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住宅双六(すごろく)

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住宅双六(すごろく)
MN
U
UT
A
2
1993.10
住宅双六(すごろく)
「フリダシは新婚時代の小さなアパ−ト、
子供が生まれるころに少し広めの賃貸マン
ションに移り、やがて分譲マンションを手
に入れ、それを売り払って庭付き一戸建を
手にいれたところでアガリ」
。これが今ま
で一般に典型的と信じられてきた住宅の住
み替えパタ−ンです。住宅問題の研究者は
これを「住宅双六」などとも呼んでいます。
「双六(すごろく)などという近頃の子供が
見向きもしない時代遅れの遊びの名前をつ
けて悦んでいるから、日本の住宅問題がい
つまでたっても解決しないのだ」
、という
お叱りを受けそうですが、それはさてお
き、問題はこのような住宅双六が今後も典
型例であり続けることができるかというこ
とです。
だれもが気がつくことは、これだけ住宅
の値段があがればアガリまで行き着かない
人がかなりの数になるだろうということで
す。
またゴ−ルだったはずの郊外の庭付き 1
戸建て住宅から、再び都市部のマンション
や老人ホ−ムに移り住む人がしだいに増え
てきています。
郊外の戸建て住宅は、子供夫婦と一緒に
住めるならば「終の住み処」だったので
しょうが、そうでなければ店や病院が遠
く、住宅の維持管理費もかかってアガリと
はいってられないというわけです。
シニカルな人はさらに、住宅双六がいわ
ば暗黙の前提としている古典的な家族像そ
のものが崩壊しつつあることを指摘するか
もしれません。ゴ−ルがゴ−ルでなくなり
つつある状況のもとで、私たちは住まいに
ついてどのような未来を描くことができる
のでしょうか。
Epistula
方、住宅価格の面からみれば地価が直接住
宅価格に反映されないというメリットがあ
るとされています。
地主にとっての心理的な土地の貸しやす
さや土地の返還にあたっての事務的な処理
高地価のもとでの高齢化社会の到来という状況のなかで、
を考えると、借地契約を結び住宅を建設管
いま都市に生活している人はどのような住まいを手にいれることができるのでしょか。 理するのは、一般的にはある程度公的性格
を有する機関(公団、公社、公益法人など)
従来の持家、
借家の区分にとらわれない新しい住まいの可能性をさぐります。
従来の持家、借家の区分にとらわれない新しい住まいの可能性をさぐります。
が想定されます。もちろん民間の機関が実
施することもあり得るでしょう。
建物については入居者が家主(建物所有
者)と30年分を一括払いとするような賃貸
私たちの提案は、子育て期には比較的広
「どこにどのように住むか」は、基本的
借契約を結ぶこととなります。土地と異な
い住宅に住み、子供が巣だった後はそれほ
には各人の選択の問題です。大都市には大
り建物の賃貸借には定期借地権に類する、
ど広くはないが安定した老後が送れるよう
都市のよさがあり、地方には地方のよさが
契約更新のされない借家契約制度はありま
な住宅に移り住むというものです。
あります。もちろんそれぞれの短所もあり
せん。システムが機能するためには、30年
1 子育て期
ます。
経過した時点で入居者がスム−スに退去し
子育て期は広い住宅が必要です。もちろ
都市に住む人は一般には住宅については
移り住みたくなるような、子育てを終了し
ん広い住宅といっても集合住宅、いわゆる
不利な立場にありますが、とはいっても親
た人たちのための住宅がぜひ必要です。そ
マンションです。住宅の広さについては国
の家が近くにあれば一緒に住むという途が
うでなければ入居者は事実上現在の住居を
でも「住宅建設 5ヶ年計画」で世帯構成に
可能です。いろいろな住宅メ−カ−から親
退出することが極めて困難になるでしょう。
応じた広さを定めていますが、とりあえず
世帯と子世帯が同居しやすいよう設計を工
このような子育て期の住宅を、あらかじ
イメ−ジとして 100 ∼ 120 ㎡としておきま
夫したとする住宅が売りだされています。
め定められた一定の期間のみ利用する住宅
す。入居時に一括した金額を支払い、子育
一方、親を頼りにできず、狭い賃貸アパ
定期利用権住宅
という意味で定期利用権住宅
定期利用権住宅と呼ぶことと
て期約30年間の居住の権利を取得します。
−トを振り出しに住宅を手当てしていかな
します。
建物の柱、梁などの主要な構造部の耐用
ければならない人は大変です。高額な住宅
2 子育て終了後
年数を 60 年とみ、これを 30 年づつ異なる
価格や老後の生活を思い将来に不安を感じ
夫婦 2 人であればそれほど広い面積はい
入居者が使うとすれば、理論上各々の入居
る人は決して少なくないでしょう。
らないでしょう。50 ∼ 60 ㎡とします。高
者の建設費の負担は 2 分の 1 ですむことに
私たちは主として後者の人々を対象に、
齢者向け住宅として設計が工夫されている
なります。但し、かなり長期に居住するこ
子供に財産を残すということは諦め、しか
と同時に、地域の福祉サ−ビスとの連携が
ととなるので、内装、設備については各人
し比較的無理のない住居費負担で老後もあ
はかられており、医療相談、文化活動、軽
の生活様式にあわせることができる自由度
る程度安心して暮らせる仕組みとして以下
易な介護等を受けることができます。この
の高いものとしておく必要があります。
に紹介するようなシステムを提案していま
ような福祉サ−ビスは住宅の管理とは独立
土地は借地とし、一定期間後に必ず地主
す。
したものとして、必要に応じ入居者が有料
に返還されるものとします。すなわち借地
もちろん、私たちは全ての人がここに提
で利用するものとします。入居者は退職金
契約の更新がなされないということで、こ
案するような住まいかたをすべきと主張し
の一部で終身にわたって居住する権利を取
のような契約は従来無効とされていました
ているのではありません。しかし将来の高
得します。建物を建設管理するのは子育て
が、借地借家法の改正によって定期借地権
齢化社会を考えるとき、以下で提案するよ
期と同様、公的な性格を有する機関が想定
として新たに制度化されました。これによ
うなシステムが選択肢として用意されてい
されます。
り地主にとっては、
「一度貸せば返ってこ
ることが、社会的に重要な意義があると信
ない」という心配がなくなり宅地として市
じています。
場にでまわる土地の増大が期待できる一
新たな選択肢の必要性
提案システムのイメ−ジ
このような終身居住の住宅には次の 2 つ
のタイプがあります。
ひとつは定期利用権住宅が子供が巣立っ
た 30 年後に分割されて、終身居住用の住
宅となる場合です。引っ越しの負担も軽
く、子供の世帯が近くの定期利用権住宅
に居住することができれば、親世帯と子
世帯がいわゆる「ス−プのさめない距離」
で住むことができます。ただしこのタイ
プでは、一定期間後必ず土地を地主に返
さなければならないこととしているので、
30 年という期間の設定が問題とされるか
もしれません。一般には 65 才で入居して
95 才ということなので平均余命からみる
とかなりの部分をカバ−していますし、
短期間で終身居住が終了した場合は残期
間を定期利用権の住宅として利用するこ
となどが考えられますが、なお研究の余
地はありそうです。
もうひとつのタイプは、終身居住専用の
住宅が建設される場合です。終身では居
住期間をあらかじめ定めることができな
いので、一般的には公有地に建設される
ことが想定されます。また地域の福祉サ
−ビスの簡易な拠点があわせて設けられ
ることが望ましいと考えられます。
終身居住の住宅については、すでに民間
でも高齢者を対象に医療介護と一体と
なって終身居住を保証するような物件の
販売がおこなわれており、現行制度上も
一応の整理がなされていると考えてよい
でしょう。但し、その入居の権利は極めて
高額です。
この子育て終了後の住宅を、終身にわた
終身利用権
り利用する住宅という意味で終身利用権
住宅
住宅と呼ぶこととします。
提案のポイント
私たちはこれまでの調査研究から、提案
のシステムにはかなりの実現性があると
思っていますが、以下ポイントと思われ
る事項について簡単にふれておきます。
1 スケルトン供給方式
skeleton(スケルトン)を辞書で引くと、
まず「骨格、骸骨」とでてきて、しばらく
あとに「建物などの骨組み」とでてきま
す。
スケルトン供給方式とは、マンションの
ようないわゆる集合住宅において、柱や
梁などの建物の骨組みすなわちスケルト
ン部分を公共的な性格をもつものとして
位置づけ、内装などスケルトン以外の部
分については入居者の自由に任せようと
いうものです。
子育て期の住宅で述べた、入居者の生活
様式にあわせた自由度の高い住宅とはこ
の方式をさしています。
これは集合住宅においても入居者の好み
や生活様式に応じた住宅を提供することが
可能な方法として、賃貸住宅においていく
つかの先駆的な試みがなされましたが、残
念ながら普及するには至りませんでした。
それほど長く住むわけでもない賃貸住宅
に、余分の手間と費用をかけたくないとい
うわけです。
しかしさきに述べたように、同じスケル
トンを 2 世帯にわたって使うとすれば 1 世
帯あたりのスケルトン建設費用の負担は理
論上は 2 分の 1 ですみ、また 30 年という居
住期間の長さを考えると若干の費用増加が
あったとしても内装などを居住者の生活様
式にあわせる意義も高いはずです。
2 在宅福祉サ−ビスとの連携
家を持ちたいという理由のひとつが、資
産をもつことによる老後の不安の解消に
あるともいわれており、提案のような老
後に資産を残さないシステムの成否は、
まさに老後の安心をどう確保するかとい
う点にあります。
在宅福祉は高齢者や身体に障害のある人
を、できるだけ施設に収容するのではな
く、自宅で生活できるように必要な援助
をしていこうというものです。このため
には中学校区程度ごとに設けられる拠点
公団や民間の賃貸や社宅で暮らす。
定年後は自然に囲まれての
んびり暮らす。
利用権住宅の価格を一般の分譲住宅と比較すると下
図のようになります。
住宅を 30 年間利用できる
権利を買います。内装は
入居者が自由に造ります。30 年後は
終身利用権住宅へ優先入居ができますので、
老後の不安はありません。途中の転売も
可能ですが、優先入居権も次の人に移ります。
事業方式
定期利用権住宅は、容積率 120%。借地料を地価の 25%、建設費坪
90 万円(スケルトン 70 万円、内装 20 万円) とし、スケルトンの 60
%を最初の入居者が負担する。
終身利用権住宅は、住宅面積が半分で、利用年数を 30 年、建設費坪
95 万円と設定した。
建物は、地主から「建物譲渡特約付借地権」 に
よって借りた土地に建てます。30年後に土地は
地主に返却されます。ただし、この時に建設費
の未償却分の 4 0%を払う必要があります。ま
た、継続してもう 30 年間土地を貸すこともで
き、その場合は建物の買い取りは不要で、借地
料を継続して受け取ります。
一人または二人が住宅を
終身利用できる権利を買
います。原則として定期利用
権住宅の半分の面積に
なります。内装は自由に造ります。
的な施設とともに、小学校区程度の日常
生活圏ごとに簡易な施設が設けられるこ
とが望まれます。このような準拠点施設
を全て県や市町村の財政負担でおこなう
ことは困難ですが、終身利用の住宅と併
設し入居者の一定程度の負担で整備して
いくならば在宅福祉サ−ビスの体制整備
が促進されることとなるでしょう。
3 利用権分譲
利用権は日本では法律上の概念として存
在していません。
提案では借地・借家契約をうまく組み合
わせることでシステムを構成しています
が、権利関係の処理が煩瑣であることは
否定できません。
法的な問題に立ち入ることは避けます
が、利用権がいわば期限付所有権の性格
をもつものとして法制度に位置付けられ
ることは提案システムの普及にとって大
変望ましいことです。
実現に向けて
提案のシステムが実現するためにはいく
つかの解決すべき課題があります。
まず、60 年サイクルで成立するシステム
でしかも福祉サ−ビスとの連携が求められ
るため、各公共団体において長期的なまち
づくりのビジョンが必要になります。
またこのシステムでは、現行法制度上は
居住者は賃借権を設定するということにな
りますが、賃借権では担保がないと見做さ
れるので、融資を受けることができませ
ん。しかし融資残額を建物を所有管理する
機関が保証することによって、ある程度の
対応が可能ではないかと思われます。
さらに提供された土地の相続税や固定資
産税などの税制上の扱いを明確にしておく
必要があります。
私たちは関係者との研究会のなかで、必
要な調査研究をすすめてきていますが、こ
の提案について皆様方からのご意見等いた
だければ大変嬉しく思います。
(担当:小林秀樹、佐野勝則)
北海道南西沖地震に
調査団を派遣
本研究所では本年7月12日に発生した北海道南西沖地震の被害調査のため北海道庁の全面的協力のもとに、建設省住宅局と合同
の調査団を派遣した。調査団の構成は耐震構造、基礎地盤、木構造、建物火災、都市防災の専門家及び行政担当者。期間は7月 19
日から 21 日の3日間。なお2次調査を8月3日から5日の3日間おこなった。
平成6年度予算要求
本研究所は平成6年度予算として総額約22億円を要求することとした。新規研究テーマは、
「繊維補強コンクリートの実用性評価
技術」 、
「高知能コンクリートを用いた制振構造システム」 、
「東南アジア地域における地域適応型集合住宅の開発」 の3テーマ。
秋季講演会の
内容決定
恒例の秋季講演会が 11 月 11 日と 12 日、安田生命ホール(東京都新宿区) で開催される。テーマは「構造分野における日米共同研
究」 、
「新素材・新材料の建築への利用技術」 、
「性能的防火設計を巡る国際情勢と防・耐火試験法の開発の展望」 及び「これからの
住まいの環境・設備設計を考える」 。聴講自由。
出版のご案内(近刊)
建築研究資料「AMeDASに基づく建築設計用地域気候マップおよびデータ」
(小玉祐一郎 他)
建築研究資料「欧米諸国の都市計画コントロールの仕組み −土地利用に係わる計画・規制制度を中心として−」
(第6研究部)
建築研究報告「砂礫地盤の原位置液状化強度の評価法に関する研究」
(大岡弘 他)
*問い合わせ先:
(社) 建築研究振興協会(TEL 03-3453-1281)
編集後記
住宅問題は、身近な問題になっています。そう言っている私も、官舎住まい。持家は
高くて、清貧な(?) 公務員には買えそうもありません。しかも、田舎では親が一人暮
らし。住宅問題を研究しながら、それを自ら経験するとは、研究者の鏡というもの。今
や、住宅問題で一番困っているのは、普通のサラリーマンかも。本号で紹介した提案シ
ステムが実現すれば、
子世帯は広々とした定期利用権の住宅でゆとりある生活が送れ、
田舎の親は、福祉と連携した終身利用権の住宅に住んで、両方とも安心。そんなうまい
話に半信半疑ながらも、研究を進めるうちに、しだいに可能性が見えてきました。ちょ
うど時代の転換期。古い枠を乗り越えるような、斬新な発想が求められているようで
す。皆で発想を出しあえば、次世代の住宅像も見えてくるのではと期待しています。
(H.K.)
高齢化や高地価化等を受けて、
今、
様々な事業主体等によって新しい住宅供給の検討
が活発化しているようです。今回の報告が、こうした方々のヒントとなり、ともに知恵
を出し合う関係が築けたらと思います。
(K.S.)
今回の特集は都市に視点をおいた住宅政策。
都市が住みやすくなれば地方との地域格
差がさらに拡大するとの意見もあります。
住宅と地域振興のかかわりも大きな研究テー
マ。これからしばらくVOICE欄で研究者の紹介をすることとしました。どこかで名前を
聞いたあの人はこんな人!?(N.S.)
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