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講義内容(6,7回目)

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講義内容(6,7回目)
宇宙の科学1
第6回
2008.5.21
1.ブラックホールとは
重力カタストロフィーで一点にまで縮んでしまった天体である。太陽の 30 倍以上の
大きさの星の一生の最後にできる。実際の大きさは一点だが、その点近くの一帯は非常
に強い重力が働き、周りのもの(ものだけでなく空間も)を引き寄せている。その点に近
づけば近づくほど重力は強くなるので、近傍では一番速い光でさえ脱出できない1。そ
の領域は黒い球状に見え、この球の半径をシュバルツシルド半径という。シュバルツシ
ルド半径はそのブラックホールの重さに比例する。例えば、太陽の重さのブラックホー
ルなら 3km、地球の重さのブラックホールなら 1mm となる。ちなみに太陽の 8 倍か
ら 30 倍の星の最期にできる中性子星は半径 10km である。もう 1/3 に縮んだらブラッ
クホールになってしまっていたぎりぎりの天体である。
今までに生まれた星の個数から推定して、われわれの銀河系内には総計約 1 億個のブ
ラックホールがあると考えられる。
ブラックホールは光らないので単体では見えない。ただ近接連星をなしていて、隣の
星からガスが流れ込むとき、ブラックホールに落ち込む直前のガスが1千万度に熱くな
り、X 線を出すのでそれとわかる場合がある。
今までにそのようなブラックホール連星は 18 個確認されている。
① 白鳥座 X-1
初めて発見されたブラックホールである。1962 年に X 線で速い変動をする天体
の存在が知られた。小田稔はすだれコリメータで X 線星の位置を特定し、そこに
9 等星の青い巨星を発見した。しかしその星は(重いけれども)普通の恒星であり X
線を出しているとは思えない。その星は太陽の 30 倍の重さの巨星であるにもか
わらず、奇妙なことに揺り動いていた。おそらく「見えない星」と回りあってい
るのだろう。でもそんな重い星を揺り動かすのだから、「見えない星」は太陽の
10 倍以上の重さである。1971 年に小田らは X 線の時間の変化を調べ、大きさは
300km 以下とわかった。
X線を出しており、重さは太陽の 10 倍以上、大きさ 300km 以下。そんな天体
は(中性子星ではだめで)ブラックホールしかない。一点がガスを吸い込んでいる
こと。そのガスは渦になって落ちること。摩擦で熱くなって X 線が出ていること
1
地球表面から発射して地球引力を脱出するための脱出速度は、第2宇宙速度と呼ばれ、
11.2km/s である。鉄砲や大砲ではこんな速度は無理で、我々はロケットでやっと達成して
いる。太陽表面からの脱出速度は、100km/s。何せ重いから。白色矮星だと 3000km/s。重
さは太陽と同じくらいだが、小さいので重力も強いから。中性子星だと 10 万 km/s、光速
の 30%程度にもなる。そののりで、光さえも脱出できない天体として、ニュートンの昔か
らブラックホールは考えられてはいた。ただブラックホールのネーミングは 1960 年台から
で、昔は「暗黒星」と呼ばれていた。
が推測された。システムは解明されていないがブラックホールからはジェットも
出ていることがわかった。
② ブラックホールの同定
このように見えない星と回りあう青い星の観察により、その周期と速度がわかる。
そして軌道の傾きを推定すると、見えない星の質量が求められる。
2.ブラックホールに近づくとどうなるか
遠くからブラックホールを見ても、黒い穴があるようにしか見えない。しかし、近づ
くと引力を感じる(ただし実際落ちている人は何も感じない)。1000km に近づくと頭と
足が引きちぎられてしまう。これはブラックホールへの近さにより引力の大きさに差が
生じるためであり、このことを潮汐力という。1000km よりさらに近づくとだんだん動
きがゆっくりに見えてくる。これは重力が強いところでは時間がゆっくりになる一般相
対性理論の効果である。色もだんだん赤っぽくなる。同じく一般相対性理論の効果であ
る重力赤方偏移である。シュバルツシルド半径のところまで近づくと、動きは止まって
しまう。最初は白色であった色も、はじめは赤い光を発するがその後は赤外線となり、
赤外線も消えて電波を発するだけとなり電波がだんだん弱くなると完全に見えなくな
ってしまう。赤色から見えなくなるまでに要する時間は 20 秒程度である。
ブラックホールに落ちている人にとっては、何も感じないまま黒い穴が近づいてきて
引きちぎられ、シュバルツシルド半径も難なく通過し、1 ミリ秒でブラックホールの中
心まで落ちてつぶれておしまいとなる。
3.ブラックホールに関連して、あるかもしれないもの
①ホワイトホール
ブラックホールに吸い込まれたものが出てくるところのこと。理論上ではあっ
ても不思議はないが、いまだ発見されていないため実際に存在する可能性は低い
といえる。
② ワームホール
ブラックホールとホワイトホールが一体となったもの。理論上の産物。
③ ワープ
おまけ
立教内に住居が残っている「江戸川乱歩」の作品に「暗黒星」というのがある。ま、暗
黒星自身はほとんど文中に出てこないのだが、こういう一節である。
明智は別に失言を取り消すでもなく、また妙なたとえ話をはじめた。
「どこかの天文学者が、暗黒星という天体を想像したことがある。星というものは必ず
自分で発光するか、ほかの天体の光を反射するかして、明るく光っているものだが、暗
黒星というのは、まったく光のない星なんだ。
」
内容から察するに暗黒星とはブラックホールである。どこかの天文学者とはアインシュ
タインであろう。暗黒星が書かれたのは昭和 14 年(1939)である。1922 年にはアインシ
ュタインが来日し、同年(別件でだが)ノーベル賞をもらっている。その来日から 17
年後には、アインシュタインの一般相対性理論(1915)の結果、導き出されるブラックホ
ールも、少年小説家にまで知れ渡っていたということであろう。
でも「ブラックホール」という言葉はまだなかった。それは 1960 年ごろイギリスのホ
イーラーという反ブラックホール派の天文学者が「じゃあ、何かい。君は宇宙にそんな
黒い穴がぽっかりあいていると言うのかい?」とやゆした時に端を発する言葉である。
乱歩の昭和 14 年にはまだない。ま、戦時下、外国語禁止令が出ていて、使えなかった
だろうけど。
蛇足だが、明智のセリフの続き
「小さいといっても、やはり独立の星なんだから、地球に接近すれば、空全体を覆って
しまうほどの体積を持っているに違いない」
これは心配のし過ぎ。白鳥座 X-1 でも半径 10km だから、正面衝突で目前にでも来な
い限り「空全体を覆う」にはならないだろう。
ただまあ、ぶつかられた地球はただではすまないだろうけど。
4.銀河の中心にあるブラックホール
①M87(電波銀河)
おとめ座銀河団の中心にある巨大楕円銀河。6000 万光年。強い電波を出してい
るので電波銀河と呼ばれる。銀河の中心に太陽の重さの 30 億倍のブラックホール
がある。半径は 100 億 km で、冥王星の軌道と同じくらいである。電波で見ると、
光速の 99%の速さのジェットを大量に放出しているのが確認できる。そのジェッ
トは5年間に 30 光年動いているように見える。これは光速の 6 倍の速さであり、
超光速運動と呼ばれる。しかしそれは横に飛んでいると思ったことによる見かけの
効果であり、実際はほとんどわれわれの方向に(5度以内)、光速の 99%以上で飛ん
でいるのである。ジェットは銀河の外まで 100 万光年以上伸びている。
②われわれの銀河系の中心
赤外線で銀河系の中心付近の星を毎年撮影したところ、10 個程度の恒星がある
場所を中心に回転していた。その見えないものの質量は太陽の 260 万倍もある。
半径は 760 万 km のブラックホールがあるらしい。月から地球までの距離が 38 万
km、火星から地球までの距離が 4000 万 km であるから、火星までの2割、月ま
での 20 倍とかなり巨大なものといえる。可視光も X 線も出していないため、今は
ガスが落ちていないようである。だが、少し離れたいて座 B で X 線の照り返しが
見えることから、500 年前は明るかったと言われている。
③他にセイファート銀河の中心、クエーサーの中心にも巨大ブラックホールがある。
これらは中心核が特に明るい「特異な」銀河である。ブラックホールにガスがたく
さん落ち込んでいるのだろう。
④通常の銀河の中心にもたいていブラックホールがあることが、中心付近の星の動き
を調べることで、近年分かってきた。
それらのブラックホールは可視光やX線や電波を出していないものが多く、おそら
く今現在はガスが落ち込んでいないのであろう。
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