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明けましておめでとうございます。 昨年は「まさか」の連発で相場は荒れ

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明けましておめでとうございます。 昨年は「まさか」の連発で相場は荒れ
明けましておめでとうございます。
昨年は「まさか」の連発で相場は荒れましたが、結局は株も為替も
「往って来い」で終わりました。今年も「まさか」は続くでしょうか
ら「明日は明日の風が吹く」と割り切った方がいいようです。何もし
ないでただ風に身を委ねるというのではなく、何が起きても動じない
のが大事だよということです。マーケットは森羅万象を映す鏡ですが、
予測不能の様々な事象に振り回されて、もっともらしくあれこれ後講
釈しても詮無い話です。人間社会が直面している問題は何か?それに
どのように対応していくべきか?といった時代観を持つのが大切です。それを教えてくれる教科書はど
こにもありません。自らの頭で未来を予想する、本来の相場観とはそういうものだと思っています。
インターネット革命に続くブロックチェーン革命
フィンテックが金融業界で注目を集めています。松井証券が 1998 年に始めたネット株取引はフィンテ
ックの典型例であり、それが強烈な破壊力で既存の秩序を変えていったのは、この十数年の経緯を辿れ
ば明らかです。インターネットの普及には、そのインフラ構築(電話線・光ファイバー・電波・・)も
あって 30 年ほどの年月を要しましたが、それを基盤にしたブロックチェーンは、AI(人工知能)の進歩
と相まって、もっと短い期間で、もっと大きなインパクトで、人間社会に変革をもたらすと思います。
ブロックチェーンは、インターネットに適当な日本語訳がないように、新しい概念ですから上手く訳せ
ません。強いて言うなら、現実空間とそれを覆う仮想空間との情報交換、というようなことでしょう。
現実空間での凄まじい量のデータ(ビッグデータ)が、仮想空間に伝達され AI がそれを処理し、現実空
間に戻されて人間行動に繋がっていく、そうしたサイクルみたいなものと私は勝手に解釈しています。
情報だけで動く金融業界は、こうした新たな仕組みと親和性が高く、その洗礼を最も早く受けると思い
ます。フィンテックはいずれブロックチェーンの一環として進化していくでしょう。
ビットコインで知られる仮想通貨がありますが、これはブロックチェーンの一例にすぎません。ブロ
ックチェーンはオープンアーキテクチャー(開放型技術)が基本です。したがって囲い込みの手段には
なり得ません。この辺を勘違いしている人達が結構おり「どうぞ、ご勝手に」と言うしかありません。
証券でも銀行でも、これまでの金融取引では、取引と決済にそれぞれ管理主体がいる分散型管理システ
ムでした。この上に証券取引所のような中央集権的機関があり、こうした複雑な仕組みを維持する為の
コストは当然高くつきますし、何よりもタイムラグから生じる様々な不公正事象を引き起こします。情
報の非対称性から生じるインサイダー取引などはその一例でしょう。ところがブロックチェーンの世界
では、分散システムも中央集権システムも必要なくなり、情報は仮想空間で大量に且つ瞬時に処理され
ますから、恐ろしいほどの低コストで、しかも堅牢なセキュリティと厳格なコンプライアンスを担保し
て、従来システムの代替となります。全ての関係者間でAIによって処理された情報が共有されるからで
す。仮想空間そのものがマーケットとして機能するといったら分かり易いと思います。既存の秩序は大
きく変わり、業者の多くが必要とされなくなるでしょう。何のことはない、松井証券も東証も必要とさ
れない時代が到来するということでもあります。もちろん指をくわえて淘汰を待つのではなく、そうし
た時代の大変化に合わせて変身できれば生き残れます。こうした動きは金融以外の分野にも急速に波及
していくでしょう。IoT(Internet of Things)というのは、あらゆるものをインターネットで結んで情報
交換しながらシステム制御することですが、これにブロックチェーンが入り込めば、機能は格段に上が
りコストは格段に下がります。遠い将来の話ではありません。私が所属している経済同友会では、こう
した議論が活発にされており、2020年(東京オリンピック)頃から本格的に始まるだろうという意見も
あります。
変わる労働の定義 資本主義の新たなる視点
人間による仕事の半分以上を AI やロボットが代替するという近未来予測が正しければ、労働の定義が
当然変わります。働くという漢字が人偏(亻)に“動”ではなく“考”に変わるでしょう。不思議なこ
とに、漢和辞典を開いてみてもこの漢字は見当たりません。考えるのが人間だから当たり前で、あえて
漢字にする必要がないからなのでしょう。
“動”には時間や数量の軸があるのに対して、“考”にはそう
した軸はなく、もっぱら質だけが問われます。
“動”にあたるものは AI・ロボットが担い、
“考”にあた
るものだけを人間が担う時代が到来します。AI も考えるではないかとの反論もあるかもしれませんが、
それはデータ分析という“動”によって人間の思考を真似ているだけで、考えるのとは別物です。視点
を変えて、この解釈を財務諸表で表すと頭が整理されると思います。労働は、
“動”にあたる部分(給与)
だけが P/L(損益計算書)上に計上され、
“考”にあたるものは B/S(貸借対照表)上の資産に計上され
るということです。これは M&A などで生じる“のれん代”みたいなものと考えれば分かり易いかもしれ
ません。優秀な人材を無形資産と見做して企業価値を計る重要な要素にするということです。労働をコ
ストではなく資産とする考え方は、新しい資本主義を考える際の重要な視点だと私は考えています。
労働の定義が変わることにより、個と組織の関係も変わります。企業が多くの労働者を抱えて規模で
競争するといった 20 世紀的ビジネスモデルは通用しなくなるでしょう。給与体系や雇用体系が抜本的に
変わりますから、サラリーマンとか従業員・社員とかいった言葉も死語となります。
“労働者”は雇われ
る立場ではなく、資本家の持つ資本と同様に、会社の付加価値創造の源泉となります。これは、B2B と
か B2C とかいった 20 世紀的なビジネスモデルではなく P2P(ピア・ツー・ピア)の幕開けであり、個
が主体となってネットワークで繋がり合い経済活動をする世界です。組織(会社)に従属する個という
構図はなくなり、会社は単なる器に過ぎず、個と融合して、無数の会社が生まれては消えていくでしょ
う。
“考”労働は時間軸から解放されますから、個はいくつもの会社に所属するのではなく参画します。
管理部門の多くは AI・ロボットに代替されますから、会社を興すのも潰すのも簡単です。経済理論の基
本要素であった失業率も意味を成さなくなるでしょう。
格差拡大の処方箋
問題は“あぶれた”人間をどうするかです。これまでの失業とは意味合いが違いますが、競争ですか
ら“あぶれる”は必ず生じます。考えることができない人間などいませんが、ローマ時代のカエサルが
「世の中で最も幸せな者は、自分を大切にしてくれる主人を持った奴隷である。だが所詮奴隷にすぎな
い」と言ったとされます。奴隷は侵略された民であり、侵略者に考えるのを禁止された人達ですが、こ
の言葉を引用せずとも、自律的な人間にしか自由と責任は与えられないというのは真理だと思います。
一方で、ナチズムに直面した大衆の心理を分析した、エーリヒ・フロムの著書「自由からの逃走」にあ
るように、人間心理はそんなに単純なものでないのも事実でしょう。完全自律的人間など存在しないか
らだと思います。
“考える自由”といっても“考えても、やっぱり駄目だった”と落ち込むのは誰しもが
幾度も経験します。七転八起が出来るならばいいのですが、現実は、一転二起か二転三起が精々で、そ
のうち心が折れ“考えるのに疲れた”
“考えた責任を取らされるのは嫌だ”と言ってあぶれます。それを
放っておけば、昨今謂われる格差など及びもつかない程の格差が生じるでしょう。これは不幸な社会で
永続きはしません。だからと言って、雇用されない率である失業率という、これまでの労働定義で問題
解決しようとしても無理です。無数の会社が生まれ、そこに“考”で参画するのは自由です。コストを
伴わないからです。あたかも資本家のような立場になると考えればよいと思います。個は事業利益から
報酬ではなく分配を受けます。事業は成功も失敗もありますが、大事なのは何回でもチャレンジできる
心が折れない仕組みです。
「所有」から「共有」へ個人の価値観が変わり、シェアリングエコノミーが広
がりを見せていますが、
「共有」は“あぶれる”を解決するキーワードのように思います。ただし、個の
自由な思考を奪い、努力を否定して、究極の組織である国家が個を統制する共産主義とは全く異なりま
す。情報技術の進歩によって、この新しい領域がとてつもなく拡大していくのだろうと私は思います。
投信工房スタート
松井証券は来年 100 周年を迎えます。次の 100 年に向けて新たなるスタートなどとは言いません。時
代がそんな陳腐な言葉など嘲笑うと思うからです。これまで述べてきたように、時代は我々の想像を遥
かに超えるスピードと大きさを以って変化していきます。それにハアハアとついていくのがやっとです。
20 年前にある意志をもって投信販売から撤退していましたが、昨年末に投信販売プラットフォーム「投
信工房」をスタートさせました。昨今流行っている、ロボアドバイザーを使って云々といった陳腐なも
のではなく、冒頭に述べたブロックチェーンも念頭に置いて、日本の投信構造変革を目指したものです。
詳しくは、近々日経新聞朝刊に載せる「意見広告」をご覧ください。自分で言うのも何ですが、1999 年
の自由化に際して「株式委託手数料解体新書」と銘打ち、ネット証券時代の幕開けを宣言した広告と同
様の、かなり思いきった内容です。ホームページにも載せますので一読していただければ有り難いです。
本年も変わらぬご支援・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
最後になりましたが、酉の年の皆さまのご多幸をお祈りして、新年のご挨拶とさせていただきます。
2017 年
元旦
代表取締役社長
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