生方、
並びにデータセットの提供をして下さりました東京大学社会科学研究所・東京
大学社会科学研究所パネル調査プロジェクトの関係者の皆さまに、感謝の言葉
を述べるとともに、益々のご発展をお祈り申し上げます。
29
参考文献
•
永瀬伸子(2002)「若年層の雇用の非正規化と結婚行動」,
『少子化に関
する家族・労働政策の影響と少子化の見通しに関する研究』,58(2),p22-35,
国立社会保障・人口問題研究所
•
阿藤誠(1997)「日本の超少産化現象と価値観変動仮説」『
, 人口問題研究』
53(1),p3-20
•
白波瀬佐和子(1999)
「女性の高学歴化と少子化に関する一考察」,『季刊
社会保障研究』 34(4), 392-401,国立社会保障・人口問題研究所
•
Tsuya, O. Noriko and Karen Oppenheim Mason(1995). “Changing
Gender Roles and Below Replacement Fertility in Japan” in Gender and
Family Change in Industrialized Countries, edited by Karen Oppenheim
Mason and An Magritt Jensen, pp.139-67
•
原俊彦(1991)
「長男長女比率の変化と晩婚化についての考察」,『北海道
東海大学紀要. 人文社会科学系』 4, 27-40, 北海道東海大学
•
国立社会保障・人口問題研究所(2012)
「わが国独身層の結婚観と家族観」,
『平成 22 年 第 14 回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)
第Ⅱ報告書』
30
•
齋藤幸子,星山佳治,宮原忍 (2004)「少子社会における次世代育成力に関
する調査」,『保健医療科学』53(3), 218-227, 国立保健医療科学院
•
ダニエル・S・ハマーメッシュ(2015)「美貌格差
生まれつき不平等の経
済学」望月衛訳,東洋経済新報社
•
総務省統計局
労働力調査(詳細集計)平成 27 年(2015 年)7~9 月期
平均(速報)結果の概要
URL:http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/dt/
31
付表1
使用データ
寄託者:東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト
調査名:東大社研・若年パネル調査(JLPS-Y)wave1-6,2007-2012
東大社研・壮年パネル調査(JLPS-M)wave1-6,2007-2012
調査対象:日本全国に居住する 20~40 歳の男女(2006 年 12 月時点)
データ数:継続調査
継続調査
回収数:2,121 回収率:79%(JLPS-Y)
回収数:1,058 回収率:88%(JLPS-M)
調査時点:2012 年 1~3 月(wave6)
調査地域:全国
標本抽出:層化 2 段無作為抽出
地域(10 地域)と都市規模(4 類型)の 2 層により層化(271 地点)
さらに性別・年齢別(5 歳間隔)に層化
抽出台帳は,住民基本台帳を基本とし,住民基本台帳の閲覧が不許
可になった地点では,選挙人名簿を使用
調査方法:継続調査:調査票による郵送配布,訪問回収法
32
付表2
変数
記述統計量
男性
女性
本人の属性
結婚ダミー
初職正規雇用ダミー
大卒ダミー
長男ダミー
0.616
0.687
(0.487)
(0.464)
0.819
0.780
(0.385)
(0.414)
0.466
0.273
(0.499)
(0.445)
0.718
(0.450)
長女ダミー
0.476
(0.499)
Ln 身長 mm
肥満値
羸痩値
15 歳時家庭の雰囲気良ダミー
年齢
7.446
7.366
(0.034)
(0.034)
2.033
0.755
(2.647)
(1.909)
0.643
1.841
(1.152)
(1.595)
0.356
0.391
(0.479)
(0.488)
34.283
34.120
(5.383)
(5.614)
両親の属性
出産時父年齢
出産時母年齢
父正規雇用ダミー
父無職ダミー
母正規雇用ダミー
母無職ダミー
父大卒ダミー
母大卒ダミー
観測数
30.356
30.482
(4.227)
(4.259)
27.515
27.507
(3.752)
(3.625)
0.704
0.688
(0.456)
(0.464)
0.005
0.001
(0.070)
(0.030)
0.172
0.186
(0.378)
(0.389)
0.266
0.277
(0.442)
(0.448)
0.265
0.267
(0.441)
(0.442)
0.068
0.067
(0.251)
(0.249)
4,919
6,549
男女別平均値、()内は標準誤差
33
34
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