Comments
Description
Transcript
論文審査の要旨 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 心 理 学 ) 氏名 牧 亮
論文審査の要旨 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 心 理 学 ) 学位授与の要件 学位規則第4条第①・2項該当 氏名 牧 亮 太 論 文 題 目 幼児期におけるからかいの機能に関する研究 論文審査担当者 主 査 教 授 湯 澤 正 通 審査委員 教 授 深 田 博 己 審査委員 教 授 前 田 健 一 〔論文審査の要旨〕 からかいとは,攻撃行動に,その行動が遊び・冗談であることをほのめかす遊戯的サイ ンが伴われた行為である。本論文では,幼児期のからかいを,いじめと関連する児童期以 降のからかいとは質的に異なる行為として捉え,幼児どうしの相互作用場面においてから かいがコミュニケーション手段として機能するかどうかを検討している。本論文は全 3 章 で構成されている。以下に,各章の内容を記す。 第 1 章「本研究の背景と目的」では,はじめに第 1 節で,幼児の攻撃行動と仲間関係の 関連について述べている。一般的に,攻撃行動は仲間からの拒否と関連するが,攻撃行動 と仲間関係との肯定的な関連を示唆する研究も見られることから,幼児どうしの間で遊び や冗談となりうる攻撃行動の存在を指摘している。次に第 2 節では,攻撃性を含んでいる が遊びや冗談ともなりうる行為としてからかいと呼ばれる行為が存在し,からかいは親和 的な対人関係と関連することを指摘している。そして攻撃行動と仲間関係の間の肯定的な 関係を検討するうえで,からかいに着目することの有効性について述べている。第 3 節で は,幼児を対象としたからかい研究の意義について述べ,からかい場面は,日常的なコミ ュニケーションを支えるスキルを育む場として重要であることを指摘している。最後に第 4 節で本論文の目的を述べている。 第 2 章「幼児期におけるからかいの機能の検討」では,4,5 歳児を対象とした自然観察 および実験を報告している。第 1 節「幼児どうしの相互作用場面で観察されるからかい(研 究 1) 」では,4 歳児を対象とした自然観察を実施し,幼児どうしの相互作用においてから かいが生起することを確認し,幼児のからかいの特徴について検討している。そして,か らかいは女児に比べ,多くの男児が行うこと,非言語的なからかいのほうが行われやすい ことを明らかにしている。第 2 節「幼児にとってのからかいと攻撃(研究 2)」では,4,5 歳児を対象とし,幼児にとってからかいはどのような行為であるかについて,攻撃と比較 し,検討している。幼児がからかいの意図をどのように理解しているかを実験的に検討し た「からかいと攻撃に対する幼児の認識(研究 2-1) 」では,攻撃には悪意が帰属されやす いのに対し,からかいには友好的な意図が帰属されやすいことを明らかにしている。また, 実際の相互作用で行われたからかい,および攻撃に対する幼児の反応を比較した「からか いと攻撃に対する幼児の反応(研究 2-2) 」では,攻撃に対しては受容的反応が見られない のに対し,からかいに対する反応のうち約半数が受容的な態度であることを明らかにして いる。最後に,第 3 節「コミュニケーションにおけるからかいの役割(研究 3) 」では,研 究 2-2 で得られた 5 歳児の観察記録を再分析し,相手に受容されたからかいがコミュニケ ーション手段としてどのような役割を果たしているのかを検討している。そして,からか いには「ちょっかい」,「遊び場づくり」,「仲間入り」,「承認」,「おかしさ生成」,「ツッコ ミ」,「遊び」といった役割があり,他者とのやりとりを開始する手段として,相手への親 和性を伝える手段として,展開中の相互作用を盛り上げる手段として,遊びそのものの手 段としての機能を果たしていることを明らかにしている。 第 3 章「総合考察」では,第 1 節「本研究の成果」において,幼児どうしの相互作用場 面において行われるからかいは,相手に受け容れられることで,結果としてポジティブな 感情を共有した相互作用へとつながることが示された点を中心に,幼児期におけるからか いの意義について考察している。そして,第 2 節「本研究の限界と今後の課題」では,本 論文における限界を指摘し,その改善策,および今後の方向性について論じている。 本論文の評価される点を列挙する。第 1 に,幼児どうしの相互作用場面において,攻撃 行動のなかには遊戯的サインが伴われたからかいと呼ばれる行為が生起することを明らか にした点である。第 2 に,幼児はからかいを攻撃とは質的に異なる行為として認識し,反 応することを明らかにした点である。第 3 に,相手に受容されたからかいはポジティブな やりとりを導き,仲間関係の強化に寄与している可能性を示した点である。 以上,審査の結果,本論文の著者は博士(心理学)の学位を授与される十分な資格があ るものと認められる。 平成 24 年 2 月 20 日