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岡 政秀 NTT東日本 代表取締役副社長

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岡 政秀 NTT東日本 代表取締役副社長
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トップインタビュー
岡 政秀 NTT東日本 代表取締役副社長
先ず森を見てから,木
を見る.お客さまニー
ズ と自 社 パ ワ ー の 融
合を
事業環境が目まぐるしく変化する通信業界に
おいて,次々と斬新な施策を展開するNTT東
日本.新たなマインドへの転換期において,ど
のようなロジックで自社サービスを提供し,ど
◆PROFILE:1978年日本電信電話公社に入社.2004年NTT
東日本栃木支店長,2007年同ネットワーク事業推進本部サー
ビス運営部長,2008年同取締役 ・ ネットワーク事業推進本
部サービス運営部長を経て,2012年 6 月より現職.ネット
ワーク事業推進本部長,NTT-ME代表取締役社長を兼任.
のようなスタンスで局面に臨むべきかを岡政秀
NTT東日本代表取締役副社長に伺いました.
り,その伸びが鈍化しました.
マインドの転換期.お客さまの未来を予測し
たサービスの提供を目指す
スマートフォンやタブレット端末の普及による「ICT
を携帯する」新しいライフスタイルの誕生は市場環境を
一変させ,若者を中心に,より快適に,よりスタイリッ
◆まずは,NTT東日本の事業状況からお聞かせください.
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シュにICTを生活に取り入れる方向に変化しています.
現在,NTT東日本が戦略的に進めているのは光ブロー
NTT東日本はこのような状況下で対応の変化を求め
ドバンドの普及です. 3 ~ ₄ 年前までは,フレッツ光の
られており,ここ 1 ~ 2 年くらい前から営業方針の見直
契約数は右肩上がりの成長を見せていましたが,スマー
しに取り掛かっています.従来どおり,インターネット
トフォンなどの登場により移動体通信との競争も加わ
をまだ利用していない方への普及活動,付加価値サービ
NTT技術ジャーナル 2014.9
スの提案は継続していきますが,一方で新しいICTの活
用法にも目を向けています.
具体的には,これまでは主に「光を直接,家に引く」
というコンシューマ市場への働きかけをしてきました
が,本来のブロードバンドの効用や役割を考えると,実
は企業や団体への提供にもう一度着目しなくてはならな
いと考えています.大企業だけではなく,中小企業,
SOHO,そして自治体などに,ブロードバンドのネット
ワークを広げるべきと営業方針を転換しました.
◆これまでの業態のあり方そのものが問われることは大
きな転換期なのですね.
営業先をコンシューマから企業に向ければ良いという
一方で,東日本大震災の教訓も活かした,強固な災害
対策への取り組みも展開しています.震災後の復旧は,
簡単な話ではありません.例えば,営業部門は,これま
昨秋にほぼ当面の対応を終えましたが,引き続き各自治
では家電量販店などでフレッツサービスへの加入申込を
体の復興計画へのお手伝いにも着手しています.忘れて
促していましたが,同じようなスタイルで企業にお話を
はいけないのは次の災害への備えです.首都圏の直下型
持ちかけるわけにはいきません.企業の問題点を洗い出
地震など予想されている災害への対策も見直しを求めら
し,経営環境をしっかりと把握し,サービス提案するの
れています.東日本大震災では,地震による通信設備へ
が仕事になります.
の影響はありませんでしたが,津波や長時間にわたる広
当然のことながら,お客さまの事業環境もさまざまな
域停電などで被害を受けました.こうした経験を踏まえ,
うえに,抱えているICT人材の数も質も違います.ネッ
首都圏直下型地震が起きた際にも,お客さまに安心して
トワーク設備を整えたのは良いけれど,その活用ができ
サービスを継続してご利用いただく体制を整えました.
ないなどの問題が生じる企業もあります.セキュリティ
の問題や,運用上の問題が発生したときには支援してく
ビジネスニーズへの柔軟な対応を実現(B2C
れるのだろうかと不安になって,ネットワークを導入す
からB2B2Cへの転換)
ることに二の足を踏む企業もあると思うのです.
アフターフォローを含めてお客さまがネットワークを
◆これまでの教訓を活かし,新しい取り組みも始まって
安心して活用できるビジネス環境を整えること,つまり
いるのですね.マインドの転換というと「光コラボレー
未来を先取りしたサービス提供を心掛けています.全社
ションモデル」もその一例でしょうか.
員にこうしたマインドの転換が求められています.営業
お客さま企業を通して,その先のエンドユーザに光
のスタイル,体制や技術,設備の対応も同じです.
サービスを使っていただくB2B2Cへのモデル転換を目
お客さまに直接お目にかかるのは営業担当です.これ
指しています.直接のお客さま企業には,お客さま企業
まで通信機器を販売することに重きをおいていました
自らの強みと私たちの光サービスを組み合わせた新しい
が,業態を伺い,その先を読むことに精力的に取り組ん
サービスを案出し,自社ブランド,自社商品としてエン
でいます.もちろん,現場の声を吸い上げていく上層部
ドユーザに提供していただきたいのです.
にもその声を把握,分析できるだけの実力が求められて
これにより,光サービスがさまざまな業種とコラボ
おり,私たちにとって今,大きな変化が必要だと実感し
レーションすることで,光の利用拡大や設備利用効率の
ています.
向上が期待できると考えています.もちろん,従来の
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B2Cモデルは継続しますが,今後はこのような新たなモ
入等によるネットワークへの影響は発生していません
デルに軸足を移していきます.
が,今後も多様なサイバー攻撃に対し,ネットワークの
◆ビジネスニーズに柔軟にこたえていくために,ネット
信頼性向上が必要なことから,さらなる防御 ・ 検知機能
ワーク事業について具体的にはどのような取り組みを
等の強化やインシデント発生時の体制強化,セキュリ
していらっしゃるのですか.
ティ系人材の育成等,サイバー攻撃への対応力を強化し
ビジネス系のお客さまに対しては,多彩なニーズにこ
ていきます.
たえていきたいと考えています.複数拠点一括工事や時
一方で,さらなるコスト効率化への取り組みとして,
刻指定工事,夜間 ・ 早朝帯での開通工事の実現など,ビ
生産性向上を進めています.宅内故障修理の合間に計画
ジネス開通力の強化を進めていきます.現在,協力会社
的に設備点検を推進する等の業務複合化により,所外系
とも連携を図りながら,これらのビジネスニーズに柔軟
業務を中心にこれまで大きな成果を上げてきたと考えて
に対応できる工事体制の構築に向けて,検討を進めてい
います.昨年度からは所内系業務についても「生産性の
ます.
見える化」の仕組みづくりにより,さらなる生産性向上
また,スマートフォンやタブレット端末などの普及や
を進めています.
通信の高速化等により,今後増大していくトラフィック
また,2013年度より進めているネットワークのシンプ
に対しては,高速 ・ 大容量伝送が可能な大容量光伝送基
ル化についても,今年度は施策の完遂に向けて回線 ・ パ
盤を導入することで,ビット単価低減や遠隔設定の導入
ス切替等の工程を計画的に進めています.計画を遂行す
による現地作業削減等の効率化を行い,事業者向けサー
るだけでなく,NTT収容局単位を基本とし大規模ビル
ビスや多様化するビジネスニーズにも柔軟に対応してい
は架単位に切替および撤去工程を進めることで,電力使
きたいと考えています.
用量の削減効果を早期に創出し,グリーン活動も推進し
また,ネットワークの信頼性を高めていく取り組みも
ていきます.
必要と考えています.近年,日常的にサイバー攻撃が発
生しており,NTT東日本のネットワークに対しても不
先ず森を見てから,木を見てほしい.研究者
正アクセスが増えています.幸いにも,これまで不正侵
の知見に大いに期待
◆社員の皆さんに一言お願いします.
これは私の座右の銘ですが,
「明日は明日の風が吹く」
のです.未来に起きる出来事にいかに柔軟に対応できる
かが大切です.これまで洞爺湖サミットや東日本大震災
をはじめとした大きなプロジェクトや激甚災害などを経
験した中で,
「プラス思考」の大切さを実感しています.
ご存じのとおり,東日本大震災のときには設備の倒壊や
断線などの被害が続発しました.これを嘆くのではなく,
今,そこにあるもの,残っているものをどう活かしてい
くかを考えることが重要だと思います.そして,その考
えで使命感を持って仕事をしてくれた社員の存在に心強
さを感じました.今後も使命感を忘れずに未来に臨みた
いですね.
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忘れてほしくないのは,サービスを支えるのは設備,
ネットワーク,システムです.光エリアカバー率は2013
年度末で99%に達し,NGNについても拡大を終えて安
定した運営を続けており,コスト削減に向けた効率化手
法についても実績を上げてきました.具体的には,私た
ちは数年前からトータルコストという視点で取り組んで
います.減価償却費と人件費,運用コストをトータルで
考えコストマネジメントをするのです.設備構築にコス
トがかかっても,その後の保守費,運用費が下がるので
あればトータルは同じです.この考えを昨年度の事業計
てほしいと思います.
画から設備のみならず営業部門や共通部門にも取り入
◆研究者の皆さんにも一言お願いします.
れ,大きな成果を上げています.これも先ず森を見て
から,木を見る,未来へつながる考え方です.
研究者の皆さんにも,先ず森を見てから,木を見る感
覚を持っていただきたい.皆さんの手掛けている研究が
今は,世の中への接し方が大きく変わるときです.今
どのように活かせるかという知見に期待しています.こ
まで真面目にやってきたことは続けていただきたい.こ
れまで以上に私たちとの会話も多く持っていただきたい
れに加えて,外に向けて窓を開けてほしいのです.営業
ですね.研究所全体の知見を私たちの事業とつなげてい
でいえば直接お目にかかったお客さまから身をもって感
く力を存分に発揮してください.
じたことを組織として受け止めていける体制を整えてい
(インタビュー:外川智恵/撮影:村岡栄治)
ます.ここに血を通わせていただき,
未来へつなげていっ
インタビューを終えて
「なんだか窮屈だな(笑)
」と,撮影のためにジャケットのボタンを締め
ながら撮影スタッフの要請に応じる岡副社長.耳は傾けながらも,すべて
のスタッフに向け同時に,笑顔で気を配る視野の広さと対応に圧倒されま
した. 8 年前の栃木支店長時代,地域の企業の代表にお目にかかる際には,
お客さまの業態の先を読み,私たちの力をお客さまのニーズにどう融合す
ることができるかばかり考えていましたとおっしゃいます.
「当時の主力
は,商品や保守事業でしたが,いつかこうした考え方が必要になる日が来
るのではと日々お客さまの声に耳を傾けていましたよ」とのこと.
ご趣味の 1 つ音楽鑑賞に例えるならば「ジャズでいうところのジャム
セッション」.相手の演奏を聞きながら沿うように何かをつくり上げてい
く感覚を楽しまれていたのかもしれません.
岡副社長のもう 1 つの座右の銘は,笑う門には福来る.「ノー天気なんですよ」という言葉の裏に,万全の備
えと蓄積したノウハウが見え隠れします.時間を見つけては,本のページをめくるという岡副社長.最近手にし
た一冊は『希望をはこぶ人』
(アンディ ・ アンドルーズ).帯に書かれた「謎の老人が教えてくれた「人生の知恵」
とは?」というメッセージに,岡副社長がお仕事で大切にしていらっしゃるプラス思考の意味深さを感じました.
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