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2 理科 - 東京都教育委員会

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2 理科 - 東京都教育委員会
2 理科
理科学習における観察や実験、野外観察などの活動は、科学的な知識を得たり、問題解決能
力を養う上でも、重要なものである。また、技能の育成は、実際に観察、実験を行うことを通
じて身に付けることができるものである。このような理科学習における主要な活動を安全で適
切に行うためにも、事故の防止、薬品の管理や廃棄物の処理などについて十分配慮することが
必要である。
(1) 安全管理と安全教育
① 観察、実験の準備
ア 生徒が観察、実験を行う上で安全上の問題がある場合は、教員による演示実験にする。
イ 必ず事前に教員が観察、実験を行い、指導法について再確認する。
ウ 教科書に記載されている観察、実験方法等を熟知し、教科書に示された適切な方法で実
施する。
② 観察、実験前の注意事項
ア 生徒には、教員の指示に従うように注意し、勝手な行動をさせない。落ち着いて観察、
実験を行う姿勢を身に付けさせる。
イ 机上の整理を行い、観察、実験に必要のない物は、机上に置かない。
ウ 必要に応じて保護めがね・手袋等を生徒に付けさせる。
③ 実験の心得(倉林源四郎「実験五則」より)
ア 安全第一・・・実験への不安をもたせないようにする。
イ 百発百中・・・生徒にとって、一回しかない実験を必ず成功させる。
ウ 装置簡易・・・生徒の発達段階に合わせた装置を設定する。
エ 観察徹底・・・結果や観察が明確な方法を選ぶ。
オ 整頓清潔・・・雑然とした実験室や机上は、事故のもとである。
④ 事故が起きた場合
ア 薬品による中毒・・・・専門医に受診する。その場合、薬品名、量、中毒の状況(皮膚
付着・吸入・飲み込みなど)と症状、発生の時刻をはっきり記述
し、記録をとっておく。
イ 薬品による炎症(必ず、医師の受診を受ける)
・皮膚に付着・・・・・基本的には多量の水で洗う。水の勢いに注意する。
・目に入ったとき・・・液体の場合は、止水で目を洗う。固体の場合、涙で流されるが、
それ以外は、傷の拡大や感染の危険があるので、目を動かさない
ようにし、医師の診断を受ける。
ウ 衣服に付いた場合・・・多量の水で洗う
エ ガス中毒・・・・・・・すぐに新鮮な空気を吸えるよう、換気する。
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(2) 事故防止への対応
① 理科室での事故
ア ガラス器具による事故
・ゴム栓にガラス管を通す時の事故
ガラス管と同じ太さのコルクボーラーを使用。石鹸水で濡らし管を短く持ち回しなが
らゆっくり差し込む。
・温度差による破損事故
耐熱ガラス以外の容器に、高温の液体を入れない。
集気瓶を用いた燃焼実験を行うときは、金属製の蓋を使用するとよい。
・スライドガラス上での蒸発実験による事故
スライドガラスをしっかりつかみ、回しながら加熱する。熱い残留物が飛び散らない
よう留意する。スライドガラスの代わりに蒸発皿を使用し、加熱器具としてドライヤー、
ホットプレート等で加熱する。
イ アルコールによる事故
・アルコールに火が引火する事故
アルコールを用いた実験は、アルコールが気化し、引火性が高いので直火で加熱しな
い。移動するときは必ず周辺の火を消す。
・葉をアルコールで湯銭する時の事故
引火の恐れがあるので、アルコールに火を近づけない。ホットプレート等を使用する
とよい。
ウ 加熱操作による事故
・ガスバーナーによる事故
調節ねじが、スムーズに動くように調整する。筒が熱いことがあるので注意する。引
火した場合等、危険が生じた場合、元栓を閉める。
・加熱器具による事故
三脚等、他の装置も加熱している事を注意する。三脚を使用して過熱しているビーカ
ーの落下に注意する。
・試験管で液を加熱するときの事故
液量を試験管の 1/5 程度、沸騰石をいれる。人の方に試験管の口を向けない。
100℃以下の温度なら湯煎等の方法も考える。
・マグネシウムの燃焼時の飛散と、強い閃光による事故
マグネシウムは非常に高温になっているので触れさせない。
閃光を、長時間見つめさせない。
・酸化銅の還元時の事故
試験管に穴が開くことがあるので、装置の下に耐火板をしく
エ 薬品による事故
・アルカリ水(水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア)の電気分解、中和反応による事故
※ 生徒に NaOH 水溶液を作らせない。
発熱するので水に少量ずつ NaOH を加えていく。NaOH 水溶液が手や目に付かない
ようにする。実験後の液にアルカリが入っているので気を付ける。
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アンモニアガスは換気をよくし、直接吸わないようにする。
・酸(塩酸、硫酸)による事故
※ 生徒に硫酸を希釈させない。
手に付けない、目に入らないようにする。塩素ガスは有毒なので換気をよくし、直接吸わな
いようにする。
・過酸化水素水による事故
瓶を開けるときは、圧力が高いので蓋の開け方に注意する。薄めた過酸化水素水も手に付か
ないように、目に入らないようにする。
オ 気体発生の実験時の事故
・酸素、二酸化炭素発生時の事故
薬品の濃度や量を最小限にする。容器の圧力破損に気を付ける。教科書に示されたガラス容
器の使用法を遵守する。
・水素発生時の事故
薬品の濃度や量を最小限にする。水素を発生させる実験は、爆発の危険があるので取扱いに
注意し、水素の燃焼実験は試験管を使用する。
・アンモニア、塩素、硫化水素発生時の事故
有毒なので換気をよくし、直接吸わないようにする。
カ レーザー光使用による事故
・レーザー光が目に入って網膜を焼いてしまう事故
出力が低いレーザー光でも目に絶対入れない。
キ 放電実験による事故
・放電実験による事故
高電圧になるので演示実験では、
生徒を近付けない。
目の保護のため放電を長時間見せない。
ク 不要薬品、廃液、使用器具の処理
・有機金属を含む塩類の処理
廃液業者に委託し、適切に処理する。
・空き瓶、割れたガラス器具の処理
薬品空き瓶、実験中に割れたガラス器具は、水でゆすいでから廃棄する。
ケ 器具の管理
・実験前・・・準備した実験台の薬品、器具等の管理を徹底する。
・常 時・・・薬品や実験器具等についての危険性、実験上の注意を徹底する。
理科室や準備室の整理、整頓、薬品と実験器具の管理を徹底する。
・理科室を不在にする時は、必ず施錠する。
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② 動・植物における事故
ア 毒草によるかぶれ
ウルシ科の植物は触れるとかぶれることがある。
イチョウやクルミの実も触れるとかぶれる。
山野の散策前には、主な有毒植物を調べておき、散策コースは事前に下見をしておく。
生徒のアレルギーの有無を調査しておく。
イ 毛虫の毒棘、ハチ刺され毒
毛虫の仲間のドクガ科(ドクガ、チャドクガ)、カレハガ科、イラガ科、マダラガ科、ヒトリ
ガ科は毒がある棘(とげ)や針を持つので、むやみには触れない。
ハチは人が巣に近付くと数匹が旋回し始める。静かにその場を去る。ハチなどは動き回った
り大声を出すと興奮して襲ってくる。
また、ハチに刺さされた場合には、アンモニア水(尿)は傷を悪化させることもあるので塗
らず、冷やすなど応急処置をして、医師に見せる。
③ 屋外における観察実験の事故
ア 太陽の観察
太陽は直接裸眼で観察しない。また、ススを付着したガラス版、フィルムを使った遮光は不
十分であるばかりでなく、
逆に目の瞳孔を広げて、
紫外線をより多く受けるので絶対にやめる。
観測は、望遠鏡やピンホ-ルにて投影した太陽像で行う。太陽を直視する場合は、遮光プレ
ート(JIS T8141、遮光番号13以上)を使う。
イ 屋外での熱中症、日焼け
炎天下における長時間の観察・作業は熱中症や日焼けになる。服装は、皮膚の露出部分が少
ない、通気性のよい服、帽子が基本である。水筒は持参して給水ができるようにする。
日焼けは一種のやけど状態である。
観察中は、たえず生徒の動きを監督し、適宜休息をとらせる。
ウ 川、池、海など水辺の観察
水辺の観察には危険が伴う。
生徒は種々の興味に目を奪われて足元を見ていないことがある。
運動靴に靴下、軍手、帽子を着用させる。ビーチサンダルは水に入ると浮いてしまうので絶対
に履かせない。
常に生徒を監督し、人数確認ができる位置に身を置く。
エ 地層の観察
地層の観察、化石採集は、つい作業に集中することが多く、まわりの注意を怠り転倒、転落
や滑落がある。また、岩石ハンマー、タガネなどはむき出しにせず、カバンに入れ運ぶ。
経験のある場所でも、状況の変化が考えられるので実地踏査を行う。
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④ その他、自由研究等における事故
ア ペットボトル
ペットボトルは、ソーダー水作りやペットボトルロケット実験で破裂の危険がある。ペッ
トボトルには、炭酸飲料用と非炭酸飲料用の2種類がある。内部から圧力をかける実験には
炭酸飲料用を使う。また、傷があると破裂するおそれがあり、傷のない新しいものを使う。
ペットボトルに実験用の薬品を入れ、それを幼児が飲んでしまった事故がある。実験で使
用中のペットボトルの扱いには、細心の注意を払う。
イ ドライアイス
ドライアイスを使った実験では、ガラス瓶を使ってソーダー水作りをして瓶が破裂する事
故がある。ガラス瓶は圧力に耐えられないので使わない。ペットボトルを使う場合も分量等
をよく調べる。
ドライアイスは非常に低温なので、素手では絶対にさわらないように指導をする。
ウ 紫外線・赤外線
強い光源やブラックライトを直接見ると、角膜や結膜に炎症をおこすことがある。目に入
る光のエネルギーは、光源から距離の2乗に反比例するので、光源から十分離れる。
また、光源を直接見ることができないようにカバーを付けるように指導する。
エ 気体の発生
気体の発生実験は、家庭にある身近な材料でできる。実験をする場合は、実験方法が適切
かどうか、教員から指導を受ける。
実験にあたっては、気体の性質をよく調べ、使う材料も最小限にするとともに、換気のよ
い所で行い、絶対に一人では実験をしないように指導する。
オ 圧電素子の火花放電
圧電素子は安価のライターなどにも使われており簡単に手に入る。しかし、電流は強くな
いが、電圧が高いので心臓疾患のある人は使い方に注意をする。
金属部分は絶縁テープを巻き、金属部分が人体に触れないように指導する。
カ インターネット等で調べたあいまいな実験の方法
自由研究の情報が簡単に手に入る反面、実験方法、使う材料、実験結果など、あいまいな
記述がしてあることもあり、失敗やケガをしても自己責任になる。
情報収集として検索するにはよいが、実際に行う場合は、専門の本で調べたり、教員に相
談するように指導する。
(3) 学校管理下における理科での事故事例
① 日本スポーツ振興センターの報告より
理科に関する事故の発生件数は、平成 14 年度では5件(小学校4件、中学校1件)
、平成 15
年度では 11 件(小学校4件、中学校6件、高等学校1件)である。過去の事例を分析し、事故
原因の多い順から示すと、遊びとふざけによる事故(49件)
、手工具に関する事故(40件)
、
アルコールランプに関する事故(37件)
、ガラス器具に関する事故(29件)などである。
原因は、児童・生徒のふざけによる事故が多く全体の14%を占める。しかし、アルコール
ランプ、手工具の取り扱い、ガラス容器を使用する実験等の事故例も多く、原因の 45%にも達
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する。教員も理科実験に関する最新の知識や技能を身に付け、事故防止に努めるとともに、生
活指導の徹底により、生徒を授業に集中させなければならない。
② 中学校における事故例
・酸素を取り出す実験中、過酸化水素水を過熱していたところ、容器の試験管が爆発。
・教員が食塩水を染み込ませたろ紙を蒸発皿の中で燃やす実験中、アルコールランプにアルコー
ルを継ぎ足そうとしたところ、アルコールビンに引火。慌てて、ビンを戻そうとしたところ火
が飛散。
・水の沸点の実験終了時、スタンドに吊るしてある温度計をはずそうとしたところ、三脚がスタ
ンドからはずれ、熱湯が入ったビーカーが落下し、生徒に熱湯がかかる。
・エタノールによる燃焼実験中、噴射したエタノールが生徒の衣服に引火した。
・蒸発皿の中の火が、ポリ容器に入っていたメタノールに引火。
・三角フラスコで、水素を発生させ、試験管で捕集していたところ、生徒が直接ガラス管の先に
マッチの火を近づけ引火、三角フラスコが爆発。
③ 事故防止の方策(平成 18 年 1 月 23 日付 17 教指企第 1003 号「学校の理科実験等における事故
防止について(通知)
」より抜粋)
ア 実験等における安全確保の徹底
・教員は、指導する観察、実験についての十分な知識を身に付け、教科書に示された用量・方
法で予備実験等を行うなど安全を確認するとともに、過去に起こった事故や予想される事故
に関する対策を講じるなど、周到な配慮をする。
・実験時には、児童・生徒が慎重な態度で学習するよう十分に指導するとともに、実験方法及
び危険性について周知徹底する。
・児童・生徒の発達段階を考慮し、授業の目標や内容に応じて、安全を確保する能力・態度が
育つようにする。
イ 薬品の性質を踏まえた適切な学習指導の実施
・年間・単元・週ごとの指導計画に加え、各実験ごとの指導計画を立てる。その際には、指導
内容や使用する試薬の量・器具の種類など事故防止の観点に立った十分な検討を行う。
・実験の指導に当たっては、予備実験を行うなど十分に準備を行う。
・毒物又は劇物等危険を伴う薬品を扱う際には、必要に応じて、保護眼鏡、白衣等を着用する
など、服装等について十分配慮する。
ウ 安全確保に向けた生活指導の徹底
・児童・生徒が自ら進んで安全を守る習慣を身に付けられるように、学校の教育活動全体を通
じて生活指導を徹底する。
・児童・生徒の実態に即して生活指導や安全教育の全体計画を見直し、改善を図る。
・管理職は、授業観察等を通じて児童・生徒の実態を把握するとともに、指導計画や週ごとの
指導計画、学習指導案等を点検し、日ごろから生活指導及び事故防止の徹底を図る。
〔参考資料〕
○「観察、実験事故防止の手引き」
(四訂版)平成7年3月 東京都教育委員会(
「東京都教育指
導必携」368 ページ参照)
○「学校等における理科系実験用薬品類の管理について」
(昭和 53 年 8 月 5 日付 53 教指管収
第 182 号)
(平成17年版「教育例規集」1795 ページ参照)
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