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ITツール活用による生産物流管理の改善
C l o s e U p IT ツール活用による生産物流管理の改善 ─クラウドを利用し見える化を実現─ エイピーリファイン 小坂 麻衣子 エイピーリファイン社は 1983 年に設立、バーコ る「セールスフォース」を 2008 年から導入してい ード・2 次元コード入出力機器及び RF タグリーダ た。ただしこのアプリケーションは SFA、CRM を ライタの企画・製造・販売、アプリケーションツ 目的としているため、物流管理の機能はなかった。 ールの企画・開発・販売を行っている。 このような環境で以下の問題が発生していた 今回ご紹介するのは当社の業務改善事例で、ク ・Excel 上の在庫数と現物の数が合わない ラウド※ 1 と自社製品 (ハード、ソフト) を組み合わ ・事務所のレーザープリンタであらかじめ現品票 せて構築した仕組みである。 を作成し受入現場でモノに貼付していたため、 稼働開始時期は 2009 年 6 月で約 1 年間の稼働実 シリアル No. 付きの製品を受け入れる時に該当 績があり、現在も改善を行っている。 品を探す手間がかかる データ連携で業務を一括管理 ・製造履歴が紙媒体記録のため、不具合が出た際 の検索に時間がかかる 当社の業務の流れは、仕入先へ発注→発注した ・作業実績 (時間、担当者情報) を記録していない 部品・製品の受け入れ→検品→入庫→受注→出庫 ・置場までモノを見に行かないと現在庫数が把握 →組み付け→出荷である。商品は顧客からの受注 できないため、顧客からの納期問い合わせに対 後、自社内で最終組み付けを行い製品化している。 する回答に時間がかかり、仕入れ担当者しか返 したがって製造会社としては、製品の製造履歴管 答ができない 理(トレーサビリティ)及び作業の実績管理、在 そこで、クラウド (SaaS) 上に生産物流管理を行 庫・物流管理が必要であり、販売会社としては販 う画面や項目を作成し、自社製品(ソフトとハー 売履歴管理、顧客情報管理が必要となる。前者は ド)を疎結合※ 5 した仕組みと連携させて業務管理 各担当者が Excel や手書きのドキュメントなどで を行おうというプロジェクトが立ち上がった。基 管理していた。後者の管理には、クラウド型で 幹系のバックエンド※ 6 システムをクラウドで、実 SFA※ 2 /CRM ※ 3 機能を SaaS ※ 4として提供してい 行系のフロントエンド※ 7 を「TOTAL」という自 ※ 1 クラウド クラウドコンピューティングのこと。ネットワーク、特にインターネ ットを基本としたコンピュータの利用形態。利用者は、コンピュータ処 理をネットワーク経由でサービスとして利用する。 ※ 2 SFA Sales force automation、営業支援システム。営業支援のために使う情 報システム、またはそのシステムを使い営業活動を効率化すること。 ※ 3 CRM Customer Relationship Management、顧客関係管理、顧客管理。顧客 情報を管理・活用して顧客満足度を高め、企業の収益を伸ばすことを目 的とするシステム、経営手法のこと。 ※ 4 SaaS Software as a Service。利用者に対してインターネット経由でアプリ ケーションの機能を提供するサービス、あるいはそれを実現するための 仕組みのこと。利用者が使いたい機能のみを選択して契約できたり、画 面やデータベースの項目を追加・変更することができる。 ※ 5 疎結合 システム連携において、パッケージシステムのように独自の技術や特 定のプログラミング言語によって緊密につながれた「密結合」に対し、標 準的な技術を利用してシステム間を緩やかにつなぐこと。 ※ 6 バックエンド コンピュータシステム全体の構成において、利用者が PC などを使っ て入力したデータなどを後方で受け取って処理するシステム構成要素。 具体的にはデータベースサーバや基幹業務システムなどを指す。 ※ 7 フロントエンド データを入力したり、画面上でデータを参照したりと、利用者が直接 操作する Web ブラウザや PC などのシステム構成要素。 ※ 8 ダッシュボード 主に経営者や部門長などが利用する、業務の状況を表す様々な情報を社 内のシステムやデータベースから集め、表やグラフなどに加工して一覧表 示することのできるシステムや画面などのこと。 「マネジメントダッシュ ボード」 「企業ダッシュボード」 「経営ダッシュボード」とも呼ばれる。 74 Vol.56 No.10 工場管理 図1 運用イメージ 社製品の IT ツールを使い、この 2 つの仕組みをデ ノに貼付された現品票を読み取りながら作業をす ータ連携させることで業務を一気通貫で管理し、 る。QR コードや RF タグを読み取ることで各工程 改善を行うことがねらいである。 の履歴情報と作業時間や担当者などの実績情報を 「TOTAL」とは「Tool Tool of Turn Around Link- 取得する。 age」の略で作業単位に発行したシンボル(RF タ 特徴は作業の過程で読み取り作業を行うため、 グや 2 次元コード) 入りのドキュメントを一連の業 作業者は作業履歴や実績の記録行為を意識するこ 務で使用し、読み取り装置で収集したデータを次 となく仕事ができる点である。現場で収集した実 工程で再利用するという概念であり、当社の IT ツ 績データをクラウドにファイル転送して、クラウ ール製品の名称でもある。 ド上で各種管理を行う。 本プロジェクトに際して経営者からの「目標」 【 1 】受入 (入荷) 管理 は以下のとおりだった。 モノを受け入れた現場で発注情報と受入品の照 ・現場作業者のキーボード入力は極力なくす 合を行い、自社の現品票を発行・貼付する。 ・作業記録、製造履歴情報は自動的に記録する (手 ①仕入先への発注時に、クラウド側に受入予定を 書きしない) ・サーバー及び OS、ウイルスソフト、パッケージ ソフトは購入しない ・業務アプリケーションプログラムはつくらない (プログラマは使わない、外注しない) ・短期間開発、立ち上げ ・誰でも使える、自社で改良可能 ・総外部流出金額は、月額¥50,000 程度 運用内容と機器・ツール構成 作成。 ②受入前に受入カード (RF タグ内蔵リライトカー ド) を発行し、現場への受入指示とする。 ③モノを受入した際に、仕入先の現品票と受入カ ードを読み取り、品番照合を行う。自社の現品 票を自動発行。モノに貼付し入庫。 【 2 】組付履歴管理 (トレーサビリティ) 製品組付時に、ボディとなる個体のシリアル No. と組み付けた部品のシリアル No. を紐づける。 これは製品や構成部品に欠陥が発生した場合に、 基本的には基幹系のクラウドで作成した入荷・ どのシリアル No. の製品がどこのお客様に納入さ 出荷などの予定情報を元に、現場への作業指示と れているかを追跡するための情報となる。また組 なるカードを発行する。現場では指示カードとモ 付工程での作業担当者の記録及び作業時間の記録 工場管理 2010/10 75