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豚サペロウイルスが脳脊髄炎原因ウイルスであることを明らかに

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豚サペロウイルスが脳脊髄炎原因ウイルスであることを明らかに
豚サペロウイルスが脳脊髄炎原因ウイルスであることを明らかにした
野外事例及び感染実験
中央家畜保健衛生所
會田恒彦
篠川有理
田中健介
平山栄一
はじめに
豚サペロウイルス(PSV)はピコルナウイルスに
樋口良平
石田秀史
材料及び方法
1 病性鑑定
属し、以前は豚エンテロウイルス(PEV)血清型8に
神経症状を呈した2か月齢の肥育豚6頭(生体2
分類されていたが、近年の遺伝子解析の結果から
頭、死体4頭)について、計4回病性鑑定を実施し
PEV-Aを経て現在の名称に至っている。豚エンテ
た。病理及び細菌学的検査については常法により
ロウイルス性脳脊髄炎の原因ウイルスには豚テシ
行った。ウイルス学的検査については、脳脊髄の
オウイルス(PTV)、PSV及び豚エンテロウイルスB(P
乳剤を作成し、単層のCPK細胞を用いたウイルス
EV-B)が挙げられていたが、PSV及びPEV-Bについ
分離及び抽出した核酸からPSV、PTV、PEV-B[6]、
ては神経疾患への関与の明確な証拠が得られてい
豚脳心筋炎ウイルス[7]、豚サーコウイルス2型[8]
ない。このため、豚エンテロウイルス性脳脊髄炎
各特異遺伝子の検出を行った。この他、血清を用
の国際的な名称は豚テシオウイルス性脳脊髄炎へ
いたオーエスキー病ウイルス抗体検出をラテック
と変更されている[1]。
ス凝集法により、扁桃からの豚コレラ抗原検出を
PSVは下痢、肺炎、繁殖障害の原因ウイルスで
直接蛍光抗体法によりそれぞれ行った。
あることが認知されているが、神経病原性につい
ては明らかになっていない。我々は県内1養豚場
2 発生農場PSV調査
において発生したPSVの関与が疑われた脳脊髄炎
農場におけるPSV感染状況を把握するため、分
事例を報告しているが[2,3,4]、その後も発生が
離株を用いたステージ別中和試験を発生翌月の20
みられたことや、分離株を用いた感染実験により
08年11月と、発生がなかった2009年12月及び2010
PSVの神経病原性が証明されたことから[5]、そ
年11月の計164頭について行った。また、2010年1
れらの概要について報告する。
1月については、ステージ別に2~6頭分をプール
した糞便12検体についてPSVのRT-PCR法を実施し
発生概要
た。
母豚240頭規模の一貫経営農場において、2008
年10月から約2か月齢の肥育豚が四肢麻痺等の神
3 感染実験
経症状を呈し、2009年4月までに27頭が死亡した
(独)動物衛生研究所において、2日齢のノトバ
[2,3,4]。その後、2010年5月にも同様症状で3頭
イオート子豚を用い、延髄由来分離株(PSV/Niigt
が死亡した。臨床症状の特徴として、前肢又は後
a2008)を静脈内に3頭、経口で2頭それぞれ接種し、
肢いずれかの麻痺が多くみられたほか、知覚反応
接種後20日目までに解剖し検査に供した。免疫組
は音や触られた刺激に対して鳴いたことから確認
織化学染色に用いた抗PSVマウス血清は、13週齢
された。発症豚の多くは3~4日後に死亡したもの
のマウス腹腔にPSV/Niigta2008株を2回接種し、2
の、回復する個体もみられた。離乳豚については
週間後に採血して作成した。
上記の期間のほか、2013年に至るまで春と秋に発
症が散発しているが、いずれも数日内に正常に回
復し、死亡事例は認められていない。
4 PSV抗体調査
県内佐渡以外の各地域から、1983年、1998年、
2008年に採材した肥育豚各20戸80頭分の血清を用
い、分離株を用いたPSV中和試験を実施した。
成
績
細菌学的検査では、全頭の諸臓器から有意菌
は分離されなかった。
1 病性鑑定
剖検では脳血管充うっ血(4/6頭)、体表リンパ
ウイルス学的検査では、3頭の脳脊髄からPSV特
節腫脹(5/6頭)、心嚢水軽度貯留(6/6頭)が認めら
異遺伝子が検出され、うち1頭の大脳、小脳及び
れた(図1)。
延髄から円形の細胞変性効果を示すウイルスが分
離された。分離株はPSVのRT-PCRが陽性で、塩基
後肢麻痺
【 剖検・病理解剖 】
配列解析においてPSV国際標準株のV13株と5'UTR
No.2
領域359塩基の一致率が91.5%を示しPSVであるこ
●
神経症状(後肢麻痺)生体2 頭
●
脳血管充うっ血
●
体表リンパ節腫脹 5/6 頭
来株の継代5代目の感染力価は105.25TCID50/100μl
●
心嚢水貯留
であった(図3)。その他のウイルスの関与はいず
とが確認され、PSV/Niigta2008株とした。延髄由
4/6 頭
6/6 頭
れの検査においても否定された。
No.2
No.1 心臓
図1
鼠径リンパ節
No.2
脳
発症豚の剖検所見
病理組織学的検査では全頭に共通して非化膿
性脳脊髄炎が認められた(図2)。脊髄から脳幹部
にかけて灰白質を中心にグリア細胞の浸潤増殖と
集簇が重度に認められ、単核細胞による囲管性細
胞浸潤も確認された。脊髄では神経細胞の中心性
色質融解も散見され、非化膿性の脊髄神経節炎も
図3
ウイルス学的検査まとめ
確認された。大脳の病変については脳幹部や脊髄
に比べ軽度であった。その他の臓器に著変は認め
2 発生農場PSV調査
2009年11月のPSV抗体価は全体にやや低かった
られなかった。
ものの、いずれの時期も抗体価は離乳時に低く、
No.2 脊 髄
●
●
は3か月齢以降の肥育豚の糞便からPSV特異遺伝子
脳幹部, 脊髄灰白室を
中心とした
非化膿性脳脊髄炎, 6/6頭
大脳病変は軽度 ,
6/6頭
が検出された(図4)
囲管性細胞浸潤
グリア細胞浸潤
No.2 大脳半球
神経細胞の中心性色質融解
図2
その後上昇する傾向がみられた。2010年の検査で
病理組織学的検査まとめ
まとめ及び考察
・2009.12.01 発生なし
140
各ステ ージ5~8頭
120
GM値
100
・2008.11.28 発生翌月
GM値
140
60
されており[9]、豚テシオウイルスが検出された
40
各ステ ージ6~8頭
120
20
100
0
01産
80
60
64
115
140
20
120
事例が国内でも報告されている[10,11]。しかし、
PSVが脳脊髄炎の原因ウイルスであることはこれ
・2010.11.10 発生なし
40
豚エンテロウイルス性脳脊髄炎の診断には神
経症状、脳脊髄炎、ウイルス分離の3点が必須と
80
各ステ ージ6~8頭
まで未確定であった。今回の野外事例は豚エンテ
100
01産
20
79
107
151日
GM値
0
ロウイルス性脳脊髄炎の診断に必須の3点を満た
80
60
しており、PTV等その他の神経症状に関連するウ
40
20
0
01産
70
115
糞便PCR 陽性ステージ
図4
発生農場PSV調査成績
イルス及び細菌の感染も否定されたことから、PS
Vの単独感染により神経症状が発症したものと推
察された。
発生農場のPSV浸潤状況調査では、発生の有無
3
感染実験
に関わらず離乳後に抗体価の上昇がみられ、PSV
静脈内接種の3頭全頭が後駆麻痺を呈し、野外
の感染時期は離乳後であったと考えられた。また、
事例と同様の神経症状が再現された。病理組織学
臨床的に正常な肥育豚の糞便からPSVが検出され
的検査では静脈内接種3頭、経口接種2頭のいずれ
たことから、多くは不顕性にPSVに感染していた
も脳幹部から脊髄にかけて非化膿性脳脊髄炎が確
ものと思われた。
認され、免疫組織化学染色においても陽性抗原が
検出された。
野外事例からはPSVの神経病原性が示唆された
が、正常な豚もPSVに感染していることからPSVが
脳脊髄炎の原因ウイルスであることを明らかにす
4
PSV抗体調査
るには感染実験による臨床症状と病変の再現が必
1983年、1998年、2008年のいずれの年も抗体価
要であった。ノトバイオート豚はPTVによる脳脊
8~64倍の頭数が多くみられ、抗体価2倍以上を陽
髄炎の再現に有用であることが報告されているが
性とした場合の個体陽性率は、それぞれ88.3%、9
[12]、今回は野外事例の延髄から分離されたPSV
1.7%、100%であった。農場毎の抗体陽性率につい
を2日齢のノトバイオート豚に接種して感染実験
てはいずれの年も100%であった(図5)。
を行った。その結果、野外事例とほぼ同様の臨床
症状と病理組織所見が再現され、病変部にPSV抗
原が確認された。これらの成績から、PSVが豚の
神経症状の原因ウイルスであることが世界で初め
て証明された。
抗体調査からPSVは県内養豚場に以前から広く
浸潤していることが確認された。通常、豚はPSV
に不顕性に感染しているものと考えられ、今回の
農場でPSVによる脳脊髄炎が多発した原因は不明
である。しかし、浸潤状況からはその他の農場に
おいても発生する可能性も否定出来ず、今後、豚
の神経症状の病性鑑定においてはPSVも考慮した
検索が必要と考えられた。
図5
県内PSV抗体調査成績
謝
辞
分離株の塩基配列解析や感染実験の成績につい
て情報提供並びに御助言を下さった、(独)動物
衛生研究所の山田学先生、宮崎綾子先生に深謝致
します。
参考文献
[1]Diseases of Swine:10th Edition,(2012)
[2]里麻
啓ら:平成21年度新潟県家畜保健衛生業
績発表会集録, 63-65(2010)
[3]篠川有理ら:平成21年度新潟県家畜保健衛生業
績発表会集録, 66-68(2010)
[4]篠川有理ら:第156回日本獣医学会学術集会講
演要旨集, 209(2013)
[5]山田
学ら:第156回日本獣医学会学術集会講
演要旨集, 210(2013)
[6]La Rosa G, et al:J Vet Med B, 53, 257265(2006)
[7]Vanderhallen H, Koenen F:J Clin Microbio
l, 36, 3463-3467(1998)
[8]Kwang Soo Lyoo, et al:J Vet Diagn Inves
t, 20, 283-288(2008)
[9]全国家畜衛生職員会:病性鑑定マニュアル
第3版, 238-239(2008)
[10]Yamada M, et al:Vet Rec, 155, 304-306
(2004)
[11]西
大輔ら:日本獣医師会雑誌, 65, 31-36
(2012)
[12]山田
学ら:第151回日本獣医学会学術集会講
演要旨集, 207(2011)
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