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競争内部回復エージェント
平 成 27 年 度 証券ゼミナール大会 B ブロック 第7テーマ 「株主・企業双方にとって望ましい株主還元策のあり方について」 札幌学院大学 玉山ゼミナール 1 目次 P . 3 はじめに 5 10 15 第 1章 1- 1 株主還元とは P . 4 1- 2 時代背景と株主還元策 P . 6 1- 3 株主還元策が変化した理由 P . 8 第 2章 プリンシパル・エージェント問題 P . 9 2- 2 望ましい株主還元策 P . 9 2- 3 日本再興戦略 P. 1 1 2- 4 2 つのコード P. 1 2 2- 5 統合報告 P. 1 5 ROE 3- 1 ROE と は P. 1 6 3- 2 ROE の 比 較 P. 1 9 3- 3 法 人 税 率 と ROE P. 2 0 第 4章 25 望ましい株主還元 2- 1 第 3章 20 株主還元の現状 会計の有用性 4- 1 会計とは P. 2 3 4- 2 会計基準 P. 2 5 4- 3 会計処理 P. 2 8 4- 4 XBRL P. 3 2 4- 5 まとめ P. 3 2 問題提起と解決策 P. 3 4 参考文献・参考資料 30 2 はじめに 私 た ち は 会 計 専 門 の ゼ ミ で あ る 。そ こ で 、 「企業の成長なくして株主還元はな い」という考えをもとに一般的にいわれている望ましい株主還元策について説 明し、会計の視点が有用であることを提言する。 5 この場合の成長とは、企業価値の創造と向上を言う。また、企業価値は投資 家の投資目的によって異なる。短期的な視点で企業をみる投資家にとっては主 に「 株 価 ×発 行 済 株 式 数 」 ( 時 価 総 額 )で 表 す こ と が で き る 。中 長 期 的 な 視 点 で 企業をみる投資家にとっては主に持続的な発展・中長期的な価値創造である。 成長には投資が必要であり、投資はリスクである。その上、現在ではグロー 10 バル化ともいわれる環境のもと、以前の国内だけの競争とは様変わりをしてお り、また技術革新も進み、さらに競争が激しくなっているといえる。リスクに は投資の失敗があげられるが、内的・外的要因による様々なリスクがある。例 えば、為替リスク、カントリーリスク、研究開発の失敗などが挙げられる。 そして、企業の成長には指標としての会計が大きな役割を果たしている。私 15 た ち は 、 望 ま し い 株 主 還 元 策 の 在 り 方 を 議 論 す る 上 で ROE の 算 定 方 法 や 会 計 基準の選択等がいかなる影響を与えるかを論じる。そして、それに対する問題 提起と解決策を論じていく。 3 第1章 株主還元策の現状 1-1 株 主 還 元 と は 5 株 主 還 元 と は 、 (a)配 当 ・ (b)自 社 株 買 い ・ (c)株 価 の 値 上 が り ・ (d)株 主 優 待 な どを指す。ここではこの 4 つの株主還元について説明する。 (a) 配 当 配当とは、企業が株主に資本を還元することである。配当の決定プロセスは 会社法で定められており、剰余金の配当を行う際には原則としてその都度、株 10 主 総 会 の 決 議 が 必 要 と な る (1)。 図 1 を み る と 配 当 総 額 は 年 々 増 加 し て い る こ と が分かる。企業が設備投資など将来をにらんだ投資も活発で、企業が必要以上 に溜め込まず、株主還元や成長投資に振り向ける動きが広がっているといわれ る。 図 1 15 20 25 (日 本 経 済 新 聞 2015 年 5 月 16 日 朝 刊 ) (1) 伊 藤 靖 史 、 大 杉 謙 一 、 田 中 亘 、 松 井 秀 征 (2015)「 会 社 法 4 第 3 版」 (b) 自 社 株 買 い 自社株買いとは、企業が自社の株式を時価で買い取ること等を言う。自己資 本 を 減 ら す 効 果 が あ り 、 1 株 当 た り 当 期 純 利 益 (EPS) や 自 己 資 本 利 益 率 (ROE) の向上につながる。市場取引によるものについて、自社の株式が上場して証券 5 市場で広く流通しているのであれば、企業は市場から自己株式を買い入れると いうのが一般的である。市場からの買い入れであれば、当然に取得価額は時価 であり、既存および潜在株主にとって最も客観的かつ公平な取得となる。しか しながら、一時期に多額の買い入れを行った場合には、株価に重大な影響を及 ぼすことがあるため、このような自社株買いは、通常、金融商品取引法上の公 10 開買付けにより、実施される。金融商品取引法に基づく公開買付けは、不特定 かつ多数の者に対して、公告により株券等の買付け等の申し込みまたは売りつ け等の勧誘を行い、取引所有価証券市場外で株券等の買付け等を行うこととさ れている。こうした公開買付けは市場外取引であるが、不特定多数の者に株式 売 却 の 機 会 が 与 え ら れ て い る こ と か ら 、 市 場 取 引 に 近 い 性 格 を 有 し て い る (2)。 15 (c) 株 価 の 値 上 が り 株価は様々な要因によって変化する。一般的には企業の業績や株式の需要動 向などが挙げられる。企業の業績が上がると当然株価は高くなる。また、投資 家に大量に株式を購入してもらうことにより一部だけでなく株式市場全体の株 20 価が値上がりする。株価が値上がりするということは企業が成長につながって いく。企業が成長すると、利益も増加するため結果的に株主に還元していくこ とができる。そのため株価の値上がりも株式還元の一つである。 (d) 株 主 優 待 25 株主優待とは、一定数以上の株式を保有している株主に対して、企業が商品 やサービスなどを進呈する制度である。現在、株主優待を実施する上場企業が 増加しているといわれる。優待内容も、自社商品・サービスからプリペイドカ ー ド の よ う な 汎 用 性 の 高 い 金 券 ま で 、 多 種 多 様 に わ た る (3)。 (2) (3) 島 田 佳 憲 (2013)自 社 株 買 い と 会 計 情 報 日 本 証 券 経 済 研 究 所 (2015)証 券 経 済 研 究 5 ここでファナックの株主還元の事例を紹介する。ファナックは増配と自社株 買いで手元資金を株主に配分する方針に舵を切る一方、利益成長に向け設備投 資も積極化する。ファナック社長の稲葉善治氏は「栃木県に土地を購入して 8 月に数値制御装置の工場を着工する。中国やインドの市場の需要増加に対応し 5 た い 」と 説 明 し た 。(日 本 経 済 新 聞 6 月 26 日 夕 刊 )さ ら に フ ァ ナ ッ ク は 株 主 へ の 利 益 配 分 を 大 幅 に 強 化 す る と 発 表 し 、 配 当 性 向 を 30% か ら 60% へ と 引 き 上 げ る ほ か 、機 動 的 に 自 社 株 買 い を 実 施 し た 。2015 年 3 月 期 か ら の 平 均 で 配 当 と 自 社 株 買 い を 合 わ せ 利 益 の 最 大 80% を 株 主 に 回 す と し た 。(日 本 経 済 新 聞 2015 年 4 月 27 日 ) 10 1- 2 時 代 背 景 と 株 主 還 元 策 ここでは時代背景と共に株主還元がどのように変化しているのかについてみ てみたい。 15 1990 年 代 (80~ 90 年 の バ ブ ル 期 は 除 く )ま で の 日 本 は 金 融 資 本 主 義 と も 呼 ば れ 、 間接金融主体の資本調達構造だった。また、企業は他の企業や金融機関と株式 を互いに持ち合う、いわゆる株式持ち合いという形になっていた。互いに株式 を持ち合うことで安定株主となる。そうすることで企業は敵対的買収から身を 守 る こ と が で き 、 株 主 は 経 営 に つ い て 基 本 的 に 関 与 し な い (物 言 わ ぬ 株 主 )と い 20 う仕組みになる。しかし、バブル崩壊による株価の急落や、時価会計の導入に より、企業にとって株式を持ち合うメリットが低下し、株式持ち合いの解消へ とつながる。そして、売却された株式は外国人投資家が購入した。そのため株 主 構 成 は 変 化 し た と い わ れ て い る 。下 記 の 図 2 は 主 要 投 資 部 門 別 の 株 式 保 有 比 率の推移である。この図表からも金融機関の保有株式が減少し、外国人投資家 25 等が増加しているということが分かる。 30 6 図 2 主要投資部門別株式保有比率の推移 5 10 (東 京 証 券 取 引 所 ) 15 図 2 の 通 り 1995 年 ま で 株 式 所 有 構 造 は 安 定 的 で あ り 、 金 融 機 関 ・ 事 業 法 人 の優位によって特徴づけられていた。この所有構造が大きく変化した理由の一 つ と し て は 1997 年 の ア ジ ア 経 済 危 機 を き っ か け と し た 銀 行 危 機 か ら で あ っ た 。 も っ と も 、1997 年 以 降 も 、事 業 法 人 の 保 有 比 率 に 大 き な 変 化 は な く 、持 ち 合 い 20 の解消の中心は、企業・銀行間の持ち合いの解消と、生保の保有株式の売却で あ っ た 。 株 式 保 有 比 率 の 推 移 を み る と 、 都 銀 ・ 地 銀 は 1995 年 に は 約 15% で あ っ た が 2014 年 に は 約 4% と 減 少 し て い る 。 一 方 、 外 国 人 投 資 家 は 、 1995 年 に は 約 10% で あ っ た が 2014 年 に は 約 32% と 増 加 し て い る 。以 上 の こ と か ら 株 式 持ち合いが解消され、売却された株式をいわゆる「物言う株主」としての外国 25 人投資家が購入していったということがわかる。 30 7 図 3 5 10 野村週報 2014年7月14日 上 記 の 図 3 か ら は 持 ち 合 い 比 率 に つ い て み て い く こ と が で き る 。1990 年 代 初 頭 を み る と 平 均 的 に 約 32 % の 持 ち 合 い 比 率 で あ っ た 。 し か し 、 2012 年 に は 10.5% に ま で 減 少 し 、 株 式 持 ち 合 い の 解 消 が 進 ん で い る こ と が わ か る 。 15 1-3 株 主 還 元 策 が 変 化 し た 理 由 以上に示したとおり、外国人投資家等の増加により物言う株主が増加してき ている。物言う株主は短期間で企業に多くのリターンを求めるため、企業は利 20 益 や 伸 び 率 よ り 株 主 へ の 還 元 に 力 を 注 い で し ま う と い う 状 態 と な る 。2003 年 か らは四半期情報の開示制度も始まった。そのために従来の日本的経営から株主 重視の経営となっているのではないかとも考えられる。また、近年では企業が 外国人投資家等に投資を増加させるために利益が上がると配当も上がるという 業績連動型の配当政策を行っているといわれる。以前の日本は、配当性向は一 25 定であり業績の良し悪し関係なく一定額の配当を行っていた。 8 第2章 望ましい株主還元策 2-1 プ リ ン シ パ ル ・ エ ー ジ ェ ン ト 問 題 5 ここで、プリンシパル・エージェント問題について説明していく。ここでい う プ リ ン シ パ ル・エ ー ジ ェ ン ト 問 題 は 結 果 と し て 、 「 株 主 」と「 経 営 者 」の 利 害 が対立してしまうことである。 プ リ ン シ パ ル・エ ー ジ ェ ン ト 問 題 に は 情 報 の 非 対 称 性 (株 主 よ り も 経 営 者 が 企 業 の 情 報 を 保 有 し て い る 状 態 )の 存 在 が 大 き い 。そ の た め 、株 主 は 企 業 の 状 況 が 10 わからず、必要以上の配当を要求する可能性がある。一方、企業は情報の非対 称性を利用して、配当原資にすべき資金を内部留保へと回すことで必要以上に 経営の安定を図る可能性も考えられる。株主にとっては利益還元というプラス の側面があり、企業にとっては内部留保の減少というマイナスの側面を併せ持 っている。これらのバランスをどのようにとっていくかが焦点となる。 15 2-2 望 ま し い 株 主 還 元 策 プリンシパル・エージェント問題を解決し、望ましい株主還元策をするため には対話が重要であると考える。短期的に企業をみている投資家に対し、中長 20 期的に企業をみてもらうことが重要である。中長期的に株式を保有してもらう こ と に よ っ て 企 業 の 成 長 、増 益 に つ な が り 、株 主 の 還 元 も 増 加 す る 。一 般 的 に 、 個人投資家にとっては株主総会が唯一の対話の場であるといわれている。ここ で 、 ト ヨ タ を 例 に 取 り 上 げ る 。 近 年 、 有 力 企 業 が 個 人 投 資 家 向 け 広 報 ( IR) の 強 化 に 動 い て い る 。ト ヨ タ 自 動 車 は 3 月 に 初 め て 個 人 向 け I R イ ベ ン ト を 開 い 25 た ほ か 、 伊 藤 忠 商 事 も 2015 年 度 に 同 セ ミ ナ ー 開 催 数 を 前 年 度 の 倍 に 増 や す 。 年 100 万 円 ま で の 売 買 が 非 課 税 と な る 少 額 投 資 非 課 税 制 度( N I S A )も 追 い 風に、 「 対 話 拡 大 」を 通 じ て 自 社 の 株 を 長 く 持 っ て く れ る 個 人 を 増 や し 、株 価 の 下 支 え を 狙 う 。 ト ヨ タ が 初 め て 開 催 し た 個 人 投 資 家 向 け イ ベ ン ト に は 約 3500 人が参加した。豊田章男社長が登壇して「持続的な成長」をテーマに今後の事 30 業戦略などを語り、トヨタの技術を展示するコーナーも設けた。トヨタの個人 9 持ち株比率は現在1割強にとどまる。今後も個人向けIR拡充をテコに長期保 有 の 株 主 を 増 や す 考 え で あ る 。 (日 本 経 済 新 聞 電 子 版 4 月 14 日 ) また日立についても紹介する。リーマン・ショックによって、日立グループ 5 も 深 刻 な 経 営 危 機 に 陥 り 、 2009 年 3 月 期 決 算 は 7 千 億 円 を 超 え る 巨 額 の 最 終 赤 字 を 計 上 し た 。2009 年 4 月 の 会 長 兼 社 長 川 村 隆 就 任 後 、経 営 改 革 の 基 本 設 計 図 と も い え る 「 100 日 プ ラ ン 」 を 策 定 し 、 そ の 第 1 弾 と し て 7 月 に は 上 場 子 会 社 5 社 へ の TOB( 株 式 公 開 買 い 付 け )を 発 表 し た 。世 間 は 好 意 的 に 受 け 止 め て くれたが、その裏で解決しなければならない深刻な問題があった。 10 3 度 の 巨 額 の 赤 字 計 上 を 含 む 10 年 以 上 続 い た 低 収 益 に よ っ て 、格 付 け 会 社 が 日立の格付けを相次いで引き下げたのである。格下げされると、金利の上昇や サプライヤーが取引をためらうようになるなど、格下げは経営全般にとって大 きな重荷になるのである。理由ははっきりしていた。日立が過去から営々と積 み 上 げ て き た 自 己 資 本 を 巨 額 の 赤 字 が 食 い つ ぶ し 、09 年 3 月 期 に は 自 己 資 本 比 15 率 が 11% ま で 下 が っ た の で あ る 。危 機 を 打 開 す る に は 、公 募 増 資 を 実 施 し て 自 己資本の厚みを回復するしかないと考え、増資計画を公表した。しかし、発表 前 は 294 円 だ っ た 日 立 株 価 は 下 落 し 、 2 週 間 で 238 円 に な っ た 。 考えてみれば、株価急落は株主から突きつけられた「不信任決議」のような ものである。株の希薄化につながる大型増資を歓迎する株主はまずいないが、 20 そ れ で も 日 立 の 成 長 性 に 疑 念 が な け れ ば 、こ れ ほ ど は 下 が ら な い 。 「増資で手に 入れた資金を成長分野に投資することで、収益力が向上し、株主へのリターン も 増 え る 」と 期 待 す る か ら で あ る 。自 己 資 本 の 薄 く な っ た 日 立 製 作 所 に と っ て 、 公 募 増 資 は 企 業 の 命 運 を 左 右 す る 重 大 事 だ っ た 。経 営 陣 も 全 員 体 制 で 取 り 組 み 、 手 分 け し て 市 場 に 強 い 影 響 力 を 持 つ 海 外 投 資 家 (機 関 投 資 家 )を 訪 問 す る こ と に 25 した。各地の投資家に増資への理解を求めるとともに、新たに発行する日立株 の購入をお願いした。激しい叱責と議論に何日も身をさらして精神的にかなり 応 え た が 、こ ち ら の 発 す る メ ッ セ ー ジ は 一 つ し か な い 。 「今後はしっかり改革し て株主の期待に応えるので、今回ばかりは増資を応援してほしい」というもの である。散々批判しながらも、最後に「増資は引き受ける」と言ってくれる投 30 資家もいた。この増資行脚の最後に他の地域をまわっているチームを結んで電 10 話 会 議 を 行 い 、関 係 者 の 苦 労 を ね ぎ ら う と と も に 川 村 隆 氏 の 考 え を 述 べ た 。 「皆 さん、本当にありがとう。私は日立に入ってからいろいろなものを売ってきた が 、日 立 の 製 品 は 品 質 や 性 能 、納 期 を 保 証 し 、守 れ な け れ ば 罰 金 を 支 払 う の で 、 お客様は安心して買える。だが株式は違う。配当も株価も保証はない。この先 5 どうなるかわからない株を、日立を信じて買ってくれた投資家の方々の期待に 応えなくてはならない」という趣旨だった。こうした苦心惨憺(さんたん)の 末 に 3 千 億 円 強 の 資 金 調 達 に 成 功 し 、自 己 資 本 は ひ と ま ず 安 心 で き る 水 準 ま で 回 復 し 、そ の 後 V 字 回 復 を 果 た し た 。(日 本 経 済 新 聞 2015 年 5 月 朝 刊 私の履 歴書) 10 ここで重要となることは双方がスチュワード責任、説明責任を果たすことで ある。そこで、二つのコードの関連付けが必要となる。機関投資家のスチュワ ー ド 責 任 と い う 面 で は「 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ・コ ー ド 」、企 業 の 説 明 責 任 と い う 面では「コーポレートガバナンス・コード」である。これらは日本再興戦略の 15 一環として挙げられる。そのため、まずは日本再興戦略について次で説明して いきたい。 2-3 日 本 再 興 戦 略 20 平 成 26 年 6 月 24 日 に 閣 議 決 定 さ れ た 「 日 本 再 興 戦 略 」 改 訂 2014- 未 来 へ の挑戦-では、日本企業の「稼ぐ力」の向上に向けて、企業を変える鍵となる 施策を挙げている。本稿ではコーポレートガバナンスの強化が特に重要である ため、他の施策については省略する。 日 本 企 業 の「 稼 ぐ 力 」、す な わ ち 中 長 期 的 な 収 益 性・生 産 性 を 高 め 、広 く 国 民 25 (家 計 )に 均 て ん (平 等 に 恩 恵 や 利 益 を 受 け る こ と )さ せ る に は コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 強 化 に よ り 、 経 営 者 の マ イ ン ド を 変 革 し 、 グ ロ ー バ ル 水 準 の ROE の 達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しす る仕組みを強化していくことが重要である。特に重要となる点を要約するとコ ーポレートガバナンスの強化を第一の柱に掲げ、スチュワードシップ・コード 30 とコーポレートガバナンス・コードを策定することで、金融・資本市場を通じ 11 て企業経営に規律を働かせ、経営者による前向きな判断を後押しする仕組みを 導 入 し た と い う こ と で あ る 。ま た 、平 成 27 年 6 月 30 日 に 閣 議 決 定 さ れ た「 日 本 再 興 戦 略 」 改 訂 2015- 未 来 へ の 投 資 ・ 生 産 性 革 命 - で は 、「 稼 ぐ 力 」 を 高 め る企業行動を引き出すための施策の一つとして「攻め」のコーポレートガバナ 5 ンスの更なる強化が挙げられている。 先に述べた通り、日本再興戦略の一環としてコーポレートガバナンス・コー ドとスチュワードシップ・コードなどが挙げられる。ここではその2つについ ての説明をしていく。 10 2-4 2-4-1 15 2 つのコード コーポレートガバナンス・コード 平 成 27 年 3 月 5 日 に 金 融 庁 か ら 「 コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス ・ コ ー ド 原 案 ~ 会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」が公表された。 コーポレートガバナンス・コード(原案)は、実効的なコーポレートガバナン スの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践 されることは、それぞれの社会において持続的な成長と中長期的な企業価値の 20 向上のための自律的な対応が図られることを通じて、企業、投資家、ひいては 経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられている。 コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス・コ ー ド( 原 案 )に お い て 、 「コーポレートガバナン ス」とは、企業が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた 上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。 25 企業におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調す るのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、企業の持続的な成長と 中 長 期 的 な 企 業 価 値 の 向 上 を 図 る こ と に 主 眼 を 置 い て い る (攻 め の ガ バ ナ ン ス )。 30 12 2-4-2 スチュワードシップ・コード 平 成 26 年 2 月 に 金 融 庁 か ら 「 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ ・ コ ー ド 5 投資家 責任ある機関 諸 原 則 」が 公 表 さ れ た 。ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ・コ ー ド に お い て 、 「スチ ュワード責任」とは、株主と経営者との関係に一歩踏み込んだともいえる機関 投資家に対し、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的 な「 目 的 を 持 っ た 対 話 」 ( エ ン ゲ ー ジ メ ン ト )な ど を 通 じ て 、当 該 企 業 の 企 業 価 値 の 向 上 や 持 続 的 成 長 を 施 す こ と に よ り 、「 当 該 企 業 の 顧 客 ・ 受 益 者 」( 最 終 受 10 益 者 を 含 む 。以 下 同 じ 。)の 中 長 期 的 な 投 資 リ タ ー ン の 拡 大 を 図 る 責 任 を 意 味 す る 。「 目 的 を 持 っ た 対 話 」 と は 、「 中 長 期 的 視 点 か ら 投 資 先 企 業 の 企 業 価 値 お よ び資本効率を高め、その持続的成長を促すことを目的とした対話」を指す。ス チュワードシップ・コードは、機関投資家が、顧客・受益者と投資先企業の双 方を視野に入れ、 「 責 任 あ る 機 関 投 資 家 」と し て 当 該「 ス チ ュ ワ ー ド 責 任 」を 果 15 たすにあたり有用と考えられる諸原則を定めるものである。一方で、企業側に おいては、経営の基本方針や業務執行に関する意思決定を行う取締役会が、経 営陣による執行を適切に監督しつつ、適切なガバナンス機能を発揮することに より、企業価値の向上を図る責務を有している。企業側のこうした責務と本コ ードに定める機関投資家の責務とは、いわば「車の両輪」であり、両者が適切 20 にあいまって質の高い企業統治が実現され、企業の持続的な成長と顧客・受益 者の中長期的な投資リターンの確保が図られていくことが期待される。 2-4-3 対話 以上が「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コー 25 ド」についての説明である。ではこの二つのコードが「対話」にどのように関 連づいていくのかを説明していく。先に述べた通り、機関投資家のスチュワー ド責任にスチュワードシップ・コード、企業の説明責任にコーポレートガバナ ンス・コードの関連性が対話を質の高いものにしていく。 13 図 3 5 10 (出 所:ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ・コ ー ド 及 び コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス・コ ー ド の フ 15 ォローアップ会議より) 図 3 は機関投 資家と企 業の対話を図 で表した ものである 。機関投 資 家は企業 に対して高配当を求め、自分の利益を追求する可能性がある。そこで、スチュ ワード責任を果たすためにスチュワードシップ・コードがある。スチュワード シップ・コードがあるために機関投資家は無責任な発言を企業にすることがで 20 きなくなる。一方、企業はコーポレートガバナンス・コードにより投資家に対 して、非財務情報などの指標では伝わらない情報を開示する説明責任を果たさ な け れ ば な ら な い 。双 方 の 関 連 性 に よ っ て 対 話 は 質 の 高 い も の へ と な る 。ま た 、 プリンシパル・エージェント問題の解決にも繋がっていくと考える。さらに、 対話をすることにより投資家に企業を中長期的にみてもらい、投資してもらう 25 ことで結果的に企業は成長し、利益は株主へと還元されていくのではないだろ うか。先に紹介した日立の事例はまさに投資家との対話に力を入れた結果であ る。リーマン・ショックの影響で経営が悪化した日立が投資家との対話に力を 入れ、立ち直ったからこそ現在も世界で活躍することができるのではないかと 考える。 30 14 2- 5 統合報告 今までの財務諸表での情報だけでは、企業の分析、投資の意思決定に 十分な情報を提供できなくなってきた。企業は様々な情報を外部に提供 5 している。財務情報としては、財務諸表、計算書書類の法定開示書類に 加えて、決算短信、アニュアルレポート、中期経営計画等、数えだせば きりがないほど多くの財務情報が提供されている。一方、非財務情報と しては、有価証券報告書に開示されている経営者・従業員等の情報並び にリスク情報、東京証券取引所のコーポレートガバナンスに関する報告 10 書 等 に 加 え 、 任 意 で CSR 報 告 書 、 環 境 報 告 書 、 サ ス テ ナ ビ リ テ ィ ー 報 告 書等、様々な非財務情報が提供されている。 統 合 報 告 は 、 一 言 で い え ば 、「 簡 潔 な 戦 略 報 告 」 で あ る 。 企 業 の 財 務 ・ 非財務情報のもっとも重要な部分を用いて、企業の戦略に結びつけ、持 続的に短中長期の企業価値をどのように高めていくかの報告である。企 15 業における中長期的な価値創造や、持続性を実現するのに必要な事項や取り組 みなど、将来展望を明確に説明するものである。近 年 、 企 業 を 取 り 巻 く 経 営 環境の変化に伴い、あらゆる深刻な課題が噴出している。企業の財務情 報と非財務情報が様々な形で提供されることによって情報過多になり、 企業の報告負担が増大し、かつ、利用者に対して企業の全体像を提供で 20 きていないこと。また、金融市場が短期思考に走り、中長期的な視野に 立った企業評価がなされず金融市場が安定しないこと。さらに、地球環 境 問 題 の 深 刻 化 、 資 源 需 要 の 逼 迫 (ひ っ ぱ く )と い っ た 持 続 可 能 性 に 関 す る課題が顕在化したことが挙げられる。このような種々の要因が統合報 告 の 登 場 の 背 景 に あ る 。 統合報告は、報告プロセスをよりまとまりのある、 25 効率的なものとすることに焦点を当て、組織内部の縦割りを排するとともに、 重複を解消するための「統合的思考」を採用することに焦点を当てた原則と概 念を適用するものである。統合報告は、財務資本の提供者が利用可能な情報の 質を改善し、より効率的かつ生産的な資本配分を可能とする。統合報告は、組 織による長期にわたる価値創造、そしてその支えとなる 6 つの資本(例えば環 30 境資本や人的資本など)に焦点を当てることによって、財務的に安定的なグロ 15 ー バ ル 経 済 に 貢 献 し 、 ま た 、 持 続 可 能 な 社 会 へ の 推 進 力 と な る (4)。 投 資 家 は 投 資 す る た め の 重 要 な 指 標 と し て ROE を 活 用 す る 。そ の た め 、次 は ROE と は 何 か、投資家はどのように活用しているのかについてみていきたい。 5 第3章 3- 1 自 己 資 本 利 益 率 (ROE‐ 株 主 持 分 利 益 率 ) ROE(Return Of Equity)と は ROE と は 、自 己 資 本 利 益 率 の こ と を 言 い 、企 業 の 収 益 性 を 見 る こ と が で き る 。 10 個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家から認められ る に は 最 低 限 8% を 上 回 る ROE を 達 成 す る こ と が 必 要 で あ る と い わ れ て い る 。 図 4(5) 株 式 価 値 向 上 に 向 け 企 業 が 重 視 す る こ と が 望 ま し い 経 営 指 標 (投 資 家) 15 20 図 4 は投資家目線で株式価値向上に向け企業に重視してほしいと望まれる経 25 営 指 標 に つ い て の も の で あ る 。 こ の 図 か ら ROE を 重 視 す る こ と が 望 ま し い と 回 答 し た 投 資 家 が 93.0% い る と い う こ と が わ か る 。 大 半 の 投 資 家 が ROE を 重 視するということである。 (4) (5) 国 際 統 合 報 告 評 議 会 (2013)公 表 日本生命保険協会より 16 図 5 株 式 価 値 向 上 に 向 け 経 営 目 標 と し て 重 視 し て い る 指 標 (企 業 ) (6) 5 10 こ の 図 5 は 、逆 に 企 業 が 株 式 価 値 向 上 に 向 け 経 営 目 標 と し て 重 視 し て い る 指 標 に つ い て 調 べ た も の で あ る 。企 業 は 、ROE の 他 に 売 上 高 利 益 率 や 利 益 額 、利 益 15 の伸び率を重要視しているということがわかる。 図 6 資 本 コ ス ト に 対 す る ROE 水 準 の 見 方 (投 資 家 ) (7) 20 25 資本コストとは企業と投資家の信頼関係、期待、役割と義務を含む財務・非 財 務 両 面 を 総 合 し て 企 業 が 認 識 す べ き コ ス ト で あ る 。ROE は 、企 業 が 投 資 家 か (6) (7) 日本生命保険協会より 日本生命保険協会より 17 ら調達した資金に対してどの程度効率的に利益を上げられたかを示すものであ る。そのため、株主の要求収益率である資本コストと比較される。上記の図は 資 本 コ ス ト に 対 す る ROE の 水 準 の 見 方 を 表 し た も の で あ る 。 日 本 企 業 の ROE 水 準 に つ い て 資 本 コ ス ト を 上 回 っ て い る と 回 答 し た 投 資 家 は 4.7% で あ る 。 5 経営者が投資家との対話を通じて理解を促すことは資本コストを低下するこ とにつながるといわれている。株主は内部留保が資本コストを上回るパフォー マ ン ス を 上 げ る こ と を 期 待 し て い る 。 ROE が 8% を 上 回 っ た ら 、 ま た 8% を す でに上回っている企業についてはより高い水準を目指していくべきである。 10 図 7 中 長 期 的 に 望 ま し い ROE 水 準 (投 資 家 ) (8) 15 20 こ の 図 は 、 投 資 家 に と っ て 中 長 期 的 に 望 ま し い と さ れ る ROE 水 準 を 表 し た も の で あ り 、 10% 以 上 12% 未 満 と 回 答 し た 投 資 家 が 40.7% に 対 し 、 8% 以 上 10% 未 満 と 答 え た 投 資 家 は 17.4% し か い な か っ た 。 ま た 、第 2 章 の 望 ま し い 株 主 還 元 策 で 述 べ た コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 強 化 25 を 行 う こ と で 経 営 者 の マ イ ン ド を 変 革 し 、 グ ロ ー バ ル 水 準 の ROE の 達 成 等 を 一つの目安とし、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組 み を 強 化 し て い く こ と が 重 要 で あ る と さ れ る 。ま た 、JPX 日 経 イ ン デ ッ ク ス 400 で は 、ROE は 評 価 基 準 と し て も 用 い ら れ て い る 。ま た 、議 決 権 行 使 助 言 機 関 最 (8) 日本生命保険協会より 18 大 手 の ISS で は 、2014 年 11 月 に 公 表 し た 新 ポ リ シ ー に お い て 過 去 5 期 の 平 均 自 己 資 本 利 益 率 (ROE)が 5% を 下 回 る 企 業 の 経 営 ト ッ プ に 反 対 を 推 奨 す る と し ている。 5 3-2 ROE の 比 較 図 7 日 米 欧 の ROE 比 較 ( 9 ) 10 15 20 上 記 の 図 は 日 本 ・ 米 国 ・ 欧 州 の ROE を 分 析 し た も の で あ る 。 米 国 の 全 体 平 均 の ROE が 16.0% 、 欧 州 の 全 体 平 均 の ROE が 15.4% で あ る 。 し か し 、 日 本 25 は 全 体 平 均 が 6.8% と 海 外 と 比 較 す る と 低 い と い う こ と が わ か る 。 さ ら に 、 こ の 図 に あ る と お り ROE は マ ー ジ ン (売 上 高 利 益 率 )・ 回 転 率 (資 本 回 転 率 )、 レ バ レ ッ ジ (財 務 レ バ レ ッ ジ )に 分 け る こ と が で き る 。 ま ず は こ の 3 つ の 項 目 に つ い て簡単に説明していく。 (9) 中 神 康 議 (2015)「 誰 の た め の ROE か 」 19 図 8 ROE の 構 造 分 解 5 10 マ ー ジ ン (売 上 高 利 益 率 )と は 、売 上 高 に 対 す る 利 益 の 比 率 を 表 し た も の で あ る 。 回転率は株主からの投資資金が効率よく使われているかがわかる。レバレッジ は自己資本に対する総資産の倍率が求められる。このマージン・回転率・レバ 15 レッジを欧米と比較すると回転率、レバレッジはほとんど差がないが、マージ ン に つ い て は 米 国 が 8.3% 、 欧 州 が 7.2% と い う 比 率 に 対 し て 日 本 は 3.3% と 低 水準である。このことから日本は他国に比べ、収益性が低いということがわか る。その要因としては、持続的成長企業の競争力の源泉となる差別化やポジシ ョニング、事業ポートフォリオの最適化、イノベーションやリスク・変化対応 20 が十分でなく、過度な低価格競争を余儀なくされていることなど企業の収益 力・競争力に課題があることが挙げられる。 3-3 25 法 人 税 率 と ROE こ れ ま で 各 国 と の ROE の 比 較 等 に つ い て み て き た が 、こ の ROE の 計 算 上 の 税 制 に つ い て は ど の よ う に 調 整 を 行 っ て い る か に も 疑 問 を も っ た 。G20 で も 議 題となっている。日本の税制はどうなっているのかを各国との税制と比較し、 次ページの図を参照にしてみていきたい。 30 20 図 9 国 ・ 地 方 合 わ せ た 法 人 税 率 の 国 際 比 較 (2015 年 ) 5 10 15 ( 財 務 省 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.htm よ り引用) 図 9 は 法 人 税 率 の 国 際 比 較 を 表 し た も の で あ る 。 日 本 の 法 人 税 率 は 32.11% 20 で あ る が 、中 国 や 韓 国 な ど の 法 人 税 率 は 25% を 下 回 っ て い る こ と が 分 か る 。こ のことから日本の税率は各国より比較的高い税率であることが分かる。法人税 率 は 当 然 の こ と な が ら ROE の 計 算 上 含 ま れ る 。 税 率 が 変 わ る と い う こ と は 各 国 の ROE も 同 様 に 変 わ っ て く る 。 日 本 の 税 率 が 高 い と い う こ と が 日 本 の ROE が 低 い 原 因 の 一 つ な の か も し れ な い 。し か し 、近 年 機 関 投 資 家 等 は「 日 本 の ROE 25 の低さ」を指摘している。上記に述べたようなことが反映されているのかがい ささか疑問である。ここで会計が重要となってくる。次章から会計を用いての 企業間比較等について述べていきたい。 21 第4章 会計の有用性 これまで株主還元の種類や望ましい株主還元策について説明してきた。投資 家 が 企 業 に 投 資 す る た め に ROE な ど の 指 標 を 参 考 に 投 資 を し て い く と い う こ 5 とも先に述べた。また、外国人投資家や日本の機関投資家は日本企業に対し ROE の 向 上 を 強 く 求 め る 。 し か し 、 こ こ で 疑 問 に 残 っ た こ と が あ る 。 そ れ は 、 同 業 他 社 の 企 業 間 比 較 に つ い て で あ る 。 従 来 、 日 本 企 業 の ROE は 低 い と い わ れている。しかし、世界には様々な会計基準が存在する。外国人投資家や機関 投 資 家 は ど の よ う に ROE を 算 定 し 日 本 の ROE が 低 い と い っ て い る の か 。会 計 10 基 準 が 異 な る 企 業 同 士 で 企 業 間 比 較 は 容 易 に で き る こ と で は な い 。そ れ な ら ば 、 株主還元策を見出していく前に適切な企業間比較を行うことが重要となると考 える。ここからは、会計とは何か、会計基準の種類について説明していく。会 計基準が異なることによって利益情報がどのように変化していくかを理解すべ きである。 15 図 10 20 25 有価証券報告書提出企業数については次ページにて詳細を記す。 30 22 図 11 5 10 15 (金 融 庁 2014 年 国際会計基準を巡る最近の対応) 上記は株式会社数を区分ごとに分けた図である。この本稿では、上場会社・ 金 商 法 開 示 企 業 の 約 4,061 社 の 企 業 に つ い て み て い く 。 ま ず は 、 会 計 と は 何 か という点について説明していく。 20 4-1 会 計 と は 会計という言葉を敢えて定義すれば、 「会計とは企業における経済事象を認識 し 、 測 定 し 、 も っ て 作 成 さ れ た 情 報 を 伝 達 す る 行 為 で あ る 」 (10)) と い え る 。 会 計の対象となる一定組織には、家庭、学校、企業等の様々な組織が含まれ、こ 25 れらのうち企業の経済活動を対象とする会計のことを「企業会計」という。企 業 会 計 は 、 会 計 情 報 の 利 用 者 の 観 点 か ら 、 財 務 会 計 (外 部 報 告 会 計 )と 管 理 会 計 (内 部 報 告 会 計 )に 分 類 さ れ る 。 財 務 会 計 は 、 企 業 外 部 の 株 主 、 債 権 者 等 に 対 し て会計情報を提供することにより、彼らの利害を調整することを目的とする。 (10) ) 友 岡 2009『 会 計 学 は こ う 考 え る 』 23 ま た 、財 務 会 計 は 、企 業 外 部 の 投 資 家 に 対 し て 会 計 情 報 を 提 供 す る こ と に よ り 、 彼らの投資意思決定を可能にさせることを目的とする。伝統的に、財務会計の 機能には上場企業のみならず中小も含め、利害調整機能と情報提供機能がある と い わ れ る 。 利 害 調 整 機 能 は 企 業 を め ぐ る 利 害 関 係 者 (ス テ ー ク ホ ル ダ ー )の 利 5 害対立を解消または調整する機能である。情報提供機能は投資家の意思決定に 有用な情報を提供する機能である。ここで、利害調整機能と情報提供機能の内 容について説明していく。 4-1-1 利 害 調 整 機 能 10 株主と経営者は、株主の資金の運用について委託者と受託者の関係(エージ ェ ン シ ー 関 係 )に あ り 、経 営 者 (受 託 者 )に は 、株 主 (委 託 者 )の 意 向 に 沿 っ て 経 営 活動を行う責任(受託責任)がある。しかし、経営者には、株主の利益を犠牲 にする行為を行う可能性、すなわち受託責任を果たさない可能性がある。その た め 、株 主 と 経 営 者 の 利 害 は 対 立 す る こ と と な る 。利 害 対 立 を 解 消 す る た め に 、 15 経 営 者 は 財 務 諸 表 を 作 成 し 、株 主 へ 活 動 結 果 の 報 告 、す な わ ち 会 計 報 告 を 行 う 。 会計報告により、経営者は、株主から運用を委託された資金をどのように運用 し、どれだけの利益を上げたのかを株主に報告する。これにより、経営者は、 自 ら が 受 託 責 任 を 果 た し た こ と を 株 主 に 伝 達 す る こ と が で き る 。ま た 、株 主 は 、 会計報告を受けることにより、自らの資金の運用が適切になされているか否か 20 を判断することができる。このように、財務会計により株主と経営者の利害対 立が解消される。株主への配当が増加すると、元本返済や利息の支払いのため の原資となる会社財産が減少するが、株主の責任は出資額を限度とする有限責 任であるため、債権者にとって会社財産の減少は、債務不履行の危険性を高め ることとなり不利益である。したがって、債権者は、配当はできるだけ少ない 25 金額が望ましいと考えている。一方、株主にとって配当は、資金の運用成果で あるため、配当はできるだけ多い金額が望ましいと考えている。 このように、配当の金額をめぐり株主と債権者の利害は対立することとなる が、配当の金額の決定権は基本的に株主にある。そのため、株主により、債権 者の利益を害するほどに多額の配当が決定されるおそれがある。利害対立を調 30 整するためには、配当による会社財産の減少を法的に制限し、債権者を保護す 24 る必要がある。この点、会社法においては、配当の上限を設定する規制(分配 可能額の規制)が設けられており、配当の上限額が貸借対照表に基づいて制限 されている。そのため、このような法的規制の計算基礎として、財務諸表の作 成は不可欠である。そして、会計報告により、株主と債権者に上記の法的規制 5 が遵守されていることが明らかにされれば、株主と債権者の利害対立は調整さ れたといえる。このように、財務会計により株主と債権者の利害対立が調整さ れ る 。 (友 岡 賛 2009 参考) 4-1-2 情 報 提 供 機 能 10 情報提供機能は投資家に対する情報提供の必要性と財務会計の公的な役割と いう 2 つの意味合いを持つ。 まずは投資家に対する情報提供の必要性について説明する。今日、企業の活 動 に 必 要 な 資 金 の 多 く は 証 券 投 資 に よ る 利 益 を 求 め る 人 々 (投 資 家 )に よ っ て 成 立している証券市場から調達されており、証券市場が円滑に機能することが、 15 企業ひいては経済社会の運営にとって重要となっている。一般に市場において は、売り手が買い手に対し市場で取引される財貨についての積極的な情報提供 を行わなければその市場は崩壊するといわれている。品質についての情報のな い財貨を適正価格で取引することは不可能だからである。ここで、証券市場に おいて取引されるのは、企業の株式や社債であるが、一般に、株式や社債の市 20 場価格は、発行企業の収益性や安全性等に左右される。そのため、証券市場を 円滑に機能させるためには、発行企業の収益性や安全性等についての情報を投 資家に提供する必要がある。そして、この情報提供の手段が財務諸表である。 このように、財務諸表により、企業の収益性や安全性等についての情報が投 資家に提供されれば、投資家はそれを基礎に、自己の責任において、株式や社 25 債の購入・保有・売却についての判断、すなわち投資意思決定を行うことがで き る 。 (友 岡 賛 2009 参考) 4-2 会 計 基 準 30 先に記載していた株式会社数の図を見るとわかるように日本には現在 4 つの 25 会 計 基 準 が 存 在 す る 。 そ れ は 日 本 基 準 (JGAAP)、 米 国 基 準 (USGAAP)、 国 際 財 務 報 告 基 準 (IFRS)、 修 正 国 際 基 準 (JMIS)の 4 つ で あ る 。 こ こ で は 、 4 つ の 会 計 基準についてどのような特徴があるか等を次ページからみていきたい。 5 図 12 日本基準 米国基準 IFRS 連結損益計算書 10 15 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 営業利益 営業外収益 営業外費用 経常利益 特別利益 特別損失 税金等調整前当期純利益 法人税、住民税及び事業税 法人税等調整額 法人税等合計 少数株主損益調整前当期純利益 少数株主利益 当期純利益 少数株主損益調整前当期純利益 その他の包括利益 その他有価証券評価差額金 繰延ヘッジ損益 為替換算調整勘定 退職給付に係る調整額 持分法適用会社に対する持分相当額 その他の包括利益合計 包括利益 (内訳) 親会社株主に係る包括利益 少数株主に係る包括利益 売上高 売上原価 売上総利益 営業費用 販売費及び一般管理費 営業利益 営業外収益及び費用 支払利息 税引前当期純利益 法人税等 持分法による投資利益 継続事業からの当期利益 非継続事業からの当期利益 非支配持分控除前当期純利益 非支配持分帰属損益 当社株主に帰属する当期純利益 連結包括利益計算書 非支配持分控除前当期純利益 その他の包括利益(損失)-税効果調整額 為替換算調整額 未実現有価証券評価損益 金融派生商品損益 年金債務調整額 合計 当期包括利益 非支配持分帰属当期包括利益 当社株主に帰属する当期包括利益 20 売上収益 売上原価 売上総利益 その他の収益 販売費及び一般管理費 その他の費用 営業利益 金融収益 金融費用 持分法による投資利益 税引前利益 法人取得税費用 継続事業からの当期利益 非継続事業からの当期利益 当期利益 その他の包括利益 純損益に組み替えられない項目 確定給付制度の再測定 公正価値で測定する金融資産の純変動 持分法のその他の包括利益 純損益に組み替えられない項目合計 純損益に組み替えられる可能性がある項目 キャッシュ・フロー・ヘッジの公正価値の純変動 在外営業活動体の換算差額 純損益に組み替えられる可能性がある項目合計 その他の包括利益合計 当期包括利益 当期包括利益合計額の帰属 親会社の所有者 非支配持分 図 12 を み る と わ か る よ う に 、 会 計 基 準 別 で ま ず 様 式 が 異 な る 。 日 本 基 準 に は IFRS・ 米 国 基 準 に は な い 特 別 損 益 が あ る 。 25 4-2-1 日 本 基 準 (JGAAP) 日 本 が 戦 後 ま も な く 、ア メ リ カ を 参 考 に GAAP と し て 制 定 し た の が「 企 業 会 計 原 則 」で あ る 。 「 企 業 会 計 原 則 」は ① 財 務 諸 表 の 作 成 に あ た っ て 準 拠 す べ き 基 準として、また、②財務諸表監査を行うにあたっての判断基準として機能する ことを期待されていた。 30 現 在 、 日 本 の GAAP に は 、 企 業 会 計 基 準 委 員 会 (ASBJ)及 び 企 業 会 計 審 議 会 26 が公表してきた種々の会計基準・意見書が含まれる。 4-2-2 米 国 基 準 (USGAAP) 新日本有限責任監査法人ナレッジセンターは米国基準を採用して有価証券報 5 告 書 を 作 成 し て い る 国 内 企 業 の 会 社 に つ い て 、 平 成 23 年 、 24 年 は 32 社 で あ っ た が 、 最 近 は IFRS に 変 更 す る 企 業 が 出 て き た た め 、 米 国 基 準 を 適 用 す る 企 業 が な く な る 可 能 性 も あ る 。 例 え ば 、 日 立 や 東 芝 は 米 国 基 準 か ら IFRS へ と 変 更している。 10 4-2-3 国 際 財 務 報 告 基 準 (IFRS) IFRSは 、IASBに よ っ て 設 定 さ れ た 会 計 基 準 で あ る 。前 身 に は IASCが あ り 、IASC と は 、 IAS(国 際 会 計 基 準 )を 設 定 し た 国 際 会 計 基 準 委 員 会 の 略 称 で あ る 。 IFRS を導入するメリットとしては、 15 ・財務諸表の透明性、比較可能性の向上 ・グローバルな資金調達による資本調達による資本調達コストの削減 ・ 投 資 家 向 け 広 報 活 動 (IR)を 通 じ た 、 海 外 の 投 資 家 や そ の 他 の 利 害 関 係 者 と の コミュニケーションの向上と円滑化 ・海外子会社を含む連結グループを統一された会計基準で管理、業績評価する 20 ことが可能 ・ IFRS導 入 を 契 機 と し た グ ル ー プ 全 体 の 財 務 報 告 プ ロ セ ス の 効 率 化 及 び 透 明 化 などが挙げられる。 国 際 財 務 報 告 基 準 を 適 用 し て い る 企 業 は 増 加 し て お り 、2015 年 9 月 に は 導 入 済 み ・ 導 入 予 定 を 合 わ せ 194 社 に も な る 。 (日 本 経 済 新 聞 9 月 1 日 )自 民 党 は 目 25 標 と し て 300 社 (上 場 企 業 の 時 価 総 額 の 4 分 の 3 )の 導 入 を 提 言 し て い る 。(自 民 党 2013 国際会計基準への対応についての提言) 4-2-4 修 正 国 際 基 準 (JMIS) 30 修 正 国 際 基 準 は 平 成 27 年 6 月 30 日 に 公 表 さ れ た 会 計 基 準 で あ る 。修 正 国 際 27 基 準 は の れ ん の 会 計 処 理 と そ の 他 の 包 括 利 益 の リ サ イ ク リ ン グ 以 外 は IFRS と 同様という特徴を持つ。 修 正 国 際 基 準 が 公 表 さ れ た 影 響 か 、 IFRS で は リ サ イ ク リ ン グ を 認 め る 方 向 で 調 整 し て い る ( 11 ) 。 5 4-3 会計処理 日本基準では、のれんの会計処理とその他の包括利益のリサイクリングの処 理が他の会計基準と異なるとされる。ここでは、その 2 つの会計処理について みていきたい。 10 4-3-1 のれんの会計処理 のれんとは、経済的な財産のことを言い、次の例にあるように超過収益力で あ る 。償 却 方 法 と し て は の れ ん に つ い て も 、有 形 固 定 資 産 の 減 価 償 却 と 同 様 に 、 15 費 用 配 分 の 原 則 が 適 用 さ れ る 。 の れ ん は 20 年 以 内 の そ の 効 果 の 及 ぶ 期 間 に わ たって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却される。のれんが資 産として計上されるのは、営業の譲受けや合併等の対価の支払いを伴う有償取 得の場合に限られる。次ページに例としてのれんの会計処理を記載する。 ( 11 ) IASB「 公 開 草 案 ‐ 財 務 報 告 に 関 す る 概 念 フ レ ー ム ワ ー ク 」 2015 年 5 月 28 A 社 は 、 B 社 を 1,000 百 万 円 で 買 収 し た 。 A 社 が B 社 か ら 取 得 し た 諸 資 産 の 時 価 合 計 は 1,200 百 万 円 、 諸 負 債 の 時 価 合 計 は 、 400 百 万 円 で あ っ た 。 B 社 を 取 得 す る た め に 支 出 し た 1,000 百 万 円 に 、 超 過 収 益 力 の 原 因 に 対 す る 5 対 価 で あ る 200 百 万 円 が 含 ま れ て い る 。そ こ で 貸 借 差 額 と し て 、の れ ん 200 百 万円が測定される。 (借)諸 の 10 資 れ 産 ん 1,200 債 400 現 金 預 金 1,000 (貸)諸 200 負 計 上 し た の れ ん を 20 年 で 償 却 す る 場 合 ( 定 額 法 )。 (借)のれん償却額 10 (貸)の れ ん 10 の れ ん の 会 計 処 理 方 法 と し て は 、の れ ん を 償 却 す る 考 え 方 (効 果 の 及 ぶ 期 間 に わ た り 規 則 的 な 償 却 を 行 う 方 法 )と の れ ん を 償 却 し な い 考 え 方 (規 則 的 な 償 却 を 15 行 わ ず 、の れ ん の 価 値 が 損 な わ れ た と き に 減 損 処 理 を 行 う 方 法 )と が 考 え ら れ る 。 規則的な償却を行う方法によれば、企業結合の成果たる収益とその対価の一部 を構成する投資消去差額という費用の対応が可能となる。すなわち、のれんは 投 資 し た 原 価 の 一 部 で あ る こ と に 鑑 み れ ば 、の れ ん を 規 則 的 に 償 却 す る 方 法 は 、 投資原価を超えて回収された超過額を企業にとっての利益とみる考え方とも首 20 尾一貫している。 4-3-2 その他の包括利益のリサイクリング ここでは、その他の包括利益の会計処理についてみていく。包括利益とはあ 25 る企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該 企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分である。リ サ イ ク リ ン グ と は 、 過 年 度 に 計 上 さ れ た 包 括 利 益 (そ の 他 の 包 括 利 益 )の う ち 期 中に投資のリスクから解放された部分である。なお、上記の「当該企業の純資 産に対する持分所有者」には、当該企業の株主のほか、当該企業の発行する新 29 株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては、当該企業の子会社の非 支配株主も含まれる。これまでの日本の会計基準では、国際的な会計基準にお いて「その他の包括利益」とされている項目は、純資産の部の中の株主資本以 外の項目として「評価・換算差額等」に表示されており、またそれらの当期変 5 動額と当期純利益の合計を表示する定めは存在しなかった。なお、その他の包 括利益の内訳項目の例として、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、 為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額、持分法適用会社に対する持分相当 額がある。そこで、国際的な会計基準とのコンバージェンス(統一化に向けた 動き、収れん)の観点から、日本においても、当期純利益の表示の維持を前提 10 と し た う え で 包 括 利 益 の 表 示 を 導 入 す る と い う 方 向 性 が 示 さ れ 、 平 成 22 年 6 月 に「 包 括 利 益 会 計 基 準 」が 公 表 さ れ た 。平 成 22 年 6 月 30 日 公 表 (平 成 23 年 3 月 31 日 以 降 終 了 す る 連 結 会 計 年 度 の 年 度 末 に 係 る 連 結 財 務 諸 表 か ら 基 本 的 に 適 用 )、最 終 改 正 平 成 24 年 6 月 29 日( 平 成 24 年 6 月 29 日 以 降 適 用 )。な お 、 「包括利益会計基準」は、当面の間、個別財務諸表には適用しないこととされ 15 ている。 4-3-3 財務諸表 図 13 20 25 30 30 富 士 通 は 2013 年 に 会 計 基 準 を 日 本 基 準 か ら IFRS に 変 更 し た 。 そ の 際 に ど のように利益情報が変わっていくのかをみていきたい。 上 記 の 図 13 ( 1 2 ) は 富 士 通 が 開 示 し て い る 2010 年 か ら 2014 年 ま で の 財 務 諸 表 デ ー タ で あ る 。2013 年 に 会 計 基 準 を 変 更 し た た め 2013 年 に は 日 本 基 準 と IFRS 5 の両者の財務諸表が記載されている。この図からわかる通り、税引前利益が大 き く 変 化 し て い る 。 日 本 基 準 で は 929 億 円 で あ っ た の に 対 し 、 IFRS 適 用 後 は 1,611 億 円 と 大 き く 増 加 し て い る 。 こ れ は 、 の れ ん の 会 計 処 理 と そ の 他 の 包 括 利益のリサイクリング等が関係していると考えられる。 10 図 14 15 20 25 上 記 の 図 14 ( 1 3 ) は コ ニ カ ミ ノ ル タ が 開 示 し て い る IR で あ る 。コ ニ カ ミ ノ ル タ は営業利益とのれん代償却前営業利益を開示している。図の通り、のれんの償 却の有無によって、利益情報が大きく変わってしまうということが分かる。 (12) (13) 富 士 通 HP よ り 引 用 コ ニ カ ミ ノ ル タ HP よ り 引 用 31 以上のことより、会計基準によって企業の利益情報が異なってくるというこ と が 分 か る 。 も ち ろ ん 、 利 益 情 報 が 異 な る と い う こ と は ROE な ど 投 資 家 が 重 要 と す る 指 標 も 変 化 す る 。 で は 投 資 家 は ど の よ う に ROE を 算 定 し 、 日 本 企 業 の ROE の 向 上 な ど を 求 め て い る の だ ろ う か 。し か し 投 資 家 の 行 う ROE の 算 定 5 方 法 は 調 べ き れ て い な い が 、ROE を ど の よ う に 計 算 し て い る か は 今 後 の 課 題 と な る 。 そ の よ う な 点 か ら 、 投 資 家 は 安 易 に 日 本 企 業 の ROE は 低 い と い っ て い るのではないかと予想される。では、どのように企業間比較を行っていけばよ いのか、最後にまとめていきたい。 10 4-4 XBRL XBRL と は eXtensible Business Reporting language を 省 略 し た も の で 拡 張 可能なビジネス報告用言語と翻訳することができる。もともとはアメリカの公 認会計士がインターネット上の財務情報をより活用できるようにするために開 15 発したコンピュータ言語である。特長は財務データの中から必要なデータを抜 き出し、転記し計算するということをコンピュータが自動的に行ってくれると いう点である。今までは監査上公認会計士などが財務データを手書きで抜き出 し 、 転 記 す る と い う こ と を 手 作 業 で 行 っ て い た 。 し か し 、 XBRL で は ボ タ ン 一 つで分析結果を瞬時にみることができる。期間比較や海外企業も含めた企業間 20 比較をしたい場合でも他社の財務データを呼び出すことで瞬時に比較すること が で き る 。XBRL は IFRS に も 対 応 し て お り 、ア メ リ カ 、EU、中 国 に も 広 が っ て い る 。 日 本 で も 金 融 庁 の EDINET(Electronic Disclosure for I nvestors' NETwork 金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電 子 開 示 シ ス テ ム 」 の 略 称 )や 決 算 短 信 な ど に も 利 用 さ れ て い る 。 ( 1 4 ) 25 4-5 ま と め 問題提起と解決策 これまで、株式還元の現状や望ましい株主還元策、会計の有用性についてみ (14) 日 本 公 認 会 計 士 協 会 「 ち ょ っ と 教 え て XBRL」 32 てきた。ここで、やはり問題となることは投資家の企業間比較が安易に行われ ているのではないかということである。この問題を解消できなければ企業の株 主還元を円滑に行うことも困難なものとなってしまう。そこで、先に述べた XBRL を 利 用 す る こ と が 必 要 な の で は な い か と 考 え る 。 5 国 が 開 発 を 主 導 す る XBRL で は 、同 じ 基 準 を 適 用 し て い る 企 業 間 の 比 較 は 容 易 に 行 う こ と が で き る 。 さ ら に 、 IFRS に も 対 応 し て お り 、 多 く の 国 で 利 用 さ れ て い る 。 し か し 、 XBRL は 異 な る 会 計 基 準 を 比 較 す る こ と は で き な い た め 、 企業間比較の問題を解消することは難しい。そこで、異なる基準でも容易に比 較ができるシステムを作っていくことがこの問題の解消に必要であると考えら 10 れ る 。確 か に XBRL の よ う な 高 性 能 な シ ス テ ム を 作 る と い う こ と は 容 易 な こ と ではない。多額の費用や多くの時間を費やしてしまう。しかし、会計基準を変 更する際には変更前の会計基準と変更後の会計基準で有価証券報告書を作成し ている企業がある。そのため、実現不可能なシステムではないと考えられる。 も し 、 XBRL に 異 な る 会 計 基 準 で も 企 業 間 比 較 が で き る と い う シ ス テ ム が 加 え 15 られたなら正確に企業の状況を投資家が判断することができるのではないか。 33 参考文献 ・ IASB(2015)「 公 開 草 案 財務報告に関する概念フレームワーク」 ・ IIRC(2013)「 国 際 統 合 報 告 フレームワーク 日本語訳」 ・ 安 藤 英 義 (2010)「 非 上 場 会 社 の 会 計 基 準 に 関 す る 懇 談 会 報 告 書 」 5 ・伊 藤 邦 雄 (2014)「「 持 続 的 成 長 へ の 競 争 力 と イ ン セ ン テ ィ ブ ~ 企 業 と 投 資 家 の 望ましい関係構築~」プロジェクト」 ・ 伊 藤 靖 史 、 大 杉 謙 一 、 田 中 亘 、 松 井 秀 征 (2015)「 会 社 法 第 3 版 」 P279 ・ 金 融 庁 (2015)「 事 務 局 説 明 資 料 」 ・ 島 田 佳 憲 (2013)「 自 社 株 買 い と 会 計 情 報 」 P14 10 ・ 自 民 党 (2013)「 国 際 会 計 基 準 へ の 対 応 に つ い て の 提 言 」 ・ 生 命 保 険 協 会 (2014)「 生 命 保 険 調 査 株式価値向上に向けた取り組みについ て」 ・ 東 京 証 券 取 引 所 (2014)「 2014 年 度 株 式 分 布 状 況 調 査 の 調 査 結 果 」 ・ 友 岡 賛 (2009)『 会 計 学 は こ う 考 え る 』 15 ・ 中 神 康 議 (2015)「 誰 の た め の ROE か 」 ・ 日 本 証 券 経 済 研 究 所 (2015)「 証 券 経 済 研 究 91 号 」 P88 ・ 三 菱 UFJ 信 託 銀 行 (2015)「 投 資 指 標 と し て の ROE」 参考資料 ・ 金 融 庁 HP「 日 本 版 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ ・ コ ー ド に 関 す る 有 識 者 検 討 会 」 20 http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/ (2015 年 10 月 4 日 閲 覧 ) ・ 金 融 庁 HP「 コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス ・ コ ー ド の 策 定 に 関 す る 有 識 者 会 議 」 http://www.fsa.go.jp/singi/corporategovernance/ ・ コ ニ カ ミ ノ ル タ HP (2015 年 10 月 4 日 閲 覧 ) 「アニュアルレポート」 http://www.konicaminolta.jp/about/investors/ir_library/ar/ar2014/mdanda/i 25 ndex.html ・ 財 務 省 HP「 国 ・ 地 方 合 わ せ た 法 人 税 率 の 国 際 比 較 」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.htm ) 2015 年 10 月 25 日 閲 覧 ・ 首 相 官 邸 HP 30 http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html ) 34 2015 年 10 月 10 日 閲 覧 」 ・ 首 相 官 邸 HP「 ア ベ ノ ミ ク ス 成 長 戦 略 で 、 明 る い 未 来 に 」 http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html (2015 年 10 月 10 日 閲 覧 ) 5 ・ 新 日 本 有 限 責 任 監 査 法 人 HP http://www.shinnihon.or.jp/services/ifrs/about -ifrs/ ・日本経済新聞 (2015) 「企業、個人投資家と対話拡大」 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