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第 4 章 東京湾の修復に資する技術の現状
第 4 章 東京湾の修復に資する技術の現状 富栄養化の抑制と生態系の回復に資する技術 4.1 富栄養化の抑制技術と生態系の回復技術については平成 18 年度の調査ですでに抽出され、 技術集としてとりまとめられている。各技術の概要を下表に示す。また、富栄養化の抑制 技術と生態系の回復技術の分類にあたっての考え方を以下に示す。 <富栄養化の抑制技術と生態系の回復技術を分類する際の考え方> ・富栄養化の抑制技術:海域の C、N、P を少なくする技術 ・生態系の回復技術:海域の C、N、P (、O)を多くする技術 ※上記の基準に従えば、海域ではなく河川や湖沼といった流下過程にのみ適用される「生態 系の回復技術」は、結果として海域への負荷流入量を少なくするため、ここでは東京湾の 視点に立って富栄養化の抑制技術として分類している。 表 4-1 平成 18 年度調査で得られた富栄養化の抑制技術と生態系の回復技術 分類 陸域での負 荷削減技術 富栄養化の 抑制技術 技術名 概要 (昨年度は技術集に掲載されていないが、下水処理技術、産業排水処理技 術、河川の水質浄化技術などが該当する。) 干潟耕耘ロボット 波あたりが悪く底質の劣化した干潟に対してジェ ット噴流を用いて底質を撹乱することで底質の改 善を図る工法 トゥーリフレッシャーシ ステム 水底に堆積した泥土を拡散させることなく高濃度 で浚渫し、浚渫土の土質改良(固化・脱水)を連 続的に行いリサイクル材料として有効利用するた めの技術 中海覆砂事業 高炉水砕スラグを海底覆砂材として使用する覆砂 技術 人工ゼオライト混入覆砂 技術 石炭灰を水熱合成しゼオライト化して得られた人 工ゼオライトを利用する覆砂技術 底質浄化・ 改善 生態系の回 貧酸素の改 復技術 善 石炭灰ゼオライト覆砂に よる底泥からの栄養塩・有 害ガス抑制技術 微細気泡もしくは高密度 酸素を用いた貧酸素改善 技術 鉛直混合撹拌技術(閉鎖性 海域の水質浄化工法:うみ すまし) 海底貧酸素水塊発生抑制 技術 45 同上 微細気泡を海底に送り込み、エアレーションを起 こすことにより、貧酸素水塊の改善を図る 表層水を海底に送り込むことによって発生する循 環流を利用し、貧酸素水塊の改善を図る 流動攪拌技術を用いて、ヘドロを撒き上げること なく高濃度酸素の流動促進を図り、上下循環を促 進させることにより、底質の改善、栄養塩、硫化 水素等の溶出抑制を行う 分類 技術名 概要 高濃度酸素水による水質 浄化システム 貧酸素の水域に高濃度の酸素を送り込み、好気的 な環境を整備して、自然の浄化機能により水域を 浄化するシステム 光合成細菌群を利用した 水質改善 管状の酸素透過性を有するポリマーに無酸素水を 通水させ、壁面に付着した光合成細菌及び嫌気性 細菌によるリンの回収、水質浄化を図る 石堤み浄化堤による海水 浄化システム 潮の干満、波動によって海水が石堤み浄化堤の礫 を通過する際、礫表面に形成された微生物膜によ り汚濁物質を付着・ろ過・分解する 藻場造成事業 製鋼スラグと排ガスを原料として製造した大型炭 酸固化ブロックを利用する藻場造成事業 海藻植え付け方式藻場造 成ブロック 海中に多様性の動植物生 育基盤の造成技術 藻類増殖材の開発 干潟エコトーンにおける ビオトープ創造による生 物循環浄化 生物生息環 境整備 大森ふるさとの浜辺造成 事業 干潟・浅場用海砂・石代替 スラグ製品の開発 鉄鋼スラグ、浚渫土砂等の 干潟・浅場材料への適用 ブロックに多年生海藻(母海藻)を植え付ける台 (着定基盤)を取り付けた藻場造成ブロックの製 造技術 凹凸のある金網で製作したブロックを海中に多数 設置して人工岩礁を構築し、海中生物の生育基盤 とする技術 藻類の生長に必要なリン、珪素、鉄等をガラス化 した藻類増殖材 干潟を中心に「エコトーン」(生物の生息する異 なった空間や環境のつながりを推移帯)をつくり 出し、生物循環浄化機能を利用して水質浄化を図 る技術 水分補給対策、細粒分供給対策等による人工干潟 の再生技術 水砕スラグを利用した干潟・藻場用基盤材の製造 技術 安定化を施した製鋼スラグを干潟・浅場材料とし て利用する技術 褐藻を用いた土木用凝集 沈殿剤の開発 昆布、ワカメ等、褐藻類の海藻残渣から低コスト の海藻ペーストを調製し、これを浚渫で発生した 余水の凝集沈殿剤や底泥の団粒化剤として活用す る技術 生物共生護岸の創造 老朽化した護岸や桟橋の改修時に、環境面ならび に防災面の強化を図る工法 護岸前面に潮間幅内の平均水面に近い位置にテー 生物共生型護岸(テラス型 ブル状の張り出しや台を設け、そこに潮だまりを 護岸) つくる生物共生型護岸の製造技術 カニ等多くの生き物が生活していた石積の機能を 生物共生型護岸(カニ護岸 再現するコンクリート製パネルとそれを支える護 パネル) 岸構造物の製造技術 46 4.2 資源の有効活用に資する技術 資源の有効活用に資する技術の現状を把握するため、アンケート調査を実施した。これ により、資源の有効活用に貢献する要素技術を抽出するとともに、各技術の特徴、市場に おける需要供給面の課題、今後の市場拡大の可能性を整理した。 4.2.1 アンケート項目 ① 技術シーズの分類 ・資源有効活用に貢献する要素技術を有しているか ・生物資源か非生物資源のどちらに該当するか ② 技術の概要 ③ 資源の種類と想定する市場 ・有効活用する資源 ・想定する市場 ④ 技術の実用化可能性 ・実用化の段階(研究・開発段階、実証実験段階、実用化段階、実用化多数の中から 選択) ・実用化を図るうえでの課題(コスト面、安定性、法制度面等) ⑤ 供給面、需要面の課題 ⑥ 今後想定されうる需要拡大の要因 ⑦ 他の技術との組み合わせ ・他の技術との組み合わせに関する想定の有無 ・想定する場合には、その技術名称 ※その他、追加調査や技術集への掲載についての可否について尋ねた。 ※関連する研究実績や特許を有する研究機関、企業を抽出し、約 400 通のアンケートを 送付し、そのうち約 100 件の回答を得た(実施していないとの回答を含む)。 47 4.2.2 アンケートにより得られた資源有効利用技術 (1)アンケート等で得られた技術の件数(市場別、資源別) 得られた技術シーズを、資源と市場の種類によって分類し、件数を整理した(下表)。 また、次ページ以降の表に技術リストを示す。 表 4-2 市場別、資源別の技術件数 海域資源の利用件数(件) 市場 技術 件数 (件) 生物資源 非生物資源 魚類 藻類 貝類 その他 底泥 12 6 4 0 4 0 0 0 0 肥料 9 1 2 1 6 3 0 1 2 飼料 (養殖飼料含む) 8 1 1 0 6 0 0 0 0 エネルギー 9 1 3 1 1 1 0 5 0 医薬品 7 3 0 0 5 0 0 0 1 化粧品 4 1 0 0 3 0 0 0 0 工業製品、土木・ 建築材料 8 2 2 1 3 2 0 0 3 工業用リン 2 0 0 0 0 1 0 0 2 12 3 2 2 1 2 1 3 3 2 1 0 0 0 0 1 0 0 食品 (健康食品含む) 藻場、干潟、魚礁 養殖関連材料 海水 その他 陸域資源 (下水汚泥 等)の利用 件数 (件) ※「技術件数」と「海域資源の利用件数合計」は一致していない。これは、複数の資源を利用 する技術については重複してカウントしているためである。 ※東京湾の資源を活用する技術、東京湾以外の海域の資源を活用する技術すべてを含めた数を 集計している。また、公開不可という条件付きでご回答頂いた技術も含めて集計している。 48 (2)技術のリスト(市場別) 以下では、東京湾の資源を対象とした技術のみを掲載する。東京湾以外の資源を対象とした技術は付属資料を参照のこと。 ① 食品市場に関連する技術一覧 表 4-3 食品市場に関連する資源有効活用技術 利用する資源の種類 技術 番号 企業、研究機関名 海域資源 技術名 魚貝類 49 9 福井県立大学 生物資源学部 水産加工残滓からのコラーゲンの回 収技術 10 福井県立大学 生物資源学部 クラゲ類からのコラーゲンの回収技 術 12 マリン・サイエンス株式会社 夏期海藻養殖 13 東京農工大学 農学部 硬蛋 白質利用研究施設 水産資源の有効活用 14 東京海洋大学 ヒトデの有効利用 20 関西大学 水産物由来非脂質成分生活習慣病予 防効果に関する機序解明 46 酪農学園大学 地域水産物を用いた天然調味料の開 発とその調味料のねり製品への応用 海藻類 貝類 非生物資源 その他 ○ 陸域 資源 2 3 ○ ※技術番号:付属資料「技術資料集」(技術の概要を掲載)の技術番号と対応している。 ※実用化段階について 1:研究・開発段階、2:実証試験段階、3:実用段階 その他 2 ○ ○ 海水 3 ○ ○ 底泥 実用化 段階 ○ 2 ○ − 3 ② 肥料・飼料市場に関連する技術一覧 表 4-4 肥料・飼料市場に関連する資源有効活用技術 利用する資源の種類 技術 番号 企業、研究機関名 海域資源 技術名 魚貝類 2 海藻類 貝類 ○ ○ 大阪府立大学大学院工学研究 海産バイオマスのメタン発酵残渣の 科 堆肥化技術 3 大阪大学 底泥 ○ その他 陸域 資源 実用化 段階 1 ○ 3 1、2 50 3 ○ クラゲから肥料を製造する方法 海水 ○ △ 好熱性種菌、並びに有機肥料、液状 有機肥料、及びそれらの製造方法 飼料添加物、液状添加物、及びそれ らの製造方法、並びに飼料の製造方 49 株式会社三六九 法 ※技術番号:付属資料「技術資料集」(技術の概要を掲載)の技術番号と対応している。 ※実用化段階について 1:研究・開発段階、2:実証試験段階、3:実用段階 48 株式会社三六九 その他 リン資源の回収再利用技術の開発 神戸大学大学院海事科学研究 クラゲ有効利用のための真空加熱処 4 科(青木マリン株式会社と共 理技術 同) 水産加工残滓からのコラーゲンの回 9 福井県立大学 生物資源学部 収技術 クラゲ類からのコラーゲンの回収技 10 福井県立大学 生物資源学部 術 30 神戸大学 非生物資源 ○ 2 ○ 1 ○ 3 ○ 3 ③ エネルギー市場に関連する技術一覧 表 4-5 エネルギー市場に関連する資源有効活用技術 利用する資源の種類 技術 番号 企業、研究機関名 海域資源 技術名 魚貝類 1 海藻類 貝類 ○ ○ 大阪府立大学大学院工学研究 海産バイオマスのメタン発酵技術 科 19 東京ガス株式会社 42 大洋プラント株式会社 51 43 大洋プラント株式会社 44 大洋プラント株式会社 45 大洋プラント株式会社 50 鈴鹿国際大学 海藻を原料としたメタン発酵発電シ ステム技術 ○ ○ 非生物資源 その他 底泥 ※技術番号:付属資料「技術資料集」(技術の概要を掲載)の技術番号と対応している。 ※実用化段階について 1:研究・開発段階、2:実証試験段階、3:実用段階 その他 陸域 資源 2 ○ 2 ○ 波エネルギーを利用した浮遊渚(陣 笠状の円錐形状浮体)による水質・ 底質浄化システム 波エネルギーを利用した浮遊渚(陣 笠状の円錐形状浮体)に風車とソー ラーを搭載した植生浄化とバイオマ ス発電燃料供給化システム 波エネルギーを利用した浮遊渚(陣 笠状の円錐形状浮体)による油など 浮遊物回収システム 波エネルギーを利用した浮遊渚(陣 笠状の円錐形状浮体)による洋上レ ストラン及び海つり公園、浮き漁礁、 防災用ヘリポートシステム ヘドロ燃料電池 海水 実用化 段階 ○ ○ 2 ○ 1 ○ 1 ○ 1 2 ④ 医薬品・化粧品市場に関連する技術一覧 表 4-6 医薬品・化粧品市場に関連する資源有効活用技術 利用する資源の種類 技術 番号 企業、研究機関名 海域資源 技術名 魚貝類 海藻類 貝類 非生物資源 その他 底泥 海水 その他 陸域 資源 実用化 段階 52 7 三重大学 生物資源学部 コイ血液から抽出した抗菌性物質 (オリゴ糖) △ 9 福井県立大学 生物資源学部 水産加工残滓からのコラーゲンの回 収技術 ○ 10 福井県立大学 生物資源学部 クラゲ類からのコラーゲンの回収技 術 ○ 2 14 東京海洋大学 ヒトデの有効利用 ○ 2 ○ − 水産物由来非脂質成分生活習慣病予 ○ 防効果に関する機序解明 ※技術番号:付属資料「技術資料集」(技術の概要を掲載)の技術番号と対応している。 ※実用化段階について 1:研究・開発段階、2:実証試験段階、3:実用段階 20 関西大学 ○ 2 3 ⑤ 工業製品、土木・建築材料、工業用リンの市場に関連する技術一覧 表 4-7 工業製品、土木・建築材料、工業用リンの市場に関連する資源有効活用技術 利用する資源の種類 技術 番号 企業、研究機関名 海域資源 技術名 魚貝類 3 大阪大学 リン資源の回収再利用技術の開発 7 三重大学 生物資源学部 コイ血液から抽出した抗菌性物質 (オリゴ糖) 16 海藻類 貝類 非生物資源 その他 △ △ JFEエンジニアリング株式 下水汚泥焼却灰の還元溶融による黄 会社 リン製造技術 53 39 川辺コンクリート株式会社 ホタテ内臓を利用した生分解性凝集 剤 40 東北大学 未利用海藻バイオマスを原料とした 高性能重金属吸着除去剤の製造 底泥 廃水浄化剤、液状廃水浄化剤、及び それらの製造方法、並びに廃水浄化 47 株式会社三六九 方法 ※技術番号:付属資料「技術資料集」(技術の概要を掲載)の技術番号と対応している。 ※実用化段階について 1:研究・開発段階、2:実証試験段階、3:実用段階 海水 その他 陸域 資源 実用化 段階 ○ 3 ○ 2 ○ 2 1 ○ 2 ○ ○ 3 ⑥ 藻場・干潟造成や養殖資材等の市場に関連する技術一覧 表 4-8 藻場・干潟造成や養殖資材等の市場に関連する資源有効活用技術 利用する資源の種類 技術 番号 企業、研究機関名 海域資源 技術名 魚貝類 海藻類 貝類 非生物資源 その他 底泥 海水 その他 陸域 資源 実用化 段階 54 22 海洋建設株式会社 貝殻利用技術 JF シェルナース ○ 3 23 海洋建設株式会社 貝殻を利用した干潟等の浅場造成技 術 ○ 2 27 広島大学 製鋼スラグと微細藻の組み合わせに よる底質改善技術 28 株式会社 マリン技研 富栄養化した内湾域における成層解 消並びに水産資源の生産性高揚と安 定維持の技術 35 株式会社環境生物研究所 地下海水取水法とその利用について 37 福井県立大学 湧昇流発生施設 重金属を含む食品加工廃棄物の藻・ ○ 魚礁化技術の開発 浚湈土を利用した資源循環型干潟造 41 大成建設株式会社 成技術 ※技術番号:付属資料「技術資料集」(技術の概要を掲載)の技術番号と対応している。 ※実用化段階について 1:研究・開発段階、2:実証試験段階、3:実用段階 ○ − 3 ○ 3 ○ 1 ○ 38 川辺コンクリート株式会社 2 ○ ○ 3 4.2.3 資源回収・利用可能量に関する特徴整理 環境改善の観点からは、海域の N、P をいかに大量に有効活用できるかが重要となる。 そこで、各技術について、資源の利用量の観点から特徴を整理した。 具体的には、アンケート回答結果に基づき、利用する資源の種類(生物資源、非生物資 源)ごとに、 「資源回収可能量」と回収した資源の「有効利用率」(回収量のうち製品に利 用できる割合)をそれぞれ横軸と縦軸にとり、分布図として整理した。なお、「利用量」 は資源の回収可能量と利用率を掛け合わせた値である。資源回収可能量が多くても製品 に利用する割合が少ないと廃棄物が増えてしまうため、資源回収可能量と有効利用率の 双方に着目することが必要である。 ① 生物資源(魚介類、藻類、その他生物資源) 生物資源を活用する技術に関して、資源回収可能量(トン/年)と回収資源の有効利用 率の関係を示した結果が以下の分布図である。母数が少ないため信頼性が十分とはいえ ないが、図より、大量に資源を回収できて有効利用率も高い技術として魚礁や藻場の造 成技術、肥料等の製造技術が該当している。一方、資源回収可能量が少なく有効利用率 も低い技術として、医薬品・化粧品等の製造技術が該当する。 各技術の特徴を詳しくみると、前者(大量回収、大量利用型)は、実用段階にある技 術が多く、どちらかといえば製品の付加価値が低いものや公共事業で利用される技術が 多い。一方、後者(少量回収、少量・微量利用型)は基礎研究段階にある技術が多いが、 比較的高い付加価値を有する技術が多い。 回収資源の利用率(%) 100 医薬品、 化粧品 肥料等 90 80 70 60 健康食品 魚礁や藻場造成 50 エネルギー 40 30 20 10 健康食品、化粧品、 医薬品、飼料等 0 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 資源回収可能量(t/年) 図 4-1 生物資源に関する資源回収可能量(年間)と 有効利用率(回収量に対する有効利用割合)の関係 ※資源量は東京湾のみの資源量とは限らず、全国で回収する場合の資源量が回答されている 場合もある。 55 ② 非生物資源(底泥、海水等) 非生物資源を活用する技術に関して、資源回収可能量(トン/年)と回収資源の有効利 用率の関係を示した結果が以下の分布図である。やはり母数が少ないため信頼性が十分 とはいえないが、図より、大量に資源を回収できて有効利用率も高い技術(大量回収、 大量利用型)として肥料や魚礁の製造技術、リンの回収技術等が該当している。一方、 資源回収可能量が少なく有効利用率も低い技術(少量回収、少量・微量利用型)として、 深層水の利用技術が該当する。 各技術の特徴を詳しくみると、大量回収・大量利用型と少量回収・少量利用型で、実 用段階や付加価値に明確な違いは見られない。例えば、肥料や魚礁等は、既に実用段階 にあり、付加価値はどちらかといえば低いといえるが、リン回収技術は、実証試験段階 にあるものが多いが、付加価値は現時点では肥料と同等だが、リン枯渇に伴い価値も高 まる可能性がある。 100 肥料、魚礁等 回収資源の利用率(%) 90 80 70 リン回収等 60 50 40 深層水利用等 30 20 10 0 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 1.0E+04 1.0E+05 1.0E+06 資源回収可能量(t/年) 図 4-2 非生物資源に関する資源回収可能量(年間)と 有効利用率(回収量に対する有効利用割合)の関係 ※資源量は、東京湾のみの資源量とは限らず、全国で回収する場合の資源量が回答されてい る場合もある。 56 4.2.4 技術適用上の課題 資源有効活用技術を実用化するためには、各市場における需要供給面の課題が存在す ると予想される。そこで、 供給面の課題 需要面の課題 、 行政への要望 について アンケートで得られた結果を以下に示す。 (1)供給面に関する課題 魚類 回答件数(10件中) ① (資源の種類別) 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 量の不安 質の不安 利用種の塩分・有害 製造 回収・輸送 保守・ 定性 定性 限定性 物質除去 コスト コスト 保管 図 4-3 資源有効利用技術に関する供給面の課題(魚類) <アンケートで得られた具体的な意見> ・水産加工残滓(ざんし)は廃棄物として扱われるため、適切な保存(冷却や凍結)が行わ れない場合が多い。従って、それに含まれるコラーゲンの変性が起こりやすい。一定 品質の原料を効率よく大量に収集するのが困難。 ・絶対量の問題と抽出の技術が複雑なため製造コストの問題がある。 ・水産物は季節変動や不漁の問題があり、予測が難しい。非可食魚も利用できるのであ れば、改善の余地がある。 ・水産物の特性でもある腐りやすいという性質を如何に制御するかが課題となる。既存 のコールドチェーン(冷凍・冷蔵によって低温を保ちながら生鮮食料品を生産者から消費 者まで一貫して流通させるしくみ)の活用等が必要。 57 藻類 回答件数(10件中) ② 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 量の不安 質の不安 利用種の塩分・有害 製造 定性 定性 限定性 物質除去 コスト 回収・輸送 保守・ コスト 保管 図 4-4 資源有効利用技術に関する供給面の課題(藻類) <アンケートで得られた具体的な意見> ・大量発生は季節的、経年的に非常に変動が激しいので、多種バイオマスの混合が必然 となる。 ・原料を獲得するための人件費その他、他国との価格競争がある。 ・海藻の回収、処理コストの負担者の問題。また、季節変動により保管が必要。保管時 の悪臭も課題。 ・回収できる量は季節変動が大きく影響するため、保存が必要になるが、その時のコス トが大きい。 ・コストは回収地から製造現場の距離によるが、輸送インフラが整っている資源と比べ て不利である。 58 ③ 貝類、その他 9 回答件数(9件中) 8 7 6 5 4 3 2 1 0 量の不安 質の不安 利用種の塩分・有害 定性 定性 限定性 物質除去 製造 コスト 回収・輸送 保守・ コスト 保管 図 4-5 資源有効利用技術に関する供給面の課題(貝類等) <アンケートで得られた具体的な意見> ・貝殻が発生する時期がある程度決まっている(しかし広域流用できれば安定すると考 えられる)。 ・広域流用の場合、輸送コストがかかる。 ・ストックヤードの確保、貝殻の発生状態により臭いが問題になる可能性がある。 ・海洋からの原料の回収及び製造工程における脱塩にコストがかかる。 ・抽出精製で大量の有機溶媒を必要としていることから、プラント化が課題。 ・目的成分は特定の種にのみ含有され、微量成分であるためその分離・精製に技術とコ ストがかかる。 ・資源となるクラゲの量は年、場所、季節により変動する。しかし、クラゲが発生した ときに肥料化しておけば、濃縮液中の塩化ナトリウム濃度が高いので、保存可能であ ると考える。 ・大量発生は季節的、経年的に非常に変動が激しいので、多種バイオマスの混合が必然 となる。ムラサキイガイなどは回収にコストがかかる。 59 非生物資源(底泥、海水等) 回答件数(10件中) ④ 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 量の不安 質の不安 利用種の塩分・有害 製造 定性 定性 限定性 物質除去 コスト 回収・輸送 保守・ コスト 保管 図 4-6 資源有効利用技術に関する供給面の課題(非生物資源) <アンケートで得られた具体的な意見> ・今のところ、製造コストは、天然リン鉱石の約 9 倍。回収品の品質により工業用リン 酸製造の現施設が全く利用できなくなる。たとえば、MAP(リン酸マグネシウムアン モニウム)や焼却灰由来の回収リンでは、リン酸が製造できない。 ・製品品質には、塩素、リン、アルカリ(Na)濃度などが悪影響を及ぼす。対境的に悪 臭も困る、運送保管も難しい。 ・底泥を利用する場合、作業及び作業場所の問題が大きく、特に悪臭等がコストに一番 影響する。保守・保管等の問題は広い場所が必要である。 ・製品(肥料)の販売価格が安いため、採算性から製造コストを抑える必要がある。 60 回答件数(11件中) (2)需要面に関する課題 (市場の種類別) ① 食品市場(健康食品市場を含む) 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 価格 品質 需要 消費者の 販路 競争 競争 変動 意識啓発 開拓 図 4-7 資源有効利用技術に関する需要面の課題(食品市場) <アンケートで得られた具体的な意見> ・サラダとしては新商品として消費者に認知されるのに時間が掛かると思う。 ・消費者に対する啓蒙は、非常に意味がある。食に関するものは、固定観念が高いので、 その障壁を崩す必要がある。 ・コスト。特徴的な品質が確立できるかどうか。 ・製品のアピール、健康機能性に関する情報の周知が最大の鍵となるが、畜産物の安全 性疑問からむしろ追い風になることも予想できる。 61 肥料・飼料市場 回答件数(10件中) ② 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 価格 品質 需要 消費者の 販路 競争 競争 変動 意識啓発 開拓 図 4-8 資源有効利用技術に関する需要面の課題(肥料・飼料市場) <アンケートで得られた具体的な意見> ・まだ、国民にリン資源の枯渇への危機感がない。 ・化成肥料や他の有機肥料との競合。また、製品の存在が知られていないといった課題 が挙げられるが、農協や漁協を通じて可能であると考える。 ・新規製品であるため普及するまで時間を要する。また、他の安価な肥料原料との競合 は避けられない。 ・魚かすなど既存の有機肥料との競合。また、存在が知られていないが、農業における 海水利用の傾向から考えると、環境保全に役立つ肥料である旨を PR すれば、良い方向 に持っていけるかもしれない。 ・東京湾を考えた場合、誰が中心となって行うのか、責任の範囲といったことを明確に しないといけない。 ③ エネルギー市場 <アンケートで得られた具体的な意見> ・自治体などの需要総量に比べて、海産バイオマスから得られるメタンガス量は非常に 小さいので、小規模な施設での熱も含めたコージェネレーションシステムを組む等、 供給先を工夫する必要がある。 ・本技術は海域の環境問題や地球温暖化問題に対して貢献できるものであるが、これま で海藻のエネルギー利用に関して実現された事例が無いことから、その有効性が一般 に広く知られたものとはなっていない。 ・発電単価が火力発電、風力発電、太陽光発電には勝るが、原子力には勝てない。しか 62 し、原子力も廃棄物の処理を含め一切税金を投入しなければ、射程圏内に入る可能性 も有り得る。波力は国の新エネルギーの範疇に入っていないため各種の優遇措置はな く不利であり、その上、未知の領域のため、果たして勇気を持って採用する企業、自 治体が現れるか心配である。 ・コストは回収地から製造現場の距離によるが、天然ガス等の輸送インフラが整ってい る資源と比べて不利である。 ④ 医薬品・化粧品市場 7 回答件数(7件中) 6 5 4 3 2 1 0 価格 品質 需要 消費者の 販路 競争 競争 変動 意識啓発 開拓 図 4-9 資源有効利用技術に関する需要面の課題(医薬品・化粧品市場) <アンケートで得られた具体的な意見> ・価格が高くなると製品化しても売れないのではないか。 ・目的成分を化学的に合成する技術が確立された場合は、物質供給の安定性及び価格の 面で厳しい競争となる。 ・製品のアピール、健康機能性に関する情報の周知が最大の鍵となるが、畜産物の安全 性疑問からむしろ追い風になることも予想できる。 63 ⑤ 工業用製品、リン市場 <アンケートで得られた具体的な意見> ・本技術で製造する黄リンは、リン化学品の基礎原料であり、需要量の大きな変動はな い。需要はリン化学品メーカに限定されるため、本技術に対するリン業界の支持が必 要になる。 ・現状では、リンの国際価格に大きく影響される。 ・本来セメントや土工資材の原料にならない資源を利用することになるので、リサイク ル資源が発生した工事現場で使用しきることが望ましいと言える。 ・まだ、国民にリン資源の枯渇への危機感がない。 ⑥ 藻場・干潟造成市場 7 回答件数(7件中) 6 5 4 3 2 1 0 図 4-10 価格 品質 需要 消費者の 販路 競争 競争 変動 意識啓発 開拓 資源有効利用技術に関する需要面の課題(藻場・干潟造成市場) <アンケートで得られた具体的な意見> ・公共事業なので、行政的判断によるところが大きい。水産庁の漁場造成事業における 使用実績が多いものの、環境修復や自然調和型公共事業に関連する国交省事業や漁港 事業の採用が極めて少ない。 ・公共事業予算の減少により事業自体が少なくなった。 ・環境修復などの取組みが事業化されていない。 ・鉄鋼スラグの安全性と藻場造成効果に関する啓蒙活動。 64 (3)行政への要望 ① (市場の種類別) 食品市場(健康食品市場を含む) 表 4-9 食品市場における技術実用化のための行政面の課題 (アンケートで寄せられた意見) 改善や新設を要望 具体的内容 する法律、制度 廃 棄 物 の 処 理 及 び 清 加工処理後の残渣の処理が懸念材料。 掃に関する法律 漁業権 海面利用の為、漁業権等の問題有り。但し海苔業者の夏季の仕事と しては面白いのではないか。 商業化が軌道に乗れば制度の見直しによって、生産者に既得権とし て還元することも必要。 費用負担制度 未利用資源を利用する場合、混在して漁獲されるものからの選別な ど、生産者(漁業従事者)に対するこれらにかかるコストの負担あ るいは支援措置が不可欠。 海洋性の廃棄物を回収するコストの負荷を低減できる補助制度が 必要。 ガイドラインの整備 特定保健用食品の場合、認可されるための明確なガイドラインが無 い。あくまで食品ではあるが、薬効試験が求められることがある。 ② 肥料・飼料市場 表 4-10 肥料・飼料市場における技術実用化のための行政面の課題 (アンケートで寄せられた意見) 改善や新設を要望 具体的内容 する法律、制度 廃 棄 物 の 処 理 及 び 清 大型クラゲについては不明であるが、発電所等で回収されているク 掃に関する法律 ラゲ類は、一般廃棄物として処理されている。したがって、それを 有効利用する場合には、何らかの法律上の許可を得る必要があるか もしれない。 回収リンを産業廃棄物指定からはずす必要がある。リン資源回収リ サイクルのための基地を設ける必要がある。 費用負担制度 アオサを回収する際の費用負担をどこが分担するかの制度とアワ ビ養殖導入への啓蒙実践活動。 65 ③ エネルギー市場 表 4-11 エネルギー市場における技術実用化のための行政面の課題 (アンケートで寄せられた意見) 改善や新設を要望 具体的内容 する法律、制度 廃 棄 物 の 処 理 及 び 清 資源として再利用するにもかかわらず、廃棄物処理法の適用が優先 掃に関する法律 されるため、収集運搬業の許可や追加の設備コスト、アセスメント 等が必要となる。 費用負担制度 海藻の回収、プラントの建設、利用に係る費用について国や自治体 が負担、補助する制度。 海洋性の廃棄物を回収するコストの負荷を低減できる補助制度が 必要。 その他 現在規制はなく、安全航行のための標識の設置義務のみであるが、 設置が本格化すれば必ず何らかの規制が行われるものと思われる。 ④ 医薬品・化粧品市場 表 4-12 医薬品・化粧品市場における技術実用化のための行政面の課題 (アンケートで寄せられた意見) 改善や新設を要望 具体的内容 する法律、制度 費用負担制度 未利用資源を利用する場合、混在して漁獲されるものからの選別な ど、生産者(漁業従事者)に対するこれらにかかるコストの負担あ るいは支援措置が不可欠。商業化が軌道に乗れば精度の見直しによ って、生産者に既得権として還元することも必要。 薬事法 ー 66 ⑤ 工業製品・リン市場 表 4-13 工業製品・リン市場における技術実用化のための行政面の課題 (アンケートで寄せられた意見) 改善や新設を要望 具体的内容 する法律、制度 優遇制度 天然資源の枯渇、国際的な資源争奪に対して、資源確保事業に関わ る優遇制度に期待する。特に、下水汚泥焼却灰のように、天然鉱石 に比べても、遜色のない廃棄物の資源化に対する優遇制度を期待す る。 費用負担制度 目的を追行する際の費用負担を明確にする必要がある。廃棄物問題 で豊島公害問題があるが、それより大きな問題である。地球温暖化 より身近な問題でより具体的解決を必要とする。 その他 リサイクル資源が発生した工事において再資源化製品を使用する ことを特記しないと、需給のアンバランスが生じて不良在庫や不法 投棄の原因となる。 回収リンを産業廃棄物指定からはずす必要がある。リン資源回収リ サイクルのための基地を設ける必要がある。 ⑥ 藻場・干潟造成市場 表 4-14 藻場・干潟造成市場における技術実用化のための行政面の課題 (アンケートで寄せられた意見) 改善や新設を要望 具体的内容 する法律、制度 漁業法(漁業権問題) 湾内の漁業権漁場の問題が必然的に絡むと思われる。湾内全域の環 境改善浄化事業を漁業権漁場で仕分けるか、国家的、行政的事業で 仕分けるかの議論があるものと考えられる。水産資源保護法との関 連も考えられるかも知れない。 費用負担制度 目的を追行する際の費用負担を明確にする必要がある。 藻場造成事業の国策 (具体的な記載はなし) 化 67 4.2.5 海域資源の有効活用を後押しする近年の動向 資源有効活用技術は現状では様々な課題があり、市場化につながっていないものが多 い状況にある。しかし、例えばリン資源の枯渇のように、将来的な海域資源の需要拡大 につながる動向も見られつつある。将来の需要拡大が見込まれるのであれば、現在の技 術シーズが埋もれることのないよう何らかの支援策を講じる必要がある。 ここでは、一例としてリン資源の枯渇に関する近年の動向をとりまとめた。また、ア ンケートで情報が得られた将来的な需要拡大の可能性についてもとりまとめた。 (1)リン資源の枯渇に関する動向 ① リン鉱石の埋蔵量と採掘量 ・現在、30 ヶ国以上がリン鉱石を採掘しているが、上位 15 ヶ国だけで全世界リン鉱石採 掘量の約 95%近くを占める。(表 4-15) ・また、アメリカ、中国、モロッコの上位 3 カ国のリン鉱石採掘量は全体の約 2/3 を占 めることから、リン鉱石の埋蔵量には大きな偏りがあるといえる。 ・経済的に採掘できるリン鉱石の埋蔵量を単純に現在の採掘量で割ると、リン資源は 130 年で枯渇すると計算できる。 ・しかしリン鉱石の採掘量は 1950 年から 1995 年にかけて約 6 倍に増加しており、リ ン鉱石採掘量の年間のび率は約 4 %となっている。したがって、リン資源枯渇のシナ リオとしては、今後のリン消費量の伸びを考える必要がある。 (出典:黒田章夫、滝口昇、加藤純一、大竹久夫( 2005) リン資源枯渇の危機予測とそれに対 応したリン有効利用技術開発、環境バイオテクノロジー学会誌、Vol. 4、No. 2、87–94) 68 表 4-15 国名 世界でのリン鉱石の生産量、埋蔵量、埋蔵基礎量 生産量 (百万トン)*1 埋蔵量 (百万トン) 埋蔵基礎量 (百万トン)*2 アメリカ合衆国 33.3 1,000 4,000 中国 24.0 6,600 13,000 モロッコ 24.0 5,700 21,000 ロシア 11.0 200 1,000 チュニジア 7.7 100 600 ヨルダン 7.2 900 1,700 ブラジル 5.0 260 370 イスラエル 4.0 180 800 南アフリカ 2.5 1,500 2,500 シリア 2.4 100 800 オーストラリア 2.2 77 1,200 トーゴ 2.1 30 60 エジプト 1.5 100 760 セネガル 1.5 50 160 インド 1.3 90 160 カナダ 1.2 25 200 その他 7.0 800 2,000 合計 138.0 18,000 50,000 ※1 生産量は 2003 年度の数値 ※2 将来技術の進歩があれば採掘可能なリン鉱石の量 出典 黒田章夫、滝口昇、加藤純一、大竹久夫( 2005) リン資源枯渇の危機予測とそれに対応したリン 有効利用技術開発、環境バイオテクノロジー学会誌、Vol. 4、No. 2、87–94 ② リン鉱石の埋蔵量と採掘量 ・リン鉱石枯渇のシナリオは CEEP(ヨーロッパ化学工学評議会とリン酸工業協会の主 催する団体)でまとめられている。 ・過去のリン消費量の伸び率に従い、リン酸肥料の消費が年間 3 %ずつ増加すると仮定 すると、2060 年代には現在の約 5 倍の年間消費量 2 億トンを超えてしまい、経済的 に採掘できるリン鉱石はすべて枯渇する。しかしこの予想は以下の 4 つの理由により 現実的ではないとされる。 ・先進国の農業では、1ha 当たり 70kg の P2O5(五酸化二リン)を供給していることに なり、リン酸過多状態になる。リン酸過多状態では収穫農作物に取り込まれるリン酸 量以上のリン酸を供給する必要はない。 ・先進国では、下水処理場等でし尿からの肥料のリサイクルが増加し、リン鉱石由来の リン酸肥料を添加する必要性が減少すると考えられる。 ・土壌肥沃度の改善が必要な発展途上国では、おそらく 30∼50 年の間に、農作物が必要 とするリン酸量の 30∼50%増しのリン酸を供給する必要がある。その後は、肥沃度が 改善された土壌状態を維持する必要性がある。 ・土壌中のリン酸濃度を維持しなければならないその他の国々では、農作物に取り込ま れるリン酸量の 10∼30%増しのリン酸を添加する必要がある。 69 ・上記の条件を加味すると 2010∼2015 年まで年間 2.8%ずつ増加し、その後の伸び率は ゆっくりとなるとするのが現実的と考えられている。60∼70 年以内には現在世界で経 済的に利用されているリン資源の半分が消費されることになる。 ・ただし、その時点でリン資源の半分が残るとはいえ枯渇問題が生じる可能性がある。 リン鉱石中のリン酸含有量が 10 年で約 1 %ずつ低下すると言われているためである。 60∼70 年後には、低下したリン含量とは裏腹に、カドミウムや放射性化合物などの不 純物の含量が上がり、その除去コストが増加する。また、副産物であるジプサムの処 理コストもかさむ。これにより高品質のリン資源の価値が改めて再認識される。 ・リン資源を保有しない国にとって大きな問題は、リン資源を保持する国々がリン資源 の希少価値を意識し始め、リン鉱石を国防資源と位置づけ輸出規制をすることである。 (出典:黒田章夫、滝口昇、加藤純一、大竹久夫( 2005) リン資源枯渇の危機予測とそれに対 応したリン有効利用技術開発、環境バイオテクノロジー学会誌、Vol. 4、 No. 2、 87–94) 図 4-11 リン枯渇の将来予測 ※破線はリン利用量が年間 3 %ずつ増加した場合の枯渇予測を示す。実線は地域別の事情を 加味した場合の枯渇予測を示す。 出典 黒田章夫、滝口昇、加藤純一、大竹久夫( 2005) リン資源枯渇の危機予測とそれに対応 したリン有効利用技術開発、環境バイオテクノロジー学会誌、Vol. 4、No. 2、87‒94 70 ③ リン資源問題に関する最近の動向 リン鉱石の海上輸送運賃の急騰 中国がその急激な経済発展を支えるため、大量のエネルギー及び鉱工業資源を輸入し ており、物資の海上輸送運賃が急騰している。モロッコ、ヨルダンなどアフリカ・中東 には良いリン鉱石鉱床があるが、遠方からの輸送運賃の急騰の煽りを受けて、輸入価格 が増大している。 世界的なバイオエタノール生産ブームの煽りを受けたバイオマス価格の高騰 米国では、 「エタノール特需」によりトウモロコシ価格が急騰している。エタノール原 料が何であれ栽培には肥料が必要であり、リン肥料の原料であるリン鉱石の確保が、重 要な戦略的課題となりつつある。 燐安(リン酸アンモニウム)の市況の国際的な高騰 バイオエタノール生産のため、全世界的に大豆から原料のとうもろこしに作付けを転 換している。とうもろこしは大豆より燐安肥料を大量に必要とし、ブラジルの燐安買い 付けが増加している。その結果、燐安の需給バランスが崩壊しつつある。 米国のリン鉱石の輸出停止 米国は 1996 年まで、日本へのリン鉱石の最大輸出国であったが、フロリダのリン鉱石 資源が枯渇してきたことなどの理由により、1996 年以降リン鉱石の輸出を取り止めてい る。したがって、日本は 1996 年以降最大のリン鉱石輸入相手国を失うことになった。 中国からのリン鉱石輸入の困難化 日本にとって 1996 年以降、中国が米国に代わる最大のリン鉱石輸入相手国となってい る。しかし、中国は最近国内における食・飼料の増産のために、多量のリン肥料を必要 としてきている。この国内需要の高まりと国内価格の上昇が相俟って、日本が中国から リン鉱石やリン肥料を買い付けることが困難となりつつある。 ブラジル・インドにおけるリン肥料の需給の増大 ブラジルは世界第 7 位のリン鉱石産出国であるが、バイオエタノールの増産の煽りを 受けてリン肥料の需用が増大し、米国などからリン肥料を輸入するに至っている。イン ドはリン鉱石の産出量が少なく土壌も肥沃でないためリン肥料の輸入国であるが、経済 発展が顕著であり生活水準の向上とともに、リン肥料の輸入量が増大している。 EU におけるリンの回収リサイクルに関する研究支援組織の発足 欧州はアルカリ性土壌が多く、酸性火山灰土壌の多い日本に較べると、農作物による リンの吸収効率が遥かに高い。また、畜産を中心として発達した輪作システムにより、 畜産廃棄物の農業利用も進んでいる。加えて、ロシア、モロッコやヨルダンなど高品質 リン鉱石の産地が近いという地の利もあり、日本に較べてリン資源枯渇の影響は遥かに 71 少ないと考えられている。 それでも、欧州化学工業連盟(CEFIC:European Chemical Industry Council)には、 工業用リン酸メーカーの分科会があり、リンの回収リサイクルに関する研究支援を行っ ている。国レベルでは、ドイツ連邦政府が 2003 年に、リンの回収リサイクル技術の開発 を推進するための減税措置を示唆したり、スウェーデンがリンを 60%までリサイクルす るためのアクションプランを公表するなどの動きがある。 リン鉱石の品質低下 日本は、食の安全を考慮し肥料や飼料の重金属含有量に厳しい制限を課しており、カ ドミウムなどの有害重金属を多く含むリン鉱石を輸入していない。しかし、これまで日 本向けに高品質リン鉱石を選別し精製して輸出していた産出国も、世界的なリン鉱石需 要の高まりの中で、日本向け輸出を目的とした高品質リン鉱石の生産を取り止めるよう になってきている。 一方、ほとんど制約がないアジア諸国は、リン鉱石中の重金属含有量を気にすること なく輸入を続けている。その結果、アジア諸国における農地の土壌汚染の広がりが懸念 される一方で、リン鉱石やリン肥料の品質に厳しい日本が、世界的なリン資源不足の影 響を最も受けやすい状況にあることを認識しなければならない。 72 (2)アンケートで情報が得られた今後の需要拡大につながる動向 海域資源の今後の需要拡大につながる動向について、アンケートで得られた情報を示す。 ① 食品市場(健康食品市場を含む) 世界的な水産資源の消費拡大 ・世界的な水産資源(特に海藻類)の消費拡大(内陸地での需要拡大)。 ・需要が世界的規模、特に中国で見込まれる。 新たな機能性の発見 ・コラーゲンについては様々な機能(食品機能など)が解明されつつある状況であり、 そのためさらに需要が拡大する可能性がある。 薬価の上昇 ・薬価が高くなるに従い、予防的な食事に重点が置かれるようになる。薬ではなく、 食品因子の一つであれば、それ程抵抗無く受け入れられる土壌はある。また、摂取 方法もドリンクタイプであれば、食事の一部としての考え方も生まれてくる。 競合製品が存在しないこと ・魚介類タンパク質に関連したサプリメントなどはこれまで皆無であるので、競合製 品は当然なく、健康機能性の認知に伴い、需要拡大が見込まれる。 その他 ・現在の生産地では病気、寄生海藻、台風等にて大変なダメージを受けている。これ を解決する手段として、新しい養殖方法を研究する必要がある。これが解決すると 大変なノウハウとなる。 ② 肥料、飼料 食品の安全・安心に対する関心の高まり ・食品の安全・安心への関心度の向上から、有機肥料の需要は今後も高まると思われ る。 ・食の安全(有機栽培)や環境保全に対する国民の関心の高まり。 ・農地の保全、自然農法の普及により緩効性肥料の需要拡大が図られるものと考えて いる。 資源枯渇 ・リン資源が明らかに枯渇しており、諸般の事情により我が国はとくにその影響を受 けやすいため、間違いなく将来的に需要は拡大する。 ・リン資源の枯渇。 ・世界的に問題になっている食糧不足及びそれに伴うリン資源の枯渇。 73 ③ 化粧品、医薬品 健康志向 ・消費者の自然志向の高まりや安全性への認識拡大(例えば、風化造礁サンゴ化石は 海洋生物由来のため有用なミネラルを多く含有し、汚染等も少ない。このため、非 常に有用な資源であると同時に、四足動物のカルシウム原料等に比して安全性が高 い)。 新たな機能解明等 ・用途の広がりや新たな人体への生理機能効果の発見。 ・薬剤耐性の問題(耐性菌の出現) 、合成抗菌剤による環境への残留問題等。 豊富な原料の存在 ・ヒトデは年々異常発生する確率が高まっていることから、その利用法が確立されれ ば将来性は大いにある。 ・2006 年度に全国の定置網に入網した大型クラゲ個体数は約 230 万個体であり、大型 クラゲの平均重量を 100 kg とした場合、23 万トンとなる。さらに、これはあくまで も定置網に入った個体数であり、実際にはこれをはるかに超えた個体数が存在して いるため、これらを加えると(コラーゲン等の原料として)利用可能な量は膨大な 量となる。 ④ エネルギー 温室効果ガス削減に伴う需要拡大 ・温室効果ガス削減の観点からバイオマス燃料の需要は急激に増加すると思われる。 ・地球温暖化問題への関心の高まり、海域の環境問題に対する関心の高まり等により、 海藻からのエネルギー利用需要が高まる可能性がある。 バイオマスエネルギーの需要拡大 ・バイオマス利用の普及による需要拡大。 ⑤ 工業製品、土木・建築材料 資源枯渇 ・高品位リン鉱石の枯渇による鉱石、リン化学品の価格上昇が予想される。下水汚泥 焼却灰のリン含有率は、高品位リン鉱石相当であり、しかもフッ素の含有が少なく、 リン鉱石に比べて、リン資源として優位性がある。リンは、現在は回収されていな いが、日本が自給できる資源として注目されている。 74 第 5 章 技術連携シナリオ(技術ミックス)の検討 前章では、資源有効活用技術を抽出するとともに、東京湾における適用可能性、その実 用化に向けた課題、海域資源の有効活用を後押しする近年の動向についてとりまとめた。 それらの結果を踏まえ、本章では、「技術ミックス」すなわち「技術連携シナリオ」を提 示する。技術連携シナリオを検討するにあたって、以下のような社会的動向、モデル水域 の現状等を考慮して、それらに対応する形でモデル水域の技術連携シナリオを提示する。 <シナリオ検討に関する基本的考え方> ① リン鉱石の枯渇の可能性 リンは、海域環境の観点からは富栄養化の原因物質であるが、一方では工業製品や農 業用肥料等として活用されている。しかし、前章で整理したとおり、有効に利用されて いるリンはその大部分を輸入に頼っており、リン鉱石の枯渇が日本に及ぼす影響は非常 に大きいと考えられる。実際、輸出制限を実施している国も出始めている。 そこで、シナリオの一つ目として、海域に流入する「負荷」として見られているリン を回収し、「資源」として有効に活用することで、環境改善と産業活性化の両立をねらう シナリオを検討する。 ② アオサ等の大量発生 三番瀬ではアオサが大量に発生しており、それらが悪臭や景観の悪化などで問題とな っている。それらを回収し、「資源」として有効に活用することで、環境改善と産業活性 化の両立をねらうシナリオを検討する。また、合わせて、アンケート等では積極的に藻 類を養殖し、産業化を図るための技術が得られていることから、アオサの回収と藻類の 養殖を組み合わせたシナリオを検討する。 ③ 東京湾の魚介類の流通量の減少、地産地消の機運の高まり 東京湾で取れた魚介類のことは「江戸前」と呼ばれるなど、かつて東京湾では漁業が 盛んであった。近年、漁獲量は大きく減少してきていたが、最近になってハマグリなど 江戸前復活の試みが行われつつある。また、地元で獲れた魚介類を地元で消費すること は「地産地消」と呼ばれ、旬の食べ物を新鮮なうちに食べられる効果や、地域経済の活 性化、輸送エネルギーの削減(温暖化の抑制効果)といった効果が期待される。また、 環境改善の観点からも、魚介類の中に含まれる窒素やリンを湾外へ取り除くという効果 があるため、富栄養化の抑制効果が期待される。 そこで、漁獲物の流通量を促進し、環境改善と産業活性化を図るためのシナリオを検 討する。 また、①∼③はモデル水域での適用を想定したシナリオであるが、そのシナリオの導入 により湾全体の環境改善にどのようにつながっていくのか、という湾全域での環境改善シ ナリオについても別途、整理する。 75 5.1 【 シナリオの全体像 (ミクロな視点に基づく) ① モデル水域での技術連携シナリオ 】 リンの枯渇対策のためのシナリオ 海域の底泥や下水汚泥に含まれるリンを、人工鉱石や MAP(リン酸マグネシウ ムアンモニウム)として回収し、肥料市場やリン酸市場で販売する。 環境改善と産業活性化の効果に加え、輸入リンの一部を国内で製造することに よる国内自給率の上昇につなげる。 ② 藻類の有効活用のためのシナリオ 景観悪化や悪臭の理由から回収されて廃棄されているアオサを、メタンガスや 肥料、飼料に変換し、各市場で販売する。 また、アオサ以外の藻類(ホンダワラやキリンサイ)を養殖し、ホンダワラは バイオディーゼルに、キリンサイはカラギーナン(食品添加物の一種)にそれぞ れ転換して販売する。 環境改善と産業活性化の効果に加え、輸入に大きく頼っているエネルギーや添 加物等を国内で製造することによる国内自給率の上昇につなげる。 ③ 漁獲による窒素・リンの回収促進のためのシナリオ 東京湾で獲れる魚介類のうち、定価格や定期といった広域流通の条件を満たさ ない魚介類は、存在量は豊富であるにも関わらず十分に流通させることができな い。しかし、それらを漁獲し有効に活用することができれば海域の窒素やリンの 除去効果が期待される。そこで、現在十分に流通していない魚貝類を対象として、 水産加工技術を活用することにより、東京湾のモデル地域やグローバルな水産市 場での流通を促進させるためのシナリオを構築する。 これにより、環境改善と産業活性化に加え、水産物の自給率の上昇につなげる。 「モデル水域での技術連携シ ナリオ」が湾全体の環境改善効 果として波及するメカニズム を明確にする。 【 (マクロな視点に基づく) 湾全体の環境改善における 「モデル水域での技術連携シ ナリオ」の位置づけを明確にす る。 湾全体での環境改善シナリオ 】 ① 貧酸素水塊の改善のためのシナリオ ② 富栄養化の抑制のためのシナリオ 76 5.2 モデル水域での技術連携シナリオ 5.2.1 リンの枯渇対策のためのシナリオ リン資源枯渇 の可能性 世論形成(広 報),政策支援 リンの回収開始 リンの流通市場 水環境改善につながる リン含有物の回収 浚渫技術 下水汚泥 (モデル海域周辺) ※一般に焼却・埋立処分されるため、 海域に流入することは無い 炭素繊維による人 工藻場システム クラゲの回収 クラゲからの リン抽出技術 供給量の 安定化 リン含有汚泥 リン含有溶液 一部を発電用に利用 発電後の 汚泥を返送 ヘドロ燃料電池 技術 人工リン鉱石 製造技術 MAP製造技術 (リン酸マグネシウムア ンモニウム) リン精製技術 野菜栽培技術 (塩味のする野菜: アイスプラント) リン回収技術 市場 電力市場 ・産業の活性化 ・モデル水域で実施することによる リン枯渇の普及啓発効果 (ヘドロ燃料電池の電力供給量が十分で はない場合、お台場の日本科学未来館で 利用し、普及啓発効果をねらう) 工業用 リン酸市場 肥料市場 ・産業の活性化 ・リンの自給率向上 ・海域の環境改善 野菜市場 ・モデル水域周辺で塩味のする野菜 (アイスプラント)を "海の恵み"と して栽培・販売することによる 東京湾に対する親しみの向上 ・農業の活性化 ・海域の環境改善 c 2008 みずほ情報総研 77 5.2.2 藻類の有効活用のためのシナリオ 藻類の流通市場 養殖藻類の流通市場 未利用藻類の流通市場 アオサの発生 藻類の養殖 (三番瀬) (各モデル水域) 利用せず廃棄。 ※現状は焼却埋立処分 (年間回収費の例: 約400万円) No 有効利用技術が あるか Yes 世論形成(広 報),政策支援 世論形成(広 報),政策支援 スラグ等 スラグの場合は まず実証試験で利用 アオサの 回収・供給開始 78 回収技術 藻場造成技術 (ホンダワラ) キリンサイの 養殖技術 バイオディーゼル 製造技術 カラギーナン 精製技術 食品残さと 混合 供給量の 安定化のため メタンガス 抽出技術 グリーンパール 製造技術 都市ガスと 混合 発酵残渣 コージェネレー ション技術 飼料製造技術 供給量・質の 安定化のため 発電用としての 混合ガス提供 アオサ 回収市場 ・モデル水域で実施 することによる 普及啓発効果 ・新規産業の創出 宝石・貴金属 市場 ・観光産業の活性化 (お台場等) ・東京湾に対する 親しみの向上 ・海域の環境改善 電力市場 高級採卵鶏 用飼料とし て販路開拓 温水用としての 熱源提供 温水利用 関連市場 採卵鶏飼料 販売市場 ・国内エネルギー産業の活性化 ・エネルギーの自給率向上 ・海域の環境改善 バイオディー ゼルの供給 バイオディーゼ ル市場 自然由来の食 品添加物(カラ ギーナン)の 供給 食品添加物 市場 ・安全・安心な原料の供給と 東京湾に対する親しみの向上 ・飼料や添加物の自給率向上 ・海域の環境改善 藻場造成・藻類 養殖市場 ・モデル水域で実施 することによる 普及啓発効果 ・新規産業の創出 c 2008 みずほ情報総研 5.2.3 漁獲による窒素・リンの回収促進のためのシナリオ 地場の魚の流通市場 モデル水域を中心とした 地域内流通(地産地消) 広域流通 消費されていない 地場の魚 (モデル水域外で漁獲) 広域流通せず ※【現状】:輸入魚 に頼っている状況 イワシ、ボラ、コノシロ、バカ 貝(アオヤギ)等 ・味、鮮度面、安全安心面のPR ・ブランド化のPR ・加工技術による 新鮮さ 、 調 理の容易さ 、 食べやすさ をPR 広報 No 4定条件を満たす 技術があるか Yes ・缶詰加工技術 ・練製品製造技術 ・塩干製造技術 ・冷凍技術 【4定条件】 ・定価格 ・定品質 ・定量 ・定期 地元の鮮魚コーナー、 市場等での取扱促進 水産加工技術 地域ブランド化、 江戸前の復活 水産加工技術 消費者の認知度向上 ペットフード市場 グローバルな水産加工市場 加工製品の供給 加工製品の供給 地場での流通量増加 広域での流通量増加 地場の魚の消費量拡大 安全安心な水産資源に対する 消費者ニーズ拡大 さらなる安定供給 への要望 養殖技術 漁業被害(青潮、赤潮)軽減に 向けた要望 養殖業の開始(ハマグリの 稚貝放流等も含む) 水環境改善策実施に対する 消費者の理解 養殖域での水環境 改善実現のPR 水環境改善技術 (干潟造成等) 広域での水環境改善 技術の実施検討へ ・安全安心な水産資源の安定供給や 江戸前の復活による水産業の更なる活性化 ・海域環境の改善 79 c 2008 Akio Sohma, Toshiaki Kubo, Mizuho Information & Research Inst. 湾全体での環境改善シナリオ 5.3 5.3.1 貧酸素水塊の改善のためのシナリオ 貧酸素改善に貢献する技術群 流入負荷削減技術 藻場 造成技術 人工干潟・浅場 造成技術 鉛直混合促進技術 (表層から底層への 酸素供給技術) 覆砂技術 浚渫技術 バイオマス増加に伴う N, Pストックとフローの増加(注) 栄養塩(DIN,DIP) 曝気 曝気 有機物(POM) 栄養塩減少による プランクトンの増殖制限 N,P流入量 の減少 80 光合成の増加 呼吸の増加 (酸素消費増加) 溶存酸素(O2) 排泄の増加 (酸素生成増加) (酸素生成増加) 底生生物によるプラン クトン摂食量の増加 底生動物(二枚貝) の増加 (栄養塩生成増加) 光合成の増加 海草・藻類 の増加 栄養塩(DIN,DIP) 溶存酸素(O2) プランクトン の減少 物理的駆動力による 酸素の表層から底層 への供給 溶存酸素 (O2)の増加 有機物 沈降量減少 溶存酸素 (O2)の増加 底質の改善 光合成の増加 底生系の酸素 消費量の減少 (栄養塩消費増加) 海底有機物の減少 干潟・浅海域 干潟・浅海域−湾央域間 相互作用 貧酸素改善技術による一次的効果 酸素の流れ(フロー) 栄養塩の流れ(フロー) 海底有機物,栄養 塩の封じ込め 湾央域 貧酸素水塊の 改善、解消 有機態の流れ(フロー) (注)干潟・藻場の増加により、底生動物量が増えるとともに、底生動物に同化した形態で存在す るN、Pも増加することになる(N、Pストックの増加)。また、底生動物の生物代謝過程も多くな り、この過程を介したN、P、Oの循環量(フロー)も多くなる。 c 2007 Akio Sohma, Toshiaki Kubo, Mizuho Information & Research Inst. 5.3.2 富栄養化の抑制のためのシナリオ 豊かな生態系の創生を 目指した対策 流入負荷の削減対策 産業系 生活系 新規下水処理場 建設 水処理の 高度化技術 下水高度処理 技術 干潟・浅場の 造成技術 漁礁造成技術 藻場の 造成技術 底生動物の増加 魚類の増加 海草・藻類の増加 畜産系 下水汚泥からのリ ン回収技術 水処理の 高度化技術 流入負荷量 ① 陸域からのN、P流入の削減 N: 92,710 t P: 7,702 t (2004年) 東京湾生態系 81 海底対策 ② 沿岸生態系内のN、P利用ポテンシャルの増加 高次 浚渫技術 覆砂技術 大型魚類 甲殻類 海底有機物の 系外への 搬出 海底有機物・ 栄養塩の 封じ込め 底生動物群 小型魚類 「 生態系の多様性の回復」と「N、P循環」の関係 ・ 高次生物の増加 (N、Pストックの増加) ・ 生物現存量の増加 (N、Pストックの増加) ・ 生物代謝機フ増加(N、Pフローの増加) 豊富な生物群による多様な食物連鎖を介した 太く かつ 多彩 なN、P循環経路の形成 動物プランクトン群 植物プランクトン 底生藻類 海草・藻類 デトリタス デトリタス 無機態N,P 漁獲量 ⑤ 海底に蓄積されたN、Pの 除去・封じ込め 食物連鎖を介した N、Pの流れ N: 628 t P: 157 t ③ 漁獲によるN、P回収の促進 (1999年) 低次 生物種の多様性 未利用水産資源の 消費拡大 生物生産の 次元 水産加工技術 富栄養化抑制技術による一次的効果 富栄養化抑制技術による二次的効果 地産地消の 促進へ ※「N、 P利用ポテン シャル」の考え方は次の出典によ る 。 ④ 外洋へのN、Pの流出 相馬明郎、関口泰之 (2003):「生態系ネットワークと底生系鉛直微細構造に着 目した新しい内湾複合生態系酸素循環モデルの開発」、海洋理工学会、平成 15年度秋季大会講演論文集、pp.87-90 N、Pの流れ(フロー) © 2008 Akio Sohma, Toshiaki Kubo, Mizuho Information & Research Inst.