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第一回卒論中間発表要旨
第一回卒論中間発表要旨 井手研究室 0012013 小林文彦 テーマ 琵琶湖集水域の貯水能力と湖水中難分解性有機物濃度との関係 ∼水と土壌の接触時間の推移に着目して∼ 背景 近年,琵琶湖北湖(以下,「北湖」と呼ぶ)において, COD(化学的酸素要求量)濃度が上 昇し続けている.原因は,生物にとって難分解性である「難分解性溶存有機物(以下「難分解性 DOM」と呼ぶ)」量の湖水中での増加にある. 北湖湖水中での難分解性 DOM 量増加の原因の一つとして疑われているのが,北湖集水域にお ける水と土壌の接触時間の短縮である.本来であれば,土壌に吸着され,微生物によって分解を うけていたはずの難分解性 DOM が水と土壌の接触時間の短縮によって,北湖に流れ込んでくる ようになった可能性がある. 目的・意義 北湖湖水中における難分解性 DOM 量の増加が,北湖集水域における水と土壌の接触時間の短 縮によるものであるとの仮説をたて,同仮説の検証を試みる.また,難分解性 DOM 量の増加を 抑制するための接触時間を明らかにし,実現に向けた具体的な政策を提案する.これにより,北 湖湖水中の難分解性 DOM 量の増加抑制に貢献できると考える. 方法 仮説を検証するために,まず北湖集水域のタンクモデルと北湖モデルを構築する.次にタンクモ デルからの推計流入量と北湖モデルからの推計流入量を 一致させるようにタンクモデルのパラメターを年度ごと に最適化し,このパラメターの推移から水(降雨)と土壌 の接触時間の推移を時間単位(24 時間,1 時間毎)で推 計する.これに既往の土壌実験の結果を合わせ,水と土壌 の接触時間の短縮が北湖における難分解性 DOM 流入量 の増加に関係していることを示し,仮設を検証する.また, 北湖湖水中の難分解性 DOM 量増加を抑制するための必 要接触時間を明らかにし,実現に向けた具体的な政策を提 図 1 北湖タンクモデル 案する. 北湖タンクモデルによる北湖への推計 流入量+北湖湖面降水量−蒸発量 これまでの経緯 遠藤(2003)の修士論文から,現在までの研究の到達点を 明らかにする. 先ず,遠藤の対象とした実験期間は COD と BOD の値の乖 離が始まった 1985 年から 2000 年までである. 使用されたタンクモデルは図 1 のように 4 段直列流出機構 を持ち,各種モデル係数の初期値は文献値 1)を採用してい る.流域平均降水量の推移は北湖流域 11 箇所のアメダス観 図 2 タンクモデルからの推計 流入量 測点での降水量データより,算術平均法で求めた.これを タンクモデルに入力し,モデル出力に北湖湖面降水量を加 え,北湖湖面と流域からの蒸発量を差し引いて,北湖への 流入量を推計する(図 2). 北湖モデルでは,国土交通省琵琶湖工事事務所による推計 式を用いて琵琶湖総流出量と琵琶湖水位の変動から北湖へ の流入量を推計した(図 3). 次に,この 2 つの北湖への推計流入量を一致させるように 最小 2 乗法により北湖タンクモデルのパラメターの最適化 図 3 北湖モデルからの推計 流入量 を行った.その結果(図 4),タンクモデルの各種パラメタ ーのうち,特に上段タンクにおける流出係数が増加傾向に あることがわかった.この結果は,北湖集水域における土壌の保水能力が低下していることを示 唆するものであった. 図 4 最適化した北湖タンクモデルパラメーターの推移 今後の予定 先行研究はパラメターの推移を求めるだけで終わっている.本研究ではさらにパラメターから 水と土壌の接触時間の推移を求める.そのためにも,単位時間を 24 時間から 1 時間に短縮し, より正確なパラメターの推移を求める.最終的には,難分解性 DOM 量増加を抑制するための接 触時間を明らかにする. 1) 岩佐義郎 編:湖沼工学,山海堂,p.78(1990)