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2001 particle Accelerator Conference・・・・・庄司善彦
放射光 第巻第号 () 研究会報告 2001 Particle Accelerator Conference 庄司 善彦 (姫路工業大学高度産業科学技術研究所) 2001 年 6 月 18 日から 22 日までの 5 日間, Particle Ac- これは放射光等でたたき出された電子が陽電子ビームのポ celerator Conference(通称 PAC)がシカゴ市で開催され テンシャルにトラップされ,最終的に陽電子ビームのサイ ました。今回のホストは Argonne National Laboratory, ズが広がる現象です。真空チェンバー内に弱いソレノイド Fermi National Accelerator Laboratory と OakRidge Na- 磁場を作り,光電子がビームに近付くのを抑制したのが効 tional 果的でした。放射光リングでは陽電子ビームを扱う APS Laboratory で,会場はシカゴ市中心部のホテル Hyatt Regency Chicago でした。 で観測されています。 PAC は加速器に関する国際会議では最大規模で, 2 年 3 番目は線形加速器を用いた X 線 FEL の話題でした。 に 1 回開かれています。 PAC に準ずる規模を持ち,やは Self-Ampliˆed Spontaneous Emission,略して SASE は, り 2 年に 1 回開かれる EPAC (European Particle Acceler- 第 4 世代放射光源としての評価が固まりつつある様子で Conference) と対になり,大きな会議が毎年開かれ す。この分野の技術の進展は目覚ましく,今回のトピック る仕組みです。参加者は 1000 人を越え,口頭発表が 221 ation ス の 一 つ で し た 。 FEL 発 振 の 短 波 長 化 は 更 に 進 み , 件,ポスター発表は 2500 件を越えました。オーラルセッ DESY の TESLA FEL では 104 程度の FEL ゲインで 80 ~ ションは 2 会場または 3 会場のパラレルセッションで, 180 nm の範囲がチューナブルでした。更に Argonne と 更に300件程度を 1 会場に集めたポスターセッションが同 BNL の両施設では電子バンチがアンジュレーター内を進 時に開かれました。 むに従って放射光パワーが増大し,サチュレーションに至 プロシーディングズは電子化されており,投稿論文をイ っていることを実測で示しました。マイクロバンチの観測 ンターネット上で閲覧できます。ホームページは http: // などの診断技術も進歩し,SASE の発振プロセスが実験的 pac2001.aps.anl.gov です。主催者からのメールによれば に確認されつつあります。現在も数 ns からオングスト 98が正常にサブミットされているとの事です。 ロームまでの波長領域をねらった装置が次々と建設または 会議の基調講演とも言える opening plenary session の講 演は以下の 4 件でした。 提案中です。まだ様々な課題が残されていますが, X 線 FEL の実用化は遠くないように思えました。 4 番目は,spallation neutron source (SNS) の計画でし S. Ozaki, BNL RHIC Commissioning and First Results. た 。 こ れ は 大 強 度 中 性 子 を 発 生 さ せ る 加 速 器 を Oak S. Kurokawa, KEK Ridge に建設し,中性子散乱実験に用いる計画です。 1.4 B-Factory Commissioning and First Results. B$ の予算で1999年に建設を開始しており,2006年に完成 J. Rossbach, DESY 予定です。加速器部分は 1 GeV の大強度陽子線形加速器 New Development on Free Electron Lasers based と周長248 m のストレッチャーリングから成ります。パル on Self-Ampliˆed Spontaneous Emission. ス当り 1.5 × 1014 の H- を 60 Hz で Hg ターゲットに当て T. E. Mason, SNS (Spallation Neutron Source) てパルス中性子を作ります。チャレンジングで意義の大き The Spallation Neutron Source: A Powerful Tool for い計画だと思いますが,印象に残ったのはその宣伝活動で Materials Research. した。会場のロビーには SNS 建設地のリアルタイム映像 最初は RHIC (Relativistic Heavy Ion Collider) の調整が を流し続けるインターネット端末があり,またカラフルな 順調に進んでいるという報告でした。原子核分野では最大 ロゴ入りの栓抜き(らしい)が用意される,といった調子 のプロジェクトですが,放射光とは関係ありません。 でした。 2 番目は KEK と SLAC の両 B-Factory の状況報告でし 約 20 件あるオーラルセッションのテーマは前回の会議 た。B-Factory はエネルギーの異なる電子と陽電子を衝突 とほぼ同じでしたが,今回新規に加わったのは,先に述べ させる衝突型リング加速器です。KEK は SLAC に遅れを た「Two-stream instability」と「Secondary Beam Facili- 取っていましたが,世界最高ルミノシティーを達成して ty」でした。伝統的な素粒子実験は高エネルギーに加速さ SLAC に追い付きました。ルミノシティー劣化の主要な原 れた粒子が起こす素粒子反応の観測ですが,「 Secondary 因は「electron cloud (two-stream instability)」でした。 Beam Facility」で扱う装置は最初の反応自体には興味が ― ― (C) 2001 The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research 放射光 第巻第号 ( ) なく,2 次粒子の利用を目的とする施設です。具体的には だ,加速器研究という点から見ると性能的にも技術的にも SNS の中性子,ミューオンコライダーやニュートリノ生 特に目新しい点が無く,「チャレンジングな点はどこか」 成に使うミュー粒子です。 といった質問には苦笑いするしかありません。蓄積リング 「Light Sources and FEL」という oral session の発表は 12件でした。招待講演は, しいようです。 DIAMOND は電子エネルギー 3.0 GeV に対して周長が S. Chattopadhyey, LBL The Frontier of Ultrashort Pulse Technique: Prob- 大きい( 500 m )点が特徴です。電子エネルギー 2.9 GeV ing the Quantum Limit of Rapidity の CLS の周長が 170 m であるのに比べると約 3 倍です。 M. de Jong, CLS エミッタンスは 2 nm まで下げることができますが,どう Overview of New Light Sources してもビーム寿命が短くなるので,トップアップ運転も考 S. Milton, ANL 慮しているようです。完成予定は 2006 年ですが,リング Measurements of Exponential Gain and Saturation のデザインも完全には決定していないようです。 of SASE at the APS LEUTL ERL は JeŠerson Lab. で稼働中ですが,数カ所で次期 P. Emma, Univ. of Wisconsin 計画として検討されていました。全体は細長いリングの 1 つの長辺に超伝導線形加速器が設置された形です。線形加 Issues and R & D Critical to the LCLS の 4 件で,他の口頭発表は以下の 8 件でした。 の技術は着実に進歩していますが,画期的なアイデアは難 速器で加速された電子は FEL 等に利用され,再び線形加 A. Streun. PSI 速器に戻りますが,2 回目は減速位相で電子ビームのエネ Commissioning of the Swiss Light Source. ルギーを回収します。同じ電子はリングを 1 度通過する M. Poole, Daresbury Lab. だけなので蓄積リングではありません。主は線形加速器を The DIAMOND Project; An advanced Light Source 使った FEL ですが,偏向部をバンチ圧縮に使うと同時 for the UK. に,偏向電磁石からの放射光を望むユーザーの為のビーム M. Tigner, Cornel Univ. ラインを設置できます。 The Energy Recovery Linac (ERL) as a Driver for 放射光関連の口頭発表は「Light Sources and FEL」に X-ray Producing Insertion Devices. 限りませんでしたが,やはり線形加速器 FEL が目立つ印 R. Rossmanth, Karlsruhe 象でした。 ポスターではサブピコ秒バンチの測定はトピックスでも A Superconductive Small Period Undulator: Concept and Test Result. あり, X. Wang が提案した「 beam streaking 」が実現し T. Shaftan, BNL ていることが目を引きました。測定したい電子バンチを線 High-Gain 形加速器のゼロ位相(中心は加速も減速もなく,加速勾配 harmonic Generation Free-Electron Laser at Saturation だけが存在)で通して時間差をエネルギー差に変換しま S. Bensson, JeŠerson Lab. す。更に偏向磁石で分散を作り,エネルギー差を位置に変 A 10 kW IRFEL Design for JeŠerson Lab. え,それを scintillating screen 等で観測します。時間分解 J. Carke, Daresbury Lab. 能は元々の電子ビームのエネルギー広がりとビームザイズ Prospects for a 4th Generation Light Source for the に依存しますが, BNL の DUVFEL では最高 8 fs を出し UK. ています。 IRFEL でバンチ圧縮によりマイクロバンチが P D. Hartog, ANL 生成される様子がはっきり観測されました。バンチ圧縮を Design and Manufacture of a Prototype Undulator 最大にした状態では FWHM = 50 fs のマイクロバンチが for the LCLS Project. 140 fs 間隔できれいに並んでいるのが見え,驚異的な時間 略称を説明しますと, 2 番の講演者の所属 CLS は,現在 分解能は本当のようです。 2.9 GeV 蓄積リングを建設中の Canadian Light Source で す 。 3 番 目 の 講 演 の LEUTL は Low-Energy Undulator 蓄積リングでは APS が top-up 運転に取り組み,昨年 6 月から 1 年間で 4 週間分が top-up 運転であったそうです。 Test Line の略。4 番目と12番目の LCLS は Linac Coher- 2 分 間に 1 回 の定期 入射 で蓄 積電 流は 102 mA + 0.2 mA ent Light Source の略で,SLAC にある X 線 FEL です。 (ほぼ全幅)に保たれました。入射時には軌道のミスマッ 放射光蓄積リング関係の口頭発表は少なく, SPring-8, チが起こり,電子軌道が揺れるので放射光ユーザーは時間 ALS, ESRF といった大型施設の facility status も全てポ ゲートをかけます。入射周期は厳格に守られますが,入射 スターセッションに入りました。 5 番目の講演の Swiss の数秒前に警告信号を出します。全ての挿入光源にチェレ Light ンコフモニターを設置して入射時のビーム損失をモニター Source は2.4 GeV の第 3 世代リングです。2000年 12 月にリングへの電子ビーム入射を開始してから順調に しており,入射効率は99と言っていました。 立ち上がり,6 ヶ月後には 400 mA を蓄積しています。た ――