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A15 妊娠やエストロゲンの投与によって血中サイロキシンやその結合蛋白
Q15 Horm Front Gynecol 3(4)1996 A 15 妊娠やエストロゲンの投与によって血中サイロキシンやその結合蛋白 (TBG)が変化すること,また反対に甲状腺機能障害は女子の生殖機能に影響を 及ぼすなどの事実から,甲状腺とエストロゲンの間には深い相互関係が存在する ことが予測されます。しかし,加齢に伴う甲状腺機能の変化に関しては,変化し ないという報告,低下するという報告があり,また低下するという報告でも老化の 身体的変化に見合った生理的な低下であるとされており,その低下にエストロゲ ンの欠乏がどの程度関与しているのか,換言するならば加齢変化なのか,エスト ロゲン欠乏による変化なのか,明らかではありません。エストロゲン欠乏が甲状 腺機能に対してどのような影響を及ぼしているのかを知るためには, 去勢や閉経, あるいはGnRHアナログ投与中の甲状腺機能の変化を知る必要があります。 Bottiglioniら (1983)は閉経前後の女性の血中TSH,T3,T4,FT4,TBGおよび T4/TBG比を測定し年齢をマッチさせた未閉経婦人,閉経後婦人におけるこれら の測定値を比較しました。その結果,閉経後婦人では未閉経婦人に比べFT3の低 下が認められるとし,エストロゲン欠乏の関与の可能性を示唆しました。しかもこ のFT3の低下はTBGの増加およびT4の転換減少によるものと推論しました。しか しながら,閉経後女性におけるFT3の低値,TBGの増加は特定の年齢層でしか 観察されず,エストロゲン欠乏によりもたらされた変化というよりは他の因子の影 響がより深く関わると結論しています。一方,Cedarsら (1992)は子宮内膜症の治 療目的でGnRHアゴニストを6ヵ月投与し,投与前後におけるFT 4の変化および TRHに対するTSH分泌の変化を検討しました。この成績によれば,FT4もTSH分 泌能のいずれの因子もGnRHアナログ投与で変化することは認められておりませ ん。動物実験では去勢が甲状腺機能に著しい影響を与えることが報告されてお りますが,ヒトではエストロゲン欠乏が甲状腺機能に影響を及ぼすという明らか な証拠はないようです。 すでに述べましたように,エストロゲンにはTBGの合成を促進する作用があり ますので,妊娠中やエストロゲン服用中にはその影響で血中甲状腺ホルモン値 が増加します。しかし,文献でみるかぎり,エストロゲン減少が逆に血中甲状腺 ホルモン値に影響を及ぼすという明らかな事実はみあたらないようです。しかし ながら,ここで問題となるのは,正常値の問題です。エストロゲンは生殖機能ば 1 ホ ル モ ン Q & A かりでなく代謝にも少なからず影響を与えるホルモンです。エストロゲンが少な くなれば代謝も変化し,当然甲状腺ホルモンの必要性も変化してくるはずですの で ,そ れ ぞ れ の 状 況 に お い て 正 常 値 も変 わ ってくるものと 推 察 され ます。 Bottiglioniらは甲状腺ホルモンの血中濃度の測定から閉経後婦人では未閉経婦 人に比べ境界型の甲状腺ホルモン分泌異常を示す頻度が高いことを示しました (表1)が,同じような報告はBallingerら (1987) によっても示されており,特に後者 はこの時期の精神神経症状との関連性を示唆しています。この微妙な変化がエ ストロゲンの欠乏によるものであるという証拠はありませんが,今後の重要な課 題の1つであると思われます。 (水沼 英樹) 2