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コムス 試乗レポート
コムス 試乗レポート 小玉 紘大(名城大学大学院 理工学研究科 交通科学専攻) 鈴木 崇友(名城大学大学院 理工学研究科 交通科学専攻) 山下 将史(名城大学大学院 理工学研究科 交通科学専攻) 1 はじめに 近年,自動車はすさまじい進歩をしている.ハイブリッド車などの 環境や経済的に優しい自動車は続々と登場している.これらの自 動車は 4 人乗り以上の乗用車が多い.しかし街中を走る乗用車を 見てみると,4 人乗り以上の乗用車であるのにもかかわらず,かな りの乗用車は 1 人で乗車していて,エネルギー・スペースなどの 面で無駄がある.そういった考えで作りだされたのが,トヨタ車体 株式会社が開発した 1 人乗り電気自動車(以下 EV)のコムスである. 今回私たちはトヨタ車体株式会社に訪問し,コムスを実際に試乗 図.2 コムスの室内 し取材を行った. 2 コムス試乗レポート 実際に運転してみるとまた違う技術の高さがうかがえる.運転し てみてまず初めに感じたことは,車内の静かさである.小気味良 いモータ音が聞こえるだけで,車内はかなり静かになっている. 実際の普通車と比べて加速がどのように違うか興味があったが, これも普通車と変わらない.アクセルを踏み込めば最高速度 60 km/h に達し,簡単に交通の流れに乗ることができる. 操縦性で違いがあるとすればブレーキが一般のディスクブレー キでなく,ドラムブレーキを採用しているため少しゆったりととまる ように感じたくらいである.また一人乗りで座席が車体の中央にあ るため,車幅の間隔がつかみやすい.試乗中,片側1車線の道路 で自転車を追い越すシーンがあったが,センターラインをはみ出 すことを気にせず,容易に追い越しをすることができた. 図.1 コムス外観 この座席位置と車幅の小ささは,お年寄りに多かった車体の左 側をこすってしまうという問題点も解決されるのだろう. 試乗では,トヨタ車体の周 辺道路を走行した.コムス を見て驚いたことはその大 きさだ.コムスは全長 2395×全幅 1095×全高 1500(mm)という大きさで非 常に小さい.軽自動車の 3 分の 2 程度の大きさだ. 試乗の最後に,コムス用の駐車スペースに駐車させてもらった. 表.1 主要諸元(P・COM) 全長 2395 mm 全幅 1095 mm 全高 1500 mm 重量 410 Kg 最高出力 5 kW 定格出力 0.59 kW 最高速度 60 km/h 最小旋回半径 3.2 m と小回りが利くため簡単に駐車できた.買い 物に行ったときは普通車のスペースに止めることが出来るため, お年寄りでも簡単に駐車を行うことが可能である. 図.3 を見て頂くとわかるが,普通車でいうドアがある部分(黒色 の部分)は幌である.これは走行中全開にして走ることが可能であ るので,車外とのコミュニケーションしやすい.ホーンはついてい るが,歩行者に自分の声で注意を促したりすることもできるのだ. 次に驚いたことは車内のシンプルさである。車内の写真(図.2)を 見てわかる通り,かなりシンプルな作りになっていることがわかる. シフトもニュートラルとドライブとバックがあるのみで余計なものが 一切省いてある。このおかげで高齢者でもすぐに操作に慣れるこ とが可能になっている。 1 Motor Ring No.36 2013 自動車技術会 http://www.jsae.or.jp/motorring/ 1 つ目の理由は,安全性である.リチウム電池と違い,高温にな ったり,突然火が上がるなどの現象が起きにくく,安全性の確保が 容易にできるからである. 2 つ目の理由は,コストの問題である.リチウムイオン電池を使用 した日産自動車のリーフや,三菱自動車の i-MiEV は,出力が高 く高速道路に乗れ,一充電走行距離が約 200 km と長いなどの特 長があるが,値段が高いというデメリットもある.しかしコムスでは 鉛蓄電池を使用することで 66 万 8 千円と価格を実現した.リチウ ムイオン電池を搭載すると一充電走行距離は 50 km 程度とリチウ 図.3 車庫入れの様子 ムイオン電池のEVに比べると短いが,コムスは買い物や配達に 使用するための車であるから,十分な性能といえる. 3 コムスの開発 コムスの開発について,新規事業部事業企画室長の,松永豪さ ・モータの制御 表.1 の主要諸元に示したように,コムスのモータは 5 kW つまり 7 んに話をお伺いした.松永さんは毎週末,趣味のオーケストラの 馬力程度と非力である.非力なモータでもスムーズに運転するた ために,コムスで名古屋まで往復するそう. めにモータの制御,速度に対してどれだけのトルクを出すのか, というマップを作るのに非常に時間をかけたそうだ.また,電池の 残量が少なくなってもパワーダウンを感じにくいようにし,鉛蓄電 池の電力をいかに効率良く消費するかなど,考慮した点は様々だ そうだ. ・車体 使用していく上でどうしても熱を持ってしまうモータやインバータ を,空気で効率良く冷やすために車両右面の後方にダクトが開け られている.ここから空気を取り込み,車体下から出すことでモー タやインバータを冷やしているのだ.また,重量の重いバッテリを 車体下部に置いて重心を低くし,高い操縦安定性を実現している. 外観からすれば,車幅に比べて背が高いので,すぐ横転してしま うかのように思えるが,急旋回をしても転倒することはないという. 図.4 松永豪さん 4 3.1 開発コンセプト 今後のコムス 最後にこれからコムスをどう進化させていくのかをお聞きした. コムス(COMS)の名前の由来とは,「ちょっと おでかけ 街まで 身近での運用を考えると,病院や子供の送り迎えなどを行う時に, スイスイ」のローマ字読みの頭文字をとったものだ.一人でそう遠 2 人乗りの運用のほうが便利な場合が多い.そのためこれからは くない場所に,買い物などで使うための車であることが車の名前 多人数にも対応したコムスの開発が目標だそうだ.しかしそこには からよくわかる.冒頭で述べたように,定員を 1 名とすることで車両 法規上の課題がある.コムスは道路交通法において“ミニカー”に を小さく,省エネルギーとし,排出ガスの出ない EV で手軽に買え 分類される.このミニカーは,出力は定格 0.6 kW で1人乗り,高速 るということがコムスの開発コンセプトだ. 道路は走れないという制限がある.もしコムスを 2 人乗りにしてしま うと軽自動車となり,高速道路を走れるように出力を上げ,衝突安 3.2 開発において工夫した点 コムスは,電気自動車の「電気」の部分だけでなく,「自動車」の 全性を確保する必要がある.そうすると重量増,電池の高性能化 によって価格が上がってしまう.コムスの手軽さがなくなってしまう 部分まで全て開発している.特に 「走る」 「曲がる」 「止まる」に 懸念があるのだ.2 人乗り以上の手軽なコムスを実現するには,法 ついて,普通の自動車と同等の開発を行い,信頼を確保している 律によって新たな規格が加わることが必要不可欠だ. ということがわかった.ここでは,開発において特に工夫した点で あるバッテリ,モータの制御,車体の 3 点について紹介する. ・バッテリ 5 おわりに コムス最大の魅力は,価格の安さ,小さい車体による手軽さであ バッテリは鉛蓄電池を 6 つ直列につなぎ使用している.現在で る.今後、更なる高齢化が進む中で,身近で運用できる操作性の はさらに高性能なリチウム電池があるのになぜ鉛蓄電池を使用す 良い車というのは日増しに需要が増えるだろう.将来,当たり前の るのか?その理由は 2 つ挙げられる. ように町でコムスを見かけるようになるのではないか. 2 Motor Ring No.36 2013 自動車技術会 http://www.jsae.or.jp/motorring/ 謝 辞 今回の試乗体験・取材において,トヨタ車体株式会社の松永豪 様,近藤和博様には,大変お世話になりました.この場を借りて御 礼申し上げます.ありがとうございました. 3 Motor Ring No.36 2013 自動車技術会 http://www.jsae.or.jp/motorring/