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【山本 信之先生(静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科)のご講演要旨】
参考資料 【山本 信之先生(静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科)のご講演要旨】 (演題名「ALK 陽性肺癌に対する Crizotinib の最近の臨床試験データと使用上の課題」) *11 月 8 日(木)、岡山県にて開催された第 53 回日本肺癌学会総会にてご発表 <はじめに> ALK 阻害剤である Crizotinib(製品名:ザーコリ、以下、「ザーコリ」)は、ALK 陽性肺がんの発見 からわずか 4 年(米国)、5 年(日本)と今までにない短期間で承認された。この要因は、ALK 陽性 肺がんに対するザーコリの非常に高い効果であると思われる。第Ⅲ相試験で既存薬と直接比較す ることにより有効性を確認後、承認申請が受け付けられるという、これまでの条件を大きく変更して 承認されたことは、今後の医薬品開発そのものの流れを変える可能性を持つほど大きな出来事で あった。 <ALK 診断> ザーコリについては、今年 9 月の ESMO(欧州臨床腫瘍学会)において、1次治療の前治療歴の ある ALK 陽性肺がん患者に対し、既存薬(ドセタキセルあるいはペメトレキセド)に比べて極めて 高い有効性が報告された。今後は、肺がん患者における ALK 融合遺伝子のステータスの確認と、 陽性患者においては遅くとも 2 次治療までにはザーコリによる治療がなされることが必要となってい くと思われる。 日本肺癌学会では、この ESMO の発表に先立ち、肺癌診療ガイドラインの改訂において、非小細 胞肺癌のうち非扁平上皮癌においては、初回治療を開始する前に EGFR 遺伝子変異と ALK 融 合遺伝子という二つの原因遺伝子の診断を前提とし、そのステータスに応じた治療薬剤の選択を 提言している。 <調査結果> すなわち、ALK 融合遺伝子診断は、必須のプロセスとなる訳である。そこで、このガイドラインが発 表された現在、どのように ALK 診断が実地臨床の先生方に理解され、実践されているかを把握す る目的で、ファイザー株式会社の協力を得て調査を実施し、全国 935 名の肺がん治療医師から回 答を得た。その一部を要約として概説すると、以下の通りであった。 ALK 診断の必要性は認識されているものの、全ての患者さんに検査を実施している医師は 3 割に 留まり、多くは一部の患者において限定的に実施していた。その理由は、コストと保険の問題が主 であり、一部の診断方法(FISH 法)しか保険償還されていないことなど、改善されなければならな い問題点が明らかとなった。 また、診断結果を確認する前に治療を開始する場合があると回答した医師が 7 割を占め、この背 景には、診断結果が帰ってくるまでの所要日数が影響していた。EGFR 検査で陰性と診断後、IHC (免疫染色)法を実施し、さらに FISH 法で確定診断に至るプロセスでは、最終的な結果が得られる までに 2 週間以上かかる。ALK 検査の結果を見てから治療を開始するためには、ALK 診断プロセ スの工夫が必要である。実際、「必ず診断結果を待ってから治療を開始する」と回答した医師の中 には、ALK 診断の 2 つの方法を並行して進めるなど(「IHC 法と FISH 法を同時に依頼」)、診断結 果が早く得られる工夫をしているケースもあり、今後多くの施設において同様の工夫がされていくこ とが望まれる。 <診断精度> 一方、ファイザー株式会社が実施した「保険償還(薬価収載)前のザーコリおよび ALK 診断結果 の無償提供」において、ALK の代表的な診断方法である IHC 法と FISH 法の結果に、不一致が 生じる可能性が示唆された。このことから、肺癌学会のバイオマーカー委員会では、より正確な診 断と治療判断のため、複数の診断をすることの重要性を強調することとした。コストと保険の問題は あるが、当面はあるべき対応と考えられる。 診断技術の進化は、診断精度の向上のためにも恒久的に重要な問題であるが、将来、ROS1 や RET など、さらに検査すべき原因遺伝子が増えていくだろうことを考えると、Multiplex など、一度 に多くの遺伝子を正確に診断できる技術の開発が急務である。 最後に、ザーコリの特徴的な副作用とその管理方法について紹介するとともに、今後症例数を重 ねてより充実した安全性情報が提供されることの重要性を強調したい。