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A10 婦人科領域では酢酸ブセレリンの適応疾患は子宮内膜症および子宮
Q10 Horm Front Gynecol 2(4)1995 A 10 婦人科領域では酢酸ブセレリンの適応疾患は子宮内膜症および子宮筋 腫で,いずれも妊娠可能な年齢層の女性が対象となります。したがいまして,酢 酸ブセレリンを使用する場合には必ず妊娠していないことを確認してから投与す る必要があります。といいますのは,酢酸ブセレリンをはじめとするGnRHアナロ グには黄体機能を抑制する作用がありますので,妊娠初期に投与された場合,せ っかくの妊娠が流産してしまう危険性が少なくないからです。GnRHアナログの薬 理作用にはゴナドトロピン放出作用のほかに,連続投与あるいは大量使用によっ て下垂体のゴナドトロピン産生を抑制する効果がありますが,黄体期の使用では 後者の作用が前面に出て,黄体機能を抑制することが証明されています。また, このGnRHアナログ投与による黄体機能の抑制はhCG投与で回復されることも証 明されています。あまり知られておりませんが,GnRHアナログの開発の初期に は避妊薬として,あるいは性交後避妊薬として使用できないかということを目的と した研究が行われていました。 なにはともあれ,妊娠の可能性のある時期の投与を避けるためには,まず卵胞 期に投与が開始される必要があります。一方,酢酸ブセレリンの投与開始後数日 の間はフレアーアップとして,大量のLHやFSHの放出が行われます。もし卵胞が ある程度発育していますと,このFSH,LH分泌の影響を受けて卵胞発育および 排卵が促進され,妊娠初期に酢酸ブセレリンの投与を行ってしまう可能性が出て きます。このような事態を確実に回避するためには,卵胞発育が開始する以前に 酢酸ブセレリンの投与を行い,下垂体の脱感作を完了してしまう必要があります。 下垂体の脱感作が起こるまでには最低で2週間かかりますので,酢酸ブセレリン の投与を開始する時期として最も理想的なのが月経周期の1∼2日目ということに なります。 ところで,妊娠初期に知らずに酢酸ブセレリンの投与を受けてしまった場合ど のような事態が予測されるのでしょうか。すでに触れましたように,GnRHアナロ グは性交後避妊薬としての可能性を追求された時期があります。ヒトで得られ たLemayらの成績では,黄体中期に1日のみ酢酸ブセレリンの2回投与(1回500 μg※)で,その周期の黄体期が2日短縮し,また血中プロゲステロン値が非投与周 期の40%も減少したと報告されています(図1)。さらに,この作用は酢酸ブセレ 1 ホ ル モ ン Q & A リンの投与量が増えるほど増強するといわれています。子宮内膜症の治療では酢 酸ブセレリンは毎日投与されますので,黄体機能の抑制はより完全なものとなる でしょう。もし,どうしても月経周期の初期から投与ができない場合にはその周期 の避妊を指導することが重要です。また,投与中に妊娠の可能性を疑ったなら, ただちに投与を中止し適切な処置をとることが必要です。実際,GnRHアナログ の投与期間中であるにもかかわらず妊娠が成立してしまうことがあるとの情報を 耳にすることがあります。詳細は不明ですが,おそらく不適切な使用によって排卵 や黄体機能が抑制されなかったものと思われます。このような場合,酢酸ブセレ リンの胎児に対する催奇形性が心配になりますが,動物実験では今のところその 心配に対しては否定的のようです。しかし,薬物に対する反応性は種特異性があ りますので,妊娠の可能性のある女性に対する投与は極力避けなければなりませ ん。 ※酢酸ブセレリンの「用法・用量」 (子宮内膜症及び子宮筋腫の場合)は「通常、成 人には1回あたり左右の鼻腔内に各々1噴霧ずつ(ブセレリンとして300μg) を 1日3回,月経周期1∼2日目より投与する。なお,症状により適宜増減する。」と なっています。 (水沼 英樹) 2