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微分方程式 1 微分方程式と解 2 お湯の冷め方

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微分方程式 1 微分方程式と解 2 お湯の冷め方
微分方程式
今回は微積分の応用として, 微分方程式とそれを用いた現象の記述について解説します.
微積分の真価は正にこの微分方程式にあるといっても過言ではありません. この内容は高
校の範囲外ですが, 微積分を勉強するための動機付けとなればと思います.
1
微分方程式と解
関数 f (x) の微分が入った方程式を微分方程式といいます. 例えば
f ′ (x) = 2f (x),
x2 f ′′ (x) + xf ′ (x) + 5f (x) = 0,
f (5) (x) − f (3) (x) = f (x)
などです. 微分方程式に含まれている f (x) の導関数の最高階数をその微分方程式の階数
といいます. 例はそれぞれ1階, 2 階, 5 階の微分方程式です.
2 次方程式や3次方程式では, 方程式を満たす数 x を“ 解 ”といい, 解をみつけることを
“ 方程式を解く ”といいましたが, 微分方程式の場合も同じです. ただし, 探すのは数 x で
はなく微分方程式を満たす関数 f (x) になります. 具体的な例を考えましょう.
f ′ (x) = αf (x).
ただし, α は定数とします. この微分方程式を満たす f (x) は, C を任意の定数として,
f (x) = C eαx
と計算できます. すなわち微分方程式の解は
f (x) = C e2x ,
C は任意定数
となります. このように任意定数を含む解を一般解といいます.
もし f (0) = 3 であれば, 一般解に x = 0 を代入して
3 = f (0) = Ce0 = C
となり, 解は
f (x) = 3eαx
となります. このように任意定数にある特定の数値を代入した解を特殊解といいます.
こんな簡単な微分方程式でも現象の記述や解明に役立ちます. 以下ではこの微分方程式
で記述される現象を紹介します. 物理現象として「お湯の冷め方」, 社会現象として「人
口のモデル」を考えましょう.
2
お湯の冷め方
コップにお湯を注ぎ, そのお湯が冷めていく様子を観察します. 実験をする前に次の問
題を考えてみてください. これまでの経験から答えは明らかですよね.
1
問題 室温が 20 ℃の部屋で, 80 ℃のお湯をコップに注ぎました. ちょうど 1 時間後に冷
めて 30 ℃になりました. この間のお湯の温度変化を表したグラフは次のグラフの A, B, C
のどれでしょうか?
80
70
A
60
B
50
40
C
30
20
10
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
図 1: お湯の冷め方
解答 経験から答えは C のグラフですよね. なぜ A と B がだめかというと, A と B のグ
ラフをさらに延長して 1 時間後以降の温度を考えてみましょう. グラフをなめらかに延長
してやると, 30 分経たないうちに室温である 20 ℃より温度が低くなりますよね. そんなバ
カなことは起こるはずがない! よって C 以外はあり得ません.
問題の解答は分かりましたが, これでは現象の解明には至りません. なぜかというとグ
ラフ C はどうして得られるのか? その関数の式は? あるいはそれを支配する冷め方の法
則は何か? これらのことがまだ分からないからです.
お湯の冷め方を考察してみましょう. お湯の冷め方は最初のうちは急速に温度が下がり,
その後はだんだん温度が下がりにくくなります. また, 夏と冬では同じ温度のお湯であっ
ても冷えるスピードが全く異なります. これらのことからお湯の冷め方は, お湯自身の温
度と, 周囲の温度, すなわち室温が関係していると推測できます. つまり
お湯の冷める速さは, そのときのお湯と室温の温度差に比例する
といえます. 冬は室温が低いですから, 当然お湯との温度差が大きくなるので早く冷めま
2
す. 夏はその逆です. またお湯を注いだ直後は室温との温度差が大きいので急速に冷めま
すし, ある程度冷えてくると室温との温度差が小さくなっているので, ゆっくりと冷えるの
です.
時刻 x におけるお湯の温度を y = f (x) と書くことにします. すなわち C のグラフを
y = f (x) とします. ところで上述の, “ お湯の冷める速さ ”とは, お湯の温度 f (x) の変化
の割合です. 関数の変化の割合は微分でした. (微分の定義をを思い出してください)よっ
て時刻 0 での室温は 20 ℃でしたから, お湯の冷め方を支配する法則は, 比例定数を α > 0
と置いて,
f ′ (x) = −α(f (x) − 20)
となります. なお, α の前のマイナス記号は温度が下がること, すなわち C のグラフが右下
がりであることを意味しています.
ここで
F (x) = f (x) − 20
としてみましょう. F ′ (x) = f ′ (x) ですから
F ′ (x) = −αF (x)
となり前節の微分方程式が登場しました.
この微分方程式の一般解は
F (x) = Ce−αx
でした. よって f (x) に戻せば
f (x) = Ce−αx + 20
となります.
C と α は求まるでしょうか?
もし図 17.2 の C のグラフが正確な実験結果であれば
f (0) = 80,
f (1) = 30
です. 最初の条件から
80 = f (0) = Ce0 + 20
となり, C = 60 を得ます. 2 番目の条件から
30 = f (1) = 60e−α + 20
よって, eα = 6 となり
α = log 6 = 1.79175 · · ·
を得ます. 以上のことから
f (x) = 60e−1.79x + 20
3
となり f (x) がきちんと求まりました. この f (x) のグラフは実験結果の C のグラフと一致
します.
このようにお湯の冷め方の法則―微分方程式―とその解を求め, 実際の現象と一致した
とき, その現象は解明できたといえます. 現象が解明できるといろいろと便利です. 例え
ば 2 時間後のお湯の温度は実験をしなくても
f (2) = 60e−1.79×2 + 20 = 21.6725 · · ·
となり, 約 21.7 ℃であることが分かります.
3
人口のモデル
日本の人口の変化を数学的に記述してみましょう. そして将来の人口を予想するのが目
標です.このような問題は予想が当たるか当たらないかが大事なのですが, 結果は将来の
お楽しみでは無責任というものです. そこで
今は 1971 年です.
問題
次のデータをもとに 2000 年までの人口の推移を予想しなさい.
年
人口(百万人)
1920
1925
1930
1935
1940
1945
1950
1955
1960
1965
1970
56
60
64
69
73
72
83
89
93
98
104
解答 時刻 x における日本の人口を y = f (x) としましょう. 1920 年を基準として x = 0
とし, x 年後の人口を f (x) とします. 人口の増減は現在の人が子供を生むか亡くなるかに
よって変化しますから, 時刻 x における f (x) の変化率は f (x) に比例すると考えられます.
すなわち, 比例定数を α として, 微分方程式
f ′ (x) = αf (x)
4
が考えられます. (マルサスは 1798 年にこの微分方程式により人口の予想問題を最初に
考えました)これは前前節の微分方程式ですから, その一般解は
f (x) = Ceαx
でした.
ここで C と α は求まるでしょうか?前節の「お湯の冷め方」では x = 0, 1 のときの f (x)
の値を使って C と α を求めました. では同じように, 例えば x = 0, 30 の f (x) の値
f (0) = 56,
f (30) = 83
を使って C と α を求めて良いでしょうか?確かに C と α の値は計算できますが, この方
法は勧められません. なぜかというと人口のデータ値にはバラツキがあるからです. ここ
が物理現象と社会現象の違いです. もちろん物理現象のデータ―前節では温度―にも測定
誤差があり, 真の値からは多少はずれます. しかし実験の精度をあげたり, 実験を繰り返
せばその真の値に近づきます. ところが社会現象の場合, 例えばこの人口問題の場合, いく
ら微分方程式に従っているといわれても, 人間がそれに従って行動するわけがありません.
現実の人口に合わせてモデルを作ろうとしているのです. 社会現象を記述する場合, 物理
現象のような理論上の“ 真の値 ”を想定できません. (現実こそ真の世界です)ですから 56
や 83 は, 物理現象のような理論上の“ 真の値 ”ではありません. ですからこれを直接使っ
て C と α を計算してはいけません.
ではどうやって求めたらいいのでしょうか?
両辺の対数をとり
log f (x) = αx + log C
に注目します. 右辺は x の 1 次式, すなわち直線の方程式です. 観測データ f (x) から
log f (x) を求め, (x, log f (x)) を通る直線を探せば, その y 切片が log C, 傾きが α となり
ます.
11 個のデータに対してグラフ用紙に (x, log f (x)) をプロットします. データがきちん
と直線上にのるとは限りませんから, 定規を使って一番よさそうな直線を探してください.
その直線の y 切片が log C, 傾きが α です.
天才ガウスがちゃんと計算によってこの直線を探す方法を発明しています. 最小 2 乗法
と呼ばれる方法で a = α, b = log C は次の正規方程式とよばれる連立 1 次方程式を解いて
求まります.
{
11b + 275a = 47.749
275b + 9625a = 1227.8
この方程式の係数は次表のように決められます. 11 はデータの数です. 基本的な考え方は,
11 個のデータ (x, log f (x)) から直線への垂線を考え, その長さの 2 乗和が最小となるよう
に直線を決める方法です.
5
年
1920
1925
1930
1935
1940
1945
1950
1955
1960
1965
1970
計 人口(百万人) x
log f (x)
0
4.0254
5
4.0943
10 4.1589
15 4.2341
20 4.2905
25 4.2767
30 4.4188
35 4.4886
40 4.5326
45 4.5850
50 4.6444
275 47.749
56
60
64
69
73
72
83
89
93
98
104
x2 x log f (x)
0
0
25
20.472
100
41.589
225
63.512
400
85.809
625
106.92
900
132.56
1225
157.10
1600
181.30
2025
206.33
2500
232.22
9625
1227.8
この連立 1 次方程式を解くのは大変ですが, これを解くと
a = α = 0.01239,
b = log C = 4.03105
となります. よって α = 0.01239, C = e4.03105 = 56.32 となり, 求める式は
f (x) = 56.32e0.01239x
となりました. この値を理論値として実際と比較してみると(百万人単位で)
年 実際の値 理論値
1920
1925
1930
1935
1940
1945
1950
1955
1960
1965
1970
56
60
64
69
73
72
83
89
93
98
104
56
60
64
68
72
77
82
87
92
98
105
となり, なかなか良い結果が得られました. この式で 2000 年まで予想すると次のようにな
ります. (我々は実際の値を知っていますよね. 並べて書いておきましょう)
6
年 予想値 実際の値
1975
1980
1985
1990
1995
2000
111
118
126
134
143
152
112
117
121
124
126
127
物理現象の解析は何百年, あるいは地球が崩壊しても変わりません. それに対して社会
現象の解析は現象の時間のスケールに対して常に注意する必要があります. マルサスの考
え方は少し先の未来の予想にはマッチしているのですが, 時間がたつと不自然なモデルに
なってしまいます. 戦前, 戦後と日本は激変しました. とくに 70 年以降は家族形態やライフ
スタイルにおいても大きな変化がありました. 1920 年から現在までを 1 つのモデルで把握
すること自体無理があり, むしろ 70 年以降は別に考えた方が良いのではないでしょうか?
問題
次のデータをもとに 2010 年の日本の人口を予想しなさい.
年 人口(百万人)
1980
1985
1990
1995
2000
117
121
124
126
127
解答 計算は前と同様なので省略します. 結果は 133(百万人)になります. これを使う
と 3010 年は 200(百万人)になります.
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