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仏像頭部における鼻梁側面観造形の特徴分析
日本顔学会誌七巻一号 学術論文 仏像頭部における鼻梁側面観造形の特徴分析 Feature analysis of nasoglabellar profiles in Buddhist sculpture heads 小林茂樹 1)、土屋晋 2)、藤澤隆史 2)、長田典子 2) Shigeki KOBAYASHI1), Shin TSUCHIYA 2), Takashi X. FUJISAWA 2), Noriko NAGATA 2) E-mail: [email protected] 和文要旨 仏像の製作は、1世紀末に現在のインド・パキスタンで発祥した後アジア各地へ伝播し、各地・各時代で多様 な造形を展開した。私たちは、この多様な造像様式を計測的かつ統計的に解析している。ここでは鼻梁側面観造 形の特徴分析を試みた。国内美術館が収録した中国石窟寺院仏頭と平安期近江の観音菩薩像の側面観写真をデジ タル画像として取込み、画像上で計測を行った。計測は、tr_a より gn_a に引いた直線を基準線とし、tr_a より prn_a に引いた直線と基準線がなす鼻尖角に対して、それぞれ prn_a より鼻梁に沿って引いた直線と基準線が成 す鼻角、tr_a より g_a に引いた直線と基準線が成す眉間角、および tr_a より se_a に引いた直線と基準線が成す鼻 根角の比の対数変換値を、有効な特徴パラメータとして選定した。また、少数のヒト類似型側面観作例を有効に 抽出するために、仏像と人間のデータを併用する多変量解析を行った。人間のデータには学生の横顔画像データ を用いた。仏像とヒトの併合群のクラスター分析と主成分分析から、仏像鼻梁側面観造形に「リニア型」、 「単調型」 、 「起伏型」 、および「隆起型」の4型を確認した。 キーワード : 仏像頭部、鼻梁側面観、特徴パラメータ、クラスター分析、主成分分析 Keywords : Buddhist sculpture head, Nasoglabellar profile, Feature parameter, Cluster analysis, Principal component analysis 1. はじめに 私たちの研究の立脚点は、前者すなわち造仏 仏像の製作は信仰の形而下表象として、釈迦滅 の 側 面 に あ り、 地 域 や 時 代 の 影 響 を 受 け な が 後約500年を経た1世紀末に、現在のインド(マ ら、仏陀や菩薩が人間を超越する存在としてど トゥラー)およびパキスタン(ガンダーラ)で発 のような造形上の表現をなされてきたかについ 祥したとされる。その後造仏はアジア各地へ伝播 て、計測的アプローチの可能性を追求している し、造形方式と民族性と経典による規範(儀軌) [2],[3],[4],[5],[6]。 の3要素をないまぜながら、各地・各時代で多様 な造形を展開してきた。草創地造形方式の影響 2. 目的 は、とくに中国の初期像に見られ、朝鮮半島や日 仏像の特異的造形の一つとして、鼻尖から前額 本もその傾向を継承したが、一方東南アジアでは に通じるいわゆる「ギリシア鼻」様造形が知ら 民族性の強い様式が顕著になった [1]。 れ、中国石窟寺院から日本まで広い共通性が見ら 仏像をめぐる二面性として、つくる側とつくら れる。一方、日本の造仏様式において画期をなし れたものを感受する側を区分することができる。 たとされる運慶作円成寺大日如来のように、短鼻 後者は本来仏教信仰者であったが、彫刻としての で眉間と鼻根の起伏があり、人間により近い印象 優品を選んで美術作品と見る観点が欧米あるいは を与える作例も登場している。このように鼻梁造 近年の日本で盛んになっている。 形には多様性があるが、経典規範である三十二相 1) 2) 形相研究所、Keiso Research Laboratories 関西学院大学理工学部、School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University ― 47 ―