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財務分析と費用便益分析
様々な意思決定と「費用便益分析」 プロジェクト評価論2004 #2 費用便益分析とは何か *個人の意思決定: 「メリットとディメリットを比較 考量して決定」 *私企業(利潤最大化を目指す)の意思決定: 私的便益(売り上げ)と私的費用を比較 *社会全体の意思決定: 社会的便益と社会的費用を比較 社会的純便益=社会的便益ー社会的費用 駒井正晶 1 (社会的)費用便益分析の対象となる 問題の例 「社会的」費用便益分析 2 CBAの位置づけ: プロジェクト開発/評価のプロセス *AとBの間にバイパスを建設すべきか? ・もしそうなら、どれくらいの規模にすべきか *どこに首都圏第三空港を建設すべきか *政府はチャイルド・シートの装備を義務付 けるべきか? *強盗犯を保護観察処分に(懲役ではなく) するほうがいいか? 1. Project Identification 2. Pre-feasibility Study 3. Feasibility Study 4. Project Design 5. Implementation 6. Ex-post Evaluation (Frances Perkins, Practical Cost Benefit Analysis, Macmillan,1994) 3 4 私企業の計画決定:自動車会社の 投資計画の例 財務分析と費用便益分析 *財務分析(Financial Analysis) ・プロジェクトが商業的に利益をもたらすか(赤字に ならないか)どうかを評価 ・私企業・政府・国際機関など *費用便益分析=経済分析(Economic Analysis) ・特定のプロジェクトや政策が社会の厚生を増加さ せるか否かを評価 ・政府・国際機関など *私企業の「費用便益分析」(財務分析) *計画プロセス 1.今後どんな車が売れそうか(市場調査) 2.どんな車をいつ市場に出すか 3.費用・価格・販売台数の推計 4.収益性の推計 利潤(売り上げ−費用)の最大化 *時間要素の考慮 5 6 1 時間要素の重要性 割引現在価値を使ったら何が 変わるか? *費用、便益(売り上げ)とも長期間にわたって発 生 *「明日の1億円は今日の1億円と同じではない ・今日1億円を銀行に持っていけば、明日には1 億円以上になって返ってくる(利子の存在による 時間選好の説明) ・時間選好が存在するが故に利子が存在する →「割引現在価値」で考える 最初の年に工場を建設し、4年間生産を継続する工場の計 画を想定 割引率=10%(0.1) 年次 収入 費用 利潤 割引後利潤 0 0 1000 -1000 -1000 1 500 200 300 273 2 500 200 300 248 3 500 200 300 225 4 500 200 300 205 合計 2000 1800 200 -49 7 8 割引現在価値 QUIZ-2 • 今日1億円を銀行に預けると1年後には (1+i)×1億円 i=利子率 • 1年後の1億円の現在価値(割引現在価値) 1億円/(1+i) • 2年後の1億円の現在価値 1億円/(1+i)2 • 3年後、……n年後の1億円の現在価値は? • i : 割引率(将来の価値を現在価値で評価する ときの率(discount rate)) • 割引率は個人によって異なる 9 “近視眼的”な人 1.1年後から3年間にわたって年に1億円ずつもた らされる便益(利益)の現在価値はいくらか? 割引率:5% 2.1年後からn年間にわたって発生する便益Bt(B1、 B2, ・・・・・・・, Bn)の現在価値はいくらか 割引率:r 「社会的」費用便益分析の問題 費用・便益とは何か? *1については、実際に計算しなくてよい 10 *費用=機会費用(opportunity cost) ある選択を行うことにより失ったもののうち で最大の価値を持つものの価値 *便益:満足、効用 =willingness to pay (支払ってもよいと考える額) ・公共財の需要顕示の困難性:フリー・ライ ダー問題 *社会的費用・便益とは何か? *費用と便益をどのように計測するか? *社会的割引率とは? *プロジェクトの採否をどうするか? ・社会的便益>社会的費用 ・社会的便益−社会的費用 =社会的純便益>0 11 12 2 費用便益分析の基本ステップ1・ 2:道路建設の例 費用便益分析の基本ステップ 1.誰の便益と費用を考慮するかを決定 2.代替的プロジェクトのセットを選択 3.潜在的インパクトを列挙し、計測方法を選択 4.プロジェクト期間中のインパクトを量的に予測 5.すべてのインパクトを貨幣価値で表現 6.現在価値を求める 7.費用と便益を合計 8.感度分析 (9.社会的便益が最大のプロジェクトを推薦) 1.誰の便益・費用を問題とするかを決定 沿線住民∼○○市民∼都民… ∼日本国民∼グローバルな視点 2.代替案のセット (例)有料道路vs一般道路 ルート 車線数 切り土/盛り土 13 費用便益分析の基本ステップ3: 道路建設の例 3.潜在的インパクトの列挙と計測方法の選択 ・インパクト:必要な資源(費用)とプロジェクトの便 益の両面 ・ 便益の例: 節約時間/自動車の運行費用の節減 事故の回避・緩和/既存道路の混雑軽減 新規に発生した交通の便益 ・費用の例 建設費用/追加的維持費 15 料金徴収費用 費用便益分析の基本ステップ6∼ 9 14 費用便益分析の基本ステップ4・ 5:道路建設の例 4.プロジェクト期間中のインパクトの量的予測 ・新しい道路の通行量 ・古い(関連する)道路の通行量 ・利用者が節約する総時間数 ・自動車の運行費用と腐朽・破損の合計 ・交通事故回避件数、死亡回避人数 5.すべてのインパクトを貨幣評価 ・節約される時間の価値:レジャー/ビジネス/ト ラック 16 ・事故による傷害のコスト/生命の価値 費用便益分析の歴史 *Depuit *Marshallが発見 *1930年代アメリカ:水資源開発(ダム) *第二次大戦後:社会資本計画(空港・道路・都市 開発etc.)から他のプロジェクト、公共政策へ *世界銀行のプロジェクト:Project Evaluationを義 務付け *日本:治水事業 名神高速道路 6.割引により現在価値を求める ・社会的割引率 7.便益と費用を合計 8.感度分析:不確実性の処理法 9.社会的便益が最大のプロジェクトを推薦 NPV=B-C 便益−費用比(B/C)? 17 18 3 費用便益分析の概念的基礎 効率性以外の目的 *分配の公正 *sustainability *人権(human right) *人間以外の自然の権利 *CBAの概念的基礎: 資源配分の効率性 =パレート(Pareto)効率性 *CBA実施の際の現実的基礎: 潜在的パレート効率性 Fuguitt, Diana and Wilcox, Shanton J. , CostBenefit Analysis for Public Sector Decision Makers, Quorum Books, 1999. Ch.4. *CBAの経済学的基礎:厚生経済学 19 効率性計測方法としてのCBA:パレー ト効率性(Pareto Efficiency) * 「他の誰かの状態を悪化させることなく、少なく とも一人の状態を改善することができないとき、 財の配分はパレート効率的」 *潜在的パレート効率性 ・パレート効率性:潜在的パレート効率的な状態の うち、各人に現状と最低限同じ状態を保証する 状態 20 純便益とパレート効率性 *純便益とパレート効率性の関係 「政策(プロジェクト)が正の純便益をもたら すなら、他の誰の状態も悪化させずに、少 なくとも一人の状態を改善できるような移 転策を見つけることが可能」 移転=純便益の再配分(再分配) 21 22 純便益とは(1) 純便益とは(2) *純便益=便益−費用 *便益=Willingness to Pay(WTP) *純便益とパレート効率性 (例)あるプロジェクトによる3人の純便益 個人1:10,000円、個人2:20,000円 個人3:-25,000円 社会全体の純便益=5,000円 Q1.このプロジェクトの実施はパレート効率的か? Q2.このプロジェクトの実施は潜在的にパレート効 23 率的か? *パレート効率的になるような便益移転=純 便益の再配分=補償 *例 個人1(純便益=10,000円)から7,500円 個人2(純便益=25,000円)から17,500円 を個人3(純便益=-25,000円)へ移転 24 4 純便益とは(3) CBAと意思決定 *費用=機会費用=プロジェクトを実行するため に社会が放棄した資源が最善に利用された場合 の価値 *3人の例 このプロジェクトの実施により、3人以外の誰か に7,500円相当の機会費用がかかる場合: 社会全体の純便益=-2,500円 →プロジェクトの実施は潜在的にもパレート効率的 ではない *正の純便益:プロジェクトをパレート効率的にす るような補償が可能 *意思決定ルール:現実にパレート効率的なプロ ジェクトのみを実施? ・分析に必要な情報が膨大 ・補償の実施費用 ・投資や労働インセンティブに影響 ・費用の過大報告/便益の過小報告 (フリー・ライダー問題) →? 26 25 WTPの問題点 潜在的パレート効率性:補償原理 *カルドア・ヒックス基準(Kaldor-Hicks criterion) *正の純便益をもたらすプロジェクトのみを採用: 純便益が正である限り、不利を被るものを補償 することが「可能」 *実現可能性以外の理由 ・社会全体の便益最大化 ・プロジェクトにより異なる敗者:損失と利得が相殺 ・特定の団体などの利害を過大に取り上げない ・事後の再分配は可能 *WTPは富の分配状態に依存 ・実際に補償されれば解消 *誰の立場か? ・「社会」の範囲:世界、国、地域etc. ・誰を含むか? (例)海外在住の自国人、自国内の外国人 不法滞在者、不法滞在者の子供 ・社会的に容認できない選好 ・将来世代の選好 27 28 費用便益分析と余剰分析 <図> 費用便益分析の限界 *需要曲線:WTP=便益を表現 *消費者余剰の変化 ⊿CS=(⊿P)(X*)+1/2(⊿X)(⊿P) ⊿Xが特定のケースについて分からないとき e=(⊿X/⊿P)(P*/X*) e:需要の価格弾力性 ⊿CS=⊿P(X*){1+1/2(⊿P/P*)e} *技術的限界 ・質的分析 ・費用効果分析(費用有効度分析) (cost-effectiveness analysis) *効率性以外の目標が重要なとき ・多目的分析(multi-goal analysis) ・分配ウエイト付きCBA 社会的余剰=消費者余剰+生産者余剰 29 30 5 消費者余剰の問題点と他の測度 <参考>補償変分と等価変分 *消費者余剰の大きさ:複数の価格変化が 起こるとき、その順番により、余剰としての WTPの大きさが異なる:経路依存性 *補償変分(compensating variation) プロジェクトにより価格変化が生じたとき、消費者 を最初の無差別曲線上にとどめるために必要な 所得変化(価格変化を補償するために払って欲 しいと考える金額) *等価変分(equivalent variation) 価格変化後と同じ状態にするために、価格変化 前に、消費者から取り上げなくてはならない金額 (価格変化をまぬがれるために消費者が支払っ てもよいと考える金額) *経路依存性のない価格変化の影響の測 度:補償変分と等価変分 *補償変分と等価変分:計測困難 →実用上は、消費者余剰 31 32 6