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「ハイブリッド対ディーゼル戦争の内幕」(07/07/24)

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「ハイブリッド対ディーゼル戦争の内幕」(07/07/24)
「ハイブリッド対ディーゼル戦争の内幕」(07/07/24)
舘内端(
舘内端(たてうち・
たてうち・ただし)
ただし)
自動車評論家。1947年群馬県生まれ。
日大理工学部卒、東大宇宙航空研究所勤務後、
レーシングカーの設計に携わる。1994年
日本EVクラブ設立、現在も代表を務める
1リットルのガソリンが燃えると、およそ 2.3kgのCO2 が発生します。ちなみに1リットルのガソリン
の重さは約 0.75kgです。
日本の自家用車の平均走行距離は、1ヶ月に 500kmほどです。しかし、一般的な自家用車の
オーナーは1ヵ月に 1000kmほど走るのではないでしょうか。
こうした走行距離では、高速道路よりも一般道の走行が主体でしょう。また、排気量を平均的な
2リットルとすると、こうしたケースにおける燃費はリッター6kmほどです。この燃費で1年に
12000km走ると、ガソリンの消費量は 2000 リットルです。
■乗用車所有者、
乗用車所有者、ペットボトル 130 万本の
万本のガソリンを
ガソリンを1年で消費
2000 リットルのガソリンを燃やすと、4600kgものCO2 が排出されます。一般的な乗用車のオー
ナーは、1年間で 4.6 トンものCO2 を排出していることになります。これを2リットルのペットボトル
に入れると、なんと 130 万本にもなります。重さにしても、体積にしても、とてもクルマの中や自宅
にしまっておける量ではありません。
ということで、このCO2 は大気に放出されるわけです。そして、地球がますます暑くなったという
ことは、すでにご存知でしょう。自動車は、地球温暖化の元凶です。
そこで、自動車から排出されるCO2 を少なくすべくさまざまな技術が開発されていますが、中で
もハイブリッド車とディーゼル車は、その筆頭です。しかし、どうもこの2つの技術は仲が悪いらし
く、互いに罵り合っています、というのは冗談ですが、戦いには熱いものがあります。
ハイブリッド車もディーゼル車も、互いにおのがメリットを強調し、返す刀で相手のデメリットをあ
げつらいます。
ハイブリッド車のメリットは、なんといっても市街地で燃費の良いことです。また、排ガスもたいへ
んにクリーンです。
一方、高速道路のようにあまり加速、減速が繰り返されない場合には、ハイブリッド・システムは
少ししか働かず、燃費はエンジンの実力でほぼ決まってしまいます。トヨタのハイブリッド車は、ガ
ソリンエンジンを使いますから、ガソリンエンジンの限界でトヨタのハイブリッド車の燃費も決まっ
てしまうということです。
トヨタのレクサスハイブリッドLS600h
ディーゼル派は、これをとらえてハイブリッド車よりもディーゼル車の方が燃費が良いと、弱点を
ついてくるわけです。とくに走行距離が日本よりもずっと多く、高速道路の使用率も高いヨーロッ
パでは、ディーゼル車がハイブリッド車よりも有利だというのです。しかし、それほど簡単に決着
がつくわけではありません。ハイブリッド車も、高速道路で燃費が悪いわけではないのです。
さて、ディーゼル車は、ヨーロッパで販売台数を伸ばしています。台数が伸び始めたのは 2000
年近傍からで、フランスから始まりました。
フランスでディーゼル車の販売台数が増えた背景には、軽油税の安さがあります。フランスの
軽油税はガソリン税の 70%とEUの平均に比べて安いのです。ちなみに、イギリスではガソリンと
ほぼ同じです。そして、イギリスではディーゼル車販売台数は増加していません。
軽油税が安くなったのは、軽油を使う、つまりディーゼルエンジンを使う、農民、漁民、トラック業
者に対する税制上の配慮からです。もちろん、そのまた背景には選挙での集票があるのでしょ
う。
軽油税の優遇は、都市部のディーゼル乗用車ユーザーにも及びました。どうやら、ここにフラン
スのディーゼル乗用車販売台数増加の理由があるようです。つまり、地球温暖化防止というより
も、経済的な理由だったということです。
その結果、税金の安い軽油の販売量が増えて燃料税の税収が減ることになり、フランス政府は
あわてて軽油税を上げようとしました。しかし、農民は製油所の周囲をトラクターでぐるりと取り囲
み、漁民は港でストライキを打ち、トラック業者は高速道路で横にトラックを止めて交通を遮断す
るなどの実力行使を行ないました。フランス政府は軽油税の引き上げをあきらめ、現在に至って
います。
しかし、フランスで始まったディーゼル乗用車販売台数の増大は、意外な結果をもたらしました。
それは、ディーゼル車の性能の向上です。
マーケットが存在することがわかると、各メーカーがそこに向かってディーゼル車を投入するよう
になりました。そして、開発競争が起こります。性能の良い快適なディーゼル車を作れば、他社を
圧倒することができます。
ダイムラー・クライスラー日本が発売した、
ディーゼルエンジンを搭載したメルセデス・ベンツ
Eクラスの特別仕様車「E320 CDIリミテッド」
■ハイブリッドが
ハイブリッドが増えたら、
えたら、ディーゼルが
ディーゼルが負ける
こうして各社はディーゼル車の開発に資金を投入し、生産増大に向けて設備投資を行ないまし
た。性能の良いディーゼル車がマーケットに登場したために、ディーゼル車ユーザーはさらに増
えることになりました。マーケットとメーカーの好循環が始まったのです。
その結果、ヨーロッパのほとんどのメーカーは、莫大な先行投資をしてしまったディーゼル車生
産から引くに引けなくなったのではないかというのが私の考えです。
そうしている間に、ヨーロッパのメーカーがキッチュだと思っていたハイブリッド車=プリウス
(1997 年登場)が日米で順調に販売台数を伸ばしていきます。購入してテストしてみると、明らか
に燃費は良く、分解してみると実に巧妙に作られていることが分かったのではないでしょうか。
「ハイブリッド車がこれ以上増えてはディーゼル車が負けてしまう」と、もしヨーロッパのメーカーが、
とくにメルセデスやBMWなどドイツのメーカーが考えてもおかしくありません。
アメリカのビッグスリーも、ハイブリッド車を脅威だと思っていたようです。証券アナリトスト向け
の講演会などでは、しきりに燃料電池車のハイブリッド車に対する優位性を宣伝していました。
トヨタのハイブリッド戦略は、ヨーロッパ・メーカーも、アメリカ・メーカーも大いに震撼させました。
アメリカでは、とくにGMは燃料電池車開発への傾斜を強め、ヨーロッパでは、ますますディーゼ
ル車の開発が進むことになりました。
これが、現在のハイブリッドVSディーゼル戦争の背景です。まだ、決着はついていません。ディ
ーゼル車には厳しい排ガス規制が、ハイブリッド車にはコストダウンが待ち受けています。
「エコカー」
エコカー」がCO2
CO2削減に
削減に威力――
威力――自工会環境担当者
――自工会環境担当者に
自工会環境担当者に聞く(上)
自工会で作成した温暖化ガス削減に
向けたパンフレットを手に説明する大野氏
2050 年に世界で温暖化ガス半減という長期目標に対し、日本の産業界はどうクリアするのか。ハ
イブリッド技術などで世界をリードする自動車産業の環境対応の今後の道筋を、日本自動車工
業会(自工会)地球環境部会の大野栄嗣副部会長(トヨタ自動車CSR・環境部担当部長)に聞い
た。
◇
◇
◇
――自工会が二酸化炭素(CO2)削減に向けたパンフレットを作ったそうですね。
政府の策定した京都議定書目標達成計画には、運輸部門の CO2 排出量を 2010 年に 2 億 5
千万トンに削減するという目標が掲げられています。
運輸部門では 2001 年度をピークにかなり減り始めていまして、私どもは目標を達成できるとみ
ています。ただ、このまま何も対策をしなければ、2010 年には 3 億トンくらいまで増えてしまうため、
目標との差である 5 千万トンをどうやって削減するのか、様々な対策が達成計画にまとめられて
います。燃費改善で 2100 万トン削減しなさいとか、交通対策をしなさいとか、細かくみると 20~30
の対策があります。
■運輸部門の
運輸部門のCO2
CO2排出、
排出、2年連続で
年連続で減少
運輸部門の CO2 排出源の 90%は自動車によるものです。乗用車と貨物自動車に大きく分ける
と、貨物自動車は物流事業者の対策などが効いて、以前から CO2 排出量は減り始めていました。
その一方で、乗用車からの CO2 排出量は増えていたのですが、05 年に初めて減少に転じまし
た。
06 年はまだ発表されていませんが、我々の予測ですと 2 年連続の減少は間違いないでしょう。
――どのようにして減らしたのですか。
現状の規制では、2010 年度燃費基準というのがあります。いわゆる『トップランナー燃費基準』
というものです。トップランナー燃費基準とは、簡単に言えば最も燃費の良い自動車を平均値に
する考え方です。家電製品なども採用している方式ですが、自動車の場合は車両の重量別に燃
費基準が定められています。
自工会全社の平均燃費では、2005 年度時点で全重量クラスで基準を達成しています。2010 年
度基準なのでまだ5年もあるのですが、これほど速いペースで燃費の改善を進めてきたというこ
とです。
――基準が甘いのでは、という指摘もありますね。
私どもの感覚では、相当頑張って達成したというのが実感です。と言いますのは、2010 年度ま
でにやればよいものを各社が競争してそれ以前に達成したわけですから。
運輸部門で 2010 年までに二酸化炭素 5000 万トンの削減が目標だ
日本のお客様は、燃費のいい車をお求めになるというモチベーションも手伝ってのことだと思いま
す。
――世界的にも突出しているということですか。
世界的にどこの国でも燃費を重視する傾向になってきましたが、日本のお客様はそういう傾向
がより強いのではないかと感じています。
それは、もともと日本人は環境意識が高いからだと思いますが、燃費に対するお客様の関心が
高まるきっかけとなった1つに、国が定めた『グリーン税制』があると思います。
これは、燃費基準をプラス 10%以上、20%以上達成し、排出ガス性能も一定以上であれば自
動車税や自動車取得税が軽減されるというものです。
――導入されてどれくらいになりますか。
8 年前の 1999 年からです。
このグリーン税制だけで皆さんが買っているわけではないと思います。しかし目を向けていただ
いている理由の一つだと思います。
少し話が変わりますが、どうやって燃費をこんなに早く良くしたのかを説明します。
ハイブリッドは燃費が良いことでよく知られていますが、台数はまだ極わずかです。CO2 は 8 千
万台近く走っている車すべてが出しているわけですから、その意味でクリーンエネルギー車の効
果というのはまだまだ少なく、普通のガソリン車で燃費対策しているのが効いているのです。
燃費対策には様々な技術の結集が必要です。どの自動車メーカーでも「燃費対策やっている人、
手を上げて」というと、技術者のほとんどが手を上げます。総力戦みたいなもの。つまり、1つ1つ
の技術の積み重ねで対応しています。
たとえば、エンジンの給排気バルブの開閉タイミングを変えたりする。あるいはトランスミッション。
今オートマチックがほとんどですが、段数がすごく増えています。5 段、6 段、7 段、もう 8 段くらい
とか、CVT(無段変速機)も出てきています。しかし、今示した 2~3 の技術だけを改良しているわ
けではないので、誤解の無いようにお願いします。本当に総力戦で対応しています。
運輸部門の CO2 排出量を相当量減らした話に戻りますが、その主な要因を分析してみますと、
次の 3 点が同じくらいの効果を上げています。1つは、走行量の低下です。国土交通省の予測で
は継続的に乗用車全体の走行量が増えるだろうと予測していたのが、ここにきて頭打ち傾向が
強まっています。
ガソリンの値段が上がったのも原因の1つであるのは間違いないと思いますが、社会トレンドが
変わっている気もします。自工会が行ったアンケートでは、レジャーより買い物にお金を多く使うと
か、車より携帯電話に使う、というように全体的な社会構造が変わってきたような気がします。
この走行量の減少が 3 分の 1 くらい。そして残り 3 分の 1 が我々の燃費向上で、最後の 3 分の
1 が交通対策などです。
燃費向上については、乗用車の 2015 年度燃費基準という新たな基準がこの 7 月に公布され、
さらなる燃費改善を求められています。これはかなり厳しいものです。
理由は2つあります。自動車業界はマンパワーと投資を短期間に集中して、2010 年を待たずに
2010 年度燃費基準を達成しました。100m を全力疾走してようやくゴールしたときに、またすぐ同
じハイペースで 100m 頑張りなさいと言われるのに等しいのです。環境問題はサステナブル(=
持続可能)でなければいけないということです。
より厳しくなった「2015 年度燃費基準」が7月に公布された
■エコカー
エコカーは
エコカーは国内自動車保有台数 8000 万台のうち
万台のうち 30 万台にすぎない
万台にすぎない
燃費向上技術については、お金をかけずに着手できるものから採用してきています。前の目標
達成のためにも多くの技術を使ってきたので、あとはお金がかかる新技術しか残っていない。可
変バルブが開閉するタイミングを運転条件で変えようとか。こうすれば確かに燃費もよくなるが、
お金もかかります。コストを安くし車の値段を抑えないと、お客様の負担が増えてしまいます。こ
のように、コストが高い技術しか残っていないというのが2つ目の理由です。
こうした条件の下で、これまでと同じペースで 2015 年度燃費基準をクリアするのは相当厳しい
ことですが、やらなければなりません。
近年、急速に普及しているクリーンエネルギー車がその牽引役になると思います。今のところク
リーンエネルギー車のほとんどがハイブリッド車で、8000 万台近くの自動車保有台数のうち、ま
だハイブリッド車は 30 万台程度に過ぎませんが、今後は増えていきます。
長期的には、安倍首相が先のハイリゲンダム・サミットで示した「2050 年に世界での温暖化ガ
ス排出量半減」をするためには、相当大きな役割を担うことになると思います。
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