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長崎県の長崎港外で引き揚げられた沈没船関連的陣の
長崎県の長崎港外で引き揚げられた沈没船関連的陣の放射性炭素年代 中村 俊夫 1・江波 大樹 1・前田 卓郎 2・山田 哲也 3 1)名古屋大学年代測定総合研究センタ2)pn ) 南蛮船調査保存研究会 3) ( 財団法人)元興寺文化財研究所保存科学センター ( 連絡先 :糾血 l na k am叫 砂l 飢d d. n 喝O ya・u.aC . j p; Pho 聡: 0 5 2 7 8 9 1 3 0 8 2 ) 1.はじめに 近年,放紺 生炭素( 1 4 C) 年代測 定法は,加速器質量分析 ( AMS: a c c e l emt c wmu s sg eCbT C me h y)技術 の急発展にともなって,ごく少量の資料を用いて,高精度の年代測定を可能にした ( 中村 ,1 9 9 9 ). このため,歴史時代の資料に適用 される機会が増え,また,得 られた 1 4 C年代は資料の暦年代 と比 4 C残存量 ( 1 4 C濃度)から算出される 1 4 C年代は,そのままでは資 較 される. しか し,資料中の 1 4 C年代は,暦年代に対 して歪みを 料の暦年代 とは比較できない.幾つかの仮定の元に算出される 1 持つことが知 られてお り,年輪年代が確定 された樹木年輪について測定された 1 4 C年代のデータセ ッ トを用いて,1 4 C年代か ら暦年代-換算 される.すなわち,現在使われている m CAL9 8d at as et ( 1 4 C年代一暦年代較正データセ ット,St u i v e r e t d ,1 9 9 8 )である. AMSにより,ほぼ定常的に 1 4 C年代測定が可能 となった資料の一つが古代の鉄関連資料である ( 中村,2 0 0 3 ).金属鉄の炭素含有率が 0 . 1 %と低 くても,2 g程度の鉄には 2 mgの炭素が含まれて 4 C年代測定には,十分な量である.古代の鉄の生産は,砂鉄や鉄鉱石を木炭 いる.AMSによる 1 を用いて遼元することで行われた.古代の鉄には,この木炭起源の炭素が残留 してお り,鉄資料か ら炭素を抽出 し年代測倉することで,製鉄の燃料に用いられた木炭の原料 となる樹木の平均的な生 育年代が得 られる.樹齢が数十年程度の樹木が用い られるとすれば,また木炭は焼いたあと直ちに 用い られるとすれば,鉄に含まれる炭素の 1 4 C年代は,数十年の誤差範囲で製鉄年代を示す と考え て良いであろ う. 今回,AMS法による 1 4 C年代測定を長崎市の沈没船の年代を推定するために行った.長崎県長 崎市の長崎港海底には,幾つかの沈没船が眠っているとされる.その中で,江戸時代初期に長崎港 外で沈没したとされるポル トガル商船 「 マ- ドレ ・デ ・デ ウス号」を確羅するための作業が長崎市 の非営利組織 ( NPO)「 南蛮船調査陳存研究会」 ( 前田,2 0 0 3 )により進められている.同船は 1 6 0 9 午 ( 慶長 1 4年)に,長崎港外で沈没 したとされる.2 0 0 2年 4月に,マ- ドレ ・デ ・デ クス号 と思 われる沈没船の一部が引き揚げ られ,同船で使われていた麻製のロープ,鉄製クギ及び鉄製のボル トについて,名古屋大学年代測定総合研究センターに設置 されているタンデ トロン加速辞質量分析 4 C年代測定を実施 した.その結果を報告する. 計を用いて 1 2.年代馳走秤 ト と棚 NPO南蛮船調査保存研究会による,2 02年 4月の長崎港外の海底調査において,水深 40 mか ら 4 3 m の海域で,貝殻混じりの軟泥からなる堆積物層の中か ら木製の船体の一部が引き揚げられた. 船体を構成する木製のキール ( 船の竜骨),フレーム,外板などの組み立てに鉄製のボル ト,ナ ッ -1 9 1- ト及びクギ ( 写真 1)が用いられていた.ボル トの長 さは 2 1 0r r m,外径は 1 5 r r m で,右ネジ ( 時 計回 りに回すとネジが締まる)が切ってある.ボル トの頭は,外径 30r r m で高さが 7r r m 軽度の半 球状をなし,厚 さ2r r m で外径 3 0r r m 程度の鉄製ワッシャ状が付いていた.対となるナ ットは六角 ナ ットであり,対角線の長 さが 3 h m,厚 さが 1 2 r r m であった.六角ナ ットの片面は平らで,反対 の面を 滴 やかに面取 りがしてあ り,形状は,現在使われているナ ッ トと変わ りないように見えた. 鉄クギは,長 さがほぼ 1 3 0r r m で,断面は正方形をなし∵辺の長 さは 執nm である.クギの頭は, ボル トと同様の形状であるがやや小振 りで,外径は 2 5 m である.ボル トおよびクギの中には, 麻のロープが巻かれているものがあり,これ も併せて 1 4 C 年代測定用に採取した. 上)およびボル トとナ ット ( 下) 写真 1 沈没船から採取されたクギ ( 錆びているだけではなく,ボル トには,貝類が付着 した痕跡が見 られる このように本研究で 1 4 C 年代測定に用いた沈没船関連試料は,鉄クギ,鉄ボル トの原料となる鉄 の製鉄に用いられた燃料の炭素,及び麻の繊維である.鉄製品の年代測定は,鉄製品の原料となる 金属鉄が製鉄により造 られる際に,燃料となる木炭由来の炭素の一部が鉄中に残留することに基づ く.すなわち,鉄製品中の炭素を回収 し,その 1 4 C 年代測定を行 うことは,燃料に用いられる木炭 の1 4 C 年代を測定することに他ならない ( 中村,200 3). クギ及びボル トの 1本ずつから採取 した麻の繊椎を蒸留水に浸 して超音波洗浄 して汚れを取 り除 いたあと,試料が海底泥に埋まっていた間に付着した可能性のある,有機態や無機態の炭素含有物 からなる不純物を除去するための化学処理を行った.まず鋳掛を,ビーカーに蒸留水 と共に入れて 9 0 ℃で加熱処理 した.次に,1 . 2規定塩酸で f X ) ℃で 2時間の処理を 2回行い炭酸塩等を溶解除去し た.さらに,0 . 6規定水酸化ナ トリウム水溶液を用いて ! X ) ℃で数時間処理 してフミン酸などを溶解 除去した.このアルカ リ処理を 2回繰 り返 した.さらに,I . 2規定塩酸で 9 0 ℃で 2時間の処理を 2 回行い,蒸留水でよく洗浄 して塩酸を完全に取 り除いたあと乾燥 した.外径 9Ⅱ 皿 のバイコール管 に,約 5 0伽 喝 の線状酸化銅 と共に約 8 mgの乾燥 した繊維試料を入れ,真空ラインに接続 して排気 -1 9 2- したあと封管 した.これを電気炉内で 咲) 0 ℃にて約 2時間加熱 して,試料中の炭素を燃焼 して二酸 化炭素に変えた.真空ライン中で,液体窒素 ( I 鮪℃)およびエタノール と液体窒素の混合物 ( 約 1 0℃)を寒剤 として用いて水分などの不純物を除去してコ 竣化炭素を精製した.回収 された二酸 化炭素の量は炭素にしてほぼ 3 . 5 -4 mgであり,鞄鮮 料か らの炭素収率は重量比で 4 3-4 4%であ った.これ古 瀬 物質試料に対 して通常得 られる炭素収率 とほぼ一致 する. 一方,鉄試料については,表面に付着 したサビなど不純物を除去するために,グラインダーを用 いて試料表面を削 り,さらに数 r r m 角の小片に分割 した.その後,1 . 2規定の水酸化ナ トリウム, 塩酸水溶液及び最後に蒸留水を用いて洗浄 した.クギ及びボル トにつき,鉄小片をそれぞれ 2 . 5 0 g 及び 2 . 1 9 gを分取 し,高純度鉄の助燃剤 ( L ECO・ 5 0 2 2 31 ,h i hp g u d yi r o nd*, LECO社艶 4pp m) とともに磁器製のるつぼに入れ電気炉内で 5 0 0 ℃にて加熱 し,混入している可雛 のある有牌物を 0 0 ℃のまま素速 く取 り出し,LECO社製の高周波燃卿 除去 した.次に,それを 5 F1 0 , LECO社 鞄 の反応管内にセ ッ トした.燃焼系 ・炊 暁ガス回収系内に残留する空気を排気 し,真空系内の真 空度がよくなった ら,超高純度の酸素ガス ( CO≦0. 1 pp m, CO2 ≦0 . 1 pp m, T HC≦0. 1 p p m)を 2 仙 血 I l の流速で導入しつつ周波燃焼炉のコイルに通電 して試料を約 4分間高周波加熱を行った.燃焼ガス は,二酸化マンガンによる脱硫 さらに 5 0 0 ℃に加熱 された酸化銅により炭素化合物を完全に Cq に 酸化 して,液体窒素で冷却 された トラップに集めた.燃焼が完了したら, トラップを液体窒素で冷 却 し,燃焼ガスをきわめてゆっくりと排気 した.こうして,燃焼ガス中の水分や C02は, トラッ プに捕集されるが,未反応の酸素は全て排気される. トラップには,C C hと H20 が捕集されてい るが,微量の二酸化硫黄が含まれている可能性がある.エタノール と液体窒素の混合物 ( ほぼ- 1 0 0 ℃),ノルマルペンタンが固体から液体に変わる温度 〔1 31 ℃),および液体窒素 ( 1 %℃)の 3種類の冷媒 トラップを用いて,水分,コ 財 ヒ硫黄を分離 して純粋な c c hに精製した.燃焼に用 いた鉄の重量 2 . 5 0 g及び 2 . 1 9 gに対 して,回収 されたコ 財 ヒ炭素は,炭素に換算してそれぞれ 1 . 7 mg 及び 1 . 3 4 喝 であった.回収効率を 8 0 %とすると,鉄の炭素含有率は 0 . 0 8 %∼0. 0 9 %と,きわめて 低い. 回収 された二酸化炭素の一部 ( 炭素にしてほぼ 1 . 5 mg)について,約 3 mgの鉄粉末を触媒とし て水素で還元してグラファイ トを得た.次に,グラファイ トを乾燥 したのちアル ミニウム製の試料 ホルダーに圧入し, 検査鉾料としてタンデ トロン加速辞質量餅粁計 2号機のイオン源に装填した ( 中 01 ). 秤,2 1 4 C年代測定に際して 1 4 C濃度の比較測定に用い られる標準体としては,米国国立標準技術酢死 所 ( NI S T)から提供されているシュウ酸 ( MS TS RM499 0 C,HM )を用いた ( 中村,2 0 01 ).シ ュウ酸標準件の約 7喝 を約 5 0 mgの絶 勝 ヒ 銅 と共にパイレックス管に入れて排気 したあと封 0 0 ℃にて 2時間加熱することによって完全に燃焼してコ 財 ヒ炭素を得た.次に真空ライン 管 し,5 1 9 6 ℃)およびエタノール と液体窒素の混合物 ( 1 0℃)を寒剤として用いて二 中で,液体窒素 ( 酸化炭素を精製 したあと,グラファイ トに還元し,これをアル ミニウム製の試料ホルダーに圧入 し て1 4 C年代測定のための 1 4 C濃度標準体として用いた. 3.加速弼 牢量分析計による 1 4 C年 代珊定 と暦年-の較正 上述のように して,麻の繊維及び鉄の試料およびシュウ酸標準体から調製 したグラファイ トに 4 C年代測定を行った.タンデ トロ ついて,名古屋大学のタンデ トロン加速器質量分析計を用いて 1 ン分析計では,1 4 Cと 1 2 Cの存在比 ( 1 4 c y 1 2 C比(-R))が,未知鋳掛 亀 叫 ) と1 4 C濃度が既知の標 -1 9 3- 準体 ( Rm 1 9 知)とについて同一の条件のもとに測定され,恥 1 9 9比が得 られる・また,タン デ トロン分析計では炭素安定同位体比 1 3 α1 2 Cも同時に測定 される.「般に,炭素安定同位体比は, 試料 とp e cD飴Be l d t ePDB) 標準体の 1 3 C / 1 2 C比の偏差として, 61 3 cr DB( %)-[ ( 1 3 cy 1 2 C) wd( 1 3 cy 1 2 C) 耽 -1 . 0]Ⅹ1 000 で定義 される. Rw vkmt AD1 9 , ,比について,同時に測定された 61 3 cmBを用いて炭素同位僻 滴り の補正を行ったの 4 C年代値 ( 血 ち,試料の 1 1 4 C喝e :同位体分別補正 1 4 C年代)を算出した 仲 札 2001 ). 1 4 C の半減期としては,国際的な僚例に従って,L i b t yの半減期 5568年を用いた.1 4 C 年代値は, 西暦 1 950年から遡った年数 として与えられる.誤差は o nedgr r n ( ±lo ;l標準撮影 を示 した. 得 られた同位体分別補正 1 4 C年代を,m CAL98 d a t as e tおよび較正プログラム CALB Rev.4. 3 ( S h d ver a ndRe he r ,1 993) を用いて暦年代に較正 した ( 中札 2001). 表 1.長崎港外にて引き揚げられた沈没船から採取 された試料の 1 ℃ 年代測定の結果 試 、試料採取部位 辞 科物質 番号 61 ℃耶 1 ℃a ge 1 ℃ 年 代 の 較 正 暦 年 代 位t ui v e re t測定番号 ( ㌍md) ( BP) a 上段 下段 1 , 1 9 : 9 ±1 : 8 暦 )∼ 0 牢代較正値 . の暦牢代願 わめと お悦 i t y)( NUIA2 ) 沈没船か ら採取された麻 縄 1 沈没船か たボル いた 麻縄 トに付着 ら採取 さ して 麻の繊 推 「 2 3. 4±1 . 0 1 77±26 CdA dAD1 Dl 9 6 7 63 7 佼 9 4 3 6 ト , 1 1 7 9 8 7 ㈱ 7 4 8 0 7 7 5 1 , 1 ( 5 8 1 0 6 5 2. 0 5 0 1 , 1 % 瑚 , 9 a ) 41 , 1 94 6 7 65 2 2 沈没船から採取 たクギに付着 してい た麻縄 され 麻の繊 推 2 3. 9±1 . 0 21 5±26 C (知A dAD1 9 6 7 4 6 7 5 3 4 8 , 1 9 6 7 9 4 7 8 2 9 5, ( 4 5 1 2 7 . 8 8 . 3 8 瑚 6 瑚 %) 7 65 3 鉄製品か ら抽出された炭素の l A C濃度及び 1 4 C年代 試 寧 試料採取地区 番号 3 試料物質 8㌔ 帥 B 1 ℃a ge ( B 1 ℃ 濃度 ● 鉄 長 断面 1辺が クギ さ :1 ほぼ正方形で 8 3 r 0 r m r r m 鉄 抽 秦出 クギか した炭 ら「 27. 6±1 . 0 27, 5 8 0±1 06 0. 03 23±0. 帆 -1 9 4- 判定番号 ( NUTA2 う 760 4.1 4 C年代軸定の績果および考察 麻の繊 脚 料2点の 1 4 C年代は,1 7 7±2 6BP及び 21 5±2 6BPと得 られた ( 表 1). m cAL9 8較 正データセ ットを用いて,この 1 4 C年代を暦年代-較正 した結果を表 1に示す.暦年代は,1 4 C年 代値が,1 4 C年代値・ 暦年代較正曲線 と交わる点の暦年代値,および真の年代が入る可能性が高い暦 年代範囲で示す.また,真の年代が,表示 されたすべての範囲のどれかに入る確率が 6 8 % ( ±1 o)である.年代範囲の後に示 された確率は,6 8 %の うちで,さらに特定の年代範囲に入る確率を 示す.また,得 られた 1 4 C年代を Nr CAL9 8較正データと比較 して図 1に示す.図 1から繊維試料 4 C年代から推定される暦年はAD1 6 6 4以降でAD1 9 4 7までの可能性が得 られた. AD1 6 0 0以降 の1 では,較正曲線に示 されるように,暦年代に対 して 1 4 C年代が 8 0 BPから2 0 0 BPの値の間でジグザ グしている.このため,一つの 1 4 C年代値に対応する暦年範囲が複数個存在することになる.すな わち,1 4 C年代から暦年代の範囲を狭い暦年代範囲に絞 り込むことは不可能となっている. 純 J I I l J 川 i l N T C AL 9 8d a t as e t 棚 川 畑 ( dg)だ牡U 寸L ー 4 c a 9 e: 2 1 5 土2 6B P● : 可I ■ 暮 一 能な一 I 膚 「ー 年代範 ● I t ■囲 ㌔ … ▲ _ ▲▼ ■ ■ , 1: l- 1 4 00 1 5 0 0 1 6 00 1 7 0 帯 ● l ■ ●I I J 一 ; + 1 1 8 0 0 1 900 2( X) 0 較正年代 ( ca暮 AD) 図 1 麻縄の 1 4 C年代とm CAL9 8較正データセッ トの比較 No. 1試 料 ( 1 7 7±2 6BP)及びNo. 2試料 ( 21 5±2 6BP)を示す. 一方,鉄中の炭素について測定した 1 4 C年代は27, 5 8 0±1 0 6BPおよび 9 0 2 6±3 8BPと得 られた. 古代の製鉄は,ヒッタイ ト王国 ( 紀元前 1 8世紀∼紀元前 1 2世紀)においてに始められたとされる. 4 C年代は,古代の製鉄開始年代よりもずっと古い.すなわち,これ らの古い 1 4 C年 今回得 られた 1 代は,これ らの鉄の生産に,石炭 ( 1 4 Cを全く含まない炭素からなる)を利用 したことが示唆 され る.そこで,仮に,今回測定 した鉄クギ及びボル トの製鉄の時期が,麻のロープが作 られた時期 と 4 C濃度 ( 0. 9 7 6P MC)を持つ木炭燃料 と 1 4 Cを全 く含ま 同じであると仮定すれば,麻のロープの 1 ない石炭燃料 ( 1 4 C濃度 :oP MC)を併せて用いたことになる.石炭燃料の寄与の割合を計算する - 1 95 - と,クギでは 9 6 . 7 %,またボル トでは 6 6. 7 %と得 られる.このように,鉄クギや鉄ボル トに含まれ る炭素の大部分が石炭燃料からもたらされていることは間違いない. では,製鉄に石炭あるいは石炭を原料にして造ったコークスが使われるようになったのはいつ頃 か らであろうか.製鉄が大規模になると木炭が不足する.石炭の使用が求められるのは当然である. しかし,石炭には硫黄が含まれてお り,これが生産された鉄索材を悪化 させる原因になる.ヨーロ ッパで高炉が木炭から石炭に切 り換えられたのは 1 3世紀∼1 4世紀頃とされている ( 窪田,1 9 91 ). しかし,この切 り換えは,鉄生産の場所 と生産量に依存 して行われたものと考えられよう.実際, イギリスの産業革命において,石炭から不純物をのぞいたコークスを燃料 とする製鉄法がダービー 親子により開発 されたのは 1 8世紀の始めである.また,コークスによる製鉄法が開発 された後も, コークスと木炭や泥炭が混合 して用いられたとされる. 以上のように,沈没船関連資料の 1 4 C年代測定結果から,沈没船で用いられていた麻のロープは 1 7世紀後半のものであ り,従って,1 61 0年に沈没 したマ- ドレ ・デ ・デ クス号のものである可能 性は低い.また,鉄クギ及び鉄ボル トに含まれる炭素の 1 4 C年代からは,主として石炭由来の炭素 が ( もちろん,木炭燃料も一部使われたことが示唆 されるが)今回の資料鉄の生産に用いられたこ とが示唆 される.このように,鉄クギ及び鉄ボル トが造 られた年代は 1 4 C年代測定から直接決める ことはできない.今後,鉄クギ及び鉄ボル トの材料 となる鉄がどのように生産されたかについて, 冶金学的研究が必要 とされる.また,生産牢が確実な鉄製品を数多く1 4 C年代測定することも重要 な情報を経験することになろ う. 沈没船で使われていた鉄クギや鉄ボル トは,良質の鉄か ら造 られたに違いない.従って,コーク スを燃料とする製鉄法で造 られたとすると,1 7世紀以前に作 られたものとは考えられない.麻の ロープは 1 7世紀後半のものであることを併せて考慮すると,今回引き揚げられた沈没船は,1 61 0 年に沈没したマ- ドレ ・デ ・デ クス号のものではない可雛 が高いと考えられる. 謝辞 本研究の⊥部には,特定額域研究 ( 2)課題番号 :1 5 0 6 8 2 0 6,研究課題名 :中世都市遺跡の電磁気 調査 と1 4 C年代法による編年の研究,研究代表者 :酒井英男を使用した.記 して感謝致 します. 参考文献 窪田蔵郎 ( 1 9 91 )鉄の文明史 雄山聞,p p . 2 6 2. 前田卓郎 eo o 3 )プレ出島の時代一長崎港 口に眠る南蛮船 蜘 3 8 , 7 8 . 中村俊夫 ( 1 9 9 9 )放紺生炭素年代測定法.考古学のための年代測定学入門 ( 長女臥 ,蘇),古今 寄完,p. 1 1 3 6. 中村俊夫 eo ol )放紺蟻 素年代測定とその高精度化 第四紀研究,4 0 ( 6 ) , 4 45 45 9 . 中村俊夫 eo o 3 )古代鉄の放肝性炭素年代測定.中世総合資料学の提唱一中世考古学の現状 と課題, 前川 要編,新人物往来者,p . 1 6 2 1 7 3. s t u i v e r , M. a n dRe i me r , P . J . ( 1 9 9 3 )Exle n d d1 4 cd a bba s ea ndr e is v e dCALB 3 . 01 4 ca g eca h b r a d m PF Qgr m h d' ambon, 3 5 ( 1 ) , 21 5 2 3 0 . t u i ver, 紘, Re i mq, P. J . , Ba吐E. ,Be dsJ . W. ,Bl u, G. S. , Ht de n , KA,KF O mq, B. , Mc Co r ma c , F. G. , V. d . S Pl i dl tJ . , a ndS p u r k, M. ( 1 9 9 8 ) I NT CAL9 8r a d i & ageca li u 皿, 2 4, ( 状) 舶 BP. 1 hh ' qmbon, 4 0 ( 3 11 0 41 1 0 8 3 . -1 9 6- AMS14c Ag e sofAr c he ol ogl C a lRe ma insf r o m aSunk e nAnc i e ntShi p Sa l va ge da tt heMo u t hofNa ga s a kiPor t , Na ga s a kiPr e f e c t ur e Tos hi oNAKAMURA l,Hi r okiENAMl lTa kur oMAEDA2a ndTe t s uyaYAMADA3 1)Ce nt e rf orChr onol og ic a lRes e a r c h, Na goyaUni v er s i t y 2)NPOS∝i e t yf わrRe s e a r cha ndPr es e r va t i ono fAnci e ntPor t ugu es eSh i p 3)Ce nt e rofCons er va t i onSc i en c e,Ga ng ou j iI ns t i t ut ef orRe s e ar c hofCul t ur l Pr a ope r t y Abs t r a c t l ne ar l yEdope r i od( AD 1 61 0) ,aPor t t l gueS eS hi p,Ma dr edeDe us ,wa sa t t a cke dby J a panes es ol di e r sa nds ankbe ne a t ht hes e aa tt hemout ho fNa gas a kipo ,Na ga s a kiCi t y.A rt NPO gr oup,S∝i et yf orRe s e ar c ha ndPr e s er va t i onofAnci e ntPor t ugu es eShi p,i sl ooki ngf ol ・ 0 t hem t os t u dyt hea nc i entwe s t e r ns hi pa ndi t sc a r gosont hehi s t or i c a lvi e wp ol nt S . l nApr i l2 02 , apa r tofa nol ds un ke ns hi pwass a l va ge df r om t hes eaa tt hemout hofNa ga s a kiPor t .The ma t er i a l soft hes hi pr ema insc ol l e c t e df r om t h es e ac ont ai ne dr op e sma deo fhe mp,I r onna i l s a ndi r onbol t s .Si nc et he r ewasnoma t e ia r lt ha tc on f i r mst ha tt hes al va ge ds hi pongl n a t e df r om t hePor t ugues eSh i pt h a twasbe i ngl ooke df わr ,t heNPOgr ouppl a nne dt ome as ur et hea geoft he s hi pbys c i e nt i f i cda t i ng. Thust hes a mpl esofhe mpr op e ,l r Onna i la ndi r onbol twe r ede l i ve r e d t oNa goyaUn i ve r s i t yf orAMS】 4 cda t i ng・ Thet wohe mpr op es a mpl eswe r epr o c e s s e di nar out i neme t ho da ndda t edas1 77士26 BPa nd21 5±26BPi n1 4 ca gea ndAD 1 6881 947a ndAD 1 6653-1 945i nc li a br a t e dc al e n da r a ge・ AtNa goyaUni ve r s l t y ,I r onS a mpl esc a l la l s obeda t e d.Ca r bont ha ti sr e ma l nl ngi nt hei r on ma t er i a l sa f t e rs mel t i ngorr e f i ni ngpr ∝es soft he mc a nbee xt r a c t e dbyus i ngas pe ci a lt ool( a c ombus t i ons ys t e n lOfi r onma t e r i a l sbyaRFhl r na C e) .The1 4 ca gesd' na i la ndb ol ts a mpl es we r eda t e dt obe27, 580+ -1 u BPa nd9026+ -38BP ,r es ec p t i vel y・Thes ea gesa r ef a rol dert ha n t heT l r S tpr d uc t i ono fa r t i f i c i a li r onma t e ial r sb yHi t t i t epe opl ea nds ugge s tt heus a geofc oa li n s mel t i ngI r onma t e r i a lf r om i r onor e. Thee vi de ntus a geofc oa li ns me l t i ngI r onmat er i ali sf r om t heI ndus t ia r l Re vol ut i oni nEngl a nda f t e r1 8th c ent ur y・ Thuswemus ti nv es t l ga t et hehi s t or yof a nc i e nti r onf or ma t i oni nEur op e t oc oncl u det ha tt hes a l va ge ds hi pI SI . e a Hyt hePor t ugu es e Shi p・ -1 97-