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健やかな睡眠のための相談指導の手引き [PDFファイル/4.51

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健やかな睡眠のための相談指導の手引き [PDFファイル/4.51
INDEX
1.
はじめに …………………………………………………………………………1
2.
指導・助言の手順 ………………………………………………………………2
3.
睡眠の問題に関する現状 ………………………………………………………3
(1) 睡眠時間
(2) 睡眠の問題
4.
睡眠についての基礎知識 ………………………………………………………4
(1) 睡眠のメカニズム
(2) 睡眠の量と質
(3) レム睡眠、ノンレム睡眠
5.
6.
7.
8.
睡眠状態の聞きとり ……………………………………………………………6
例えば、生活習慣病をはじめとする様々な身体面の不調が睡眠障害の原因となる
一方、睡眠障害そのものが心疾患をはじめとする身体疾患を悪化させることが報告
されています。
また、睡眠障害はうつ病にほぼ必発の症状であるとともに、うつ病の発症・再発
の危険因子であることが知られています。
従いまして、早めに睡眠障害を治療することにより身体疾患や精神疾患の予防に
つながると考えられます。また、睡眠障害とは言う程度ではなくても、何らかの睡
一方では、既に治療を要する程の睡眠障害を抱えている方を早めに発見し、医療機
睡眠の評価 ………………………………………………………………………9
関につなげることも大切です。
(1) 自分で記入するタイプの評価法 睡眠の問題が自殺の危険性を高めるとする報告がみられます。例えば、10 年以
(2) 終夜睡眠ポリグラフ検査
上にわたり一般住民を対象とした研究では、睡眠障害が自殺による死亡を予測した
(3) 反復睡眠潜時検査
とする報告がいくつかあります。また、気分障害患者を対象とした研究では、睡眠
睡眠障害と健康 …………………………………………………………………12
障害が希死念慮の出現を予測したとする報告があります。従いまして、睡眠の問題
(1) 睡眠時間と寿命
を早期に発見し、相談や治療につなげることが、自殺対策の有効な方法の一つにな
(2) 睡眠と心身の健康との関連
り得ると考えられます。
睡眠障害の診断 …………………………………………………………………14
睡眠障害の治療 …………………………………………………………………16
(2) 認知行動療法
睡眠薬について …………………………………………………………………18
(1) ベンゾジアゼピン受容体作動薬
(2) メラトニン受容体作動薬
(3) その他の薬
12.
神疾患と密接な双方向性の関連がみられます。
(2) 睡眠状態のチェックリスト
(1) 特殊な睡眠覚醒障害の治療法
11.
作業能力の低下などの直接的な影響ももたらします。さらに、睡眠は身体疾患・精
眠の問題で悩んでいる時点で、適切な指導・助言を行う事も重要と考えられます。
(2) 専門医へ紹介すべき状態
10.
睡眠の問題は、それ自体が強い悩みの原因となりますが、日中の眠気や体の不調、
(1) 睡眠状態の聞きとりのポイント (1) 睡眠障害の診断
9.
1.はじめに
…………………………………………………21
睡眠改善のためのプログラム 資料 ………………………………………………………………………………27
エップワース眠気尺度 睡眠日誌 うつ状態のチェックリスト
今回、睡眠の問題に悩む方に関する指導・助言に役立ててもらう事、医療機関に
つなぐ必要のある方を早期発見する事の 2 点を目的とした手引きを作成しました。
指導にあたる皆さんが一層深く勉強できるような糸口となることも意図しておりま
す。
本手引きの使い方としては、時間に余裕がない場合は、「5.睡眠状態の聞きと
り」、「6.睡眠の評価」、「8.睡眠障害の診断」、「11.睡眠改善のためのプ
ログラム」に目を通して頂ければと思います。また、次ページに実際の使用法の例
を示した流れ図も載せていますので参考にして下さい。
睡眠の問題をきっかけにしまして、一般の方々への健康面の助言・指導に役立て
て頂ければと思います。ご活用頂ければ幸いです。
大分県こころとからだの相談支援センター
所長 土山 幸之助
1
2.指導・助言の手順
3.睡眠の問題に関する現状
不眠の訴え
(1) 睡眠時間
大分県民対象の調査では、睡眠時間は図のように、10 代の男女、30 代男性、40
代女性で短い傾向がみられます。いずれもその半数は平均睡眠時間が 6 時間未満
「5 睡眠状態の聞きとり(p6)」
で、比較的若年者の睡眠不足が特徴的
・不眠の有無、不眠のタイプの確認
です。
ちなみに、日本人の睡眠時間は年々
問題なし
減少傾向にあり、2011 年の社会生活
問題あり
さらに専門医に紹介するべき状態(p15)かどうか聞きとる
必要に応じて、
「11 睡
眠改善のためのプログ
ラ ム(p21)
」等 情 報
提供する
基本調査では、全国平均 7 時間 42 分、
大 分 県 は 7 時 間 45 分( 全 国 15 位 )
でした。
紹介するべき状態ではない
一日の平均睡眠時間(男性)
合計
15∼19歳
5 時間未満
20∼29歳
5時間以上6時間未満
30∼39歳
6時間以上7時間未満
40∼49歳
7時間以上8時間未満
50∼59歳
8時間以上9時間未満
60∼69歳
9時間以上
70歳以上
0%
紹介するべき状態
20%
40%
60%
80% 100%
(県民生活習慣実態調査 2011)
生活習慣や睡眠環境に問題あり
生活習慣や睡眠環境に問題なし
(2) 睡眠の問題
① 日本人の 5 人に 1 人は睡眠の問題で悩んでいる
日本人成人を対象とした調査では、
「11 睡眠改善のためのプ
ログラム(p21)
」
「7 睡眠障害と健康(p12)」
等について情報提供し指
導する
本人の自覚と聞きと
りでの睡眠の状態が
異なる
本人の自覚、聞きと
りの両面から不眠が
みとめられる
過去1か月間に週 3 回以上 30 分以内
に寝付けなかった、あるいは夜中に
目が覚めた人の割合は、男性 17.3%、
女性 21.5% でした。また、インター
ネット調査でも、全体の約 27% が眠
「6 睡眠の評価(p9)」
れず、不眠症ではないかと悩んでいる
・睡眠日誌(p28)により睡眠状態を確認
という回答でした。
・眠気が強い場合は、エップワース眠気尺度
(p27)で眠気をチェック
一日の平均睡眠時間(女性)
合計
15∼19歳
5 時間未満
20∼29歳
5時間以上6時間未満
30∼39歳
6時間以上7時間未満
40∼49歳
7時間以上8時間未満
50∼59歳
8時間以上9時間未満
60∼69歳
9時間以上
70歳以上
0%
20%
40%
60%
80% 100%
(県民生活実態習慣調査 2011)
② 睡眠による休養が充分とれていない
問題なし
15 歳以上の大分県民を対象とした生活習慣実態調査 (2011) では、睡眠による休
問題あり
養がとれていないと回答した人の割合は、男性 38.6%、女性 41.4% を占めました。
ちなみに、全国的にみると、15 歳以上を対象とした国民健康・栄養調査 (2007) で
必要に応じて、
「11 睡
眠改善のためのプログ
ラ ム(p21)
」に つ い
て情報提供する
2
医療機関への相談を検討する
医療機関(専
門医)への相
談を勧める
は、睡眠による休養が充分とれていないと回答した人の割合は、男性 21.9%、女
性 23.5% で、男女とも約 2 割が睡眠によって十分な休養がとれていないと感じて
います。
3
4.睡眠についての基礎知識
(1) 睡眠のメカニズム
ヒトの睡眠は、2 つのメカニズムによりもたらされます。
「レム睡眠 、ノンレム睡眠」
体を休ませる睡眠
脳を休ませる睡眠
レム睡眠
ノンレム睡眠
1 つは、「長時間起きていることにより眠くなるしくみ」です。「恒常性維持機構」
と呼ばれます。このしくみでは、目覚めている間に体内に睡眠物質がたまり、脳の活
動が低下して眠くなります。つまり、覚醒していた時間に依存するしくみといえます。
例えば、徹夜をすると、次の晩はぐっすりと長時間眠ります。これは、徹夜で長時間
覚醒している間に、体内にたくさんの睡眠物質がたまるため、深く長く眠るのです。
もう 1 つのしくみは、
「夜になると眠くなるしくみ」です。「体内時計機構」と呼ば
レム(REM)=
ノンレム(Non-REM)=
Rapid Eye Movement
Non-Rapid Eye Movement
眼球が活溌に動いている
特徴
眼球が活溌に動いていない
全身の筋肉は完全に弛緩
体
起きている時よりは弛緩
脳は活溌に活動
脳
脳の活動は低下
浅い
睡眠の
深さ
深い
れます。このしくみでは、脳内にある体内時計の働きにより、夜になると体と心を休
息の状態に切り替えて自然に眠くなります。
(2) 睡眠の量(睡眠時間)と質(睡眠の深さ)
睡眠の量(睡眠時間)と質(睡眠の深さ)の両方が十分で初めて十分な睡眠がとれ
睡眠障害の対応と治療ガイドラインより
たといえます。従って、睡眠状態の良し悪しは、この両者を見ていく必要があります。
また、必要な睡眠の質・量は年齢で異なります。加齢に伴い朝早くに目覚めるよう
になり、睡眠は浅くなります。その結果不眠の有症率は加齢に伴い増えていきます。
健康成人の睡眠パターン
(3) レム睡眠、ノンレム睡眠
夜間の睡眠は 2 種類あり、「レム睡眠」、「ノンレム睡眠」と区別され、以下の様な
レム睡眠とノンレム睡眠は、
約 90 分周期で繰り返されます。
特徴があります。
① 一晩にノンレム睡眠、レム睡眠からなるサイクルを多くの場合 4 ~ 5 回繰り
返します。
れます。
③ レム睡眠は主に鮮明な夢(悪夢を含む)を見る睡眠です。レム睡眠中、眼球
は活発に動いていますが、全身の筋肉は弛緩しており、一種の金縛り状態とな
ります。そのため、例えば何かに追いかけられる夢を見たとしても実際には逃
げ出すような動作をしたり、大声で叫んだりすることは通常ありません。また、
レム睡眠中は呼吸、脈拍、血圧などの自律神経系が極めて不安定になります。
④ ノンレム睡眠は脳が休息する睡眠で、睡眠の深さによって 4 段階に分けられ
ます。
4
覚醒
レム睡眠
ノンレム睡眠
② 熟睡とされる深いノンレム睡眠は睡眠の前半に多く、レム睡眠は後半に多く見ら
健康な人でも一晩で数回、
短い覚醒が起こります。
段階1
段階2
段階3
段階4
0:00
2:00
寝つくとすぐに、
脳を休める深い眠りに入ります。
4:00
6:00
8:00
後半になると浅い眠りが多くなり、
徐々に脳が活性化して目覚めます。
井上雄一:ササッとわかる
「睡眠障害」
解消法
(講談社)
,p11,2007, 改変
5
5.睡眠状態の聞きとり
夜間の目覚め(中途覚醒)
▶眠ってから途中で目が覚めることはありませんか?
ここでは睡眠についての聞きとりとその結果をどのように判断していくかにつ
また、目が覚めた後、寝付けない事はありませんか?
いて説明します。
早朝の目覚め(早朝覚醒)
睡眠に関しては、睡眠時間および不眠や睡眠に関する満足度について尋ねると
ともに、日中の眠気や普段の生活に差し障りがないか等を聞いていきます。
多くの方が、睡眠時間そのものを気にされますが、睡眠時間には個人差があり、
同じ人でも年齢などにより変動します。例えば、「理想の睡眠時間は 8 時間」と
よくいわれますが、実際には、健康な人の睡眠時間はおよそ 7 時間弱です。年代
別の平均睡眠時間をみますと、15 歳未満は 8 時間以上、25 歳で約 7 時間、45
歳で 6.5 時間、65 歳で 6 時間と年代により違いがあり、睡眠時間の長短のみで
睡眠状態の良し悪しを判断することは出来ません。また、睡眠時間が短いことを
気にされる方もいらっしゃいますが、ある程度の熟眠感があり、日中の生活に支
障がないようであれば、それほど心配する必要はないと考えられます。
このように、睡眠について相談を受けた際、睡眠時間だけでなく熟眠感や日中
の眠気、また、その悩みがいつから始まりどの程度なのか等、本人の自覚的側面
についても聞きとり、「睡眠の質」を明らかにしていきましょう。
(1) 睡眠状態の聞きとりのポイント
睡眠の状態を聞きとるための質問例を参考までに下記に示しました。
この質問の例は、睡眠の問題を明らかにできるよう構成されています。生活習慣や睡
眠環境に問題があると思われた場合は、p21 で紹介する「11 睡眠改善のためのプログ
ラム」に基づき指導を行うことや p8 で紹介する「睡眠状態のチェックリスト」を用いる
▶いつもより朝早く目が覚めることはありませんか?
睡眠の満足度
▶今の睡眠状態に満足していますか?
朝、すっきりと目覚めることができていますか?
③ 不眠はいつ頃始まったか
▶眠れなくなったのはいつ頃からですか?
例:2 ~ 3 日前から、2 ~ 3 週間前から、1 ヶ月以上前から
▶以前は、何時に眠って何時に起きる生活習慣でしたか?
▶きっかけとなる出来事(身体疾患等含む)はありませんか?
④ どれくらいの頻度であるか
▶週何日ぐらい眠れませんでしたか 例:ほとんど毎日、週半分程度、週にせいぜい 1 ~ 2 日等
⑤ 日中に困ることはないか
▶生活(学業、仕事、家事 等)に差し障りとなるような昼間の眠気はあり
ませんか?
▶昼間、つい居眠りをしてしまうことはありませんか?
などし、
医療機関や睡眠の専門医に相談を勧めた方がよいかどうかを検討してください。
⑥ 睡眠の環境について
また、現時点で医療機関に受診するほどの大きな問題がない場合も、より良好な睡
▶眠りにくい環境(騒音・まぶしさ)ではありませんか?
眠のために、p21 で紹介する「11 睡眠改善のためのプログラム」の情報提供を行っ
▶仕事の時間が、不規則勤務や交替勤務ではありませんか? てください。
<睡眠の状態を聞き取るための質問の例>
① 睡眠時間について
▶朝何時頃に起床し、夜何時頃に布団に入りますか?
② どのような不眠か
寝付き(入眠困難)
6
▶布団に入ってすぐに眠れましたか?
⑦ 問題となる行動はないか
▶寝酒の習慣はありませんか?
▶睡眠を促す市販薬を服用する習慣はありませんか?
⑧ うつ症状はないか
▶気分のおちこみや何もする気がおきない様なことはないですか?
※うつ症状の具体的な聞き取りはp 32 を参照してください
7
(2) 睡眠状態のチェックリスト
最近 1 か月間の睡眠状態の聞きとりをして、下記のような症状が多く認められた
場合は、不眠症の可能性が高く注意が必要です。判断の参考にしてください。
6.睡眠の評価
(1) 自分で記入するタイプの評価法
① 質問票
いくつかの質問に自分で回答する形の評価法です。
以下のようなものがあります。
・ピッツバーグ睡眠質問票(PSIQ):最近 1 か月以内の睡眠状況の評価
睡眠状態のチェックリスト
・エップワース眠気尺度(ESS 日本語版)
:日常の活動の中で経験する眠気の評価
(p27)
□ 寝付きの悪い日が週 3 日以上ある
□ 夜間、睡眠の途中で目が覚めることが週 3 日以上ある
□ 希望する起床時間よりも早く目が覚め、そのまま眠れないことが週 3 日
・レストレスレッグス症候群の重症度スケール(IRLS):レストレスレッグス症
以上ある
毎日の睡眠について自分で記録するもので、寝床に入った時刻と眠りについた
□ 日中の眠気が大変強い
□ 日中の眠気で仕事や家事などに支障がある
□ 現在の睡眠で十分な休養がとれていないと感じる
□ 眠れないために非常に苦痛を感じる
時刻、目を覚ました時刻、眠りの状態、昼寝や居眠りなどを書き込みます。日常
候群の症状が日常の活動や睡眠に与える影響の評価
② 睡眠日誌
の睡眠習慣や生活リズムの把握ができます。入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒など
の不眠のタイプの評価や、睡眠覚醒リズムの評価にも用いられます。自覚的な睡
眠時間と(2)のような検査による客観的な睡眠時間には人によってかなりの違
いが現れます。自覚的な睡眠時間は過大評価/過小評価されることもあるので、
ここで述べる各種検査による多面的な評価が大切です。睡眠日誌を記入し、あま
りにも眠れないと訴える場合は、(2)のような客観的な検査を勧めることも必
要となります。
また、睡眠に関しては多くの場合、よく眠れた日とよく眠れない日があるとい
うように日ごとに変動することが一般的です。従って、1 ~ 2 日といった短期間
の記録でなく、少なくとも 2 週間程度連続して記録し、経過を見る必要がありま
す。さらに、夜間の睡眠状態は日中の活動性と密接な関連があるため、夜間の睡
眠状態のみならず、日中の居眠りや活動内容なども書き込んでもらいます。(実
際の様式と記入例は p28)
(2) 終夜睡眠ポリグラフ検査
睡眠中の脳波や眼球運動、呼吸運動、筋電図などを測定することにより、夜間の
睡眠状態を最も詳細に調べる検査です。睡眠中の様子をビデオ撮影することもあり
ます。呼吸の低下や足がピクピクする動き、睡眠中の異常行動などの評価に用いら
れます。睡眠障害の詳しい診断をつけるためには専門機関に入院してこの検査を行
8
9
います。睡眠時間や睡眠構造を含め、詳細な睡眠の判定を行うには欠かせない検査
<終夜睡眠ポリグラフ検査>
です。診断や治療の項目で述べる睡眠時無呼吸症候群の診断・治療効果の判定には
必須の検査です。また、後述のレム睡眠行動障害の診断確定には本検査によりレム
睡眠そのものの異常、レム睡眠期に寝言を含めた行動が出現することを確認する必
要があります。
脳 波
(3) 反復睡眠潜時検査
基本的には終夜睡眠ポリグラフ検査とほぼ同様の検査項目に関して、日中時間を
おいて繰り返し行うものです。眠気をみるために寝つくまでの時間を計測したり、
寝つく際のレム睡眠が出現するかどうかをみます。ナルコレプシーなど、病的な日
中の眠気がある過眠症の診断や治療効果の評価に用いられます。通常一日がかりで
行う検査で、十分睡眠がとれた翌日 10 時から 2 時間ごとに 4 ~ 5 回検査室で就寝
眼電図
呼吸センサー(口と鼻)
筋電図
呼吸運動センサー
心電図
してもらいます。専門の医療機関による実施と判定が必要となります。
呼吸運動センサー
動脈血酸素飽和度
コラム:体動計測法(アクチグラフ)
腕時計のような機器を手首に装着することで、一日の行動量が記録されます。日
中の活動の様子や、夜中に寝ているかどうかが客観的に判断できます。睡眠覚醒リ
ズムや過眠症の評価に用いられます。現時点では主に睡眠の研究のために利用され
ていますが、今後臨床の場で実際の検査法として使用されるようになることが期待
筋電図
されています。
脳 波:覚醒と睡眠の状態の変化、睡眠の深さを調べる
眼電図:睡眠中の眼球の動きを調べる
筋電図:睡眠中の筋肉の動きを調べる
心電図:睡眠中の心拍数の変化や不整脈の出現などを調べる
呼吸(運動)センサー:睡眠中の呼吸の様子を調べる
動 脈 血 酸 素 飽 和 度 :血中の酸素濃度を調べる
10
11
7.睡眠障害と健康
響
影
悪
の
眠
不
(1) 睡眠時間と寿命
必要な睡眠時間には個人差があります。しかし睡眠時間と死亡率には U 字型の
関係が報告されています。例えばアメリカで約 110 万人を対象に 6 年間追跡した
調査では、6 ~ 7 時間の睡眠をとる人の死亡率が最も低く、それ以上の睡眠時間で
もそれ以下の睡眠時間でも死亡率は上昇するとの報告があります。
(2) 睡眠と心身の健康との関連
身体疾患 の
誘因・増悪
昼間の眠気
倦怠感、頭重感
不安、いらいら
医療費の増大
うつ病の
誘因・増悪
不眠
産業事故の誘因
常習欠席
(欠勤)の増加
仕事上の能率や
生産性の低下
交通事故の誘因
※
① 不眠は社会面、健康面にも大きな影響を与えます。直接的な影響としては昼間
の眠気や倦怠感、産業事故や交通事故の誘因、仕事の能率・生産性の低下などで、
子供では遅刻や欠席など学業にも悪影響が見られます。長期的には、肥満、生活
習慣病(糖尿病、高血圧)などの身体疾患の悪化につながると報告されています。
特に睡眠中のいびき、無呼吸を特徴とする睡眠時無呼吸症候群では狭心症や心筋
梗塞などの心疾患の危険性が高まり、睡眠時無呼吸症候群は生命に関わる病気と
いえます。
② 精神面への影響としては、慢性化した不眠を持つ人では不眠のない人に比べて
うつ病発症のリスクが数倍~ 40 倍に高まることが知られています。
※高血圧・糖尿病・狭心症・心筋梗塞・脳血管障害・癌など
③ また、交代勤務者や深夜労働者は睡眠のリズムが乱れやすく、消化性潰瘍やう
つ病にかかりやすいと報告されています。そのため深夜勤務中に短期間の仮眠時
間を確保するなど労働者の睡眠を確保することは、心身の健康を保つ上で重要で
す。
12
13
8.睡眠障害の診断
(1)
睡眠障害の診断
睡眠障害は不眠や日中の過眠の他にも、様々な症状を伴います。それぞれの疾患
と、特徴的な症状を紹介します。
① 不眠症:成人の約 2 割にみられます。寝つきに 30 分~ 1 時間かかる、睡眠中
に何度も目が覚める、普段より 2 時間以上前に目が覚めてしまうなどあり、本人
が苦痛を感じている状態です。一旦不眠となると睡眠に対して不安、緊張を感じ、
神経が高ぶってさらに不眠となります。
② 睡眠時無呼吸症候群:加齢と共に有病率は増えます。家族にいびき、無呼吸を
指摘されて発覚する場合がほとんどです。夜間の睡眠が浅く、そのため日中強い
眠気を生じます。
③ ナルコレプシー:代表的な過眠症疾患です。多くは 10 代で発症します。日中
耐えがたい眠気に襲われ、15 分程度の居眠りを繰り返します。眠気は非常に強く、
(2)専門医へ紹介すべき状態
(1)をもとに、専門医に紹介すべき状態をまとめました。睡眠中の症状は、本人
が自覚できない症状も多々あります。家族からの客観的な評価が重要です。
専門医へ紹介すべき状態
① 隣の部屋に聞こえるほどのいびき、睡眠中の無呼吸
② ありえない状況でねむってしまう、感情が高ぶった時に脱力発作がある。
③ 夢に反応して叫ぶ、暴力をふるう
④ 寝つくときや睡眠中の脚のムズムズ感、脚のピクつき
⑤ 活気が無い、悲観的、食欲がないなどうつ病を疑う時
食事中や歩行中などにも眠ってしまうほどです。「笑う」「怒る」など感情がたか
ぶったときに全身もしくは一部の力が急に抜けてしまう「情動脱力発作」や金縛
り、入眠時の幻覚、眠気と闘っているときに無意識に日常的な動作をし、本人は
①から④は、無呼吸外来やいびき外来を勧めてください。
覚えていない(例:パソコンをずっと入力していたようだが全く文章になってい
⑤は、かかりつけ医、精神科、心療内科への相談を勧めてください。
ない)という自動症が特徴的な症状です。
④ 睡眠相後退症候群:寝つく時間、覚醒する時間が両方とも遅れてしまい、昼や
夕方覚醒するため学校や会社に行けないなど生活に支障が出た状態です。小学校
高学年~高校生にかけて発症しやすいです。
⑤ レム睡眠行動障害:レム睡眠中に筋肉の弛緩が不十分で、夢を見ているときに
叫ぶ、暴力をふるうなどの異常行動が見られます。50 代以降に見られやすく、パー
キンソン病やレビー小体型認知症などの脳変性疾患の初発症状として出現するこ
ともあり、近年注目されています。
⑥ レストレスレッグス症候群、周期性四肢運動障害:どちらもドパミンの不足が
関与していると考えられており、併発しやすい疾患です。レストレスレッグス症
候群は寝ようとするとき、寝ているときにふくらはぎから太ももにかけて脚がム
ズムズする不快感があり睡眠が障害されます。周期性四肢運動障害は寝ていると
きに脚がピクピクと動き、その刺激で睡眠が障害されます。
⑦ うつ病:睡眠障害ではありませんが、うつ病の 9 割以上で睡眠障害を伴います。
不眠や過眠が長引くときはうつ病が潜んでいないか専門医に相談して下さい。
14
15
9.睡眠障害の治療
一口に睡眠障害といっても、実に多くの障害を含んでいます。2005 年に発表さ
④ 睡眠相後退症候群
ビタミン B12 の投与や高照度光療法を行ないます。
高照度光療法:高照度の人工光を、一定時間浴びる治療法です。通常 2500lux
れた米国睡眠医学会による睡眠障害国際分類(第 2 版)によると、睡眠障害は 85
以上の人工光が用いられます。従来 2500lux, 2 時間照射が行われていましたが、
種類に分類されています。したがって、きちんとした治療の前提としてはより的確
最近ではより照度を上げて、照射時間を短くする工夫がされています。なるべく
な診断が求められます。
起床後すぐに光を浴びることが効果的であるといわれています。高照度光の早朝
本手引きの目的は、睡眠に関する問題について、①医療への受診を促す必要があ
の照射により、睡眠覚醒リズムが前倒しされると言われ、夜眠くなる時刻、朝目
るか判断する目安の提供②そうでない場合に適切な助言の材料の提供の 2 点にあり
覚める時刻が早くなります。
ます。したがって、医療機関への受診をすすめる場合の基礎知識としてどのような
⑤ ナルコレプシー
治療法があるかについて概説します。 ナルコレプシーの主症状は日中の眠気と情動脱力発作です。
睡眠障害の治療法としては、いくつかの疾患毎の特殊な治療法、認知行動療法、
日中の眠気に対しては、モディオダールなどが有効で、情動脱力発作に対して
睡眠薬による治療に分けられます。
は、抗うつ薬が有効です。ただし、診断や投与前の評価は睡眠の専門の医師に依
ここでは、いくつかの睡眠障害に用いる特殊な治療法について、まず説明します。
頼する必要があります。
診断の章でも述べましたように、次の様な病気の場合には、専門の医療機関での
検査・治療が必要となります。
(2) 認知行動療法
① 睡眠衛生教育:睡眠習慣に関する正しい知識を伝え、好ましい睡眠習慣の獲得
(1)
特殊な睡眠覚醒障害の治療法
① 睡眠時無呼吸症候群
基本的には、次のような生活指導を行います。肥満に対してまず減量を試みる。
を目指します。
② 刺激制御療法:ベッドを睡眠と性生活以外に用いず、10 分以上経って眠れな
ければベッドを離れます。
喫煙者に対しては禁煙を促す。アルコール、睡眠薬は無呼吸を悪化させるため、
③ 睡眠制限療法:夜間の長い臥床時間をさけ、床上時間(夜間就寝している時間)
使用しない。生活習慣病の患者には合わせて十分な治療を受けてもらう。いびき
を平均睡眠時間+ 15 分まで短縮します。5 日ごとに睡眠効率(睡眠時間 / 床上
の目立つ人にはあおむけに寝ないような指導をする。
時間× 100)を計算し、90%以上あれば床上時間を 15 分ずつ長くします。
持続陽圧呼吸治療:1981 年閉塞型睡眠時無呼吸症候群の治療法として初めて
④ 自律訓練法などのリラクゼーション法を利用します。
報告され、現在では在宅の治療法として、その有用性が確立され、幅広く用いら
⑤ 認知療法:慢性の不眠症では、睡眠に関しての誤った思考により、不安やイラ
れています。実際には、夜間睡眠中にマスクを装着し、気流を気道にふき入れる
イラなどが引きおこされ、その結果夜間の覚醒が起こり、不眠につながると考え
方法です。診断・治療前の評価には夜間のポリグラフ検査が必須となります。
られています。認知療法では、この誤った思考を別の考え方に置き換えることに
② レム睡眠行動障害
より、不安などを軽減させ、不眠を改善させようとする方法です。思考再構成法
ランドセンやリボトリールなどの薬物が多くの例で有効です。ただし、ランド
とも呼ばれます。
センやリボトリールは呼吸抑制作用があるため、投与前に睡眠時無呼吸症候群が
ないかを確認する必要があります。
なお、「11. 睡眠改善のためのプログラム」(p21)に認知行動療法の要素を盛り
③ レストレスレッグ症候群・周期性四肢運動障害
込んだプログラムを紹介します。
ビ・シフロールやランドセン、リボトリールが有効です。
医療機関でも、例えば慢性の不眠症の治療では、睡眠薬の投与だけではなく、認
知行動療法などを利用した薬物以外のアプローチが大切です。
16
17
10.睡眠薬について
(1) ベンゾジアゼピン受容体作動薬
強く現れるときには、深い睡眠を増やす効果のある抗うつ薬や、鎮静効果の高い
抗精神病薬、興奮やイライラを鎮める効果のある漢方薬(抑肝散)などが使用さ
現在もっともよく使われている睡眠薬です。催眠作用のほか、不安を和らげる
れることもあります。ただし、これらの薬剤の使用には専門医の判断が必要です。
作用や、筋肉の緊張を和らげる作用をもつものもあります。作用時間の長さによっ
て超短時間作用型・短時間作用型・中間作用型・長時間作用型の 4 つの型に分け
られ、入眠困難や中途覚醒など不眠のタイプによって使い分けられます。代表的
◆
Q1. 睡眠薬を飲んでいると、物忘れがひどくなるのでは?
な薬剤としてはハルシオン、レンドルミン、ロヒプノールなどがあります。
前述の記憶障害のような副作用はありますが、一時的なものであり、睡眠薬の
<ベンゾジアゼピン受容体作動薬の主な副作用>
持ち越し効果
筋弛緩作用
ために認知症になるということはありません。
薬の効果が翌日まで続いてしまうことで、日中の眠気やふらつ
Q2. 睡眠薬は飲み続けると依存になるのでは?
き、頭痛などが現れます。
かつて睡眠薬の主流だったバルビツール酸系睡眠薬では依存や耐性の問題があ
筋肉の緊張が和らぐ効果により、ふらついたり転倒したりする
りましたが、現在使用されている薬では依存性は低いといわれています。ただし、
ことがあります。特に高齢者で注意が必要です。
乱用やアルコールとの併用など不適切な使用をしている場合はその限りではあり
ません。
服用後から寝つくまでの出来事や、夜中目が覚めたときのこと
記憶障害
を忘れる(前行性健忘)ことがあります。アルコールとの併用
※常用量依存について
で高頻度に起こるので注意が必要です。
反跳性不眠
退薬症状
睡眠薬についての疑問と誤解
作用時間が短いタイプの睡眠薬を飲んでいる人では、「今夜は眠れないのでは
ないか」と不安になって薬をやめられなくなることがあります。これは適切な使
睡眠薬を突然中断すると、以前よりも強い不眠や、不安、イラ
用量の範囲内でも起こりうるので『常用量依存』と呼ばれます。作用時間の長い
イラ感、手足の震え、発汗などが現れることがあります。
タイプに切り替える、服用量を徐々に減らしていくなどの工夫により改善するの
で、医師とよく相談しながら服薬の仕方を検討していくことが大切です。
上記の副作用がなるべく少なくなるように開発された薬剤として、マイスリー、
アモバン、ルネスタなどがあります。これらの薬では抗不安効果や筋弛緩効果も
Q3. 眠れるようになってきたら自分で睡眠薬をやめてもいいですか?
弱くなります。
不眠が改善したからといって、自己判断で突然睡眠薬をやめてしまうと、前述
の反跳性不眠や退薬症状のような副作用が起こることがあります。睡眠薬をやめ
(2) メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)
メラトニンは脳内で分泌されるホルモンの一種で、睡眠覚醒のリズムを整える
るときは、医師と相談しながら少しずつ薬の量を減らす(漸減法)、一日おきに
効果があります。ベンゾジアゼピン受容体作動薬でみられる筋弛緩作用や記憶障
飲む(隔日法)などの方法で時間をかけて安全に中止を試みる必要があります。
害のような副作用がないので、高齢者や認知症の人にも使われます。
◆
(3) その他の薬
ベンゾジアゼピン受容体作動薬でなかなか効果が得られないときや、副作用が
18
睡眠薬を使うときに気をつけたいこと
① 決められた用量・用法を守る
自己判断で薬を調整すると、適切な効果が得られないことがあります。効果が
19
11.睡眠改善のためのプログラム
弱いまたは強すぎる、副作用かもしれない…などの気になる症状があるときには、
必ず医師に相談してから種類や量の調整を行うようにしましょう。
睡眠の問題で相談された際、睡眠状態の改善に役立つポイントを以下にまとめま
した。
また、睡眠薬を他の人に譲ることは法律で禁止されていますので、絶対にして
はいけません。
睡眠の問題に関する助言をする際の参考にしてください。
要点は、24 時間を通じてのリズムを安定させること、日中に十分な覚醒度を保
つこと、夜間睡眠がとれるような工夫をすることの 3 点です。
② アルコールと一緒に飲んではいけない
アルコールと一緒に飲むと、相互作用で効果が強く現れすぎたり、記憶障害な
どの副作用がひどくなったりします。睡眠薬を飲んだら寝酒は絶対にしてはいけ
ません。
③ 睡眠薬を飲んだらすぐに就床するようにする
睡眠薬の効果は多くの場合服用後寝床に入って 30 分前後で現れます。飲んだ
□ 1.朝一定時刻に起床する。
□ 2.仮眠は 20 〜 30 分に留め、夕方以降に仮眠はしない。
□ 3.朝日を利用する。
□ 4.寝る前に強い光を浴びない。寝る直前まで強い光を浴びたり、
後に寝床に入らずにいると、睡眠薬の効果を得られないばかりか、その間の行動
パソコンをしたり、明るい光の下にいない。
を覚えておらず後でびっくりすることがあります(前述の副作用の中の記憶障
□ 5.日中の眠気が強まらない程度の睡眠を確保する。
□ 6.就寝前に刺激物を避け、自分なりのリラックス法を工夫する。
□ 7.寝室を睡眠以外に利用しない。
□ 8.昼間の覚醒度を上げる工夫(運動など)をする。
害)。
④ 睡眠薬以外の薬を飲んでいるときは医師や薬剤師に申告する
複数の薬を一緒に飲むと、相互作用で効果が強く現れすぎたり、逆にお互いの
効果を打ち消しあってしまったりすることがあります。高血圧や糖尿病、アレル
ギー疾患などの持病があり、服薬をしている場合には必ず医師や薬剤師に相談し
て下さい。健康食品やサプリメントでも同様の作用が現れることがあるので、医
師や薬剤師に伝えて下さい。
コラム:作用時間での薬剤の分類
超短時間
短時間
中時間
長時間
ハルシオン
レンドルミン
ユーロジン
ドラール
アモバン
リスミー
ロヒプノール
ダルメート
マイスリー
サイレース
ルネスタ
20
21
「プログラム」の利用の仕方
1.朝一定時刻に起床する。
▶ 「早寝早起き」 とよくいわれますが、睡眠は自然のプロセスであり、眠気がない
自分の生活習慣のうち出来ている項目を 2 本線で消す。
のに無理に眠る事はできません。したがって、夜間の就寝時刻を一定にするより
残った項目のうち出来そうな項目にチェックを入れ実行してみる。
も、むしろ起床時刻を一定にすることが大切です。
夜間眠れても、眠れなくても、とにかく朝同じ時刻に起床するよう工夫するこ
例:
とが大切です。特に、週明けに朝起きが苦手で、月曜日の出勤や登校などに支障
□ 1.朝一定時刻に起床する。
□ 2.仮眠は 20 〜 30 分に留め、夕方以降に仮眠はしない。
□ 3.朝日を利用する。
□ 4.寝る前に強い光を浴びない。寝る直前まで強い光を浴びたり、
がでる場合は、週末もウィークデイと同じ時刻に起床するようにしましょう。
2.仮眠は 20 〜 30 分に留め、夕方以降に仮眠はしない。
▶仮眠をする場合は 12 時~ 15 時の間で、時間も 20 - 30 分に留めることが必要
です。 このような時刻、時間の仮眠は、眠気の改善に役立ち、仕事などの能率
パソコンをしたり、明るい光の下にいない。
の向上がはかれます。なお、通常、夜間の睡眠は、睡眠の前半に深い睡眠があら
□ 5.日中の眠気が強まらない程度の睡眠を確保する。
□ 6.就寝前に刺激物を避け、自分なりのリラックス法を工夫する。
□ 7.寝室を睡眠以外に利用しない。
□ 8.昼間の覚醒度を上げる工夫(運動など)をする。
われます。夕方以降に、長い仮眠をとると、本来夜間入眠後早期に出現するはず
のこの深い睡眠が現れにくくなるとともに、寝付きも悪くなります。
3.朝日を上手に利用する。
▶朝の太陽光は、覚醒度を高めるとともに、夜間の眠気を引き起こすことが知られ
ています。 すなわち、朝の光は自然な睡眠薬の役目を果たします。 また、人間
チェック表:
月
1.
3.
○
の生体リズムは通常 24 時間より長いのですが、朝日を浴びるなどにより、生体
火
水
木
○
○
○
金
土
○
○
日
リズムを微調整して毎日を過ごしています(p26 のコラム 2 および p17 の睡眠
障害の治療の高照度光療法の説明参照)。このように、朝日を浴びることは、い
わば毎朝生体リズムの針を合わせる役目を果たしていると考えられます。そのた
め、可能であれば、朝日を浴びながらの散歩をおすすめします。 もし、散歩が
難しければ、カーテンを開けて光を浴びるようにしましょう。
4.寝る前に強い光を浴びない。
▶寝る直前まで強い光の下で過ごさないようにしましょう。夜間に強い光を浴びる
と、覚醒度が高まり、寝つきにくくなるとともに、睡眠の時間帯そのものを、後
退させてしまいます。特に、睡眠障害の項目で述べました睡眠相後退症候群やそ
のような傾向のある人は注意が必要です(p14)。
22
23
5.日中の眠気が強まらない程度の睡眠を確保する。
8.昼間の覚醒度を上げる工夫をする。
▶個人毎に必要な睡眠時間は差があるものの、ある程度の睡眠時間を確保する必要
▶睡眠を安定させるためには、昼間にしっかりと起きておく必要があります。日中
があります。特に、若い人では睡眠不足に要注意です。睡眠不足症候群と呼ばれ
にずっと横になっていたり、長い昼寝をしたりしてしまうと当然ながら夜間の睡
る心身の不良をまねく場合があります(コラム 1 p25)。若い人ではいくら睡眠
眠はあまり必要ではなくなります。睡眠状態を把握するには 24 時間単位で考え
を削っても 6 時間程度の睡眠を確保しないと、日中の眠気が強まる可能性は高く
る必要があります。日中に散歩をするなど、しっかりと起きておく工夫をしましょ
なります。 夜間のオンラインゲームなどのインターネットの過剰な使用は睡眠
う。
不足の原因となりやすいため、十分な注意が必要です。
6.就寝前に刺激物を避け、自分なりのリラックス法を工夫する。
▶就寝前の 4 時間以内のカフェインの摂取や 1 時間以内の喫煙を控えるようにし
コラム 1
ましょう。また、就寝前には、心身とも睡眠モードに切り替えるため、例えば、
ぬるめのお風呂に入る、温めたミルクを飲む、ゆったりとした音楽を聴く、スト
* 睡眠不足症候群
レッチをするなどのリラックス法を試してみましょう。
睡眠不足により、様々な心身の不良があらわれ、睡眠不足症候群と呼ばれてい
ます。
7.寝室を睡眠以外に利用しない。
実際には、以下のような症状が出現します。
▶寝室に入ったら、自然に眠気が催されるという条件反射ができていることが、す
みやかな入眠には大切です。しかし、寝室で読書をしたり、テレビを見たり、あ
るいは、インターネットなどをしたりすると、寝室に入ると眠気がくるという反
応が妨害されます。寝室を睡眠以外に利用しないようにしましょう。
・慢性的な眠気
・注意・集中力の低下
・倦怠感
・落ち着きのなさ
・怒りっぽさ
特徴としては、週末や休暇の睡眠時間が長くなります。現実的には、多くの若
者が抱えている可能性が高いのですが、本人は慢性の睡眠不足を自覚していない
ことが多いようです。
寝室
眠気
好ましい
条件付け
読書 テレビ
インターネットなど
好ましくない条件付け
覚醒
24
25
12.資料
コラム 2
*光の作用について
エップワース眠気尺度(ESS)
体温、ホルモン分泌、睡眠覚醒リズムなどは約 25 時間周期をもち、そのリズム
を概日リズムと呼びます 。われわれは、通常、光、音、温度、食事、社会環境な
もし、以下の状況になったとしたら、どのくらいうとうとする(数秒から数分眠っ
どの同調因子により、概日リズムを 24 時間毎にリセットしています。とりわけ、
てしまう)と思いますか。最近の日常生活を思い浮かべてお答え下さい。
光はこのリズムのリセットに最も強く関わっていると考えられています。また、光
以下の状況になったことが実際になくても、その状況になればどうなるかを想像
はその浴びる時間帯によってリズムに与える影響が異なることが知られています。
してお答え下さい。(1 ~ 8 の各項目で○は1つだけ)
早朝に光を浴びると体内時計の位相が前進し、24 時間にリセットされます。 つま
すべての項目にお答えしていただくことが大切です。
り、早朝の光を浴びると覚醒する方向に体内時計がリセットされます。また、光を
できる限りすべての項目にお答え下さい。
浴びた 15 〜 16 時間後に自然に眠気が強くなることが知られています。一方、夜
間に光を浴びると体内時計の位相は後退します。つまり、夜に光を浴びると夜なか
なか眠くならないということです。下記の図のように、光をはじめ全く時刻のてが
かりのない状態では、睡眠の開始時刻が1時間程度ずれていきます。 時刻(時)
0
6
12
18
0
6
12
光を浴びない
うとうとする可
うとうとする可
うとうとする可
うとうとする可
能性はほとんど
能性は少しある
能性は半々くら
能性が高い
い
ない
1)座って何かを読ん
でいるとき(新聞、
雑誌、本、書類など)
0
1
2
3
2)座ってテレビを見
ているとき
0
1
2
3
3) 会 議、 映 画 館、
劇場などで静かに
座っているとき
0
1
2
3
4)乗 客 とし て1時
間続けて自動車に
乗っているとき
0
1
2
3
5)午 後に横になっ
て休息をとってい
るとき
0
1
2
3
6)座って人と話を
しているとき
0
1
2
3
7)昼 食をとった後
(飲酒なし)
、静か
に座っているとき
0
1
2
3
8)座って手紙や書類
を書いているとき
0
1
2
3
合計得点が高いほど眠気が強いとされる。通常 11 点以上を「過度の眠気あり」とする。
26
27
睡眠日誌(記入例)
午前
0
1
2
3
4
5
6
正午
7
8
9
10
11
12
午後
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
月
7/23 ( )
午前
0
24
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
6
正午
7
8
9
10
11
7
8
9
10
11
7 散歩
8
9
10
11
7
8
9
10
11
午前
6
6
6
12
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
6 散歩
午後
12
6
午後
正午
6
12
午後
6
金
( )
映画
午前
0
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
6
7
散歩 8
9
10
11
7
8
9
10
11
正午
12
午後
6
土
( )
午前
0
28
5
正午
午前
29
4
木
( )
0
28
3
正午
午前
27
2
水
( )
0
26
1
火
( )
0
25
12
午後
6
正午
12
午後
6
日
( )
眠っていた
眠らずに床についていた
起床時刻
就寝時刻
床についていなかった
29
睡眠日誌(白紙)
午前
0
1
2
3
4
5
6
正午
7
8
9
10
11
12
午後
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
7
8
9
10
11
12
( )
午前
0
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
6
正午
7
8
9
10
11
7
8
9
10
11
7
8
9
10
11
7
8
9
10
11
7
8
9
10
11
7
8
9
10
11
12
午後
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
6
( )
午前
0
6
正午
12
午後
6
( )
午前
0
6
正午
12
午後
6
( )
午前
0
6
正午
12
午後
6
( )
午前
0
6
正午
12
午後
6
( )
午前
0
6
正午
12
午後
6
( )
30
眠っていた
眠らずに床についていた
起床時刻
就寝時刻
床についていなかった
31
うつ状態のチェックリスト
この2週間,ほとんど毎日続く症状にチェックして下さい。
□ 一日の大半は落ちこんでいる、沈んでいる。
□ 以前は楽しかったことが楽しめない、興味がなくなった。
□ 食欲が極端に落ちた,または体重が減った。
□ 不眠症になった。
□ 疲れやすい、または何時も体がだるい。
□ 自分が値打ちのない人間と思う、強い罪の意識を感じる。
□ 以前のように集中できなくなり、決断力も鈍くなった。
□ 落ち着かない、または考えがなかなか先に進まない。
□ しきりに自殺しようと思ったり、自殺を図ったりしたことがある。
□ 症状のため、大変苦しく、仕事・家事・勉強などの支障となる。
健やかな睡眠のための相談・指導の手引き 作成委員会
石井 啓義 大分大学医学部精神神経医学講座 助教
参考文献
「睡眠障害の対応と治療ガイドライン(第 2 版)」内山真編 / じほう(2012)
「日本臨床 特集 睡眠と生活習慣病―基礎・臨床研究の最新知見― 2012 年第 70 巻・第 7 号」
「睡眠教室 夜の病気たち」新興医学出版社 (2011)
「今度こそ『快眠』できる 12 の方法」内山真監修 / 阪急コミュニケーションズ(2011)
土山幸之助 大分県こころとからだの相談支援センター 所長
松尾 佳子 大分県こころとからだの相談支援センターこころの健康課 課長
森 亜由実 大分県こころとからだの相談支援センターこころの健康課主任医師
吉田 陽子 大分県こころとからだの相談支援センターこころの健康課主査
「きょうの健康 睡眠の病気」内山真監修 /NHK 出版(2011)
「人はなぜ眠れないのか」岡田尊司著 / 幻冬舎新書(2011)
「名医が教える不眠症に打ち克つ本」内山真著 / アーク出版(2010)
「睡眠の科学」櫻井武著 / 講談社ブルーバックス(2010)
「ササッとわかる『睡眠障害』解消法」講談社 (2007)
12
平成 24 年 月
「睡眠障害診療のコツと落とし穴」上島国利編集 / 中山書店(2006)
発行・編集:大分県こころとからだの相談支援センター
「不眠症と睡眠薬 患者さんの疑問に答える Q&A」谷口充孝監修・徳島裕子編集 / フジメディカ
〒 870-1155 大分市大字玉沢字平石 908 番地
ル出版(2005)
県民生活習慣実態調査 2011、社会生活基本調査 2011、国民健康・栄養調査 2007
「Journal of Epidemiology;10;79-86,2000」 32
電 話:097-541-5276
印 刷:極東印刷紙工株式会社
33
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