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90歳以上の処方 現状と今後の課題 - たんぽぽ下田部薬局・たんぽぽ
はじめに 高齢者の薬物治療においては、 多剤併用や薬剤起因性老年症候群などの問題が取り沙汰されている。 一般に65歳以上を高齢者と呼ぶが、74歳以下の前期高齢者では若年成 人に準じた治療となる場合が多い。75歳以上の後期高齢者には「高齢者 の安全な薬物療法ガイドライン2005」注1)が発表されていたが、当薬局では 活用していなかった。 その後2008年4月「ビアーズ基準日本版」注2)は発表を機に、まず手始めに 高齢者の中でも90歳以上超高齢者の薬剤使用の現状を調べてみた。 歳以上超高齢者 注1)日本老年医学会編:75歳以上および75歳未満の虚弱高齢者を対象とした、「高齢者に対して特に慎重 な投与を要するリスト」 ビアーズのリストを出発点に、ワーキンググループを中心とした専門医のコンセンサスに基づい て選定されたため、45種類の薬剤(群)の約70%はビアーズのリストにも共通している。 注2)65歳以上の高齢者を対象とした不適切な薬剤処方を明確に定義する基準として米国でBeers博士らに よって開発されたものを、今井博久氏らが日本版を開発。便宜上IBM-PCと呼ばれている。 Imai Beers Medicaition-Prescripition Criteria 方法 ✿2店舗(大阪府高槻市) 90歳以上(2008.12月末現在)の患者データを調査・集計・分析 ❀期間 2008.1月から1年間 ✿分析項目 ①男女比 ②副作用歴の有無 ③服用薬剤の総数と薬効別分類 ④IBM-PC該当薬の有無 ⑤一年間の来局者と高槻市人口構成との比較 考察 まとめ-1 今後の課題 1) ・男女比は平均寿命のとおりだが、副作用・服用剤数とも 一般的な高齢者のデータに比べ少ない傾向である。 これは、薬効別の傾向からみて、90歳以上生きられるとい うことは、自然老化に伴う機能低下が主な症状であると考 えられる。(厚労省平成20年簡易生命表の内容とも一致) 1)該当薬の48%を占めるH2ブロッカーについて 高齢者の腎機能等を考慮したH2ブロッカーの減量ではなく 主病院の採用薬の違いに因るものであり、問題点とされる 「せん妄」の報告もなかったが、防御因子の低下が大きく 影響する高齢者の胃潰瘍の特徴を処方に活かせないか、 個々の患者の症状を踏まえて介入していきたい。 考察 まとめ-2 今後の課題 2) 2)症状の安定している患者に変更の申し入れはし難い現状に 対して、不適切な薬剤処方を防止し 高齢患者の医療の安全と質の向上にどのように関わっていくか ーーー医薬品の承認段階で得られる情報には限界がある にもかかわらず、高齢者・小児・妊婦・様々な合併症を有す る患者等リスクの高い患者にも広範に使用されているのが現 状であるーーー 現場にいる我々薬剤師が積極的に安全性に関する情報の 収集・分析・評価・安全対策措置を行い、“既知”の副作用 の発現を最小化し、“未知”の副作用を早期に検出して 医薬品適正使用に貢献したい。 21世紀の医療は高齢者医療 平成20年 高齢化率=老齢人口は22%に達し、 数年内には 4人に1人が高齢者となり、 どの診療科でも患者の過半数は 高齢者で占められる。 急激な高齢化にデータが追い付かず、 かつ、個人差の大きい 高齢者に対する薬剤の問題については、老年医学会でも “これから”という向きがある。 治療以外のケアにも重点が置かれるべき高齢者医療には、 チーム医療が必要とされる。他連携スタッフと情報交換を密にし、 かかりつけ薬局・薬剤師として、在宅・窓口を通して、どれだけ きめ細やかな対応が出来るかが今後の課題である。 参考:1960年代 平均寿命 男性 65歳 女性 70歳 老齢人口 7% 2007年 男性 79歳 女性 86歳 老齢人口 22% 何故90歳以上を対象としたのか ✿日本の平均寿命は2007年時点で世界一の83歳 ✿この年、65歳以上の人口割合が全人口の21%を超え、「超高齢社会」に突入 ✿その翌年2008年の4月から「後期(長寿)高齢者医療保険制度」が施行 ✿平均寿命 に対し平均余命は80歳で8~10年位、90歳で4~6年、100歳では約2年 「80歳だから、もういいとは言えない。あと10年…」(永田正男氏) ✿前立腺癌の治療指標は75歳。 (この年代の平均余命 (10~11年)から、10年ほどなら当面治療しなくてすむ場合もある) ✿人工透析に関しては、90歳以上だと透析してもしなくても、予後は変わらない ✿糖尿病患者は90歳代までいるが100歳代はいない ✿ 75歳以上では高LDL-C血症は冠動脈疾患の重要な危険因子といえない 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(2007 日本動脈硬化学会) 平成20年簡易生命表(内容の一部) 3大死因(悪性新生物、心疾患、脳血管疾患)の死亡確率は男女とも 0歳、65歳、75歳の各年齢で5割を超えているが、 90歳では5割を下回っている 下田部は老健施設分がすべて一包化 のため一包化率が高い Beers計 該当者 人数計 割合① H2以外 割合② 35 32 129 0.248062 15 0.1163 44 38 123 0.308943 21 0.1707 高齢患者の特徴 一般に、高齢患者は、複数の疾患を抱え、たくさんの薬剤を服用している。 また、複数の医療機関を受診していることも多く、若年者以上に薬剤間相互作用に注意しなければならない。 高齢患者はまた、加齢とともに代謝や排泄などの生理機能が低下していくため、副作用が発現しやすい。 さらに長期間に渡る薬物療法を行う例が多く、服用後に起きる副作用だけでなく、長期間服用した場合の 影響も勘案しなければならない。 薬剤師は、このような高齢患者の特徴を考慮しながら服薬指導を行うことになるが、 どんな患者にも適用できるマニュアルがあるわけではない。 患者個人個人の多様な疑問や不安を解消し、コンプライアンスを高めることを目標とする点は、 患者の年齢に関わらず同じである。 高齢の患者は「加齢に伴って何らかの病気になり、その治療のために服用することは仕方がないこと」と 考えていることが多く、服薬に対する意識は他の年齢層の患者に比べ高く、コンプライアンスもよい傾向にある。 高齢者には、ものを非常に大切にする人が多い。薬も同じである。 薬が余った場合に、それを自宅の薬箱に大切にしまっておく患者も少なくない。 高齢者は、自分の健康に大きな関心を持っている。 関心のほとんどが、健康であると言ってもよい。 長生きがしたい、健康的な生活を送りたいと願っているだけに、 薬にも大きな期待、そして大きな不安を抱いている。 加齢に伴って様々な生理機能が低下するが、特に、腎臓や肝臓の機能が低下している可能性については、 常に念頭に置きつつ服薬指導を行わねばならない。 参考文献:今泉 真知子 日経DIクイズ(1)1999/8 P8-11 ①「後期(長寿)高齢者医療保険制度」スタートと合わせたように、同じ4月に、65 歳以上の高齢者を対象に「不適切な薬剤処方の一覧」:(ビアーズ基準・日本版) 国立保健医療科学院 疫学部長 今井博久氏発表 ②もう一つの指標としては、遡ること3年前の 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライ2005」日本老年医学会編 このガイドラインもBeersのリストを出発点とし、専門医のコンセンサスに基づいて選定さ れたため、約70%がBeersのリストに共通。①と異なる点は、74歳以下の前期高 齢者では若年成人に準じた治療適応となる場合が多いため、75歳以上の後期 高齢者および75歳未満の虚弱高齢者を主対象としている点。 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2005~1~ リストの対象:一般に65歳以上を高齢者と呼ぶが、 74歳以下の前期高齢者では若年成人に準じた治 療適応となる場合が多く、 75歳以上の後期高齢者および75歳未満でも日常 生活機能低下を有する虚弱高齢者 ☆後期高齢者医療保険制度は平成20年度施行 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2005~2~ 不適切な薬剤処方が一割ほどに 老健施設調査」 2001.1~2002.12東大・医・老年科の関連5施設 627症例 この調査に加え、老年医学会会員644人と老健代表医2900人対象 アンケートでも Beersリストへの認知は低く、国内でもこれに類した「不 適切な薬剤」のリストが強く求められているという結果が得られた。 秋下助教授をリーダーとしたワーキンググループが、高齢者における薬物 療法ガイドライン策定の作業を続け、6月の総会で公開された。 ☆不適切な薬剤が1剤以上使用されていた患者:52.4% そのうち2剤使用患者:34.5% (今井ら研究班 在宅患者調べ)