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期待マネジメント

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期待マネジメント
経営学研究論集
2012.2
第36号
期待 マネジメン ト
―― マ ー ケテ ィング
コミュニケーシ ョンによる顧客満足の
事前統制――
Expectation Management
―
Pre¨ control
of Customer SatiSfaction by Marketing Cornlnunication―
博士後期課程
太
経 営学専攻 2011年 入学
田
壮
哉
OTA R/1asaya
【論 文 要 旨】
Pre‐ expectation
management is the measure that increases customer satisfaction by control pre‐
expectation. But, It is not enough to research theoretical consideration about pre―
expectation
management itself.Fronl this a、 vareness of problem,this article provides further insight into pre―
expectation management on theoretical grounds.
In a result of theoretical cOnsideration,、 ve suggest that the updating process of pre―
consists of expectation― kno、vledge with expectation― level, that pre― expectation
t、
expectation
management has
vo types,expectation elevating control type and dissonance inducing type.And、 ve present expec‐
tation management nlodels on this two types.
【キ ー ワ ー ド】 期 待 水 準 (Expectation― Level),期 待 知 識 (Expectation― Knowledge),原 因 帰 属
(Attributions),認 知 的 不協 和 理 論 (Cognitive Dissonance Theo7),顧 客 満 足
(Customer satisfaction)
I.は
じめ に
顧 客 満 足 を説 明す る上 で 最 も説 得 力 の あ る概 念 として 期 待 不 一 致 効 果 とい う もの が あ る。 期 待 不
一 致 効 果 とは ,当 該 製 品 に対 す る消 費 者 の期 待 水 準 と当 該 製 品 の 実 際 の パ フ ォー マ ン スの一 致 ,不
論文受付 日 2011年 10月 3日
大学院研究論集委員会承認 日 2011年 11月 9日
―-223-―
一 致 に よって満足 が規定 され る とい うもので あ る [小 野 (2010),80頁
]。
この期 待不 一 致効果 の
観点 か ら,期 待 以上 の製 品 /サ ー ビス を提供 す るには どうすれば よいか とい ったパ フ ォーマン ス向
上 に関す る動 きが表 れ る一方 で ,事 前 の期待 を コン トロールす る こ とに よって顧客満足 を向上 させ
よ う とす る動 きが表 れ る。北城 他 (2009)は ,こ の ように事前 の期待 を コン トロール し,顧 客満
足 を向上 させ よう とす る施策 を「事前期待の マ ネジ メン ト」 と呼称 して い る。 この ような動 きが出
て きたのは ,パ フ ォーマン ス向上 自体 に限界 が見 られ るためであ る。例 えば ,」 .D.パ ワー
アジ
アパ シ フ ィ ック社 の調 査 に よれ ば ,低 価格 帯 の 1位 であ る ドー ミー インの満足 度 は 1000点 中655
点 ,高 価格帯 の 1位 のザ ・ リッツ ・カ ール トンの満足度 は778点 で あ った1。 同 じ 1位 に も関 わ ら
ず こ こまで差 が 出て しま ってい る とい う事 実 は ,パ フ ォーマ ン ス向上 におけ る限 界 を示 唆 して い
る。 この「 事 前期 待 の マ ネ ジ メン トJに つい ての理論 的 な考察 は未 だ に成 され て い な い。 また
,
「 事前期待 の マ ネ ジ メン ト」 の根幹 の概 念 であ る期 待 が どの ような もの であ るの か に関す る研 究 も
未 だ に不十 分であ る。
本稿 では ,こ の よ うな問題意識 か ら「事前期待の マ ネジ メン ト」 についての理 論的 な考察 を行 っ
て い く。 まず ,期 待 の更新 に関す る研究 を整理 し,期 待 の更新 プ ロセ スについて検討 を行 い ,期 待
マ ネジ メン トにお いて どの 更新 プ ロセ スに焦 点 を 当 て るのかに つい て示 して い く。次 い で ,そ の期
待 更新 プ ロセ スの メカニ ズム につ いての把握 を行 い ,期 待 マ ネジ メン トモデ ルヘ の上台を検討 して
い く。 そ して ,最 後 に期待 マ ネジ メン トの理論 的な検討 を行 い ,期 待 マ ネジ メン トモ デル を提示 し
てい く。
尚 ,本 稿 では「 事前期待 のマ ネ ジ メン トJを 期待 マネ ジ メン トと呼称 す る こ とにす る。
I.期 待 の 更 新
期待 の更新 に関す る代表 的 な研究 としては ,ま ず Boulding,et al.(1992,1993)が 挙 げ られ る。
Boulding,et al.(1992)と Boulding,et al.(1993)は ほ とん ど内容 が同一の ものであ るため ここで
は Boulding,et al.(1993)を 取 り上 げ る こ とにす る。 Boulding,et al.(1993)は
,あ る企業 の次 に
受 け るサ ー ビス において起 こ るで あ ろ う期 待 を WE(Will Expectation:予 測 的期待 ),あ る企業
の次 に 受 け るサ ー ビス にお い て起 こ るべ き期 待 を SE(Should Expectation:規 範 的期 待 )と し
[p.9],期 待の更新 に関す る検証 を行 ってい る。
Boulding,et al.(1993)は
,WEと
SEと い う 2つ の期待 を基 に次 に示 す ような 2つ の期待 更新
に関す る仮説 モデル を提示 した [pp.910]。
(1)` ⅣE"t=fl(恥「Ellt_1,X■ ,DS*ゎ 1)
(2)SE“ t=f2(SEttt_1,Zt,K“ t・ DS*‐ t)
iは あ る顧客 ,jは あ るサー ビス ,tは 時期 を示 す。 (1)の 仮説 モ デル は WEの 更新 を表 した もので
あり,WEttt l(事 前に持つWE),X.(外 部情報),DS、 は日
覚パフォーマンス)が WEttt(更 新
された WE)を 規定 す る とい った ものであ る。 この仮説 モ デル が成立す るため には次 に示 す仮定 が
―-224-―
前提 とな る。
「Ettt_1>0・
・Hl:∂ f1/∂ ヽ
ヽ
・H2:∂ f1/∂ DS*巧 t>0.
9)の 仮説 モ デル は SEの 更新 を表 した もので あ り,SEttt l(事 前 に持 つ SE),Z.(外 部情報 ),
K章 (DS*lt>SEⅢ lの 時
K=1,そ
うでな い場 合 は K=0)・ DS*"t(知 覚 パ フ ォー マ ン ス)が SEbt
(更 新 され た SE)を 規 定 す る とい った もの であ る。 この 仮説 モ デル が成立 す るため には次 に示 す
仮定 が前提 とな る。
・H3:∂ ち/∂ SEttt l>0.
・H4:∂ f2/∂ K"t DS*巧 t>0.
Alpha"を 体験 させ ,そ
Boulding,et al.(1993)は ,107人 の ビジネス マ ン を対象 に仮想 ホテル “
のデー タを用 い て Hl∼ H4の 仮定 に ついて の検証 を行 った2。 具体 的 な検証手順 としては ,ま ず被
Alpha"の 評価情報 ,競 合他社 に よって提供
験者 の事前期待 を被験者 以外 の者 に よる仮想 ホテル “
されて い る価格 やサー ビス レベ ル の情報 を与 え る こ とに よって操作 し,知 覚 パ フ ォーマンス も高 い
パ フ ォー マ ン ス と低 いパ フ ォー マ ン ス とい う 2種 類 の パ フ ォーマ ン ス に よって操 作 した [Bould―
ing,et al.(1993),pp.13-14]。 事前期待 の度合 い と体験 して もらうサ ー ビスの度合 に よって 8つ の
Alpha"を 体験 して も らう。体験後 に更新 された期待 を
グル ー プに被験者 を区分 し,仮 想 ホ テル “
測定 し,回 収 したデー タを基 に仮説検定 に よる検証 を行 った [Boulding,et al.(1993),p.13,pp.
15-16]。
その結果 ,Hlと
H2の 仮定 の通 り事前期待 (WEllt l)や 知 覚 パ フ ォーマン ス
で もあれば (増 分 ∂>0),更 新 された期待
(WElt)は プ ラス
(DS*・ t)が 少 し
(増 分 ∂>0)に な り,事 前期待 や知
覚 パ フ ォーマ ン スが負 であ れば (増 分 ∂<0),更 新 された期待 は マ イナ ス (増 分 ∂<0)に な る と
い う こ とが 1%水 準 で有意 であ る こ とが確認 された [Boulding,et al(1993),p.15-16]。
換言 すれ
ば ,知 覚 パ フ ォーマンスが事前期待以上 の場合 ,期 待 水準 はプ ラス に更新 され ,事 前期待以下 の場
合 は マ イナス に更 新 され る とい う こ とが示 された。 また H3と
H4の 仮定 も同様 に 1%水 準 で有意
であ る こ とが確 認 された他 ,SEは 事 前 の SEを 越 え るほ どの DSを 消費者 が知 覚 しな い 限 り更新
されな い (DS*」 t>SElt lの 時 K=1,そ うでな い場 合 は K=0)と い う こ とも確認 された [Bould―
ing,et al.(1993),pp.15-16]。
Boulding,et al.(1993)に よって期待 と実際 に体験 した製 品 /サ ー ビスのパ フ ォーマン スの一 致 /
不一 致 が顧客満足 を規定す るのみな らず,期 待 の更新 も行 うとい うこ とが示 されたのであ る。 また
,
Boulding,et al.(1993)は ,そ れぞれの期待 に よって更新 され る特徴 が異 な る とい う こ とを示 した。
WEは 実際のパ フ ォーマ ン スの 高低 に よって常 に更新 され る とい う特徴 があ り,変 動 的な側面 を有
して い る。対 して SEは 実際の パ フ ォーマンスが事前 の SEを 上 回 った場 合 ,更 新 され ,上 回 らな
か った場合 または事前 の SEと 同等 のパ フ ォーマンスで あ った場 合 ,更 新 されな い とい う特徴 があ
り,安 定的 な側面 を有 して い る とい う こ とが示 された。
―-225-―
Boulding,et al.(1992,1993)は
,WEと SEと い う 2つ の期待 の更新 にお いて外部情報 も期待
の更新 に影響 を与 える要 素 であ る こ とを指 摘 して い る [(1992,1993),pp.67,pp.9-10]。
ここで
い う外部情報 とは ,事 前 の期待 と事後 の期待 との間 において接触 す る情報 の こ とを指 す。例 えば
,
家電の場 合 ,エ ア コンを買い に行 く前 にイン ターネ ッ トの公式サ イ トな どに よ り事前 に情報 を収 集
す る こ とで期待 が形成 され る。 この期待 が事前 の期待 とな る。 しか し,実 際 にはその エ ア コン を購
入す るまでの過程 の中で さまざまな情報 に接触 す るだ ろ う。店頭 の パ ソフ レ ッ ト,従 業員 に よる商
品 プ ロモー シ ョンな どがそれ にあた る3。 これが Boulding,et al.(1992,1993)の 指摘 す る外部情報
とな る。 そ して ,実 際 に エ ア コン を購 入 し,使 用 した段階 にお いて も期待 が更新 され る。 これが事
後 の期待 とな る。 この ように消費者 は一度 ,事 前 の期待 を構築 した として も実際のパ フ ォー マ ンス
を知 覚す る前 に様 々な情報 に接触 す る。 そのため事前 の期待 が実際 のパ フ ォーマ ンスを受 け る前 に
異 な った もの にな ってい る可 能性 があ る。 Boulding,et al.(1993)も
WEお よび SEの 期 待 更新 モ デルの 中 において Xじ
,そ の ような状況 を考 慮 し
,
Ztと い う外部 情報 を因子 の 1つ として加 えて
い る。
しか し,Boulding,et al.(1993)は ,検 証 におい て期待 を完全 に コン トロール してお り,こ の よ
うな外部情報 に よる影 響 についての検証 にまで及 んで い なか った。 この問題 に つい て検証 を行 った
のが Kopalle,et al.(1995)│こ よる研究 であ る。
Kopalle,et al.(1995)は ,コ ンピ ュー タに よる仮想 シ ョッピン グ実験 に よ り外部情報 に よる期
待 の更新 を含 む期待 更新 に関す る検証 を対 象製 品 /サ ー ビス として車 の タイヤ を選択 し,MBA学
生 155人 に対 して行 ってい る。期待 を抱 かせ るタイヤの製 品属性 として耐用距 離数 (マ イル )が 実
験 におけ る期待操作 の容易性 な どの理 由に よ り選択 されて い る [Kopalle,et al.(1995),p.282]。
コン ピ ュー タに よる仮想 シ ョッピングの体験 は旅行 中に 自動車の タイヤがバ ン ク し,そ の タイヤの
購買前 の プ ロセ スにおいて ,そ の 当該 タイヤの さまざまな外部情報 に接触 す る とい う内容 に よ り構
成 されて い る [Kopalle,et al.(1995),p.288]。
検 証 の結果 ,事 前 の期待 と外部情報 との乖離 が -20%で あ った場合 ,外 部 情報 の影 響 に よって
生 じる事前の期待 の平均変化率 は -21.4%で あ るこ とが示 された [Kopalle,et al.(1995),p.283]。
そ して ,事 前 の期待 と外部情報 との乖離 が 0%で あ った場合 ,外 部情報 の影響 に よって生 じる事前
の期待 の平均変化率 は -4%で あ り,ま た事前 の期待 と外部情報 との乖離 が20%で あ った場 合 ,外
部情報 の影響 に よって生 じる事前 の期待 の平均変化率 は 11.4%で あ る こ とが示 された [Kopane,et
al.(1995),p.283]。
また Kopalle,et al.(1995)は よリー般性を高めるために別の製品 /サ ービス (車 のパ ッテ リー)
により上記 と同様の実験手法を用 いて検証を行 っている。その結果 ,事 前の期待 と外部情報 との乖
離 が -25%で あった場合,外 部情報の影響 によって生 じる事前の期待の平均変化率は -28.5%,事
前の期待 と外部情報の乖離が 0%で あった場合 ,外 部情報 によって生 じる事前の期待の平均変化率
は -9.8%,事 前の期待 と外部情報の乖離が25%で あった場合 ,外 部情報 によって生 じる事前の期
―-226-
待 の平均変化率 は 1.5%で あ るこ とが示 された [Kopalle,ct al.(1995),p.286]。
また Rust,et al.(1999)も 外部情報 に よ り期待 が更新 され るの か否 かに ついて実証的 な検証 を行
ってい る。彼 らは ,160人 の学生 を対 象 にカ メ ラのバ ッテ リー を用 いて コン ピ ュー タに よる仮 想実
験 を行 った ところ,被 験者 たちは期待の更新 を行 う こ とにお いて外部情報 を確 かに用 いてい るこ と
を明 らかに し [Rust,et al.(1999),p.80],Boulding,et al.(1992,1993)の
指摘 と Kopalle,et al.
(1995)の 検証結果 に つい て さ らに裏 づ けを与 えて い る。
ここまでの Boulding,et al.(1992,1993)を 筆頭にした期待の更新 に関する研究をま とめると①
製品 /サ ービスの消費前 ,② 製品/サ ービスの消費後の 2つ のプ ロセ スにおいて期待の更新 が行わ
れると考 えることができる。 また,Boulding,et al.(1993)の 期待の更新特徴 か らある企業の次に
受けるサービス において受けるであろう期待である WEが 主 に更新 されやす い期待 であることが
確認 された。
顧客満足 を事前 に統制 しようと試みる期待 マネジメン トにおいては①の更新プ ロセスにおいてい
かに事前 に期待
(WE)を 外部情報 ,す なわちマー ケテ ィング ・コ ミュニケーシ ョンによリコン ト
ロール してい くかが重要 となる。次節では,こ の製品/サ ービス消費前の期待更新プ ロセスに焦点
を当てる ことに よって, どの ようなメカニズムで製品 /サ ービス消費前の期待更新 が行 われるのか
を把握 し,期 待 マネジメン トモデルヘの土台を検討 してい く。
Ⅲ .期 待 更新 プ ロセ スの メカ ニ ズム
期待不一致効果研究では,期 待は広告等の外部情報 から直接的に形成されて いるとい う考えが一
般的であった。例えば,期 待の高低を調節する際 には とんどの研究において広告等の情報が用 い ら
れている [例 えば,Assael,et al.(1989),p.201,01shavsky,et al.(1972),p.20,Homburg,et al.
(2006),p.24]。
しかし,Wright,et al.(1994)は ,広 告 が直接的に期待を形成するのではな く,信
念 /知 識 を媒介 して形成 されるとする EMAC(Extended Model of Advertising Communication:
拡張広告 コ ミュニケーシ ョンモデル)を 提案 してい る
(図 表
1)。
Wright,et al.(1994)の モデルによれば,期 待水準は広告 という外部情報から直接形成されるの
ではな く,信 念 /知 識を媒介 して形成されるとして い る。すなわち,期 待を形成するための知識を
ベース として期待水準が形成 されるとい うことである。 よって Wright,et al(1994)の 考 えに基
づけば,製 品/サ ービス消費前の期待更新 は,広 告等のマーケティング ・コ ミュニケー シ ョン→期
待を形成するための知識→期待 というプ ロセスを辿 るとい うことになる。 つま り,マ ーケテ ィング
・コ ミュニ ケーシ ョンは,期 待だけでな く,期 待を形成す る土台 となる知識をも更新 させるのであ
る。 この ような期待の更新プロセス を前提 とすると,次 に示すような例を説明可能 とする。
例えば ,Aと Bが ある商品 Zに ついてそれぞれ著者の異なるまった く同じ内容の レビューを見
て同程度 の高さの期待水準を形成 した としよう。 この場合 ,期 待水準の高さは同程度で も,そ の期
待水準を形成 した知識は作者 がそれぞれ異なるため同一ではない。
―-227-―
図表
I EMAC
評 価 段 階
(評 価 の ■
比 較 基 準
の 形 成 ′変 化
(出 所 )
lヂ
下 げ
)
購 買 後 消 費 過 程
Wright,et al(1994),p31
上 述 の例 に示 した ような状 況 は ,広 告等 の マ ー ケ テ ィン グ ・ コ ミュニ ケー シ ョン か ら期 待水準
が直接形成 され る とす る期待 更新 プ ロセ スでは説 明す るこ とがで きな い。 また ,こ の EMACモ デ
ル では ,期 待 を形成 す る土 台 とな る知 識 が評価 段階 に も影響 を及 ぼす として い る [Wright,et al.
(1994),p.32]。
よって期待 マネ ジ メン トには ,期 待水準 の更新 を利用 した期待 マ ネ ジ メン トと期待 を形成 す るた
めの知識 (以 降 ,期 待知 識 と表 記 )の 更新 を利 用 した期待 マ ネ ジ メン トの 2つ が あ る こ とが考 え
られ る。次節 では ,期 待水準 の更新 を利用 した期待 マ ネジ メン トと期待知識 の更新 を利用 した期待
マ ネジ メン トの双方 について検 討 して い くこ とにす る。
Ⅳ .期 待 マ ネ ジ メ ン ト
l.期 待水準 の更新 を利用 した期待 マ ネジ メン ト (期 待高低調整型
)
期待水準 の更新 を利用 した期待 マ ネ ジ メン トは ,マ ーケテ ィング ・ コ ミュニ ケー シ ョン によ り事
前 に期待水準 を冷 や し,期 待 はずれを抑制 す る ものであ る。 この期待 マ ネジ メン トを期待高低調整
型 と呼称 す るこ とにす る。期待 高低調整型 の期待 マ ネジ メン トに つい ては,従 来 か ら指摘 ,研 究 が
成 されて きた [Assael,et al.(1989),北 城 ・諏訪 (2009),諏 訪 (2010),小 野 (2010)]。
例 えば ,Assael,et al.(1989)は 架空 ブ ラン ドのボ ールペ ン を対象 に広告 へ の関与 ,マ ー ケテ ィ
ング ・ コ ミュニ ケーシ ョンの 内容 (誇 張 された内容 の訴求 ,現 実 的 な内容の訴求 ),そ して提示方
法 (一 面提 示 ,両 面提示 )4の 違 いが期 待不 一 致 効果 に どの ような影響 を もた らす かに つい ての 実
証的 な検証 を行 ってい る。
まず ,Assael,et al(1989)は ,広 告 へ の高関 与条件 ,低 関与条件 において誇張 された 内容 の訴
求 と現 実 的 な 内容 の訴 求 に よる期待不一 致効 果 へ の影響 の違 い を分 散分析 に よ り検証 を行 って い
る。 その結果 ,関 与条件 と訴 求 内容 の交互作用 が認 め られた [Assael,et al.(1989),p.203]。
―-228-―
そし
て ,デ ー タの精査 か ら高 関与条件 にお い て誇張 された内容の訴求 は負の不 一 致 ,す なわち期待 はず
れ を起 こ りやす い とい う こ とが示 された [Assael,et al.(1989),p.203]。
,提 示方法
次 に Assael,et al.(1989)は
(一 面提示 と両面提示 )に よる違 い を t検 定 に よ り検証
して い る。 その結果 ,広 告 へ の関与 が高 く,誇 張 された訴求 内容 の条件下 にお い て ,両 面提示 は
,
負 の不一致 を和 らげ る効 果 があ る こ とが示 された [Assael,et al.(1989),p.204]。
この ように Assael,et al(1989)は ,誇 張 された訴求 内容 の広告 は期待 はずれ を招 くが ,両 面提
示 を用 いればそれが緩和 され るこ とが示 された。 すなわち ,マ ーケテ ィング ・ コ ミュニ ケーシ ョン
に よ り事前 に期 待水準 を冷 やす こ とが示 されたのであ る。
しか し,こ の事前 に期待 水準 を冷 やす こ とに つい て は批 判的 な見方 があ る。 小野 (2010)は
,
購 買前 の予 測的期待5を 過 度 に高 め て しま うのは逆効 果 を招 くが ,あ ま り期待感 を もたせな い よう
に控 えめなプ ロモーシ ョン をす る と,顧 客獲得 がで きな い とし,期 待水準 を冷やす こ とは収益面 と
トレー ドオ フの関係 にあ る こ とを指摘 して い る [97-98頁 ]。 期待 水準 を冷 やす こ とと収益面 との
トレー ドオ フを解消す るには ,誇 大広告 に よって期待感 を高め ,顧 客 を獲得 す る 一方 で ,期 待水準
を冷や し期 待 はずれを抑制 してい くとい う こ とが成 され る必要 があ る。 この期待感 を高 め る こ とと
期 待水 準 を冷 やす こ との両 立 を可能 とさせ る示 唆 を Bttner(1990)の 提 示 す るモ デル か ら考 える
こ とがで きる。
2.期 待高低調整型 モデルの再考
Bitner(1990)は ,期 待不 一 致効果 と顧客満足 に原 因帰属 とい う理論 を組 み込 んだモ デル を提示
して い る (図 表
2)。
原 因帰属 とは ,「 人 々が 自身 の行動 ,他 人 の行 動 ,あ るいは観没Jす る出来事 の背後 にあ る要 因 を
知 覚す る こ と」 [Bitner(1990),p.70]を 指 す 。 この原 因帰属 は後 の感情 に も影響 を及 ぼす とされ
図表 2 BIner(1990)の 顧客満足モデル
(出 所 )Bitner(1990),p.71
―-229-―
てお り [Weiner(1985b),pp.559-560],特 にネガ テ ィプな期待 して い な い結果 や 出来事 が起 きた
場合 に生 じるこ とが指 摘 されて い る [Weiner(1985a),p77,p.80-81]。
Weinerに よれば ,原 因帰
属 は① 中心 (Locus),② 安定性 (Stability),③ 統制可能性 (Controllability)の 3つ の因果 の性質
に よ り成 り立 ってい る とい う [Weiner(1985b),pp.551-552,Weiner(2000),p.4]。
中心 とは ,原
因の所在 の こ とを指 し [Weiner(2000),p.4],換 言 すれば ,そ の原 因の 中心 が何 で ,ど こに あ る
の か (原 因の主体の内部 か ,外 部 か)と い う こ とを示 して い る。安定性 とは ,そ の原因の 中心 とな
る ものの持 続性 の こ とを指 し [Weiner(2000),p.4],換 言 す れば ,そ の原 因は頻繁 に発生 す るか
否 か とい う こ とを示 して い る。最後 の統制可能性 は ,そ の原因の中心 が統制可能 で あ るか否 かを指
して い る [Weiner(1985b),p.551,Weiner(2000),p.4]。
この 原 因帰属 の概 念 を踏 ま えて Bitner(1990)の モ デル を説 明す る と,期 待 との間 に負 の不 一
致 が生 じた場合 ,す ぐに不満足 とい う感情 が生 じるのではな く,な ぜ期待 はずれが起 きて しま った
のかの原 因究 明を行 う とい う こ とを説 明 して い る。
Bitner(1990)は 図表 2の 点線部 分 に当た る期待不一致 と原 因帰属 ,そ して満足 との 関係 を仮 想
の空港 サ ー ビスのシ ナ リオを用 いて実証的 に検証 して い る。 その結 果 ,サ ー ビス失敗時 ,企 業側 が
統制可能 で あ る と消費者 が判 断 した場合 とこの先 も頻繁 に同 じ失敗 が起 こる と判 断 した場合 におい
て よ り不満足 を知 覚す るこ とが示 された [Bitner(1990),p.75-76]。
また ,不 一 致後 に従業員 に よ
る外 的 な説 明 ,す なわち企業 が統制不 可能 な要 因 に よって失 敗 が生 じた とす る説 明は ,内 的 な説
明,す なわち企業 が統制 可能 な要 因に よって生 じた とす る説 明 よ りも失敗 を緩和 す る とい う こ とが
示 された [Bitner(1990),p.76]6。
この よ うに Bitner(1990)│ま
,期 待 はず れの原 因 に対 して企業 に よって統制 可能性 が低 く,頻
繁 に起 こ らな い とい った コ ミュニ ケーシ ョンを行 い ,原 因帰属の知識材料 を与 える こ とで ,不 満足
を抑制 させ る こ とがで きる とい う可能性 を示 した。 これは ,誇 大広告 に よって顧客 を獲得 す る一方
で ,原 因帰属 の知識材料 とな るため に企業 に よって統制可能性 が低 く,頻 繁 に起 こ らな い こ とを訴
求す る コ ミュニ ケーシ ョン を行 う こ とに よって ,期 待 水準 を冷や し期待 はずれを抑制 す る活動 と期
待感 を高 め る活動 の両立 が可 能 であ るこ とを示 唆 して い る と考 える。
しか し,Bitner(1990)の モ デル は不 一 致知 覚後の コ ミュニ ケー シ ョンが原 因帰属 の知識材料 と
な る とい うこ とを前提 として い るが ,原 因帰属 の知識材料 を与 えるこ とがで きるのは ,不 一 致前 に
おけ るマ ー ケテ ィン グ ・ コ ミュニ ケー シ ョン において も可能 で あ る と考 える7。 これ を説 明す る事
例 として新海誠監督 のア ニ メー シ ョン映画「 ほ しの こえ」 が挙 げ られ る。
映画「 ほ しの こえJは 2002年 に下北 沢 の トリオ ッ トで公 開 され ,そ の後 同年 の新 世紀 国際 ア ニ
メフ ェア 21で 「 公 募 部 門優 秀 賞 」,文 化 庁 メデ ィア芸 術 祭 で「 デ ジ タル ア ー ト部 門特 別 賞 J,
AMD AWARDで
「 Best DirectOr賞 」 な ど多数 の賞 を受賞 した8。 新世 紀 国際 ア ニ メフ ェアでは
実行委 員長 であ る石 原都知事 に「 この知 られざ る才 能 は ,世 界 に届 く存在 だ
!」
,
と言 わ しめたほ ど
であ る9。 そ して ,DVDの 販売 本数 では ,イ ンデ ィーズでは異 例の 9万 枚 に達 し,そ の記録 は更新
―-230-―
され続 け て い る10。 また ,Amazon,co.jpの 顧 客満足 度 にお いて も 5点 満 点 中 4点 と高 い 水準 を維
持 して い る11。
映 画「 ほ しの こえJは 2002年 2月 2日 ∼ 3月 1日 までの lヶ 月 間 ,下 北沢 の トリオ ッ トのみ で
公開 された にす ぎず ,実 際 ,世 間で話題 にな ったのは新世紀 国際 アニ メフ ェアの受賞 を初 め ,各 賞
を受 賞 した後 の2002年 4月 19日 か ら販売 され た DVDに よる ところが大 きい12。
DVDを 購 入す る
前 にお いて ,多 数の賞の受賞 ,石 原都知事 の発言な どは映画 の内容 の期 待感 を大 き く高 めた こ とが
考 え られ る。 この こ とは DVDの 販売本数 か らも分 か る。
それ に も関 わ らず ,顧 客満 足度 が高 い のは ,「 映画『 ほ しの こえ』 は個人製作 であ る」 とい う訴
求 が原 因帰属 の知識材料 として作 用 したためであ る と考 える。 Amazon,co,ipの 評 価 レビ ュー に お
いて も「 ほ とん ど一人 で作 ったJ,「 =人 で作 った 」,「 個人で作 ったJと い うワー ドが顕著 に見て取
れ る13。 個人製作 とい う原 因は ,新 海誠監督 が2000年 初夏 に企業勤 めの傍 ら製作 をは じめ ,2001年
の初 夏 に退職 して製作 した とい う背景 か ら統制可能性 が低 い14。 また ,個 人製作 は映画界 において
も頻繁 にあ る ものではな い。 これは ,Bitner(1990)の 研究結果 に よ り示 された原因帰属 の知識材
料の 2つ の特徴 であ る統制可 能性 の低 さ と頻繁 に起 こらな い こ とと一 致 す る。
従 って ,不 一 致前 におけ るマー ケテ ィング ・ コ ミュニ ケーシ ョンにお いて も原 因帰属 の知識材料
を与 える こ とが可能 であ る こ とが事例 か ら考 え られ る。 図表 3は Bitner(1990)の モ デル をベ ー
ス に これ までの こ とを踏 まえ ,事 前 の マ ー ケテ ィン グ ・ コ ミ ュニ ケー シ ョンに よって期 待感 を高
め ,顧 客 を獲得 す る一方 で ,原 因帰属 の知識 材料 を提供 し,期 待水準 を冷 や し,期 待 はずれを抑制
す る期待 マ ネ ジ メン トのモ デル を示 した ものであ る。
図表 3の モ デル を映 画「 ほ しの こえJの 事例 に沿 って説 明す る と,予 告 や多数 の 賞 の 受賞 な ど
(マ ー ケ テ ィン グ ・コ ミュニ ケー シ ョン )か ら映画 の 内容 の期待 水 準 を形 成 す る土 台 とな る知識
(期 待知識 )が 形成 され ,そ の期待知識 を基 に映画 の内容 の期待水準 が形 成 され る。 そ して ,実 際
に映画 を見 た後 に期待 はずれ (不 一 致 )が 起 こった場合 ,そ の期待 はずれの原 因が何 であ るのかを
図表 3 原因帰属を加味 した期待高低調整型モデル
マーケテイング
コミュニケーション
(出 所
)著 者作成。
-231-
考 える (原 因帰属 )。 そ して ,こ の映画 が個 人製作 であ る こ とを どこかで見 た こ とを思 い 出 し,そ
れ に よって期待水準 が冷 や され (知 識 → 原 因帰属 ),「 個人製作 で この完成度は素晴 らしい」 とい っ
た ように期 待はずれは抑制 され る (顧 客満足 )。
ここで期待知識 と知識 を区分 して い るのは ,原 因帰属の知識材料 としての知識 は期待水準 を形成
した もの と仮定 してい な いた め であ る。期待知 識 は事 前 の期待 水準 の形成 の土 台 とな って い るた
め ,そ の知識 は不一 致知 覚 に至 るまで正確 に記憶 されて い る。 一 方 ,知 識 は不一致知 覚後 におい て
思 い 出 され るものであ り,期 待形成段階 においてはあ ま り意識 されて い な い。
以上 ,期 待水準の更新 を利用 した期待 マ ネジ メン トについ て検討 して きた。 その結果 ,原 因帰属
とい う考 えを加味すれば ,事 前 の マー ケテ ィング ・ コ ミュニ ケーシ ョン に よって ,期 待感 を高 め顧
客 を獲得 しなが ら,期 待水準 を冷 や し,期 待 はずれを抑制 す る とい った こ とが両立 可能 であ るこ と
が示 唆 された。
続 いて ,期 待知識 の更新 を利 用 した期待 マ ネ ジ メン トに つい て検討 して い くこ とにす る。
3.期 待知識 の更 新 を利用 した期待 マ ネジ メン ト (不 協和誘導型
)
期待知識 の更新 を利用 した期待 マ ネジ メン トを検討 す る こ とにお いて Festingerの 認知 的不協和
理論 が 役 に立 つ。 Festinger(1957)は
,認 知 的不協和 理論 の核 心 に つい て次 の 3つ の点 か ら説 明
して い る [邦 訳 ,3132頁 ]。
①認知要素 の間には ,不 協和 または <不 適 合 (nOnntting)>な 関係 が存在 す るこ とがあ る。
② 不協和 の存在 は ,不 協和 を低減 させ ,ま たは ,不 協和 の増大 を回避 させ る圧 力 を生 ず る。
③ こ うした圧 力のはた らきが表 れ る仕方 には ,行 動 の変化 ,認 知 の変化 お よび新 しOV情 報 や意見
に対 す る周到 な接触 が含 まれ る。
ここで い う認知 とは ,「 環境 に関す る,自 分 自身 に関す る,自 分の行動 に関す る,あ らゆ る知識
,
意 見 ,ま た は信 念 J[Festinger(1957),邦 訳 ,3頁 ]の こ とを指 し,す なわち知 識 の こ とを意味
して い る。 また ,不 協和 とは ,矛 盾 の こ とを示 し,矛 盾 が存在 して い る場 合 には不 快 の状態 にな る
[Festinger(1957), り
喝司R, 2-3]証
]。
この認知的不協和理論 の考 え方 を期待不一致効果 に当てはめ る と,認 知要素 は期待水準形成 の上
台 とな る期待知識 と知 覚 パ フ ォーマンスに該 当す る こ とが考 え られ る。 よって ,期 待水準 と知 覚パ
フ ォー マ ン ス との間 に負の不一致 ,す なわち期 待はず れが起 きた として も,期 待知 識 と知 覚 パ フ
ォー マ ンス との間 に不 協和 を作 り出す こ とがで きれば ,知 覚 パ フ ォーマ ンスの認知 を期待水準 の レ
ベ ル に変化 (正 当化 )さ せ る こ とがで きる と考 え られ る。 この ように期待知識 と知 覚 パ フ ォーマン
ス との間 に不協和 を起 こ し,正 当化 へ と導 かせ る ような期待 マ ネ ジ メン トを不協和 誘導型 と呼称す
るこ とにす る。
この不協和誘導型 のモ デルを検 討 す るためにまず , どの ような状況 にお い て不協和 とい う心理 が
想起 す るのか ,す なわち不協和要 因 につい て検討 して い く必要 があ る。 また,各 不協和要 因 は マー
―-232-―
ケテ ィング ・ コ ミュニ ケー シ ョンに よって形成 で きる必要 があ るため ,そ の不協和要 因が企業 に よ
って統 制 可能 か否 かについて も検 討 して い く必要 があ る。 次項 では ,こ の 2点 を中心 に検討 して
ヽヽく。
4
不協和要 因 と企 業 の統制可能 性
不 協和要 因 に関 す る研 究 は 多 くな され て い る。 その 中で も主要 な もの としては ,決 定 の重要性
[Brem(1956),Ehrlich,et al.(1957),Festinger(1957),小
lle(1986)],属 す る集 団の魅 力の大 き
さ [Festinger,et al.(1952),Festinger(1957),Lipset,et al(1954)],努
力の程度 [Aronson,et al
(1959),Cardozo(1965)],強 制承諾 [Festinger(1957),Festinger,et al.(1959),Gosling,et al
(2006), Harmon, et al(1996)],他 者 の重要性 の大 きさ [Heider(1946),Heider(1958),
Schachter,et al(1955),小 城他 (2010)]が 挙 げ られ る。 これ らの不協和要 因を順 に検討 して い く
こ とにす る。
まず は ,決 定 の重要性 か ら検 討 して い くとしよう。 Festinger(1957)に よれば ,決 定 の重要性
が高 ま るほ ど不 協和 は強 い もの にな る とい う [邦 訳 ,37頁 ]。 消費者行動 の観点 か ら言 えば ,こ の
決定 は購 買前 の意 思決定 に当た る。 この よ うな状 況 は ,高 価 格 の製 品 /サ ー ビスの購 入 15,代 替 製
品の相対 的魅 力が高 い場 合 に生 じる16。
高価格 と不 協和 の関係 に ついての代表 的 な研究 としては Ehrlich,et al.(1957)の 研究 が 挙げ ら
れ る。Ehrlich,et al.(1957)は
,新 しい 自動車 の購入は ,人 に とってかな り重要 な意 思決定 であ る
とし [Ehrlich,et al.(1957),p.98],新 車購 入者 に不協和 が生 じて い るか否 かについ ての検 証 を行
って い る。 その結果 ,新 車購 入 者 (購 入 後 4-6週 間経 過 )は ,自 動車保 有者 (購 入後 3年 以上経
過 )に 比 べ 自分 の 購 入 した 自動 車 の 広 告 に つ い て 積 極 的 に見 る傾 向 が あ る こ とが 示 さ れ た
[Ehrlich,et al.(1957),p.99-100]17。
情報 の接触 が積極的 に成 された とい うこ とは ,そ こに大 きな
不協和 が存在 して い る こ とを示 してい る。
代替製 品の相対 的魅 力の高 さ と不 協 和 に つい ての代表 的 な研 究 としては ,Brem(1956)の 研 究
が挙 げ られ る。 Brem(1956)は
,被 験者 に 8つ の製 品
(コ
ー ヒー メー カー ,グ リル メー カー ,シ
ル クスク リー ンの絵画 , トース ター ,蛍 光電気 ス タン ド,ス トップウ ォッチ ,絵 画本 ,ポ ー タブル
ラジオ)18の 好 ま しさを評価 させ ,そ の内 1つ の製 品 を提供 す る こ とを伝 えた。 そ して ,無 作 為 に
選 んだ 2つ の製品の中か ら 1つ を選 ばせ ,選 んだ製 品 を再評価 させた [p.385]。
その結果 ,2つ の
製 品の魅 力 が拮 抗 して い る場合 (代 替製 品の相対 的魅 力 が高 い),選 んだ製 品の魅 力 を増大 ,あ る
いは選 ば なか った製 品の魅 力 を減退 させ て正 当化 を測 ろ う とす る傾 向が示 された [Brem(1956),
p.386-387]。
この ように価格 の大 きさ と代替製 品の相対 的魅 力の高 さが不 協和要 因 として機能 して い るこ とが
確認 で きた。 それ では この 2つ の不協和 要 因は企業 に よって統制 可能 であ ろ うか。 まず ,価 格 に
つい ては統制可能 であ る と考 え る。例 えば ,プ レミアムモル ツな どの一般 の ビール よ りも高級 感 を
―-233-―
持 たせ る訴求 は この好例 であ ろ う。続 いて ,代 替製品の相対的魅 力に つい てだが これは統制不可能
であ る と考 える。 それは消費者 が悩 む とい った状況 は ,環 境 ,消 費者 自身 にかな り依存 す るこ とが
考 え られ るためであ る19。 続 い て ,属 す る集 団の魅 力の大 きさに ついて検討 して い く。
属 す る集 団の魅 力 と不 協和 に つい ての代表 的な研究 としては Festinger,et al.(1952)の 研究 が
挙 げ られ る。 Festinger,et al.(1952)は
,被 験者 443人 を 6∼ 7人 のグル ー プに割 り当て ,各 グルー
プは ,魅 力の高 い グル ー プ と魅 力の低 い グルー プにな るように コン トロール され る [Festinger,et
被験者 は労使紛争 に関す るケースス タデ ィを与 え られ ,そ れ に ついて
al.(1952),pp.328-331]。
∼7の 代替案 が与 え られ ,そ の中か ら自分 の意見 を選択 す る [Festinger,et al.(1952),p.329]。
1
そ
れぞれの被験者 は一定 の間の後 ,グ ルー プの他 の被験者 が どの ような意見 なのか示 され る。 これは
実験者 に よ リコン トロール されてお り,被 験者 は ,グ ルー プの ほ とん ど と意見 が同 じ (非 逸脱者 )
条 件 か 自分 の み 意 見 が違 う (逸 脱 者 )条 件 か の どち らか に割 り当 て られ る [Festinger,et al.
(1952),pp.332-333]。 そ して ,そ の後 ,筆 談 に よる議論 が行 われ ,10分 後 ,ま た 自分の意見 を聞
かれ る [Festiger,et al.(1952),p.329]。 その結果 ,魅 力が高 い グル ー プの逸脱者 の方 が ,魅 力が
低 い グループの逸脱者 よ りも意見 を変 える傾 向があ る こ とが確認 された [Festinger,et al.(1952),
p.339]20。
この ような状況 は消費者行動 的な観点 か ら考 えれば ,例 えば ,映 画 を仲 の良 い友人 グル ー プ と見
に行 き,自 分 だけ視聴 した映画 に対 す る意見 が異 な る とい う状況 が該 当す る。 しか し,こ の ような
状況 は企業側 に よって統制 す るこ とは明 らかに不可能 であ る と考 える。続 いて努力の程度 について
検討 して い く。
努 力の程度 と不協和 につい ての代 表 的な研究 としては Aronson,et al.(1959)の 研究 が挙 げ られ
る。Aronson,et al.(1959)は ,「 あ るグルー プの メンバ ー にな るため に苦痛 を伴 う加入試験 を体験
した人 は ,当 該 グル ー プの魅 力 を過大評価 す るこ とに よって不 協和 を低減 させ る傾 向があ るはずで
あ る」 [p,177]と い う仮説 の基 に検証 を行 ってい る。具体的 には ,ま ず被験者 は①厳 しい加入条件
グル ー プ ,② 優 しい 加 入 条件 グルー プ ,③ 統制 グル ー プの い ず れ か に割 り当て られ る [Aronson,
et al.(1959),p.178]。
そ して加入試験後 ,被 験者 は加入す るグルー プの退屈 で面 白 くないデ ィス
カ ッシ ョン を録音 した テー プ を聞 か され ,そ の後 テー プの 内容 に つ いて 評価 して も らう [Aron‐
son,et al.(1959),p.179]。
その結果 ,厳 しい加入条件 グループはその他の条件 のグル ー プ よ りも
デ ィス カ ッシ ョンを高 く評価 す る傾 向が示 された [Aronson,et al(1959),pp.179-180]。
顧客満足研究 の領域 において も CardOzo(1965)に よって この努 力の程 度 と不 協和 に つい ての研
究 が成 されて い る。具体 的 には ,大 学生 105人 を対 象 にボール ペ ン を購 入 す るため に掛 けた努 力の
程度 の高低 と事前 の期待水 準の高低 が評価 に どの ような影 響 を もた らすの かに つい て検証 を行 って
い る。 その結果 ,被 験者 が期待以下 のポール ペ ン を受 け取 った場 合 ,努 力の程度 が高 い被験者 は
,
努 力の程 度 の低 い被験者 よ りも高 い評価 をす る とい う こ とが実証 的 に示 された ECardOzo(1965),
p.246-247]。
―-234-―
この 努 力 の程 度 は企 業 に よって統制 可能 であ る と考 え る。例 えば ,限 定 20個 ,先 着 20名 まで と
い った限定品な どの希少性の訴求は,必 然的 に消費者 の努力の程度 を増加 させ るこ とを可能 にす る。
Leibenstein(1950)は ,こ の よ うな他者 と差異化 した い ,排 他 的 であ りた い とい った希 少性 を求
め る欲 求 をス ノ ップ効果 として提 唱 して い る [p189]。 続 いて ,強 制承諾 に つい て検討 してい く。
強制 承諾 とは ,「 私的 な受 容 を ともなわな い公的 な承諾 」 [Festinger(1957),邦 訳 ,86頁 .]の
こ とを指 し,換 言 すれば ,他 人 か ら強制的 に承諾 させ られ るこ とを指 す。 これ につい ての代表 的な
研究 としては ,Festinger,et al.(1959)が 挙 げ られ る。 Festinger,et al.(1959)は
,被 験者 に退屈
な作業 をさせ ,作 業終 了後 ,被 験者 が行 った作業 を定期 的 に行 うため に雇 われた学生 に作業 が とて
も面 白か った と伝 える よ うに つ げ る。被験者 は この行為 の前 に この行為 に対 して 1ド ル か20ド ル
の報酬 を受 け取 ってい る。作業 が面 白か った と伝 えた後 ,被 験者 は退屈 な作業 に つい て評価 させ ら
れ る [Festinger,et al.(1959),p.204206]。
その結 果 ,1ド ルの報酬 を受 けた方 が20ド ルの報酬 を
受 けた方 よ りも退 屈 な作業 を高 く評価 した [Festinger,et al.(1959),p.208]。
他人 に嘘 を つい て し
ま った 責任 に よって発 生 した不 協和 を 1ド ル で は解 消 しきれ ず ,認 知 を変 え る こ とに よって正 当
化 したのであ る。Festinger,et al.(1959)の 研究 の後 ,強 制承諾 に関す る研究 は進 み ,Harmon,et
al.(1996)に よって ,報 酬 がな く,強 制 的な承諾 に対 して断 る権利 を被験 者 に与 えた場 合 において
も不協和 が生 じ,正 当化 をす る こ とが示 された
[p.9]。
さ らに Gosling,et al.(2006)は ,報 酬 が
な く,強 制 的 な承諾 に対 して断 る権利 を被験 者 に 与えてい る場合 におい て ,責 任 がない こ とを表 明
させ る機会 を与 えれば ,不 協和 が生 じず ,正 当化 が生 じな い とし Harmon,et al.(1996)の 研究 を
補強 して い る [Goslng,et al.(2006),p.725]。
この ような状 況 は消 費者行動 の観 点 か ら考 える と,自 分 の薦 めた製 品 /サ ー ビス があ ま り良 く評
価 されなか った場合 が該 当す る。薦 めた本人 は 自分 が薦 めて しま った とい う責任 があ るため ,不 協
和 が起 こ りその製 品 /サ ー ビスを 良 く評価 せ ざ るをえな くな る。例 えば ,映 画の広告 を見 て ,面 白
そ うだ と感 じ,「 友人 に これは観 に行 くべ き」 と告 げて観 に行 って みたは いいが ,実 際 ,そ れ ほ ど
面 白 くなか った とい う場合 が これ に該 当す る。 しか し,マ ー ケテ ィング ・ コ ミュニ ケ ー シ ョンに よ
って他者 に薦 め る とい った行為 を企業側 に よって統制 す るこ とは難 しい。 マー ケテ ィング ・ コ ミュ
ニ ケーシ ョン に よって面 白そ うだ と思わせ るこ とがで きた として も,薦 め る とい う行為 までは統制
で きな い と考 える。続 いて ,最 後 の不協和要 因 であ る他者 の重要性 に つい て検討 して い く。
他者 の重 要性 と不 協 和 との 関係 に ついて の代表 的 な研究 としては Heider(1946,1958)の 研 究
が挙 げ られ る。 Heider(1946)は
,p(人 ),o(他 人 ),x(事 象 )の
3つ の実態 間 にバ ランスが存
在 しな い場 合 ,動 態的 な特性 ,あ るいは結合関係 を変 え,変 化 が可能 でな い場合 ,イ ンバ ランスの
状 態 は緊 張 を もた らす とした [pp.107-108]。 こ こで い うイン バ ラン ス は不 協 和 の こ とを指 す
[Festinger(1957),邦 訳 ,8頁 ]。 Heider(1946)│こ よれば ,「 バ ランスの状態 は ,3つ の実態 がす
べ ての 関係 にお い てポ ジテ ィブ ,あ るい は 2つ の関係 がネ ガ テ ィプ で 1つ の関係 がポ ジテ ィプの
関係 の場 合 ,生 じるJ[p.110]と して い る。 Hieder(1946)は
―-235-
,3つ の実態
(p,o,x)が す べ ての
関係 にお いてポジテ ィブであ り,バ ランスが とれている状態 として ,主 に次の2つ を提示 して い る。
①
(pLo)+ (pLx)+ (OUx)
②
(pLo)+ (pLx)+ (oLx)
Lは ,心 情 関係 ,す なわち pが あ る事象 ,人 を好 きであ るこ と,愛 して い るこ と,尊 敬 してい る
こ とな どの 関係 を示 してい る [Heider(1946),p.107,(1958),邦 訳 ,252頁 ]。
Uは ,単 位 関係
,
すなわち類似性 ,近 接性 ,所 有 ,関 連性 な どの関係 を示 して い る [Heider(1946,1958),p.107,
邦訳 ,252頁 ]。
① の関係 は ,(pは oが 好 き)+(pは xが 好 き)十 (oは xを 所 有 )と い った関係 を示 して い
る。 この関係 において ,(pは oが 好 き)+(pは xが 嫌 い)+(oは xを 所 有 )と い った場 合
,
インバ ランスな状態 ,す なわち不 協和 が生 じる。 この ような場合 ,pは xを 好 きにな る こ とに よっ
てバ ランス状態 ,す なわち不 協和 を低減 しよう とす る21。
② の関係 は ,(pは oが 好 き)+(pは xが 好 き)+(oは xが 好 き)と い った 関係 を示 して い
る。 この関係 において ,(pは oが 好 き)+(pは xが 嫌 い )+(oは xが 好 き)と い った場 合
,
インバ ランスな状態 ,す なわち不 協和 が生 じる。 この ような場合 ,pは xを 好 きにな るこ とに よっ
てバ ランス状態 ,す なわち不 協和 を低減 しよう とす る22。
この他者 の重要性 に関 しては ,有 名人広告 な どに よ り統制可能 であ る と考 える。例 えば ,あ る映
画の コ ミュニ ケ ー シ ョンを行 う場合 ,有 名人 が推 薦 す る ような訴求 を行 えば ,そ の有名人 を好 きな
消費者 は期待 はずれが生 じた として も,そ こに不協和 が生 じ,正 当化 へ と導 くこ とがで きる と考 え
る。
有名人広告 に関す る研究 は これ まで に多 くな されて きては い る ものの ,有 名人広告 が満足 にまで
影響 を及 ぼす とい う研究 はな されて いな い。例 えば ,Friedman,et al.(1976)は ,味 へ の期待 ,購
買意 図 に対 して ,広 告 でのエン ドー サ ー (特 に有名人 と当該製 品の社長 )の 起用 に意義 があ るこ と
を示 した [pp.2324]。 Baker,et al(1977)は
,エ ン ドー サ ー の魅 力の高低 が広告 へ の評価 ,購 買
意 図に影響 を与 える こ とを示 し,ま た性別 ・製 品 タイプに よって影 響 の度合 いが異 な るこ とを示 し
た [pp.547-552]。 Friedman,et al.(1979)は
,製 品 タイプに よ リエン ドーサーの効果
(広 告評
価 ,購 買意 図 ,製 品 へ の好感 )が 異 な る とい う こ と,そ して ,ブ ラン ド再認 にお い て有名人 が効果
的 であ るこ とを示 した [pp.60-70]。
Kamins,et al.(1994)は ,有 名人 と製 品 イメー ジが一致 して
い る場合 ,信 頼性 ,魅 力 ,製 品属性 へ の期待 に影響 を与 える とい う こ と,購 買意 図 に対 して非有名
人 よ り有名人 の方が効果的 であ る こ とを示 した [pp.579582]。 Chao,et al.(2005)は
,他 国の有
名人 は ,当 該 国の悪 い イメー ジを払拭 す る役割 を果 た さな い こ と,現 地 の有名人の起用 の方 が効 果
的であ る こ とを示 した [p.185]。
この ように有名人広 告 に関 す る研 究は主 に購買前 の消費者行動 に焦点 が 当て られてお り,購 買後
の評価 に至 る過程 との 関係 について焦点 が 当 て られて い な い。 よって ,有 名人広告起用 と満足 との
関係 に つい ての研 究 は大 いに意義 があ る と考 える。
―-236-―
図表 4
不協和要因と企業による統制可能性
不協和要因
統告1可 能性
決 定 の重 要 性
Enrlich,et al(1957)
価
格
代替製品の相対的魅力
Festinger(1957)
」ヽ
山
鳥 (1986)
Brem(1856)
Festinger(1957)
Festinger,et al(1952)
属する集団の魅力の大 きさ
Festinger(1957)
Lipset,et al(1954)
AronsOn,et al(1959)
Cardozo(1965)
Fastinger(1957)
強制承諾
Fastinger,et al(1959)
Gosling,et al(2006)
HarmOn,et al(1996)
Davis,et al(2001)
他者 の重要性の大 きさ
L
(対 象の重要性 の大 きさ)
(出 所
Heider(1946)
Heider(1958)
Schachter,et al(1955)
小城 他 (2010)
)著 者作成。
また ,有 名人 をア ニ メな どに置 き換 えて も同様 の こ とが考 え られ る。例 えば ,あ る製 品 /サ ー ビ
スの コ ミュニ ケー シ ョン を行 う場合 ,あ るアニ メ との タ イア ップに よる訴 求 を行 えば ,そ のアニ メ
が好 きな消費者であれば ,期 待 はずれが起 きた として も正当化 へ と導 くこ とが可能 であ る と考 える。
以上 ,不 協和要 因 とそれが企 業 の マー ケテ ィング ・ コ ミュニ ケーシ ョン に よって統制可能 であ る
か どうかを検討 して きた。 その結果 を ま とめた ものが図表 4で あ る。
次項 では これまで検討 して きた こ とに基 づ き,不 協和誘導型 モ デル を提示 す る。
5
不協和誘導型 モ デル
不協 和要 因 ,そ してその不協 和要 因の統制 可能性 か ら図表 5の よ うなモ デル を考 え る こ とがで
きる。
この不協和 誘導 型 モ デル の説 明をす る と,ま ず企 業統制 要 因 (価 格 ,努 力の程 度 ,他 者 の重要
性 )を 利用 した マー ケテ ィング ・ コ ミュニ ケー シ ョン に よって期待知識 が形成 され る。期待知識の
形成 は ,企 業統制要 因 に よって ,直 接的 に形成 され る場 合 と行動 を媒 介 して間接 的形成 され る場合
とに分かれ る。価格 の場 合 ,高 価格 の金額 を支払 った とい う行動 その もの が期 待知 識 を形成 し
,
「 これ ほ ど支払 ったのだ か ら,良 い サ ー ビス に違 いない」 とい った ように期待水準 が形成 され る。
努力 の程 度 の場合 ,そ の製 品 /サ ー ビスを獲得 す るまでの努力 とい う行動 その ものが期待知識 を形
-237-―
図表 5 不協和誘導型モデル
{対 象 の重 要性 l
マ ケ テイング
コミュニケース ン
)著 者作成。
(出 所
成 し,「 こんな に並 んだの だか ら,良 い製 品 に違 い な い」 とい った ように期待水準 が形成 され る。
他者 の重要性 /対 象の重要 性 の場 合 は ,有 名人広告 な どに よって直接 的 に形成 され ,そ の広告 か ら
得 た知識 に よ り期待水準 が形 成 され る。 そ して ,そ の期待知識 に よ り形成 された期待水準 と知 覚パ
フ ォーマンス とを比 較 して期待 はずれが起 きた場合 ,不 協和 が期待知識 よ り生 じ,「 自分 の好 きな
有名人 と同 じであ りたいJと い った心情 が正 当化 へ と導 き,期 待 はずれが抑 制 され る。 また ,企 業
非統制要 因 に よって も正 当化 へ と導 かれ る可能性 も考 え られ る。
この不協和誘導型 も期待 を高 め顧客 を獲得 す る と同時 に期待 はずれ を抑制 す る こ とがで きる と考
える。例 えば ,有 名人 があ る映画 を称賛 す るような広告 は期待 を高 め るだ ろ う。 また ,同 時 に不協
和 を誘発 させ ,期 待 はずれ を抑 制 させ る とい う効果 も期待 で きる。
V.お わ りに
これまで期待マネジメン トに関する理論的な検討を行ってきた。主に示唆された事項は次に示す
通 りであ る。
・製 品 /サ ー ビス消費前 の期待 の更新 は ,マ ー ケテ ィング ・ コ ミ ュニ ケ ー シ ョン→ 期待 水準 を形
成 す る土 台 とな る知識 ,す なわち期待知識 → 期待水準 とい うプ ロセスを辿 る。 よって ,企 業 に よる
マー ケテ ィング ・ コ ミュニ ケーシ ョンは ,期 待知識 と期待水準 の双方 を更新 させ る。
・期待 マ ネ ジ メン トには ,期 待知識 の更新 を利用 す るもの と期待水準 の更新 を利用 す る もの に分
類 され る。
期待 高低調整型 において原 因帰属 を考 慮 に い れれば ,期 待感 を高 め顧 客 を獲得 しつつ ,期 待 は
ずれの抑制 も行 うこ とがで きる。 すなわち収益面 との トレー ドオ フを解 消で きる。
・不協和要 因 (価 格 ,努 力の程度 ,他 者 (ま たは対象 )の 重要性 )を 考慮 に入 れた コ ミュニ ケー
―-238-―
シ ョン を行 う こ とに よって ,不 協和 を生 じさせ ,期 待 はずれを抑制 す る こ とがで きる。
従来 ,期 待 マ ネジ メン トと言 えば ,期 待水準 の更新 を利用 した もの (期 待高低調整型 )を 指 して
いた。本稿 では ,こ の期 待 マ ネ ジ メン トの主要 素 であ る製 品 /サ ー ビス消費前の期待 更新 プ ロセ ス
の メカニ ズム に つい て検討 す る こ とに よって ,製 品 /サ ー ビス消費前 の期待 更新 プ ロセ スが期待水
準 を形成 す る土 台 とな る知識 ,す なわち期待知識 と期待水準 か ら成立 して い るこ とが分 か った。 そ
して ,認 知 的不協和理論 に基 づ き,期 待知識 を禾1用 した期待 マ ネ ジ メン ト (不 協和誘導型 )と い う
期 待 マ ネ ジ メン トの新 しい 側面 を提 示 した。 今後 ,期 待 マ ネ ジ メン トを考 慮 す る上 で は ,製 品 /
1
サ ー ビス消費前 の期待 更新 プ ロセスが期待知識 と期待 水準双方 に よ り成立 して い るこ とを念頭 に置
│
く必要 があ る。
しか し,本 稿 では 2つ の期 待 マ ネジ メン トに つ い ての理論 的 なモ デル を提示 した ものの ,文 化
的 な要 因 な どの考 慮 まで には及 んで い な い。例 えば ,文 化 的 な要 因 ,パ ー ソナ リテ ィ要 因 に よっ
て ,原 因帰属 ,不 協和 の起 こ りやす さに違 いが 出て くる可能性 も考 え られ る。 さ らにオー ソ ドック
スな′
心理学 の理論 に終始 して しま って い るこ とも問題 であ る。 今後 ,最 新 の心理学理論 も考慮 す る
必要 があ る。 また ,本 稿 で提 示 したモ デル の実証的 な検証 も行 って い く必要 があ る。
【
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(http:〃
w― amazOn.co.jp/%E3%81%BB%E3%81%97%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%88-DVD/
dp/B0000992EC/ref=w_1_2Pie=UTF8&qid=1312875337&sr=8-2 2011年
8月 9日 アクセス)。
JD.パ ワー アジアパシフィック社 「2010年 日本ホテル宿泊客満足度調査 SM」
(http:〃
www.jdpower.co.jp/press/pdf2010/2010JapanHOtelGSI pdf 2011年 8月 15日 アクセス)。
コ ミックス・ウェープ フ ィルム株式会社 「 ほしの こえ―The voice of a distant starJ
(http:〃 www Cw■ lms.jp/hoshi/index htm1 2011年 8月 9日 アクセ ス)。
「秒速 5セ ンチ メー トルJの 公式ホームページ
(http:〃 5cm.yahoo co ip/,2011年 8月 9日 アクセス)。
「 ほしの こえJの 公式ホームページ
(http:〃
www2 odn.ne.jp/∼ ccs50140/stars/index.htm1 2011年 8月 9日 アクセス)。
lJDパ ワーアジアパ シフィック社「2010年 日本ホテル宿泊客満足度調査 SMJ
(http://www idpoWer cOjp/press/pdf2010/2010JapanHOtelGSI pdf 2011年 8月 15日 アクセス)。
2こ れは Boulding,et al(1993)の 一部分を抜粋 した ものである。
3こ の事例は,Boulding,et al(1992)│こ よる「友 人による推薦あるいは広告 といった ような新 しい情報_
[p.7]と い う外部情報の定義を参考にしてい る。
4両 面呈示 とは,広 告 コ ミュニケーシ ョンを行 う際に「長所だけでな く欠点をもあわせて伝 えようとするもの_
(1997),155頁 ]を い う。また「商品の長所 だけを主張 して肯定的な態度を形成させようとする コ
ニ
ミュ ケーシ ョンJ[中 谷内 (1997),155頁 ]の ことを一面呈示 とい う。
5こ の予測的期待は,Bolllding,et al(1992,1993)の WEに 該当す るものである。
[中 谷内
6こ の他 に Bitner(1990)│ま ,補 償 ,物 理的環境
(オ フ ィス内が良 く整理 されてい るか否か)も
原因帰属に影
響を与 え,失 敗を緩和することを示 してい る [p76,p78]。
7藤 村 (1995)も Bitner(1990)の モデルか ら同様の見解を述 べてお り,広 告が原因帰属に影響を与 え,不 満
足 を抑制する可能性 を指摘 してい る [p431]。 しか し,期 待感 を高め収益性 を高める ことと期待水準 を下
げ,期 待はずれを抑制する ことの両立性の観点 に関 してまでは言及 して いない。 また,サ ー ビス業以外の可
能性やモデルの検討についての検討までは行 っていない。
8コ ミックス・ウェープ フ ィルム株式会社「 ほしのこえ―The
voice of a distant starJ
8月 9日 アクセス)。
(http:〃 www Cwilms.jp/hOshi/index htm1 2011年
9 YahoO Japanに より運営 されて いる新海誠監督作品「秒速 5セ ンチメー トルJ公 式ホームペ ージ内における
「作品集」 より。
10同 上。
1l Amazon cojp「 ほしの こえ [DVD]」
(http:〃
www amazOn cojp/%E3%81%BB%E3%81%97%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%88-DVD
/dp/B0000992EC/ref=sr_1_2Pie=UTF8&qid=1312875337&sr=8-2 2011年 8月 9日 アクセス)。
12映 画「ほ しの こえ」 は,映 画公開後 か ら DVD販 売までの間, 日本では大阪 ・プラネ ッ ト映画祭 ,東 京 ビ ッ
クサイ ト CG Carniva1 2002と いった祭典 においての教で しか公開されていない [http://wヽいv2odn.ne.jp
∼ccs50140/stars/index.htm1 2011年 8月 9日 アクセス]。
―-241-―
Amazon.co.jpに おいて 3点 以上の評価 をしてい るレビュアー (57名
ドを含んでいる (2011年 8月 11日 時点)。
)の 内,30名 が個人製作 に関するワー
「 ほ しの こえJの 公式ホームペ ー ジ (http://www2.odn ne ip/∼ CCS50140/stars/index.htm1 2011年 8月 9
日アクセス)よ り。
Festinger(1957)は ,決 定の重要性の高さを説明する箇所 において,自 動車の買 い替 えの事例を出している
[邦 訳 ,38頁 ]。
この ことか ら,高 価格の製品/サ ービスの購入において決定の重要性が高 くなることが考 え
られる。
Festinger(1957)は ,決 定の重要性 と選ばれなか った選択肢の相対的魅力を別 々に扱 っているが,決 定の重
要性の高 さを説 明する箇所 において,「 ある職 を捨てて別の職につ くJと い う選ばれなかった選択肢の相対
的魅力が高 い事例を引 き合いに出 している [邦 訳 ,38頁 ]。 よって,本 稿では これ らの文脈 か ら決定の重要
性は,選 ばれなかった選択肢の相対的魅力が高ければ高 くなるとい う解釈を行 っている。
小嶋 (1986)も ,高 価格の商品購入後 ,無 意識の うちに「 自分の買った品はその値段だけの値打ちがあるの
だ」 と思い込む ことによ り不協和解消を行い,ま た情報探索 へ関心が向 くことを指摘 してい る [115頁 ]。
この 8つ の製品はどれ も15∼ 30ド ルの範囲の ものである [Brem(1956),p.384]。
Brem(1956)│ま ,別 の検証 において類似の製品間 において不協和の低減 ,す なわち正当化がほ とん ど行わ
れなかった ことを示 してい る [pp 388-389]。
よって,PS3や iPadな どに見 られるパージ ョンの違 いは,こ
の代替製品の相対的魅力の高さには該当しない。
20
Lipset,et al(1954)は ,1回 目のインタビューで 自分の支持 してい る政党の人物 を支持 していない場合 ,2
回 目の インタビューで意見を変 える (支 持する)傾 向がある ことを示 して い る [p.1161]。 政党の場合 ,同
じ政党で交際することが常であ り,自 分の支持 してい る政党の人物を支持 しない とい う意見に接触すること
がほ とんどない。そのため,こ の ような変化 が起 きるのである [Festinger(1957),邦 訳 ,199頁 ]。
小城他 (2010)は ファンは好 きな有名人のスキャンダルを許容する傾向があることを示 してい る。 この場合
,
ファンは (pLo),ス キ ャンダルは (pUx),ス キャンダルを許容することは (pLo)に 該当する。Schachter,
et al(1955)も 自分の友人が教室か ら連れ出された ときに好意的な噂を広め ようとする傾向があることを示
している。 この研究 も「友人 が教室か ら連れ出されたJこ とをスキャンダル と捉えれば小城他 (2010)と 同
様の関係がいえる。
Davis,et al.(2001)は この ような関係性 があることをカップルを対象 とした検証から示 している。
―-242-―
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