...

Ⅰ 診療圏調査の必要性と活用法 Ⅱ 診療圏調査の流れ Ⅲ 診療圏調査

by user

on
Category: Documents
20

views

Report

Comments

Transcript

Ⅰ 診療圏調査の必要性と活用法 Ⅱ 診療圏調査の流れ Ⅲ 診療圏調査
Ⅰ 診療圏調査の必要性と活用法
Ⅲ 診療圏調査実施の具体例
1.自院を取り巻く環境変化と要因を把握する
1.外部環境分析
2.医療機関の役割と機能を明確にする
2.医療需要分析
3.医療供給体制の分析
Ⅱ 診療圏調査の流れ
1.診療圏の設定と人口構造の把握
2.医療の需要と供給状況
3.介護施設・サービスの状況
Ⅰ 診療圏調査の必要性と活用法
1 自院を取り巻く環境変化と要因を把握する
地域における医療機関は、自院のみで完結、あるいは独立した単体として存在できるもの
ではありません。社会人口構造の変遷に始まり、国による医療政策の方針は、これまでの
概念を変えていく時代を迎えています。
近年の医業経営環境の変化は著しいものであり、地域社会における自院の役割を明確にし
たうえで、その地域住民の特性に適した医療サービスを提供していかなければ、医療機関
は存続の危機に直面することになります。
●医療構造の変化要因
「疾病構造の変化」「医学技術の進歩・革新」「医療 IT 化の進展」
「医療従事者・患者の意識変化」「医療・介護のシームレス化」
医療機関としては、地域における自院の役割を的確に把握することが求められ、そのうえ
でとりうる経営戦略を策定しなければならないのです。
その前提として、医療サービスという特性上、自院を取り巻く環境がどのようなものであ
り、今後どのように変化していくのかについて、その変化要因と内容をできる限り正確に
把握することが重要になっています。
2 医療機関の役割と機能を明確にする
医療機関が環境変化によって最も影響を受けるのは、その役割と機能であり、国の施策も
これら環境変化に対応して方針決定される場合も多くなっています。
そのため、自院が診療圏でどのような役割を果たし、必要な機能は何かということを明確
にしたうえで、今後の戦略策定に展開する必要があります。
また、かつて「医療」だけであった医療機関の事業ドメインが、今では「介護・福祉」へ
広がりを見せていることから、患者の視点で自院の医療サービスのあり方を検討すること
が、より有用性を増しています。自院にできることを見極め、またできないことは他医療
機関・施設と連携を図る方針決定のために、診療圏調査は重要な工程だといえます。
1
Ⅱ 診療圏調査の流れ
1 診療圏の設定と人口構造の把握
外部環境分析では、その前提として自院の診療圏を明確にしなければなりません。つまり、
診療圏を設定するということになりますが、現在の患者状況を調査し、自院の提供する診
療科や医療サービスなどから、専門性等を踏まえて整理する必要があります。
【診療圏の特性】
①専門性との関連
⇒ 提供している医療サービスの専門性の高さに比例して、診療圏は広くなる 傾向にあ
る
②地域医療計画上の診療圏との差異
⇒ 自院が設定した診療圏は、地域医療計画において定められている診療圏とは
異なるケースもある
【来院患者状況の分析表例】
外来・入院別に調査
外来患者数
実
直接
来院
数
紹介
入院患者数
割
直接
来院
合
実 数
紹介
直接
来院
紹介
割 合
直接
来院
紹介
A 地域
%
%
%
%
B 地域
%
%
%
%
C 地域
%
%
%
%
D 地域
%
%
%
%
患者の住所地で分類
2
【診療圏設定時のポイント】
①直接来院する患者を対象とする
②標榜する診療科によって診療圏が異なる場合もある
③紹介患者の取扱
⇒ 紹介先医療機関をマーケティング対象として設定する
診療圏を設定した後は、診療圏内にどの程度の患者が存在するかを把握しますが、その基
礎情報となるのは、潜在的患者人口や高齢者人口の推移から予測することになります。
診療圏人口の推移は、国勢調査や各市町村の統計課で公表する人口データから整理します。
0 歳から 4 歳、5 歳から 9 歳という年齢層別の実数および構成比や高齢化率などの指標に
ついて、時系列で比較することにより、人口動態や高齢化の状況の推移を把握します。こ
のとき、都道府県別平均や全国平均との比較も行います。
【診療圏内将来推計人口~年次比較の例】
XX 年度
実
数
増加率の年次推移から各
年齢層の推計を把握
XX 年度
構成比
実 数
割 合
XX 年度
増加率
実 数
割 合
増加率
0~4 歳
%
%
%
%
%
5~9 歳
%
%
%
%
%
・・・・
%
%
%
%
%
・・・・
%
%
%
%
%
65~69 歳
%
%
%
%
%
70~74 歳
%
%
%
%
%
75 歳~
%
%
%
%
%
100 %
100 %
%
100 %
%
合 計
高齢化率
%
%
受療率が高い高齢者人口の推移は
患者推計にとって重要
3
%
2
医療の需要と供給状況
(1)医療の需要
医療の需要状況に把握として、診療圏における人口動態、特に高齢化率に着目したうえで、
将来人口推計の整理により、潜在的な患者数、つまり将来患者数の推計を行います。これ
は、当該診療圏における年齢階級別人口、および厚生労働省実施の患者調査における年齢
別受療率から算出します。
◆将来患者数推計のステップ
①傷病別推計患者数
傷病ごとに全年齢階級の患者数を合計して算出
②診療科別推計患者数
傷病ごとに全年齢階級の患者数を合計し入院・外来別に算出
【傷病別患者数推計のポイント】
●今後、患者増加が鋳込める傷病および診療科を見極める
●将来推計患者数は参考値(将来受療率を考慮していないため)
●医療機関の特性に合わせて病院受療率と病院・診療所をあわせた受療率を
使い分ける
③傷病分類別患者シェア
診療圏と自院病歴データの傷病分類別推計患者数から自院シェアを算出
④診療科別患者シェア
診療圏と自院の診療科別(推計)患者数から自院シェアを算出
【自院患者シェア算出のポイント】
●診療圏内での自院シェアは高いか、低いか
●将来シェア率の高い原因、あるいは低い原因は何かを見極める
このほかに考慮すべき要因としては、住民受療率、患者の流出(医療圏内居住患者の他医
療圏への流出)、患者の流入(他医療圏居住患者の受診)があります。
4
(2)医療供給の状況
一方、医療の供給としては、自院の医療圏における医療提供体制の現状について、
「地域
医療計画」に定める基準病床数および既存病床数を比較することで、医療提供体制の充足
状況を把握して検証します。
①地域医療計画における基準病床数
医療圏の「地域医療計画」に定められた基準病床数と既存病床数を比較
⇒ 一般病床、精神病床、療養型病床のそれぞれについて
既存病床の充足度を測る
②医療施設数・病院病床数(人口 10 万人対)
医療圏の医療機関数および病床数を人口 10 万人単位で把握
⇒ 当該都道府県、全国の値と比較する
③診療圏内医療機関
診療圏内における医療機関の所在地、標榜診療科目を整理
⇒ 診療圏における各診療科の充足度から競合先、連携先を検討
④医療従事者数
医療圏における医師、歯科医師、薬剤師、看護師等人数(人口 10 万人対)を把握
⇒ 当該都道府県、全国値と比較する
⑤医療圏内救急医療体制
医療圏における救急医療体制について整理
⇒ 地域医療計画より、1次救急、2次救急、3次救急を担う各医療機関を把握する
5
3
介護施設・サービスの状況
(1)介護サービス利用者の予測
医療圏における介護施設・サービス利用者の予測は、最初に介護保険利用資格者である 65
歳以上の第1号保険者のうち、その地域の要介護認定率を乗じて要介護認定者を算出しま
す。
これに介護サービス利用率を乗じ、介護サービス利用者数を求めてから、施設および居宅
サービス別に利用者を予測します。
【施設介護サービスの状況把握】
少なくとも 3 年間以上
の推移をみる
X0 年度
介護老人
福祉施設
介護老人
保健施設
介護療養型
医療施設
X1 年度
X2 年度
X3 年度
参酌基準
入所者
供給率
参酌基準
入所者
供給率
参酌基準
入所者
供給率
参酌基準
合計
入所者
共有率
それぞれ介護保険事業計画から
数値を抽出し、合計する
6
X4 年度
(2)介護サービスの必要量と供給量
高齢者の場合には、医療必要度よりも介護を必要とする患者も多いため、特に療養系の医
療機関の場合は、患者調査に際して、介護サービスに対するニーズも考慮する必要があり
ます。
①施設介護サービス
施設サービスが入居見込み数だけ供給された場合、国の参酌基準による施設数と比較して
供給率を調査
⇒ どの施設数が不足しているかを把握する
【国の参酌基準】
介護保険法による 65 歳以上人口に対する介護保険施設利用者の見込み数
区
分
参酌基準
介護老人福祉施設利用者
1.50%
介護老人保健施設利用者
1.10%
介護療養型医療施設利用者
0.60%
合
計
3.20%
*65 歳以上に占める 75 歳以上人口の割合を勘案するため、
都道府県別に「後期高齢者補正」を行う
<参考> 後期高齢者補正の方法
後期高齢者補正後の参酌標準
= 国の参酌標準(3.2%)÷ 後期高齢者補正係数
②居宅介護サービス
上記同様、必要・供給量、及び供給率より不足しているサービスを調査
⇒
どの居宅型サービスが不足しているかを把握
【居宅介護サービスの状況分析ポイント】
当該医療圏における医療供給状況を把握するため、前述したような項目を把握し、また
全国・都道府県の値と比較するなどにより、どのような状況であるかを調査します。
7
Ⅲ 診療圏調査実施の具体例
1 外部環境分析
地域での自院の役割を明確にするために、まず自院の診療圏にかかる地域概況を適正に把
握します。
前章で紹介したように、外部環境分析として実施するのは自院の診療圏、あるいは二次医
療圏の人口動態を把握し、将来患者数を推計します。
このとき、厚生労働省が実施する患者調査から算出した受療率が重要な要素になります。
【診療圏の人口動態・患者推計例】~年齢区分を5つに設定するパターン
年齢
人口(人)
比率
年齢
潜在患者数(人/日)
比率
0~14歳
834
7%
0~14歳
23.4
7%
15~34歳
3,458
31%
15~34歳
42.7
12%
35~64歳
4,449
40%
35~64歳
114.5
33%
65~74歳
1,251
11%
65~74歳
76.1
22%
75歳~
1,159
10%
75歳~
86.5
25%
11,151
100%
343.2
100%
合 計
合 計
人口構成比率
10%
潜在患者数
75歳~
7%
11%
65~74歳
31%
35~64歳
15~34歳
40%
0~14歳
0
0~14歳
65~74歳
15~34歳
35~64歳
75歳~
8
20
40
60
80
100
120
140
2
医療需要分析
自院の診療圏、ないしは医療圏において、医療の需要状況を把握するためには、将来推計
人口から算出した推計患者数と、傷病別推計患者数・受療率等を用いて分析を行います。
これらの推計患者数は、厚生労働省が実施する「患者調査」の結果から記入します。
【医療の需要状況の把握】
●傷病別推計患者数
傷病大分類
○○年度
○○年度
○○年度
推計患者数
自院患者数
自院シェア
1.感染症及び寄生虫症
2.新生物
3.血液及び造血液の疾患並びに免疫機構
の障害
・・・・・・・・・・・・・・・・
●診療科別推計患者数(入院・外来)
傷病大分類
%
1.感染症及び寄生虫症
2.新生物
3.血液及び造血液の疾患並びに免疫機構
の障害
・・・・・・・・・・・・・・・・
上記の推計患者数を用いて、傷病分類別および診療科別患者シェアを算出します。シェア
率は、自院の病歴データと診療科目別患者数を当てはめて計算します。
これら自院シェアを算出するポイントは、次のような点です。
●当該診療圏における自院の傷病別・診療科別シェアはどの程度か
●シェア率の高い原因、低い原因はどこにあるか
9
3
医療供給体制の分析
実際の診療圏、医療圏における医療供給状況については、当該保健医療圏における医療機
関数や標榜診療科目などを調査して把握します。
【医療機関の供給状況】~診療圏における病院・診療所の数
■医療機関数
●医療機関数
病院数
保健所管轄
一般
○○市
許可病床数
一般
又は療養
療養
合計
一般
療養
一般診療所
有床
診療所
無床
診療所
合計
154
77
188
419
21,433
9,381
2,716
1,101
3,817
△市
9
5
11
25
907
502
245
95
340
○△町
13
11
16
40
1,131
972
370
89
459
計
176
93
215
484
23,471
10,855
3,331
1,285
4,616
都 道 府 県計
431
302
535
1,268
54,801
25,867
9,172
2,893
12,065
診 療 圏
割
合
40.8%
30.8%
40.2%
38.2%
42.8%
42.0%
36.3%
44.4%
38.3%
当該医療圏における医療供給状況を把握するため、前述したような項目を把握し、また全
国・都道府県の値と比較するなどにより、どのような状況であるかを調査します。
これらの項目を調査し、分析するポイントは次のとおりです。結論として、自院が診療圏
内でどのような役割を果たし、存続するために必要な連携等はどうするのかという方向性
を決定づけることになります。
●当該診療圏における充足状況(充足率:過剰か不足か)
●自院との競合先はどこか
●今後、連携先となる可能性がある医療機関はどこか
10
Fly UP