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日本比較法研究所

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日本比較法研究所
日本比較法研究所
1.理念・目的
【現状の説明】
日本比較法研究所の創設は、1948 年 12 月1日、当時の財団法人(のちの学校法人)中
央大学が杉山直治郎を所長に委嘱する辞令を発したときに遡る。本研究所が、中央大学の
設置したものであるにもかかわらず、日本比較法研究所という名称を有するのは、一大学
の独占的施設ではなく、
「日本の、東洋の、ひいては世界の」共同施設として、比較法学の
進歩に寄与する研究所たらんとする理念を表していたからである。
1963 年、「日本比較法研究所規則」の改正後も、世界法の樹立という創設時からの理念
を受け継ぎ、世界の著名な研究所とともにその理念の実現を目指す東洋における比較法研
究のセンターとしての性格を維持したのである。現行の同規則では、
「本所は、比較法学の
組織的研究を通じて人類連帯社会の完成に貢献することを目的とする」
(第2条)と定めた
うえで、本研究所の事業を次のように列挙している(第3条)。
1. 比較法学の研究及び調査
2. 内外主要施設との連絡
3. 法学者の国際交流に伴う事業
4. 比較法資料の蒐集、整備ならびに保管
5. 研究会、講演会等の開催、その他研究及び調査の成果の発表
6. 比較法専門家の養成
7. 研究及び調査の受託
8. 以上のほか本所の目的達成上必要と認める事業
ここに列挙された事業(特に、1∼6)は、比較法研究所を名乗る以上、当然になすべき
事柄であって、どれも欠くことのできないものばかりである。研究所は、これらを、研究
連絡部、国際協力部、資料部および雑誌部の4部体制で遂行しており、これらの事業目的
は4部の活動を通して実現されているといえよう。
【点検・評価】
日本比較法研究所は、その創設以来、すでに 50 年以上経過したが、その理念・目的は、
学問の研究と教育を通して世界の平和と人類の福祉に貢献することを目指す、日本国憲法
や教育基本法と共通するものであって、この理念・目的自体が古びてしまうことはあり得
ない。それどころか、グローバル化やボーダーレス化が叫ばれる現在においてこそ、なお
一層の充実・発展が望まれるところである。とするならば、点検・評価の基準も、研究所
の創設以来の理念・目的を再点検することにあるのではなく、理念・目的がどの程度実現
できているかということでなければならない。
【長所と問題点】
そのような観点からすると、研究所の活動は、おおむねよくやっていると評価できよう。
所員の研究活動は、個人による研究はもちろん、30 前後の共同研究グループが、多彩な活
動を行っている。その成果は、
『研究叢書』、
『翻訳叢書』、
『資料叢書』として刊行されるほ
か、年4回発行の『比較法雑誌』に掲載される。海外の研究機関との交流も活発で、交流
694 第4章 研究所
協定のある大学との相互派遣だけではなく、毎年かなりの数の研究者が研究所を訪問し、
セミナーや講演会を行っている。研究所は 10 年ごとに記念論文集を刊行しているが、40
周年、50 周年の論文集への外国からの寄稿者数が所員を上回っていることをみても、研究
所の国際的な知名度が上昇していることがうかがわれる。国内においても、出版活動はも
とより、シンポジウムや講演会の開催により、広く社会に研究成果を還元しているといえ
るだろう。こうしてみれば、十分であるかどうかには異論もあろうが、研究所の理念・目
的を相当程度達成していると評価することができよう。
とはいえ、問題点もあるのは当然である。従来の活動に欠けているもの、あるいは一層
充実・深化させるべきものとして、次の諸点が指摘されている。
①所員が、学部、大学院、通信教育課程などと兼務しているため、研究時間が大きく制約
されているという指摘は、ずっと以前から繰り返されてきたが、予算をともなう抜本的な
改正が必要であるため、全く手つかずのまま残されている。研究時間は、研究者が個人と
しての時間を犠牲にすることで、かろうじて確保されているといえよう。
②また、研究活動が多彩であるとはいっても、それは研究テーマが所員個人の選択に委ね
られているからであって、これまで、研究所全体としての組織的研究は、必ずしも十分で
はなかった。
③さらに、国際交流については、派遣と比較すると、外国人研究者の受け入れが圧倒的で
あり、交流が片面的であるとの指摘があったが、これも、これまでの研究が外国法の吸収
に偏り、日本の法制度・法文化を外国に紹介するという点で不十分であるという点は首肯
しなければならない(ただし、これは、本研究所だけではなく、日本の比較法研究全般に
あてはまる傾向である)。
【将来の改善・改革に向けた方策】
これらの問題点のうち、①については、本研究所だけで解決は難しいが、一つの可能性
としては、研究基金(誌友)制度による資金を有効活用し、専従研究所員制度を設けるこ
とが考えられる。②③については、現在進行中の日本法紹介事業が注目される。日本法紹
介プロジェクトは、本研究所がはるか以前から計画しながら実現をみてこなかった。しか
しながら、例えば後述する「日本の法文化と法システム」プロジェクトは、すでに準備期
間を過ぎて実現に向けて着々と進行中であるが、研究所総体による組織的研究で、かつ発
信型の比較法研究を目指しており、従来の問題点②③を克服するものとして、その成果が
期待されるところである。
695
2.研究組織
【現状の説明】
(1)組織
研究所員会(57)
商議員会 (11)
(9)研究基金委員会
所
長
事務室長
情報環境委員会 (5)
常任幹事会 (5)
研究連絡部
国際協力部
(16)
(12)
資料部
雑誌部
(20)
個人研究
日本法紹介事業
(9)
〔2グループ〕
編集委員会 (9)
共同研究
シンポ企画
事務室
研究連絡部担当
国際協力部担当
専任職員4名、嘱託職員1名
①
資料部担当
雑誌部担当
*人数は 2001 年度4月現在
部会
本研究所の研究活動に携わる各機関のうち、とりわけ研究所事業の実施機関として、研
究連絡部・国際協力部・資料部・雑誌部の4部が置かれている。各部会は、担当常任幹事
のもとで活動しており、所員(57 名)はいずれかの部会に所属しなければならないものと
されている。各部会の担当業務は、以下のとおりである。
すなわち、研究連絡部(16 名)は、研究所員が個人、または共同研究グループを組織し
て行う研究活動を支援し、その成果は『研究叢書』、『翻訳叢書』および『資料叢書』とし
て刊行されている。国際協力部(12 名)は、所員を国外の大学その他の機関に派遣し、長
期または短期の訪問研究者を受け入れるなどの人事交流を計画・実施する。資料部(20 名)
は、法令集・判例集をはじめ、研究上必要な資料を選定・購入する。そして雑誌部(9名)
は、研究所の機関誌である『比較法雑誌』を、年4回、定期的に発行し、所員に研究成果
の発表の場を提供している。
これらの各業務を具体化し、実施するにあたって、事務室の担当職員によるサポート体
制が整えられている。
696 第4章 研究所
②
共同研究グループ
現在置かれている共同研究グループとその研究テーマおよび代表者等については、
「資料
編(1)」を参照のこと。
③
日本法紹介事業
本研究所の研究事業として、日本法紹介事業を実施するため2つの研究プロジェクトが
編成され、2001 年度から活動を開始している。この点の詳細は後記「3−(1)研究活動」
を参照のこと。
(2)構成員
①
名誉所長
名誉所長は、過去に所長であった者の中から、研究所員会が推薦し、理事会の承認を経
て総長が委嘱する(同規則 12 条)。現在、名誉所長は置かれていない。
②
顧問
顧問は、比較法学に関係のある内外の権威者の中から、研究所員会の議を経て、総長が
委嘱する(同規則 13 条)。現在、外国人研究者1名が顧問になっている。
③
名誉研究所員
名誉研究所員は、過去に所員であった者の中から、研究所員会の議を経て、所長が委嘱
する(同規則 14 条)。名誉研究所員は 15 名である。
④
研究所員
研究所員は、比較法学ならびにこれと密接な関連のある研究に従事する本学の教授・助
教授・専任講師または助手でなければならない(同規則7条)。所員数は 57 名である。
⑤
助手
研究所員の研究および調査を補佐するために助手が置かれる(同規則 10 条1・2項)。
現在、助手は置かれていない。
⑥
客員研究所員
客員研究所員は、研究所員と同等もしくはそれ以上の研究歴または研究能力を持つ者が
嘱任される(同規則9条2項)。客員研究所員は、研究所員会における出席・発言権を有し
ている(同4項)。客員研究所員は 20 名である。
⑦
嘱託研究所員
嘱託研究所員も、研究および調査に参加することができる(同規則 11 条)
。嘱託研究所
員は 181 名である。
⑧
その他
共同研究グループには、以上の他、所員以外の本学専任教員 12 名が特別参加している。
また、これと並んで 60 名の本学大学院学生が参加している。
【点検・評価
長所と問題点】
前記のとおり、研究所員は、比較法学ならびにこれと密接な関連のある研究に従事する
本学の教員とされており、法学部所属の教員に限定されていない。それゆえ、比較法研究
に携わる教員であれば、所属学部に限定されず、所員として研究所の組織に参加すること
ができる。現在も、法学部以外の学部に所属する教員5名が研究所員として研究・調査活
動を行っている。このことによって幅広い研究活動が展開されている。
客員研究所員は、研究所員会に出席し意見を述べることができることから、本学以外の
697
所属メンバーからの直接的意見を研究所の運営および活動に反映することが可能とされて
いる。なお、客員研究所員として「研究所員と同等もしくはそれ以上の研究歴または研究
能力を持つ者」であることが求められている。一方、同様に研究活動に携わる者として嘱
任される嘱託研究所員については、前記のような要件は設けられていない。したがって、
同等のキャリアがあると思われる研究者であっても、客員研究所員となる者と嘱託研究所
員となる者とがあるが、研究活動の面で区別はない。
各共同研究グループの所員以外のメンバーとして、前記客員研究所員のほか、本学教員、
嘱託研究所員および本学の大学院学生が参加している。共同研究グループの員数は特に制
限されていない。また、大学院学生についても、博士課程後期の者に限定している訳でも
ない。この点、博士課程後期の者に限定して共同研究参加を認める方法もあるが、本研究
所は、共同研究活動を通じて広く研究の場を提供しようとするとともに、研究所と大学院
との連携を図ることを考慮し、そのような限定をしていない。これらのことから各グルー
プの設定したテーマに応じて、多様なグループ構成が可能とされている。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所専任助手ないし専任研究員制度の可能性は、従来からも常任幹事会その他におい
て議論されてきた経緯がある。今後もその可能性について継続的に考慮すべきである。
研究所の研究活動がさらに発展することと相応して、それをサポートする事務室体制の
整備、とりわけ職員の増員を検討すべきである。
共同研究グループへの助成は、現在は資料購入に限定されているが、この使用範囲の拡
大を実現すべきである。
3.研究活動と研究体制の整備
3−(1)研究活動
【現状の説明】
1)研究活動への取り組み
本研究所所員は、『比較法雑誌』や『研究叢書』等に各自の研究成果を公表してきた。
この個人研究とならんで、共同研究も積極的に推進されている。現在、「資料編(1)」
のように 31 の共同研究が行われている。
これらの共同研究とは別に、現在、2つの日本法紹介事業が進行している。1 つは、本
研究所自体が企画する「日本の法文化と法システム」プロジェクトである。このプロジ
ェクトは、西洋・非西洋地域を名宛人に、日本法全般についての機能的・法文化的比較
研究を行うという「発信型」の比較法学の試みである。同プロジェクトは、2002 年4月
に「日本の法文化」と題するシンポジウムを日本比較法研究所第4回シンポジウムとして
開き、最終的に“Japanese Legal System and Legal Culture: Cases, Materials and Text”
と題する英文の書物を刊行する予定である。同プロジェクトの代表は木下毅所長、参加
所員は約 30 名である。
もう 1 つの事業は、
「『日本法大全』
(仮称)の編纂」プロジェクトである。これは本大
学の協定校である中国政法大学比較法研究所の研究者との国際共同研究であり、現行日
本法の大系を法史学・比較法学・解釈法学の見地から俯瞰する概説書を編纂し、最終的
には、中国でこの書の中国語版を刊行することを目指している。なお、中国文原稿が完
698 第4章 研究所
成した段階で国際交流基金に出版助成を申請する予定である。同プロジェクトの代表は
眞田芳憲所員、参加所員は6名である。
2)刊行物(資料編(2)(3)(4)参照)
研究所の活動を広く公表するとともに、所員の研究を発表する場として重要なのが、研
究所の機関誌『比較法雑誌』である。『比較法雑誌』は、1951 年に創刊されたものである
が、現在は年4回定期に発行され、現在、第 34 巻4号(通巻 115 号)までが刊行されてい
る。
所員の個人または共同研究の成果を発表するものとして重要なのが、研究所の叢書であ
る。2000 年度までに、
『研究叢書』54 冊、
『翻訳叢書』43 冊、
『資料叢書』7冊が刊行され
ており、学術的な出版が次第に困難になりつつある昨今、これらの叢書はきわめて貴重な
活動となっている。
研究所は、設立爾来 10 年ごとに記念論文集を刊行してきた。最近の2巻だけをあげると、
1990 年に 40 周年記念論文集“Conflict and Integration : Comparative Law in the World
Today”を、1998 年に 50 周年記念論文集“Toward Comparative Law in the 21st Century”
を刊行した。前者は全 48 論文(外国からの寄稿 38 論文)、後者は全 77 論文(外国からの
寄稿 53 論文)を収録した大冊である。
そのほかにも、後述の本研究所主催シンポジウムが『研究叢書』(『比較法の方法と今日
的課題』および『国際社会における法の普遍性と固有性』
)や『比較法雑誌』
(第 30 巻臨時
増刊号『悪質商法など消費者被害をめぐる法的諸問題』)として、また、50 周年記念講演
会の記録は、
『多文化世界における比較法』として刊行された。なお、50 周年を記念して、
研究所の歴史を全体として記述・点検する『日本比較法研究所 50 年史』
が刊行されている。
最後に、研究基金を寄付した誌友に対する広報誌として、
『News Letter ひかくほう』が
年2回発行されている。これは、誌友にとってのみならず、広く社会一般にも、本研究所
の活動に関する手軽で貴重な情報源となっている。
3)講演会、研究会、シンポジウム
本研究所は、毎年、数々の講演会、研究会、シンポジウムを通じて研究成果を発表して
きた。このうち講演会は、おもに外国人(訪問)研究者を講師に迎え、2000 年度は計 14
回開催された。最近5年間の講師と講演内容は、「資料編(5)」のとおりである。
研究会は、各共同研究チームにより自主的に開催されている。講演や研究会と比べて、
より規模の大きい発表形態であるシンポジウムには、以下のものがある。
①
日本比較法研究所シンポジウム
1989 年に本研究所創立 40 周年を記念し、中大法曹会の協力を得て開始された本研究所
主催のシンポジウムである。開催数は今日まで計3回(第1回「比較法の方法と今日的課
題」、第2回「国際社会における法の普遍性と固有性」1993 年、第3回「悪質商法をめぐ
る諸問題」1996 年)。前述のように、2002 年には「日本の法文化」と題する第4回シンポ
ジウムが予定されている。なお、1998 年には、協定校のエクス・マルセイユ第Ⅲ大学(フ
ランス)との国際交流 20 周年を記念して、同大学研究者と本所員による国際シンポジウム
「今日の家族をめぐる日仏の法的諸問題」が開かれた。これらの成果は、
『研究叢書』また
は『比較法雑誌』臨時増刊号として刊行されている。
②
共同研究プロジェクト・シンポジウム
699
「日米欧の競争法のハーモナイゼイション」(1993-1997 年)、「女性の権利」(1994 年)、
「日本と韓国の法制度の比較法的研究」
(1994-1997 年)
、
「標識保護法の国際調和に関する
研究」
(1994 年)、
「日本近現代における法の役割 ―法の継受と受容 ―」
(1994 年)などがあ
る。これらの成果は、叢書または報告書にまとめられている。
③
中央大学学術シンポジウム
学内での学際的研究を促進することを目的に 1980 年から各研究所持ち回りで開催され
てきた。本研究所はこれに積極的に参加してきており、これまで 18 回開かれたもののうち、
4回を担当している(第2回「現代の環境問題」1981 年、第6回「中央大学第2世紀の教
育と研究」1985 年、第 11 回「国際文化摩擦 ―日本の社会と法文化の特色をめぐって」1990
年、第 18 回「現代社会における倫理の諸相」2000 年)。これらの成果は、報告書にまとめ
られ、第 16 回からは『学術シンポジウム叢書』として刊行されるようになった。
【点検・評価
長所と問題点】
個人および共同研究チームによる多様な研究の遂行とその成果の着実な公表は、本研究
所の長年にわたる活発な研究活動をまさに証するものとして、大いに評価されよう。特に
刊行物についていえば、一般に刊行物は「質」と「量」の見地から評価することができる。
「質」の評価は、本来、第三者の手に委ねるべきかもしれないが、本研究所にとって学術
出版が重要な意義を有していることは疑いない。これまで本研究所において、研究成果の
刊行が予算上の理由で抑制されたことは一度もないことからも、それはうかがえる。「量」
についても本研究所の刊行物はかなりの数に達しているといえる。本研究所がその理念の
とおり、一大学のみならず世界に開かれた法学研究の場であり続けるには、このような旺
盛な研究活動を、今後とも継続していかなければならない。
けれども、本研究所の研究活動にまったく問題がないわけではない。例えばすべての共
同研究チームが活発な研究をしているとはいえない。研究基金制度による助成を受けた共
同研究チームの中には、研究年度終了後の研究成果公表が遅れているものがある。また、
『比較法雑誌』の論文原稿の提出が期日から大幅に遅れることは少なくなったものの、締
め切りから刊行までの期間をさらに短縮することが望まれる。叢書については、研究成果
の発表に叢書を利用する所員と、研究テーマに多少の偏りが生じており、さまざまな専門
分野を持つ多くの所員がバランスよくこれを用いているとはいいがたい。シンポジウムの
なかには、所員の参加意識が希薄なため、結果的に一部の所員や研究所の負担が過重にな
るものも見受けられる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
本研究所は、その発足以来、常に研究活動を活発化し、できるだけ早く研究成果を公表
できるようにする方針をとってきた。この努力により、本研究所の活動は相当の成果を収
め今日にいたっている。他方、所員の持てる力が十分に発揮されてきたか、また、所員を
中心とする研究活動が遺憾なく遂行されてきたか、という観点からは、上述のように、改
善されるべき点がないとはいえない。さらに、短期的な研究活動の活発化だけでなく、長
期的な研究活動の活発化を図ることにも、十分な考慮が払われなければならない。
本研究所の研究活動が充実したものとなるためには、当然、所員一人ひとりの研究活動
が充実していなければならない。だからといって、前者がもっぱら後者次第だというわけ
ではない。研究所の研究活動の充実に向けての研究所自体の組織的取り組みも、同様に重
700 第4章 研究所
要である。そのような取り組みとして、例えば、研究上の諸問題に関する所員同士の自由
な意見交換・批判や、研究テーマに関心を持つ所員間の相互協力を確保することがあげら
れよう。また、種々のシンポジウムが重要かつ有益な成果を収めてきたことは確かである
が、その開催方法や準備過程に一層の工夫を施し、より充実したものとすることが求めら
れよう。
他方、このような研究活動の活発化こそが出版活動の活発化の基礎である。したがって、
本研究所の出版活動には予算上の制約を極力課さないことが望ましい。
所員主体の共同研究を活発化し、その内容を高度化し、ひいては研究所全体としての組
織的研究を発展・充実させていくことが、本研究所の今後の課題にほかならない。
3−(2)研究体制の整備
人的整備については「2.研究組織、7.管理運営、9.事務組織」を参照。
物的整備については「4.施設・設備等」を参照。
情報環境の整備については「5.図書等の資料、学術情報」を参照。
財政的整備については、「8.財政」を参照。
3−(3)国内外における研究者・研究機関交流
【現状の説明】
本研究所は、その性格上、外国の研究者・研究機関との交流を活発に実施してきた。
外国人研究者の受け入れとしては、第1群(交流協定校)の外国人研究者(滞在費支給)
として年間2人、第2群(それ以外の研究機関)の外国人研究者(滞在費支給)として年
間4名、第3群の外国人研究者(滞在費支給なし)として年間2∼4名を受け入れている。
(資料編(6)参照)また、1日限りの外国人訪問研究者として年間 10 名程度を受け入れ
ている。これらの外国人研究者による講演会・セミナーの回数は、年間 20 回前後に上る。
なお、協定校への派遣については学部の担当であるが、実質的には当研究所も協力し、年
間2名程度を派遣している。
大学として研究交流の全学協定を結んでいる大学は数多いが、研究所として定期的に研
究者の受け入れまたは派遣を実施してきたのは、エクス・マルセイユ第Ⅲ大学(フランス)
チュレーン大学ロースクール(アメリカ合衆国)、ミュンスター大学(ドイツ)、オースト
ラリア国立大学の4校である。エクス・マルセイユ第Ⅲ大学とは、交流 20 周年を記念する
シンポジウム等を 1998 年に開催した。そのほか、テュービンゲン大学(ドイツ)
、高麗大
学校法科大学(韓国)などとも、非定期的に研究交流を実施してきた。
さらに、韓国法務部とは検事の研修受け入れおよび資料交換、スイス比較法研究所およ
び中国社会科学院法学研究所とは資料交換などの協定を結んでいる。
また、研究所内の共同研究グループが、非定期に、国際共同研究を企画して、国際シン
ポジウム等を実施することがある。
【点検・評価
長所と問題点】
外国人研究者の受け入れ等による交流は、本研究所の所員および研究者の卵としての大
学院学生の研究発展に大きな役割を果たしている。欲を言えば、外国人研究者と同一の研
究分野の所員しかセミナーに参加しない傾向があるが、これをいかにして他分野の所員・
701
大学院学生に拡大するかが1つの課題であろう(学際的研究交流の必要性)。
4校の協定校とはおおむね着実に研究交流が実施されてきた。アメリカの大学について
見ると、組織的な違い等に起因する被派遣者の負担の重さも指摘されているが、真に活発
な国際交流の発展のために、十分な力量を備えた人材の確保・養成が必要であろう。
協定校以外からの受け入れ(第2群)は、各所員の申請に基づいて実施しているところ
であるが、事実上の人数枠(4名)を超える申請が出て調整が必要となる場合が多い。
なお、定期的な交流を実施している大学はいずれも西洋法文化圏の大学であるが、第2
群では非西洋法文化圏からも相当多く受け入れているので、この点のアンバランスは見か
けほどではないといえよう。
【将来の改善・改革に向けた方策】
前述のような人数調整を必要とする事態がしばしば発生するので、2群の受け入れ枠に
ついては、予算の増額による拡大が望ましい。
なお、この種の外国人研究者の滞在費は4週間を単位としつつ日割り計算方式を採用し
ているが、2週間までは共通の定額とし、それ以降は日数に応じて加算する方法なども検
討する余地があろう。
また、他の一流私大とのバランスからみて、滞在費の増額も検討が必要であろう。
4.施設・設備等
【現状の説明】
本研究所は専有施設として、2号館4階に所長室(38.88 ㎡)、事務室(97.20 ㎡)
、会議
室(85.46 ㎡)、倉庫2ヵ所(19.44 ㎡、41.40 ㎡)、共同雑誌室(本研究所分:107.57 ㎡)、
2号館3階に、共同書庫(本研究所分:369.36 ㎡)
、カナダ法書庫(専用:97.20 ㎡)を有
している。
また、設備としては、パソコン7台、プリンター2台、スキャナ1台、ファックスコピ
ー複合機1台、コピー専用機1台を所有している。
【点検・評価
長所と問題点】
所長室、事務室、会議室、倉庫などについては、本研究所に相応しい規模であり整備状
況は適切だと評価できる。
これに対して、学術資料の記録・保管のために必須である書庫スペースは必ずしも十分
とはいえず、共同雑誌室、共同書庫は、毎年蓄積されていく図書資料によって、空きスペ
ースは年々減少している。
【将来の改善・改革に向けた方策】
資料の所蔵スペースの狭隘化に対する対策としては、
① 集密書架の増設、所蔵資料保存の外部委託
② 他の研究所や図書館との重複資料の廃棄
③ 資料のマイクロ化、資料の電子化(CD-R、DISK)
④ 学術情報の相互利用、オンライン資料の活用
などが、考えられるが、その実現のためには、図書館や他の研究所との共通認識を高め、
学内の合意を得ることが必要であり、資源の有効利用が望まれる。
702 第4章 研究所
5.図書等の資料、学術情報
【現状の説明】
研究所設立以来、世界各国・地域の法制度に関する図書・資料等を収集してきている。2001
年3月末現在、図書 49,068 冊、雑誌 892 点を所蔵している。(基礎データ調書 表 27,28
参照)この中には創立者杉山直治郎、研究所元顧問コーイング博士の蔵書、フランス慣習
法・ローマ法古書等の貴重なコレクションも含まれている。購入の決定は、所員の購入申
込によるほか、法令集、判例集、辞典、記念論文集、逐次刊行物等の法律資料を重点的に
収集している。毎年 2,800 万円強の予算が図書・資料の購入等に支出されている。(資料編
(7)参照)これらの予算は新規の図書・資料の購入のほか、共同研究グループの資料購
入、雑誌の継続購入および製本、加除式資料の追録、古書のマイクロ化、近年では書誌・
判例・法令等で相次いで出版される電子媒体資料の収集にもあてられている。また、学内
のLAN構築や資料の電子化に対する取り組みとして、1993 年に研究所内に情報環境委員
会を設置し、情報環境の整備、電子媒体資料の利用、所蔵資料目録の電子化などの検討を
行った。研究所で学内LANの利用は 1995 年に開始、1997 年には研究所のホームページ
が公開され、研究所の基礎情報、講演会や行事に関する情報、刊行物や所蔵資料の案内な
どを随時提供している。2000 年度からは中央図書館とシステムを共有して所蔵資料の情報
提供を開始した。
【点検・評価
長所と問題点】
比較法研究に必要な図書・資料等を、これだけの規模で所蔵している研究所は、わが国に
はない。学内にあっては、法律に特化した専門図書館としての役割を果たすとともに、教
育研究活動に密着したきめ細かなサービスが提供されてきている。
これらの図書・資料は、わが国における法律学研究の方法を反映して、欧米の法制度に関
する図書・資料の収集に力点が置かれてきた。その分、アジア諸国およびイスラム圏等の法
制度に関する図書・資料の収集が十分なされているとはいえない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
今後さらに重要となる法律専門図書館としての役割を果たすため、コレクションの充
実・サービスの向上に関してメンバーの積極的な関与が必要である。外国の研究者に日本
の法制度を理解してもらうために、日本の法制度について外国語で書かれた図書・資料を、
継続的に収集していく必要がある。研究活動に用いられる資料の形態が、IT化とともに
変わりつつある。CD-ROM等の電子媒体資料を積極的に収集するとともに、オンライン
検索などにも対応できるような設備およびサービス提供体制を整えていく必要があろう。
6.社会貢献
【現状の説明】
研究所の社会貢献は、研究機関である以上、公表によって研究成果を社会に還元するこ
とが中心であろう。社会へ広く研究成果を公表する方法として、現在、
『研究叢書』、
『翻訳
叢書』、『資料叢書』を刊行するほか、定期的に『比較法雑誌』を刊行している。
また、研究所が所蔵する図書・資料について外部の研究者等にも利用の便宜を図ってい
るが、これも研究所の社会貢献といえよう。
さらに、比較法研究をテーマとしたシンポジウムを定期的に開催し、一般人も参加され
703
ている。
【点検・評価
長所と問題点】
法律学は実用的性格の強い学問分野であるから、現代のような国際的交流の盛んな時代
には、外国法との比較研究のかなりの部分は日本社会のさまざまな分野での法実務にも関
わりを持つことになる(例えば、企業法、契約法、民事訴訟法、刑事法などの分野)。した
がって、研究成果を種々の媒体によって社会に向けて発信し、これを誰もが知ることので
きる状態におくことは、研究者・研究機関の間での学問的交流に資するだけでなく、実務
的にも価値のある情報を社会に提供するという面がある。当研究所は、このような意味で
の社会貢献を果たしてきたし、今後もこれを果たすことが重要な使命といえよう。ただ、
研究所のこのような貢献ないし役割が社会から十分認知されてきたか否かは、疑問がない
わけではない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
将来は、さらに種々の媒体を活用し、研究成果が認知されやすいように努めるべきであ
ろう。例えば、商業データベースでは、論文等の全内容がオンラインで入手できるが、
『比
較法雑誌』に掲載された論文等について、刊行後一定期間が経過したものはそのような方
法で入手できるようにすることも考えられないではない。
7.管理運営
【現状の説明】
本研究所の組織については、
「2.研究組織」を参照されたい。研究所の管理運営に携わ
る各機関の現状は以下のとおりである。
①
所長
所長は、本学教授の中から、研究所員会において選挙した者について、理事会の承認を
得て、総長によって委嘱される(同規則5条1項)
。所長の任期は、3年である(同2項)。
所長は、本研究所の代表権を有し、事業を統轄し、職員の指揮監督を行うとともに、商議
員会および研究所員会の議長となる(同規則4条2項)。
②
商議員会
商議員会は、本研究所の管理運営に関する事項ならびに予算案を審議決定する権限を有
しており(同規則6条2項)、職務上委員3名(所長・法学部長・事務局長)および選任委
員8名によって構成されている(同3項)。
③
研究所員会
研究所員会は、本研究所の研究・調査に関する最高の意思決定機関である。研究所員会
は、研究所員全員によって構成される(同規則8条1項)。所員会の開催は、年3回である。
④
常任幹事会
常任幹事会は、本研究所の日常の業務執行活動に関する審議決定機関として設置されて
いる。常任幹事会は、議長となる所長のほか、選任商議員中選任された5名の常任幹事に
よって構成されている。
⑤
委員会
雑誌編集委員会は、
『比較法雑誌』編集の意思決定の継続性と統一性をはかり、個別的問
題について検討するため、雑誌部のもとに設置され、実際の雑誌編集にあたっている。
704 第4章 研究所
研究基金委員会は、所長の諮問機関として設置され、研究基金の使途その他基金に関す
る事項を審議決定する権限を有している。
なお、研究所内の情報環境整備に関し審議決定するため、情報環境委員会が、所長の諮
問機関として設置されていたが、1995 年をもって活動を停止している。
⑥
事務室
本研究所の事務組織については、後記を参照のこと。
【点検・評価
長所と問題点】
所員会の開催は、年3回であるが、定足数(所員総数の過半数)に満たない場合には、
仮決議によって議案を処理してきた。2回連続して仮決議となった場合には、次に開催す
る所員会および各年度最終所員会においては、選挙による人事案件を除き、委任状による
議決権行使が認められている。ここ数年の議案処理は、代理人による議決権行使を認めた
所員会において、仮決議の追認を含めた形で審議決定がなされている状況である。このこ
とは、もし委任状による議決権行使が認められなければ、研究所としての意思決定が確定
されないということを意味している。
これに対して、日常の業務活動の審議決定機関としての常任幹事会およびそれと連動す
る商議員会は、定期的かつ継続的に行われており、その審議も活発になされている。とり
わけ常任幹事会は、必要に応じて頻繁に開催されており、研究所の活動を実質的に支えて
いるものといえる。
【将来の改善・改革に向けた方策】
研究所員会は、出席者の間では、実質的な審議がなされているものの、先に示したよう
に、定足数に満たず、代理行使に頼っている状態である。従来から、開催時期等について、
できるだけ多くの出席者が予想されるように設定してきた。また事前の公示等もできるだ
け行ってきた。しかし、結果的としては、十分な成果はあがっていない。今後も、代理行
使に頼ることなく、本人の出席だけで定足数が確保されるような方策を考慮していかなけ
ればならない。
8.財政
【現状の説明】
本研究所の財政基盤は、大学予算のほか、国庫補助金である経常費補助金と日本比較法研
究所研究基金である。支出の主なものは「資料編(8)」の構成で分かるように、研究成果
の発表経費(主に比較法雑誌・叢書等の出版経費)と資料の収集費である。研究基金を除い
て個人や共同研究グループには研究費は配分しない。
研究基金制度は、特色ある共同研究等を支援するために創設され、基金の財源は中央大学
法曹会(法曹関係の校友会)の協力による募金を充て、納入された方には「誌友」として『比
較法雑誌』、叢書、広報誌『News Letter ひかくほう』等を送付している(2001年3月末現
在の基金残高−約2,500万円)。審査は、希望する共同研究グループから研究基金委員会が
行い、毎年原則として1件、150万円以内を助成することとしている。なお、研究基金から
は、研究所の事業として取り組んでいる日本法紹介事業にも2001年度から助成を予定してい
る。
また、共同研究グループ単位での外部資金への申請は、研究所事務室がバックアップして
705
いるが、近年の実績で金額の大きいものでは、国際交流基金日米センターの助成金があり、
1999∼2000年度には1,000万円弱の助成を受けた実績がある。
【点検・評価 長所と問題点】
研究所の研究成果や活動状況を公開・発信していく意味で、『比較法雑誌』『News Lette
r ひかくほう』の刊行は定期的に行われ、また叢書の出版も活発に行われている。また、資
料収集も当研究所の目的に鑑み、比較法研究に必要なもの、ならびに所員の共同研究に利す
るものを中心に可能な限り購入している。
研究基金制度に関しては、この基金を利用し共同研究助成と日本法紹介事業のプロジェク
トが弾力的に活動できるようになり、それぞれ研究成果が期待されている。しかし、基金と
なる寄付者(「誌友」)数は増加が難しい実情がある。
その他、本研究所としての外部資金の申請は、共同研究グループに依拠しているのが実態
である。
本研究所の活動を保証する全体としての予算は、事務室経費を含め、新たな活動・計画を
行うには十分とはいえないが、現状は問題なく執行されている。
【将来の改善・改革へ向けた方策】
今後、特に共同研究での研究活動が活発になり、叢書の刊行数が増加すれば予算不足の事
態も予想されるが、研究成果の発表は研究所の本質的な事業であることから出版費の確保は
当然のことである。
研究基金および誌友制度は発足以来約10年が経過しており、制度の拡充を図るため見直す
時期にあると認識している。
外部資金の導入は課題としてあるが、本研究所の設置目的と研究形態が研究者の個人研究
ないしは共同研究であることから、なかなか研究所全体で取り組むまでには至っていない。
9.事務組織
【現状の説明】
現在、事務室は、事務室長1名、専任職員3名、嘱託職員1名、アルバイト数名で組織
されている。
専任職員は「2 研究組織」で述べられた4つの部会(研究連絡部、国際協力部、資料部、
雑誌部)の分担を中心に、研究活動のサポートを行い、嘱託職員、アルバイトはその補助
作業に従事している。
2000 年7月に、2号館4階に事務室を有する5研究所(経済研究所、社会科学研究所、
企業研究所、人文科学研究所、政策文化総合研究所)の事務組織が統合され、合同事務室
として新たに発足をみた。本研究所はこれに加わらず、独立した事務室となっている。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究所の事務室が独立していることにより、きめ細かい研究サポートが実現しやすい
利点がある。しかし、特に資料部門について、必ずしも十分な人数の事務スタッフが確保
されていないという問題点がある。多種多様な業務内容を執行していく上でも、事務スタ
ッフの育成と充実が望まれる。スタッフの量的充実とともに、質的な面においても、法文
献に関する知識を有する者を今後も継続して確保していかなければならない。
【将来の改善・改革に向けた方策】
706 第4章 研究所
上記の問題点を解決するためには、業務内容の見直しと、スタッフのレベルアップを図
る必要がある。嘱託などの業務委託も考えられるが、何よりも資料部門において、必要な
知識を有する者を育成・確保していくシステムが望まれる。
また、研究支援体制の充実のために、事務組織と研究組織の中間に位置するものとして、
大学院学生をリサーチ・アシスタントとして研究所予算で採用し、共同研究の支援を行う
ようなシステムが考えられる。
10.自己点検・評価
【現状の説明】
2001 年7月 17 日に「第1回大学評価委員会」が開催され、基本方針が決定された。その
決定に基づき、7月 23 日に「第2回研究所等評価専門委員会」が開催され、それを受けて、
日本比較法研究所としては、7月 27 日に「第1回比較法研究所組織評価委員会」、9月 21
日に「第2回比較法研究所組織評価委員会」を開催し、意見交換をした上で『自己点検・
評価報告書』の原案を作成した。さらに検討・調整を加え、9月 28 日に「常任幹事会」を
開催し、最終的に本報告書にまとめ上げた。
この作業については、本研究所内に組織評価委員会を設置し、研究所長を委員長として、
常任幹事5名、事務職員2名の計8名の委員構成により、具体的な点検・評価項目の選定、
実施手順、分担等を協議・決定して実施してきた。
【点検・評価
長所と問題点】
本研究所は、一大学の施設ではなく、
「日本の、東洋の、ひいては世界の」比較法学の共同
施設として、半世紀余の歩みを続け、今日に至っている。所長、商議員会、研究所員会、
常任幹事会、4つの部会(研究連絡部、国際協力部、資料部、雑誌部)、研究基金等の委員
会から成る「研究組織」、30 以上の共同研究グループを中心とする多彩な所員の「研究活
動」、『比較法雑誌』および『News Letter ひかくほう』、過去半世紀に刊行してきた 100
冊を超える『叢書』、10 年ごとに刊行される『記念論文集』
、研究所主催の学術シンポジウ
ムをまとめた『学術シンポジウム叢書』などの「刊行物」
、年 20 回前後のセミナー、研究
者の受け入れ・派遣を実施してきた米豪仏の大学(協定校)との交流(「日本法入門」コー
ス提供)などの「国内外における研究者・研究機関交流」、適切な整備状況にある「施設・
設備」
(所長室、事務室、会議室、共同雑誌室)等、比較法研究に不可欠な基礎的分野をほ
ぼ網羅している「図書等の資料・学術情報」、研究基金に恵まれた「財政」など、総じてい
ずれもかなりよく条件整備されており、研究所それ自体(ハード)としては理想的な状態
に近い状態で管理・運営が行われているように思われる。
以上はハードの面であるが、ではソフトの面ではどうであったか。従来の研究対象は、
イスラーム法、中国・韓国法などの東アジア法の優れた研究は散見されるものの、概して
言えば、
「西洋法」中心であったことは否めない。それ以外のヒンドゥー法、オセアニア法、
アフリカ法などの「非西洋法」ないし「非西洋法文化」に関する本格的研究は、ほとんど
手がつけられていない状態にある。また、内容的に見ても、
「比較法制度論」ないし「法シ
ステム論」に関するものが大半を占め、
「比較法文化論」にまで研究の射程範囲を広げた研
究は、ようやく緒についたばかりである。日本法紹介事業のひとつである「日本の法システ
ムと法文化」は、このような方向を示唆する野心的な試みと評価することができよう。
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【将来の改善・改革に向けた方策】
問題は、むしろそれを利用する研究者の研究時間が、致命的なほど不足している現実に
ある。これは、研究所の問題を超えた教育研究機関としての大学の構造的問題でもある。
研究環境は、
「1.理念・目的」から「9.事務組織」までで見てきたように大変恵まれて
いるが、それを十分に利用するだけの時間的余裕がなさすぎる、というのが偽らざる実感
である。
さらに、所長職が行政的任務(行政職にともなう会議出席など)に追われすぎて、研究
所のプロジェクトを企画提案するといったような研究所本来の任務に取り組む時間的余裕
が少ないことも、今後の課題として問題提起しておきたい。
それと並んで、特定の常任幹事に管理運営の業務が、集中する傾向があることも、将来
改善すべき事項であろう。
708 第4章 研究所
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