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ホログラフィー立体表示用 デバイスの研究動向

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ホログラフィー立体表示用 デバイスの研究動向
ホログラフィー立体表示用
デバイスの研究動向
03
菊池 宏
特殊なメガネ無しで自然な立体像を表示することのできる空間像再生型の立体テレビを
実現するために,超高密度の表示デバイスの開発が期待されている。このような表示
デバイスとして,当所では,ホログラフィー立体表示用デバイスである超高密度構造の
空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)の研究を進めている。 本稿では,
まずホログラフィー立体表示用デバイスに求められる性能と,現在の SLM の研究動向
について述べ,次に,当所で開発を進めている新しい SLM の研究の概要を紹介する。
1.まえがき
8Kスーパーハイビジョン(以下,8K)のような超高精細映像や立体映像は,見る
人にあたかもその場にいるかのような高い臨場感や,実物が目の前にあるかのような実
物感を与える映像として期待されている。8Kは,2016年の試験放送開始が近づき,東
京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年の本格普及を目指して,開発が
急ピッチで進められている。一方,立体映像は,8Kの先の次世代メディアとして重要
な研究テーマである。8Kのさらに先において,新たな臨場感を提供する立体テレビへ
の期待は,今後ますます高まると考えられる。特に,特殊なメガネ無しに自然な立体像
を表示することのできる空間像再生型の立体テレビへの期待は大きい。当所では,ホロ
グラフィーで立体像を表示する空間像再生型立体テレビの新しい表示デバイスの研究開
発に取り組んでいる。
薄いフィルムから昆虫や美術品が立体的に浮き上がった画像(立体写真)を,美術館
や展示会で見かけることがある。これがホログラムであり,光の波面を記録・再生する
ことにより物体を立体的に表示できる技術として知られている。光の波面を記録した媒
体を「ホログラム」
,その記録・再生技術を「ホログラフィー」と呼ぶ。このホログラ
フィー技術の歴史は古く,1948年にD. Gaborにより発明された1)。当初は,電子顕微
鏡の分解能改善技術として提案されたが,レーザーの発明とともに光学分野で大きく発
展した2)3)。現在では,上述の立体写真のようなアート作品,あるいはCD・DVDプレー
*1
左右の眼の網膜上における像の位
置ずれ。
*2
両方の眼で対象を見つめたとき
に,左右の眼の視線が対象の上で
交差すること。
18
ヤーなどの光学部品として応用されている。また身近なところでは,紙幣・クレジット
カードなどの偽造防止用途にも広く普及している。ホログラフィーは,3次元物体から
の光の波面を忠実に記録・再生することができるので,原理的に,実物の被写体をその
まま見るのと同じ自然な立体像を表示することができる。また,目の焦点調節や両眼視
差*1,輻輳*2のいずれの間にも矛盾のない立体像を表示することができる。このため,
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視域角Ψ
(度)
60
解像度
(本/mm)
1,000
100
ホログラム用記録材料
40
スピンSLM
20
0
0.1
※1 Liquid Crystal on Silicon
LCOS※1
DMD※2 ※2 Digital Micro-mirror Device
1
10
画素ピッチ (μm)
1図 表示デバイスの画素ピッチと視域角の関係(光の波長が 640nm の場合)
ホログラフィーは,究極の立体ディスプレーとも言われる。
本稿では,まずホログラフィー立体表示用デバイスに求められる性能と,現在の研究
動向について述べた後,当所で研究開発を進めている新しい表示デバイスの研究概要を
紹介する。なお,ホログラフィーの基本原理については,本特集号の解説「空間像再生
型立体映像の研究動向」で述べる。
2.ホログラフィー立体表示用デバイス
ホログラムは,通常,干 渉 縞の空間的な強度分布を,光の透過率や屈折率の変化,
あるいは表面の凹凸として記録しており,ホログラムを再生すると静止立体像が表示さ
れる。動画像を表示する立体テレビの場合には,干渉縞の情報を担う透過率や屈折率を
実時間で書き換えることが可能な表示用の電子デバイスが必要となる。この動画ホログ
ラフィーの立体表示用デバイスとして用いられるのが,空間光変調器(SLM:Spatial
Light Modulator)である。SLMを用いた立体表示技術を「電子ホログラフィー」と呼ぶ。
2.
1 SLMに求められる性能
電子ホログラフィーで動画の立体像表示を実現するためにSLMに求められる主な性
能を以下にまとめる。
① 可視光の波長程度の解像度(画素ピッチ)
② 視認できるだけの像サイズの再生
③ 高速な応答
④ 低消費電力
⑤ コンパクト(薄型,軽量)
光の干渉と回折現象を利用するホログラフィーでは,干渉縞を表示するSLMの画素
ピッチ(画素の間隔)が視域に直接影響を及ぼすため,その画素ピッチを可視光の波長
λ程度に十分に小さくする必要がある。立体再生像を観察できる空間の範囲である視域
角Ψ は,SLMからの最大回折角*3φから求められる。画素ピッチpのSLMで表示でき
る干渉縞の最小間隔は,2画素で干渉縞の1周期となることから2pとなる。このとき,
視域角Ψ および最大回折角φと画素ピッチp の関係は,次式で与えられる。
λ
Ψ = 2φ= 2sin−1 2p
*3
SLMの場合,表示できる最小間
隔の干渉縞により発生する回折光
が回折する角度。
────(1)
(1)式は,参照光の進行方向を中心に角度が2φ以内の物体光を再生できることを示
している。φより小さい回折角の光を再生するには,SLMにおける干渉縞の間隔を広
げて表示する。1図に,
(1)式で計算された視域角と画素ピッチの関係を示す。1図
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参照光
(読み出し光)
電気信号
出力光
書き込み情報
(映像信号入力)
立体像
(a)
電気アドレス型SLM
参照光
(読み出し光)
光変調材料
電気アドレス型 SLM
出力光
書き込み情報
(書き込み光)
映像信号入力
光アドレス型 SLM
立体像
(b)
光アドレス型SLM
参照光
(読み出し光)
電子銃
偏向コイル
映像信号入力
光変調材料
書き込み情報
(電子ビーム)
出力光
立体像
(c)
電子ビームアドレス型SLM
2図 SLM の各種方式と電子ホログラフィーへの応用例
*4
波長λ=640 nmの場合。
より,視域角を実用上十分な30°
以上にするためには,画素ピッチを1.2μm以下*4にす
る必要があることが分かる。ホログラム用記録材料は,通常,1,000 ∼数千本/mmと非
常に高い解像度を有し,画素ピッチを1μm以下にできるので,広視域での立体像表示
が可能である(1図のLCOSおよびDMDについては2.2節を参照)
。
また,立体表示にはある程度の像サイズが求められるため,SLMは超多画素(すな
わち大面積)としなければならない。
以上で述べたように,ホログラフィー表示用デバイスの共通の課題として,広い視域
角を実現するための狭画素ピッチ化(あるいは高解像度化)と,ある程度の立体像サイ
ズを実現するための超多画素化とを同時に満足させる必要がある。例えば,画素ピッチ
を1μmとすると,1mm当たり1,000画素となり,2mm角サイズのSLMでハイビジョ
ンが2面,8mm角サイズのSLMで8Kが2面表示できることになる。このように,立
体像表示用のSLMには極めて高い性能が求められる。
さらに,このようなデバイスを実現するには,超多画素化に向けた駆動電流の低減技
術を開発する必要がある。また,立体テレビ用のデバイスとしては,薄型・軽量でコン
パクトなものが望まれる。
2.
2 各種SLMの特徴と課題
2図にSLMの各種方式と電子ホログラフィーへの応用例を,1表に電子ホログラ
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解説
03
1表 電子ホログラフィーへの応用に向けた各種 SLM の特徴と課題
方 式
電気アドレス型
光アドレス型
電子ビーム
アドレス型
デバイス例
特 徴
・直接電気信号の入力が可能
LCOS,DMDなど ・動画表示が可能
・コンパクト(小型・軽量)
課 題
・高解像度化(現状の画素ピッチは3.5 ∼ 20μm)
・大面積化
・電気アドレス型SLM等の干渉縞形成装置が必要。
有機フォトリフラク ・高解像度(1,000本/mm以上)
大型システムとなる。
ティブ材料など
・大面積化が容易
・動画表示
EBSLM※など
・直接電気信号の入力が可能
・動画表示が可能
・高解像度化(現状は80本/mm以下)
・真空機構が必要で大型
※Electron-beam-addressed SLM
フィーへの応用に向けた各種SLMの特徴と課題を示す。
SLMは,情報を書き込む手段によって,次の3種類に分類される4)。
① 電気信号で情報を書き込む電気アドレス型
② 小型表示素子の光学像やレーザービームなどで情報を書き込む光アドレス型
③ 真空中の電子ビーム走査により情報を書き込む電子ビームアドレス型
電 気 ア ド レ ス 型SLM( 2 図(a)
) は, 薄 膜 ト ラ ン ジ ス タ ー(TFT:Thin-Film
Transistor)や単結晶シリコンMOS-FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-EffectTransistor)を用いて直接電気的に駆動する方式であり,液晶SLMやデジタルマイクロ
ミラーデバイス(DMD:Digital Micro-mirror Device)*5が代表的なデバイスである。
これらのSLMでは,干渉縞を映像信号として直接入力し,SLMに光を照射するだけで
立体動画の再生が可能である。しかし,その画素ピッチは現時点では5∼ 10μm程度
*5
10μm角程度の微小なミラーが
アレー状に配置された光デバイ
ス。ミラーの傾きを制御すること
で,光をON / OFF動作させる。
であり,光の波長程度の干渉縞を表示できる性能には至っていない(1図)
。液晶SLM
の一種で,現時点で最小の画素ピッチとなるLCOS(Liquid Crystal on Silicon,画素
程度に制限される。最近,
ピッチ:4.8μm)5)*6を用いた場合でも,その視域角は7.6°
まで拡大されたが,十
画素ピッチ3.5μmの8K高精細LCOSが開発6)され,視域角は10°
分な視域を得るにはさらなる画素の微細化が必要である。このように電気アドレス型
*6
画素ごとのスイッチング用トラン
ジスター MOS-FETをシリコン
基板上に形成した駆動回路によ
り,液晶を制御する光デバイス。
SLMは,ホログラム用記録材料と比べて解像度が低いため,視域が狭く立体視が困難
であることや,再生された立体像に共役光*7が重なり妨害となる,などの大きな課題
がある。これらの課題を解決するには,これまでにない超微細な画素で構成される超高
密度のSLMの開発が強く望まれる。
光アドレス型SLM(2図(b)
)においては,光照射により光学特性が変化する材料
が用いられ,フォトリフラクティブ材料*8,フォトクロミック材料*9などが利用され
ている。特に,最近では有機フォトリフラクティブ材料から成る光アドレス型SLMを
用いた立体表示の研究が盛んに行われている。この方式は,
電気アドレス型と比較して,
画素が分離されていないため容易にホログラム用記録材料と同等の高解像度を実現可
*7
再生像の光に対して位相が180度
反転した光。
*8
光照射により空間電荷が発生し,
その空間電界の形成で,電気光学
効果により局所的な屈折率変化が
生じる材料。
*9
光の照射により色が可逆的に変化
する材料。
能,塗布型材料を使用することで大面積化が容易,などの魅力ある特徴を有する。これ
までに,光アドレス型SLMを用いたホログラフィック・ステレオグラム方式*10により,
大面積の静止画を書き換えて表示する実験などが報告されている
。この方式では,
7)8)
干渉縞の入力・書き換えをどのような手段で実行するかが大きな課題となる。電気アド
レス型SLMなどの干渉縞発生装置を使用する実験例が多く報告されているが,この場
*10
多視点の2次元画像から合成され
るホログラム。複数の2次元画像
を同時に再生することで,ステレ
オグラムの原理により立体像を表
示する。
合,結局は超多画素の電気アドレス型SLMの開発を待つことになる。また,高精度の
書き込み光学系を別に備えて使用するため大型システムとなるなど,根本的な問題を解
決しなければならない。さらに,動画像表示も大きな課題として残されている。
電子ビームアドレス型SLM(2図(c)
)は,書き込み電気信号により電子ビームを
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入射光
反射光
入射光
反射光
偏光面の向き
偏光面の向き
透明電極
透明電極
磁化反転
光変調層
絶縁体
磁化の向き
磁化反転
電流
中間層
絶縁体
磁化固定層
磁化の向き
下部電極
スピンの向き
パルス電流
⒜ 透明電極側から電流を流した場合
光変調層
中間層
磁化固定層 電流
下部電極
スピンの向き
パルス電流
⒝ 下部電極側から電流を流した場合
3図 スピン SLM の基本構造と動作原理
単素子
1次元アレー
(1×10 画素)
2次元アレー
(5×10 画素)
狭画素ピッチ化
超多画素化
5μm
(2010 年)
(2012 年)
単純マトリクス駆動
GMR
(巨大磁気抵抗)
型
(2014 年)
(今後の予定)
アクティブマトリクス駆動
TMR
(トンネル磁気抵抗)
型
4図 スピン SLM の開発状況
変調する電子銃から成り,光変調材料としては,電気光学結晶や油膜が古くから使用さ
れている9)∼ 11)。これまでに,2次元画像のホログラム表示実験が報告9)されているが,
解像度が不十分であり,また真空機構を用いることから大きなデバイス構造となる。
3.スピンSLM
当所では,理想的な広視域の立体動画表示を目指し,1μm以下の狭画素ピッチから
成る超高密度構造を有する電子ホログラフィー用SLMの研究開発を進めている。従来
のデバイスの視域特性を大幅に改善する新しい電気アドレス型SLMとして,スピン注
*11
スピンの向きが偏った電子を磁性
体に注入し,磁性体の磁化の向き
を反転させる技術。
*12
磁化した材料に直線偏光を照射し
たときに,その反射光が主軸の傾
いた楕円偏光となる現象。
入磁化反転*11を用いて磁気光学効果*12を制御するスピンSLMを提案している12)。
3.
1 基本構造と特徴
スピンSLMの基本構造は,下部電極と上部透明電極の間に形成された磁化固定層(強
磁性薄膜)
,中間層(非磁性薄膜)
,光変調層(強磁性薄膜)の3層から成る(3図)
。
スピンSLMには,中間層として,非磁性の金属薄膜を用いた巨大磁気抵抗(GMR:
Giant Magneto-Resistance)型と,極薄の絶縁膜を用いたトンネル磁気抵抗(TMR:
Tunnel Magneto-Resistance)型の2種類がある。
スピンSLMは,強磁性体を用いているため本質的にメモリー機能があり,シンプルな
回路で駆動できる。3図に示すように,パルス電流の向きによって,光変調層の磁化の
向き(上向き,または下向き)を制御する。上部透明電極側から直線偏光した光を入射す
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解説
光変調部 トランジスター部
電子の流れ
磁石の
向き
03
画素
透明電極
光変調層
絶緑層
磁化固定層
絶緑層2
絶緑層1
ゲート
ソース
ドレイン
シリコン基板
5図 AM 駆動スピン SLM の基本構造
ると,光変調層の磁化の向きに応じて反射光の偏光面がそれぞれ逆方向に回転して,出力
される。高速な応答と超微細な画素とを同時に実現可能なデバイスとして期待される。
TMR素子の詳細については,本特集号の報告「トンネル効果を利用したスピン注入
型空間光変調器」で述べる。
3.
2 開発状況
当所におけるスピンSLMの開発状況を4図に示す。スピンSLMの研究は,2010年に,
サブミクロンサイズのGMR型の単素子の試作からスタートした。2012年には,1次元
アレーの単純マトリクス駆動*13のGMR型スピンSLM(画素数:1×10)を試作し,1
μmの狭画素ピッチでのスピン注入磁化反転動作に成功した13)。このSLMのGMR素子
*13
プラスとマイナスの電極の交点を
選択して動作させる方式。
は,磁化固定層,中間層,光変調層として,それぞれテルビウム-鉄-コバルト(Tb-Fe-Co)
合金とCo-Fe合金の積層膜,
銀(Ag)膜,
ガドリニウム-鉄(Gd-Fe)合金膜を用いている。
スピンSLMは,画素ごとに絶縁体層で囲まれた構造となっており,隣接画素間のクロ
ストークなしに独立にスピン注入磁化反転を制御できるため,狭画素ピッチ化に有利と
いう優れた特徴を有する。
スピンSLMで立体像の動画を表示するためには,超多画素のデバイスを開発する必
要があるため,2012年に,研究開発の対象とする駆動方式を,それまでの単純マトリ
クス駆動方式からアクティブマトリクス(AM:Active-Matrix)駆動方式*14へ大きく
方向転換した。5図に示すように,AM駆動スピンSLMの基本構成においては,画素
ごとに,駆動素子となるトランジスターの上に光変調素子を積層している。AM駆動ス
*14
画素ごとにトランジスターなどの
スイッチング素子を配置して動作
させる方式。
ピンSLMでは,画素ピッチが狭くなるほどトランジスターの駆動電流が減少するため,
光変調素子は,低電流動作が可能なTMR型とした。TMR素子は,GMR素子の中間層
を酸化マグネシウム(MgO)絶縁膜に置き換えた基本構造から成る。このTMR素子に
おいては,磁化反転電流密度が1.0 MA(106A)/cm2となり,GMR素子に比べて1/10
2次元アレー構造のTMR型スピンSLM(画
に低減することに成功した14)。これまでに,
素数5×10,画素ピッチ5μm)を試作し,各画素を選択してスピン注入磁化反転が可
能であること,個別に光変調動作が可能であることを実証した15)。現在,ホログラフィー
の立体表示に向けて,狭画素ピッチ化と超多画素化を両立させる高密度デバイスを開発
中である。
3.
3 超高精細ホログラムによる広視域立体像の表示実験
2次元アレー化したスピンSLMによる立体ホログラム表示の原理を検証するため
に,スピンSLMに使用している磁気光学材料で2次元固定パターンを形成したホログ
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磁気ホログラム
(サイズ:10 mm×10 mm)
0.5mm
右側
(18 )
視域
右側
(9 )
参照光
正面
(0 )
10°
左側
(9 )
左側
(18 )
6図 超高精細磁気ホログラムによる立体像再生の一例
ラム(磁気ホログラム)を作製し,広視域での立体像再生実験を行った(6図)
。2次
元固定パターンの形成は,計算機合成ホログラム(Computer Generated Hologram:
*15
ホログラフィーの記録時に形成さ
れる干渉縞を,コンピューター上
のシミュレーションによって生成
する技術。
*16
回折現象の基本式。光の伝搬を球
面波の回折現象として数式化した
もの。
*17
3次元物体である被写体がホログ
ラム面から比較的近距離に存在す
る場合の近似式を適用できる領
域。
CGH)*15により,フレネル・キルヒホッフ回折積分*16のフレネル領域*17における近似
式を用いて計算した16)。6図に示すように,被写体は文字「イ」を立方体の直交する2
つの面にそれぞれ貼り付けたものを用いた。ホログラムのサイズを10mm×10mm,画
素数を10K×10K(画素ピッチ1μm)とし,被写体はホログラム面から距離0.5mmだ
け離して配置した。また,参照光は,水平入射角を0°
,仰角を10°
としてホログラムへ
入射し,立体再生像の視域角が36.9°
となるように設計した。
静止画ホログラムの2次元固定パターンの形成は,磁気光学薄膜を微細加工すること
He-Neレーザー
(λ= 632.8nm)
を参照光として用い,
により行った17)18)。光学測定系には,
ホログラムを中心に円弧状に可動するCCDカメラにより再生像を撮影した。像が正対
する角度を0°
と定義し,ホログラム面に対して右側18°
から左側18°
の円弧状の角度範
囲で撮影した立体像を6図に示す。このように,画素ピッチを1μmと狭くすれば視域
角は大きくなり,大きな運動視差を伴う立体像が直接観察できることが分かる。視域角
は,設計値とほぼ等しい値(36°
)が得られ,広視域の立体像が再生可能であることを
確認できた。この結果から,今後,スピンSLMの画素数を,今回の磁気ホログラムの
画素数(10K×10K)と同程度まで多画素化できれば,動画での広視域立体表示が可能
となることが分かる。
4.あとがき
本稿では,将来の電子ホログラフィーへの応用を目指したSLMの研究動向について
紹介した。SLMに求められる性能と各種SLMの特徴について概観するとともに,現在
研究開発を進めているスピン注入磁化反転と磁気光学効果を利用したスピンSLMにつ
いて解説した。現状では,画素ピッチ5μmの2次元アレーからなるAM駆動方式の
TMR型スピンSLMの試作,およびその基本動作の実証段階にあるが,動画で広視域立
体表示を実現するためには,これまでにない超高密度の電子デバイスを開発する必要が
ある。今後は,スピン注入効率の向上による低電流化技術の開発に注力することで,狭
画素ピッチ・超多画素の表示デバイスを早期に開発し,スピンSLMによる立体表示を
実証する予定である。
なお,スピンSLMに関する研究の一部は,
(独)情報通信研究機構からの委託研究「革
新的な三次元映像技術による超臨場感コミュニケーション技術の研究開発」の中で実施
した。
24
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解説
03
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“Three-Dimensional Image Reconstruction with a Wide Viewing-Zone-Angle Using a GMRBased Hologram,”OSA Topical Meeting Digital Holography and 3-D Imaging (DH),
DTh2A.5(2013)
菊池 宏
1984年入局。神戸放送局を経て,
1987年から放送技術研究所にお
いて,液晶材料およびスピントロ
ニクス材料を用いた空間光変調器
とその光応用技術の研究などに従
事。2008年から2010年まで
(独)
情報通信研究機構に出向。現在,
放送技術研究所立体映像研究部上
級研究員。博士(工学)
。
NHK技研 R&D/No.151/2015.5
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