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バンコクのスカイトレイン

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バンコクのスカイトレイン
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バンコクのスカイトレイン
堀内重人
スカイトレイン開業までのバンコク市内の道路事情
スカイトレインが開業するまでのバンコク市内は、慢性的な道路交通渋滞で世
界的にも悪名が高かった。急速な経済発展に伴う車両台数の急増により、バンコ
クのバス及び自動車の平均速度は 14km /h と低い状態にあった。渋滞がひどくな
った原因として、
1980 年代からの急激な経済成長に伴う自動車の増加が挙げられ
るが、道路構造による要因も大きい。ソイという行き止まり式の路地が多く、迂
回道路が少ない構造から、スクンピット通り等の主要通りに自動車が集中する傾
向が強い。第二に下水道等の整備が不十分であり、スコール等があると道路に冠
水が生じ、
道路交通の機能を麻痺させる。
第三として日本を含む先進国のように、
交差点に右左折専用レーンや優先信号が無いことによる交通の円滑な流れの妨げ、
といった点が挙げられる。
このような状況に対してバンコク市は、一方通行を多用する政策で対応してき
た。片側2車線道路の中央分離帯の位置をずらして片側3車線とし、残りの一方
は逆行性のバス及び緊急自動車のみ通行を認め、自家用車からバスへのシフトを
試みた。また右左折を制限することで、交差点における交通の円滑な流れを確保
している。このような政策は、スカイトレインが開業した今日でも継続され、ス
カイトレインの利用を促進するのみならず、道路交通渋滞の緩和にも貢献してい
る。
スカイトレインの詳細
1999 年 12 月5日に開業したスカイトレインは、全線高架式の鉄道である。都
心のサイアム駅で接続するスクンピット線とシーロム線の2線で構成され、主に
既存の幹線道路上に建設された。それゆえ天候や平面交差の自動車等の影響を受
けない安定した輸送システムである。ここでは1)車両システム、2)運営、3)
運賃の詳細について説明したい。
1)車両システム
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1,435m m ゲージ、直流 750V の第三軌条式を採用し、全長22m の大型車両
3両編成で運行されている。車両の最高速度は 80km /h、平均速度 35km /h と路
線バスの平均速度の約3倍に設計されている。ホーム等の設備は将来、6両編成
の運行に対応した整備であり、その場合は片道1時間当たり5万人の大量輸送が
可能である。6時始発∼終電 24 時、ピーク時2∼3分、閑散時4∼6分間隔で
運行され、待たずに利用出来るシステムである。
2)運営
香港のタナヨングループを筆頭株主とするBTS社に 30 年の事業権が与えら
れ、B O T(B uild-O perate-Transfer)方式で運営されている。運行は、ATO(自
動列車運転装置)によるワンマン運転を行い、モチットの本社ビル内にあるセン
ターから集中制御を行う近代的なシステムである。切符の発券及び改札は自動化
されている。
3)運賃
対キロ制が採用され、初乗り 10 バーツ(1バーツ≒3円)
、最高で 40 バーツ
となり、タクシーの初乗り35バーツと比較すれば割安であるが、庶民が利用す
るエアコン無しバスの 3.5 バーツ均一、エアコンバスの8∼18 バーツと比較すれ
ば割高である。それゆえ利用促進のために、スカイトレインに接続するバスを運
行したり、1日乗車券等の企画乗車券が発売されている。
スカイトレインの展望
スカイトレインの開業当初は、1日当りの需要予測である60万人を大きく下
回る20万人程度の利用であった。運賃が割高であり、路線が都心部だけに限定
されることから、スクンピット通りに点在する高級ホテルやショッピングセンタ
ー、レストラン等を利用する外国人用の公共交通機関となっていた。しかし除々
に利便性が評価されると、ビジネスマンの利用が始まり、現在は1日当り30万
人が利用している。ビジネスマンは、自動車を利用していたが、バンコク市内は
一方通行が多く、自動車の利用に適した構造ではない。また 2000 年にガソリン価
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格が急騰したことも影響して、自動車からスカイトレインに利用者をシフトさせ
た。このことからスカイトレインの利用者は定着しつつある。
本格的な車社会を迎えてからの導入であり、且つ、運賃も割高であったことから
「利用者が定着するのか」という疑問もあった。バンコク市は、人口約 700 万人
の大都市であるが、国民所得は約 2,000US$強と低い。だがバンコクは他の東
南アジアの大都市と異なり、国際的な観光都市としての有利さがある。バンコク
を訪れる外国人観光客数は、年間で 1,000 万人を超えており、その数は年々増加
傾向にある。タイ政府観光庁は、一般観光客よりも出費の総額が多い出張旅行者
を増加させるために、国際会議や展示会について積極的な誘致を計画している。
実現しなかったが、2008 年のオリンピック誘致にも名乗りを上げていた。沿線に
ある国立競技場がメイン会場となるため、選手及び観客をスカイトレインと 2004
年 7 月に開業を予定している地下鉄を使って輸送することが検討されていた。国
際会議や各種イベントを誘致するには、社会インフラとりわけ交通インフラの充
実は不可欠である。バンコクの場合は、道路交通渋滞の解消よりも外国人観光客
を誘致して観光産業の育成という要素が色濃く出でおり、2004 年 7 月に開業する
地下鉄も主な利用者は、外国人や中所得のタイ人になることが予想される。これ
からもバンコクの軌道系都市交通は、一般庶民用ではなく外国人や中所得者を中
心に利用が定着するだろう。
バンコクにスカイトレインが開業して3年以上が過ぎた。悪名高かった道路交
通渋滞は、不況やガソリン価格の高騰といった影響もあるが、ビジネスマンを中
心に車からスカイトレインへのシフトが見られ、改善される傾向にある。庶民が
利用するエアコン無しのバスは、運転本数やルート、区間、運賃も据え置かれ、
従来通りのサービスが提供されていることから、不平不満は生じていない。バン
コクには、所得に応じた公共交通機関が用意されており、スカイトレインの開業
により公共交通全体のサービスレベルが向上したと考えている。
シンガポールは、
強制的に自動車の使用を抑制して軌道系交通に乗せる政策を採用することで、渋
滞の無い都市を造り上げ非常に高く評価されている。バンコクの渋滞は緩和こそ
されたが解消はされていない。しかし公共交通の選択肢が数多く用意されている
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点においては、シンガポールよりも利用者を中心にした交通政策を採用している
のではなかろうか。
参考文献
1)秋山芳弘『世界の鉄道事情−アジア編』吉井書店、1998 年
2)佐藤信之
「東南アジアにおける都市交通−最近30年の推移」
『鉄道史学』
No.16、
鉄道史学会、1998 年 12 月
3)中村文彦「アジアの都市交通の話題−香港とバンコク−」
『交通工学』Vol.35、
No.4、2000 年
4)堀内重人「バンコクのスカイトレインの現状と将来性」
『運輸と経済』2001
年 12 月号
5)大月喜雄「バンコクにおける軌道系交通の整備」
『運輸と経済』2002 年3月
号
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http://m em bers.cscom s.com /~takashi/topics.htm
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