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平成3年門審第29号 旅客船スバル18号漁船宏惠丸衝突事件 言渡年月
平成3年門審第29号 旅客船スバル18号漁船宏惠丸衝突事件 言渡年月日 平成3年11月21日 審 判 庁 門司地方海難審判庁(猪俣貞稔、山本宏一、畑中美秀) 理 事 官 藤井春三 損 害 スバル-船首部船底外板に凹損、擦過傷 宏惠丸-右舷側後部を圧壊、舵損傷、魚倉に浸水、船長は頭部、顔面、胸部等に損傷 原 因 スバル-速力不適切、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因) 宏惠丸-船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因) 主 文 本件衝突は、港域内から出航するスバル18号が、前路の状況確認を十分に行わないまま増速し、新 たに衝突の危険を生じさせたことに因って発生したが、宏惠丸が衝突を避ける措置をとらなかったこと もその一因をなすものである。 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 受審人Bを戒告する。 理 由 (事実) 船 種 船 名 旅客船スバル18号 総 ト ン 数 19トン 機関の種類 ディーゼル機関 出 力 882キロワット 人 A 名 船長 受 職 審 海 技 免 状 一級小型船舶操縦士免状 船 種 船 名 漁船宏惠丸 総 ト ン 数 1トン 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数 11 受 職 審 人 B 名 船長 海 技 免 状 二級小型船舶操縦士免状(5トン未満) 事件発生の年月日時刻及び場所 平成2年4月9日午前5時25分 鹿児島県串木野港沖台 スバル18号(以下「スバル」という。)は、平成2年4月に竣工した、最大搭載人員61人(うち 船員3人)の軽合金製旅客船で、2機2軸のウォータージェット方式による推進装置を備え、その方式 は、操舵席にあるリモートコントロールボックスのポジションレバーを操作することにより、バケット を上下させてウォータージェットの方向を替え前後進させるのであるが、試運転時における、4分の4 負荷速力試験では、機関回転数毎分2、170(以下「毎分」を省略する。)で34ノットを、停止性 能については4分の4負荷から後進一杯の操作で船体停止まで8秒、最短停止距離25メートルをそれ ぞれ記録した。離岸、接岸及び港内低速航行時の操船に際して機関回転数が600から1,200の範 囲で行うようになっており、同回転数に対応する速力の目安は、600が約6ノット、1,000が約 12ノット、1,800が約26ノットであった。 受審人Aは、船主の要請を受け、スバルを完工地の熊本県柳港から沖縄県石垣島へ回航することとな り、試運転をすませた後、機関長と2人で乗り組み、4月7日午後4時柳港を出航したが、荒天のため、 途中、牛深港に続いて串木野漁港に寄って仮泊し、船首0.55メートル船尾0.80メートルの喫水 をもって翌々9日午前5時15分同漁港魚市場前岸壁を発し、目的地に向かった。 A受審人は、機関を600回転として約6ノットで港口に向かい、同5時20分ごろ串木野港灯台か ら北64度西(磁針方位、以下同じ。)0.4海里ばかりの地点に至り、串木野漁港南防波堤端を左舷 側約200メートル隔てて通過し、針路を南35度西に定め、機関を1、000回転に上げて、約12 ノットの速力としたとき、前路に数隻の漁船の灯火を認めたが、個々の灯火を注意深く観察しなかった ので、左舷船首5度1.8海里ばかりのところにいた宏惠丸が、ゆっくりと右方に移動しており、その ままの速力を維持していれば無難に自船の前路を航過する状況にあることに気付かず、前路に邪魔とな る他船はいないものと思い、増速することとした。 A受審人は、自ら操舵に当たり、スロットルレバーを操作しながら機関回転数を1,200、1,4 00及び1,500に次々に上げ、同5時23分ごろ速力が18ノットに達したとき、増速したことに より宏惠丸と新たに衝突の危険が生じたが、依然このことに気付かず、同時24分ごろ更に1,800 に回転数を上げ、同時25分少し前、ほぼ24ノットに達して間もなく、船首至近に宏惠丸の航海灯及 び作業灯を初めて認め、あわてて右舵一杯とするとともにウォータージェットのポジションレバーを反 転に操作したが間に合わず、同5時25分串木野港灯台から南48度西1.9海里ばかりの地点におい て、原針路のままのスバルの船首が、宏惠丸の右舷側後部に、前方から約80度の角度で衝突した。 当時、天候は晴れで風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 また、宏惠丸は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、受審人Bが1人で乗り組み、操業のため、 船首0.30メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、4月9日午前3時鹿児島県戸崎漁港から 出漁し、同港北西方の沿岸でえさえびを採捕し、えさ付け作業を行ったのち、航海灯ほか船尾部に作業 灯1個を掲げ、同5時10分ごろ串木野港灯台から南33度西1.9海里ばかりの地点を発し、針路を 北45度西に定め、日出を待ち山の表面がはっきり見えるようになってから操業を開始するつもりで、 機関を約2ノットの微速力前進にかけて薩摩沖ノ島方面に向かった。 B受審人は、操舵に当たり、船首方から右舷側方にかけて数隻の漁船の灯火を見ながら進行し、同5 時20分ごろ串木野港灯台から南43度西1.9海里ばかりの地点に達したとき、串木野漁港南防波堤 の近くから出航してくるスバルの灯火が目に入ったが、白灯1個だけで舷灯の確認ができないでいるう ち、同時23分ごろ右舷正横前15度0.8海里ばかりに接近し、その後方位が変わらず、衝突の危険 が生じたが、行きあしをとめるなどして衝突を避けることなく同針路同速力のまま続航中、前示のとお り衝突した。 衝突の結果、スバルは船首部船底外板に凹損及び擦過傷を生じ、のち修理され、宏惠丸は右舷側後部 を圧壊し、舵を損傷したほか魚倉内に浸水して航行不能となり、スバルに引かれて串木野漁港に戻った のち、船体は廃船処分され、また、B受審人は、頭部挫傷、顔面挫傷及び胸部圧挫傷等を負い、1箇月 の入院治療を受けた。 (原因) 本件衝突は、夜間、串木野漁港から出航したスバル18号が、串木野港の港界外約1海里の水域にお いて、前路の状況確認が不十分なまま増速し、新たに衝突の危険を生じさせたことに因って発生したが、 宏惠丸が、同漁港から出航してくるスバル18号の灯火を認め、その後接近する状況にあった際、なん ら衝突を避ける措置をとらなかったこともその一因をなすものである。 (受審人の所為) 受審人Aが、夜間、串木野漁港を出航し、串木野港の港界近くで前路に漁船の灯火を認めた場合、個々 の灯火について動き模様を観察し、明らかに衝突のおそれがない状況を確認したうえで速力を上げるべ き注意義務があったのに、これを怠り、前路の状況確認が不十分のまま速力を上げたことは職務上の過 失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2 号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 受審人Bが、夜間、串木野港の港界近くを航行中、串木野漁港から出航するスバル18号の灯火を認 め、自船に急速に接近し、衝突のおそれがある場合、行きあしをとめて衝突を避けるべき注意義務があ ったのに、これを怠り、なんら衝突を避ける措置をとらなかったことは職務上の過失である。B受審人 の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を 戒告する。 よって主文のとおり裁決する。