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演題 サソリ毒における殺虫戦略の化学 発表者氏名 宮下 正弘、中川 好

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演題 サソリ毒における殺虫戦略の化学 発表者氏名 宮下 正弘、中川 好
演題
サソリ毒における殺虫戦略の化学
発表者氏名
○宮下 正弘、中川 好秋、宮川 恒
所属
京大院農・応用生命
要旨
ある種の生物は,生存競争に打ち勝つために毒を持っている.代表的な有毒生物として,ヘビ・ハチ・クモ・サソ
リ・イモガイなどが知られ,捕食や天敵からの防御のために毒を用いる.毒液の活性成分の多くはペプチドであり
,主に神経系のイオンチャネルに作用する.これらのペプチドは高い作用選択性を持つため医薬・農薬としての優れ
た効果が期待されている. サソリは世界中の幅広い地域で生息しており,現在のところ約1400種が確認されている
.日本においては,先島諸島などにヤエヤマサソリ (Liocheles australasiae) とマダラサソリ (Isometrus maculatus)
の2種が生息している.われわれはこれらの毒液から殺虫性ペプチドの探索を進め,これまでにヤエヤマサソリから
2種 (LaIT1,LaIT2) ,マダラサソリから3種 (Im-1,Im-2,Im-3) の毒素を単離・同定した.本講演では,その中から
LaIT1とIm-1の構造と機能について紹介する. LaIT1は36残基からなる昆虫特異的毒素である.現在のところ
LaIT1と配列相同性を示すペプチドは存在せず,他のサソリ毒には見られない構造的特徴をもっている.殺虫性サソ
リ毒素は一般的にジスルフィド結合を3∼4つ含んでいるが,LaIT1の場合その数は2つと少ない.一方で,構造を固定
化する性質をもつProが5残基も含まれており,立体構造の安定化に寄与していると考えられる.また,多くのイオン
チャネル作用ペプチドと同様に塩基性アミノ酸が多く含まれており,特に配列の中央部分に集中して存在する塩基性
残基が活性発現にとって重要であることが判明した.これらの構造的特徴や,投与された昆虫の症状などからイオン
チャネルへの作用が推察された. Im-1は56残基からなる昆虫麻痺活性を示す毒素である.このペプチドは,抗菌
活性や細胞溶解性を示す他のサソリ毒素と配列相同性を示し,両親媒性α-ヘリックス構造をもつことから,Im-1の
殺虫活性の要因は膜破壊であることが推測された.実際に,Im-1はバクテリアに対して顕著な活性を示すだけでなく
,昆虫培養細胞に対して,短時間で細胞構造の破壊を引き起こすことから,Im-1の昆虫麻痺作用は,神経系や筋肉組
織における部分的な傷害が主な要因であると考えられた.さらに,Im-1をLaIT1と同時に投与すると,LaIT1の作用が
増強されることが分かり,Im-1には毒液中の他成分の活性を高める効果もあることが示唆された.Im-1の持つ多様な
生理活性は,抗菌性ペプチドのサソリ毒液中での役割を明らかにする上で興味深い.
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