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空き家対策の現状と課題

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空き家対策の現状と課題
特集
人口減少が地域経済、地域社会に与える影響と課題解決への取り組み
01
空き家対策の現状と課題
よねやま ひでたか
富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
米山 秀 隆
1989 年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所を経て、1996 年富士通
総研入社。慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員などを歴任。専門は住宅・土地政策、日本経
済。著書に『空き家急増の真実』
、
『少子高齢化時代の住宅市場』
(いずれも日本経済新聞出版社)ほか多数。
等)
」
、
「その他」の4つの類型がある。このうち特に問題
空き家の現状
となるのは、空き家になったにも関わらず、買い手や借
り手を募集しているわけではなく、そのまま置かれてい
総務省「住宅・土地統計調査(速報)
」によれば、2013
年の空き家数は全国で 820 万戸、空き家率は 13.5%と
後、そのままにしておくケースがこれにあたる。
住まなくても維持管理を行っていれば問題はないが、
過去最高を記録した【図表1】
。
空き家には、
「売却用」
、
「賃貸用」
「二次的住宅(別荘
図表1
る状態の「その他」の空き家である。例えば、親の死亡
放置期間が長引くと倒壊したり、不審者侵入や放火、不
総住宅数、総世帯数、空き家率
(万戸)
(%)
7,000
14
総住宅数(左目盛)
総世帯数(左目盛)
6,000
12
空き家率(右目盛)
5,000
10
4,000
8
3,000
6
2,000
4
1,000
2
0
0
1958
63
68
(出所)総務省「住宅・土地統計調査」
20
Housing Finance 2014 Autumn
73
78
83
88
93
98
03
08
13 (年)
空き家対策の現状と課題
図表2
その他の空き家率(2013年)
(%)
12
10
8
6
4
2
東京
神奈川
埼玉
愛知
沖縄
宮城
千葉
大阪
福岡
静岡
北海道
山形
茨城
兵庫
栃木
京都
滋賀
福島
青森
群馬
岐阜
石川
奈良
富山
佐賀
新潟
福井
広島
岩手
秋田
熊本
長野
大分
山梨
長崎
岡山
宮崎
鳥取
三重
山口
愛媛
島根
香川
徳島
和歌山
高知
鹿児島
0
(出所)総務省「住宅・土地統計調査」
法投棄の危険性が増すなど周囲に悪影響を及ぼす問題空
ついては速やかに撤去していくこと、また、まだ使える
き家となる。空き家全体に占めるその他の空き家の割合
ものについては利活用を促していくことが必要になる。
は、2008 年の 35%から 2013 年には 39%にまで高まっ
前者については、空き家所有者に対し指導、勧告、命
令、行政代執行を行うことができるとする条例を定める
た。
その他の空き家率(その他の空き家/総住宅数)を都
道府県別でみると、過疎化で悩む九州、四国、中国地方
などの県が上位となっている【図表2】
。ただし、この割
自治体が増えている(今年4月1日時点で 355 自治体が
施行済み)
。
空き家管理条例の制定・施行状況には地域差が大きく、
合が低い都市部で問題がないというわけではない。都市
半数以上の自治体が施行している都道府県は、秋田
部では住宅が密集しているため、問題空き家が1軒でも
(92%)
、佐賀(80%)
、山形(71%)
、山口(63%)の4
あると近隣への悪影響が大きいという問題がある。
県である【図表3】
。制定・施行率が高い自治体は、人口
問題空き家となる予備軍が増加している背景には、①
減少で空き家増加が著しい地域や、豪雪で空き家が倒壊
人口減少、②核家族化が進み、親世代の空き家を子ども
の危険にØしている地域、あるいは住宅が密集している
が引き継がない、③売却・賃貸化が望ましいが、質や立
都市部が含まれている。
地面で問題のある物件は市場性が乏しい、④売却・賃貸
一方、施行時期をみると、2012 年度施行が 75 件(全
化できない場合、撤去されるべきだが、更地にすると固
体の 21%)
、2013 年度施行が 145 件(同 41%)
、2014 年
定資産税が上がるため、そのまま放置しておいた方が有
度(4月1日施行)が 59 件(17%)と、最近になって制
利、などがある。
定・施行が急速に広がっていることがわかる。
その先駆けとなったのは、埼玉県所沢市の「所沢市空
空き家の撤去促進策
き家等の適正管理に関する条例」
(2010 年 10 月施行)で
ある。この条例では、所有者に適正管理を義務付けると
ともに、実態調査を行い、所有者に助言・指導、勧告、
(1)
空き家管理条例
空き家対策としては、危険な状態になっているものに
命令できるとしている。改善されない場合は、所有者名
を公表する。
Housing Finance 2014 Autumn
21
特集
図表3
人口減少が地域経済、地域社会に与える影響と課題解決への取り組み
空き家管理条例の都道府県別施行率
(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
山梨
福島
沖縄
岩手
和歌山
京都
徳島
愛媛
愛知
熊本
宮城
静岡
高知
長野
奈良
岡山
宮城
広島
岐阜
東京
神奈川
滋賀
鹿児島
三重
香川
北海道
富山
群馬
島根
石川
兵庫
栃木
青森
茨城
福岡
埼玉
千葉
大阪
鳥取
大分
長崎
福井
新潟
山口
山形
佐賀
秋田
0
(出所)国土交通省・すまいづくりまちづくりセンター連合会「空き家住宅情報地方公共団体等による取り組み事例」により作成
(注)1.全自治体に占める、空き家管理条例施行済みの自治体の割合。2014 年 4 月 1 日時点で施行済みの条例が対象
2.和歌山県の施行済み自治体数は 1 つであるが、県が条例を施行
一方、東京都足立区は、都内で初めての空き家対策の
条例である
「足立区老朽家屋等の適正管理に関する条例」
成できることとした。大仙市では 2013 年度までに、13
軒の代執行を行っている。
(2011 年 11 月施行)を制定した。危険な状態にある建
物があった場合、実態調査を行い、指導、勧告できると
(2)
広がる条例のバリエーション
している。足立区の条例の特徴は、勧告によって建物を
これらの先駆的な条例が一定の効果があるとの認識が
解体する場合、100 万円を上限に費用の9割が助成され
広がった 2012 年度以降、空き家管理条例の制定・施行
るという点にある(2014 年度)
。また、所有者自らが危
が急速に広がっていった。現在では、直面する課題に応
険な状態を解消できない場合には、所有者の同意を得た
じ、様々な規定を設ける条例が登場するに至っている。
うえ、例えば、剥がれかけの外壁を除去するなど、必要
最近、増えているのは、代執行の規定を設ける条例で
最低限度の処置(緊急安全措置)を行うことができると
ある。355 の自治体のうち、代執行の規定を設けている
している。
自治体は 52%であるが、2012 年度以降に施行された条
雪国では、大雪で空き家が倒壊する恐れが強まってい
例に限れば 59%となる。ただ、代執行を行う場合は、最
ることから、雪下ろしの実施を主な目的とした条例が設
終的に費用を回収できなくなるリスクがあり、実際、大
定された。秋田県大仙市の「大仙市空き家等の適正管理
仙市ではこれまで 620 万円の費用が回収できていない。
の関する条例」
(2012 年1月施行)は、実態調査を行い、
代執行にはリスクもあり、実際に発動するのは稀である
危険度が高いと判断された場合には雪下ろしや建物の解
が、代執行もあるとの姿勢を示すことで、空き家が放置
体・撤去の助言、指導、勧告を行うとした。勧告に従わ
されることの抑止力としての効果を期待して、規定する
ない場合は命令を下し、それでも応じない場合は所有者
自治体が増えている。
名を公表する。さらに、代執行も可能にすることを盛り
このほか特徴的な条例としては、所有者不明の事案に
込み、助言などにしたがった場合には、費用の一部を助
積極的に対応する事例がある。代執行は、命令対象者が
22
Housing Finance 2014 Autumn
空き家対策の現状と課題
わからない場合(不確知事案)はお手上げとなるが、山
である。そもそも特例は、居住の用に供する住宅に適用
口県山陽小野田市の条例(2013 年1月施行)では、不確
するとされている。富山市では、2012 年度からそうし
知事案でも、放置することが著しく公益に反する場合に
た状態にある住宅については、
特例を解除している
(2013
は代執行できるとした。また、埼玉県蕨市の条例(2013
年度は 12 軒)
。こうした措置をとれば、特例を受け続け
年4月施行)では、空き家で相続人不存在の場合、市が
たい場合には、改修するインセンティブが与えられる。
相続財産管理人選任の手続きを行えるとした。
あるいは更地と税額が同じになるため解体するか、税金
このほか、所有者の同意なしに緊急対応できる規定を
を払えない場合には売却するかもしれない。しかし解体
設けた例もある。京都市の条例(2014 年4月施行)では、
には費用がかかり、
売ろうにも売れない場合もあるため、
人の生命や財産に影響が及ぶような緊急的な場合、市が
実際には放置されているケースが多いという。
必要最小限の措置を行うことができるとした。費用は後
に請求する。
もう一つの対応は、老朽化して危険な状態になった住
宅は、特例は解除するが、撤去を促すため、一定期間猶
一方、空き家所有者を特定する場合に、登記情報から
予するというものである。この事例としては、新潟県見
たどれなくても固定資産税の課税情報からわかる場合が
附市の事例がある。
「老朽危険家屋」については、特例適
あるが、税情報をその目的以外に使用することは禁じら
用を解除するが、緊急時(屋根が飛散しそうになるなど)
れている。目的外使用を行う場合には、個人情報保護審
に市が行う安全措置に対して同意すれば、解除を2年間
議会の諮問を得る必要があり、実際に札幌市では「市民
猶予する。2年の間での空き家撤去が期待されている
の利益になり適切」との諮問を得て活用した例がある。
(これまでに4軒自主撤去)
。同様の措置は、富山県立山
しかしこうした手続きをとることは煩雑であるため、京
町(猶予期間は2年間)
、福岡県豊前市(猶予期間は 10
都市の条例では、目的外使用できるとの規定を設けた。
年間)でも実施予定(いずれも 2015 年度開始)である。
空き家対策議員連盟は、自主的に撤去した場合、特例
(3)
空 き 家 対 策 法 案 と 固 定 資 産 税 の 取 り扱 い
解除の3年間の猶予を主張したが、固定資産税の軽減措
条例の制定が広がっていることから、法律も整備しな
置となるため、総務省などとの調整がつかなかった。特
ければならないとの認識が高まり、空き家対策議員連盟
例は、現に空き家撤去の障害となっているため、今後の
が議員立法により、空き家対策法案の国会提出を予定し
扱いが注目される。
ている。法案では、条例で盛り込まれている内容、すな
わち、問題空き家(法律では「特定空き家」
)に対し、助
言・指導、勧告、命令、代執行の措置をとるとの規定を
(4)
所 有 者 不 明 の 場 合 の 対 応 と 撤 去 費 補助
空き家対策法案では、所有者がいない場合の対応に踏
盛り込むとともに、
一部の自治体による事例はあったが、
み込んでいない点も問題である。相続放棄がなされるな
一般に条例では規定されてこなかった内容(固定資産税
ど相続人不存在時の手続きとしては、利害関係人か検察
情報の目的外使用、代執行における不確知事案への対応
官が家庭裁判所に申し立てを行い、弁護士や司法書士を
など)も入れている。
相続財産管理人として選定する。この場合、固定資産税
空き家対策法案では、空き家を取り壊し更地にした場
が課税されているため、
自治体が利害関係人となり得る。
合に、固定資産税の住宅用地特例が適用されなくなり、
ただし、申し立て時点に予納金(最大 50 万円程度)が必
固定資産税が3〜6倍にはねあがるため、老朽化して危
要になり、売却しても回収できないケースがある。
険になった場合でも放置される要因になっている問題に
一方、相続放棄した人の管理義務は、相続財産管理人
も踏み込もうとしたが、調整がつかず、明確な形では盛
の選任申し立てをし、家庭裁判所が選定するまでの期間
り込まれなかった。特例の扱いは、これまで自治体では
のみとなる。相続放棄後、すぐに申し立てをする場合を
二つの対応が出ている。
想定しており、相続放棄して長い時間が経った場合の管
一つは、危険な状態で住めなくなっている場合には、
理義務があるかというと、ないと解されており、この間
特例を適用するのはおかしいため、解除するという対応
に危険な状態になった場合の対応に窮することになる。
Housing Finance 2014 Autumn
23
特集
人口減少が地域経済、地域社会に与える影響と課題解決への取り組み
市が相続財産管理人の選定に動けるという点は、前述
くいため、広く補助を行うことで撤去を促している。
のように蕨市が条例に規定しており、同意なしに緊急対
応できるという点は、京都市が条例で規定している。し
空き家の利活用促進策
かし、
いずれも費用を回収できるかどうかは微妙である。
また、空き家対策法案によって、不確知事案でも代執行
ができるようになっても、やはり費用回収は難しい。
(1)
空き家バンクの成功要因
それでもまだ、こうした対応が必要な物件の数が限ら
一方、空き家の利活用促進策は、人口減少で悩む地方
れているうちは、まだ行政による対応が手続き的にも費
の自治体を中心に、早くから空き家バンクの設置を中心
用的にも可能でも、今後、所有者不明の物件が大量に発
に進められてきた。
生した場合に、行政の対応力も限界に達する。所有者不
空き家バンクとは、自治体が空き家の登録を募り、ウ
明の際の迅速な対応手段、また、撤去が必要な場合の国
ェブ上で物件情報を公開するなどして、買い手や借り手
による財政支援が、今後ますます必要になってくる可能
を探すというものである。しかし、成約実績は空き家バ
性が高い。大仙市では、前述のように代執行の費用が回
ンクによって差が大きい。現在でも、開設以来の累計成
収できていないほか、取り壊しのための助成金として
約件数が 10 件未満の空き家バンクが 49%に達する【図
1,400 万円以上も支出しており、その負担はかなり大き
表4】
。空き家バンクを設置したものの、開店休業状態
なものになっている。
のものが多いことを示している。
すべての危険な空き家を公費で解体することは不可能
そうした中で、実績が出ている空き家バンクは、所有
であるため、この問題は最終的には、人口減少下におい
者による自発的な登録を待つだけではなく、不動産業者
て、今後も居住地として存続させるエリアについて、居
や地域の協力員などと連携して、積極的に物件情報を収
住環境を維持するため、危険かつ所有者による自発的な
集しているものである。
「広報誌やホームページ等で登
解体が期待できない空き家について、どれだけ費用を投
録物件を募集」という取り組みについては、累計成約件
入して解体していくかという問題に発展していく可能性
数 50 件以上の空き家バンクと累計成約件数1件以下の
が高い。
空き家バンクでは差はなかった(移住・交流推進機構調
その意味で参考になるのは、長崎市の事例である。長
べ)
。一方、
「地元不動産業者が蓄積している物件情報の
崎市では 2006 年度から公費による空き家撤去を進めて
活用や地元企業・団体との連携」
、
「地域の協力員との連
きた。土地建物を市に寄付し、跡地の利用について地域
携」などの取り組みについては、累計成約件数 50 件以
で話し合い、管理していくことを前提に、問題空き家を
上の空き家バンクの方が取り組み割合が高かった。空き
公費で撤去する仕組みであり、2013 年度までに 41 軒撤
家バンクが成功するためには、
物件情報の収集について、
去した(既成市街地内が対象)
。長崎市の場合、斜面が多
こうした積極的な取り組みが必要になる。
く、限られた平地と斜面に住宅が密集しているため、空
さらに、
空き家バンクを見て問い合わせがあった場合、
き家跡地の公的利用は、居住環境改善という点で重要で
物件案内はもちろんのこと、生活面や仕事面など様々な
ある。所有者のためでなく、地域のために公費撤去する
相談にも応じたり、先に移住した人と引き合わせたりす
という考え方に基づいている。
るなどきめ細かな対応が必要になる。こうした対応は、
また、
最近では撤去費を補助する自治体も増えている。
毎日新聞社が今年4月1日時点で空き家管理条例を施行
自治体職員だけでは対応しきれないため、NPO や地元
の協力員、先に移住した人などとの連携が必要になる。
している 355 の自治体にアンケート調査を行ったとこ
ろ、撤去費を補助している回答した自治体は 96 自治体
(2)
空き家の売却・賃貸化のネック
に達し、補助実績が最も多い自治体は広島県呉市で 262
空き家を売却・賃貸化する場合に、空き家の所有者に
件、総額 7,000 万円だった(補助は上限 30 万円で費用
とっては、何が問題となるのだろうか。親の世代が亡く
の3割まで)
。呉市は斜面が多く、空き家が撤去されに
なって空き家となったケースがその典型であるが、しば
24
Housing Finance 2014 Autumn
空き家対策の現状と課題
図表4
空き家バンクの成約件数(開設以来の累計)
14.4
0件
26.9
34.8
1 ∼10件未満
10∼20件未満
9.8
39.2
16.8
6.1
20∼30件未満
2.9
4.0
1.2
2.4
0.4
1.1
0.4
0.8
30∼40件未満
40∼50件未満
50∼60件未満
60∼70件未満
70∼80件未満
1.1
80∼90件未満
0.8
0.4
90∼100件未満
0.8
2014年 1 月
2009年 8 月
1.3
100件以上
10.2
11.0
不明
5.3
無回答
0
7.8
10
20
30
40
50 (%)
(出所)地域活化性センター「『空き家バンク』を活用した移住・交流促進調査研究報告書」2010 年3月
移住・交流推進機構「『空き家バンク』を活用した移住・交流促進 自治体調査報告書」2014 年3月
しば指摘されるのは、帰省した時の滞在・宿泊先や、従
①は、自治体が改修費などの補助を行うことでクリア
前から置いてあった仏壇や家財道具の置き場所として引
でき、②は定期借家を活用することでクリアできる。③
き続き利用している所有者が多いという点である。仏壇
は自治体で対応することは困難であり、所有者自身によ
や家財道具の処分には、手間がかかる上、心理的にもな
って解決してもらうしかないが、所有者にも金銭的補助
かなか踏み切れない場合が多く、そのため空き家として
を与えることで、売却・賃貸化に向けて仏壇などを片付
放置される期間が長くなりがちである。
けるインセンティブを高めるという方法も考えられる。
また、賃貸に踏み切らない理由としては、いったん賃
貸すると、返還を求めることが困難であると考えている
以下では、空き家利活用促進のための各種インセンテ
ィブ施策の事例をみていく。
所有者も多い。確かに普通借家契約の場合はそうした恐
れがあるが(いったん結んだ賃貸契約は更新が原則で、
(3)
改修費・家賃補助
正当事由がない限り、オーナー側から退去を申し入れる
空き家バンクに登録された物件を、購入したり借りた
ことはできない)
、現在は期限を区切って貸す定期借家
りする場合に、改修費を補助する事例は多くある。予算
の制度(原則、更新しないが、双方の希望があれば再契
により数は限定されるが、改修費の半分を最大 100 万円
約可能。2001 年に導入)もあるため、こうした制度があ
などの条件で補助する形がその典型的なものである。
まり知られていないことにも問題がある。
家賃補助の事例としては、大分市の事例がある。大分
過疎地で空き家の増加に悩む島根県江津市において、
市では、高度成長期に造成された郊外の一戸建ての団地
空き家所有者に空き家を貸し出すための条件を聞いたと
(富士見が丘団地)が高齢化して、空き家が増えているこ
ころ、①空き家の修繕費用を入居者が負担、②賃貸期間
とに対応するため、同団地に子育て世帯(18 歳未満の構
を5〜10 年に限定する場合、③仏壇や位の安置場所
成員がいる世帯)が住む場合、家賃の3分の2(最大4
が確保された場合をあげる所有者が多かった。
万円)を補助する仕組みを 2011 年度に設けた。これに
Housing Finance 2014 Autumn
25
特集
人口減少が地域経済、地域社会に与える影響と課題解決への取り組み
より7世帯が入居し、子どもも生まれた。また大分市で
ためには手間と費用がかかる。自治体にとっては限られ
は、これに続く施策として 2013 年度に、同市の空き家
た人員と予算を、どのような形で投入していくかが重要
バンクで中古住宅や空き地を購入した子育て世帯につい
になる。その意味で、空き家を活用した起業を促すなど
て、固定資産税相当額(土地分)を3年間補助する仕組
施策のターゲットをしぼり、空き家活用と地域活性化を
みを設けた。郊外型団地の空き家増加に悩む自治体は多
同時に進めようとする竹田市の事例は参考になる。
いため、注目される事例である。
(4)
まちづくりとの連動
移住促進策と空き家所有へのインセンテ
ィブ
一方、過疎地域では、移住者の呼び込みに熱心に取り
(1)
コンパクトシティ政策の必要性
組んでいる。大分県竹田市は、75 歳以上の住民の割合
以上、空き家の活用事例をみてきたが、空き家の活用
が 25.2%で全国1位(2010 年)となるなど、高齢化と人
を今後さらに進めていくにあたって考慮しなければなら
口減少が深刻で、2009 年に「農村回帰宣言市」を提唱し、
ない問題として、都市規模をコンパクト化、すなわち市
農村回帰支援センターの設置(移住者へのワンストップ
街地を縮減していかなければならないという問題があ
サービス)
、改修費の補助(最大 100 万円)
、お試し暮ら
る。とりわけ地方都市はこの問題が深刻である。
し助成金(最大 6,000 円)
、集落支援員の配置(旧来の住
地方都市における人口減少は著しく、県庁所在地(政
民との橋渡し)等の移住促進策に取り組んできた。この
令市、三大都市圏を除く)の人口はピークが 2005 年の
中で特徴的な施策が、地域の伝統工芸である竹工芸・紙
1,007 万人であったが、2010 年から 2040 年にかけては
すき・陶芸などの分野で、空き家・空き店舗を活用して
1,006 万人から 838 万人と 17%減少する。より小さい
起業する場合の補助制度(最大 100 万円)である。
10 万人クラスの都市(人口5〜10 万人)の人口はピー
移住者を募る場合にネックになるのが職の確保である
クが 2000 年の 2,084 万人であったが、2010 年から
が、竹田市の仕組みは、地域の伝統工芸の分野で、既に
2040 年にかけては 2,031 万人から 1,584 万人と 22%減
手に職のある人にターゲットをしぼって移住してもらう
少する(国土交通省(2013)
)
。地方都市は早くから人口
ことにより、この問題を解決しようというものである。
減少が進んでおり、今後の減少も著しい。
すなわち、職は用意できないので、最初から手に職を持
一方、地方都市では、これまで市街地が外延部に拡大
った人に来てもらおうという発想に立つ施策である。
してきたが、今後は人口が急速に進むため、市街地の空
2013 年度までに9件の補助を実施し、このほか、空き家
洞化が進んでいく。県庁所在地(政令市、三大都市圏を
バンクを活用した移住者は 2013 年度までに 80 世帯、
除く)の1都市あたりの人口は、1970 年から 2010 年に
153 人に達している。
かけて2割増加する一方、DID 面積(都市の中心部の人
また、竹田市では、移住者に提供する空き家の物件登
口集中地区の面積)は同じ期間で倍増した。今後につい
録を増やすため、売却または貸し出した場合、成約時に
ては、1都市あたりの人口は 2010 年から 2040 年にか
10 万円を支給するという、空き家所有者へのインセン
けて大幅に減少し、1970 年の水準に近づいていく(国土
ティブも創設した。これにより、空き家バンクへの登録
交通省(2013)
)
。この時、DID 面積が現状のままでは、
が増加する効果がみられたという。先に、空き家所有者
市街地の人口密度が低下して空き地、空き家が増えるな
が物件を出し渋る要因として、仏壇などの存在があるこ
ど、著しく空洞化が進むことになる。
とを指摘したが、これを自治体自らが処理することは困
コンパクトシティ政策とは、人口が本格的な減少局面
難であるものの、その代わり、このようなインセンティ
に入る中、成長期に外延部に拡散した市街地を縮小し、
ブを設けることで、売却、賃貸化に踏み切る決断の後押
中心市街地に居住を誘導することによって、住みやすい
しをすることは可能と考えられる。
まちづくりを行っていこうとするものである。都市機能
以上述べてきたように、空き家の利活用を図っていく
26
Housing Finance 2014 Autumn
がコンパクトに集約されれば、高齢化が進む中、高齢者
空き家対策の現状と課題
にとっては歩いて暮らせる利便性の高いまちとなる。一
ぎないが、固定資産税・都市計画税では 22.2%を占めて
方、自治体にとってコンパクトシティ化を図らざるを得
おり、中心部に投資しその価値を維持する必要性がある
ない事情としては、財政状況がますます厳しくなる中、
との強い問題意識から、こうした施策を進めてきた。
すべての地域のインフラを維持・更新していくのは困難
になりつつあるという事情もある。
富山市の施策は、再開発や住宅新築を含め、中心市街
地への投資を促すことを重視しており、必ずしも中心市
今後、都市をコンパクト化していくという前提で考え
街地の空き家の活用を強く促す施策ではないが、中心市
ると、空き家の中でも利活用できるものは、自ずと選別
街地に人が集まるようになれば、空き家や空き店舗の活
されていかざるを得ない。すなわち、集約された市街地
用につながっていくことになる。
の中に存在する空き家の利活用は積極的に進めていく必
要があり、またそうした地域に問題空き家が存在する場
今後の課題
合には、居住環境の維持のため除却を進めていく必要が
ある。その一方、そうした市街地からはずれる地域にお
いては、空き家の利活用や除却の優先度は低くならざる
本稿では、空き家撤去促進策と空き家利活用促進策の
を得ない。今後を展望すると、2050 年には現在居住し
最新動向についてみてきた。問題空き家の除却について
ている地域のうち2割が無居住地域になるとの予測があ
は、空き家管理条例の制定が進み、空き家対策法案も制
り(国土審議会(2011)
、国土交通省(2014)
)
、つまりは
定される見込みとなっており、今後も所有者による自主
そうした無居住地域においては、空き家の利活用はもち
的撤去を促すのが基本となる。しかし、近い将来、所有
ろん、わざわざお金をかけて除却を進めていくという必
者不明の空き家が急増していくことが予想されるため、
要性も乏しいということになっていかざるを得ない。
そうした物件を迅速に撤去し得る法的手段を整備してい
く必要がある。この問題は最終的には、人口減少下で今
(2)
コンパクトシティ政策の事例
後も居住地として存続させるエリアについて、居住環境
コンパクトシティの成功事例としてしばしば紹介され
を維持するために、危険かつ所有者による自発的な解体
るのは富山市である。富山市は、2007 年に「第1期中心
が期待できない空き家について、どれだけ費用を投入し
市街地活性化基本計画」を策定し、国から認定中心市街
て解体していくかという問題に発展していく可能性が高
地の第1号認定を受け、その後 2012 年に「第2期計画」
い。
を策定し、中心市街地の活性化を図ってきた。公設民営
利活用促進についても、今後のコンパクトシティ化の
で LRT(新型路面電車)を導入するなどして交通の利便
必要性を考慮すれば、すべての空き家を活かすことは不
性を高めたほか、商業・住宅の複合施設やイベント広場
可能で、利活用できるエリアは自ずと絞られていくこと
を整備するなどの市街地再開発も推進した。
になる。利活用のための財政支援は、そうしたエリアに
また、まちなか居住を推進するために、①「まちなか
重点的に投じていくことで居住者を呼び込んだり、空き
住宅・居住環境指針」に適合した共同住宅を建設した事
家を活用した起業を促すなど地域活性化と同時に進めて
業者に対し、1戸に対し 100 万円(上限)の補助、②住
いくことが効果的と考えられる。
宅購入者に対し、1戸につき 50 万円(上限)の補助、③
まちなかの一定の条件を満たした賃貸住宅に住む場合、
最長3年間、月額1万円(上限)の補助、などの施策を
講じた。こうした結果、中心部では5年連続で転入超過
になるなどの成果も出始めている。
こうした施策は露骨な中心市街地の優遇で、周辺部か
ら不満の声があがりやすくなることも事実である。しか
〈参考文献〉
国土交通省(2013)
「国土交通省におけるコンパクトシティの
取り組みについて」8月
国土交通省(2014)
「新たな『国家のグランドデザイン』骨子」
3月
国土審議会政策部会長期展望委員会(2011)
「
『国土の長期展
望』中間とりまとめ」2月
し富山市では、中心市街地の面積は市全体の 0.4%に過
Housing Finance 2014 Autumn
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